魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第282話:道化を探して

 グレムリンの計画を阻止……と言っていいのか微妙な所だが、兎に角思惑を潰した事は確かな颯人はとりあえずその場の後始末を輝彦達に任せて自分は奏と共に旅館に戻った。何分仲間達には何も伝えていない為、このまま朝を迎えたら確実に騒ぎになる。

 そう思ってこっそり魔法を使って旅館に戻ると、待っていたのは不機嫌そうに2人の事を見てくるクリスやマリア達の姿であった。

 

「よぉ……」

「漸く返ってきたわね」

「いぃっ!? クリスちゃんに、マリア……?」

「マリア達だけじゃないぞ」

「私達も居るぞ奏」

 

 足音を立てない様にしながら廊下を歩いていると、出し抜けに部屋に引き摺り込まれてあれよあれよと言う間に正座させられた颯人と奏。そんな2人を取り囲むクリス達は一様に不満を露わにした顔をしており、響ですら唇を尖らせている辺り今回の2人の行動は相当不興を買ってしまったらしい事が伺えた。

 珍しく冷めた目を向けてくる翼に、奏も危機感を感じたのかこの時ばかりは茶化すような事はせず逆に翼達の顔色を窺うように肩を竦めた。

 

「え、え~っと……皆、怒ってる?」

「怒ってると言うより……」

「心配、したんですよ皆」

 

 響と未来の言葉に颯人と奏も何も言わず黙るしか出来なかった。実際、2人が逆の立場でも心配しただろう。事前に話を通すべきだったのかもしれないが、グレムリンとの決着だけはどうしても自分の手で付けたかった颯人が我儘を通そうとした結果なので、この不満も全て甘んじて受け入れるしかない。

 

 それに結果的にとは言え、投入戦力を渋った事でグレムリンを逃がす事にも繋がってしまった。もし先程、キャロルとかその辺りを連れて来ておけば或いはあそこで決着が着いていた可能性もあったのだ。そう考えると今回の行動は色々な意味で悪手ではあった。

 

 一応言い訳と言うか理由付けをするのであれば、もしグレムリンが颯人達の策を見抜きクリスの居場所までをも突きとめてしまっていた場合の護衛の事を考えて自分と奏だけで向かったのだ。とは言え今更何を言っても皆納得する事は無いだろうから、颯人も何も言わず周囲から放たれる不満と説教を受け入れ続けた。

 

 旅館に戻ってから十数分、たっぷり説教された2人は戦いの疲労などもあってすっかり困憊していた。仲間達がやっと言いたい事を言い終えた頃には、2人共肩を寄せ合い憔悴した様子で俯いていた。

 

「全く……グレムリンの危険性は私たち全員分かってはいるし、向こうには輝彦さんやサンジェルマン達が居るって事も分かってる。だけど私達を心配させていい訳じゃないのよ。そこら辺をこれからはちゃんと考えて頂戴ね?」

「「はい……」」

「ったくよぉ……それで? 結局逃げられたんだって?」

 

 2人への説教が終わって、話はそのまま先程の戦いの結果へと移った。そっちはそっちでまんまとグレムリンに逃げられてしまった話になるので、話し辛いと言えば話し辛いのだが、ワイズマンの正体がグレムリンだった事なども含めて話さなければならない事が多いのでそんな事も言っていられず颯人と奏は端的に戦いの経緯や顛末を全員に共有した。

 

 やはりと言うかワイズマンの正体がグレムリンであった事と、ワイズマンの正体だと思っていたカーバンクルファントムが人造の量産型である事等は衝撃的だったのか皆大なり小なり驚きを露わにした。

 

「まさかグレムリンさんがワイズマンの正体だったなんて……」

「おまけにカーバンクルが量産型だと? 冗談にしたって質が悪い」

 

 とりわけカーバンクルファントムが量産型だったと言うのは魔法使い達にとって頭の痛い話だ。カーバンクルファントムは魔力吸収能力を持つ。迂闊な魔法を放てば吸収されて無効化されるどころかこちらが不利になってしまう。単純な戦闘力に優れた奴よりも、壁役として強力な分厄介さではこちらが上であった。

 

 とは言え、実際に戦った颯人達からすればカーバンクルファントムはそこまで警戒すべき存在とは言い切れないと言うのが正直な感想であった。

 

「いや、カーバンクルファントムに関してはそんなに警戒しすぎる必要はねえと思うぞ」

「そうなんですか?」

「俺達の魔法が吸収されるかもしれないってのにか?」

「壁役としては厄介かもしれねえけど、あれ自体は自分でモノを考えて動いてる訳じゃねえからそこまで強い訳じゃねえよ」

 

 実際颯人達がワイズマンとして立ちはだかったカーバンクルファントムを相手に苦戦したのは、中身がグレムリンで姑息な戦いをしてきたからである。能力を活かした戦いを出来ない、言ってしまえば人形なカーバンクルファントムであれば対抗する事はそこまで面倒ではないと言うのが颯人の言い分であった。

 

「そんな連中なら、俺とキャロルなら楽勝だな」

「あぁ。グレムリンみたいにふざけた奴ならともかく、俺のオートスコアラー以下の思考しか出来ないなら大した相手じゃない」

「油断はするべきではないが、あまり危険視する程ではないと言う事か」

「そうなると問題はやっぱり、グレムリン本人かな?」

「本性を表した以上、次に戦う時は大分苦労しそうなのデス」

 

 颯人を除けば、これまでグレムリンと直接対決を経験したのはクリスと透、翼にガルドの4人だけである。そしてこの4人の話を統合すると、グレムリンの戦いは意図的にこちらに虚を作らせそこを突いて来ると言うものであった。アイソレーションを用いてのフェイントは特に反射神経に優れている者達からすれば脅威である。

 

 どう対策を練るのが最善かと言う話になりそうになったが、そこで颯人が一際大きく欠伸をした。

 

「ふぁ~~……」

「おいハヤト……」

「あふ……ワリィ。でもそろそろ一旦お開きにして、対策会議はまた今度にしねえか?」

「アタシも、そろそろ限界かも……」

 

 考えてみれば、颯人と奏は戦いを一つ終えてきたばかりなのだ。颯人は魔力の消耗もあるだろうし、休息は必要である。それになにより、ここには元々慰安目的で来ているのだ。折角の休養で、無理して戦いの事を考える必要は無い。

 

 颯人達だけでなくセレナなども舟を漕ぎ始めているのを見て、流石に今はこれ以上議論を続けるべきではないとこの場は解散となり各々部屋へと戻り今度こそ全員揃って就寝する事となった。

 

 そして翌日……夕方近くまで温泉街を表向きは堪能した颯人達ではあったが、内心ではグレムリンが次に何をするかなどで心の底から愉しめたとは言い難い状態であった。

 

 あまりスッキリしたとは言い難いが、それでも慰労により心身を癒す事は出来たと言う事と、グレムリンの思惑を阻止できたと言う事で一行は温泉街を後にし元の居場所へと戻っていく。

 

 因みに透とクリスだが、2人の住居は既に新たに用意されていた。グレムリンが嗾けたファントムにより襲撃された部屋からは既に家財一式全てが運び出され、新たな住居となる部屋に移し替えられている為問題なく何時もの日常に戻る事が出来た。

 それでもクリスは、身勝手な理由で透との思い出が残る部屋を壊された事に対して憤りを感じてはいたが…………

 

 そして日常に戻った颯人達ではあったが、それはイコール平和と言う訳ではなかった。

 

 今回グレムリンはクリスの襲撃に失敗した。それ自体は良かったと言えるのだが、リベンジしてくる可能性は十分にある。それよりも早くにグレムリンに仕掛けて、この戦いを終えなければならないのだが、肝心のグレムリンの居場所が分からない為こちらから仕掛ける事が出来なかった。

 

 それでもこれ以上の暴挙を防ぐべく、颯人達は必死になってグレムリンの足跡を追跡し居場所を突き止めようとした。

 だが颯人達とS.O.N.G.の必死の捜索も空しく、グレムリンの居場所を見つけることは叶わなかった。慰安旅行から戻って3日が経っても、尻尾どころか影を踏む事すら出来ない。これ以上時間を掛ければグレムリンに次の行動を許してしまう。現状何のアクションも起こしていないのは、先日の戦いでカーバンクルファントムを失ってしまったからだろうと言うのが輝彦達の結論であった。

 先日の事でグレムリンはカーバンクルファントムが戦力として一定の価値があると確信した。それもグールなどに比べれば遥かに強力だ。輝彦達を足止めできるほどの力があれば十分すぎる。

 

 今、グレムリンは次の行動に備えてカーバンクルファントムの量産を進めているに違いない。今の内にこちらから仕掛けて、大きな騒ぎを起こす前に決着を付けたかった。

 

 そんな儘ならない現状に響と未来も、どうしたものかと考えながら学校に通っていた。授業は何時も通りに行われているが、響は心此処に在らずと言った様子で上の空となり、結果教師に厳しく叱られる事となってしまった。普段から教師に叱られる事が多かった響ではあるが、心此処に在らずと言った彼女を未来だけでなく弓美など彼女を良く知る者は流石に心配した。

 

「響どうしたの? 今日は何時にもましてぼんやりしてるじゃない?」

「うぇっ!? あ、あ~……まぁ、ね」

「ビッキー何かあったの?」

「悩みでしたら私達が聞きますよ?」

 

 日常の友人である3人に心配され、響はありがたいと感じると同時に申し訳なくなった。だが彼女らに相談したからと言って解決する問題でもない為、響も未来もどうするべきかと困った様に顔を見合わせてしまう。

 

 そこに声を掛けてくる者達が居た。アリスにより治療を受け無事人間に戻り、先日は透とクリスに擬態してグレムリンの注意を引くのに一役買ってくれたミラアルクとエルザの2人である。

 

「お~っす! 何か難しそうな顔してるけどどうしたんだぜ?」

「私めらも相談に乗るであります」

 

 荒事とは無関係な弓美達とは違い、こちらの2人はそう言った事にも理解がある。響は思い切って今自分達がぶち当たっている問題をこの場で明かすと、案の定弓美達は自分達ではどうしようもない内容に困った顔になり、一方でミラアルク達は彼女達の悩みを理解し知恵を絞った。

 

「グレムリンはな~。私らもホント面倒臭かったからな~」

「まともな会話が出来る男とはとてもではないが言えない輩であります。何をするか分からない以上、早々にこちらから仕掛けるのは理に適っているであります」

「そうなんだけど、問題は今何処で何してるかなんだよね」

「ねぇ、何か手掛かりはない訳? その……そいつのアジトに繋がる様なさ?」

 

 響の悩みに弓美がそんな事を口にするが、それが分かれば苦労はしないと言うのが率直な意見だった。それが分かっていればさっさとこちらから仕掛けに向かう。

 

 だがその言葉に先に反応したのがミラアルクであった。

 

「あれ? そう言えばさ、お前ら一度連中が用意したテレポートジェム使ったんだよな?」

 

 恐らくは月遺跡に向かった後の事を言っているのだろう。確かにあの時、響達はメデューサ達から奪ったテレポートジェムを使って地球に帰還を果たした。

 

「その時、皆さんは何処に転移したでありますか?」

「何処って地球の…………あぁっ!!」

 

 そうだ、あの時響達が帰還したのは日本から遠く離れた外国の何処とも知れぬ地であった。あの時は一早く日本に帰らなければと言う事であまり深く考えてはいなかったが、よくよく考えてみればジェネシスが用意したテレポートジェムで帰り着く場所が海外と言う事実をもっと深く考えるべきであった。

 

 何の意味もなく、あのような場所に辿り着く場所がない。

 

「ミラアルクちゃん、エルザちゃん、ありがとうッ!」

 

 響は急いで本部へと戻っていった。この情報を早く共有する為に。

 

 あの時自分達が降り立った場所…………スウェーデン南部に何かがあると。




と言う訳で第282話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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