魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
今回は最終決戦前の清算と言うか、兎に角訃堂にスポットを当てた話となります。
多分な独自解釈や独自展開を含みますので、苦手な方はご了承ください。基本、本筋に大きく関わるような事ではありませんので。
ジェネシスの本拠地はスウェーデンにある……少なくとも何らかの重要な拠点が底にはあると言う情報を響が持ってきた事で、S.O.N.G.は一気に忙しくなった。流石に響1人の情報だけで動くような事は出来ないからだ。弦十郎は響が持ってきた情報と、嘗ての月遺跡からの帰還の際のデータを精査し事の詳細を細かに調べ上げていく。
以前メデューサ達から奪ったテレポートジェムで地球に転移した際、奏達が降り立った場所はスウェーデンの南部であった。そこは地図上は何もないだだっ広い草原が広がるだけの土地である。だがよく考えてみると何かが可笑しい。何も無さすぎるのである。決して人が立ち入るのが難しい場所と言う訳でもないし、環境的に旨味がない土地と言う訳でもない。にも拘らず月遺跡から帰還した場所の周囲数キロ以上の距離に渡って集落などが全くないのは違和感があった。
この疑問に対し、輝彦にアリス、そしてサンジェルマンらが答えとなる情報を提示してきた。
「魔法でも錬金術でも、人間を遠ざける術と言うものは何も珍しい技術じゃない」
「他人払いの結界の類は魔力を用いた技術の十八番の様な部分があるので、それを用いれば絶対のプライベート空間と言うものは作る事が出来ます。以前、私と輝彦さんはそれを使って隠れ潜んできましたから」
「でもそう言ったものは得てして異変に気付いていない状態でなければ意味がないわ。一度違和感に気付いてしまえば、探り当てる事は決して難しくはないかもね」
ならば話は早い。場所自体は分かっているのだから、後はそこに戦力を送り込むだけだ。
……なのだが、その前にと颯人はある人物の元を訪れていた。その人物とは、風鳴 訃堂。先の戦いで数々の不正などが明らかとなり、これ以上国防に携わらせる事は危険と判断され防人と言う地位を追われ幽閉される事となった人物である。
頑強な施設の奥に厳重な警備の元に投獄された訃堂であったが、以前の過激さからは考えられないほど大人しくしている。正直何時暴れ出して抜け出そうとしたりしないかと気が気ではなかった。何しろ彼はあの弦十郎をも圧倒する身体能力の持ち主である。そんな彼が本気になれば、超常的な力を使われていない拘束など簡単に突破されてしまう。
だが周囲の不安を他所に、訃堂は驚くほど大人しく日々を過ごしていた。やはり正面切って自身の防人としての在り方を全否定され、それに反論できなかった事は彼のプライドを大きく傷つけ腑抜けさせてしまったのだろうか。
そんな訃堂の元を颯人は訪れていた。これには奏は勿論弦十郎すらも渋い顔をしていた。幾ら腑抜けたとは言え嘗てはS.O.N.G.すらその手中に収め国防の全てを、延いては恐らく日本と言う国そのものを自身の思うままにしようとしたほどの男である。そんな人物の元を態々訪れるのは危険が伴う。
だが颯人はそんな周囲の反対をやんわりと抑えると、1人で訃堂の元を訪れていた。滅多に人が訪れる場所ではないこの場所は、外部と比べて倍くらい空気が重く苦しく感じる。そんな牢獄の奥で訃堂は1人瞑想する様に静かに目を瞑って座り込んでいた。
「よっ、爺様。息災か?」
「む……」
颯人は声を掛けるのも憚られる相手に、まるで10年来の友人か何かの様に気さくに声を掛ける。その声に訃堂も反応を示し、閉ざされていた目をゆっくりと開き颯人の姿を視界に捉える。
「お主か……あの親不孝者の息子とか言う」
実は颯人は訃堂に関して一つ気になっている事があったのだ。それは彼の輝彦の呼び方だ。彼は輝彦の事を親不孝者と呼ぶ。それはつまり、輝彦のそれまでの行動が輝彦の父、即ち明弘の何らかを否定し貶める事に繋がっていると言う事。それは何かと考えた時、真っ先に浮かんだのは輝彦が明弘とグレムリンの入れ替わりに気付かずにいた事であった。
厳密に言えば輝彦はワイズマンと名乗っていた明弘がその時点でファントムに堕ちていただろう事は予想していた。と言うかそうであってくれと言う願いもあっただろう。だがそれでも、彼の中ではワイズマンとはイコール明弘であった。例えファントムに堕ちても元が明弘であったのであれば、己の手で処すのが血の繋がった息子としての責務であるとすら考えていた節がある。
だがグレムリンが入れ替わっていたとなると、そもそも前提からして間違っていた事になる。明弘は堕ちる事無く、始末された挙句その名誉だけを穢され更に息子はその事に気付かなかったのだ。それは確かに見方によっては親不孝と言ういい方も出来るだろう。
そして、颯人が気になっていたのはその事にも起因していた。
「単刀直入に聞くけどさ……爺様ってもしかして、最初から爺ちゃんとグレムリンが入れ替わってた事に気付いてた?」
そうでなければ、彼が輝彦の事を親不孝者と蔑む説明がつかない。血の繋がっていない自分が気付いているのに、血縁者であるお前は何故気付かないのだ……と言う訳だ。
颯人の指摘に、訃堂は小さく鼻を鳴らしてから答えた。
「……あ奴は間違っても他者を玩具にする様な男ではなかった。悔しいが、そこは防人としても認めておる」
「やっぱり爺ちゃんとは知り合いだった訳だ」
「あ奴には何度も協力を迫ったが、その度に断られてきた」
若かりし頃、訃堂は当時から魔法使いとして人知れず世の平和の為に戦ってきた明弘に目を付けていた。あの魔法の力があれば再び強い日本を取り戻す事が出来ると。
だが明弘は必要以上に強い力は逆に争いを呼ぶとして、目に見えて強い力を誇示する存在となる事を頑なに拒んだ。それだけでなく、訃堂が行おうとしていた超常的な力による国防力の強化に対しても苦言を呈し、その度に2人は何度も口論を繰り返してきた。
片や過激な、片や穏やかながらも、共に守ると言う目的自体は一致していた2人。ただ根幹の部分の考えだけが異なっていた両者は、最早喧嘩仲間のような間柄ですらあったと訃堂は当時を懐かしむように語った。どことなく昔を懐かしんでいるような様子の訃堂は以前の護国の鬼となろうとした彼とは打って変わって憑きものが落ちたとでも言えばいいのか、兎に角肩から荷が下りたかのような雰囲気であった。今の彼の姿を弦十郎や翼が見たら何と言うかと颯人は動画に収めたくなるのを堪えて話を続けた。
「文字通り中身変わったってのに、よく表面上は協力関係を築こうと思えたな?」
「見くびるでない。我武者羅に挑んで勝てる相手であれば儂もそうした。だが、あれは……そんな次元の存在ではない」
「……強いのか?」
正直、グレムリン自体がそこまで強いとは思えなかった。弱いと言う訳ではないが、訃堂であればその気になれば力尽くで倒せるのではないかと思ったのである。だがそんな颯人の予想を、訃堂は重苦しい溜め息と共に否定した。
「儂とて武人の端くれ、彼我の力量差を見抜く目は衰えておらん。だが、あ奴に関しては……正直、得体が知れなんだ。無暗に挑んで勝てると言う確信が持てなかった。強い弱いと言う次元とは違う何かを感じた」
「だから、協力する振りをして突き崩す為の隙を伺った。神の力もその為の切り札としてキープしようとした……ってところか?」
これはあまり嬉しくない情報だ。訃堂が問答無用で勝てると思うような相手であれば希望の一つも抱けたのだが、この答えでは颯人も必ず勝てると言う確信を持つ事は難しい。勿論グレムリン相手には確実に勝たなければならないので弱気になるような事はしないが、それはそれこれはこれだ。
「結局は、お主らの奮闘で全て御破算となってしまったがな」
「未来ちゃん利用するなんて言われて、黙っていられるほど薄情じゃないんだよ。ついでにもう一個聞いておきたいんだけどさ、アイツの本当の目的みたいなのって何か知ってる?」
グレムリンの行動は一貫して他者を弄び貶める事に重点が置かれていた。これまでに起こった事件の数々も、その先に彼が求めていたのは他者の絶望と悲劇に嘆く姿である。奴はそれを求めて奏に嘘を吹き込み彼女の心をかき乱し、そして一時は自らの手駒としてしまったのだ。
だが逆に言ってしまえば分かっているのはそこまでで、それ以上の何を狙っているのかが分からなかった。何しろ一つの組織を乗っ取ってまでやる事だ。まさか一時の享楽の為だけにこんな事をするとは思えない。もしそれだけを目的に世間を引っ掻き回していたのだとすれば、それは最早ただの狂人である。ある意味、下手な野望を抱く者よりも質が悪く悍ましい。
「さて、な……儂もあ奴の事を少しは探ろうとしたが、正直分らぬ事の方が多かった。だが……」
「だが?」
「……あの男の性格だ、想像を絶するほどに悍ましい何かであると思った方がいい」
それだけ言うと訃堂は目を瞑り再び瞑想に耽ってしまった。これ以上は何を話し掛けても反応しないだろうと判断した颯人は、無言で軽く手を振ると踵を返してその場を後にした。
そして颯人が牢獄に繋がる部屋から出ようと扉に手を掛けた。その時…………
「……明弘は気に入らぬ男ではあったが、同時に眩しい男でもあった」
不意に背後から掛けられた訃堂の言葉は、今は亡き颯人の祖父である明弘に対する訃堂の想いであった。
「今にして思えば、儂が護国の鬼に拘ったのは奴への対抗心も含んでいたのかもしれぬ」
颯人は明弘の事をほとんど知らない。なのでワイズマンの正体がグレムリンである事を明かした後、彼は輝彦に明弘に関する事を訊ねた。
輝彦の話を端的に纏めると、生前の明弘は魔法使いとしては厳しくとも他者を思い遣り誰に対しても優しさを忘れない男であったらしい。輝彦が手品師としての活動で世界各地を回る一方で義賊的な立ち回りをしていたのもそれが影響している。
ともかく、そんな感じで明弘は他者を慈しみ守り、それでいてそれをひけらかす事無く己の存在はひっそりと隠す慎ましい強さと優しさを持つ男であったらしい。
過去の訃堂はそんな明弘の事を、甘いと否定する一方有言実行の様に人々を只管に救って回る彼の心身の強さを認めていた。だがそれを認めると護国の鬼を目指す自分の理想を否定する事にも繋がる為、正面切って彼の存在を認める訳にはいかなかったと言うだけの話だ。
明弘が死んだ今だからこそ言える。訃堂は彼と、友と言う間柄になりたかったのだ。だがその時は最早永遠に来ない。たった1人の人間の身勝手により、崇高な想いを掲げる男の尊厳は踏み躙られたのだ。
「あの小童、許す訳にはいかぬ。必ずや決着を付けろ、お主の手でな」
「……言われるまでもねえ」
それだけ告げると颯人は今度こそその場を後にした。残された訃堂も、これ以上は何も言う事は無いと眠る様に瞑想するのであった。
***
遂にこの時がやってきた。今まで所在から何まで謎だったジェネシスの本拠地への本格的な攻勢。今まで後手に回っていた彼らが、今度は攻め込む側となったのだ。
ジェネシス本拠地があると思われるのはスウェーデン南部に存在する草原地帯。そこは周辺の住民から、嘗ては城があったと言われている場所であった。ただそれは伝説上の話であり、実際に城があったと言う確証はない。
だが、今は確実に何かがあるのだろう。そしてグレムリンはそこを根城にしている。向こうは恐らくまだ颯人達が来るとは思っていないだろうから、攻め込むなら今だ。
攻撃に向かうのは、最早お馴染みである颯人以下魔法使い4人と奏以下装者9人。それに加えて輝彦、アリス、キャロルに錬金術師協会からサンジェルマン達を交えた合計19人と言う大所帯である。
正直これまでの事件であれば過剰戦力と言っても過言ではないかもしれないが、何分相手はあのグレムリンである。何を仕掛けているか分かったものではない。
「いいか! 今回の戦いで、ジェネシスとの戦いに決着をつける! 皆そのつもりで今回の作戦に当たってくれッ!」
『『『応ッ!!』』』
出発前の弦十郎からの激に、全員が力強い返事を返した。そして、幾つかのグループに分かれて転移の魔法や錬金術で一斉に現地へと向け転移していく。
一瞬の光と共に消えていった戦士達を見送り、弦十郎は彼らが居なくなった場所に向けて静かに呟いた。
「皆……頼んだぞ」
「フフフッ♪ 来るなら来なよ、明星 颯人。それに、奏ちゃん。た~っぷり歓迎してあげるからさ♪」
と言う訳で第283話でした。
訃堂が輝彦の事を親不孝者と呼ぶのにはこんな理由がありました。以前から訃堂は明弘の事を知っていて、その時から意見が対立していた訳です。ただ明弘は単に理想を語るだけでなく、それを有言実行し成果も残しているので、訃堂はそんな彼を無視出来なかった……と言うような解釈で描きました。分かりやすい例えをするなら、悟空に対してデレる事が無かったorその機会を失ったベジータみたいな感じでしょうか。気に入らないとは思いながらも、同時に心の何処かでは認めずには居られなくて、見返してやろうと観察し続けた結果理解度が上がってしまったと言うような。
こんな訃堂では賛否が凄いかもしれないと言うのは百も承知ですけどね(;´∀`)。ただこんな関係も個人的には嫌いじゃないので。訃堂も訃堂で、ただの外道とするには何と言うか惜しいと言う思いがないではないと言いますか。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。