魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
幻影の幽霊村と言うふざけた歓迎を切り抜け、遂にジェネシスの本拠地へと乗り込んだ颯人達。グレムリンが仕掛けた魔法を切り開く為変身していた颯人以外も、敵の迎撃を警戒してギアや鎧を纏い古城の内部へと突入した。
恐らく入って早々、敵からの手荒い歓迎があると予想しての行動であったが…………
「……静かだな?」
「ですね。何の気配も感じられません」
颯人の言葉に透が同意したように、古城の内部は驚くほど静まり返っていた。てっきりメイジかグールの歓迎でもあるかと思っていただけに、何の抵抗も無くあっさりと城の中へと侵入出来た事には拍子抜けせずにはいられない。
だが輝彦とサンジェルマン、それにキャロルの3人は油断する事無く、寧ろ警戒心を強めていた。
「油断するな颯人」
「敵はあのグレムリンよ。何事もないと思わせておいて、不意を打ってくる可能性も十分ある」
「あとは罠の可能性だな。さっきの村みたいに、何の変哲もないと見せかけて魔法を仕掛けていないとも限らない。警戒は怠るな」
キャロルの言葉に全員頷き、周囲を警戒しながら進んでいく。
城の内部は外見通り造りも古く、当然の様に電気は通っていない為照明の類も存在しない。一行はキャロルの錬金術で形だけ残っている燭台に灯りを点して、最低限の光源を確保しつつ城の奥へと進んでいった。こう言った城に入った経験は無いが、得てしてこういうところは上に行くほど偉い人物がふんぞり返っている。今やジェネシスと言う組織を掌握した、と言うより元々掌握する立場にあったグレムリンが居るとすれば、日本の城で言う天守閣に当たる天辺の尖塔辺りだろう。
エントランスを進み、階段を上って2階へと上がる。階段を上った先にまたしても次の会談へと続く広間に出た彼らだったが、何もない1階のエントランスとは少々様子が違っていた。
「ぅおっ!? っとぉ、これは……?」
「うへぇ、趣味ワリ……」
クリスが思わずげんなりした理由は、目の前に広がる光景にあった。そこには階段へと続く絨毯の左右に石で出来た異形が並んでいたからだ。中には見覚えのある造形の異形もある辺り、この石像はファントムを模して造られている様だった。石像の中にはこれまで彼らが戦ってきた元幹部のヒュドラにメデューサ、レギオンなどの姿もある。
奏はこれが本当にただの石像であるのかを確かめるべく、アームドギアの先端で近くのメデューサの石像を軽く引っ掻いてみた。
「う、動かないデス……よね?」
「祈ってな」
おっかなびっくりと言った様子で槍の先っちょが石像を傷付ける。その様子に颯人は反射的に後ろから大きな声を上げて驚かせたくなる衝動に駆られたが、ここはふざける場面ではないと自重し周囲を警戒しながら事の経緯を見守った。もしあれがただの石像ではなく、本物のファントムが石像に擬態しているだけだった場合とんでもない事になる。セレナが固唾を飲んで奏の事を見守り、ガルドは何が起きたとしても直ぐに対処できるようにガンランスを構えた。
果たして、彼らの心配は杞憂であった。奏の槍が石像を引っ掻いても、石が剝がれて中から本物のメデューサが出てくると言う事もない。これは正真正銘、ただの石で出来た像に過ぎなかった。その事を確認し、切歌だけでなく調やクリスなんかも安堵し胸を撫で下ろす。
「はぁ~~……何だ本当にただの石像デスか~」
「良かった……この数のファントムが出たら、流石に大変だったから」
「ったくよぉ、ふざけたもん置きやがって……!」
ビビらされた腹いせになのか、クリスが近くにあった鳥の様な嘴のあるファントムの石像にアームドギアのクロスボウを向け引き金を引いた。光の矢は、ただの石像を砕き粉砕――――
「…………ん?」
――――する事は無かった。クリスが放った矢は、石像に当たった瞬間矢の方が砕けて散って行った。そのあり得ない光景にクリスが驚きに目を見開くと、次の瞬間石像に色鮮やかな色彩が広がり動き出したかと思うとクリスの事を掴んで何処かへと飛び去って行ってしまった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「クリスッ!? この、待てッ!」
悲鳴を上げながら連れ去られるクリスを追いかけようとライドスクレイパーを取り出す透。だが彼が箒に跨ろうとしたその時、今度は別の石像が色付き動き始めた。白い鎧の様な甲殻を持つ槍を手にしたファントムだ。そのファントムは飛び立とうとした透を寸でのところで叩き落すと、彼の腕を掴んで背中から翼を生やしクリスが連れ去られたのとは別の方に向け飛び去って行った。
「行かせぬッ!」
「がっ!?」
「貴様はこっちだ!」
「こ、この、放せッ!?」
「透ッ!?」
「チッ!」
クリスに続き通るまでもが連れ去られる事態は避けなければならない。輝彦は咄嗟にエクスプロージョンの魔法で透を連れ去ろうとするファントムを撃ち落とそうとした。
その瞬間、信じられない事に奏の槍が輝彦を吹き飛ばした。いや、輝彦だけではない。奏が大きく槍を振り回した結果、全員がその場から大きく吹き飛ばされ互いに大きく引き離されてしまった。
「ぐぉぉっ!?」
「わぁぁっ!?」
「カナデ、何をッ!?」
奏のまさかの行動に誰もが驚く中、唯一颯人は壁に背中を叩きつけられながらも奏の事を凝視し、そしてある事に気付いた。
奏の顔に、悍ましい程に邪悪な笑みが浮かんでいる。それを見た瞬間彼は悟った。まだ罠は続いていたのだと。
「テメェ……テメェは……!」
「あはっ♪」
佇む奏……否、奏の姿を偽ったその者に向け颯人が憤りのままに斬りかかろうと立ち上がった。だが彼が動き出すよりも早くに、奏の姿をしたそいつは指を軽くパチンと鳴らした。
するとそれを合図に、壁や床が動き颯人達は全員バラバラの場所へと連れていかれてしまった。ある者は突然開いた壁の先に待っていた坂を滑り落ちていき、またある者は床に開いた穴に真っ逆さまに落ちていった。誰も何が起きたのかを正確に理解する事も出来ず分断されていく中、颯人だけは離れていく奏の姿に向け怒りに身を任せ叫んだ。
「グレムリィィィィィィンッ!!」
颯人の怒鳴り声が響いていたが、壁が閉じて2階の広間が元の姿に戻ると途端に周囲は静かになった。残されたのは奏の姿をした者……グレムリンのみ。
グレムリンは擬態を解いて元の姿に戻ると、堪えきれなくなったかのように高笑いしながらその場を転げまわった。
「あっはははははははははははっ! いひひひひひひひひひっ!」
一頻り狂ったように嗤い、落ち着いた彼は転げまわって体に着いた埃を払い落としながら立ち上がった。そして徐に、近くの柱に掘られた目の様な形の彫刻に向け手を振った。
その目はただの飾りではなく、その目に映った光景は別の場所へと映し出されていた。映像が映し出される事で生じた光以外光源がないそこには、本物の奏が鎖で両手を吊るされ口に布で猿轡を噛まされた状態でその光景を見ていた。
「むぐっ! むぐぅぅっ!?」
先程の魔法で作られた幽霊村で、分断されていた最中に奏は1人グレムリンにより連れ去られていたのだ。抵抗する間もなく連れ去られた奏は、ギアを没収された挙句装いを赤とピンクで彩られた歌姫衣装に魔法で着替えさせられた挙句、鎖で繋がれ口を塞がれた状態で囚われていた。
暗く何があるかも分からない部屋の中で、しかし彼女は城内で何が起きているかをつぶさに見る事が出来た。城のあちこちに設置された映像撮影用の仕掛けによりリアルタイムで城のあちこちで起こっている事の様子が見せられているからだ。
その映像の中に、一足先に引き離されたクリスが自身を連れ去ったファントム……ガーゴイルファントムと戦っている様子が映し出されていた。
「ちょせぇっ!」
透達から引き離されたクリスだったが、途中でガーゴイルファントムの顔に矢をお見舞いする事で何とか拘束から逃れそれ以上遠くに連れていかれる事を防いだ。そしてほとんど墜落に近い形で何処とも知れない城内に降り立った彼女は、先ずは自分を連れ去ってくれたファントムを始末すべく両手のアームドギアをガトリングに変形させて引き金を引いていた。放たれた無数の弾丸がガーゴイルファントムに襲い掛かる。
しかしガーゴイルファントムは、体を石像に変えるとクリスの銃撃に耐えてしまったではないか。次々と弾丸が命中するが、弾はどれも弾かれ肝心のガーゴイルファントムには傷一つ付かない。
「んの野郎、だったらッ!」
ガトリングでダメならばと、クリスはスカートアーマーを開き無数のマイクロミサイルを一斉射した。噴煙を上げながら無数のマイクロミサイルが石像となったガーゴイルファントムに殺到し、次々と炸裂しその姿を炎と煙で覆い隠す。
しかしこれだけの攻撃を受けても尚、ガーゴイルファントムは傷付きもしなければその場から1ミリも動いてはいなかった。
「へっへっへっ! 無駄ッスよ。俺っちに傷付ける事は誰にも出来ないッス!」
勝ち誇ったように告げるガーゴイルファントム。相手を石化させ命を奪うメデューサと違い、ガーゴイルファントムは自らの意思で石化する事が出来る。石像と化している間は自身も身動き取れないが、その代わりあらゆる物理攻撃に対して驚異的なまでの防御力を発揮できるのだ。しかもただ硬くなるだけでなく、見た目通りの重量も手に入れる。その重さと硬さで、ガーゴイルファントムは敵のあらゆる攻撃に耐える事が出来るのであった。
「さぁて、グレムリンからはコイツを連中から引き離すよう言われてたッスけど、折角だからちょいと泣かせて――――」
「誰が誰を泣かせるって?」
煙で周囲が見えない中、ガーゴイルファントムは自信に満ちたクリスの声を後ろから聞いた。まさかと思い背後を振り返ると、そこに居たのはアマルガムを発動し形状を変化させたアームドギアを構えたクリスの姿であった。既に大型の弓には光の矢が番えられている。それを見てガーゴイルファントムは咄嗟に体を石化させ防御の体勢を取ったが、クリスは構わず番えた矢を放った。
「幾ら体が硬くったってなぁッ!」
放たれた矢は空中で実体を持つと、先端が開き空中で静止し周囲を赤いフィールドの様なバリアで覆った。半球のドーム状のバリアフィールドが形成されると、クリスは徐にガーゴイルファントムに向け光の大きな矢を一発放った。だがその矢ですらガーゴイルファントムの体を穿つ事は出来ず、弾かれ明後日の方へと飛んでいく。
「無駄無駄、無駄ッス! 俺っちにその程度の攻撃は――」
だが弾かれた矢は勢いを失う事無く、バリアフィールドに当たると勢いそのままに反射し別の方向から再びガーゴイルファントムに命中した。
「うぉぉっ!?」
まさか一度弾いた矢が再び戻って来るとは思っていなかった為驚き言葉を中断するガーゴイルファントム。耳を澄ませば先程再び弾いた矢がまたしてもバリアフィールドに反射している音が聞こえてくる。
「ま、まさか……!?」
嫌な予感は的中した。三度反射した矢がガーゴイルファントムの体に命中し、そして弾かれてバリアフィールド内を動き回り再び戻ってきたのだ。クリスが放った矢は全く勢いが衰える事が無く、それどころか寧ろ反射を繰り返すごとに威力が増している様にも感じられた。これでは攻撃を防げても動きようがない。
「と、とは言え、動けないのはそっちも同じ事ッス! 俺っちがここでこうしてる間にグレムリンが……」
「さて……そいつはどうかな?」
自身の防御力に絶対の自信を持っていたガーゴイルファントムは気付いていなかった。先程からバリアフィールドを弾かれて戻って来る矢が、必ず同じところに命中していると言う事を。尤も例え気付けていたとしても、石化状態では自ら動く事が出来ないガーゴイルファントムではどうする事も出来なかっただろうが。
何回も弾かれ、何回も反射しそして何回も命中する。それを何度も繰り返している間に、石化しているガーゴイルファントムの体には着実に傷が出来ていた。
そして遂に、度重なる攻撃にガーゴイルファントムの体が限界を迎えた。
「ぐげぇっ!?」
弾かれた矢がミサイルの直撃にも耐える程の硬度を誇る、ガーゴイルファントムの体に突き刺さっていた。矢は突き刺さった所から膨大なエネルギーを送り込み、そのエネルギーのより体内を破壊されたガーゴイルファントムは耐えきれず爆散する。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
∀∀・デ・レ・メタリカ
爆散するガーゴイルファントムを見届けて、クリスはアマルガムを解除し元のギアに戻った。アマルガム形態は攻撃力皆無の防御形態コクーンと攻撃特化の紙装甲イマーゴと言う両極端な形態しかない。目の前に倒さなけれがならない敵が居る状態であればともかく、何時何が起こるか分からない状態ではあまり長時間維持するには効率の悪い形態である。
取り合えず直近の脅威は取り除いた。生憎と仲間達からは離されてしまったが、今から元来た道を引き返せば何とか合流できるだろう。幸い城の中はそこまで複雑な構造をしてはいない。向こうもきっと自分の事を追って来ている筈だ。
「さて、戻るか。透達も心配してるだろうし……」
仲間達の身に何が起きたかを知らないクリスはそんな楽観的な事を考えながら踵を返した。
すると数歩進んだところで、彼女の目の前に響が姿を現したではないか。その姿に透で無かった事への不満を滲ませつつ、しかし仲間と合流出来た事に安堵の笑みも浮かべて近付いていった。
「よぉ、おせーぞ。こっちはアタシ1人で――」
安心したと言う事実を悟らせないよう、1人でファントムを始末した事を自慢げに語ろうとするクリス。だが近付いてきた響はそれに対して何の反応も見せず、黙ってクリスに近付いていった。
流石に違和感を抱いたクリスは、僅かに身構えながら再度響に声を掛ける。
「?……おい響?」
クリスが再び声を掛けると、次の瞬間拳を握り締めた響がクリスに飛び掛かりながらその拳を叩きつける様に振り下ろすのだった。
と言う訳で第285話でした。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。