魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第288話:壊された園

 ジェネシスの本拠地である古城の中で分断され、そして合流を果たした響と切歌、調の3人。彼女達は他の仲間達と合流すべく城内を彷徨い歩き、途中響の機転により下から上に穴を開ける事で直接次の階へ上がるという力技で移動した。

 

 その先で彼女達は、1人の少女と出会う。これまでに何度か彼女達の前に立ち塞がってきたジェネシスの幹部、メデューサによく似た少女だ。切歌はこれまでに遭遇した2人のメデューサが双子であった事を考え、この少女もメデューサの血縁者ではないかと勘繰り警戒してアームドギアの大鎌を向けた。

 

「お、お前、メデューサ達の姉妹か何かデスかッ!」

「切ちゃん、待って!」

「待って切歌ちゃんッ! ねぇ君? 君の名前、教えてくれる?」

 

 切歌は警戒した様子だったが、見るからに怯えた様子の少女に響は調と共に彼女を宥めると努めて穏やかな声色で話し掛けた。

 

「大丈夫。私達はあなたを傷付けたりしないから。ね?」

 

 穏やかな声色もそうだが、響が手に武器になる様な物を何も持っていない事が功を奏したのだろう。徐々に強張っていた表情が柔らかくなり、まだ怯えは残っているがそれでも先程に比べれば落ち着きを取り戻した様子で口を開いてくれた。

 

「わ、私は……萌音……あなた達、お姉ちゃん達を知ってるの?」

「お姉ちゃん達って言うのは……2人のメデューサさん達の事かな?」

 

 恐らくはメデューサの事を姉と呼んだのだろう、萌音と名乗った少女に響が確認を取れば、彼女は泣きそうな顔で頷いた。

 

「う、うん……アイツに、ソラにそう名付けられたお姉ちゃん達……美沙お姉ちゃんと真由お姉ちゃんを知ってるの?」

 

 何処か縋る様な萌音の問い掛けに、響達はあの2人がこの萌音にとって大切な人物である事を察し、何と答えればいいかと言葉に迷ってしまう。彼女達が知っているメデューサと言えば、執拗に透を付け狙い非道な手段にも躊躇わず手を出す悪党を絵に描いた様な人物であった。そんな女の妹となれば当然ロクデナシだろうと思っていたのだが、あの2人の妹と名乗るにしてはとても大人しい人物である事に意外さを感じずにはいられなかったのだ。

 

「き、君、本当にあのメデューサ達の妹デスか? 何と言うか、その、性格が似ても似つかないのデスが……」

 

 切歌が恐る恐るそう問い掛ければ、萌音は耐えきれなくなったようにその場に泣き崩れてしまった。突然泣き出した萌音の姿に、3人は慌てて彼女を宥めた。

 

「わわっ!? お、落ち着いて萌音ちゃんッ!」

「ごごご、ごめんなさいデスッ!? でも、あの、私本当にあのメデューサ達しか知らなくて……」

「ひ、人違いって事は、ないかな?」

 

 メデューサ達と萌音の雰囲気があまりにも違い過ぎるので、調は自分達が知るメデューサは萌音の言う姉とは別人なのではないかと疑った。だが萌音は彼女達の懸念を首を左右に振って否定し、涙ながらに話し始めた。

 

「ひ、人違いじゃありません。美沙お姉ちゃんと、真由お姉ちゃんは、ソラにそう名付けられて変わってしまったんです……!?」

「変わった……って?」

 

 もしかするとこの少女の話を聞く事で、グレムリン攻略のヒントになるのではないかと響が先を促した。

 

「お姉ちゃん達は、本当はとっても優しい人だったんです。あの人……明弘先生に魔法を教わりながら……」

 

 

 

 

 

 萌音が言うには、メデューサと名乗っていた美沙と真由だけでなく、ヒュドラと名乗っていた雄吾など多くの魔法使いが明弘の弟子として彼に師事し、魔法の腕を磨き将来は人知れず超常的な脅威から人々を守る事を目指して研鑽していた。

 

 明弘はただ弟子を育てるだけでなく、魔力を持つが故に迫害された者を引き取り父親代わりとして育てたりもしていた。実は萌音達もその口であり、美沙と真由の2人が魔法使いとして覚醒してしまったが故に居場所を失ってしまい、萌音もそれについて行った先で明弘に拾われたのだった。

 

 彼女達姉妹が明弘に拾われた時点で既に雄吾を始めとして多くの弟子や孤児が身を寄せていた。魔法使いとして覚醒しなかった萌音であったが、明弘は彼女も含めて温かく3人を受け入れると美沙達を魔法使いとして育てた。優しい明弘に受け入れられて萌音達も新たな幸せに心身を癒されていた。

 

「お姉ちゃん達、言ってました。何時か自分達も先生みたいに世界の人達を助けるんだって」

 

 当時からノイズによる被害などは起こっていた。何事も無ければ何時かは彼女達次世代の魔法使いが、人知れずノイズの被害や悪事を働く錬金術師に対抗する戦力となる筈であった。

 魔法使いとなれなかった萌音もまた、魔法が使えないなりに姉や明弘達の役に立とうと指輪作りを学び魔法石から様々な指輪を作り出す事を覚えた。魔法使いではない萌音であったが、彼女の魔法の指輪作りの腕は確かで良質な指輪の数々を生み出せるようになっていった。指輪だけではなく、聖遺物の欠片から武具などを作り上げたりと明弘達に多大な貢献を果たしていた。

 

 しかし…………

 

「でも、アイツが……ソラが来てから、全部おかしくなった…………!」

 

 ある日明弘が新たな家族として1人の少年、ソラを連れて帰ってきた。みすぼらしい身なりで一人寂しく街を彷徨っていたところを偶然見つけ、醸し出す魔力から彼の才能を見抜いた明弘が保護して連れ帰った少年。萌音達は新しい家族を温かく迎え入れた。

 

 だがある日ソラはそれまで被っていた無害な孤児の仮面を脱ぎ捨て本性を表すと、真っ先に明弘を隙を突いて魔力を暴走させ始末した。それだけでなく、ソラは明弘に成り代わると美沙達を次々と洗脳し配下としてあっという間に制圧してしまったのだ。

 目の前で姉や家族がソラ1人に敗北し洗脳されていく光景に萌音は恐怖し、魔法が使えない自分はそのまま始末されると思っていた。

 

 ところがソラは彼女を役に立つ存在だと生かされる代わりに奴隷の様に次々と指輪を作らされる事となったのである。周囲が洗脳され狂わされていく中、唯一正気を保ったまま囚われた萌音。正気ではあったが、ソラに対する恐怖心を植え付けられた彼女に逆らおうという意志は芽生えず言われるがままに指輪やアイテムを作らされていた。

 

 その間、姉2人はソラ……が成り代わった明弘に忠誠を誓い、言われるがままに無関係な人々をサバトに掛けて殺すか魔法使いにして次々と勢力を拡大させる事に加担していた。記憶にある優しかった姉達が恐ろしい事をしている事に対する絶望も手伝い、萌音は只管に指輪を作り続けていた。

 

「あの、教えてください。お姉ちゃん達は…………今、どうしてるんですか?」

 

 この城で、この部屋に軟禁されていた萌音は姉2人がどうしているかを知らない。だがある時から姉達の音沙汰を全く聞かなくなり、挙句の果てにはこうして部外者が城の中で好き放題に動き回っている事実に何か大きな異変が起こった事を察した萌音は藁にも縋る思いで姉の安否を響達に訊ねた。

 訊ねはしたが、しかし萌音には何となく答えが予想出来ていた。出来ていたが、実際に聞いてみなければハッキリとしない。

 

 覚悟を持って訊ねる萌音に、響も意を決してメデューサ2人の顛末を話した。

 

「あなたのお姉さん達は…………ファントムになって、もう……」

「!?!? う、あぁ……お、お姉ちゃん……!?」

 

 予想はしていた。洗脳され傀儡とされ戦わされた姉の顛末など、何も知らない者に倒される事による死か、若しくはソラ……グレムリンに使い捨ての駒にされて死ぬかだ。戦う相手からすれば美沙と真由が洗脳されているなど分かる訳がないので手加減などする訳がない。助けられるという都合のいいことは無く、死ぬことによりある意味で解放された。姉2人がこれ以上罪を重ねる事が無くなったのを、萌音は喜ぶ事も無く純粋に姉の死を悲しんだ。

 

 響達は泣き崩れた萌音を優しく慰め、響は彼女に胸を貸して落ち着くまで泣かせ続けた。

 

 暫く泣いていた萌音だったが、数分程泣いて落ち着いたのか目を赤くしながらも涙を収めた。

 

「ご、ごめんなさい……本当に、色々とご迷惑を掛けちゃって……」

「良いんだよ。萌音ちゃんも、萌音ちゃんのお姉さん達も被害者なんだから」

「そうデスッ! やっぱりグレムリン許せないデスッ!」

「私達が絶対、グレムリンをやっつける」

 

 悲しむ萌音の姿に響達は改めてグレムリン討伐への決意を燃やすのだが、彼女達の意気込みを聞いた萌音は逆に彼女達を引き留めようとした。

 

「だ、駄目……!? アイツには、あの男には誰も勝てない……」

 

 怯える萌音の様子に響達は彼女がグレムリンにより植え付けられた恐怖が相当なものである事を察した。そんな彼女を勇気づけるべく、今この城にどれだけ頼もしい者達が集まっているかを熱く語ろうとした。

 

「大丈夫ッ! 今ここ、私達だけじゃなくて頼りになる人がたくさん居るんだからッ!」

「そうデス! 私達も負けてないデスけど、他にも強い人が何処かで戦ってる筈デスッ!」

「私達はこれまで何度も世界を救ってきた。今度もグレムリンを倒して、あなたもここから解放してみせる」

 

 萌音を勇気づけようとする響達であったが、それでも彼女は怯え続けていた。これは何かあると響が怯える理由を問い掛けようとした。

 

「ねぇ萌音ちゃん? グレムリンさんって何がそんなに怖いの? 何か、こう……強さの秘密とかあるの?」

 

 響の問い掛けに萌音は視線を盛大に泳がせ、どう答えるべきか迷っている様子を見せた。響達はそれ以上彼女を急かすような事はせず、彼女が自分から話し始めるのを待った。

 暫く体を震わせていた萌音も、真剣な響達の視線に意を決して話そうと口を開きかけた。

 

 その時…………

 

「あ~、良かった良かった。びっくりしたよ~、この部屋に入って来る人が居るなんてさぁ」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 突然響いた青年の声に響達が勢いよくと振り向くと、そこには何時からそこに居たのかグレムリンが1本の槍を持って佇んでいたのだった。




という訳で第288話でした。

萌音の正体は本作でメデューサと名乗った2人の魔法使い、美沙と真由の妹でした。美沙と真由は原作ウィザードにも居た人物ですが、萌音に関しては完全なオリキャラとなります。メデューサはゴルゴン3姉妹としてFGOで有名ですので、そこから3人目の姉妹として生まれました。萌音に関しては妹とするか姉とするかで悩みましたが、最終的には妹でジェネシス側の指輪職人としてのキャラクターとなりました。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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