魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
突如目の前に現れたグレムリンを前に、響達が警戒する中萌音は酷く怯えた様子で響達の影に隠れていた。隠れてはいたが、彼女らの影から視線をグレムリンに向けるのは止めていない。尤もその視線はグレムリンと言うよりは、グレムリンが持つ槍に向けられていると言った様子だったが。
「あ、あ……あぁ……!?」
「萌音ちゃん、どうしたの? 大丈夫?」
明らかに異常な怯えようだ。普通に心に傷を負っただけでは説明できない怯え方に、響はあの槍に何か秘密があるのではないかとグレムリンを警戒しながら彼が手に持っている槍を凝視する。
その瞬間、響はグレムリンが持つ槍に既視感を覚えた。
「あ、あれ……?」
「響さん?」
「どうしたデスか?」
思わず声を上げた響を、切歌と調が見ると彼女は何やら驚いた様子で目を見開きながらグレムリンが持つ槍を見つめている。あの槍の何が響をそこまで惹き付けているのかと疑問に思い響と槍を交互に見ていると、その視線に気付いたのかグレムリンが歪んだ笑みを浮かべた。
「あはっ……どうしたのかな、響ちゃん? この槍がそんなに気になる?」
「響さん、あの槍がどうしたんデスか?」
訳が分からず困惑する切歌の声に、響は僅かに声を震わせながら答えた。
「ガン、グニール……?」
「えっ?」
響の口から放たれた思わぬ名前に切歌が再びグレムリンが持つ槍を見る。調も同様に槍を凝視するが、槍のデザインは少なくとも奏が振るうアームドギアのガングニールとは似ても似つかない。奏のガングニールは穂先が大型の矛の様にも見える槍であるのに対し、グレムリンが持っている槍は穂先自体はそこまで穂先が大きい訳ではない。その穂先の形状も、特別小さくなったガングニールに見える訳でもないので、響があれをガングニールと認識した事に疑問を抱かずにはいられなかった。
だが槍を持つグレムリンは響の言葉に満足したのか、満面の笑みを浮かべ槍を抱きしめ軽く頬擦りをした。
「うんうん♪ 流石萌音ちゃんだよ、いい出来だね♪」
「それ、何? 何で響さんはその槍をガングニールって……」
あの槍に何か秘密があるのだと察した調が問い掛けるが、グレムリンはそれに取り合わず言葉を続けた。
「ここに侵入された時はヤバいかもって思ったけど、心配したような事にはならなくて安心したよ」
「おいグレムリンッ! 調の質問に答える――」
調の発言を無視したようなグレムリンの態度に切歌が文句を口にしようとした次の瞬間、瞬きの一瞬でグレムリンが切歌の懐に潜り込んで彼女の心臓部分を槍で貫こうと構えを取っている光景を響は目にした。
一秒も経たない内に切歌の心臓が槍で貫かれる。そう思った瞬間響は反射的に蹴りを放ち、切歌に向けて放たれた槍を蹴り上げてギリギリのところで彼女が刺突を喰らうのを防いだ。
「切歌ちゃんッ!」
「えっ!?」
「このっ!」
響がグレムリンの持つ槍を蹴り上げ、切歌が自分に危機が迫っていた事に漸く気付く。そして調は、切歌を仕留めようとしていたグレムリンに怒りと共に丸鋸を放つが、無数の丸鋸はグレムリンに傷一つ付ける事無く回避され壁や床を切り裂くだけに留まった。
切歌を狙った奇襲に近い速攻は失敗に終わった。にも拘らずグレムリンは全く悔しがったり残念がる様子を見せないどころか、出来具合に満足する様に槍を撫でながら頷いた。
「うんうん、良い感じだね」
「えっ? えっ!? い、今何が起こったんデスかッ!?」
グレムリンが相手の視線を騙して距離を見誤らせるアイソレーションを戦闘で多用する事は知っていた。だが今の攻撃は明らかにそれとは異なる速度だった。まるで颯人がインフィニティースタイルで用いる超高速移動を思わせる一瞬の行動だったが、肝心なのは
「グレムリンさん……あなた、ファントム……?」
警戒しながら響が問い掛けると、グレムリンは表情を変えずカクッと首を傾げた。それをスイッチにしたようにグレムリンの姿が変化し、緑色の体をした異形の姿となった。案の定彼もファントムだったのである。
相手が生身の人間ではなくファントムなのであれば遠慮する必要は何処にもない。響達は萌音を守りながらグレムリンを倒すべく構えを取るのだが、またしても瞬きした瞬間グレムリンファントムの姿が掻き消える様に消えた。
「ッ!? また……」
「響さん、後ろッ!」
「えっ!?」
グレムリンファントムを見失い左右を見渡す響であったが、切歌の焦った声に肩越しに背後を振り返ればそこには槍を薙ごうと構えているグレムリンファントムの姿がある。このままでは自分だけでなく萌音までもが巻き込まれると響は咄嗟に萌音を守る様に抱きしめ、切歌はこの狭い空間で響を助けるべくアームドギアの大鎌を片手剣サイズの二つの鎌に分離させて素早く振るった。
「させないッ!」
切歌の速度と取り回し重視の攻撃はグレムリンに掠る事も無く空振った。だが彼女の行動は無駄ではなく、グレムリンは響への攻撃を中断して部屋の入口にまで何時の間にか退避していた。
「チッ、本当に素早い奴デス……!」
「切ちゃん、深追いはしないで。アイツ、何か変……」
一連の攻防を冷静に見ていた調は、直感的にグレムリンがまだ本気を出していない事を察していた。そんな奴を迂闊に深追いするのは逆に相手の思う壺だと、調は鼻息を荒くする切歌を宥め響と萌音を助け起こした。
「響さん、怪我は?」
「私は平気。萌音ちゃんも、ね?」
響の言葉に萌音はまだ震えながらも頷いて答える。グレムリンファントムが距離を取った事で幾分か余裕が生まれたらしい。先程に比べれば平常さを取り戻している様に見えた。
勿論、超高速移動が出来るグレムリン相手にこの距離では全く安心出来るものではないのだが、萌音が落ち着きを取り戻してくれた事は響達にとっても素直に安心できる要素であった。
幸いな事に、グレムリンはこれ以上萌音に拘るつもりは無いようだった。姿を人間に戻すと、響達に背を向け部屋から去ろうとし始めた。
「もう用は無いし、僕は一旦奏ちゃんの所にでも――」
グレムリンが向かおうとしているのが奏の元だと知って、響が彼女の居場所や安否を問い詰めようと一歩前に出た。だが彼女がグレムリンに問い掛けるよりも前に、真下から飛び出してきた金色の台座に乗った色とりどりの宝石が放つ錬金術の砲撃が彼に襲い掛かった。
「うぉっ!?」
「えっ、あれって……!」
「キャロルちゃんッ!」
オートスコアラーが変身した移動砲台の役割を果たす4つの宝石。それが真下から飛び出してきたという事はつまり彼女も今この部屋の下に居るという事で、響達の予想通りグレムリンへの砲撃が外れたのを見てかキャロルが先程の響同様床を突き破って飛び出してきた。
「見つけたぞ、グレムリンッ!」
「落ち着きなさいキャロルッ! 逸っては奴は倒せないわッ!」
キャロルが下の階から飛び出すと、それを追ってサンジェルマンが響達のいる部屋に上がってきた。どうやらあちらも分断された後合流を果たしたらしい。そして協力しながら移動している内に、探知の錬金術か何かで頭上の部屋にグレムリンが居る事を察知して奇襲を掛けたが失敗に終わったのだろう。キャロルはサンジェルマンの警告を無視してそのままグレムリンへの追撃を続行した。
「こいつ相手に何かをする隙を与える方が悪手だッ! 手を貸せサンジェルマンッ!」
「全く……!」
一理はあるキャロルの言葉に呆れを見せつつ、サンジェルマンは彼女と共にグレムリンを攻撃した。キャロルと協同でグレムリンに攻撃を仕掛けつつ、サンジェルマンは部屋に居る響達に気付くとそちらに通信が回復した事を告げた。
「立花 響ッ! さっき本部との通信が回復したわッ!」
「えっ、本当ですかッ!」
「奴が張った結界の一部の能力を無力化したと輝彦から聞いたわ。今なら本部と通信できるッ!」
「サンジェルマン、早く来いッ!」
「分かってるッ!」
サンジェルマンが響達に通信回復を告げている間もキャロルはグレムリンに反撃の隙を与えないよう攻撃を続けた。だが決定打が与えられないどころか、ファントムになったグレムリンの動きを捉える事も出来ず逆に危険な状況に陥る事もありキャロルが焦りを滲ませながらサンジェルマンに救援を求めた。
キャロルからの救援を求める声にサンジェルマンも攻撃に参加し、素早く動き回るグレムリンファントムに対し散弾の様に面で制圧する事を目的とした攻撃を放ち動きを牽制する。
キャロル達がグレムリンに攻撃しつつ部屋から離れていくのを見つつ、響は本部へと連絡を取った。
「本部、聞こえますかッ! 藤尭さん? 友里さん?」
『大丈夫だ、聞こえてるぞッ!』
『響ちゃん、そっちも無事ね?』
「はいっ! 切歌ちゃんと調ちゃんも一緒ですッ!」
「マリア達は大丈夫デスか?」
『大丈夫よ~。少なくとも奏ちゃん以外とは連絡が取れているわ』
響が自分達の状況を簡潔に説明すると、切歌が他の者達の安否を訊ねる。その問いに了子が答えると、調が萌音の事を本部に告げた。
「あ、それと、こっちで萌音って言う子を保護しました。何でも、メデューサだった2人の妹だそうで」
『メデューサの妹ですってッ!? メデューサに妹が居たんですか?』
「エルフナイン? うん、そう。ジェネシスで指輪とか作ってたんだって」
通信が回復した事で、響達の表情に幾分か余裕が戻ってきた。やはり銃後と連携が出来るのは精神的に頼もしさがある。普段から朔也やあおいのオペレートが如何に彼女達を助けているかが伺えた。
するとそれを見て、萌音が飛びつく様に通信に声を割り込ませた。
「あ、あのっ! これ、S.O.N.G.の本部に届いてるんですよね?」
『君は調君の言っていた萌音という少女か?』
調の通信機に向かって話し掛ける萌音。その声に弦十郎が問い掛けるが、生憎と彼の声は萌音には届かない。スピーカーモードの様な機能も無い為、調が中継となって両者の会話を繋げると萌音は最後の希望に縋る様に今のグレムリンの危険性をS.O.N.G.に告げた。
「早く……早くグレムリンを止めてくださいッ! このままだと、このままだと世界が大変な事に……!?」
その頃、他の者達同様分断された颯人は一秒でも早く奏を救出すべく古城の中を走破していた。途中に待ち構えていたファントムやトラップを半ば力尽くで突破し、途中で面倒臭くなったのか響やキャロル同様壁をブチ破って進んでいこうとしていた。
そんな彼の前に、ある人物が姿を現していた。見知った人物の予想外の登場に、思わず彼も奏を救出するという目的を束の間忘れてその相手を凝視してしまう。
「な、何でアンタがここに……!?」
颯人の問いに対し、目の前の人物は帽子を被り直しながら口を開いた。
「聞かせてくれ、真実を。名誉を、誇りを穢されたのか?…………明弘は!」
という訳で第289話でした。
物語も終盤と言う事で、ちょっとオールスターを意識した展開になってきました。ラストに登場したのも、久し振りの登場となるあの人です。誰が来たのかは次回のお楽しみに(バレバレでしょうけど)
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。