魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第291話:集う希望

 グレムリンの罠により分断されたS.O.N.G.の装者や魔法使い達だったが、これまでに数々の困難を乗り越えてきた彼ら彼女らはこの程度で後れを取るような事は無かった。

 例え分断されても仲間を信じ、そして敵に打ち勝ち平和を取り戻す事を考え突き進む。その結果、古城の各所に散らばった者達は自力での合流を着々と果たしていた。

 

「急ぐわよ翼ッ! 早くセレナと合流しないとッ!」

「そうだぞッ! もたもたしてると、グレムリンの奴がまたセレナに何かするかもしれないッ!」

「そんなの許せないわッ!」

「こっちだ、行くぞッ!」

 

 

 様々な罠や配置されたファントムの妨害を突破し、翼が合流を果たしたのはマリアとガルドの2人であった。どうやらこちらの2人も仲間……というよりはセレナとの合流を急ぐべく遮二無二グレムリンの妨害を突破し、遂には壁をブチ破るという荒業を用いての移動に活路を見出していた。

 セレナと言う想う相手が共通している2人の勢いは、罠に嵌められた時点で奏が敵の手に落ちているという事実に気付き焦りを感じていた翼でさえ思わず唸らせ落ち着かせてしまっていた。

 

「ふ、2人とも落ち着けッ!? 無暗矢鱈にあちこちを壊しては、肝心のセレナにさえ被害が及びかねないぞッ!」

 

 合流してからは勢いが二倍になったからか、マリアもガルドも容赦なく壁を砲撃で吹き飛ばし強引に道を切り開いている。折角グレムリンが配置した罠やファントムも、この勢いを前に彼女らを止めることは叶わず一方的に吹き飛ばされ蹂躙されていた。あまりの勢いを前に翼は何もする事が無くなってしまう程である。

 

「何悠長な事言ってるのッ! 相手はあのグレムリンよ、奏の次はセレナも狙うに決まってるッ!」

「いや、セレナは一度狙われた後だろう? どちらかと言うと一足先に連れていかれた雪音の方が危ないぞ」

「そっちはトオルがきっと何とかする筈だ。アイツはクリスの為ならどんな困難でも必ず成し遂げる。そうなった時グレムリンが次に狙うのは孤立したセレナになる可能性が高いッ!」

「北上への信頼は同意するが、キャロルが狙われる可能性だってあるだろう」

 

 気付けばそのまま暴走してしまいかねない2人の宥め役に徹せざるを得なくなった翼は、2人が壁を粉砕した事でそれに巻き込まれて何も出来ずに倒れたファントムを哀れんだ目で見ながらついて行った。普段は落ち着いて周囲を引っ張っていく大人としての立場を崩さない2人だったが、事セレナが絡むと途端に暴走するのだから堪ったものではない。自分だって奏の事を心配して突っ走りたい気持ちがあるのに、この2人を見ていると否が応にも自分が落ち着かざるを得なくなる。

 

 内心で暴走する2人を相手に辟易していると、出し抜けに3人から見て斜め前方の床が吹き飛んだ。何事かと翼達がそちらを見れば、床下から未来と人格を入れ替わったシェム・ハが優雅に浮遊して上がってきた。

 

「よし、問題ないぞ」

「しぇ、シェム・ハさん、もうちょっと穏便に……」

 

 シェム・ハに続く形で下の階から顔を覗かせたのは、今絶賛暴走している2人が恋焦がれていたセレナであった。彼女の姿を見た瞬間2人は一気に駆け出し、シェム・ハを押し退けてセレナの無事を確かめる様に抱き着いた。

 

「「セレナッ!!」」

「のわぁっ!?」

「きゃっ!? が、ガルド君ッ! 姉さんッ!」

 

 物凄い勢いで弾き飛ばされるように押し退けられたシェム・ハだったが、生憎と今この場で即座に彼女の心配をしてくれる者は居なかった。それをやった本人達はセレナに夢中だし、セレナの方も愛する恋人と姉に合流出来た喜びの方が勝り束の間シェム・ハの事を忘れてしまっていた。

 

「良かったセレナ、無事だったのねッ!」

「心配したぞ。あの後グレムリンがまたセレナにちょっかいを掛けるんじゃないかってな」

「ゴメンね2人共。でも未来さん……シェム・ハさんと合流出来たから何とか……って、あぁっ!? シェム・ハさんッ!!」

「「えっ?」」

 

 ここで漸くシェム・ハが2人の暴走で弾き飛ばされた事を思い出し、セレナに釣られて2人がそちらを見れば折角頑張ったのにぞんざいな扱われ方をされ酷く不機嫌になったシェム・ハが翼に宥められながら2人の事を睨んでいた。

 

「貴様ら……頑張ったの我ぞ? 結構頑張ったのに何だこの扱いは……」

「スマンなシェム・ハ。小日向も、あの馬鹿2人が迷惑を掛けた」

(あ、あはは……)

 

 きっと内面から外の様子を伺っていただろう未来の事も慮って翼が労いと謝罪をすれば、翼には聞こえないが未来が乾いた笑い声をあげる。ここで漸くマリアとガルドは自分達があまりにも冷静さを欠き過ぎていた事を思い出し、翼共々迷惑を掛けた事を謝罪した。セレナと合流出来た事で落ち着きを取り戻したらしい。先程までの様子が嘘の様に2人はしおらしくなっていた。

 

「ご、ごめんなさいシェム・ハ……翼も……」

「すまなかった。流石に落ち着きを失い過ぎていた。セレナの事が心配過ぎて……」

 

 肩を落とし、二回りほど小さくなったように見える2人の姿にはシェム・ハもそれ以上煩く言う事が出来なかった。と言うよりは、未来により宥められたと言った方が正しいか。彼女も彼女で響やクリス達の事が心配なのだ。だから2人の気持ちは痛いほど分かる。

 

(もういいですよ。2人がセレナさんを心配する気持ちも分かりますし)

「……未来がお前達を許すと言っている。精々感謝するのだな」

「「はい……」」

 

 しょんぼりする2人の姿に、シェム・ハも溜飲が下がったのか溜め息1つで気を静めてくれた。その光景に翼もやっと肩の荷が下りたような気になる。冷静さを欠いた2人の相手をするのは、何だかんだで大変だったのだ。

 

「ともあれ、これでこちらは合流出来た訳だが……他の誰かとは会わなかったのか?」

「居るぞ?」

 

 下から顔を出してきたのがセレナだけだったのでてっきり2人だけなのかと思ったら、どうやらもう1人合流出来た仲間が居るらしい。あまりの騒ぎに今まで騒動が過ぎ去るのを下の階で待っていたようだ。

 シェム・ハが顎をしゃくると、セレナ達が出てきた穴からもう1人頭を出してきた。

 

「全く……お前達はこんな時でも騒がずにはいられないワケダ?」

 

 呆れた声を上げながら顔を出してきたのはプレラーティであった。身の丈を越えるほどのけん玉を担ぎながら小柄な少女姿の彼女が出てくる光景は、何とも言えぬ不思議な迫力を感じさせる。

 

 ここでプレラーティが合流してくれた事は単純な戦力として以上にありがたいものがあった。何しろ彼女達錬金術師は通信手段として念話が使える。これを使えば、この場に居ない仲間の様子を知る事も可能な筈であった。

 

「プレラーティか。すまないが、サンジェルマンかカリオストロ、アリス女史と通信できるか? 生憎とこちらの通信機は妨害されているのか相互の連絡が取れなくてな」

「連絡を取り合いたいのは山々だったが、生憎とこちらの念話も阻害されている。どうやらこの城全体を包み込む様に新たな結界が張られたらしい。テレポートジェムも使用不可能なワケダ」

 

 念の入った事に通信も転移も完全に封じられている。この事にシェム・ハも忌々しそうに顔を顰め、ガルドはセレナを抱きしめながら頭を掻いた。

 

「まいったな……このまま壁をブチ破り続けてもいいが、何度も繰り返してるとこの城自体が潰れる可能性も……」

 

 恐らくだが、他の仲間達も正攻法での合流を諦め壁や天井を粉砕する事での踏破に切り替えているだろう。このグレムリンが罠を張り巡らせた城、馬鹿正直に正面から攻略するのは効率が悪すぎる。偽の地雷が敷設された地雷原を一つ一つ地雷を解体しながら進む様なものだ。そんな事をするくらいなら、ロケット弾で地雷原を耕しながら進んだ方がずっと早い。それと同じだ。

 

 今回問題なのは、それを多用しすぎると地雷原であるこの城自体が崩壊する危険がある事と、先が見えない中でそれをすると合流すべき仲間を巻き込むリスクが伴う事であった。幸いな事にガルド達はセレナ達を巻き込む事無く合流出来たが、今後もそうであるという保証はない。

 

 ここから先は今までよりも慎重に進むべきかもしれない。そんな雰囲気が漂い始めた矢先、沈黙していた翼達の通信機が息を吹き返す様に通信を繋げた。

 

『――こえますか? 皆さん、応答してくださいッ!』

 

 通信機から突然発せられたのは、心配のあまり泣きそうな声を上げるエルフナインからの通信であった。随分と久し振りに聞いた様な彼女の声に、翼は飛びつく様に通信機に手を当て応えた。

 

「エルフナインかッ!」

『あ、翼さんッ! 司令、翼さんと通信が繋がりましたッ!』

『よしっ!』

『こちらも繋がっているぞ』

『皆さん、心配をお掛けしました』

 

 エルフナインの報告に発令所の方が俄かに騒がしくなる。と、そこに割って入る様に輝彦とアリスの声も加わった。それだけでなく、響と言った今この場に居ない面々の声までもが聞こえてきた事に翼達の顔にも安堵の表情が浮かぶ。

 

「通信が復活した様で何よりだが、何が起こった? こっちにプレラーティが居るが、念話すら阻害する結界が張られてるって話だったぞ?」

『その結界ならさっき、サンジェルマンさんとキャロルが解除してくれたらしい。2人から通信が入った』

「流石サンジェルマンなワケダ」

 

 朔也とあおいの話によると、通信が復活すると同時に発信機も機能を取り戻したらしくガルド達の現在地も分かるようになったとの事だ。今は急いで彼らの居る城の内部の様子等を報告とデータ解析からマッピングし、効率よく合流させる為に奔走している真っ最中だとか。

 

「良かった……皆無事だったみたいね」

『いえ、そうでもないわ』

「櫻井女史?」

『どういう事ですか?』

『颯人君、それと奏ちゃんともまだ連絡がつかないの』

 

 最初に分断された透達とすら通信が繋がったというのに、奏は勿論颯人とも通信が繋がらない。その事にマリアが表情を強張らせていると、彼女らにとって予想外の人物の声が通信機から響いた。

 

『心配ないよ、その男なら。今は疲れて寝ているさ、僕の肩の上でね』

『あ、アダムゥッ!?!?』

「な、何でお前の声が聞こえてくるワケダッ!?」

 

 まさか通信機からアダムの声が聞こえてくるとは思っていなかった為、通信機から聞こえてくるカリオストロの声とこの場に居るプレラーティは酷く動揺していた。もう会う事も聞く事も無いだろうと思っていた男の声をこんな所で聴く事になったのだからそれも当然か。

 

 顎が外れそうなほど驚いた様子のプレラーティを他所に、通信機の向こうのアダムは以前の飄々とした様子そのままにカラカラと笑いながら答えた。

 

『随分な挨拶だね、2人共。目的があるんだよ、僕にもね』

 

 動揺しているのは何もカリオストロ達だけではなかった。翼だって声に出してはいないが、アダムがこの城の中に居て颯人の通信機を使って通信してきているだろうこの状況には驚きを隠せない。だが今この場でそれを深く追求する事に大きな意味は無い為、翼は内心の動揺を飲み込み要点だけを確認した。

 

「一先ず、お前も今は私達と共に戦ってくれるという事で良いんだな。アダム?」

『構わないよ、その認識で。グレムリンを打倒したいだけだからね、僕は僕で』

 

 理由や真意は翼達には分からなかったが、少なくともアダムが仲間として戦い颯人を助けてくれたのだろう事は素直にありがたかった。これだけの戦力が揃えば百人力……とマリアが考えた所で、通信機から怪訝そうなアダムの声が響いた。

 

『妙だね、しかし』

「何が?」

『静かだと思わないかい、サンジェルマンが? 驚くと思ったんだけどね、彼女も』

「あっ!?」

 

 そう、先程から通信にサンジェルマンとキャロルが参加していないのだ。2人共通信が一度は繋がったらしいのだが、それ以降2人が応答する事が無かった。

 

『キャロル? おいキャロル! 応答しろ!?』

 

 ハンスの慌てた声が通信機に響くが、相変わらずキャロルからの応答は無い。まさかと最悪の展開が翼達の脳裏を過ったが、そこで漸くキャロルとサンジェルマンからの通信が入った。

 

『今取り込み中だ、後にしろッ!』

「キャロルッ! そっちは今どういう状況なのッ!」

『こちらは現在、絶賛グレムリンと戦闘中よッ!』

『あっ、そうでしたッ! 師匠ッ! こっちで非戦闘員を保護しました。キャロルちゃんとサンジェルマンさんはその時グレムリンさんと戦って……』

『藤尭、友里ッ! 2人の現在地を割り出せッ!』

『『了解ッ!』』

 

 響達と一時的に合流した後、キャロルとサンジェルマンはグレムリンと戦い続けてきたらしい。今の油断ならないグレムリンと2人だけで戦うという綱渡りをする彼女達に、マリア達も危機感を感じ急いで合流すべく朔也とあおいの誘導の元、その場を移動し始めるのであった。




と言う訳で第291話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお待ちしてます!それでは。
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