魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
他の仲間達が朔也とあおいの指示の元続々と集まろうとしている中、キャロルはサンジェルマンと協力してグレムリンを相手に善戦していた。
「はぁぁぁっ!」
配下のオートスコアラー達が変身した移動砲台の役割を果たす宝石がキャロル本人とグレムリンの周囲を浮遊し、隙あらば様々な属性の砲撃が放たれる。それはキャロルが自身で操作している場合もあれば、砲台となっているオートスコアラーが自発的に攻撃している場合もあり、息の合った連携攻撃を前にグレムリンもやや押され気味であった。
「よっ! く、はっ!」
だがグレムリンも決して負けてはいない。手にした槍を巧みに操り、更にはファントムとしての能力だろう超高速移動を用いてキャロルの砲撃を全て回避し時には弾いている。そして隙あらばその心臓を頂こうとするかのように刺突の構えを取るのだが、それはサンジェルマンにより妨害されていた。
「いただきぃッ♪」
「させないッ!」
「おっと!」
拳銃型のスペルキャスターを変形させた剣を用いての斬撃が、グレムリンの刺突を寸でのところで止めさせた。ならばとグレムリンは狙いをサンジェルマンの方に向け槍を突き立てようとするが、そうすると今度はキャロルがグレムリンの行動を妨害すべく四方八方からの砲撃をお見舞いした。
「俺を忘れるなッ!」
「チィッ!」
サンジェルマンを巻き込まないようにと威力を調整した結果、グレムリンに対しても有効打とはならなかった。ギリギリ攻撃範囲外に逃げられ体勢を立て直されてしまった事にキャロルが悔しそうに歯噛みしていると、彼女に助けられたサンジェルマンはこんな状況であるにも拘らず口元に薄く笑みを浮かべていた。
「まさか、こんな風にあなたと肩を並べる事があるなんてね」
「あ?」
「昔会った時のあなたとは大違いだわ」
キャロルとサンジェルマンは、共に裏社会で生きる錬金術師として一応の面識がある。尤もその時のキャロルはチフォージュ・シャトー建設の為に結社の力を利用しようとしており、またサンジェルマンの方もアルカノイズの技術を手に入れようとしたが故の互いに利用し合う関係であり、その関係も長くは続かずキャロルは直ぐに独自の路線に再び戻ってしまった。
当時のキャロルを見ていたサンジェルマンからすれば、今の彼女はあの頃と全く違って見えていた。隣に立つハンス以外の全てを憎んでいた、あの頃に比べれば今の彼女はとても穏やかだ。
その事を指摘されたキャロルは、何だか気恥ずかしくなり思わず顔を背けてしまった。
「い、今はどうでもいいだろそんな事はッ! それより、今は……」
「えぇ、そうね。今はあの男を……!」
キャロルとサンジェルマンは決して時間稼ぎをしているつもりは無い。功を焦る訳でもなく、純粋に自分達だけの力でグレムリンを倒してみせると気合を入れていた。
そう、彼女達は本気なのだ。最初からずっと本気でグレムリンと戦っている。にも拘らず、彼女達は”善戦”が精一杯で”圧倒”するまでには至れていないのである。嘗ては1人で颯人達全員と渡り合って見せたキャロルと、組織の幹部として幾度となく颯人達の前に立ち塞がり実力を見せつけてきたサンジェルマンの2人が揃ってだ。
戦っている最中、サンジェルマンはその秘密がグレムリンの持つ槍にあるという事に気付いた。
「キャロル、気付いてる? あの槍、何かが可笑しい」
「フンッ、だろうな。今まで双剣で戦ってきた奴がいきなり槍を使うんだ。そりゃ何かあるだろうさ」
問題はその何か、が分からない事だ。違和感の様なものは感じるのだが、その正体が分からずモヤモヤする。その気持ちの悪さを振り払って2人が再びグレムリンに攻撃を仕掛けようとすると、出し抜けにグレムリンに無数の隼が襲い掛かった。
〈セイバーストライク!〉
「うわっ! くっ、おおっ!」
「あれはッ!」
「ハンスかッ!」
乱入してきたのはファルコマントを身に着けて飛んできたハンスであった。飛行能力を得られるファルコマントを身に着け、高速で移動する事でいち早くキャロルに合流を果たしたのである。
「見つけたぜ、グレムリンッ!」
「ん?」
「キャロルに手を出そうとした、テメェは絶対許さねえッ!」
〈ハイパー! GO!ハイッハイッハイッ ハイパー!〉
グレムリンを見つけたハンスは、ビーストハイパーになると片手に拳銃、片手に剣を持った状態で戦闘に突入する。至近距離で剣を振るいながらほぼゼロ距離での射撃を行うハンスの激しい攻撃を前に、槍を武器としている今のグレムリンは苦戦を強いられるかに思われた。
しかし…………
「おらっ! このっ!」
「おっと! ははっ!」
ハンスの嵐の様な攻撃を、グレムリンは巧みに全て捌き応戦してみせていた。至近距離に近付かれて槍本来の攻撃の威力が出せないなどと言う事実知った事かと言わんばかりに、グレムリンは槍を手足の様に扱いハンスの攻撃を捌き防いで、足を払い転倒させてしまった。
「うぉっ!?」
「ハンスッ!?」
「マズいッ!」
転倒したハンスにグレムリンは追い打ちと槍を突き立てようと構えた。そうはさせてなるものかと、キャロルとサンジェルマンが援護の為攻撃しようとした。
だがそれよりも早く、現場に到着した他の仲間達が次々とグレムリンに向け攻撃を放った。
「見~つけたぁッ!」
「そこですッ!」
カリオストロとアリスが錬金術で砲撃を放つと、それに遅れる形でマリアとガルドが砲撃を放った。
「ガルド、ハンスがッ!」
「威力を押さえて撃つぞッ!」
「了解ッ!」
HORIZON†CANNON
「ハンスさんは私がッ!」
カリオストロとアリス、マリアとガルドの砲撃がグレムリンに襲い掛かる中、ハンスはセレナのビームダガーが作り出した障壁で守られ、同時に彼の体に巻き付いた光の鎖鞭が引っ張ってその場を退避させた。これで彼を巻き込む心配が無くなったと、キャロルはグレムリンに向けて全力の攻撃をお見舞いした。
「感謝するぞセレナッ! くたばれ、グレムリンッ!」
キャロルに操作されて、4人の砲撃の中心地点を囲む様に4つの宝石が配置されると全力で様々な属性の砲撃がその地点に向け放たれる。4つの属性が一点に集中した事でその威力は相乗効果で更に跳ね上がり、何者をも生存を許さぬ強烈な破壊力を発揮してみせた。
現時点で自身が放てる最大威力の攻撃を叩き込んだ事で、キャロルは自分達の勝利を確信していた。計算上あの威力は例えファントムであっても耐えられないレベルである筈だからだ。
「ふぅ、ふぅ……フフッ、どうだ、ざまみ……ッ!?」
しかしその予想は大きく外れた。何と爆心地である筈のその場所に居たのは、ほぼ無傷の状態で佇むグレムリンだったからである。グレムリンは恐らく集中攻撃を受けた事で舞い散ってこびり付いたのだろう埃を手で払うと、ファントムであるが故に表情が分からない顔で尚分かってしまえるような笑みを浮かべた。
「フフッ、ハハハッ! 良いね良いね♪ やっぱり期待以上の出来栄えだよ、うん!」
「貴様……その槍は一体何だ?」
やはりあの槍はただの槍ではない。それを改めて実感し、キャロルが警戒しながら問い掛けるがそれより先に驚きの声を上げる者が居た。
未来と入れ替わっているシェム・ハである。彼女はやや遅れる形で追いつき、そして砂埃が晴れてグレムリンファントムの姿を目にすると最初に怪訝な、続いて驚愕の表情を浮かべて息を飲んだ。
「あれは…………ッ!? あれは、まさか……!?」
(シェム・ハさん、何か知ってるんですか?)
一心同体であるが故にシェム・ハの驚愕具合が分かる未来は、如何に今のシェム・ハが衝撃を受けているかを理解できてしまった。だがその驚愕の理由が分からず困惑していると、あちらもシェム・ハの存在に気付いたのかそちらに視線を向けると声を掛けてきた。
「ん? あぁ……久し振りですねぇ、シェム・ハ様ぁ?」
これ見よがしにわざとらしい、ねっとりとした声色でグレムリンがシェム・ハに話し掛けてくる。その視線も相まって全身を弄られるような感覚に表に出ているシェム・ハだけでなく、内面に引っ込んでいる未来すら怖気を感じて身震いする中、グレムリンが口にした言葉にサンジェルマンが首を傾げた。
「久し振り? シェム・ハ? あなたグレムリンと何処で……?」
時系列がどう考えてもおかしいのだ。シェム・ハはつい最近までずっと人々の言語の中に封印されていた筈である。そしてシェム・ハとしての意識が目覚めて以降の話であれば、久し振りと言うのは些か違和感がある。
可能性があるとすれば…………
「……おい、まさか?」
「それは……!?」
だがそれは本来あり得ない事で、その可能性に思い至った瞬間輝彦とアリスが言葉を失う。信じられない、信じ難い……しかしそれしか考えられない。落ち着きを取り戻したキャロルもその可能性に思い至り、思わず信じられないと言った顔で唇を震わせた。
「グレムリン……貴様は……!?」
そう…………グレムリンがシェム・ハと同じ時間に存在したという事実。錬金術師を始めとした頭の回転が速い者達がその結論に至ったのを見て、グレムリンは肩を震わせて高笑いし始めた。
「あっはははははははははははははははははははははっ!! そうだよぉ~。僕はね、先史文明期に存在してたんだよ。シェム・ハ様に作られた……失敗作としてねッ!!」
その言葉と同時に、一瞬でグレムリンはファウストローブを纏ったシェム・ハに接近し刺突を放とうとした。だがその動きを読んでいた輝彦の妨害に遭い、槍は放たれる直前で受け止められてしまう。
「ぐっ!? く……おいシェム・ハ、どういう事だッ!」
グレムリンの刺突を受け止めながら輝彦がシェム・ハに問い掛ける。何しろ相手はファントムだ。なのに先史文明期に存在したなどおかしい。あの時代、存在したのはアヌンナキであり人間は魔法など使えなかった筈なのである。魔法が使えないのにファントムが居るとはどういう事なのか?
「……まだ我が存在した時、我は改造執刀医として活躍していた」
「その頃、我は新たな生命を生み出そうと実験を繰り返した。エンキに……他のアヌンナキに戦いを仕掛ける際の尖兵とする為に」
「だが当時作り出したモノはどれも失敗ばかり。結局は我が自身で戦いを仕掛けなければならず、その結果エンキにも敗北を喫したが」
つまりグレムリンはその当時に生み出された失敗作の内の一つだという。一体どれだけの実験を繰り返し、どれだけの実験体を生み出したのかと問えば、それは流石にシェム・ハ自身も覚えていないのだとか。
これにはガルド達も呻き声を上げずにはいられなかった。
「シェム・ハ、お前……何て傍迷惑な事を」
「後で説教が必要かしらね」
「うぐぅ……」
改心した今になって、自分が如何にとんでもない事をしでかしたのかを理解したシェム・ハは反論も出来ず唸るしか出来ない。
ともかくグレムリンが嘗てシェム・ハによって生み出された失敗作だという事は分かった。そしてその際、勝手に生み出されて一方的に破棄される事となった事への恨みを抱いている事も理解できた。だが分からないのは、一体どうやって現代まで存在し続けたのかと言う事であった。
「だがそうであるなら、奴は今までどうやって生きてきたんだ? ファントムってのはそんなに長寿なのか?」
「いえ、幾らファントムでもそんな5000年も生き続ける事など出来ません。それこそ封印されて時間を止められたりしない限りは……」
その疑問に答えを導き出したのは、通信でその内容を聞いていた了子であった。
『あ、そうか! リインカーネーションッ!』
『えっ!?』
『どういう事だ了子君?』
『そいつ、グレムリンは自分と言う存在を魔力の中に紛れ込ませてこの星のレイラインの中を漂って何千年も存在を保ち続けてきたのよッ!』
それは嘗て、フィーネの器となった了子だから思い至る事が出来た結論である。フィーネはアウフヴァッヘン波形に触れる事で子孫がフィーネとして覚醒出来る。そしてシェム・ハもまた、自身の情報を言葉の中に紛れ込ませ断片となる事で先史文明期から見て遠い未来である現代に蘇る事が出来た。グレムリンもそれと同じ事を行ったのだ。
「……奴はヒトの中に漂う生命とは異なる力、魔力と言うものを引き出して戦う尖兵として改造した存在だった。だが奴は我の言う事を聞かない危険な存在だったが故、処分する事を決めたのだが……」
「そうだよ~? でもそんな簡単に殺されるのは面白くなかったからさ、こっそり覗き見たシェム・ハ様の研究資料にあったリインカーネーションを僕なりに真似したんだ。何しろ魔力の源である人間の想いは幾らでも存在したからね。何時か絶対蘇って力を付けてやろうって、長い長~い時間を待ち続けたんだよ」
先史文明期にシェム・ハに生み出されたグレムリンは、彼女が自分を始末しようとしている事に気付くがその時の力は彼女に対抗できるほどではなかったのだ。故に、グレムリンは待った。人間が魔力を操り戦う力と変えられる時代が来るのを。
錬金術は良い線をいっていたが、しかし錬金術は魔力の行使の際に生命力の消耗などが行われる。これでは不十分だとグレムリンはレイラインを漂い待ち続け、そして遂に魔法使いの誕生に歓喜した。これで自分は力を発揮できる。しかもお誂え向きに、魔力の制御を失った魔法使いは自分と同じ怪物となる。
最初に魔法使いが誕生してから更に数百年、レイラインの中を漂っていたグレムリンは、明弘が魔法使いを一定数集めて纏まった戦力となっているのを見付けた。この時、グレムリンの計画は動き出したのである。
「そうして僕は復活したんだ。手頃な魔法の才能がある人間を器にしてね」
長い長い時の中を漂い、現代に復活したグレムリン。満を持してシェム・ハの前に再び姿を現した彼は、手にした槍の穂先を彼女に向け静かに告げた。
「見せてあげるよ、シェム・ハ様。お前が失敗作だと吐き捨てた、僕と言う存在を……!!」
と言う訳で第292話でした。
グレムリン、実は先史文明期にシェム・ハによって作られた怪物の失敗作でした。当時は言う事聞かないしあまり強くないしで使えないって事でシェム・ハに廃棄処分させられそうになってましたが、そうはさせじと人間の想いの流れであるレイラインの中に紛れ込む事でリインカーネーションを行って生き永らえたのが本作のグレムリンでした。原作のグレムリンも人間でありながらファントム、みたいな感じのサイコな化け物でしたが、本作のグレムリンもそれに負けないくらい化け物やってます。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。