魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
「行くよッ!!」
己がどの様な存在だったのかを明かしたグレムリンファントムは、そのまま手にした赤黒い槍を構えると未来の姿を借りたシェム・ハに向け突撃した。素早い接近から放たれる刺突は、例えファウストローブであっても防ぎきる事は難しく彼女の心臓を一気に刺し貫く事も可能であった。
「くっ!?」
咄嗟に後ろに下がりながら無数の鏡から光線を放つシェム・ハであったが、グレムリンの動きは予測が難しく網の目の様に光線を張り巡らせても動きを止める事は出来なかった。一気にシェム・ハの懐に潜り込み、一突きで未来ごとシェム・ハを葬ろうとするグレムリン。積年の恨みを遂に晴らすと言わんばかりの一撃は、しかしその直前に割って入ったマリアとセレナのアガートラームによって受け止められた。
「これ以上はやらせないッ!」
「あなたは、ここで倒しますッ!」
マリアの短剣とセレナのビームダガーが交錯してグレムリンの槍を受け止める。その隙に未来はシェム・ハと入れ替わり、周囲に浮遊させた鏡に光線を反射させてグレムリンを光線の檻の中に閉じ込めた。
「動きが素早くても、これならッ!」
乱反射を繰り返す光線は、グレムリンの素早い動きに負けず劣らず次の動きを読む事が難しい。グレムリンは持ち前の素早さと反射神経で何とか対応しているが、完全にランダムは射線を描く未来の攻撃を前に防戦に回らざるを得なくなっていた。
「くっ、猪口才な……」
悪態をつきながらも何とか対応してみせるグレムリン。並大抵の相手であればこの光線の檻に囚われた時点で勝負は決していてもおかしくなかったかもしれない。
そんなグレムリンに対し、追い打ちをかける様に周囲の錬金術師達が一斉に攻撃をし始めた。
「今よッ! 攻撃を集中させてッ!」
「あまり強すぎる攻撃だと、さっきみたいに爆炎の中に逃れられる危険があるワケダ」
「だったら、小さな攻撃でチマチマアイツの防御を削ってやるだけよッ!」
「喰らえッ!」
ただでさえ未来の攻撃により逃げ場も失いダメージを受けないようにするので精一杯と言った様子のグレムリンだったが、この上更に錬金術師としては特上と言える者達からの集中砲火を前に苛立ったように視線を彷徨わせた。しかもそれだけではなく、サンジェルマン達の攻撃に便乗する様にガルドも砲撃をお見舞いし、最早グレムリンから逃げ場は完全に失われ誰もが奴の消し飛ぶ姿を思い浮かべた。
だが次の瞬間、信じられない事が起こった。何とグレムリンが振るった槍が次々と放たれた攻撃を正確に打ち消したのである。まるで吸い寄せられるように槍が砲撃に命中し、薙ぎ払いを喰らった砲撃は全て例外なく掻き消える様に消滅してしまった。それも一発のミスも無くだ。
あまりの光景に思わず誰もが言葉を失った。普通これだけの攻撃を前に、無傷で切り抜けるなどあり得ない。まぐれかと思いハンスがミラージュマグナムで銃撃するが、それも全てグレムリンが持つ槍に受け止められ本人には一切のダメージが入らなかった。
「何あれ、どういう事ッ!?」
思わずカリオストロが叫び声の様な声を漏らす。それはこの場に居る全員の言葉でもあった。グレムリンの元々の武器は両手に持つ双剣である筈だった。形は違えど、ワイズマンを騙っていた時も使う武器は同じだった。
それとも実は今までが所謂舐めプしていた状態であり、あれが本来の彼の戦闘スタイルなのかと輝彦とアリスは疑問を抱く。
だがそんな事お構いなしと言わんばかりに、キャロルは遠距離からの攻撃が通用しないならと接近戦を挑んだ。
「攻撃を撃ち落とすのが得意と言うのなら、これならどうだッ!」
「っ!? キャロル、待ちなさいッ!」
キャロルは徐に緑の宝石……ファラが変形した宝石に手を翳すと、そこから一振りの剣を取り出した。オートスコアラー・ファラが得意としていた得物である剣殺しの剣、ソードブレイカーだ。ダウルダブラを用いていた際、キャロルは砲撃だけでなく接近戦でも颯人達を寄せ付けなかった。なので剣を使った戦いでも十分な動きが発揮できる。
ソードブレイカーが特性を発揮できるのは、飽く迄相手が刀剣の類である場合のみ。槍は流石に効果範囲外なのかキャロルの一撃を受け止めてもグレムリンの持つ槍に変化は起こらなかった。が、接近してしまえばこっちのものと彼女はそのまま何度も刃を彼にぶつけた。
「うぉぉぉぉっ!!」
「おっと! ふふん、やるじゃない?」
「キャロルばかりにかまけてんじゃねえッ!」
「おっ!」
時折周囲を浮遊する宝石からの攻撃も交えつつの斬撃を槍で受け流すグレムリン。そこにハンスまでもが参戦し、2人は息の合った連続攻撃でグレムリンを追い詰めていった。互いに攻撃の隙を埋める様な一撃を放ち、グレムリンに反撃の隙を与えない。
だが……そこまでだった。グレムリンは2人に対して反撃は出来なかったが、同時に2人はグレムリンに対して有効打を与える事が出来ずにいたのだ。共に斬撃だけでなく射撃や砲撃も交え、休む間もない攻撃を繰り返しているのにである。
その光景に違和感を覚えた輝彦は、自身もハーメルケインを抜くとアリスにグレムリンの行動の観察を頼んで自身はキャロル達に続き攻撃に加わった。
「アリス、奴の動きを観察してくれ。何かが可笑しい」
「はい」
「私もッ!」
輝彦がグレムリンに向け飛び掛かっていくと、サンジェルマンもそれに続きスペルキャスターを剣に変形させて攻撃に参加。流石に4人を同時に相手にするのは荷が重いと判断したのか、グレムリンは量産型のカーバンクルファントムを呼び寄せ2人の相手をさせた。
「面倒だなぁ……と言う訳で、後は頼んだよッ!」
「くっ! コイツ等……!」
「邪魔よッ!」
新たに呼び寄せられたカーバンクルファントムは、彼ら魔法使いや錬金術師にとってある意味天敵と言える存在であった。何しろ奴は魔力を吸収してしまう。迂闊に魔力の籠った攻撃をしても、その魔力を吸収されて逆に反撃されてしまう。攻め手に苦労する2人を見兼ねてか、翼とマリアが2人に変わってカーバンクルファントムの相手を引き受けた。
「こいつの相手は私達がッ!」
「あなた達はグレムリンを何とかしてッ!」
「助かる!」
「分かったわッ!」
翼とマリアがそれぞれ別の方向にカーバンクルファントムを引き離した。すると残りのメンバーもそれぞれ各個の判断で別々の目標に向け攻撃を開始した。
「あーしらはサンジェルマンの援護をするわよッ!」
「言われずともなワケダッ!」
カリオストロとプレラーティはサンジェルマンに続きグレムリンへの攻撃に加わった。一方ガルドとセレナ、未来の3人は翼達が相手をしているカーバンクルファントムを一刻も早く倒すべくそちらへと向かっていった。
「俺達はマリア達の援護に入るぞッ!」
「うんっ!」
「はいっ!」
この状況で戦力を分散させられるのはマズい。今は一刻も早く、このファントム達を始末してグレムリン攻撃に回るのが最善手だとガルド達はカーバンクルファントムに挑んだ。
その光景を見て、グレムリンは一旦キャロル達から距離を取った。そして体勢を立て直すと、手にした槍の穂先を一撫でして笑みを零した。
「もう十分楽しんだし、そろそろ見せてあげようかな? この槍……ロンギヌスの本当の力をさ」
「ほざけっ!」
「甘く見るなッ!」
余裕を感じさせるグレムリンの姿に、それを挑発と受け取ったカリオストロとプレラーティがそれぞれ拳とけん玉を振り上げ飛び掛かった。もちろんこれは本命の攻撃ではなく、態と見えやすい攻撃を放つ事でグレムリンの視線を誘導する為のフェイクである。とは言え、攻撃している2人は自分の攻撃でグレムリンを仕留める気満々と言った様子であったが。
カリオストロの拳が振り下ろされ、プレラーティが放ったけん玉のハンマーがグレムリンに襲い掛かろうとした。その瞬間、グレムリンは優雅な仕草で槍を振るった。傍から見ていると思わず欠伸が出そうなほどのゆったりした動きで、2人は余裕をもってそれを避けて攻撃を叩き込もうとする。
だが次の瞬間…………
「えっ!?」
「なっ!?」
何と気付けば2人の攻撃はグレムリンの槍によって弾かれていたのだ。瞬きの一瞬の内に、カリオストロのガントレットは砕けプレラーティのハンマーは切り裂かれていた。そして2人はその攻撃の余波で体勢を崩し、そこをグレムリンは容赦なく狙い刺突を放った。
「そこっ!」
「うぐっ!?」
「ごふっ!?」
「カリオストロッ!? プレラーティッ!?」
2人は立て続けに腹部を刺し貫かれ、その際の衝撃で大きく後ろに吹き飛ばされた。2人が吹き飛ばされた先にはアリスが待機しており、何が起こったのかも分からぬ間に自分の傍に叩き付けられるように倒れた2人に慌てて近付いていった。
「カリオストロ様、プレラーティ様ッ!? しっかりしてくださいッ!?」
「う、うぐ……な、何、が……」
「がはっ!? がはっ!? な、何故……奴の攻撃、確かに、避けて……」
「喋らないでください。今治療を……」
この場で本格的な治療は難しいが、錬金術による治療を行えば少なくとも一命をとりとめる事は出来る。そう思い錬金術を行使しようとしたアリスだったが、そこにサンジェルマンと輝彦の声が重なった。
「アリスッ!?」
「逃げろッ!?」
「えっ?」
ふと顔を上げれば、何時の間にそこに居たのかグレムリンが狩りを構えて接近していた。穂先が自分を狙っている光景に息を飲みながらも、咄嗟に相手の行動を阻害しようとスペルキャスターであるハーメルケインを構え旋律を奏でる。先程何をしたのかは分からないが、魔力を用いているのであればこれで阻害出来る筈であった。
だが輝彦は直感であれが魔力による攻撃ではない事を見抜くと、グレムリンに接近し槍を持つ腕そのものを押さえた。絡繰りは分からないが、槍を振るわせる事さえさせなければ攻撃は防げると考えたのだ。
しかし…………
「させるかっ!」
「あ゛……」
「……何ッ!?」
輝彦が体を張ってグレムリンを押さえ付けた直後、背後からアリスの苦悶の声が響いた。もしやと思い後ろを見ると、そこにはカリオストロ達に続いて血の海に沈むアリスの姿があった。確かに槍を持つグレムリンの腕を押さえ付けている筈なのに、何故アリスが倒れているのかが分からず輝彦も困惑を隠せない。
「な、何が……」
「輝彦ッ!」
「はっ!?」
流石に唖然とせずにはいられなかった輝彦だったが、サンジェルマンの声に我に返ると咄嗟にグレムリンを蹴り飛ばした。そして距離を離すと、それ以上の行動は許さぬとサンジェルマンが銃撃でグレムリンに距離を取らせその間に彼は倒れた3人の容態を確認した。
「アリス、しっかりしろッ! 大丈夫か?」
「う、ぐ……は、はい……何とか、致命傷だけは避けられたようです」
「これ以上は無理だ。お前は、この2人と共に撤退しろ」
致命傷は何とか避けられた様子に輝彦は安堵し、そのまま彼女にカリオストロ達と共に後退するよう伝えた。正直このままここに居られても足手纏いになる。グレムリンの攻撃の絡繰りが分からない以上、彼女達を守りながらの戦闘は不可能に近かった。
それはアリス自身も理解しているらしく、何の役にも立てなかった事を悔しがりながらも足手纏いになる位ならと大人しく後退の指示に従った。
「すみ、ません……」
「ざけんじゃ、ないわよ……! あーしらは、まだ……」
「死にそうな顔で、ふざけた事を抜かすものじゃないワケダ。サンジェルマンの足を、引っ張るつもりか?」
「くっ……」
ごねるカリオストロであったが、プレラーティに諭されて仕方なく指示に従い、アリスが使用したテレポートジェムにより本部へと撤退していった。
「本部、今アリスがカリオストロとプレラーティと共に帰還した。重症だ、直ぐに手当てを」
『こちら本部、今医療班に3人を引き渡しました』
『すぐに緊急治療を行うとの事です』
「頼む」
輝彦がアリス達を本部に託している間に、グレムリンには再びキャロルとハンスが挑みかかっていた。その際キャロルは、ハンスにとにかくグレムリンに槍を使わせるなと念を押して攻撃していた。
「良いかハンスッ! 奴に一瞬でも槍を構えさせるなッ!」
「分かっちゃいるけど、何で?」
「恐らくあの槍、神の力を使っているッ!」
「何ッ!?」
先程の光景はキャロルもしっかり目撃していた。カリオストロとプレラーティの攻撃を弾く瞬間、それと輝彦がグレムリンの行動を阻害しようとした瞬間。どちらも本来であれば攻撃が不発に終わる筈のタイミングで、何故かどちらもグレムリンの狙い通りの結果に繋がった。
その際、キャロルの目はしっかりと捉えていたのだ。グレムリンが槍を構えた瞬間、無数の陰影の様なものがグレムリンから離れて行動している事を。
「要はダメージ無効化の逆だ。あの槍は、持ち手のイメージした結果を強引に手繰り寄せている。無数の並行世界から、『行動が成功した結果』と言う事象をこの世界に適用しているんだろう」
本来、神の力では無数の並行世界の自分にダメージを押し付けこの世界の自分は無傷でいられる。嘗てのサンジェルマン達はこの特性を利用して、不死身の怪物ヨナルデパズトーリを生み出した。グレムリンはそれをダメージの無効化ではなく確実な攻撃手段に用いたのだ。
謂わば絶対不可避の確定ダメージ。一度攻撃を放つ瞬間をイメージさせてしまったら、途中でどんな妨害をしても意味がない。これまでキャロル達が無事でいられたのは、グレムリンがその能力を使ってこなかったからである。
勿論、そんな事をいきなり言われても信じることは難しい。サンジェルマンですら、キャロルの推測を素直に認める事は出来ずにいた。
「まさか、そんな事が……」
『本当です、キャロルちゃんの言ってる事はッ!』
「その声……立花 響ッ!」
それを裏付けるのが、今この場に居ない響であった。彼女はあの後も萌音から事情を聞き出し、グレムリンが持つ槍の詳細を知ったのである。
『萌音ちゃんが言ってました。その槍は、賢者の石の欠片とユグドラシルの一部から作られた槍なんですッ! 神の力を、奇跡の力で強引に引き出す。その槍の名は、ロンギヌスッ!』
ロンギヌス……それはガングニールの別名でもある。そしてガングニールとは、神話の世界では主神オーディンの武器でもあった。必殺必中の一撃を放つ事の出来る、史上最強の槍。
それが今、世界を滅ぼしかねない邪悪な者の手に渡っている事に、サンジェルマンは危機感を抱き鳥肌が立つのを感じるのであった。
と言う訳で第293話でした。
グレムリンの持つ槍の名が遂に判明。その名はロンギヌス。実はAXZ終盤でガングニールの哲学兵装としての詳細が明かされた際に、ロンギヌスと言う名も表示されてるんですよね。なので同じ聖遺物を使う響は、ロンギヌスをガングニールを見間違える様な描写がありました。因みに神話ではグングニルの槍はユグドラシルの木の枝から作られたそうなので、そこら辺も取り込んでの演出です。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。