魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第294話:暴君の快進撃

 グレムリンの使う槍の正体が判明し、その能力にその場に居た多くの者が強い警戒心を抱いた。どんな攻撃であれ、放とうとすればその時点で攻撃が成功しているなどふざけているにも程がある。

 

 そんな槍に対し、現状唯一の最適解な動きをみせたのはキャロルとハンスであった。

 

「絶対必中の槍がどうしたッ!」

「んなもん、攻撃させなけりゃいいだけの話だろうがッ!」

 

 ハンスがミラージュマグナムを放ちながら接近しダイスサーベルで斬りかかる。キャロルはそれを錬金術で援護し、兎に角グレムリンに攻撃に移らせず倒す事を考えた。あわよくばあの槍を奪い取る事が出来ればそれでよし。

 

 だが…………

 

「甘いなぁ……」

「な、に……!?」

 

 何と、ハンスが放った射撃は全て新たに現れたカーバンクルファントムに受け止められてしまった。ミラージュマグナムの銃弾も、そしてキャロルの錬金術も、どちらも魔力を練り上げて作り上げた存在。それはカーバンクルファントムにとってはただのおやつでしかなく、簡単に受け止められて吸収されてしまった。

 

 完全に出鼻を挫かれた。次は奴の攻撃が来ると身構えるのだが、不思議な事にグレムリンは反撃に転じる事は無く自分の盾となったカーバンクルファントムの肩に手を置いた。

 

「あ、そうそう! そう言えばさ、このファントムってモデルが居るんだけど……何か分かるかな?」

「は?」

「モデル?」

 

 突然訳の分からない事を口走るグレムリンに、翼とマリアが顔を見合わせ首を傾げる。他の者達も大なり小なり困惑したり怪訝な顔をしているのを見て、グレムリンは肩を震わせると視線を輝彦の方に向けて口を開いた。

 

「ベースと言った方が確実かな? このファントムはね、先代ワイズマンをファントムにしたのがモデルになってるんだよ♪」

「ッ!? 貴、様…………!」

 

 その言葉に輝彦は一気に頭に血が上るのを感じた。つまりグレムリンは輝彦の父・明弘を騙して命を奪っただけでなく、ファントムにして今も尚利用し続けているという事なのだ。嘗ての名声を穢し、それだけに飽き足らず骨の髄までしゃぶるが如く利用し続ける。ある意味で父の亡骸とも言えるファントムを尚弄ぶかのようなグレムリンの行いに、黙っていられる訳もなく輝彦は彼にしては珍しく無策で突っ込んでしまった。

 

「おぉぉぉぉぉっ!!」

「ッ! 輝彦、待ってッ!?」

 

 声を上げながら突撃した輝彦をサンジェルマンが引き留めようとするも、それは間に合わず彼の持つハーメルケインがグレムリンに振り下ろされる。だがその考え無しの一撃は容易く弾かれ、更にカーバンクルファントムの追撃により逆に吹き飛ばされてしまった。

 

「フフンッ♪」

「がはっ!?」

「テルヒコッ!?」

 

 吹き飛ばされた輝彦をガルドが助け起こす。だが輝彦は直ぐにその手を振り払うと、再びグレムリンに向け突撃しようとした。

 それを黙って見過ごすサンジェルマンではなく、今度は引き留めるのに間に合った彼女は半ば抱き着くようにして彼を宥めようとした。

 

「落ち着いて輝彦ッ! あなたの気持ちは分からなくはない。でも! 今ここであなたが冷静さを失っては敵の思う壺よッ!」

「ぐ、くぅ……! だ、だが、しかし……」

 

 まだサンジェルマンの言葉が届くだけの冷静さを残していた輝彦は、ギリギリのところで踏み止まる。そんな彼を煽る様に、グレムリンは次の行動を起こした。

 

「ん~、盾としては優秀だけど、毎回守ってもらうのもあれだな~。ってことで、こうしちゃおう!」

 

 そう言うとグレムリンは、何を思ったのかカーバンクルファントムの胸を背後から拳で貫いた。一体何をするつもりなのかと見ていると、カーバンクルファントムを貫いた手に賢者の石の欠片が握られている事にセレナが気付いた。

 

「あっ!? ガルド君、あれッ! グレムリンの手に、何かあるッ!」

「あれは…………!? 賢者の石の欠片かッ!」

「何をするつもりなの?」

 

 ガルド達が見ている前で、グレムリンの手の中にある賢者の石の欠片が光を放つ。するとカーバンクルファントムの体が同じように光ったかと思うと、次の瞬間光の粒子となって賢者の石の欠片に吸い込まれていった。そしてそれを、グレムリンは自身の体に埋め込む様に吸収してしまったのだ。

 

 その行動を装者のカメラを通して見ていたエルフナインが、グレムリンの意図に気付き慌てた声を上げる。

 

『い、いけませんッ!? 皆さん、グレムリンを止めてくださいッ!』

「どういう事、エルフナイン?」

『恐らくグレムリンは、カーバンクルファントムの能力を取り込もうとしてるんですッ! つまり、相手の魔力を吸収する力をッ!』

 

 それはつまり魔法に対して絶対的な防御を得るに等しい能力を得ようとしているという事だ。今この場に居る戦力の半分は攻撃に魔力を用いるので、そんな能力を手に入れられたら一気に敵に有利になる。そうはさせじとサンジェルマンとキャロルが攻撃するが、彼女らの判断は些か遅くグレムリンはカーバンクルファントムとの融合を終えてしまった。

 

 緑の外皮だったグレムリンファントムは、胸や腕に白い装甲を見に纏う。目や口と言う存在が分かり辛かった顔には、紫色の複眼と口と分かるクラッシャーが出来た。そして腰からは、まるでコートの裾の様な布が伸び風も無いのに靡いている。

 

 新たな姿となったグレムリンファントムは、自身に向けて放たれたキャロルとサンジェルマンの攻撃を片手を上げて受け止めると、それを構成している魔力を吸収し自身の糧としてしまった。

 

「なっ!?」

「くっ!」

 

 ただの錬金術では今の奴にはダメージを与えられない。そう察したキャロルは一早くソードブレイカーによる攻撃に切り替えたが、次の瞬間グレムリンがロンギヌスを構えると直後に彼女の右足が穿たれ激痛に崩れ落ちてしまった。

 

「あああぁぁぁぁぁぁっ!?」

「キャロルッ!? テメェ……!」

 

 キャロルを傷付けられた事に激昂したハンスは、ミラージュマグナムのスロットに口を開いたハイパーリングを押し付けシューティングミラージュを発動させた。

 

「魔力の吸収はお前だけの専売特許じゃねえ! 俺がお前の魔力を喰らい尽してやるッ!」

〈ハーイパー! マグナムストライク!〉

 

 銃口から魔力で形作られたキマイラが飛び出し、グレムリンに襲い掛かる。相手の魔力を食い尽くす凶暴な獣を思わせる攻撃に対し、グレムリンは全身に魔力を漲らせそれを迎え撃った。

 

「アハハッ!」

 

 ぶつかり合うグレムリンとシューティングミラージュ。互いに相手の魔力を喰らい合うその競り合いは、衝撃を生み周囲の者を思わず仰け反らせるほどであった。

 

「うぉっ!?」

「くぅっ!」

「ど、どうなった?」

 

 目を開ける事も難しい程の光と衝撃の中、翼は何とかグレムリンの姿を捉える事に成功する。見るとグレムリンは片手でシューティングミラージュを受け止めつつ、もう片方の手でロンギヌスを構えているらしい。

 

 その光景に翼は違和感を感じた。今あの状態で槍を構えてどうするつもりなのか? 一瞬そう考え、そしてグレムリンの狙いに気付いた瞬間翼は慌ててハンスに警告を発した。

 

「ま、マズイ……!? 攻撃を中断しろハンスッ!」

「あぁ?」

「チッ!」

 

 翼はハンスに警告するが、グレムリンとの競り合いでよく聞こえないのか軽く首を傾げるだけであった。どの道警告しただけでは意味がないと察した翼がアマルガムを発動しイマーゴとなって大剣を振り下ろすが、それよりも早くにグレムリンの槍がハンスに向け投擲された。

 

 放たれた槍はまるで引き寄せられるようにハンスに向け飛んでいく。それに気付いたサンジェルマンが咄嗟に空中の槍を撃ち落とすのだが、この時点で攻撃が行われていた為それは意味がないどころかグレムリンが手放した槍を彼に返すだけに留まった。

 

 そして攻撃が放たれたという”始まり”が起こってしまったのであれば、それが齎す”結果”は既に確定している。

 

「ぐふっ!? あ、が……!?」

「ハンスッ!?」

 

 槍はグレムリンの手の中に戻ったが、ハンスが槍に腹を貫かれたという”結果”は残る。腹部に刺突された穴を開けられたハンスは、血が零れる腹を押さえその場に倒れ込み変身が解除されてしまった。倒れて血の海に沈むハンスに、同じく足を穿たれたキャロルは半分泣きながら寄り添い必死に声を掛ける。

 

「ハンス、ハンスッ!? しっかりしろ、ハンスッ!」

「が、は……ぐ、ぐぐ……」

 

 キャロルはともかく、腹を突かれ変身も解けてしまったハンスの状態は危険だ。サンジェルマンは咄嗟に2人をテレポートジェムで本部に送り手当をさせようとしたが、背後から聞こえた翼の悲鳴に思わずそちらを振り返ってしまった。

 

「あああぁぁぁぁぁっ!?」

「はっ!?」

「翼ッ!?」

 

 見るとグレムリンの意図に気付き、攻撃して中断させようとした翼が逆にロンギヌスにより袈裟懸けに体を切り裂かれてしまっていた。サンジェルマンが槍を弾いた事が結果として再びグレムリンに取らせる事に繋がり、それが原因となって翼までもが傷付いた。自分の行動が逆に仲間の足を引っ張ってしまったという事実に、サンジェルマンは束の間衝撃に思考が止まってしまった。

 

「ぁ……ぁ……!?」

 

 動きを止めテレポートジェムを落としてしまう。錬金術を発動させていなかった為、落とした小瓶は割れて中身が零れるだけに留まっていた。自責に顔を強張らせるサンジェルマンの姿を目敏く見つけたグレムリンは、次の獲物は彼女だと言わんばかりに槍を手に飛び掛かった。

 

「ハァァッ!」

「あっ!?」

 

 飛び掛かってくるグレムリンは既に槍を構えている。今からでは反撃しても間に合わないとサンジェルマンは次に自分が取るべき行動を迷った。その隙にグレムリンの槍は彼女に向け放たれ…………

 

「させんっ!」

「輝彦ッ!」

 

 ギリギリのところで間に割って入った輝彦により凶刃は受け止められた。ホッとするサンジェルマンだったが、この行動は今のグレムリンに対しては意味が無いと気付き次の瞬間訪れるだろう苦痛を考え顔を青褪めさせる。

 

 だが待てども待てども痛みは来ない。その事にサンジェルマンが困惑していると、輝彦は槍を受け止めながら怒りの声を上げた。

 

「貴様……今態と能力を使わなかったな?」

「あ、気付いた?」

「何のつもりだ?」

「偶には焦らすのも悪くないかなって」

 

 つまりは攻撃が来るかもしれないと思い、恐怖し強張った表情を見たいが為にグレムリンは敢えて能力を使わなかったのだ。その悪趣味な思考に反吐が出るのを堪えつつ、輝彦は受け止めた槍の柄を逆に掴んで押さえ付けた。

 

「だがこれは間違いだったな! これでお前はもう槍を使えない、能力もだ!」

 

 検証した訳ではないので確証は無いが、2人の人間がロンギヌスを手に取ればそれぞれ別の思考が流れ込む筈である。そうすれば二つの未来が競合し合い、結果として未来確定攻撃は不発に終わる筈だと輝彦は考えた。

 

 今なら安全にグレムリンを攻撃できる。そう悟ったマリアとガルドは、負傷した翼をセレナに託し2人でグレムリンに攻撃しようと槍と短剣を構えた。

 

「行くぞマリアッ!」

「えぇっ! はぁぁっ!」

 

 マリアも翼と同じくアマルガムを発動し、腕から伸びた竜の首が口に炎を溜めながら襲い掛かる。ガルドもまた魔力をエンチャントさせたガンランスで斬りかかり、グレムリンに確実な手傷を負わせようと攻撃を放った。

 

 槍を輝彦に押さえられている今、グレムリンが2人の攻撃に対処する為には槍を手放さなくてはならない。そう思っていたのだが、彼らは肝心な事を見落としていた。

 

 今のグレムリンは、魔力を吸収する事が出来るのだという事を。

 

「残念でした♪」

 

 徐にグレムリンは槍を掴む輝彦の手を逆に掴むと、そこから彼の魔力を吸収してしまった。

 

「うぐぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

「輝彦ッ!?」

 

 元々ワイズマンを偽っていたグレムリンとの戦いに一度敗れた輝彦は、その際に呪いを受けてしまい魔量の上限が大幅に削られてしまっていた。そんな彼が魔力を吸収されれば、あっと言う間に枯渇し変身も維持できなくなる。元の姿に戻り崩れ落ちる輝彦をグレムリンは乱暴に振り払い、サンジェルマン共々吹き飛ばすと視線を自分に飛び掛かって来るガルドとマリアの方に向けた。

 

「テルヒコッ!? くそぉぉっ!」

「はぁぁぁぁっ!」

 

 今更攻撃の中断など出来ない。このまま押し切るしかないと攻撃を続行する2人であったが、グレムリンが槍を振るうと確定した未来により2人は自分が放った攻撃ごと切り払われ逆に吹き飛ばされ壁に叩き付けられてしまった。

 

「あぁっ!?」

「ぐあっ!? ぐ、ぅぅ」

「ガルド君ッ!? 姉さんッ!?」

 

 イマーゴのアマルガムは攻撃に全てのパラメータを割り振っている為、必然的に防御力は紙装甲も同然であった。そんなマリアがグレムリンの攻撃に耐えられる筈もなく、攻撃と同時に魔力を吸収されたガルド共々元の姿に戻りその場に倒れて意識を失ってしまった。ただでさえ翼も負傷しているというのに、この上ガルドとマリアまで加わりセレナは慌ててどうすればいいかと視線を右往左往させてしまっていた。

 

 これで現状、他に無傷なのは未来だけとなる。グレムリンは次の獲物に彼女を定めると、まるで煽る様に肩に槍を担いで未来に近付いていった。

 

「あ……ぁぁ……!?」

(未来、しっかりしろッ! えぇい、こうなったら!)

 

 次々と仲間が倒れていく光景に、未来は完全に委縮してしまっていた。このままではマズイとシェム・ハが強引に表に出て、彼女と人格を入れ替わるとすかさず無数の丸鏡を周囲に展開し光線を放った。だがグレムリンの未来確定攻撃はその攻撃を全て弾き、遂に槍の射程内に未来の体を捉えてしまった。

 

「くっ!? 失敗作の分際で、痴れ者がッ!」

「その痴れ者に、今から殺されるんだよ」

 

 思わず悪態をつくシェム・ハに向けて、グレムリンはロンギヌスを構える。これで未来は確定し、次の瞬間には彼女の体は槍に貫かれて絶命する筈であった。

 

 しかし…………

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「ッ!?」

 

 突如壁をブチ破って響が乱入してくると、槍を構えたグレムリンに拳を叩きつけた。咄嗟にそれをロンギヌスで受け止めたグレムリンは、彼女の拳の特性を思い出し思わず呻き声を上げた。

 

「しまった、神殺し……!?」

 

 そう、響の拳は同じガングニールでも奏のそれとは異なり、神の力を無力化する力を秘めている。その拳を受け止めてしまった結果、発動した確定攻撃は粉砕されシェム・ハが宿った未来の体が貫かれるという結果も訪れる事は無かった。

 

 面白くない展開に忌々しそうに唸るグレムリンであったが、これだけでは終わらなかった。重い銃声が響いたかと思うと、脇腹を強烈な衝撃が襲い思わず吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐぅっ!?」

 

「へへっ、どうだい!」

 

 見ればそこには、漸く合流してきたクリスが透に守られながらもスナイパーライフルを構えている姿が見えた。確かに今のグレムリンは魔力に対しては高い防御力を持つが、反面装者のフォニックゲインを用いた攻撃に対しては意味がない。現状尤もグレムリンに対して有効なのは、装者達による攻撃なのである。

 

 そして、更に…………

 

「漸く会えたよ、明弘の仇に」

「悪いが、アイツは俺の獲物だからな」

 

「ッ! お前達……」

 

 不意に聞こえてきた声に振り返ると、そこに居たのはアダムと颯人の姿であった。どちらも帽子を目深に被りつつ、鍔の下から鋭い視線をグレムリンに向けていた。

 

 一時は装者や魔法使いを圧倒する力を見せつけたグレムリン。だが第二ラウンドはそう簡単には行かないと、颯人達の存在が物語っているのであった。




と言う訳で第294話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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