魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
遅れて合流してきた者達の中で、真っ先にグレムリンに挑みかかったのは愛する奏を攫われ、助ける事に対し躍起になっている颯人…………ではなかった。
「ハァァァァァァッ!!」
いの一番に攻撃を仕掛けたのは、クリスと共に合流した透であった。颯人は魔力の節約の為合流時点ではまだ変身していなかった。一方透は、合流すると同時に即座に戦闘に入れるようにと臨戦態勢でこの場に参上したのである。
両手に持ったカリヴァイオリンでグレムリンに斬りかかる透。対するグレムリンは勿論それを黙って見ている訳がなく、寧ろ返り討ちにすべくロンギヌスを構え飛び掛かってきた透を一突きで始末しその亡骸をクリスに見せ付けて絶望させてやろうとすら目論んだ。
だがそれは、横から殴り掛かってきた響の拳により防がれる。
「だぁぁっ!」
「くっ!? 神殺しッ!」
響の神殺しの拳はロンギヌスに対しても有効であり、槍その物を破壊する事は出来なくとも発動した確定攻撃をキャンセルさせる事は出来た。そして最大の障害である確定攻撃が来ないのであれば、恐れるものなの何も無い。透は両手に持った二刀をグレムリンに向け振り下ろし、回避はされても勢いを止める事無くそのまま攻撃を続け、怒涛の攻撃を前にグレムリンも防ぐ事しか出来なかった。
「よくもクリスを傷付けたなッ! 君だけは許さないッ!」
「チィッ!」
透にしては珍しく感情的な攻撃であったが、その分苛烈であり時にはグレムリンの防御を崩していた。
グレムリンに対して攻撃を行っているのは何も透だけではなかった。現状唯一神の力・確定攻撃に対抗できる神殺しの拳を持つ響は積極的にロンギヌスに狙いを定め殴り掛かり、防御の合間に透に刺突を放とうとするグレムリンの攻撃を妨害していた。
「はっ! やっ!」
「くぅっ!?」
「脇がお留守だぜッ!」
「ぐぅっ!?」
更にそれに加えて、スナイパーライフルを持つクリスの援護射撃まである。援護射撃と言ってはいるが、実質こちらが攻撃の本命であった。オープン回線の通信機から、彼らも大体の状況は聞いて理解していた。今のグレムリンが、カーバンクルファントムを吸収したことで魔力による攻撃が実質無意味である事もだ。なので透は攻撃をカリヴァイオリンによる物理攻撃に限定し、更に迂闊にグレムリンに触れられたりしないように絶えず動き回り続けていた。お陰でグレムリンの攻撃はどれも空振り、響の攻撃もあって透に対してロンギヌスによる攻撃は勿論、魔力の吸収による無力化も出来ていなかった。
そしてその隙をついてのクリスの狙撃。魔力を帯びないこの攻撃は今のグレムリンに対して有効であり、先程から一番ダメージを与える事が出来ていた。
怒涛の勢いで攻撃を繰り返す透達の姿に、颯人も思わず肩を竦めてしまう。
「うへぇ、すげな透の奴。クリスちゃんに何かあったのか?」
透の気迫に若干引いていた颯人だったが、彼と一緒にやってきたアダムは特に興味は無いらしかった。彼は彼でサンジェルマンの方に向かうと、キャロルとハンスの傍でへたり込んでいる彼女にテレポートジェムを手渡した。
「何をしているんだい、君は」
「き、局長……」
「戦えないならそこの2人やあっちで倒れてる連中をさっさと下がらせたまえよ、邪魔だから。知らないよ、巻き込まれても」
そう言うとアダムは被っていた帽子と上半身に羽織っていたボロボロのジャケットを脱ぎ捨てると、全身に力を籠める様に力んだ。
「はぁぁぁぁぁ…………フンッ!」
アダムの全身に一気に魔力が満ちる。すると彼の姿が変化した。下半身は毛皮のある獣の様な姿となり、頭には本来の姿を思わせる角の様なものが生える。だが上半身や顔の造形そのものは人間の姿と同じものであり、それは一言で言ってしまえばミノタウロスを思わせる様な姿となっていた。
「グレムリン……グレムリンッ!!」
そして黄金錬成の応用で自身を変異させたアダムは、硬い拳で透と響に押されているグレムリンに殴り掛かった。またしてもクリスの狙撃で動きを止めさせられていたグレムリンは、アダムの接近に気付くのが遅れて殴り飛ばされた。
「え? がはっ!?」
カーバンクルファントムを取り込んだ事で防御力を上げたグレムリンであったが、アダムの拳はその防御力を上回った。グレムリンはまるでトラック同士が正面衝突した時のような音を立てて殴り飛ばされ、壁に僅かにめり込むほどの勢いで叩きつけられた。
「わっ!?」
「アダムさんッ!」
「その命で贖えッ! 明弘の名誉を穢した報いを!」
そのままの勢いでグレムリンを殴り殺そうとするアダムであったが、このままグレムリンを普通に殺されては意味がない。透は自身の激情も抑えて、アダムに現在の作戦を伝えた。
「待ってくださいアダムさんッ! グレムリンは完全に倒してはいけませんッ!」
「何?」
「そうです! あの人を倒すには、切歌ちゃんと調ちゃんの力が無いと……」
魔力を用いたリインカーネーションにより世代を跨いで何度でも転生できるグレムリンは、そのまま倒しても数世代後に復活して同じような事をしでかす危険が高い。それを防ぐ為には、魂レベルで倒さなければ意味が無いのだ。生命の輪廻から、グレムリンの魂を切り離さなければならない。
それを可能としているのが切歌と調のギアに用いられている聖遺物であった。彼女達のザババの刃は、存在も魂レベルで切り裂き消滅させる力を持つ。嘗てのフロンティア事変に於いて、調に宿っていたフィーネはひょんな事から切歌の刃に倒れた調の身代わりとなってリインカーネーションから解き放たれた。今後彼女の子孫がアウフヴァッヘン波形に触れても、新たなフィーネとして復活する事はまずない。
透と響の言葉に、アダムは喉の奥から呻き声を上げた。グレムリンが復活するような事は彼も防ぎたいが、同時にグレムリンへのトドメは自分の手で付けたい。それが偽られ名誉を傷付けられた明弘に対する手向けであると考えていた。だが最も大切なのは、明弘の仇であるグレムリンを確実に倒す事。その為であればトドメを譲る事も考えなければならない。しかし…………
悩むあまり攻撃の手が緩んだアダム。その間に体勢を立て直しそうになったグレムリンであったが、クリスは目敏くそれを許さず槍を手に取り立ち上がろうとしたグレムリンを狙撃で再び押し倒した。
「くそ……」
「やらせるかよッ!」
「ぐっ!?」
今度はグレムリンも防御したが、その際に彼も動きを止めてしまう。その間に颯人はインフィニティースタイルのウィザードに変身し、アダムの隣に立つとその肩に手を置いた。
〈イィィンフィニティ! プリーズ! ヒースイフードー! ボーザバビュードゴーーン!!〉
「まぁそう難しく考えんなって。大事なのは、アイツをぶっ飛ばしてギャフンと言わせる事だろ?」
「むっ……」
「気持ちは分からなくもねえが、痛めつけるだけで我慢しとけ。どの道アイツを完全に倒すには、弱らせないと話にならないんだろ?」
当然だが魂から消滅させられると聞いて大人しくするような奴は居ない。まず確実に抵抗する。それはグレムリンだって例外ではない。故に、先ずはザババの刃を確実に届かせる事が出来る様にとグレムリンを弱らせる必要がある。
それはつまり、逆に言えば倒しさえしなければ何処までやっても良いという事でもある。これまでの恨み、明弘の無念をグレムリンに思いっきり叩き付けてやればいい。颯人はそう言ってアダムを何とか言いくるめた。
「爺ちゃんにはその後で報告してやればいいだろ。少なくとも爺ちゃんならそれだけで満足してくれると思うぜ?」
それはある意味で確証の無い発言であった。何しろ颯人は実の祖父と会った事が無いのだ。なのでその人物像は完全に想像によるものであり、輝彦などの話から推測して組み立てたものでしかなかった。
だがそれは決して的外れと言う訳ではなかったらしく、アダムは暫し深く考え込んだ。
暫し考え込んだ末、一応の納得をしたのかアダムはゆっくりと頷きロンギヌスを構えようとするグレムリンに火球を投げつける。
「フンッ……」
「ぐっ!?」
「まぁいいよ、それでも。打ちたいからね、明弘の仇は」
「よし、決まりだな。つー訳で、行くぞ透ッ! 響ちゃん!」
「「はいっ!」」
そこからはかなり一方的な戦いとなった。如何に神の力で事象を確定させようと、響の神殺しの拳はそれを許さない。そしてインフィニティースタイルの颯人の超高速移動と素で素早い動きを可能とする透、そしてアダムの攻撃を前にグレムリンも防戦すらままならない。目にもとまらぬ颯人の動きに自前の高速移動で対抗するも、アダマントストーンの鎧を前には攻撃が満足に通用しない。ならばと魔力の吸収を行おうとするも、それは透とアダム、そしてクリスの狙撃が許さない。そしてそれらの攻撃に翻弄され、徐々にグレムリンの動きが鈍くなりつつあった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
普段から飄々として相手を小馬鹿にしたような態度ばかりみせるグレムリンが追い詰められつつある姿に、颯人達は今度こそ自分達の勝利が近付いてきている事を感じていた。否、感じたかった。
だが颯人は脳裏に不安を感じていた。何と言うか、グレムリンが本気を出していないような気がするのだ。この状況で尚も手加減をする事が出来る事にも信じがたいものがあるが、兎に角完全に安心する事は出来ず颯人は警戒を怠らない。
そんな中で、逸ったのがアダムであった。明弘の仇を討つ事に拘る彼は、グレムリンの動きが鈍ってきたのを見てここが決め時と手に灼熱の火球を作り出し、それを投げつけるのではなく直接叩き付けるべく突撃した。
「お、おいっ!?」
その勢いは弱らせるどころか消し炭にしてしまいそうで、颯人も思わず慌ててしまった。
「アダムさん駄目ですよッ!? グレムリンは弱らせるまでにしないと……」
「加減はするさッ! 手足の一本は貰うかもしれないけどねッ!」
果たして本当に加減するつもりがあるのか不安を感じる颯人達を他所に、アダムは動きの鈍ったグレムリンに手の中の火球を直接叩き付けた。
「明弘の仇だ、受け取れッ!!」
「がっ!?」
アダムの一撃は一応彼の言う通り加減はされていたようで、グレムリンはボロボロになりながらも五体満足で吹き飛ばされていく。その際にグレムリンの手からはロンギヌスが離れた。槍は回転しながら弧を描き飛んでいき…………
「えっ?」
「あっ!? 未来ッ!?」
その先に未来が居た。未来はサンジェルマンを手伝い動けない者達に簡単な手当てを施し避難させようとしていた為、槍が飛んできている事に気付くのが遅れた。響の声にやっと自分に危機が迫っている事に気付いた彼女は、目を見開きながらも丸鏡を展開し光線で槍を撃ち落とそうとする。だが槍は放たれた光線の間を縫うように未来に迫っていき、撃ち落とすのは無理と判断した未来がその場を離れようと動き出した。
だが槍はまるで引き寄せられるように軌道を変え、逃げる未来へと迫っていく。
このままでは未来が危ない。そう思った響は咄嗟に自分の神殺しの拳で槍を叩き落そうとした。
それが罠だと気付いた颯人が引き留めようと声を上げた時にはもう手遅れであった。
「未来ッ!」
「ッ! 駄目だ響ちゃん行くなッ!?」
「えっ!? で、でも――――」
颯人の声に思わず振り替える響であったが、その瞬間彼女の背後に傷付いていた筈のグレムリンが一瞬で接近すると両手に持った双剣で彼女の体を切り裂いた。
「ぐ、あ……!?」
「「「響(ちゃん)(さん)ッ!?」」」
颯人、透、クリスが切り裂かれ崩れ落ちる響の姿に悲鳴のような声を上げる。倒れる彼女の姿に未来も目を見開き、同時にロンギヌスは彼女の頬を掠める様にして壁に突き刺さった。
「槍がッ!? 未来を狙ってたんじゃねえのかッ!?」
「グレムリンの野郎、やりやがったッ! 未来ちゃんに狙い定めたと思わせて響ちゃんを誘い出しやがったんだッ!」
響が無力化できるのは飽く迄も神の力だけであり、通常のグレムリンの攻撃であれば普通に通用する。奴はその隙を作り出す為、アダムの攻撃に吹き飛ばされたと思わせて未来に向けロンギヌスを飛ばし、魔法で狙いが定まっているように見せ響から冷静な判断力を奪ったのだ。響は天性の才能を持っているが、冷静さを書けばそれも宝の持ち腐れ。相手の心理を乱す事に長けた、グレムリンらしいやり口で響が無力化された。
そして響が倒れると同時に、グレムリンの反撃が始まった。彼はまずコネクトの魔法でロンギヌスを取り出すと、一瞬でクリスに接近し彼女の首を掴んで持ち上げた。
「ばあっ♪」
「あ、うぐっ!?」
「クリスッ!?」
クリスが首を掴まれて持ち上げられた事に、今度は透が冷静さを失った。これ以上彼女にグレムリンが触れる事が我慢ならないと言った様子で突撃する透であったが、振り上げた刃はグレムリンがクリスを見せつける様に掲げた事で振り下ろす事が出来なくなった。
「うっ!?」
「透止まるなッ! 離れろッ!」
「遅いよ!」
動きを止めてしまえば透は的でしかない。グレムリンはクリスを盾にしながらロンギヌスによる刺突を放ち、槍は狙い違わず透の右胸を貫いた。
「ぐぶっ!?」
「と、透……!?」
「「先輩ッ!?」」
首を絞められながら崩れ落ちる透の姿にクリスが目を見開きながら手を伸ばす。だがその手が彼に届く事は無く、それどころか彼女はそのまま振り回されて切歌と調が居る方へと投げ飛ばされた。変身解除しながら崩れ落ちる透の姿に意識を持っていかれていた2人は、自分達に向け投げ飛ばされてきたクリスを咄嗟に受け止めようと身構える。
グレムリンはそんな彼女達を嘲笑う様にロンギヌスに魔力を集めると、その場で振るい穂先から斬撃を飛ばして3人を纏めて吹き飛ばした。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」
「小癪な真似をッ!」
次々と仲間が倒れていく光景にアダムが攻撃を仕掛けるが、神の力を前には彼の膂力もほぼ無力に等しい。灼熱の火球を拳に溜めて殴り掛かったアダムだったが、グレムリンは巧みな槍術によりそれを捌き反撃の斬撃でアダムスらをも下してしまった。
「それっ!」
「ぐっ!? こ、の……化け物……!?」
遂にはアダムスらも崩れ落ち、今この場で他に無事なのは颯人とサンジェルマンの2人のみとなってしまう。颯人は仮面の下で苦虫を噛み潰したような顔になりながら、次々と仲間が倒され唖然となるサンジェルマンに透達を連れて逃げるよう願った。右胸を貫かれた透だったが、魔力のお陰か彼はまだ生きていた。今本部に連れて帰り、適切な治療を受けさせれば元通りに回復する事も不可能ではない。
「あ、あ…………!?」
「サンジェルマンさん……悪いが透達を連れて本部に行ってくれ」
「え? き、君は……」
「分かり切った事聞かないでくれ」
例え1人だけになろうとも、ここまで来たら決着を付けなくてはならない。奏を助ける為。そして、グレムリンの野望を阻止する為。
決死の覚悟を見せる颯人の姿に、グレムリンは肩を震わせて笑うと彼の足元と自分の足元にテレポートジェムを投げつけた。有無を言わさずその場から連れ出された颯人が降り立ったのは、奏が囚われている部屋であった。
「奏……!」
「むぐっ! むむぅぅぅっ!」
漸く再会出来た颯人と奏であったが、それを喜びあっている暇は無かった。
何故ならここに居るのは彼ら2人だけではない。まるで2人を嘲笑う様に佇むグレムリンも居る。
奏の前で互いに睨みつけ合い対峙する颯人とグレムリン。遂に最後の戦いが、今始まろうとしているのを奏は肌で感じ取っていた。
と言う訳で第295話でした。
戦闘モードになったアダムの姿は、XDUで見せた黄金錬成アダムを意識してます。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。