魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第297話:歌と魔法が起こす奇跡

 グレムリンの卑劣な手により、遂に颯人も倒れてしまった。魔力を吸い取られて防御力がゼロになった所に槍を振り下ろされ体を切り裂かれてしまっては、彼と言えどももう助かる見込みはない。玉座に続く階段の下で血の海に沈む彼の姿に、奏は消えゆく彼の命を見て絶望に涙を流した。

 

「あ、ぁぁ……颯人……颯、人……」

 

 掠れた声で呆然と彼の名を呼ぶしか出来ない奏の姿に、場違いな程輝く笑みを浮かべたグレムリンは小躍りする様にウキウキとした様子を隠さなかった。

 

「あ~、良いもの見れた♪ さて、これからどうしようかな~。もうこれ以上見たい物も無くなっちゃったし、最後の仕上げにもう一度ユグドラシルシステムを起動させて……」

 

 悍ましい予定を立てるグレムリンの言葉など奏の耳には入らない。彼女の絶望に見開かれた瞳は、血の海に沈んだままピクリとも動かない颯人へと真っ直ぐ向けられ――――

 

 

 

 

 彼の目が逆に真っ直ぐ自身の事を見詰めている事に気付いた。

 

 

 

 

「ぁ……!」

 

 その目を見て奏は気付く。颯人はまだ諦めていないのだ。生きる事を、希望を、未来を、である。だが今の彼1人ではできる事がない。奇跡を起こす為の魔力も、何も。

 だが、奏は違った。奏には出来る事がある。彼を信じて、彼に希望の火を再び灯す為の事が出来るのだ。それは颯人の口元を見て確信出来た。

 

 指一本すら動かせない颯人であったが、目だけはしっかりと奏の事を見詰め続け、そして声は出せずとも唇は必死に言葉を紡いでいた。

 

 彼はこう言っているのだ。『歌え』……と。

 

 声も無く紡がれた言葉であったが、それを見て奏は自身にとって最後の希望の光が見えた。そうだ、何を呆けているのだ。自分が彼に出来ることは最初からあったではないか。彼は常々言っていた。ならば、今この時この瞬間、自分に出来ることはたった一つ!

 

「……君ト云ウ音、紡ぐ為……」

「ん?」

 

 先程まで絶望し涙を流してばかりだった奏の口から突然紡がれた言葉に、グレムリンは怪訝な顔をして彼女の方を見る。槍を携えている彼の視線に気付きながらも、奏は構わず言葉を、否……歌を続けた。

 

「2人で歩んだ、番う足跡は……」

「何やってんの? ギアも無しに、今更歌って……」

 

 小馬鹿にするグレムリンの言葉に耳など貸さない。奏は奇跡を信じ、颯人を想って歌い続ける。その姿が無性に腹立たしくて、気付けばグレムリンは片手を振るい手の甲で払い除ける様に彼女の頬を叩き歌を止めさせようとした。

 

「耳障りだよ」

「ッ!?……暴虐から生まれ出た、残酷が――」

「止めろってのッ!?」

「ぐっ!? くっ……残酷が飲み込む……!」

 

 奏の歌を妨害しようと、グレムリンが何度も彼女に手を上げる。だが奏は例え何度頬を殴られ、頬を赤くし、唇の端が切れても、それでも歌を途切れさせることはしなかった。ここが正念場だからだ。奇跡を起こす為には、多少の逆風などに構ってはいられない。

 

 奏は只管に願った。颯人の無事を、彼が再び立ってくれることを。奇跡が起こる事を、願い、想い、その心の全てを歌に乗せて彼にぶつけた。強い愛が無ければ決して成し得る事は出来ない、たった1人に向け続けるコンサート。

 

 その歌が、願いが、想いが……意識を朦朧とさせた颯人の心に、魂に確かに届いた。

 

(よぉ、聞こえるかドラゴン? 奏が歌ってくれてるぜ……最高だよなぁ、アイツの歌は)

 

(へへっ、こんな時でも、アイツの歌は俺を奮い立たせてくれる。なら、それに応えてみせなきゃ、男が廃るってもんだ!)

 

 耳に届く奏の歌。それは確かに颯人の魂に響き、彼の中で同居しているファントムをも奮い立たせた。グレムリンにより吸い取られたはずの魔力が再び湧き上がり、全身に満ちて痛みが消え、体が軽くなっていく。

 

(そうだよ、あんな野郎に負けるほど、俺の奏への情熱は温くねえんだ! 分かったらお前も、全力で魔力絞り出せよ、ドラゴンッ!)

 

 己とドラゴンを鼓舞する颯人の言葉に、触発されたかのように彼の中のファントムが咆哮を上げる。それと同時に枯渇しきった筈の魔力が一気に彼の体から溢れ出し、その衝撃は奏を黙らせようと拳を振り上げていたグレムリンをもよろめかせて振り返らせた。

 

「えっ!?」

 

 振り返った先でグレムリンは信じられない物を見た。颯人が立っているのだ。魔力を限界まで吸い取り意識を保つ事すら出来ていない筈の彼は、強い意志を秘めた目を真っ直ぐ向けて立っている。しかも先程切り裂いたはずの傷口が、あっと言う間に塞がり出血が収まっていくではないか。それは彼の魔力が傷を癒している証だ。死の淵に立っていた筈の彼は、今再び息を吹き返したのである。

 

「へへっ……やっぱ最高だな、奏の歌は」

「颯人ッ!」

「な、何で? 何で、立てる? お前の魔力は全部吸い取った筈、なのに……!?」

 

 信じられないと声を震わせるグレムリン。颯人はそんな彼を一睨みすると、一気に接近しその顔面を思いっ切り殴り飛ばした。枯渇しきった筈の魔力を一瞬で回復させ、傷を癒し立ち上がった颯人に唖然としていたグレムリンは、これに反応する事が出来ず諸に拳を喰らい殴り飛ばされ奏から引き離されてしまった。

 

「ぐはっ!?」

 

「グレムリン……俺は前に言ったよな? 二度と奏にその面見せるなって……」

 

「こっちの警告無視した挙句、テメェ奏に手を上げやがって……覚悟は出来てんだろうな?」

 

 静かに怒りを燃やす颯人は、グレムリンの事を睨みつけながら奏の拘束を外すとグレムリンに何度も叩かれ赤くなった彼女の頬を優しく撫でた。本当はもっとちゃんと労わってやりたかったが、今はそれどころではない。颯人はコネクトの魔法で奏のギアコンバーターを回収すると、彼女の首に優しく掛けてやった。

 

「さて、行くぜ奏」

「あぁ、やろう。アタシらで決着を!」

 

 並び立った2人は互いに頷き合うと、真っ直ぐグレムリンを見据えて変身した。

 

「変身ッ!」

〈イィィンフィニティ! プリーズ! ヒースイフードー! ボーザバビュードゴーーン!!〉

「Croitzal ronzell gungnir zizzl」

 

 颯人は再びインフィニティースタイルのウィザードに変身し、奏も一気にウィザードギア・ブレイブになった。剣と槍を構える2人の前で、グレムリンもまたロンギヌスの槍を構え相対する。

 

「何度来ても同じだよ。君等じゃ、僕には勝てない!」

「そいつはどうかな?」

 

 こちらを侮ってくるグレムリンに、まず最初に攻撃を仕掛けたのは奏の方であった。炎を纏いながらの突撃を前に、グレムリンは臆することなく槍を突き出し彼女の腹を串刺しにしようとした。既に確定攻撃は発動している。今更何をどう足掻こうが、彼女にも颯人にもこれを防ぐ手立てはない。

 

 だがグレムリンの放った刺突は事実上の不発に終わった。槍は確かに奏の腹を捉えはした。だが、刺さった筈の槍は炎となった彼女の体を突き抜けるだけに留まり彼女には一切のダメージを与える事は出来なかったのだ。

 

「あっ!?」

「オラァッ!」

「ぐぅっ!?」

 

 炎化による相手の攻撃の無力化。それはブレイブとなったウィザードギア特有の能力だ。正に不死鳥の如く、相手の攻撃を物ともせず突き進む奏はそのまま形状を変化させたアームドギアで逆にグレムリンを薙ぎ払った。

 

 そしてその先で待ち構えるのは、カリバーモードのアックスカリバーを構える颯人であった。出鼻を挫かれたグレムリンにこれを回避する猶予はなく、すれ違いざまに切り裂かれるとそのまま颯人と奏からの連撃に晒される事となる。

 

「おぉぉっ!」

「はぁぁぁっ!」

「くっ!? こ、の……!」

 

 こうも連続で攻撃を放たれては、確定攻撃を出す間もない。これではジリ貧になると、グレムリンは破れかぶれになって真下に向け爆破魔法を放ち強制的に2人を引き離した。

 

「うわっ!?」

「くぅっ!?」

 

「そこだ、貰ったぁッ!」

 

 攻撃の手が止んでしまえばこっちのもの。グレムリンは先に颯人の方を仕留めようと彼に狙いを定めそちらに向かっていった。このままではまた颯人の魔力が吸収され無防備になった所を今度こそトドメを刺されてしまう。

 

 そう思った奏は咄嗟に右手の指輪を外して彼に向けて投げ渡した。

 

「颯人ッ!」

「!」

 

 迫るグレムリンと飛んでくる指輪。僅差ではあるが指輪の方が先に颯人に届き、受け取った彼は考えるよりも先に右手の指輪を交換しハンドオーサーに翳した。

 

〈ブレイブ、プリーズ!〉

「死ねぇぇぇッ!」

 

 颯人が指輪をハンドオーサーに翳すと同時に、グレムリンの刺突が彼へと届く。このまま刺し貫かれた状態で魔力を抜き取られるかに思われた、その時、颯人の体が炎に包まれ形が崩れたかと思うと、炎は意志を持ってその場を離れグレムリンの背後で再び颯人の形となり剣を振るった。

 

「ハァッ!」

「ぐぁぁっ!?」

 

 背中を切り裂かれながらも振り返ったグレムリンが見た時、颯人の姿は先程よりもさらに変わっていた。

 

 インフィニティースタイルではあるが、纏っているコートが燃え上がる炎の様に裾が赤く染まっている。水晶の様な鎧も下の方が赤く上の方は水色とグラデーションが掛った様に色が変化していた。

 それはインフィニティースタイルとブレイブの合わさった姿。言うなればインフィニティー・ブレイブとでも言うべき姿であった。

 

「さぁ、行くぜッ!」

 

 奏の力を借りた颯人は、早くもブレイブの力を使いこなした。体を炎に変えて一気に接近すると、姿を捉えさせずにグレムリンの死角から何度も攻撃する。勿論グレムリンも決して回避する事が出来ない確定攻撃を用いて反撃するのだが、今の颯人相手に物理攻撃は一切通用しない。例え必中の攻撃であっても、そもそも物理攻撃を炎になってやり過ごしてしまえる彼には効かないのだ。

 

「くぅ、ならば……!」

 

 通常の攻撃は効かなくとも、魔力の吸収が出来ない訳ではない。グレムリンは一瞬の隙をついて颯人の体に触れると、そこから彼の魔力を一気に吸収していった。

 

「はははっ! 捉えたッ! その能力、魔力が無ければ使えないだろう? このまま命が尽きるまですっからかんに…………!?」

 

 颯人の魔力を吸収しようとして、グレムリンは驚愕に言葉を詰まらせた。どれだけ吸っても魔力が尽きないのだ。吸っても吸っても終わりが見えず、それどころか燃え上がる様な魔力がグレムリンの中で暴れまわり吸収しきる事が出来ない。あっという間にキャパシティを越えた魔力が爆発する様に暴れまわり、グレムリンは全身から火花を上げながら吹き飛ぶように彼から離れた。

 

「がぁぁぁぁぁぁっ!? な、何で? 何で、吸い切れない?」

 

 ボロボロになった自身の体を見て信じられないと震えるグレムリン。颯人はそんな彼の姿をいっそ憐れむ様に見ながら奏の隣に立ち彼女の肩を優しく抱き寄せた。

 

「おいおい、俺は何時でも何度でも言って来た筈だぜ? 俺は奏の歌さえあれば何時でも全開だってな?」

 

 今こうしている間にも、奏の口からは颯人を思いながら歌が紡がれている。彼女の歌声と、それに乗ってやって来る彼女の愛が、颯人に無限の魔力を与えてくれているのである。

 

「それにな、俺の奏でに対する情熱は、太陽の炎にだって負けちゃいねえんだ。テメェ如きが食い切って抑える事が出来る様なもんじゃねえんだよッ!」

 

 声高に告げる颯人の言葉は、事実上の勝利宣言でもあった。今のグレムリンに、颯人に対抗出来る術はない。魔力は吸収できず、そして攻撃も通用しない。八方塞がりに近いこの状況で、グレムリンに唯一出来ることは彼の力の源となっている奏を直接始末する事だけであった。

 

「このぉぉぉぉっ!」

「そう来ると思ってたぜッ!」

 

 当然グレムリンのそんな行動は颯人には筒抜けであり、槍が届かなければ確定攻撃も意味は無いと颯人は前に出てグレムリンを足止めする。

 

「邪魔だぁぁぁッ!」

「ぐっ!?」

 

 だが破れかぶれになった者の勢いは凄まじく、怒涛の攻撃を前に颯人はアックスカリバーを弾き飛ばされてしまった。このままでは攻撃手段を失う。

 それを見た奏は次の瞬間自身が持つアームドギアを颯人に投げ渡していた。

 

「使えッ!」

「ッ! よっしゃ!」

 

 受け取ったガングニールを颯人が振るい、グレムリンのロンギヌスと何度も打ち合う。そのまま颯人はグレムリンを奏から引き剥がし、炎化によりグレムリンの攻撃を無効化しながら徐々に追い詰めていった。

 

「壊してやる……壊してやる壊してやる壊してやるッ! 何もかも、この世界の全てをッ!」

「壊れるのは、お前のその歪んだ欲望だッ!」

 

 両者の激しい打ち合いは、互いの武器を弾き飛ばす程の勢いであった。遂にはどちらも手にしていた武器を手放し、無手での攻防に移行した。

 

「ふっ!」

「はぁっ!」

 

 グレムリンの拳を颯人は片腕で受け止めつつ蹴りを放つ。その蹴りを後ろに飛ぶ事で回避したグレムリンは、自身を形作る全ての魔力をも動員して片足に集中させ蹴りを放った。

 

「こうなったら、この星を完全に破壊するッ! さっき君から吸収した魔力はまだ僕の中にある! それを全部使って、この星の核を破壊すれば……!」

「そうはさせるかよッ!」

〈チョーイイネ! キックストライク、サイコー!〉

 

 超強力な一撃を以て、地球ごと颯人達を葬ろうとするグレムリン。例え地球が跡形もなく吹き飛んでも、自分はどうにかなると思っているのだろう。或いは後先考えず、ただ目先の目的だけを見て行動してるのか。

 それを阻止すべく颯人も全ての魔力を一点に集中させた。グレムリンと同様の攻撃。ただ一つ違うのは、今の彼の魔力は天井知らずだという事であった。奏の歌を受けた彼の前に、限界と言う言葉は存在しない。一点に集中させた魔力はさながら太陽の様に眩く輝き、その輝きの全てを颯人はグレムリンにぶつけた。

 

「おぉぉぉぉっ!!」

「これで決着だ! ハァァァァァァァッ!」

 

 ぶつかり合う颯人のストライクウィザードとグレムリンの一撃。どちらも強烈な威力を誇るそれは、エネルギーの行き場を無くし激しく火花を散らせ互いを押し退けようとする。

 

 その競り合いにも決着が訪れた。先に音を上げたのは……グレムリンの方であった。

 

「な、あぁ……!?」

 

 唐突に魔力が尽きていき、颯人の必殺技に押されていく。必死に力を籠めるが、元よりグレムリンの魔力には上限があった為絞り出せる量にも限りがあった。颯人はそんなグレムリンの魔力を打ち消し、自身の一撃をグレムリンの体に叩き込んだ。

 

「ハァァァァッ!!」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 遂に颯人の一撃が、グレムリンの体を捉えた。直撃した瞬間、膨大な魔力がグレムリンの体内を駆け巡り破壊していく。それに耐えきれなくなったグレムリンの体は爆散し、その破壊力は城の上部を粉微塵に吹き飛ばす程であった。

 

 城の上部が無くなった事で太陽の光が差し込んでくる。背にグレムリンが爆発する炎と太陽の光を受けながら着地した颯人の傍に、奏が駆け寄るとそのまま彼に抱き着いた。

 

「颯人ッ!」

「奏ッ!」

 

 グレムリンに勝利した事よりも、こうして奏と再び触れ合える事の方が何よりも嬉しい。2人は互いの存在を確かめ合い、決して離さないという様に強く抱きしめ合うのであった。




と言う訳で第297話でした。

グレムリンとの戦い、遂に決着です。決め手となったのはやはり2人の愛情でしょうか。奏が颯人の事を信じ、愛して歌った事。そして奏の事を愛し、彼女の歌に颯人が奮い立たされたからこそ起こった奇跡が勝利への鍵となった感じです。

戦い自体はこれで決着ですが、グレムリンに対してはまだ後始末が残っています。次回はその後始末とエンディング、と言った感じでしょうか。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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