魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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どうも、黒井です。

長らく続いたシンフォギア・ウィザードも遂に終わりの時を迎えました。ここまでお付き合いいただきありがとうございました!


最終話:希望を繋いで奇跡を手繰る

 神の力を得て、カーバンクルと融合した事により更なる力を得たグレムリン。颯人はそれを奏と力を合わせ見事討伐し、そして取り戻した奏と固く抱き合い互いに無事と勝利を確かめ合った。

 

「やったな、颯人ッ!」

「あぁ……だが、まだやる事は残ってる」

「えっ?」

 

 グレムリンを倒した筈なのにまだ何かあるのかと颯人の言葉に首を傾げる奏。

 

 直後、2人から少し離れた所にボロボロになったソラが落ちてきた。

 

「わっ!? ぐ、グレムリンッ!」

「う、ぐぐ……ぐぅ……」

 

 颯人の最後の一撃を受け、肉体が崩壊する一歩手前までのダメージを負ったグレムリン。最早ファントムとしての姿を保つ事も出来なくなった彼は、ソラと言う人間の姿で虫の息になりながらも辛うじて生きた状態で2人の近くに倒れたまま動かずにいた。

 

「く、そ……あと、少し……あと少しだった、のに……」

 

 途中までは確かにグレムリンに優勢で事が進んでいた。特に颯人までが倒された時は、奏も最早これまでかと諦めが心の中に湧き上がった。そんな彼女が再び立ち上がれたのは、生きる事と希望を諦めず奏の事を信じ続けた颯人の想いが届いたからに他ならない。他人を玩具としてしか見る事が出来ないグレムリンは、互いを想い合い愛し合う2人の絆の前に敗れたのだ。

 

 だがグレムリンには勝算があった。否、勝算と言うよりは次と言った方が適切か。奏はその可能性に気付かず、アームドギアを手に取ると例え手を汚す事になろうともグレムリンをこの場で始末する為一歩前に踏み出した。

 

「まだ生きてるとはしぶとい奴だ。だがこれで、終わりにしてやるッ!」

 

 槍をグレムリンに突き立てようと手を振り上げる奏。彼女の持つ槍の穂先が光に照らされキラリと輝くのを見て、グレムリンは口元に笑みを浮かべた。

 

 そのまま奏が槍を振り下ろし、グレムリンの心臓に刃を突き立てようとしたその時、颯人はそんな彼女の腕を掴んで彼女の行動を引き留めた。

 

「待ちな、奏」

「ッ! 颯人、何で止めるッ!? まさかお前、コイツ相手に情けを掛けようなんて言うんじゃ……」

「んな酔狂な事言う訳ねえだろ? こっちの様子見てたなら、忘れたか? コイツは死んでも人の想いの中を揺蕩ってまだどこか別のところで復活出来るんだぜ?」

「あ…………!?」

 

 颯人に言われて思い出した。グレムリンはフィーネがアウフヴァッヘン波形、シェム・ハが言語の中に紛れて世代を跨いで転生や復活を果たせるように、彼も魔力に触れる事で次の器が覚醒する事が出来るのだ。つまり、今この場でコイツを倒しても、何時か遠い未来で復活される事になる。そうなってしまえばお終いだ。

 

「こ、コイツ……!?」

「ちぇ~、あと少しだったのに」

 

 グレムリンの企みに気付いた奏は、振り下ろした槍を突き立てる先を失い悔しそうに奥歯を食い縛り、グレムリンは己の企みを颯人に看破され残念そうに唇を尖らせた。

 

「お前はこう考えてる。この世代で目的を果たす事は諦め、俺達が死んでいなくなった遠い未来で今度こそ上手くやろう。多少時間が掛かっても、待ち続ければ何時か必ず自分が好き放題出来る時が訪れる、ってな」

「それが分かったとして、君達どうするの? それじゃあ僕を倒さずにいる事が出来る?」

 

 もし颯人達が極悪非道な人間であれば、グレムリンを生かしたまま捕らえた挙句生かさず殺さずの状態で延々と閉じ込めるという事も出来ただろう。だが幸か不幸か、颯人達は善人だ。そんな他人を無意味に痛めつけるような真似は出来ない。グレムリンはそれが分かっているから、敢えて颯人達に対して挑発的な態度を取っているのだ。

 

 こちらを小馬鹿にしてくるようなグレムリンの態度に奏は腸が煮えくり返る思いだったが、ここで暴力を振るっても意味がないと分かっている為握った拳を振るわせる事しか出来ない。颯人はそんな彼女の肩を優しく抱き寄せると、グレムリンに対して冷たい視線を向けながら口を開いた。

 

「確かに、お前を倒す事は出来ねえ。俺達の後の世代に、お前の相手を押し付けるような事は出来ねえな。だから、お前の野望はここで終わらせる」

「どうやって?」

 

 一体何をするつもりなのかとグレムリンが問えば、颯人はそれには答えず後ろを振り返ってそこに居た人物に声を掛けた。

 

「なぁアダム?」

「あぁ……出来ているよ、準備の方は」

「な、何の?」

 

 そこに居たのはアダムであった。先程グレムリンに倒されたはずの彼だったが、最低限の治療だけ受けてこの場にやってきたらしい。サンジェルマンに肩を借りながらもグレムリンに近付く姿は、傷だらけだというのに覇気に満ちている。その姿に嫌な予感を感じたグレムリンは、ボロボロの手足を必死に動かして何とか距離を取ろうとした。

 

「な、何をする気? く……来るな……!?」

「なぁアダム? 聞きたいんだが、黄金錬成ってのは卑金属を貴金属に変える事を言うんだよな?」

「不浄の浄化と言った方がいいね。不純物を消し去るんだよ、文字通りに」

「なら、魔力に混じった不純物も消し去れるよな?」

 

 目の前で物凄く不穏なやり取りが行われている事に気付けない程、グレムリンも間抜けではない。あれが自分と言う存在を完全に消し去る為の話し合いであると気付いた彼は、這いずって逃げながらいっその事自ら命を絶ってしまおうと思考を巡らせる。舌を嚙み切ってもそんなすぐに死ぬことはできない。理想的なのは自爆だが、生憎ともうそれが出来るほどの魔力も底を尽いている。今意識が残っている事自体がある意味で奇跡であり不幸なのだ。

 

 何かいい案は無いかと視線を彷徨わせた時、彼の目に入ったのは先程颯人とぶつかり合って弾き飛ばされたロンギヌスの槍であった。あれを使えば自分を殺す事が出来る。グレムリンは残された希望を手に掴む為必死に這いずっていき…………

 

「でも簡単じゃないよ。豊富な魔力に物を言わせた力技だからね、僕のは。完璧な黄金錬成を成すのなら、触媒が必要になる」

「そいつは、これで十分か?」

「あっ!?」

 

 あと少しで手が届くというところで、颯人により引き抜かれてアダムに手渡された。ロンギヌスの槍にはユグドラシルの枝の欠片と、賢者の石の欠片が使われている。この二つが合わさった事で放とうとした攻撃が確実に相手に届くという結果と過程が逆転した反則級の能力を持つに至ったのだが、その素材が今度はグレムリンに牙をむく事になる。

 颯人から手渡されたロンギヌスの槍を手にしたアダムは、持ち上げて様々な角度から品定めする様に槍を眺め、そして満足そうに頷き答えた。

 

「あぁ……理想的だ」

「ほんじゃ、頼む。俺はもう一発お見舞いしたから爺ちゃんへの義理は果たした。後はアンタが決めな」

「あぁ…………待っていたよ、この時をッ!」

 

 アダムは手の中にある槍が溶けるほどの超高温を手の中に生み出し、その魔力が完全な形での黄金錬成の術式を作り出す。アダムから放たれる超高温にサンジェルマンが慌てて距離を取ろうとするが、完璧な形で構築された錬金術は余分な熱を外に逃がす事無くアダムの手の中で眩い太陽のような輝きを放った。

 

 その輝きはグレムリンにとって破滅の光に他ならず、逃げ場も失った彼は目を見開き許しを請うしか出来なかった。

 

「あ、あ……ま、待って……や、やめ……!?」

「あぁ、別に謝らなくていいよ。行くところが違うからね、君と、明弘とでは。いや、違うか……君には罪を悔いる事すら贅沢だ。消え去るがいいよ、その歪んだ心と共にッ!」

 

 万感の思いを込めて、アダムはグレムリンに完成した黄金錬成を叩き込んだ。灼熱の超高温は、グレムリンと言う存在を形作る想いの全てを焼き払っていく。

 その灼熱の劫火は、グレムリンにとって地獄の業火そのもの。自身の存在の全てが焼け落ちてなくなっていく感覚に、グレムリンは今心の底から本当の悲鳴を上げた。

 

「ぎゃああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

 グレムリンが上げるけたたましい断末魔。敵であり決して許す事は出来ない存在だったが、そんな奴の悲鳴でも痛々しく奏は思わず目を背けた。颯人は彼女の視界を遮る様に彼女を腕の中に抱きしめ、ただし自分はグレムリンが消滅する最後の瞬間まで決して目を逸らす事はしなかった。

 

「こ、こんな、こんなぁぁぁぁぁぁっ!? 僕は、まだ、まだ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 最後の瞬間グレムリンが考えたのは、過去の自分が行ってきた事への後悔か、それとも自身が消滅させられる事への怒りと憎しみなのか。それは定かではないが、何にしてもグレムリンと言う存在は穢れた想いの最後の一欠けらまで余すことなく焼き尽くされ、後には手の平に収まる程度のサイズの金塊が残るだけであった。

 

 悲鳴が消え、金塊だけが残された。その光景に、アダムは天を見上げて穏やかな顔をしながら静かに息を吐いた。

 

「あぁ……終わった。仇は討ったよ、明弘……! 本当にすまなかった」

 

 真実を知らず、一方的に裏切られたと思い込み憎んでいた明弘への謝罪と共に事を成し遂げた事を告げたアダムは、残された金塊を一瞥するとサンジェルマンから離れて踵を返した。

 颯人はそんな彼の背に声を投げ掛けた。

 

「どこ行くんだ? てか、これからどうする?」

「さて、ね……まだ決まっていない。何しろ死ねない身なんでね、こちとら」

 

 完璧な存在として作り出されたが故に寿命が存在しないアダムは、外的要因による死を迎えなければ永遠に存在し続ける。それはとても寂しく、孤独な生き方と言える。

 だが…………

 

「まぁ、一先ずは? 真似事でもしながらゆっくり考えるさ、友の。それがせめてもの償いだ、僕に出来る」

 

 それだけ告げるとアダムは振り返りもせずその場から立ち去り、そして二度と颯人達の前に姿を見せる事は無いのであった。

 

 残された颯人はアダムを見送ると、奏と見つめ合いそっと彼女の唇にキスをした。存在を確かめる様な優しいキスに、奏も応え彼の事を抱きしめる。

 そして互いの存在を確認し合った颯人は、奏の手を引き残された金塊を手に取った。爆心地は赤熱化し湯気を立てているが、金塊自体は不思議と熱を帯びておらず普通に手で掴む事が出来た。

 

 見た目には光沢を放つ美しい金塊。だがこれがグレムリンの成れの果てだと思うと、素直に綺麗とみる事は難しい。颯人はそんな皮肉を込めて鼻で笑うと、金塊を軽く放り片手でキャッチしてポケットにしまうのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 こうして、長くに渡って続いたジェネシスとの戦いも本当の意味で終わりを告げた。戦利品となる金塊を持って、颯人は奏とサンジェルマンと共に本部に帰還を果たした。

 

 無事戻った3人、特に颯人と奏の帰還にはこの戦いに参加した仲間達のみならず、弦十郎やエルフナインなど銃後の者達も諸手を挙げて喜んだ。

 特に喜びを露にしたのは響に翼であった。2人は囚われた奏の安否を心配していた為、颯人が彼女を無事に連れて帰ってきてくれた事に深く感謝し、奏が戻ってきてくれた事に心の底から安堵した。

 

「奏ッ!」

「奏さん、良かったッ!」

「翼、響! 悪いな心配掛けて?」

「ううん、信じてた。颯人さんがきっと奏の事を助けてくれるって」

「でも奏さんが無事に帰って来てくれて良かった~」

 

 何時の間にか奏が囚われていたと知った時は、翼も響も胃が縮むのではと言う程気を揉んだりしたものだ。だがそれも今は奏の無事な姿を見る事が出来て心底ほっとしている。

 

 一方颯人にも称賛の声が寄せられた。何と言ってもグレムリンを倒したのは彼なのだから。

 

「やったなペテン師ッ!」

「クリス、ここまでやったんだからもう颯人をペテン師って言うの止めてあげたら?」

「構わねえよ。もう慣れたし、今更普通に呼ばれても逆に落ち着かねえ」

 

 この期に及んでも颯人の事をペテン師呼ばわりするクリスをマリアが諫めるが、すっかり慣れた颯人はもう彼女にペテン師と呼ばれる事を受け入れている。とは言えクリス自身彼の事をこの様に呼び続ける事には思う事があるのか、軽く咳払いをすると明後日の方を向きながら言葉を続けた。

 

「ま、まぁ……偶になら普通に呼んでやるよ。その……明星先輩」

「クリス……」

 

 相変わらず素直になり切れない捻くれた態度ではあるが、それでも彼女なりに颯人の事を最大限に賛辞しての普通の呼び方をした事に透も温かな目を向ける。対する颯人はクリスに普通の呼び方をされると、背筋に冷水を流し込まれた様に全身を震わせた。

 

「うぉぉぅっ!? 何だか寒気が……」

「どういう意味でペテン師こらぁっ!?」

「まぁまぁクリス、颯人さんなりの気遣いだよ」

 

 茶化された事に激昂するクリスを宥める透。戻ってきた日常にガルドはセレナの肩を抱きながら笑みを浮かべた。

 

「やっと、平和になったな」

「うんっ!」

「これがあれか、雨降って福がある、と言う奴か」

 

 恐らくは『雨降って地固まる』と言いたかったのだろう。相も変わらず諺を言い間違えるガルドに、セレナもクスリと笑みを浮かべて優しく訂正した。

 

「ガルド君、それを言うなら雨降って地固まる、だよ?」

「……ホント?」

 

 何時まで経っても正しい諺を覚えられないガルドに、仲間達は笑い当の本人は恥ずかしさに顔を伏せた。

 

 同じく笑っている颯人であったが、そんな彼に輝彦がアリスと共に支え合いながら近付いていった。

 

「颯人……」

「父さん?」

「……よくやった。流石、俺とアリスの子だな。もうお前は立派な魔法使いだ」

「見違えましたね、颯人」

「ッ!!……へへっ」

 

 両親からの心からの称賛に、流石の颯人も感動したのか目を潤ませ口元を手で隠した。それでも抑えきれない笑みが零れると、彼は顔を上げ輝くような笑みを輝彦とアリスに向けた。

 

 家族の微笑ましい光景に隣に立つ奏も温かな笑みを浮かべていると、2人に未来が近付いていった。

 

「颯人さん、奏さん」

「ん?」

「どうした未来?」

「シェム・ハさんが、2人に話があるって」

 

 そう告げると次の瞬間未来の雰囲気が変わった。内面に居たシェム・ハが表に出てきたのだ。相変わらず何処か傲岸不遜な態度ではあるが、今は何処かしおらしさも感じさせる彼女は2人にまず頭を下げた。

 

「颯人、奏……すまなかった。我が嘗て行った事が、今こうしてお前達にまで牙をむくとは、言い訳にもならないが、あの時の我は思っても見なかった。我の過去の軽率な行いがお前達を苦しめた事、許してくれとは言わない。ただ謝らせてほしい。本当に、すまなかった」

 

 まさかあのシェム・ハがここまでハッキリと謝罪をしてくるとは思っていなかったので、颯人も奏も思わず目を丸くした。2人が驚いている事等気にも留めず、シェム・ハは続き顔を上げると今度は2人に感謝の言葉を告げた。

 

「そして、ありがとう。我の過去の過ちを、お前達が正してくれた。お前達が居なければ、我も、この星の全ての命が弄ばれ滅んでいただろう。それを止めてくれたお前達の絆、愛……確かに見させてもらった。凄いものだな、お前達は」

「へへっ、当然よ。何しろ俺は、奇跡を作る天才だからな」

 

 得意げに告げた颯人はその視線をキャロルの方へと向けた。グレムリンに足を傷付けられた彼女は、同じくグレムリンに敗れた後治療を受けたハンスの手を借り彼の腕に抱きかかえられるように佇んでいた。

 

「どうだいキャロル? 奇跡は悪くないだろ?」

 

 嘗ては奇跡を殺すと宣った彼女であったが、颯人のこの言葉には反論の余地もないのかちょっぴり悔しそうにしながらも彼の言葉を認める様に小さく息を吐いた。

 

「フン……まぁ、認めてやる。お前の言う奇跡は本物だ。分かってたよ、そんな事」

 

 ちょっぴり不貞腐れたような様子のキャロルに、ハンスは彼女をフォローする様に反論の言葉を口にした。

 

「いいや、それは正確じゃねえなキャロル」

「どういう意味だ?」

「明星 颯人は奇跡で勝った訳じゃねえ。アイツが勝ったのは……愛があったからだ。そうだろ?」

 

 臆面もなくそんな事を口にするハンスに、思わぬ奇襲を受けた颯人と奏は互いに目を合わせると顔を赤くして天を仰いだ。まさか彼の口からそんな言葉が出るとは思っていなかった為、キャロルも思わず気恥ずかしさに顔を赤くした。

 

「は、ハンス、それは……」

「だが俺のキャロルへの想いだって負けちゃいねえんだ。もし次似たような事があれば、俺の愛がキャロルと――」

「わーわーっ!? もういいもういいからッ!!」

 

 これ以上彼に言葉を続けさせてはいけないと、キャロルは慌てて彼の口を塞いだ。

 

 賑やかで、慌ただしい時間がやってきた。誰もが笑い、誰もが心から安堵している。

 

 その事実を噛みしめ、颯人は今一度奏を優しく抱きしめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の顛末を簡単に纏めると、以下のようになる。

 

 まずジェネシスの残党であるが、首魁であったグレムリンが完全に消滅した事で彼に掛けられた洗脳も軒並み解けていった。これまでの戦いで拘束された魔法使いや、次に備えて潜伏していた魔法使い達も洗脳から解放され自由を取り戻した。今はそんな彼ら彼女らを然るべき場所に返すべく、目下S.O.N.G.が中心となって捜索と救助を行っていた。

 

 古城で軟禁されロンギヌスの槍を始め様々な指輪を作らされていた萌音は、行く当てもないという事でS.O.N.G.の預かりとなりその技術を悪用されないようにしつつ長年の軟禁で傷付いた心を癒していた。生憎と彼女の家族であった双子は既にこの世に居ないが、彼女を元々引き取った明弘の想いを継ぐ輝彦とアリスにより萌音も徐々に笑顔を取り戻していった。

 

 グレムリンにより傷付けられた者はまだまだ多いが、それも時間と共に癒えていくだろう。

 

 そして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 颯人は1人、暗い道をまっすぐ進んでいた。歩きながら彼は着ているカジュアルなスーツの襟元を正し、愛用のチロリアンハットを意味も無く被り直す。時折喉が動くのは、若干感じている心地良い緊張を解す為の無意識の行為であった。

 

 平和になり、戦いの必要が極端に減った今、颯人は手品師としての活躍に精を出している。世界を渡り歩き手品で人々を沸かせながら、その裏で静かに助けを求める人々を救っている。

 

「ふぃ~……奇跡を作るのも大変だぜ。だがまぁ、それが楽しいんだけどな」

 

 誰に告げるでもなく1人ボヤいた彼の耳に、微かにだが人々がざわめく声が聞こえる。1人1人を正確に聞き分ける事など不可能なざわめきの中に、しかし彼は確かに愛する女性の声を聞いた気がした。

 その声の存在が彼を奮い立たせ、口元には自信に満ちた笑みが浮かぶ。

 

「さぁて……行くかッ!」

 

 次の瞬間足元が勢いよくせり上がり、彼は飛び出る様に両手を広げて舞台の上に立った。同時にスポットライトが彼を照らすと、周囲から万雷の拍手と歓声が響き渡った。

 

 向けられるライトの熱と歓声の中、颯人は視線を彷徨わせると目当ての人物の姿を見つけた。

 

 観客席の中に紛れてこちらを見ているのは奏を始めとした仲間達の姿。愛する彼女と、信じる仲間達に自分の最高の舞台を見せるべく、彼は天高らかに告げた。

 

「レディース、アンド、ジェントルメーンッ!! さぁ皆、タネも仕掛けも無いマジックショーの始まりだッ!!」

 

 満席となった観客席にそう告げながら、彼は奏に向けて小さくウィンクした。この距離で小さなウィンクなど見える筈も無いのだが、奏は彼のウィンクを確かに感じ取りサムズアップで返した。

 

 彼女からのエールに、颯人は止め処ない勇気をもらい万能感を感じながら人々を魅了するパフォーマンスを見せる。

 

 今宵も、颯人は奇跡を作り出した。その奇跡が、次の希望へと繋がる事を信じて…………




と言う訳で最終話でした。

これにて本作も無事終了となります。思えば7年も続けて来られたのは、偏に読者の皆様に支えられてきたからです。本当にありがとうございました。

グレムリンの最期はアダムによる完璧な黄金錬成による完全消滅となりました。グレムリンのリインカーネーション自体は別に神の力が関係している訳ではないので、錬金術を用いての解決となります。その為のカギとなったのが、グレムリンが好き放題する要因となったロンギヌスの槍と言うのは皮肉な結果です。

この世界を騒がせていたグレムリン率いるジェネシスが瓦解した為、今後この作品の世界は平和となっていく事でしょう。

本作はこれで終了となりますが、実を言うと番外編的な物は考えていたりします。具体的にはギャラルホルンによる並行世界の話です。そちらに関しても何かしら書いていきたいとは思っているのですが、一先ず今は本作も完結と言う形を取らせていただきます。時間が経って落ち着いたころに、ちょっとしたイベント的感覚で何かしら書くと思います。その時はまたよろしくお願いします。

改めまして、長らくお付き合いいただき本当にありがとうございました!
もしよろしければ私が他にも手掛けている作品もどうかよろしくお願いします!

励みとなりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

それでは。
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