この世界線にはいらっしゃいましたので、
頑張って書いてみました。
どこまでテンションが保つか分かりませんが、
ごゆるりとお付き合い頂ければ幸いです。
改めて注意事項です。
①”FGO二部三章人智統合真国シン”までのネタバレが多分に含まれております。
②項羽様に愛という名の補正がかかっております。
この2点は特に重要ですので、少しでも引っかかる方は、
ブラウザバックをご推奨いたします。
(赤い、紅い光景だった)
(火に包まれた街、屍に覆われた町)
(火の粉と狂気が舞い踊り、生者は手を牽かれ踊らされる)
(踊れぬものから死んでいき、足を止めた者から燃えていく)
(逃げ惑い、逃げ切れず、怨嗟と苦痛の中死に絶える者)
(武器を持ち、呼気を荒くし、地獄を作り上げる者)
(その中に、その災禍の只中に、明らかな異分子が存在した)
(誰もが殺し、殺されて、結局は火の中で死んでいく只中に)
(炎に焦がされ、無数の武具にて貫かれ、なお死ねぬ女がただ一人)
(誰もが憎み、憎まれて、地獄の狂気に心を奪われていく只中に)
(心を置き去りにして、人類を護るために人間を殺す、ろくでもない男がただ一人)
(二人は出会い、見つめあい、語り合い、そうして同じ道を進んでいく)
(地獄から伸びる道が地獄でしか無い事を知っていてもなお)
(互いに幸せそうな顔をして)
ああ嫌だ、気が滅入る。
私の口は怨嗟を紡ぎ、私の顔は憎悪に歪む。
人類にとっての大偉業の成功も、
人類を守るための大事業の始まりも、
この心を動かす事なんて出来やしない。
ただでさえ生きるに堪えないこの世界で、
見るに堪えない光景が広がっているのだから。
仕事なんて気が乗らないのに、
人類の危機なんてどうでもいいのに、
謎も秘密も危険も冒険も価値なんてないのに、
過去なんて変えても結局私に居場所は奪われるのに、
早く他の優秀な奴らが主人公のように解決いていけばいいのに、
なんで、なんで、なんで、なんで。
貴方達、死んでいるのよ。
優秀なはずのAチーム。
その中で優秀さを度外視して選ばれた私。
”不老不死”という特性をマリスビリーの奴に目をつけられ、
レイシフトそのものが成功さえすれば、
例え転移先で肉体が想定以上の負荷がかかって爆散しようが、
肉体を再構築して復活する死なずの化物。
聖杯戦争という蟲毒の如き儀式を利用してまで漕ぎ付けたカルデアス。
故に、絶対に失敗するわけにはいけない奴が、
あらゆる方向から成功を保障させようとした保険の一つ。
だからAチームでいさせるために、奴本人手ずからデータを書き換えた。
経歴をでっち上げ、成績を誤魔化した。
全ては私という保険を抱え続けるために。
逆に言えば、目の前に転がっている奴らは反対だ。
成績を書き換えずとも、それ以上の実力を誇り、
経歴をでっち上げずとも、生まれた時から栄達が約束されたような、
魔術世界においての貴族、それが私がこいつらに感じていた劣等感だった。
それらの集大成であり、到達点であるキリシュタリアは言うに及ばず、
上を見上げていたカドックでさえ、底を窺うことすら出来ず、
オカマ……はちょっとよくわけが分からないけれども。
だけども、誰も彼もがこんな簡単に死ぬような奴じゃなかった。
そのはずなのに、一人残らず骸となって転がっていた。
生きてこそ価値を残す人間は、
役に立たない皮と肉だけを地面に転がしていた。
冷たくなって、死臭を放ち、
何もかもが終わっていた。
ほら、ベリル。
お前は殺す側でしょうが、死体をつくる側でしょうが。
デイビット、あなたはキリシュタリアと互角以上の才能があるじゃない。
誰もが理解できないほどの可能性をここで発揮しなかったらどこで使うのよ。
頑張りなさいよ、死なないでよ。
もっと生きなさいよ、あっさりと別れないでよ。
思い出ばかり作って、勝手に崩していかないでよ。
どうして私があなた達の名前をおぼえてあげたと思ってるのよ。
どうして私があなた達が死んだ事に涙を流さないといけないのよ。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、
それでも私を死なせてくれないのよ。
誰か、お願い私を置いていかないで。
私の亡骸を前に涙を流さなくたっていい。
ざまあみろと笑って、踏み躙り、四肢を引きちぎって分配したっていい。
その結果、死ねるならば、もう何もいらない。
生きる事で何かをすり減らしていって、それでもなお死ねぬのだから。
ああ嫌だ、気が滅入る。
滅びの運命にさえ見放された我が身を呪う。
こいつらすら死ねる世界で生きる事を強要する残酷さを憎悪する。
この嫌な気を紛らわせようにも、
カルデアの職員は誰も私を観測出来ない。
私だけ人ではなく、機械が自動的に存在を証明し続ける。
人間が嫌いだから、職員が嫌いだから、
人間に私が化物である事を観測されるのが怖いから、
私の居場所がなくなるのが怖いから、
だから誰も私が私である事を見ない。
私がそう言い、マリスビリーがそうした。
それが今になって仇になった。
誰かと話したいときに話せない。
どうしようもない時に限って孤独になる。
誰かの代わりを求めた時に限って誰もが去っていく。
もう、もう何もかもがどうでもいい。
ああ嫌だ、気が滅入る。
嗚呼嫌だ、気が滅入る。
赤い、紅い炎が踊る。
視界を覆うように、獰猛に空を舐めるように。
ゆらりと誘われるように、足が動く。
ああ、もうどうせならば、この身など焼き尽くされてしまえばいい。
それで滅びることすら出来ぬのは知っている。
何度も、何度も知ってしまった。
かつて、不死を恐れた人間が、私を鉄の檻に閉じ込めて、
三日三晩火で殺そうと試まれたことがある。
息が出来なくて苦しいし、火傷が全身を切り刻むように痛めつける。
熱い、苦しい、痛い、止めて、その時はずっとそう思っていた。
でも……でも、
一時でも何も考えず、苦悩を忘れて、苦痛に支配され続けるなら、
もう、それでもいいやと、私は何だかそう思ってしまった。
一歩、また一歩足が進む。
燃え盛る街へ、焼け崩れ落ちた家へ、火花が鳴る方へ。
ずるずると、足を引きずるように。
「君には自殺願望でもあるのかね?」
そんな時、ふと声が聞こえた。
馬鹿な行動をと嘲笑するような言葉でありながら、
どこか危険に足を進めてしまった子供を案じるようなお人よしが根底にあるような。
振り返ると、東洋人のような顔立ちなのに、肌は浅黒く、髪は白く、
いつまでも終わらない戦場で心をすり減らし続けているような男がいた。
へし折れた柱の上に器用に立って見下ろしてくるその男は、
ほらそこだよ、と言わんばかりの笑みを浮かべながら、
私の足元をすっと指差した。
思わず足元を見る。
そして指を指した意味を理解する。
そう言った言葉を投げかけられたというのは危険が傍にあるという事。
足を止めてしまった場所は、既に火事で焼け落ちた家の残骸の上。
足元を這っていた火種は、私の目の前で服に燃え移り、
たちまちの内に耐え難い熱さを肌に伝えてくる。
「あ、あっ、あっつつつつつっっ!!」
「言わんこっちゃない」
あっつ、熱っっつい!
私は焼け付く痛みに思わず飛び上がる。
ぴょんぴょんと飛び跳ねては、火を消そうと試みるけれども、
一向に消える気配が無く、かえって勢いを増していく。
つまりは熱さも痛みも増して、私の身体を舐めていく。
よく私、この中に突撃しようと思ったわね、馬鹿じゃないの!?
呪ってやる、馬鹿なことを考えた過去の自分を呪ってやる!
ああというか、水、水ぅ!
どこか水ないの、バケツとか川とか海とか!?
川がなければシャワーを浴びればいいじゃない????(錯乱中)
そうしている内に、服はどんどん焦げていき、
”芥ヒナコ”という偽装を燃やし散らすように、
火の粉となって舞っていく。
足りない布地は周囲の霊力を吸って、
傷ついた私を再構築していくのと同じように直していく。
ただの人嫌いのマスター候補という化けの皮が剥がされていき、
人間を憎悪する死なずの化物が顔を出す。
だが男がそれに気づく事は無かった。
大声を聞きつけた影法師たちが、私と男に襲い掛かっているから。
私の悲鳴を聞きつけて、蟻の様に敵が群がってきているから。
影に棲み、臭いも音も姿もなく、死角から忍び寄り心臓を狙う者。
薙刀を振るい、燃え盛る火の中から当然の如く駆け抜けてきた者。
有象無象の雑兵、一騎当千の強者、瞬く間にここは戦場の只中と化した。
ただ強者も雑兵も既に何度も死んでいる。
ここに集い、殺しあっているのは、もはや影でしかない。
戦いが終わっても、なおまだ戦いを求める何かに無理やり動かされた怪物。
意思ではなく、ただ心の残骸で、本能に堕ちた意味の無い殺意が私達を狙う。
「すまないが、君を庇っている余裕は無い」
既に男の顔は切り替わり、心をどこかに沈めていく。
流れるようにその手は矢を番え、近づいた者から順に射止めていく。
矢を避け、弾く強者も、瞬時に握られた一対の双剣によって仕留められていく。
一人心臓を射られて死んだのならば、次の瞬間に別の頭が弾け飛ぶ。
矢を放った体勢を崩し、その勢いのまま双剣を首筋に向かって振るう。
屍が一つ、二つと積み上げられ、戦場が赤い華で満ちていく。
その屍も次第に幻のように、光となって散っていく。
こうして無限に迫ってくる敵を、無感情に処理していくだけの時間が過ぎていく。
だがすぐに無双の時間は終わる。
ここには心無い影ばかりではない。
私と男以外にも、本能ではなく己の意志で戦場を駆ける者がいる事を証明するように。
例外の一人は矢よりも早く走る男。
殺意に心を鈍らせず、戦意で心を滾らせる男。
杖を槍のように構え、一直線に突進してくる。
一撃必殺の矢を光る文字と、長い杖で当然のように吹き散らし、
青い外套をたなびかせ、弓兵の下へと跳躍する。
瞬時に放たれる神速の突き、変幻自在の薙ぎ。
それに対して、黒と白の無数の斬線が、
時に受け流し、時に隙を狙って外套の男目掛けてひた走る。
互いの力は五分。
切り結んだその時から、勝手知ったる手合い同士のように、
激しい応酬の響きが周囲に響き渡る。
そして例外の一人は、激しい砂塵を嵐のように纏って駆けて来た。
人の上半身に馬の下半身がついた異形の姿。
その腕は二本に収まることなく、
阿修羅の如き三対の腕がそれぞれ緑輝く剣を精密に振るう。
骸骨の如き大きな翼を広げ、
戦場を薙ぎ払う緑色の光条が戦場を薙ぎ払う。
そんな異形の中の異形の頭部に、
私は懐かしい顔を見出した。
目に映る光景に私は、二千年以上前の出来事を思い出す。
それは赤い、紅い街……。
赤い、紅い光景だった。
街は秦兵に放たれた火に包まれ、楚の民の屍に覆われた。
火の粉と狂気が舞い踊り、生者は殺されるか奴隷にされていた。
従えぬものから死んでいき、足を止めた者から燃えていく。
ああ、逃げ惑い、逃げ切れず、怨嗟と苦痛の中死に絶える楚の民よ。
ああ、武器を持ち、呼気を荒くし、地獄を作り上げる秦の兵よ。
だがその中に、その災禍の只中に、明らかな異分子が存在した。
誰もが殺し、殺されて、結局は火の中で死んでいく只中に、
炎に焦がされ、無数の武具にて貫かれ、それでも私は死ぬことを許されなかった。
仲良くなった近所の子らも、ようやく認めつつあった大人たちも、
皆平等に死んでいく中で、私だけが死ぬことを許されなかった。
誰もが憎み、憎まれて、地獄の狂気に心を奪われていく只中に、
砂塵を巻き上げ、剣を振るい、
楚の民にとっての地獄を、秦の兵にとっての地獄に塗り替える男がいた。
私は彼に気づき、彼も私に気付いた。
「……嘘!?」
もしこれが夢幻なら、覚めないで欲しい。
かつての人の姿から逸脱し、人馬一体となれども、
その顔を忘れることはない、忘れるはずがない。
その生き様を、その在り方を、我が内から無くせる筈がない。
例え、呆然の眼を開き、棒立ちになる隙だらけの私に、
無数の武器が突き立てられようと知った事ではない。
例え、火の粉が降りかかり、再びこの身が燃え上がろうと、
もはやそんな熱さも痛みもどうでもいい。
「おい、犬。
何だあれは?」
「知らねえよ。
もはや英霊かどうかすら分からねえ。
そして悔しい事に、まるで歯が立たねえ」
「……なるほど、理解した。
それなら三遍回ってワンと言うなら、休戦の提案を呑もうじゃないか」
「確かに言おうとした事はそれだが、
俺は俺でもう一回アイツにこの槍を突き立てに行くだけだ。
テメエがどうするかはテメエで決めろよ」
「槍?」
「ああ、そうだな杖だったな。
細けえ事ぐちぐち言ってるんじゃねえよ!
俺だってランサーとして召喚されたかったわ!」
そう言いながら、片や杖を構えて駆け出し、
片や剣を矢に変え力強く番える男達。
私の無抵抗さをいいことに、攻撃を続ける雑兵たち。
……いや、この雑兵うっとおしいわね。
痛みと怒りで呆然とした心持ちから、少し現実に帰ってくる。
いや、ちょっと待ちなさい。
ここはあれよね?
私と項羽様の感動的な再会のシーンじゃない?
理性を取り戻した私の中の魔力が、徐々に動き始める。
それなのに、なに私より先に会いに行こうとしてるの?
私の中の魔力が、怒りと憎悪で掻き乱れていく。
ふざけるな、折角の再開を邪魔するな。
許せない、呪ってやる。
来年から記念日にしたいような、
この素晴らしい日を滅茶苦茶にするんじゃないわよ!!
夢でも幻でも偶然でも奇跡でも、
あの顔を再び見ることが出来たこの空間に、
私と項羽様以外の誰も、誰もがいなくなれ!
溢れる感情で魔力は唸りをあげ、もはや私でも制御出来なくなっていく。
感情と共に、魔力が暴走を開始していく。
「……滅びを知るもの」
雑兵がようやく攻撃を止めるが、もう遅い。
剣を振るう手を止め、逃げ始めるが、もう遅い。
溢れ出てくる憎悪を怒りを血潮に込めて、
魔力は急速に加速していく。
「いずれ安らぎを得る果報者たちよ。
我が羨望、我が憎悪」
「んっ?」
「へっ?」
乱闘から突如、友情タッグを組み始めた男たちも、
何もかもがもうすでに遅い、遅い、遅すぎる。
私の魔力は既に暴走し、臨界点に既に達したぞ!
「死の痛みを以って知るがいい!!」
赤い、紅い光景だった。
私の血潮で染まった戦場、自爆の被害者に覆われた戦場。
憎悪と呪詛が舞い踊り、生者は手を牽かれ踊らされる。
近いものから死んでいき、足を止めた者から消えていく。
逃げ惑い、逃げ切れず、怨嗟と苦痛の中死に絶える者。
武器を持ち、立ち向かい、その隙を緑色の光線に刺し貫かれる強者。
その中に、その災禍の只中に、甘い空気を漂わせる二人。
誰もが殺し、殺されて、呪われて死んでいく只中に、
炎に焦がされ、無数の武具にて貫かれ、
数千年の時が過ぎ、どこにも居場所なんてなく、それでも生きていた女が一人。
誰もが憎み、憎まれて、地獄の狂気に心を奪われていく只中に
心を置き去りにして、人類を護るために人間を殺す、
正しい歴史の中で、間違った者に使われて、正しくあろうとした男が一人。
二人はこうして再び出会い、見つめあった。
互いに幸せそうな顔をして。
陳宮「やはり自爆しかありますまい」