白く殺風景な部屋のベッドに1人の少女が眠っていた。金糸ののような髪と白磁のような肌を持った美しい少女だ。
少女は夢を見ていた。大切なものを全て奪われた記憶。一番の親友が目の前で殺された記憶。
少女は延々と同じ夢を見ていた。
全てはここから始まった。親友の美羽と一緒に行くはずだった2人組の歌手の大きなライブ。
でも、美羽はこの日風邪をひいて来ることができなかった。仕方なく一人で観に行ったが、ライブ内容は一つも憶えていない。それどころか、二人組の歌手の顔も名前もどんなグループ名だったのかも憶えていない。
憶えているのは、ライブの一曲目が終わったあたりで突然爆発が起きてノイズが襲ってきた事だけだ。
みんなが逃げ惑う中で、私は会場から逃げることができた。
逃げることができてしまった。
それが、私の地獄の始まりだった。
最初はみんな心配してくれた。何を言われたかなどは憶えていないが、みんな労ってくれていたと思う。
それが変わったのは少し経ってからのことだった。その日から、私はいじめの標的になった。
最初は物を隠されたり、机に落書きをされたりなど軽いものだった。それが次第にエスカレートして行き、暴力を振るわれるようになった。カッターなどで切り付けられたこともある。
でも、私がいじめられているといつも美羽が助けてくれた。嬉しかった。他の全部が私の敵になっても、美羽だけは味方でいてくれる。そう思えたから
しかしそれは唐突に終わりを告げた。
それは深夜に起きた。
自分の部屋で寝ていた私は、肌を焼くような熱を受けて目を覚ました。
家が燃えていた。
その時の驚きと恐怖は今でも憶えている。それでも、家族のことが心配だった私は両親の寝室へと向かった。
私には三人の家族がいた。パパとママと四つ歳の離れた妹が一人。まだ幼い妹は両親と一緒に寝ていたから、両親の部屋に向かうだけでいい。
所々にある炎を避けながら両親の部屋の前に着き、ドアを開けると両親が妹を護りながら、なんとか炎を消そうと魔術を使っていた。私もそれに倣い、風の魔術で炎を消そうと試みるが、全てが遅かった。炎は家中に回り全てを焼き尽くそうとしていた。
既に退路は断たれ、逃げることもできない。
私は家族と抱きしめ合っていた。もう終わりだと思ったから。
でも、それは違った。私だけが違った。
パパが言った。
「◯◯、お前は生きなさい」と
ママが言った。
「貴女の中にある聖剣の鞘が貴女を守ってくれるから」と
言っている意味が分からなかった。そんな物があるならみんなで護って貰えばいいじゃないかと思った。
でも、聖剣の鞘は一人しか護らない。
私しか護れない。
だったらそんな物は要らなかった。ここでみんなと一緒に死にたかった。でも、それは許されなかった。次の瞬間には炎が私たちを包み込み焼いていった。
しかし私だけが違った。私は炎の熱も、火傷の痛みもまるで感じなかった。
私だけが護られて、家族は炎に焼かれている。
パパの顔が焼け爛れて崩れ落ちるのを見た。
ママの骨が砕ける音を聞いた。
血液が沸騰して全身の穴から血を噴き出す妹を見た。
その全てを私は鮮明に憶えている。
この先も決して忘れることはない。
そして場面が切り替わる。
あの火事の後、私は親友である美羽の家族に引き取られた。放火犯はまだ捕まっていない。
美羽の両親は、私に良くしてくれた。放火犯はまだ捕まっていない。
だけど私は、美羽の両親に心を開けないでいた。私と深く関わってしまったら私の家族みたいにいなくなってしまうのではないかと怖かった。放火犯とみられる男が見つかったらしいが逃走を続けているらしい。
私は次第に塞ぎ込み、学校に行くことも、美羽と話すことも少なくなっていった。放火犯の男が上半身と下半身が泣き別れした状態で見つかったらしい。
その日私は半年ぶりに学校に来ていた。理由は単純で、私の代わりに美羽がいじめられていると知ったからだ。
教室に入ると、待ってましたと言わんばかりに大量の罵声が飛んできた。でもそんなことはどうでもいい。一つも憶えていないから。
放課後になって、私は私をいじめていた奴らに呼び出された。そいつらは、いい物を見せてやると言って猿轡をはめてきた。どうせ碌でもない見せられるに決まっている。ニタニタと笑っている奴らが気持ち悪い。
私はとある無人の倉庫に連れてこられた。天井から一本の縄が垂れ下がっていて、その先が輪っかになるように縛られていた。あれで首でも括れと言うのだろうか。自分からするのならまだしも、こいつらに言われてするのは死んでもごめんだった。
でも、私の予想は外れたんだ。最悪の方向に
一頻り殴られて蹴られた後、ニタニタと笑っている奴らのリーダーみたいな奴が何か言っていた。すると、倉庫の扉が開いて人組の男女が入ってきた。男の方ははこいつらの仲間の一人だ。女の方は……美羽だった。
信じられなかった。あれを美羽だと信じたくなかった。美羽も私のことをいじめるのかと思った。
でも、それは違ったんだ。
美羽は私の方を向くと駆け寄ってきて抱き締めてくれた。
ああ、美羽はあったかいなぁ。本当にあったかい……
その間にも周りの奴らはニタニタと笑っていた。
どれくらいの時間抱き合っていたのかは分からないけど結構な時間そうしていたと思う。
リーダーみたいな奴が私たちに何か言ってきた。美羽はそいつを睨むと私から離れて行ってしまった。
「ごめんね。◯◯」
え?なんで謝るの美羽。
私の方が謝りたいことがいっぱいあるのに。
「私が死ねば、もう◯◯のことをいじめないって今ここでもう一回約束して」
美羽?何を言っているの?
いやだ…いやだよ。わたしをひとりにしないで
「私、バカだからさ。こうするくらいしか思いつかなかったんだ。」
美羽が縄の下にある台に乗り縄に手を掛ける。
美羽の所に駆け寄って辞めさせたいのに、周りの奴らが私を押さえつけていて動くことさえ出来ない。
「◯◯は私が居なくても大丈夫!良い事もいっぱいあるだろうし、友達だって沢山できるよ!」
友達なんていらない!美羽が居ればそれでいい!
そう言いたいのに、口に付けられた猿轡のせいで親友の名前を呼ぶことさえ出来ない。
美羽が輪になっている部分に頭を通した。
「だからね……私の分までいっぱい生きて!……さよなら◯◯。───だよ」
美羽の足が台から離れ、落ちていく。
だけど、その足は地面につくことはなく、宙吊りになっている。
美羽は苦しそうに呻き声を上げるが、暫くすると手脚を力なく垂れ下げ動かなくなってしまった。
周りの奴らは笑っていた。それはもう愉しそうに笑っていた。
突然、私の中からガチャリと何かが外れるような音が響いた。それは周りの奴らにも聞こえていたようで、こちらを訝しげに見ている。
でも、そんなことはどうでもいい。
私は私の中に何があるかを理解した。何を出来るのか理解した。何をすべきなのか理解した。
でも、そんなことはどうでもいい。
私は私のやりたいことをする。
さあ、こいつらを殺してしまおうか。
私は私を中心に風の魔術を発動させる。前までは少し強い風を起こすだけだったそれは今では台風並みの暴風となり人一人を軽く吹き飛ばすことが出来るようになった。倉庫にあった資材さえも巻き込み吹き荒れるそれに挽き潰された奴らが何人かいたがどうでもいい。
暫くすると魔力が少なくなり風が弱まってしまった。風で死ななかった運の良い奴らが倉庫から逃げ出そうと扉の方に走っているが、そんなの許すわけがない。私は側に落ちていた鉄パイプを持って逃げている奴らに投擲した。すると、何人かが串刺しになりそのまま絶命した。
残った奴らも恐怖で腰が抜けたのか、震えながらその場にへたり込んでいた。
そいつらは必死にを命乞いをしているが、美羽を殺した奴らに懸ける慈悲なんかない。私は右手に私の中にある剣を出現させた。それは、アーサー王が振るったとされる伝説の聖剣。伝承では、黄金に輝く聖剣と云われていたが私が持っているそれは黒く染まっており血のように赤い紋様が浮き出ていた。
私はそれを使って残った奴らの首を一人づつ刎ねていった。
そして、最後の一人となった時に残っていたのは奴らのリーダーだった。そいつは泡を吹いて気絶をしていたが、腹部を蹴り上げて強制的に起こした。
リーダーは意識を取り戻し私のことをにんしきすると、その顔は絶望に歪み命乞いを繰り返す。
だが、そんなことはどうでもいい。私は命乞いを繰り返すそいつの首を容赦なく刎ねた。
胴体から切り離された頭が足下に転がってくる。そいつの顔は、何故か妙に安らかな表情をしているように見えた。
気に入らない。
なんでお前がそんな顔で死んでるんだ!!
私はそいつの頭を思いっきり踏み潰す。辺りに頭だった物が飛び散るが、それには何の気持ちも湧かなかった。
だけど、これで漸く終わったんだ。家族を殺した奴も親友を殺した奴らもみんな殺してやった。
だからね…美羽。一緒にお家に帰ろう?
私は美羽を縄から外してあげた。そして、もう硬くなってしまった美羽をおんぶして倉庫から出る。
外は土砂降りだった。冷たい雨が仕切りに体に当たり体温を奪っていく。
こんな天気でも、美羽と一緒にいれば大丈夫だね
でも、なんでかな……
美羽と一緒に居るのにすっごく寒いんだ。
すっごくすっごく寒いんだ……
美羽……
私は躓き転んでしまった。起き上がろうとするけど、体に力が入らない。
ああ、私はここで死んじゃうんだ……
でも、美羽一緒ならいいかな……
私は遂に力尽き気絶してしまう。
そこから先はどうなったのかは分からない。
でも、私は夢を見続けている。
何度も何度も同じ夢を見続けている。