とても励みになります!
甚大な被害を齎したライブ会場の惨劇から1年と数ヶ月が経った頃、特異災害対策起動部二課の本場にて、異常な力場の発生を感知した。
フォニックゲインともアウフヴァッヘン波形とも違うそれは二課に僅かな混乱を招いたが、暫くすると力場の反応は収まってしまった。
しかし、異常な力場がどのようにして発生したのかを調べる必要があったため、すぐに調査部隊を結成し、早速調査に向かわせようとしたが、新たな反応が感知された。
それは二課の面々もよく知る、聖遺物などが発生させるアウフヴァッヘン波形と呼ばれるものだった。すぐに優秀なオペレーター陣が解析をして称号結果をメインモニターに映し出す。そこに映し出されていたのは……
「アンノウンだとぉ!?」
UNKNOWN……つまり、今まで観測されたことが無い聖遺物の反応がこの近くで観測されたということだ。
何故この街にそんな物があるのかは分からないが、事態は急を要する。それがもし危険なものであれば住民に被害を出しかねないからだ。
急いで調査部隊に指令を出し、現場の調査に向かわせた。
アウフヴァッヘン波形が観測されたのは郊外にある資材などを保管するための倉庫だった。辺りには人気がなく閑散としており、怪しげな物は見当たらはい。
やはり、件の聖遺物があるとすれば倉庫の中だろうか。
そう見当をつけた調査隊のエージェントの一人が、周りのメンバーに確認を取り倉庫の中に入る。
そこには異様な光景が広がっていた。
十数体もの死体が転がっていたのだ。重いものの下敷きになり潰されてしまっているかのようになっているもの、鉄パイプで無理やり貫かれているもの、鋭利な物で首を切断されたものが苦悶の表情を浮かべ絶命していた。
しかも、その全てが中学生ほどの少年少女だった。
普段ノイズを相手にしている二課のエージェントでも……いや、ノイズを相手にしているからこそこの惨状に戦慄してしまう。
自分の正気が失われるのを感じるが、必死にそれを耐え他のメンバーを招集して倉庫内の捜索を開始する。
しかし、暫く捜索をしてもめぼしい物は見当たらない。現場の状況から考えれば、観測された聖遺物には所有者がいて、そいつは既にこの場所から離れてしまっているのだろう。
すぐにその事を本部に連絡し、その結果倉庫周辺に怪しい人物がいないかを捜索することになった。
聖遺物所有者の捜索が開始されてから十分程がたった頃、司令部に一つの報告がなされた。アウフヴァッヘン波形が観測された倉庫のほど近くで、雨の中道路に倒れていた二人の少女を発見したのだという。二人は重なるようにして倒れており、下の少女に覆い被さるようにして倒れていた少女は既に事切れていたようだ。
すぐさま少女達は保護され、身元の調査が行われた。発見した頃には手遅れだった少女の名は桜美羽。普通の家庭で育った少女だ。調査した限りでは経歴に気になる点は見当たらなかった。
そして、発見された頃にはまだ息があり現在二課の所有する病院施設で治療を受けている少女の名はアル・ペンドラゴン。なんと、あのアーサー王物語の主人公、騎士王アーサーの直系の子孫らしく、ペンドラゴン家はイギリスの名家だったらしい。
そんな家に生まれた少女がなぜ日本で生活をしていたのか。調べたところによると、彼女が産まれたすぐ後に国籍不明の特殊部隊に襲撃され、それから逃げるようにして日本にやって来たらしい。
その後、紆余曲折あって今に至るらしいのだが、彼女の経歴を見る度に自分たちの罪を再確認させられる。彼女たちが現在の状況になってしまったのは、元はといえば自分たちがあの惨劇を起こしてしまったからに他ならないのだ。
彼女たちだけではない。今も多くの人たちがあの惨劇を切っ掛けに迫害を受けている。
どうにかしなければいけないとは思う。
だが、どうにもできないことも分かっている。政府直属の公には秘匿されている組織とはいえ、出来ることはそれ程多くない。だからこそ自分たちに出来ることを精一杯やって来たつもりだが、自分たちが起こした事態の尻拭いも出来ないなんてなんとも不甲斐ない。
ここで、携帯端末に連絡が入り思考の中断を余儀なくされた。確認してみると、連絡をしてきた相手は了子くんだった。
応答し用件を聞くと、保護された少女アル・ペンドラゴンくんの精密検査の結果が出たので、それを説明するために二課本部へと今から向かうとの事だった。
彼女が治療を受けている施設はここからそう遠くなく、すぐに到着するだろう。このまま司令部で待っているのがいいだろう。
アル・ペンドラゴンという少女を治療している施設から二課本部への移動中、私は少女の現在の状態について思案していた。
検査の結果、彼女はとても特殊な状態にある事が分かった。なんと、聖遺物と彼女の身体が完全に融合を果たしていたのだ。しかも、その数は一つではない。正確な数はもっと精密な検査をしなければ分からないが、最低でも二つの聖遺物が混ざり合って彼女と同化している。
さらに、彼女に聖遺物を融合させた人物がこの事を露見する事を恐れたのか、巧妙に隠され聖遺物に詳しいものでなければ融合している事が分からない様な細工までしてあった。
これは使える。彼女のデータを集めつつ研究を重ねれば、両翼に覚醒させたネフシュタンとの融合をより安全に確実に行うことができるようになるかもしれない。
そうなれば、また一歩我が悲願へと近づく事ができる。
私はそのことを考えながら、久しぶりに上機嫌で二課本部へと向かった。
了子くんが戻ってきて、早速二課メンバーへ彼女の現状の説明が開始された。
なんと、彼女は聖遺物との融合体だと言うのだ。にわかには信じられないが、そうだとすれば経歴にあった家事に巻き込まれながらも火傷一つも負わずに生還したというのは、傷を癒す聖遺物を宿していたからなのだろうか。
その聖遺物に一つ心当たりがあった。それは、アーサー王物語に登場する聖剣の鞘だ。所有者は一滴の血も流さず、重傷を負うこともないと云われるそれを宿しているのならば、家事の中から生還したというのも説明がつく。
しかし、それならば倉庫の惨状はどうやって引き起こしたのだろうか。状況から彼女以外が引き起こしたとは考えづらいが……まさか、彼女は巻き込まれただけで、下手人は他に居るとでもいうのだろうか。
そうならば、下手人の捜索は続けなければならない。
兎も角、彼女から直接話を聞いてみないことには分からないことが多過ぎる。彼女が目覚めるまでは、あらゆる可能性を考えて行動する必要があるだろう。
しかし、彼女はそれから一年の間、目を覚ますことは無かった。