オレと私は一人で二人!   作:御鍵

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物語の進行が遅いのは作者の特性がスロースタートだからではなくS種族値が5しかないから。ナマコブシの素早さと同じですね。


第二話:蠢動

 あれから三ヶ月が経った。

 あれと言うのはもちろんオレが琴葉(ことは)という名前の女児になり、超裕福な家の子どもとして目覚め、何故かポケモンのいる世界へやってきた事だ。

 この三ヶ月間色々調べて、ようやく琴葉やこの世界の事がわかってきた。

 

 まずオレこと琴葉についてだが。

 

「琴葉お嬢様、本日は午後14時よりお菓子作りのお稽古のご予定ですが、それまでは如何なさいますか?」

「そうだなあ、庭園でヒコザルたちと遊びたい!」

「かしこまりました」

 

 1998年4月5日午前11時22分、この西四辻(にしよつつじ)家の長女として生まれた。2003年12月6日現在、ほかに兄弟姉妹はない。

 なんか、某ドラゴ◯ボ◯ルに出てくるピ◯コロさんとほぼ同じ声をしてるシブい執事さんがいたり、他にも燕尾服やメイド服に身を包んだ使用人がたくさんいたりと貴族のような暮らしをしているが、西四辻家はただ財力がヤバイだけの一般家庭だそうな。

 少し意外なのは、このままの生活を続ければオレは古鳥(ふるどり)小学校という公立の小学校に通う事になるという事。これだけの金持ちなら私立に行くものかと思っていたが、どうやら前回でも通っていたのと同じ小学校に通えるらしい。ただ前回ではポケモンがいなかったのは勿論の事、西四辻 琴葉という人物にも会った覚えがない。『懐かしのあの頃に戻れる』なんて楽観的に構えず、多少以上のイレギュラーは覚悟しておくべきだろう。

 ちなみにこのピッコ◯ボイスの執事さんは男性の使用人の中じゃ一番オレと直接話す事が多く、オレのスケジュール管理や教育なんかは大体この人の仕事だ。彼は最初こそ畏れ多いと遠慮したがオレの気がひけるため、武宮(たけみや)さんと本名で呼んでいる。

 

「繰り返しますが午後にはお菓子作りが控えております。泥塗れになるような事だけは避けて頂きますようお願い致します」

「わかってるって」

柿川(かきかわ)からも同じ内容を言付かっておりますので」

 

 それと、女性の使用人でオレと直接話す機会が多いのは、主にオレの身の回りの世話をしてくれる柿川(かきかわ)さん。三ヶ月前のあの日、オレを起こしに来て身支度を整える手伝いをしてくれたのも彼女だ。

 それにしてもこの二人から同じ事を重ねて注意されるとは……三ヶ月以上前までの琴葉のお転婆さには未だに驚かされる時がある。

 

「何かありましたら庭師の待機小屋までお越しください。彼らに対応させましょう」

「いつもの事だね。じゃあ行ってきまーす」

「行ってらっしゃいませ」

 

 さっきサラッと言ったけど、西四辻家には広い庭園がある。多くのポケモンたちが思い思いに過ごしていて、彼らの楽しそうな姿を見ながら日向ぼっこしたりもちろん直に触れ合うのもオレの好きな事の一つだ。

 しかもポケモンの生態ごとに適した環境が用意できるよう、多少地形区分もされている。第四世代のゲームを遊んだ事がある人ならパルパークをイメージするとわかりやすいかもしれない。どんだけ広いのオレんち。

 

「よし、ヒコザル!行こ!」

「ヒコッ!」

 

 で、次にこの世界の事。

 意外だったのは、ポケモンが初めてこの世界に現れたのが西暦1906年3月3日だった事。元々存在していたわけではなく、割と最近になってから突然現れたのだという。

 正史——というかオレの知る日本史・世界史ではこの頃、日露戦争が終わって日本もロシアも財政難に陥り国力が疲弊していた時期だったはずだ。

 

「おはよう、みんな!」

「ヒコッコー!」

 

 そこから先の歴史はオレの持つ知識と大きく異なる。必ずポケモンが中心にいるからだ。

 細かい事は調べただけではよくわからなかったけど、衝撃的だったのは今の平和な日本や比較的穏やかな国交関係が世界大戦なくして成り立っている事だろうか。

 何しろポケモンが突如出現したのだ。人間同士で争っていては最悪の場合人類そのものが絶滅しかねない。人間の定めたルールにより領土を拡大しようが、そんなものは例えばカイリューがはかいこうせんを撃ちまくればそれだけで意味がなくなる。

 

「ギャラドス!今日も鱗が輝いてるね!」

「グオオ!」

 

 それを世界に知らしめ国境を超えた人類の一致団結を促した立役者が彼らギャラドスという種だ。庭園にいるコイツは武宮さんのポケモンだから当時の個体とはもちろん別物だが。

 さてこの青いこいのぼりみたいな形をしている巨大なポケモンがギャラドスというのだが、この種は本当に危険だ。何しろ水棲生物のくせしてひとたび暴れれば野山を丸々一つ破壊できるほど陸上での凶暴性も高い。こんなのがウジャウジャいる海の上で軍艦など走らせても、敵国に攻撃を仕掛けるより早く撃沈されるのがオチだ。

 

 ただ不可解な点もある。歴史を見ていると、ポケモンたちが暴れた事により人間が実害を被った事例がただの一つも見当たらないのだ。

 要するに、どうやって人類はポケモンたちの凶暴性と危険性を知ったのか、という疑問が残る。

 

「おお、ラフレシアの花びらは今日も鮮やかだね」

「ラッフウ」

 

 日露戦争は総力戦だった。さらに二国間以外の外交関係にも影響を与えた事で、オレの知る歴史ではこれを第0次世界大戦と呼ぶ人物もいたほどだ。

 1906年3月3日ならまだそのダメージが回復しきっていないはずだろう。そんな時期にポケモンが現れて、日本は、ロシアは、被害が出る前に彼らを制圧できたのだろうか。

 

「どうしたの、ニドリーノ。また二ドリーナと喧嘩しちゃった?」

「ニドォ…」

 

 これはオレの憶測に過ぎないが、恐らく当時にもオレと同じようなのが数人いたのではないだろうか。根拠も何もないが、そうとでも考えなければ今この世界で人類の文明が発展している理由も、人間とポケモンが共存できている理由も、オレにはまるで見当がつかない。

 

「今日も良い天気だなあ…」

「ヒッコォ…」

 

 オレがよくポケモンたちと触れ合っているのは彼らをもっとよく知りたいからでもある。創作物としてオレが一方的に知っているポケモンではなく、この世界で実際に生きている、本物のポケモンを。

 そうすればきっといつか真実も見えてくる——そう信じて。

 

 

 

♢ ♢ ♢

 

 

 

 鬱蒼としてまるで人気のない樹海の中、そいつは目を覚ました。全身を影のように黒い不気味な衣で包み、頭部からは白い髪のようなものが同じく影のようにうねりながら伸びている。首元には赤い牙のような物まで生えており、その姿が少なくとも人間でないことは誰が見ても明らかだ。

 

「……ここは…………?」

 

 体力を消耗しているのか、そいつの動きは鈍い。身体のどこかが痛むのか、僅かに覗く目も苦しげだ。

 

「クッ……!わからん、何故だ………ワタシは何か、何かを思い出したいのに……!何を忘れたのか、何故思い出したいのか……何故忘れたという事がわかるのか、わからん……!」

 

 どうやらそいつの様子が苦しげなのは、ただ消耗しているだけというわけでもないらしい。

 そいつはいわゆる記憶喪失に陥っていたのだ。

 

「……誰だ」

 

 ふと、そいつに近付く気配があった。そいつは全身のダルさも一度傍に置いて、凄みの効いた声で近付く気配に威嚇する。

 

「ヨンワ」

「……本当に誰だ?ワタシはお前によく似たものを見た事がある……気がする。だがワタシにはお前がわからない。よしんばワタシの見たものと同じ容姿(かたち)だったとしても、何となくソレとお前は別物である気がする……」

 

 そいつの前に姿を現したのは、これもまた人間ではなかった。『おばけ』と聞いて真っ先に想像するデフォルメされたあの絵の姿から腹部と腕が巨大化し、特にその腹部には顔に見えなくもない模様がある。

 

「ヨンワール」

「ヨ、ン、ワー、ル…()(わる)……だが自称ではヨンワール?うむむ…聞き覚えがなくもないような……いや、今それはいい」

 

 そいつはしばし頭を抱えて唸っていたが、やがて改めてそのヨンワール(仮)に向き直った。

 

「おい、ヨンワール。お前に聞きたい事がある」

「ヨンワール……ノワ、ヨンワ」

「? ここはどこだ。ついでにお前は何故ワタシの前に現れた」

 

 名前を呼ばれたヨンワール(仮)が俄かに微妙な表情になったのを少し疑問に思いつつ、そいつはもっと優先的に答えを得たい質問をした。

 だがヨンワール(仮)も、そいつが期待するような答えは持ち合わせていなかったようだ。

 

「ノワ、ヨンワ、ヨンノワール」

「フジ…アオ、ハラジュ……?何だそれは。いや、しかし、ワタシがお前の縄張りに入ってしまったから追い出しに来たのか。それは悪い事をした」

 

 そいつは見た目も不気味で言葉遣いこそ横柄に取れるが、態度は実に殊勝であった。

 そのギャップに毒気を抜かれたヨンワール(仮)は、さっさと追い出そうという当初の目的を一度忘れもう少しそいつと会話をしたくなった。

 

「ヨンノワール」

「ん?ワタシの縄張りか?すまない、わからないんだ。気付いたらここにいて、ほとんど何も思い出せなくなっていた」

 

 そいつは自身の状態を素直に話した。ヨンワール(仮)に対する警戒心は解いていないが、それ以上にそいつには頼れる存在が必要だったのだ。

 ——いや、そいつにとって最も似合う言葉で表現するなら、利用できる存在が。

 

「ノワ…」

「……何だと?」

 

 そしてヨンワール(仮)にも、そいつが記憶喪失だと知った事で打算的な考えが浮かんでしまった。

 

「取引をしようというのか。ワタシはお前の縄張りで過ごさせてもらう代わりに、お前の野望とやらに協力しろと。……その野望というのは、一体何だ」

「ヨンワー…」

「答えを聞かねば教える事はできない、そういう事か」

 

 この世界に生きる全ての人間が善人というわけではないように、ポケモンの中にも悪い心を持つ者がいる。そうでなければ善だ悪だという概念すら生まれない。

 そしてヨンワール(仮)は、他の者にとっては不運な事に、そしてそいつにとっては恐らく幸運な事に、悪側だった。

 

「……良いだろう。このままではワタシには頼る者がない。お前は野望を為すために協力者が必要。となれば利害の一致だ。ククク……記憶喪失と言っても、語彙や思考・判断能力までは損なわれていないようで安心したぞ。いや、もしやある程度失われてこれか?何にせよラッキーだ」

「ヨンワール」

 

 そいつとヨンワール(仮)が探り合いをしている間に、辺りにはすっかり夜の帳が下りていた。ヒトの気配など一切感じない鬱蒼とした樹海の中は、夜になった事でさらに不気味さを増している。

 そんな暗黒の森で、この世界において後に史上最悪となる協力関係が結ばれてしまった。

 

「クックック…」

「ヨンワール…」

 

 もしもそいつが目覚めて最初に会ったのがヨンワール(仮)でなければ、この先の出来事はまた変わっていただろうに。

 よりによって、考え得る限り最悪の事態が引き起こされようとしていた。その事実に気付ける者など、この夜には誰もいないまま。

 




ちなみに作者のS種族値って執筆速度の事ね。
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