オレと私は一人で二人!   作:御鍵

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間空けすぎちゃった。最低週一ペースは守ろうと思ってたのになあ。


第六話:準備

 2008年4月15日。

 もう通常授業も開始し、オレたちのような小学生は久し振りの勉強に頭と体を慣らすのに勤しんでいる頃だ。

 この日の朝、オレは涼音と一緒に教室の後ろの壁に貼り出されたクラス全員分の自己紹介シートを見ていた。

 と言っても、中身を細かく読むのは何となく気になった一部のクラスメートの分だけだ。

 

「あっ、琴葉ちゃんの見つけた。好きな食べ物は、イチジクのタルト……一昨年から変わってないね」

「あぁ、うん。美味しいからね」

 

 要は仲の良い友達のものから見ていくという事だ。

 ちなみにオレはイチジクのタルトも好きだが、こういう一番好きなもの一つを選ぶとなったら実は焼き肉の方が好きだ。ただそれだとどうも可愛げがないし、焼き肉が好きな最大の理由はビールによく合うからである。

 小学生がそんな事を語れるわけがないので、二番目に好きなイチジクのタルトを安定択として取っている。

 …あー、ビール飲みたい。

 

「嘉島 涼音は…あった。好きな食べ物、餃子?涼音は一昨年のと違うんだね?」

「うん。最近は餃子も好きになっちゃって」

 

 結構ガッツリしたものが好みのようでオレは少しビックリした。その割に縦にも横にも大きくならないのは意外にも運動の習慣があるのか、将来的にもっと違う場所が育ってくるのか…今それを考えるのはよそう。

 

「餃子かあ。良いよね、餃子も。あれもすっご——ゴホッ、ゴホッ!」

「だ、大丈夫?琴葉ちゃん?」

「う、うん。大丈夫。喉にホコリでも引っかかったかな?はは、はははは…」

 

 危ない危ない、うっかりビールに合うよねって言う所だった。ついさっきビールの事考えたばっかりだったからか…?気を付けないと。

 

「こっちは英美のか。好きな食べ物はオールドファッション?あいつ甘いのいけるんだ…」

「意外だった?」

「英美!いつからそこに?」

 

 突然背後から声を掛けられ、オレは飛び跳ねて驚きそうになった。

 

「琴葉ちゃん、琴葉ちゃんが咳き込んだ辺りからいたよ」

「涼音は気付いてたんだ…英美、おはよう」

「おはよ、琴葉。ふぁーあ…眠い…」

 

 英美は自己紹介シートには目もくれず呑気に欠伸をしていた。本当に眠そうだ。あまり寝ていないのだろうか。

 

「英美、寝不足は健康にも美容にもよくないよ」

「ええ?あぁ違う違う、そうじゃないの。こんな季節に二日も続けて学校来るなんて久し振りだからさ」

「英美ちゃん滅多に学校来ないって、本当だったんだ…」

「まあね。テストくらいは受けに来てるし月に4、5回は来るようにしてるから、滅多に来ないってほどじゃないと思うけど」

 

 英美、それは滅多に来ないって言うんだよ。

 とは言えなかった。オレがわざわざ自己紹介シートを見ていたのには理由があったからだ。

 時計を見ると先生が来る時間まであと僅か。それまでにある児童の分だけは見ておきたかったのだ。

 

「ん?琴葉、何を見てるの?」

封城(ほうじょう) 拓真(たくま)…」

「? それってあの髪のキレイな男子?」

 

 封城 拓真。6月21日生まれ、性別男。

 男子にしては少々長めの髪をキレイに整えており、顔も日頃からややしかめっ面なのを除けばかなりカッコいい部類に入る。体格は平均的だが体力はトップクラスらしい、というのは過去三年間の中で封城が積み上げてきた実績に基く噂だ。

 自己紹介シート曰く好きな食べ物は野菜うどんで、趣味はポケモンバトルの観戦と——

 

「へえー、ゲームが趣味なんだ。珍しい子だね」

「うん、だからちょっと気になってね」

「なるほどね」

 

 そう、この歳でゲームが趣味というのはこの世界じゃかなり珍しい。

 と言うのも、この世界にはポケモンがいる。その上ペットとして可愛がっている家庭も多いし実際オレだってヒコザルと一緒に育ってきた。

 ポケモンが常に隣にいる環境だから、一人で遊ぶだけになりがちなゲームというのは子供の間ではそれほど流行っていないのだ。友達と遊ぶなら可愛いポケモン自慢や運動競技が主流、小学四年生になって自分のポケモンを持てるようになればもうポケモンバトルが基本だ。プロトレーナーの道を諦めた年齢からはゲームが趣味というのも珍しくはなくなってくるが。

 ただしオレが封城について最も気になる点は、このポケモンが存在する世界においてゲームが趣味であるという点ではない。

 

「琴葉ちゃん。封城君なら、今日もちゃんと学校来てるよ」

「まあ、このクラスに限って今日休む人はほとんどいないんじゃないかな」

「確かにね。あたしが今日学校来たのだってそれ(・・)があるからだし」

 

 さて、ぼちぼち先生が来る頃だろう。着席を促すチャイムもなった事だしオレたちも座るか。

 何より今日は、英美も言っていたようにあれ(・・)があるからな。小学生二回目のオレさえつい気持ちが浮ついてしまう大事なイベントが。

 ……まあ、今日はまだいわゆる準備段階でしかないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——それでは、本日のポケモン学の本題に入ります」

 

 いかにもこの世界らしいポケモン学というこの科目は、主要科目に数えられてこそいないもののコマ数がかなり多い。生徒・児童側からは前回で言う体育の人気を遥かに凌駕し、また生物と直に関わる話なので大人側からもかなり重要視されているのだ。

 ポケモンたちを前回で言う所のイヌやネコなどと同列に扱う事ができないくらいには、彼らはヒトにとって身近な存在である。

 

「今年は皆さん心待ちにしているでしょう、自分のポケモンが持てる年です。ポケモントレーナーとしての心得は去年までの授業で勉強した通りですが——」

 

 担任の先生はここで一旦言葉を区切り、クラス内の一部の児童をチラリと見てから言葉を続けた。

 

「——国語や算数の授業の様子を見る限り、一部の人は去年の勉強内容をかなり忘れてしまっているようなので、今日のポケモン学も復習を兼ねた小テストから始めます」

 

 クラス中が落胆した雰囲気に包まれた。気持ちはわかるが、オレに言わせれば仕方ない事だ。ポケモンについての心得や知識は主要科目と同じくらい、あるいはそれ以上に重要で大切なのだから。

 今年のオレたちの担任、茅原(かやはら)先生はまだ若いがキビキビとした立ち居振る舞いで規則に厳しい女性の先生だ。オレの記憶が間違っていなければ前回の小四と同じ担任である。……ちなみに現時点では転生前のオレより一つか二つ程若い。

 ポケモン学の初回で小テストから始めるのはこういう人だからこその優しさだ。とは言えオレもこれが一回目なら周りのクラスメートたちと同じ反応をしただろう。

 

(テストの内容は特に難しい事もないな。いくらポケモン学がこの世界特有の科目っつっても、勉強以前に常識の範囲で考えれば分かる事ばっかりだ)

 

 茅原先生に指定された制限時間の15分の間、オレたちは黙々と小テストに取り組んでいた。少しだけ視線を動かせば英美も涼音も特に困った様子なく手を動かしているのが目に入った。

 

「封城君、もう終わったんですか?」

「はい」

 

 ふとオレの後ろの方から茅原先生の声と封城の退屈そうな返事が聞こえてきた。どうやら彼は思いの外簡単な内容だったテストをさっさと終わらせて頬杖をついていたようだ。

 まだ小テスト開始から6分、オレももうすぐ終わるが字を書くのが遅い人はもう少しかかるだろう。そんな中で一人だけ暇そうにしていれば確かに浮く。

 

(なんか、クセの強いメンバーが多いな…このクラス)

 

 オレは苦笑しながら自分の小テストに意識を戻した。

 

 それから3分程度が過ぎるとクラスの全員が小テストの紙を裏向きにし、時間が来るのを待ちわびていた。まだ頭を抱えている人がいない事を確かめると茅原先生は教壇に立ってクラス全員の注目を集める。

 

「はい、時間前ではありますが皆さんもう終わったようなので、答え合わせに移ろうと思います。隣の席の人とテストを交換してください」

 

 学校ではお馴染みの軽い不正防止システムに懐かしさをおぼえつつ、オレは隣に座る男子と小テストを交換し茅原先生の読み上げる正答とテストに書かれている答案を照合していく。

 隣の男子には申し訳ないがオレは彼の事を覚えていない。名前だけは卒業アルバムで見た覚えがあるが顔は全く忘れてしまっていた。要するにその程度の印象の相手だったのだ。

 …しかも彼は基本のタイプ相性もうろ覚えだし、ポケモンと接する上でのトレーナーの心得として正しいものを選ぶ記号問題ですら字が汚すぎて読めないという謎現象のせいで酷い点数になっていた。

 

「では全問正解だった人は手を挙げてください」

 

 クラスのほぼ全員が手を挙げた。ここで手を挙げられていないのは隣の彼と、なんと涼音もだった。

 あいつ何を間違えたんだろう。

 

「何人かの手が挙がっていないようですが……では一問だけ間違えてしまったという人は?」

 

 涼音がここで手を挙げた。

 

「嘉島さん、どこを間違えてしまいましたか?」

「あ、あの…ポッポのタイプを答える問題で、ノーマルタイプを忘れていました…」

「なるほど、確かに間違えやすい問題ですね。ポケモンが持つタイプの把握はバトルでは大事な知識です。今回正解だった人も授業で習った事のあるポケモンの分は最低限復習しておくように」

 

 なんとも涼音らしいミスをしたものだ。草タイプ好きな彼女だからこそ飛行タイプの印象ばかりが勝ってしまったのだろう。

 今のやり取りから分かる通り、この世界の一般的なバトルの水準はかなり低い。プロ同士のバトルでも特性や変化技は効果を知っているだけで(つう)扱い、ゲームであったような天候を利用したパーティだとか、持ち物を絡めた戦術だとかはほぼ使われていない。

 

「では次にアンケート用紙を配ります。これは皆さんの最初のポケモンの希望を取るためのものなので、周りと相談したりせず自分の素直な気持ちを書いてください」

 

 その分この世界のポケモンバトルでは、ゲームではあり得なかった三次元の空間を利用した立体的なバトルが鍵になってくる。多彩な技を立体空間でどう活かすか、その工夫がプロに求められる技能だ。

 この世界のポケモンバトルとは、いわば見世物なのだ。

 

「……ちなみに、先程の小テストで半分以上間違えてしまった人はいますか?」

 

 隣の彼が手を挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったー。これで金曜日にはポケモンに会えるんだ」

 

 授業が終わって休み時間。英美がわざとらしく伸びをしながらオレの所へやってきた。

 

「あれ、英美って家でポケモン飼ってないの?」

「ないない。あたしってばどうもポケモンをペットとして見れなくってさ。だったらもう正式にトレーナーになってからパートナーとしてポケモンを持ちたくて」

「あ、それすごく素敵だと思う。なんか、本当にポケモントレーナーって感じがして」

 

 涼音も会話に入ってきた。どうやら英美にはもうだいぶ慣れたようだ。

 

「って、私は結局、今までペットにしてたナエトルを最初のポケモンにするんだけどね…」

「それも『素敵』じゃん。『本当に』自分のパートナー『って感じがして』?」

 

 英美は悪戯っぽく笑いながら、涼音の言ったものと同じ単語を全て強調しながら返した。涼音は顔を赤くしてからかわないでよと抗議しているが、恐らく強調していなかった部分も英美の本心だろう。

 

「琴葉は?最初のポケモン、どうするの?」

「私はやっぱりあのヒコザルにするよ。物心ついた時からずっと一緒に育ってきたし」

 

 これはオレがずっと決めていた事だ。

 あのヒコザルはオレが初めてこの世界で目を覚ました時、既に西四辻 琴葉とかなり仲が良かった。

 それをオレの都合で引き離すのは偲びないし、何よりこの世界で過ごす内にオレはあのヒコザルの事を心の底から可愛がるようになっていたのだ。間違いなくオレ(・・)の感情で。

 

「へえー。……ねえ琴葉」

「なに?」

それ(・・)、ポケモンの前でもやるの?」

 

 改まって問いかけてくる英美の眼は、まっすぐオレの眼を捉えていた。

 その質問にオレはすぐに答える事ができず、質問の意味がわからない涼音はまた不思議そうな表情になっている。

 教室内の喧騒が、いつもよりうるさく感じられた。

 




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