オレと私は一人で二人!   作:御鍵

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間空けすぎてごめんなさい。
これからも不定期な更新にはなってしまいますが、もしよろしければお付き合いくださいな。



第七話:傲慢

「琴葉、いよいよ今日からだな」

「うん、お父様」

「ごめんね、琴葉。せっかくの記念日なのにお祝いできなくて。パーティは明後日、日曜日にしましょう」

「気にしなくていいよ、お母様。ポケモンリーグのお仕事なんでしょ?誕生日に大袈裟すぎるくらい祝ってもらってるし、そんなパーティだなんてはしゃがなくても」

 

 2008年4月18日。

 朝食の時間に、オレは父と母からトレーナーデビューについての祝いの言葉をもらっていた。

 この世界では10歳になる年度の四月に、学校で最初のポケモンと共に初級トレーナー免許証をもらう事で正式なトレーナーデビューの節目としている。家庭で飼っていたポケモンを最初の相棒とする場合、その日からポケモンをモンスターボールに入れて学校へ連れてくる事が可能となるのだ。

 ちなみに学校ではポケモン学でもない限り自分のポケモンをボールから出す機会はないが、そういう日の授業中は中庭で遊ばせておく事ができる。

 一応『なつき度』の概念はポケモンの進化と密接に関わっているためこの世界でも知られており、よほど古い伝統を守り抜いている厳しい学校でもない限りは、ポケモン学やバトル関連の行事がなくても学校にポケモンを連れていく事は認められている。

 

「それじゃあ行ってきます!」

「行ってらっしゃい、琴葉」

「しっかりね」

 

 父と母からもう一度温かい言葉をもらうと、オレは家を出て学校へと歩き始めた。今日のポケモン学は一限目、正式なトレーナーデビューが楽しみでついいつもより早く家を出てしまった。

 しかし歩き始めてすぐ、この間英美に言われた言葉を思い出してしまった。

 

『ねえ琴葉。それ(・・)、ポケモンの前でもやるの?』

 

 周りにあれだけ多くの人がいる環境だったため直接何の事かは言わなかったが、オレにはこの言葉だけで充分だった。

 オレは今でも英美以外の人と話す時は一人称を「私」にしている。それは本質的にはオレじゃない琴葉に気を遣っているからというのと、万が一にもオレが元男でTS転生した事がバレないようにするためというのが主な理由である。

 要するにオレは、自分を「他人より少し元気の良い普通の女の子」を取り繕っている状態がデフォルトなのだ。

 

「一応ヒコザルには素を見せてるつもりなんだけどなあ…。確かにどうしよう…」

「あ。おはよう、琴葉」

 

 独り言を漏らしながら歩いていると背後から英美に声を掛けられた。

 

「英美、おはよう。あれ、いつも道こっちだったっけ?」

「ノー。今日は何となくそんな気分だったってだけだよ」

 

 オレは英美の家がどこにあるか知らないが、そういえば英美はオレの家と自分の家の位置関係を知っていてもおかしくない。

 それにしても、何となくそんな気分、か。多分今し方考えていた事について話したいんだろうな…。

 

「やっとこの日が来たって感じだね」

「う、うん…」

「ん?元気ないじゃん。どうしたの?」

 

 英美の発言一つひとつを注意深く聴きながら歩いていたので、うっかり生返事を返してしまったらしい。

 とはいえここで悩んでいても時間はいずれ来る。だったら周りに知ってる人が誰もいない時に自分から話しておいた方が良いか。

 

「いや、実はさ、まだ迷ってて…」

「何を?」

「……オレのこと」

「ああ、それか」

 

 いざ話そうと思うとどう言葉にしたものかわからなくなってしまい変な言い方をしてしまったが、英美にはしっかり伝わったようだ。

 彼女は呆れたような溜め息を一つ吐いてから話し始めた。

 

「別にいいんじゃない、何でも。この前あんな事言ったのはあたしだけど、よく考えてみたら琴葉、親の前でもそれやってるでしょ」

「うっ……」

「やっぱり。屋敷の人には言わないでくれ、って言ってたもんね」

 

 そうか、どうしてわかったのかと思ったら、確かにあの時オレはそんな事を言ったな。

 でもそう言われてみれば答えはオレが思っていたよりずっと単純なものである気がしてきた。

 

「でも琴葉は、カブルモとバトルしてる時は普通だった。ヒコザルの前ではそれ(・・)やってなかったわけだ」

「あぁ…確かに」

「じゃあもう、それで解決じゃない?あたしの言った事は最初から悩む必要なんてない事だったって訳で」

 

 あっさり結論が出てしまった。

 オレは本当に何を悩んでいたのやら…答えはこんなに単純だったんだ。なのにオレは複雑に考え過ぎて、一番簡単な結論を見ていなかった。

 英美の俯瞰的な姿勢にはオレも見習うべき所があるかもしれない。一見素っ気ない態度とも取れるが、この冷静さは彼女なりの優しさを胡散臭くさせない要素でもある。

 

「ありがとう、英美。おかげでスッキリしたよ」

「そう。なら良かった」

 

 何なんだろうな、実際に生きた年数で言えば英美たちなんてオレより遥かに下なのに。オレは小学生二回目なのに。

 だからこそオレには彼女のような人たちから学ぶべき事がある、という事なのだろうか。

 

 

「あー、さすがに早すぎたかな。まだほとんど誰も来てないし」

「はは…てっきり考える事は皆同じかと思ってたけど、ここまで舞い上がってたのはオレたちだけだったみたいだな」

「だねー」

 

 やっとポケモントレーナーになれる。

 そう考えただけで気持ちが浮ついてしまい早すぎる時間に家を出た結果、まだ教室どころか学校内にほとんど人がいなかった。

 ほとんどという事は、数人程度はもう来ているという事でもある。

 オレと英美が教室に入ると、普段はあまり目立たない男子がもう席に座ってノートに何か熱心に書き込んでいた。

 

「封城君?おはよう、早いんだね」

「…ん、お前は……西四辻、だっけ。あと…円山?」

「そ。おはよ、封城」

「ああ」

 

 英美はいきなり遠慮のない距離感で挨拶した。オレの時とは大違いだ…もっともそれはオレが自分を隠していたからだろうが。

 一方で封城もそこについてはさほど気にしていないようだ。

 

「封城君はいつもこんな早く来てるの?」

「いや、今日だけだ。そういうお前らは?」

「同じ。遂にトレーナーデビューって思うとどうしてもね」

「…円山もか?」

「そんなとこ」

「意外、だな」

 

 少しの間オレたちの方を見ながら話していたが、オレも英美も一通り荷物の整理を終えた頃にはもうノートに目を戻していた。

 やっぱり気難しい人なのかなと思って次の言葉に迷っていると、なんと今度は封城の方から声が掛けられた。目はノートを見続けているが。

 

「意外と言えば」

「うん?」

「お前ら、有名人だよな」

 

 脈絡もなく封城はそう言った。

 オレも英美も彼の言いたい事がわからず、無言で次の言葉を待つ。

 

「西四辻はいつも成績トップクラスで皆に優しいお嬢様。円山は滅多に家から出ないし夏でも長袖の変わり者」

「うん、そうだね」

「あたしもそう思ってるし」

「二人に対してみんなが持ってるイメージは真逆だ。そんなお前らが実は友達だった」

 

 ここで封城は一度ノートから顔を上げ、オレたちの方を見て続けた。

 

「意外な組み合わせだ」

「………え、それだけ?」

「つまんな」

 

 最後の一言が思いの外あっさりしていた事で、オレは拍子抜けし英美はばっさり切り捨てた。

 そんなオレたちに封城は苦笑し、またノートに何か書き始めながら言葉を発する。

 

「せっかくこの三人しかいないんだ。イメージだけで見ずに直接話したいと思っただけだよ」

「言ってる事とやってる事が噛み合ってないんだけど」

「悪いな。俺もポケモンと会うのが楽しみなんだ。少しでも多く最初にもらえるポケモンについて復習しておきたくてさ」

 

 すかさず突っ込んだ英美にも封城は冷静に返した。オレが言うのも変な話だが、何というか大人だ。

 

「それ、ポケモンについて書いてるの?」

「ああ。ポケモンバトルはデータやシミュレーションじゃない。いくらプロの試合を見ても俺たちじゃあんな風にはできないからな」

「準備するに越した事はないって訳か」

「そうだ。…西四辻が優等生って噂は本当そうだな」

 

 この世界で初めてもらえるポケモンは、ゲームで言う所の御三家が該当する。事前のアンケートでは性格診断のような質問をされており、その診断結果から各新人トレーナーの性格に合いそうなポケモンをプロが判断して三匹に絞り込むのだ。

 

「俺が思うに西四辻なら……草タイプはフシギダネ、炎タイプはアチャモ、水タイプはアシマリじゃないか?」

 

 今封城が言ったように、世代はごった煮だ。この世界にとってポケモンは現実、ゲームに登場した順番など関係ないのだ。

 

「どうだろう。何にせよオレはもう一緒に育ってきたヒコザルを相棒にするって決めてるからなあ」

「……へえ。そうなのか」

 

 オレの答えに対して封城は意味ありげに笑った。ただオレとしても今回自ら素をさらけ出したのは敢えてやった事だ。

 

「イメージなんて当てにならない物でしょ、封城君?こっちがオレの素」

「そうだな、西四辻の言う通りだ」

 

 円山はオレが本来の自分を隠すのを嫌った。それが最初中々気を許してくれなかった理由だし、素を隠すのをやめてからはむしろオレをからかうほどの勢いだ。

 なんとなく、これは本当になんとなく感じた事なのだが、封城もオレが素を隠すのは良く思わないだろう。

 封城と円山はどこか似ているし、何よりこの二人には——

 

「円山、お前はどうだ?」

「あたし?」

「ああ。西四辻とはもう十分話した。後は一年あれば足りるさ。でも円山とはまだ話し足りない」

「ふーん、良いよ。何の話だっけ」

「最初のポケモンについて」

 

 ——少なくともオレにだけは確信できる、大きな共通点がある。

 

 

「それではこれから、皆さんに初級ポケモントレーナー免許証を配ります。出席番号順に名前を呼ぶので呼ばれた人は取りに来てください。全員に免許証が渡ったら校庭に集合し、そこで初めてのポケモンと対面になります」

 

 あれからオレと英美、封城の三人で雑談をしているうちに他の人も徐々に登校し、教室の中も賑わってきた。封城は涼音がやってきたタイミングでさり気なく会話から外れ、結局いつものグループで話していた。

 そんな、今日に限っては皆がいつもより長く感じていた朝の時間も過ぎ去り、ようやく一時間目の授業が始まった。

 

「封城 拓真君」

「はい」

 

 茅原先生が一人ずつ名前を呼び免許証を渡していく。

 

「嘉島 涼音さん」

「は、はいっ」

 

 そう、今この瞬間この教室で、また新たなポケモントレーナーがこの世界に誕生しているのだ。

 

「西四辻 琴葉さん」

「はい!」

 

 その中には当然オレもいる。

 そして同時に、この教室の全員がオレのライバルという事にもなる。

 

「円山 英美さん」

「はーい」

 

 オレが感傷に浸っている間に、このクラスの全員が免許証を受け取った。

 一気に教室中が沸き立つ中茅原先生が手を叩いて注目を集める。

 

「はいはい、皆さん!わくわくするのは分かりますがこれからが本番です!校庭にはもう皆さんの初めてのポケモンを連れてきてくださった方がいます!ポケモントレーナーになったという自覚と責任感を持って素早く集合するように!」

 

 茅原先生は大声で注意すると足早に教室を出て行った。おそらくポケモンを連れてきた人たちに間もなくだと言いに行ったのだろう。

 それならオレたちも早く——そう思っていたら涼音がこの上なくそわそわした様子でオレのもとへやってきた。

 

「い、いよいよだね、琴葉ちゃん。私、緊張してきちゃった…」

「そうだね。って言っても、私たちはこれまで一緒に暮らしてきたポケモンが相棒だから、そんなに変わらないけど」

「そ、そうだけど…そうじゃなくて……さすが琴葉ちゃん、すごく落ち着いてるね…」

「?」

 

 涼音の様子がどうもおかしい。オレにはその理由がわからないが、どうも歯切れが悪いというか何というか…。

 オレが戸惑っていると英美も会話に参加してきた。

 

「もしあたしが琴葉の立場だったら、さすがのあたしでも落ち着いていられないなー?」

「どういう事?」

「え、まさか琴葉ちゃん、忘れたの…?」

 

 二人して何の話をしているんだろうか。

 オレの疑問に対する答えは、英美がいつもの悪戯っぽい笑顔と共に出してくれた。

 

「四年生のポケモン学、初めてのポケモンをもらう授業ではさ。各クラスの総合成績上位二人がみんなの前でポケモンバトルの実習をするんだって」

「は?いやそれ初耳なんだけど!?二人はどうしてそんな事を…特に英美なんてホントたまにしか学校来ないのに」

「琴葉ちゃん…一年生の時に言われたよ……?」

「琴葉も案外先生の話聞いてないんだ」

 

 一年生の時って…むしろ涼音はよく覚えてたな。

 でも言われてみれば、あの頃はオレも内心で周りを見下していたり明らかな『強くてニューゲーム状態』に気怠さを感じていたりしたから、人の話をまともに聞いていなかったのも確かだ。

 

「でも、それと私に何の関係が?このクラスの成績上位二人って、まだ今年度に入ってからテストもしてないのに」

「だから、去年最後のテストが基準。このクラスじゃ琴葉と——封城が、同率一位だったかな?」

 

 封城か。彼についてもまだ知らない事は多いな。

 しかし今はそんな事より、オレがクラスで成績一位?たかが小学校のテストと言えど、その油断からのケアレスミスとか授業で扱ってない解き方で問題解いたりとかで割と減点もらってるのに、その上で一位なのか。

 

「……知るのが急すぎたせいで、緊張するほどの余裕も私が成績一位とかいう事に対するビックリもないんだけど」

「前半はともかく、後半マジで言ってる?」

「琴葉ちゃん、ほとんど毎回100点近く取っててそれはないよ…」

 

 なぜか涼音にまで引かれた。

 いいや、どの道もう時間がない。不安要素は数あれど、オレだって一度は社会人を経験した身——もとい精神だ。だったらここはもう、それこそ三年前の自分のような傲慢さを思い出した方が良いかもしれない。

 それがどんな結果を招こうとも、な。

 

 

 

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