オレと私は一人で二人!   作:御鍵

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第八話:無知

 

「他のみんなが初めてのポケモンを選ぶまでは、そわそわしっぱなしだね」

「うん…」

 

 校庭にて遂にオレたちのクラスにもポケモンが受け渡される時が来た。

 オレや涼音はペットだったポケモンがそのまま相棒になるので待つ事しかできないため、余計に焦れったく思える。

 

「そうでした。お家で一緒に暮らしていたポケモンを最初のポケモンにする人はもうそのポケモンをボールから出してあげて良いですよ!」

 

 オレたちのような人のそわそわした雰囲気を感じ取ったのか茅原先生がいつもより優しい声で許可を出してくれた。

 それを聞いた面々は待ってましたとばかりに各々のモンスターボールから自分のポケモンを出していく。

 そしてそれは、当然オレと涼音も例外ではなかった。お互い明るい笑顔で顔を見合わせると、オレたちもボールを放ってポケモンを出す。

 

「よし!おいで、ヒコザル!」

「ヒッコオ!」

「ナエトル、あなたも」

「アーオ」

 

 オレのヒコザルはかなり陽気な性格だ。オレにとっては見飽きた学校という場所もヒコザルにとっては初めて見る景色、ウキウキして足元を駆け回っている。

 一方涼音のナエトルは落ち着いたもので、彼女の足にややもたれながら欠伸などしている。かなり呑気な性格らしい。

 

「頭の葉っぱはみずみずしいし、甲羅も肌もツヤがあって綺麗。涼音は本当にそのナエトルの事が好きなんだね」

「そ、そんなこと…ううん、その通りだけど…ちょっと恥ずかしい……」

 

 オレが素直に思った通りの事を口にすると涼音は顔を紅くして俯いてしまった。ナエトルは彼女のこんな様子も見慣れているのか前足で慰めるように涼音の脚を軽く叩いていた。

 

 オレたちがそんな茶番をしているのを傍目に見ながら、英美たちポケモンを新しくもらう面々は目の前に並んだ三匹のポケモンたちに心を奪われていた。

 オレからは見えない位置にいたが、それは英美や封城でさえ同じだったらしい。この二人はそう簡単に感情が表に出るタイプではないが、この時ばかりは仕草に出てしまっていたようだ。

 

「俺の相棒候補は——へえ、なるほど…。おもしろいポケモンたちが出揃ったな…」

 

 封城の場合はこんな風に独り言を漏らし。

 

(ふーん…あのカブルモも琴葉ん家のも殺気立ってたからなあ。悪いのあたしだけど……でもこうやって見ると、案外悪くないかも…)

 

 英美の場合は口元に手を当てるなどという普段は絶対にしない、どちらかと言えば涼音がよくしそうな仕草をしていたそうな。

 

「はい、それでは皆さん自分のポケモンを選び終えましたね。ここにいるだけでもかなりの種類のポケモンがいると思います。ですが世の中には、今この場にいる数より遥かにたくさんの種類のポケモンがいるのです」

 

 そして全員が自分の相棒となるポケモンを選び終えたのを確認すると、茅原先生がクラスの児童全員を集合させて演説を始めた。

 

「皆さんが最終的にポケモントレーナーを目指すのか目指さないのかは人それぞれですが、今はその多様性を知って色々な景色を見る事が大切なのです。皆さんの隣にいるポケモンたちはきっとその助けになるはずですので、まずはそのポケモンたちと是非良い関係になっていってください」

 

 この世界においてポケモントレーナーを目指すということは、前の世界でいうとプロ野球選手を目指すようなものだ。にもかかわらず小学生の将来なりたい職業ランキング第一位にポケモントレーナーが入ってくるので、先生のするべき言い方は難しい。

 

「さて、ではそろそろ皆さんお待ちかねの、ポケモンバトルの実習に移りましょう」

 

 ここで茅原先生は声の調子を一転させて、なるべくクラスの雰囲気を明るくする声を出した。

 

「今日はもう時間が少ないので、バトルできるのは二人だけです。その二人は——西四辻さんと封城君、バトルフィールドに立ってください」

 

 やっぱりか…。

 さっき涼音と英美から聞いていなければきっと物凄く驚き戸惑ってしまっていた事だろう。

 …結局緊張してきてしまっているが。

 

「ポケモン学の成績に限れば西四辻が一位——その実力、存分に見せてくれよ」

「言われるまでもないよ。……あ」

「?何だ?」

「いや、何でもない」

「そうか。念のため言うけど、集中してくれよ?」

「わかってる」

 

 今朝封城が言ってた『もう十分話した』って、こういう意味だったのか…。

 封城に不審がらせてしまったが、これを言って失望させる事もあるまい。カブルモ戦以来のバトルでヒコザルも張り切ってるし、誰に言われるまでもなく全力で臨ませてもらおう!

 

「各自使用ポケモン一体、一本勝負!先にどちらかのポケモンが戦闘不能になった時点で試合終了です!」

 

 バトルフィールドはアニメでもよく見たバスケットボールコート程の広さの長方形で、中心にモンスターボールを象った円が描かれているものだ。両端にトレーナー用のスペースも用意されており、正に夢にまで見た景色がそこにあった。

 

「両者、ポケモンを!」

 

 茅原先生の一声でオレも封城も見ている他のみんなの表情さえも引き締まる。

 

「頑張ろうね、ヒコザル!」

「ヒコッコォ!」

「行くぞ、アシマリ!」

「アシャマ」

 

 封城が繰り出したポケモンは群青色の小さなアシカのようなポケモンだった。

 知ってるポケモンで助かった。ポケモンなんて前の世界じゃとんでもないビッグタイトルだし、オレがこの世界で目を覚まして今年で五年目…もしかしたらオレの知らないポケモンもいるかもと思っていたけど、杞憂だったかな。

 

「ライバルの相棒ポケモンとは相性が悪いのも記憶通りか…。まあ気にしても仕方なし。ヒコザル、ひのこ!」

「ヒコッコォ!」

 

「スッゲエ!なんだあのパワー!?」

「さすが成績トップ、家でもしっかりポケモンを育ててるのね」

「最近の西四辻さん、ちょっと変だったけど、こういうの見るとやっぱりすごいね」

 

 いつになく張り切っているヒコザルは以前のカブルモ戦を凌駕する威力でひのこを放った。その迫力にギャラリーからも称賛の声が上がる。

 だけど、ちょっと雑すぎやしないか?

 

「かわせ、アシマリ!」

「シャマア!」

 

「おおお、すごいジャンプ力だ!」

「やばいな!アシマリってあんなダイナミックに動けるんだ!?」

「かわいくてカッコいいー!封城君いいなぁ」

 

 一方でアシマリも曲芸のごときアクロバティックな動きでヒコザルの攻撃をかわし黄色い声援を浴びている。そのギャラリーの声が届いたのかアシマリは満面の笑みだ。

 アシマリの最終進化系って典型的な中速特殊アタッカーだったと思うんだけど、あんな動きができるのか…。

 でも、アシカに滞空能力はないはずだ!

 

「ヒコザル、足元に潜り込め!」

「ヒコオ!」

「ひっかく攻撃!」

 

 空中に留まっていられないのにジャンプしたなら当然大きな隙が生まれる。だからといって安直にひのこを使わせるのは愚策だ。

 何しろ相手は水タイプ。なら炎タイプに相性の良い遠距離攻撃みずでっぽうを使えるはずだ。技の威力にもポケモンのレベルにも大した差がない今ひのことみずでっぽうが正面からぶつかり合えばこちらが押し負けてしまうかもしれない。

 それなら近接戦に持ち込んだ方が分が良いというわけだ。

 

「アシマリ、はたく攻撃!」

「アシャマ!」

 

 オレの思惑通り、封城は素早く近接戦に対応するためノーマルタイプの物理技はたくを指示した。これならタイプ相性は関係ない。気合十分のヒコザルのパワーなら勝てる!

 

「ヒコァー!」

「ヒコザル!?」

 

 そんなオレの読みは外れ、ヒコザルはオレの足元まで仰向けに吹っ飛ばされてきた。

 

「す、すっげー!なんだ今の!?」

「アシマリの攻撃がヒコザルの急所に当たったんだわ!」

「アシマリって水タイプだよな!飛行タイプじゃないよな!?空中であんな動きできるのかよ!?」

 

 オレも何が起きたのか理解するまでに時間を要した。

 どうやらアシマリは空中で前転を始め、尻尾を使ったはたく攻撃にその空中前回りの勢いを乗せたらしい。その攻撃がヒコザルの脳天に入り、ひっかく攻撃をかわしながらアシマリの攻撃は急所に当てたという事だ。

 

「良いぞアシマリ。中々魅せてくれるじゃないか」

「アシャマア!」

 

「ヒコザル、まだ行けるか!?」

「ヒコォ…!」

 

 アシマリは封城にも観客たる他のクラスメートたちにも褒められ上機嫌だ。その上で目だけはまっすぐ油断なく、ふらつきながらも立ち上がるヒコザルを見据え続けている。これがポケモンの闘争本能か…。

 

「追撃だ。アシマリ、みずでっぽう!」

「アッシャマー!」

 

「かわせヒコザルー!」

「ヒッコオー!」

 

「おお避けたー!」

「ねえ、しかもなんかヒコザルの様子変わってない?」

「ホントだ!なんか……何だろう?燃えてるみたい」

 

 容赦なく迫るみずでっぽうをヒコザルは(すんで)の所で横飛びにかわし、目を赤く光らせ全身から炎を思わせるオーラを立ち上らせた。

 ピンチになると炎タイプの技の威力を上昇させるヒコザルの特性、もうかが発動したのだ。

 

「よし、ここから逆転だ!ヒコザル、ひのこ!」

「ヒィッコオー!」

 

 もうかが発動したヒコザルのひのこは威力、弾速、範囲の全てが増幅されており、アシマリに回避の余地はない。今度こそ攻撃がヒットするはずだ。

 

「チッ!アシマリ、みずでっぽう!」

「アシャッマア!」

 

 正面からひのことみずでっぽうが激突する。

 タイプ相性で言えばこちらが不利だが、攻撃は両者の中央で少しの間拮抗した後アシマリの方へ押し返された。

 

「シャマア!」

「クッ…!」

 

 効果はいまひとつだが確かな一撃、ようやくこちらから相手に与えられたダメージだ。攻めるなら今しかない。

 

「飛び込めヒコザル!ひっかく攻撃!」

「ヒッコオ!」

 

「迎え撃てアシマリ!みずでっぽう!」

「アッシャマア!」

 

 素早く跳ね回るヒコザルを狙撃するようにアシマリは短いみずでっぽうを連続で放った。ヒコザルもここであと一発でも攻撃を受ければ倒れてしまうため、その全てを持ち前のスピードでかわしていく。

 

「うおおお!ヒコザルすげえー!」

「あのはたく攻撃で決まったと思ったのに粘ってるね!」

「どっちもがんばれー!」

 

 クラスメートの応援を受けながらヒコザルもアシマリも動きをより一層激化させた。

 …オレの気のせいなら良いんだけど、アシマリって声援を受けるたびに動きが良くなっていってないか?

 

「いっけえ!ヒコザル!」

「ヒイッコオ!!」

 

「アシマリ!」

 

 そしてとうとうヒコザルのひっかく攻撃が届く距離まで再接近できた。あとは全力の一撃を叩き込むだけ。ヒコザルにもありったけの力を出し切ってもらうためにオレも気合を込めた声で叫んだ。

 その、『決まる』と思った瞬間が油断だった。

 

「今だ!みずでっぽう!」

「シャーッマア!!」

 

「ヒコッ!?」

「ヒコザル!?」

 

 ヒコザルが最後に腕を振りかぶった一瞬の隙を突いて、封城はアシマリに素早くみずでっぽうを指示したのだ。今度の攻撃はヒコザルの腹に直撃、効果は抜群。

 先ほどと同じように仰向けに吹っ飛ばされたヒコザルはしかし、オレの足元で倒れたまま立ち上がれはしなかった。

 

「ヒコザル、戦闘不能!アシマリの勝ち!よって勝者、封城君!」

 

「すげえー!封城のやつ、あの西四辻に勝ちやがった!」

「西四辻さんなら逆転できると思ったのに…!封城くんすごすぎる!」

「良いバトルだったよね!私見ててすっごいドキドキした!」

 

「アシマリ、よくやった。これからもっと強くなろうな」

「アシャマ!」

 

「ヒ…ヒコォ……」

「ヒコザル、お疲れ様。…ごめんね」

 

 オレと封城がそれぞれにポケモンを労いボールに戻したのを確認すると、茅原先生が授業の締めに入った。そこで何やら『ポケモンバトルは結果が全てじゃない』とか『バトル本来の目的を見失ってはいけない』とかの注意を言っていたらしい事を後から涼音に聞いたが、この時のオレの耳にはまるで入ってこなかった。

 オレは、負けた。その事実がオレの胸に重くのしかかっていた。

 

 

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