ヴァンガード !F   作:大葉景華

8 / 8
第八話

「行きますよ。 ブラスターダークのスキル発動。 カウンタブラストで相手はリアガードを一体退却させなければならない」

 

ブラスターブレードと似たような能力……。

 

「すまない、ゴードン……」

 

『マイヴァンガード。 お気をつけて。 シャドウパラディンは強敵です』

 

そう言い残してゴードンが光となって消える。 リアガードが居なくなったことにより孤独感が浮き彫りになる。

 

「まだまだいきますよ。髑髏の魔女 ネヴァンをコール。 さらにスキル発動。 自信をレスト(カードのスキルやアタック等で横向きにする事。 行動不能状態である事を示す)する事でデッキからパワー5000以下のユニットをスペリオルコールします。 ……黒の賢者 カロンをコール。 スキル発動。 スキルで登場した時に、 ソウルブラストでカウンターチャージし、自身のパワーを3000上昇」

 

小さな、しかし確かな力を持った龍の装いを身にまとった男が出現する。

 

「まだです。 黒翼のソードブレイカー。 スキルでワンドロー。 ……虚空の撃退者 マスカレードをコール。 スキルで山札の上七枚からブラスターダークか幽幻の撃退者 モルドレッド ファントムを手札に加え、自分のリアガードを退却させる。 ……。 ブラスターダークを手札に加え、ソードブレイカーを退却」

 

「一気に展開と次への準備……流石ッスね」

 

「まだです。 ダークのスキル。 相手のユニットが一体もいない時、ツインドライブを獲得する!」

 

グレード2でツインドライブ!?

 

「ヴァンガードでアタック」

 

「くそっ! ノーガード!」

 

「ツインドライブ。 ……ゲットドロートリガー。 セカンドチェック。 ……ヒールトリガー」

 

ダブルトリガー。 ……ユニット達の囁きが聞こえるPSYクオリア使いにはイメージが力になるのか……。

 

「ダメージチェック……。 ノートリガー」

 

ジャベリンの時とは比較にならないダメージを受ける。 余りの衝撃に一瞬視界が暗転するが、なんとか持ちこたえる。

 

「ぐぅっ! ……はぁ……はぁ……くそっ!」

 

「マスカレードでアタック!」

 

「ガード!」

 

耐えきった……今度はこっちの番だ!

 

「ドロー! ライド! モナークサンクチュアリ アルフレッド!」

 

自分の身が重厚な輝きを放つ鎧に包まれるのを感じる。 敵だった時の威圧感はそのまま頼もしさとなる。

 

「イマジナリーギフトフォース2! これを置いたサークルのユニットはクリティカルか2になる! そしてスキルでカウンターブラストとソウルブラスト! 今ソウルからドロップに落としたブラスターブレードを手札に加えて自身のパワーを上げる!」

 

手札は潤沢。 そしてユニットの囁きで分かる。 次のターンを渡したら不味い。 レンさんのデッキからはそれほどの力を感じる。

 

「忠義の騎士 ベディヴィアをコール! スキルで友儀の騎士 ケイをスペリオルコールして一枚ドロー! ナイトスクワイヤ アレンをコール。 スキルでブラスターブレードをコールしてドロー。 ブラスターブレードのスキルでマスカレードを退却! バーストバスター!」

 

ブラスターブレードの剣から放たれた光線でマスカレードを消し去る。

 

『ヴァンガード お気をつけて』

 

「ああ、ありがとうマスカレード」

 

最後までレンさんの身を案じるマスカレード。 レンさんとユニットの絆は硬い。

 

「行きます! ブラスターブレードでアタック!」

 

「ガード!」

 

「これが本命の一撃! モナークでアタック! シアターモデレード!」

 

両肩の機構から光線が光る。 ブラスターブレードのそれより太く、強い光線がブラスターダークへ向けて放たれる。

 

「ノーガードです」

 

「ツインドライブ!」

 

目の奥が熱い。 自分の精神に肉体が着いてこない。

 

「ファーストチェック。 ……ドロートリガー。 セカンドチェック。 ……ヒールトリガー!」

 

よし、 ダメージも回復して手札も補えた。 でも、肝心のダメージが伸びてない……。

 

「おや? イメージ通りには行きませんでしたか?」

 

「なんでそれを……?」

 

「PSYクオリア同士はイメージを塗り替えることが出来るのです。 貴方のダブルクリティカルのイメージを私が塗り替えたのです。」

 

まぁ、トリガーは止められなかったと肩をすくめる。

 

「くそっ……。 ベディヴィアとケイでアタック!」

 

「ガード!」

 

くそっ……結局二点しかダメージを与えられなかった。

 

「私のターン。 スタンドアンドドロー。 君のイメージを塗りつぶす。 ライド! 幽幻の撃退者 モルドレッド ファントム」

 

戦いを始める前のイメージで見た、黒馬に跨った漆黒の騎士が現れる。 イメージのリアル感に思わず掌に汗が滲む。

 

「イマジナリーギフト フォース1 ブラスターダークをコール。 ダークのスキル。 相手を退却させる」

 

「……アレンを退却」

 

「さらにもう一体コール」

 

「さらにモルドレッドのスキルでダークが出る度にイマジナリギフトフォースを獲得。 つまり二枚獲得」

 

イメージの通り、二体の騎士を従えた黒馬に跨ったレンさん。

 

「行け! 」

 

二体のブラスターダークが迫る。 あの剣の威力を体が覚えているのか背中に冷や汗が伝う。しかし……この攻撃はあの時見た最後のイメージではない。 つまりこのターンまだ先がある。……くそっ!

 

「二体ともノーガード! ぐおおおおおおおお! ……ああああ……はぁ……はぁ……」

 

こ、この痛み……両腕が落ちていないのが不思議なくらいだ……。

 

「モルドレッドでアタック! スキル発動! 自身がアタックした時、リアガードのブラスターダークを全てスタンド。 さらにパワー一万上昇!」

 

やっぱり……。

 

「イゾルデで完全ガード!」

 

「ツインドライブ」

 

レンさんのPSYクオリアが発動するのに合わせて俺のPSYクオリアも共鳴する。

 

「ファーストチェック。 クリティカルトリガー。 セカンドチェック。 ……クリティカルトリガーです。これがPSYクオリア同士の戦い。 PSYクオリア同士が戦えばより強いイメージを持つ物が勝つ。 今回はPSYクオリア自体を知ってもらうのが目的でしたからね。 全てを片方のダークに!」

 

イゾルデ越しにモルドレッドの凄まじい剣撃が襲う。 ほっと一息つく間も無く、強化された二体のブラスターダークが襲いかかって来る。

 

「まだだ! 小さい方はエレイン二枚でガード!」

 

一体は止めたけど……。

 

「もう一体は止まりませんね。 これで終わりです!」

 

漆黒の剣が体を貫く。 全身の感覚が無くなり、腹の中にある異物感だけがある。目の前が本当に暗転する。 俺の隣でブラスターブレードが何か話しているけど……もうそれも聞こえない……。

 

あぁ……やっぱりレンさんは凄いなぁ……。 このファイト中、何回思った事か……やっぱり俺はPSYクオリアなんて持っていても……アイチ先輩のデッキを借りても……この程度だったのかな……。

レンさん見たいな凄い人には……俺なんて普通の奴が勝とうなんて烏滸がましかったのかな……?

 

「……嫌だ」

 

「何?」

 

レンさんが眉を顰める。

 

「嫌だ! こんな楽しいファイト! こんな普通に終わるなんて嫌だ! まだヒールトリガーが一枚ある。 俺はそれを信じる!」

 

まだ汗が引いていない体に鞭を打ってデッキに手をかける。

 

「ダメージチェック……。 一枚目。 ノートリガー」

 

ダメージゾーンにカードを置く度に激痛が走り意識が飛びそうになる。……二枚目もノートリガー。

 

「さぁ、最後のトリガーチェックです。 私のイメージを越えられますか?」

 

「超えてみせる! ファイナルチェック……」

 

心臓の音がうるさい。 でもこれは痛みのせいではない。 興奮している。 このファイトをまだ続けたい! もっとイメージしろ!強く、強く、もっと強く!

 

「……ヒールトリガー!」

 

「な……何!? 私のイメージを越えた!」

 

「さぁ!まだファイトは終わらないッスよ!俺のターン!スタンドアンドドロー!」

 

「イメージを乗り越える! ライド! 孤高の騎士 ガンスロッド!」

 

モルドレッドと对をなす純白の鎧に身を包み、白銀の翼を付けたペガサスに跨る円卓の騎士。

 

「イマジナリーギフト フォース2! グモリスをコール! スキルで自身のパワーを上昇! ゴードンをコール! ゴードンはブラスターブレードのみブースト出来る!」

 

もう手の震えも、痛みも感じない! 今目の前にある光景が全てだ!

 

「ケイとベディヴィアでアタック!」

 

「ガード!」

 

「ガンスロッドでアタック!」

 

「くっ……完全ガード!」

 

「レンさんが完全ガードを……」

 

「ツインドライブ!ファーストチェック……。 ドロートリガー

! セカンドチェック ドロートリガー! 全てのパワーをブラスターブレードに!」

 

『これで決める!』

 

「行け! ブラスターブレード! ガンスロッドの効果でパワーが一万上がり、前列のブラスターブレードをヴァンガード扱い出来る! つまり、クリティカルが上がり、ドライブチェックが出来る!」

 

ブラスターブレードど俺の意識がシンクロする。 俺がブラスターブレードを、ブラスターブレードが俺を高める。

 

「ガード!」

 

レンさんが手札全てと二体のブラスターダークでインターセプトをする。 しかし、もうそんなもの障壁とも言わない!

 

「ドライブチェック!」

 

捲ったカードには……

 

星のマーク。 クリティカルトリガー!

 

「効果は全てブラスターブレードに! うおおおおおおおおおおお!」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

試合後、疲れと今更ぶり返してきたPSYクオリアの痛みに動けなくしていると、レンさんがペットボトルのジュースを差し出しながらやって来た。

 

「あ、……あざす」

 

「素晴らしいファイトでしたよ。 まさか僕のPSYクオリアを超えるイメージを持つなんてね」

 

ファイト最中の戦士のような目付きや、初対面の時の凍りつくようなイメージはもう無く、緩い雰囲気を醸し出す。

 

「うっす……レンさん。 あの、どうして俺とファイトを? 本当に俺のPSYクオリアを確かめる為だけに?」

 

「ええ、PSYクオリアは強力反面、イメージがそのままダメージとなる。 正しい知識無しに使おうとすると本当に使用者の命を削りかねないもの。 故に、誰かが教えなければならなかったのですよ」

 

「そうだったんですね……。 あ、しまった」

 

そう言ってデッキをアイチ先輩に返す。

 

「アイチ先輩。 デッキ返しますね。 先輩のおかげでPSYクオリアに目覚める事が出来ました!」

 

「僕は何もしていないよ。 レンさんと、君自身の力だよ」

 

「俺も、ロイヤルパラディンを組みます! 今度は本当に自分のカードで戦いたいッス!」

 

「うん! その時は是非僕と戦ってよ!」

 

「勿論ッスよ!」

 

こうして、レンさんのPSYクオリア講座を受け、俺のデッキの方向性が決まった濃い一日は終わった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「ふぅ……」

 

夜。 自宅に帰り新しく組んだデッキを広げる。 ブラスターブレード。 聞けばアイチ先輩のヴァンガードを始めるきっかけのカード。

 

「今日はありがとうな。 ブラスターブレード」

 

『イエス。 マイヴァンガード』

 

「え?」

 

虚空に問うた声は誰にも届かず消えた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。