ある日のことだった。
リビングで俺がくつろいでいると、ぺたぺたと眠たそうな足音。
見なくても分かるーー妹の芽衣だ。
長いやわらかそうな髪の毛を寝癖でほわほわにし、目をこすって近づいてくるところを、細部に至るまで想像出来る。
それだけ、何度も繰り返してきた日常的な光景だ。
ただ、この日は妹のようすがちょっとおかしかった。
いつもなら、真っ先に顔を洗うか、口をゆすぐはずなのに。
その足音は、真っ直ぐ俺のところへ向かってきている。
もう暦の上では秋。
確かに、ベッドから出たものの寒くて活動できないなんてことはザラだろう。
でも、あの優等生な芽衣がそんなことするか?
あいつにとって自分の乱れた姿を見られるのは、裸を見られるのと同じくらい恥ずかしいと思うんだが……。
そんなふうに思っていると、寝ている俺の真上までやってくる芽衣。
「な、なんだ……?」
その日常が崩れたような違和感に不気味さを覚えつつも、芽衣に声をかける。
彼女は、俺を見下ろして言った。
「おはようございます」
「お、おはよう……」
「突然ですが、お兄ちゃん」
嫌な予感がした。
こうして芽衣が俺に改まって話しかけるときは、大抵ろくなことがない。
大切なものを壊しちゃったとか、そういった類のことだ。
だから今日も似たようなことで、なにか助けて欲しいことがあるのだろうか。
そう、思っていたんだが……。
「……お兄ちゃん、あなたを私に食べさせてくれませんか……?」
「…………はっ!?」
耳を、疑った。
芽衣が……俺を食べる!?
もしかして、こいつ……ずっと俺のことが好きで、その気持ちがついに抑えきれなくなって……ってことか?
だとしたら、兄として妹を正しい道に導かなければいけない。
でも、こんなのはもちろんながら初めてのこと。
どう言ってやるのが正解なんだ……?
そんなふうに俺が頭を捻っていると。
「お兄ちゃん、あなたを私に食べさせてくれませんか……?」
「いや聞こえてるよ!」
リピートしてきた。
聞こえてないとかそういうことじゃなくて、どうしたらいいか分からなくて声が出せないだけなんだが……。
思いながら、改めて芽衣を見る。
母親譲りの銀色の艶やかな髪に、透き通るような白い肌。
そして、ほどよく肉のついた柔らかそうな脚と、淫らにぶら下がった形のいいふたつの果実。
……うーむ、かわいいなあ。
我が妹ながら、絶世の美少女だ。
実際、こいつは性格もよくて、すごくモテる。
俺もーー兄でありながら、芽衣に恋してしまっていた。
そこに、妹からのこんなトンデモ告白。
いや、思春期の男子としてここで黙っておけるわけがない。
拒否できる、はずもない。
「聞いてますか? お兄ちゃん。答えてくれないと、勝手に食べちゃいますよっ?」
だから、次に芽衣がこうして意思の確認をしてきたとき。
俺は、ソッコーで首を縦に振った。
「頼む……! ぜひ、俺を食べてくれ」
「……えっ? ほ、ほんとにいいんですかっ……? わ、私……しあわせですっ!」
目を輝かせて、ちょっと照れくさそうな彼女。
「最中で人が来たら困りますし……私の部屋に来ませんかっ?」
いつになく上機嫌な芽衣に腕を引かれて二階へ上がる。
妹の部屋に招かれるなんて、実に数年ぶりのことだった。
続く。