「動かないでくださいね! 動くと痛いですから」
「動かなくても痛いよ!?」
驚く間もなく、俺の腕が刃の細かいノコギリによって切断されていく。
もう、痛み以外に余計なことは考えられなかった。
そのうち、だんだんと冷たくなっていく指先に神経が集中し。
それと対照的に、温かい血液が流出する左腕に意識が向かう。
「芽衣……っ。お前、なにして……っ」
辛うじて繋ぎ止めた意識で、俺は彼女に問いかける。
こうなった今、彼女がこうする理由を聞いたところで対処のしようがない。
でも、だからといってこのまま理由も知らずに片腕を失うのは嫌だと思った。
理由くらいは、聞いておきたいと思った。
すると、光のなくなった瞳で芽衣が口を開く。
「……え? だって、さっきお兄ちゃん言いましたよね?」
「……言ったって……なに……が……っ」
そんなの決まってるじゃないですか、とぼけないでくださいと、彼女は腕に力を込める。
ゴリゴリと鈍い音が部屋に反響して。
そんな肉片の断ち切られる音にも負けないくらいに力強い声色で、彼女は言った。
「……私に、お兄ちゃんを食べさせてくれるって」
悪寒が走った。
そりゃあもう、全力疾走で。
俺の妹、芽衣。
彼女は先程リビングで、俺を食べたいと言った。
それはつまり、俺を食べてしまいたいほどに好きだとか、そんな甘酸っぱい愛の告白なんかでは到底なくて。
お兄ちゃんへの禁断の愛だとか、そんな秘めた想い的なことなんかでは全然なくて。
ーー彼女が、純粋に俺の肉体を食材として口にしたい、ということだったらしい。
もう一度、彼女を見る。
彼女の長い銀髪に、返り血が付着し。
その光景は、神秘的とさえ表現出来る。
芽衣が、舌舐めずりをする。
「それじゃあ、お兄ちゃん! ……いただきますっ!」
すると、次の瞬間。
まだ一部胴体と切り離されていない俺の左腕に、彼女は舌を這わせた。
「んぁ……んんっ、お兄ちゃん、おいしいです……っ」
「ぐ……っ、ヒリヒリする……っ、ぁ……」
苦痛に表情が歪む俺とは対照的に、恍惚とした表情で血を啜る芽衣。
赤黒い血で染まったぷにぷにの柔らかい頬が、とても綺麗だ。
「……でもお兄ちゃん、あれですね」
「……あれ、とは……?」
「……ちょっと、ソースが多いです」
「妹よ、それはソースじゃない。血液だ」
なんだろう、妹の頭がおかしくなってしまったようだ。
痛みと舌のくすぐったさに耐えつつ、俺は声を上げる。
「……芽衣、お前……これから、俺の腕をどうする気だ……?」
すると、彼女は空気に触れられないことは当たり前だ、といったように、さも当然の事として回答する。
「え……もちろん、食べちゃいますよ?」
「……食べちゃいますか」
そして、幸せそうに口の中の血液をごくんと音を立てて飲み込むと。
俺の腕に勢いよく、その尖ったかわいらしい八重歯を突き立てた。
「……ぐっ、ぐぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
先ほども言ったように、俺の腕はまだ胴体から切り離されていない。
そんな状態で、捕食されている。
銀髪の、ずっと好きだった妹に。
左腕を、餌として献上している。
……その事実を考えると……。
俺は、今まで味わったことないほどの、最上級の恐怖と快感を全身で堪能できていた。
続く。