しかし、今日から左腕のない日々を過ごさなければいけないのか……。
現実を見て、その残酷さに顔を青くする。
妹に腕を齧られ、身を捧げている。
その事実は確かに尊いことだと思えるし、快感だって得ている。
かといって、日常生活で不便が生じるのは勘弁だ。
痛みを脳内から排除するかのように、全力で別のことを考える。
芽衣への恋心と痛覚は、分けて考えるべき項目らしい。
いくら彼女のことを愛していたところで、痛いものは痛いってことだ。
気持ちとしてはその快感に溺れていたいんだが、無意識下の自己防衛として、他のことを考えるための力が冴えすぎている。
それに、これほどまでの痛みを直接意識しては、頭がおかしくなってしまいそうだ。
……一瞬、芽衣に狂わされるなら狂ってみてもいいのかもしれないと考えたが、さすがにそこまで底辺に思考が堕ちてしまっては人間としてダメな気がした。
個人的には妹狂になる覚悟はあるんだが、真人間として彼女となにも愛を育んでいないのに、まだ人間を捨てたくはない。
そこまで堕ちるのは、またあとに取っておくことにした。
と、そこで突然痛みが少しだけ和らぐ。
ずっと感じている連続的な痛みは続いているのだが、不定のリズムで刻まれる痛みはさっぱり感じなくなった。
不思議に思い芽衣のほうを見るが、別に腕を齧るのをやめたわけではないらしい。
そのかわいらしい小さなお口で、俺の腕を美味しそうに啜っている。
……じゃあ、なんで……?
芽衣が痛み止めでも打ってくれたのか、それとも俺の痛覚がお釈迦になったのか。
痛みを和らげるために覚醒した頭をフル回転させて色々なアイデアを出してみるも、正解には至らない。
そこで、改めて芽衣に視線を向けて……そのまま、下に。
俺の腕が、胴体からすっかり離れてしまっていた。
「……そういうことか……」
呟いてみるも、芽衣は食事に夢中で気づかない。
光のない瞳ではあるが、小さい頃に動物園に連れていってもらったときばりの素敵な笑顔で血肉を貪っている。
それは、人間を獣として再認識せざるを得ない、そう人一人の意識を変えてしまうほどに恐ろしく。
それだけ、インパクトのある光景だった。
それを、俺は……やはり、快感と捉えた。
人々にとってこの忘れられない凄惨な光景は、俺にとっても等しく忘れられないもの。
しかし、一般人にとってのトラウマシーンであるはずの、この光景。
近親間の愛を極限まで募らせた俺にしてみれば、初めてのキスと同じくらいに衝撃的で。
ポジティブな方面で、忘れられない一瞬となったのだった。
続く。