ただ、やはり腕がないというのは何度も言うように不便だ。
そのあたり、芽衣はなにか考えがあるんだろうか。
……もしかすると、俺の腕を使えなくしたことをネタに、一生芽衣を揺すれるかもしれない。
そんな考えが脳裏によぎった俺は、俺の左腕を大切そうに抱きしめて、なにやらくねくねしながら血液を舐めている妹に声をかける。
「……なぁ、芽衣」
「……んぁ……ぷはぁ。なんですか、お兄ちゃん?」
「……その……俺の、腕のことなんだが……」
「あ、すいません、感想がまだでしたね! とっても美味しいですよっ!」
「……そうじゃない」
しっかり者だが結構天然なところのある芽衣。
そんな彼女の反応によって、聞くタイミングを逃してしまった。
俺が今後のことを考えてブルーになっていることも知らずに、芽衣は美味しそうに俺の左腕にかぶりつく。
そんな光景をぼんやりと眺めているとーー俺は、あることに気がついた。
……少しずつ、腕が再生してないか……?
よく見ると、少しずつではあるが切り離された部分から腕が伸びていってる気がする。
二分前には気が付かなかったけど……いつからだ?
目の錯覚や見間違いなどではない。
さすがに痛みで感覚がなくなっているとはいえ、自分の腕だ。
少しずつ増えていればさすがに気が付く。
それは、芽衣が一息ついて休憩しているときも止まらなかった。
つまり、これは俺の治癒能力……?
しかし、これまでの人生を振り返っても、そんな超人的な回復力を見せた記憶は思い当たらない。
結局のところ、真相は腕を切り落とした本人に聞いてみるしかないのだろう。
運良く休憩している芽衣を捕まえて、聞いてみる。
「これ……さ、俺の腕……治ってない?」
「あ……と……治ってますね」
尋ねると、芽衣が一瞬微妙な表情をしたことに気が付いた。
さすがに、それに気が付かないほど俺の好意は小さいものじゃない。
きっと、芽衣は俺の治癒能力について何か知っているんだ。
とはいえ、こいつがその事を隠してる以上は俺も真実を知りようがない。
うーむ、こんなときに芽衣を脅せる手段がパッと思いつけば……。
「……あっ」
考えて、即閃いた。
やはり、俺と芽衣は兄妹。
きちんと俺にも芽衣と同じ聡明な遺伝子が存在するらしい。
俺は、早速そのたった今考えついた冴えたやり方を実行に移すことにした。
まず、食われていないほうの右の腕でズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。
そして、SNSでも見ているかのように指をスクロールさせ、芽衣を油断させたところで…………カシャっと。
「……お兄ちゃん、今……なにを撮ったんですか……?」
「……さぁて、その写真を見たまえ妹君」
「も、もしかして……ひゃぁっ! やっぱり!」
「……ふっふっふ……この血塗れの腕をぺろぺろと愛おしそうにしゃぶるお前の写真……。クラスメイトが見たら、どう思うかな……?」
「ひ、卑怯ですっ! 犯罪です、盗撮ですっ! 今すぐ消してくださいっ!」
「やーだね。……だが、これをただ単に芽衣のクラスメイトに見せるのは確かに悪いな……よし、聞こうじゃないか」
俺は、ぺろぺろと俺の千切れた腕を舐める愛妹の写真をチラつかせながら、薄ら笑いと共に尋ねる。
「……俺の腕が治っていってる件について、なにか知ってるんじゃないか?」
「……ぐぬぬっ……むぅ……し、知ってますともさ! そりゃ、私だって誰かに聞いたわけでもなんでもないですけど、お兄ちゃんの体が再生することはもちろん知ってましたよ、ええ!」
作戦成功。
俺の自然治癒について芽衣が何かしら知っていることを、聞き出すことに成功した。
あとはこれをつついて聞いていけば、今日起きた出来事について詳しく知ることが出来るだろう。
してやられたという表情のかわいらしい妹を横目に、俺は見えない左腕でガッツポーズをした。
続く。