「……ほんとに……言わなくちゃいけないんですか……っ」
それから、少しして。
この期に及んで芽衣は、俺の腕が再生する秘密を言いたくない様子。
大事なものを守り抜く表情で、俯いている。
若干、涙目だ。
「なあ、芽衣……俺は、不安なんだよ」
「不安……ですか?」
「ああ。だって、ほら……俺の腕が、こうして回復してるのって……普通じゃ、ないだろ?」
諭すように言ってみるが、実際、不安なことに間違いはない。
一刻も早く俺の身体の秘密について知りたいっていうのが、嘘偽りない本心だ。
すると、彼女は何かを決心したのか、唾をごくんと音を立てて飲んで。
それから、顔を赤らめる。
そして。
「……お兄ちゃん。今から言うことは……真剣です。茶化さないで聞いてください」
なんて、本当に真剣な顔で言ってきた。
基本的に表情豊かな彼女には不似合いなほどの、真剣な目だった。
二人の間に、緊張が走る。
ジョギングみたいに、ゆっくりと、走る。
それだけに、ゆっくりと過ぎる時間に二人は疲弊してーー。
俺の首肯を合図に、芽衣はその決意を孕んだ真相を、口にした。
「……私、お兄ちゃんのことが好きで……」
瞬間、俺の体温が一気に跳ね上がる。
……は、え? 嘘だろ?
兄妹で……両想いだったってのかよ?
ありえないと、思っていた。
兄妹で恋をして、それが成就する。
そんなこと、物語の中でだってそうそう見るものじゃない。
非常に稀なケースで、そして、前例がない。
ある意味、とんでもなく怖かった。
そんな俺の気持ちなんか知らずに、芽衣は話を続ける。
その頬は、さっき見たよりも余程紅く染まっていた。
「私、お兄ちゃんのことが好きでですね……」
「う、うん……」
それが最適な反応なのかはわからないが、とりあえず相槌を打つ。
内心、これまでにない緊張と戸惑いが渦巻いていたが、なんとか外面は平静を保てているだろう。
俺は、胸をなで下ろした。
ーーのも、束の間。
「私、ある日お兄ちゃんの部屋にこっそり入ったことがあったんです」
「……う、うん…………うんじゃないよ!」
思わず外面に張っていた平常心のバリアを壊されてしまった。
いや、意外と大胆だなこいつ!
……いつの事なんだろう。
聞かなかったけど、喋り方からするに最近の話ではないだろう。
ゾッとする反面、そこまで芽衣が俺のことを想っていたと知って、頬が綻ぶ。
しかし俺がそんな甘い思考に片足を突っ込んでいると、また妹は新しい武器で俺の動揺を誘ってきた。
「そこで私、お兄ちゃんの枕カバーに髪の毛がついてるのを発見してですね……」
「……あ、ああ。恥ずかしいことによく髪の毛がついてる。それで……?」
嫌な予感がした。
大方予想はつくが、耳を塞ぎたくてしょうがない。
芽衣を、心の中で綺麗なものに留めておきたい。
だがそんな俺の気持ちなんて露知らず、芽衣は起こってしまった事実を口にする。
「それで私、その髪の毛を食べてみたんです!」
「ああああああああああああああああっ!」
食べちゃった。
食べちゃったよ、食べちゃった。
今日一日で、芽衣の完璧な美しさ、かわいさ、色々なものが崩れ去っていく。
俺がいない間に、妹が部屋に忍び込み、髪の毛を食し……はぁ。
「……芽衣、美味しかったか?」
「はいっ! お兄ちゃんの味がしました!」
……そんな、最高なことがこの世にあっていいんだろうか……。
正直、こんな幸せがあるなんて、耳を塞ぎたかった。
聞きたくなかった。
でも、髪の毛を食べるほどに芽衣が俺に依存してくれていたなんて……。
俺は、今度は半分ほど再生した左腕を実際に動かして、小さくガッツポーズをした。
続く。