お兄ちゃん、いただきますっ!   作:雨宮照

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指摘する妹。

「それで、その……俺の髪の毛を食べたことと、俺の腕の再生になんの関係があるんだ」

逸れてしまった話を元に戻そうと、俺が流れを修正する。

すると芽衣も話すタイミングを伺っていたのか、こほんと一度小さく咳払いして、話のバトンを受け取った。

「それがですね……私はお兄ちゃんの枕についてた髪の毛を全部食べたんですけど」

「……あー、うん」

理解しようとするな、噛まずに飲み込め、俺。

「それから、しばらくお兄ちゃんのベッドでごろごろしていると……」

充分に溜めを作る妹。

これから話すことを盛り上げようと頑張って話し方を工夫しているが、残念。

既に驚き切ってるから多分そこまで驚けない。

芽衣が、続ける。

「ごろごろしていると、なんと! お兄ちゃんの枕カバーに再びたくさんお兄ちゃんの髪の毛がついていたんですよ!」

「ほう、それで俺の身体が再生することに気が付いたのか」

「もっと驚いてくれてもいいじゃないですかっ!」

髪の毛を食べていたことに比べればさほど驚くことでもないと思って軽く流す俺と、目をばってんにして抗議してくる妹。

そんな芽衣が、とてつもなくかわいい。

二人の間に、沈黙が流れる。

無音っていう名の音が聞こえてきそうなくらいだ。

そんな空気だったからこれ以上続きはないと思ってたんだけど、俺が話をまとめにかかろうとしていたところで、芽衣が再び語り始める。

「それから、お兄ちゃんの再生能力に気付いた私は、何度も実験をするようになりました」

「……と、言うと?」

「寝ているお兄ちゃんの指を軽く包丁で傷付けてみたり、お兄ちゃんの足の裏に画鋲をさしてみたり……ですかね!」

「ですかね! じゃないよ! 俺の身体になにしてんだっ!」

口では怒ってみるものの、実際には嬉しい。

もっと傷付けてくれ。

まあ、芽衣が傷付けてるって知らなかったから、朝起きたときは普通に痛かったんだけどな。

……って、あれ?

「……気がつきました?」

「そうじゃん、俺、痛かったよ! いつ怪我したのかなって疑問だったんだけど……ってことは、再生してないじゃん!」

「そう、そうなんですよ! そこで一回私も躓いちゃって……」

どうやら、傷付けられたからといってなんでも回復するわけではないらしい。

恐ろしいことに、芽衣の実験には大きな意味があったようだ。

……ん?

と、そこで俺はもう一つ大きな違和感に気づく。

「……芽衣、俺はナイフで切られたり画鋲を刺されたりしてるのに、ちっとも起きなかったのか……?」

「ああ、それは睡眠薬ですよ?」

うん、一瞬で答えが出た。

俺の妹は、ひょっとしたらとんでもない化け物なのかもしれない。

睡眠薬を飲ませてナイフで刺すって、どう考えても殺人犯じゃないか。

……ぜひとも起きてるときにもやってもらおう。

「それで、次に私はひとつの仮説を立てました」

「ほう」

枕カバーについた髪の毛にあって、指や足の裏にないもの。

もしくは、その逆。

一体、芽衣はどんなところに着目して実験したんだろう。

きっと聡明な彼女のことだ。

常人には思い付かないような素晴らしい案を考えて、実行に移したんだろう。

「その仮説っていうのが……お兄ちゃんにまだくっついているか否か、という問題です」

ほほう。

確かに髪の毛は既に俺の身体を離れていて、指や足の裏は直接俺に生えているものだ。

その違いに気づくとは、さすが芽衣。

いい着眼点だ。

「ってことは、次は俺の生えてる髪の毛にも傷をつけてみたとか……?」

常識的に考えると、まずは手を出しやすい髪の方から攻めていくだろう。

そう思って、気軽に発言する。

しかし、すぐに俺はそれが間違いだったとに気付かされる。

「いえ、違いますよ!」

芽衣が、軽く否定する。

それを聞いて、俺は嫌な予感を募らせながらも、続きを促す。

芽衣が言った。

「今度は、お兄ちゃんの指を切り落としてみることにしたんですっ!」

「なぜそっちの発想に!」

さすが芽衣、俺の妹だ。

常人には思い付かないような案を実行に移したという点では、俺の予想通りの行動をしていたようだ。

……いや、できれば常人でいて欲しかった。

ほんとに。

「それで結果は……まあ、俺にさっきまで指がついてたんだから、そりゃあ成功か」

切り離した指を切りつけることで再生するってのがビンゴだったってことか。

それなら、さっき芽衣が食べてる間に新しい腕が生えてきたのも頷ける。

「それにしても、腕が切り落とされても起きない睡眠薬なんて、どこで手に入れたんだ?」

真相がわかったところでヘラヘラと問い掛けてみると、そこにはまだ真剣な芽衣の顔が。

そして。

「お兄ちゃん。お兄ちゃんは今、二つ間違ったことを言いました」

この期に及んで、俺の指摘に間違いがあるというのだ。

「まず、お兄ちゃんが最初に言ったこと。腕がくっついていたのは実験が成功だったから、というのが間違いです!」

「いや、だってそんなはずは……」

現に、腕がくっついていたじゃないか。

だったら、成功だったとしか言いようがない。

「お兄ちゃん、聞いてください。はっきり言って、先ほど説明した実験は、失敗に終わっています。……ただ」

「……ただ?」

「……ただ、そのあとに証拠隠滅のために私がとった行動が、お兄ちゃんの身体を再生するためのトリガーだったんですっ!」

「……はっ! そ、そうか……」

実験は、成功していない。

つまり、腕は実験によってくっつかなかったんだ。

しかし、そのあとに他の実験を行って、それが成功していたから……!

盲点だった。

「それと、もうひとつのお兄ちゃんの間違いを指摘させていただきますね?」

「ああ、頼む。その聡明な頭で、この使い物にならないゴミ兄貴めを虐め倒してください」

「……そんなに自分を卑下しないでください……。ちょっと変態さんみたいです……」

さすがに引かれてしまった。

また、こほんと咳払いをしてから芽衣が続ける。

「えー、もうひとつのお兄ちゃんの間違いですが……」

「……な、なんだ」

「……お兄ちゃんの指を切り落とした日に使ったのは、睡眠薬じゃなくて脳を一時的に冷凍させる装置です! 残念でした!」

「……うん、聞きたくなかった」

兄の指を切り落とすために最新っぽい技術を駆使してくる頭の狂った妹。

俺はそんな彼女を見ながら、途中までのところで再生がストップしてしまった左腕で、彼女のきめ細やかな銀髪を丁寧に撫でた。

「説明は、またあとでしますねっ」

芽衣は、食事を再開した。

 

続く。

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