初音島の枯れない桜は奇跡を起こす魔法の桜だ。
純粋な願いだけを叶える……
ある日沿岸の道路で交通事故が起きた。事故の少ない初音島では珍しいことだ。乗車していたのはさくらパークへ遊びに行こうとしていた家族だった。
ボクは見てしまった。三人の子供連れの家族が交通事故に巻き込まれるのを。すぐに救急車は来た。
「こちらの男性はもう息がありません!」「女性の方も同じです!」
どうやら不幸だったようだ。ボクはこれ以上見ていても仕方が無いと思い家に向かった。
「子供はまだ息があります!」という声を後ろに聞きながら。
「でも兄さん。本当に珍しいですね、この島で事故なんて。」
ガラガラ……。おれの部屋の窓が空く音がした。
「そうだな。」
「兄さんも気をつけてくださいね?」
「あー、わかってるよ。」
ガチャ。リビングの扉が開く。
「さくら、また不法侵入か?……どうしたんだ?」
「さくらちゃん大丈夫?顔色悪いけど。」
「にゃはは……交通事故の現場にたまたま居合わせちゃってね。でもお兄ちゃんの顔をみたら元気になったよ!ありがとね。グッバイ」
ガチャ。リビングの扉がしまった。
「今日のさくらちゃんなんか変でしたね。」
「ああ、そうだな。」
「気にならないんですか?」
「かったるい」
朝倉家はいつも通りだった。
枯れない桜の前に一人の少年が来た。
「お母さんもお父さんも死んじゃった。なんで……。ねぇ、枯れない桜。お母さんを、お父さんを、生き返らせてよ!」
少年はとんでもない純粋な願いを桜の木に向かって言った。
「っ!?」
ボクは見てしまった。
男の子が願うのを。そして……
叶ってしまうのを。
程なくして少年は生き返った両親を連れて去って行った。
そして時は流れた。枯れない桜は枯れてしまった。いや、ボクが枯らしたんだ。枯れない桜に籠められた願いは全て叶う前の状態になった。これはボクの親離れなんだ。
少年は両親の様子がおかしいのに気がついた。段々周りから認識されなくなっていっている。それは枯れない桜が枯れてからだった。
ボクは男の子を見かけた。そして男の子の家族が消えていくのを悟った。
「これもボクのせいだもんね。」
ボクは男の子のところまで歩いて行った。
「ねぇ、君。さくらパークにいっといで。」
少年は不思議そうな顔をしたがすぐに笑顔になって
「今からお母さんとお父さんと行くんだ!」
と答えた。
多分、男の子の両親は明日までもたないだろう。
「ゴメンね。」
ボクは見てる事しかできなかった。
夢は醒める物。この島は夢から醒め始めていた。
男の子は観覧車に乗っていた。
「ねぇ、あそこに電車がみえるよ!」
「そうだね。」
「こんなに人が小さくみえるよ。すごいなぁ。ね?お母さん。」
でも返事が帰ってくる事は無かった。
「お母さん……お父さん?」
そこには人がいた痕跡すら残ってはいなかった。
男の子は三人で乗った観覧車を一人で降りる。
ボクは男の子のところまで走っていった。
「ねぇ、写真を買ってあげようか?」
この観覧車はいつのまにか写真をとって販売してくれる。
「お姉さん……お父さんとお母さんは?」
「これは夢だったんだよ。桜が見せた奇跡。本来なら君はもう家族とここにくる事は無かった。でも奇跡の残骸ならほら。」
ボクが指をさした写真には男の子の家族が写っていた。
「ありがとう。お姉さん。」
「うにゃ?大した事じゃ無いよ。しゃあね。」
ボクは走った。本当にこれで良かったのか分からない。でもボクにはこれ以上の事は出来ないんだ。
初音島の枯れない桜は奇跡を起こす魔法の桜だった。
純粋な願いを持つ物に一時の夢を見せる……
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