この素晴らしい性格に性別詐称を!   作:オミズ

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今回はダクネスさんの扱いが酷いです。


ぼうけん ~フウのターン~

ヤバイ…

 

ドM(ダクネス)の手を下心丸出しで握っているカズマを見ながら、(フウ)はこの窮地から脱するために頭を回転させる。焦りは禁物。まずは落ち着いて何から逃げればいいのかまとめよう。

 

①女風呂

ドM(ダクネス)

 

①がダメなのは仕方ない。さすがに俺が可愛いとはいえ男が女風呂に入るわけにはいかんだろう。

②……そう②。何であんな奴と知り合ったどころかあんな関係になってしまったのか…

 

俺は現実逃避を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダクネスと知り合ったのは俺がこのアクセルに来てから2日目。

 

初日に日雇いの仕事で稼いだエリスを使って、異世界へ来た記念感覚で冒険者ギルドに登録した俺が早めの昼食をとっていると、隣の席の会話が聞こえてきた。

 

「クリス。すまないが今日は一緒に孤児院に行けそうにない」

「大丈夫。…あっちの仕事忙しいんでしょ?」

 

なんと善人たちの集いだったとは…出来れば仲良くなりたい。ある程度仲良くなったところで男だとばらして、友人なのに性別すら分からなかったのぉ?…って言って煽りたい!

 

「ああ。…だが、前行ったときにプレゼントをあげる約束をしてしまったんだ」

「あちゃーそれは大変だ。ダクネスが来ないとなるとあの子たち拗ねちゃうだろうね」

 

俺が下種な妄想に浸っている間にも話は進んで、なんとも大変そうな事情が聞こえてくる。

他人事と切り捨てるには目覚めが悪い内容で、関係ないと切り捨てるのは楽だが、個人的に少しだけ居心地が悪い。

一日一善一煽りをモットーに掲げたいと思っている身としては、ここで一善稼ぎたいものだけど……本人以外出来ないことは何ともしようがない。

そもそも俺はこの世界に来てから2日目。道案内すら出来ないのだから子供のおつかいレベルの事も難しい。

 

せめて話すきっかけが欲しいんだけどな。職業欄に《盗賊》と書かれた冒険者カードを手元でもてあそびながら思う。

 

「それなんだが…急で悪いがクリスの方から何か渡してくれないか? 誤魔化すのは気が進まないがあの子たちの期待を裏切るのもな…」

「それは構わないけど、ダクネスからもちゃんと渡すんだよね?」

「ああ」

 

どうやら話はまとまりそうだ。

よし諦めてそろそろ別の日雇いの仕事を探しに行くか。

 

そう思って立ち上がったところで人にぶつかった。無意識のうちに俺はか弱い女の子ムーブをかますために尻餅をつく。

 

「あっ…すみません」

「いやこちらこそ悪かった。怪我はないか?」

 

そう言って手を差し伸べてきたのはダクネスと呼ばれていた善人の内の一人。これはラッキーだ。しかも近くで見てみると男勝りな顔立ちをしているが、中々お目にかかれないレベルの美人であることは確かに思える。

 

善人で美人とは天は二物を与えたもんだな と思いつつ、その手を借りて立ち上がる。

 

「あの…ありがとうございます」

「なに、私の不注意だ。…君はここには初めて来たのか?」

「え…? 何で分かるんですか?」

「すまないが君が物珍しそうに冒険者カードを眺めているのを見てな。これは登録したてではないかと思ったんだ」

 

そう言って照れ笑いするダクネス。美人の笑みとは良いものだと思い…ふとこの人たちと関わる方法を思いついた。

 

「えと…お察し(?)の通りここには初めて来ました。お姉さんは冒険者ですよね?」

「ああそうだが?」

「よろしければ私に冒険者のことを教えて欲しいんです!」

 

そう言って俺はダクネスの目を上目遣いで覗き込む。孤児院に通ってるくらいだ。子供のことは好きだろう…!? 俺の可愛さの前に敗北するが良い!!

 

「…すまないが今日は時間がなくてな」

 

…うぇ!!?

俺の可愛さが通じなかっただとぉ。つうかそうだ。なんか別の仕事があるとか言ってたじゃん。

 

だが天は俺を見放さなかったようで、ダクネスは俺たちのことを見物していたクリスを指差してこう言った。

 

「だが君さえ良ければそこのクリスに教えてもらうといい」

 

しゃっ!!棚ぼた!!

内心で狂喜乱舞しながらも、俺は猫被りを続ける。

 

「はい。私はいいんですけど…クリスさんは良いんですか?」

「んーそうだ。買い物に付き合ってくれればいいよ」

 

買い物?

ああ、孤児院の子どもたちへのプレゼントか。それだけで先輩冒険者から指南を受けられるなら、今日は職探しはしないでいいな。

 

「これで決まりだな。私は行くが…? ああ…まだお互い名前を知らなかったな。私はダクネス。クルセイダーだ」

「私はフウです。よろしくお願いしますね」

 

俺はぺこりと頭を下げる。

 

「ああよろしく頼む。ではな」

 

そう言って去っていくダクネス。クルセイダーとは確か上級職と呼ばれる上位存在のはず。そんな彼女だったら冒険者家業一本で食べていけそうな気もするが、一体何の仕事をしているんだろう?

 

その疑問は捨て置いて、俺はダクネスにひらひらと手を振っているクリスに向けても頭を下げた。

 

「今日一日よろしくお願いしますね……()()?」

「先輩……よしっ、着いて来な後輩!まずは買い物だ!」

 

よしっ読みが当たった。ハイテンションで駆け出していくクリスを追いながら俺はほくそ笑む。

 

可愛い後輩が出来て嬉しかろう。だがその可愛い後輩は男。どうせ女と思っているだろうからばらした時が楽しみだ。どんな顔、どんな声で俺を魅せてくれるんだろう? 今から楽しみで仕方ない!

そのためには目に入れても痛くないくらい可愛い後輩を演じきろう。演じきったその先に俺の求める快楽はあるのだから!

 

 

 

 

それから俺とクリスは多くの店を冷やかした。

目的はプレゼント以外無いのだが、予想以上に熱を入れて探すクリスに求められるまま付き合っている内に、青かった空は少しずつ赤みがかってきて人の気配は薄れてきた。

 

「やばっ!もう行かなきゃ!ごめんね後輩。明日はダクネスが付き合ってくれると思うから!!」

 

慌ててついさっき買ったばかりのプレゼントを持って走っていくクリスを見送りながら、結局冒険者のことについてはあまり聞けなかったな と思う。

今日知ったのは、クリスが俺と同じ《盗賊》だということと、一押しのスキルが『スティール』ということだけ。

よくよく考えるとクリスに関係することしか聞いていない。

 

まぁいいか。今日一日付き合ってみて分かったけど、クリスは本当に良い人だ。俺たち日本人が思い描く《盗賊》のイメージとはかすりもせず、気さくで子供が好きな近所のお姉さん的な存在だ。

 

ただし胸はないが。

 

ぐ~ と俺の腹が空腹を訴えてくる。心もとない残高と睨めっこしながら、どこかの露店で串焼きでも買おうかと思ったところ、疲れた顔をしているダクネスを見つけた。

 

「ダクネスさーん!!」

 

俺は声を張り上げながら近づくが、考え事に没頭しているのか気付かない。そのまま隣に並んでも一向にダクネスは気付く様子がない。

 

特にダクネスに用があるわけではないんだけど、気付かれないのはそれはそれで癪だ。ダクネスには悪いが少し痛い目を見てもらおう。言い訳は考えてあるし。

と言ってもダクネスはクルセイダー。レベル1の貧弱な盗賊の生半可な一撃など痛くも痒くも無いだろう。俺は少し考えて、速度に頼ることにした。

 

一旦ダクネスから10メートル程離れる。ダクネスの歩幅と俺の走る速度を考えて向かう角度を決める。狙う先はダクネスの2メートル前方。俺は地面に手を着き屈み、所謂クラウチングースタートを決めた!!

硬そうなダクネスの体。狙うは一点。素人でも狙いやすくかつダメージを与えられる場所。

 

俺はサッカーボールを蹴るつもりで脚を振り、ダクネスの股間を強打したッ!!

 

――――痛みにもだえる叫び声は上がらなかった。まさか俺の貧弱な攻撃力では急所を狙ったとしてもダメージを与えられなかったのかっ!!?

いやでも、さすがに誰かに蹴られたことは分かるはず。だから俺に気付いたはず……もしかして怒っているのか?

ならば予定通り言い訳を言おう。

 

「あっ…ごめんなさい足が滑って」

 

そう…これこそが数多の小説・漫画で見た言い訳。使い古された手法には使い古された説得力がある。正に完璧な理論。この完璧さを前に頭も固そうなダクネスは馬鹿みたいに納得することだろう。

 

そう自信満々に思った俺はちらりとダクネスの様子を伺い…目を閉じたまま恍惚の表情を浮かべていることに気付いた。

 

「んっ……!この情け容赦のない下種の極みの一撃。そんな下種がこれだけで済ますはずが無い!痛みに悶える私を蹴り続けて、許してくださいと謝るまで徹底的に虐めぬき、許して欲しかったら誠意を見せて裸で土下座しろと言うんだ!!私は恥辱に震えながら土下座をして「ストップ」

 

あまりの気持ち悪さに素に戻った俺は変態(ダクネス)を止めた。変態(ダクネス)は顔を赤らめたまま体をぶるりと震わせ、そうしてからようやく俺の存在を目に入れた。

 

「フッ…フウ?」

 

ダクネスは怯えた声色でありながらどこか期待を孕んでおり、やってしまったという表情と気持ち良いという表情を包み隠さず俺の前に曝け出していた。率直に言って気持ち悪い。

だが…ソレを見た瞬間、俺は本能のまま仮面を壊してしまった。

 

「お前さぁ…何一人で盛って俺みたいなの相手に醜い本性見せ付けてんの。孤児院のガキにソレ見せ付けて興奮してたりする内にはまったか?」

 

俺はダクネスの髪を鷲掴みにして懐に引き寄せて囁く。ダクネスの上気した顔が近づき、形の良い唇から生温い吐息が俺にかかる。自分の頬を触って見ると火傷しそうなくらい熱くて、嫌でも自分が興奮していることを実感させる。

 

「見せ付けたりなどしていない!そもそもお前が私に気持ち良い痛みを与えたせいだろう!?」

 

何かをダクネスが言っているようだが聞こえない。俺は身を引きながら思う。

逃したくない。こんな、こんな――ッ!!!

 

「きゃぁああああーーーー!!!変態変態変態ッッ!!!」

 

絶好の冤罪チャンスッッ!!!

 

「え?」

 

俺の叫び声を聞きつけてわらわらと人が集まる。さぁこの状況で俺が泣いていたらどうなるでしょうか?

答えは簡単。優しい町の人が、ダクネスにいたいけな少女に手を出した犯罪者のレッテルを押してくれるゾ☆

 

「い、いや違……違くもなくもない!!」

 

自分を見る町の人の目が冷たいことに気付きダクネスは必死に…? 違う。あいつ蔑まれて興奮してやがる。

 

うわっこっち見た。さぁ次は何をするんだ!って目で見るんじゃねえ。さっさとしょっ引かれろ。

 

ドン引きしながらも泣き真似を続ける。

 

「お嬢ちゃん。大丈夫かい」

 

そう言って声を掛けてくれたのは頭頂部が輝いているおっさん。気丈に振舞っているかのように見せるために、俺は涙を拭きながら振り向く。

 

「だ、大丈夫です」

「さぁ早くここを去ろう。安心しなさい。あの変態はお嬢ちゃんには近づけさせないからね」

「は、はい!」

 

俺は安心した表情を見せる。後はこのまま去るだけだ。傷心のフリをしている俺は、そのままおっさんに付き添われながら帰路につく。

去り際に町の人たちにばれないように軽く振り向いてダクネスを見る。彼女は熱い眼差しを俺に送っていた。

 

 

 

 

次の日。

さすがに今日は働かないと金が足りなくなるな と残金を見て判断した俺は、職探しのために町をふらふらする。

昼に向けて仕込みを始めている出店や花壇に水をやっている女を見ながら、俺は眠気覚ましに大きくのびをする。

 

「やあまた会ったなフウ」

「はっ?」

 

…ホラーで目覚まししたいわけじゃないんだが。

 

「こっちに来てくれ」

 

そう言って唖然としている俺の手を掴んで引きずっていくダクネス。

 

…おいおっさん。話が違うぞ。何でコイツは娑婆を歩いてんだ…?

 

俺の疑問をよそにずんずん人気の無い方へ歩いていくダクネス。

脅す気か…? と邪推してみるも、脅すより脅されたいのがコイツだよな という理解が生じる自分に怖気が走る。

とりあえず黙って手を引かれること数分。町から少し歩いたところにある森の中でダクネスは足を止めた。

 

「フウ…昨日会ったばかりなのに急だと思うかもしれないが、今日は真剣な頼みがあるんだ」

 

何か覚悟を決めたキリッとした顔でダクネスはそう言う。この顔だけ見れば勇猛な騎士と言ってもいいと思う。

 

だが…絶対碌でもない頼みだ。聞くだけ聞いてとっとと断ろう。

 

「私を……奴隷にしてくれないか!」

「嫌です」

「んくぅっ……はっ、もう一度考えてくれ!」

「嫌です」

 

二度断るとダクネスは静かに項垂れる。

おかしいな? 何故かまったく申し訳なさを感じない。むしろ興奮していることに気付いた時から、蹴りたい衝動が沸いてくる

 

「用はそれだけか? それだけなら帰る。今日は仕事を探さなきゃいけねえ」

 

そう言って踵を返した俺の耳に聞き捨てならないことが聞こえてきた。

 

「…金ならある」

「マジで?」

 

ダクネスから財布をもらって中身を覗くと、俺の日給の20倍。

 

「…おらっ!いつまでも立ってんじゃねえぞドMが」

「はい!」

 

俺は即座に魂を売った。

嬉しそうに四つん這いになるダクネスを見ながら、選択早まったかも…と遅まきながら後悔した。




ご読了ありがとうございました。
上手ないじり方を身に着けたいです…
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