気付けば30人の方がお気に入り登録して頂いておりました。
更新速度が遅くて申し訳ございません。こんな稚作をお気に入りにして頂いた皆様の為にもこれからも頑張って更新していこうと思います。
俺達とディアベルさんが初めて出会ったのはデスゲーム開始日の当日、俺達が主催した今後の活動の方向性を決める話し合いが行われた前日の事だった。彼の方から此方に接触してきた事が切っ掛けで、自身がβテスターである事を打ち明けた上で俺達の行動や思想に感銘を受けた旨と、自身の知識や技術を攻略に是非とも役立てて欲しいという提案をして来た。俺達はそれを二つ返事で了承した。というのも、計画を進めていくに当たって余りにさも有志の数が少なかったからだ。アルゴさんがβテスト時代から培ってきた人脈により、初日から何とか数名程の協力者を集める事が出来たが、それでも一万人近い人数を補助するとなると余りにも荷が勝ちすぎる。協力者は多ければ多いほど有り難いという状況だった。その旨を彼に話した上で感謝の言葉を伝えると、ディアベルさんは自身の知り合いだと言う数人のリアルでの知人を連れて来てくれた。彼等も俺達の意思に賛同してくれた様で、今後の活動の手助けをしてくれる約束をしてくれた。これにより漸く活動の基盤が出来上がったのだ。
「ディアベルさん、私達は貴方の申し出にとても感謝しました。一万人の前で啖呵を切ったあの日、正直に申し上げますと、とても不安で堪らなかったのです。勿論後悔はしておりませんでしたが、それでも私達の微力が皆様の助けになるのか、確りと生きる標を示せるのか、とても不安で堪らなかった……。そんな中で、ディアベルさんは私達のやった事は正しい事なのだと、誰もが現実的ではないと決め付けて一蹴する事を行動で示したのだと、言って下さいました。その言葉に私達は大変勇気を頂いた事を覚えております」
当時の事を懐かしむ様にお嬢は滔々と語っていく。ディアベルさんは当時、飽くまでも俺達に便乗しただけだと笑いながら謙遜していたが、それでも俺達にとって彼の心遣いは確かな心の支えとなっていた。
「ディアベルさん、俯かず顔を上げてください。貴方は決して悪く無いのですから」
お嬢はディアベルさんの右頬に左手を添えて顔を上げさせ、彼の目から溢れる涙を親指で拭った。しかしディアベルさんは顔を背けてそれに抵抗する。
「ミヤビさん、貴女にだって判らない筈だ。ケイジュ君と一緒で、苦楽を共にした仲間を喪った事なんて無い……」
「判りますよ……」
お嬢は拒否された手を戻し、ディアベルさんを真っ直ぐ見つめる。
「五年前、私は母を事故で亡くしております。私を庇って亡くなりました……」
ディアベルさんは驚いた様にお嬢を見た。周りで見守っている人達も、お嬢のその言葉を聞き僅かにざわめきだした。彼女は奥様の死の真相を詳しくは知らない。それは彼女自身が奥様の存在を含め、亡くなった前後の記憶を失っていたからだ。しかしデスゲーム初日に奥様の存在を思い出した事により、生前の記憶は既に甦っている。何事にも替えようの無い母親から貰った愛情を思い喜びを感じながらも尚、生還した後にそのかけがえ無い存在がこの世に居ない事に涙する日も少なくは無かった。その事実を話すのはこれが初めてであり、ディアベルさんの心を救う為にそれを打ち明けるその覚悟を思い、俺は静かに目を閉じる。
「私は母が亡くなった事実を知った時、勿論自分自身を責めました。私が居なければ母は亡くならなかったのではと、私の存在が母を殺してしまったのではないかと、幾度も自身を責めました。でもそれは違うのだと、私はケイジュに諭されたのです。亡くなった母は、残された私が自責の念に苛まれる事を望んでいないと……命をとして護った者にいったい何を望むのかと」
静かに、言い聞かせる様に、お嬢はディアベルさんに語りかける。
「倒れそうになる私を……ケイジュは支えてくれました。大切な人を亡くした悲しみは、決して無くなる事はありません。残された者は、死ぬまでこの悲しみを背負って生きていかなければならないのもまた事実です。だからこそ人は支え合い、助け合い、悲しみを共有し合うのです。だから、一人になろうとしないで下さい」
お嬢は再びディアベルさんへと、今度は両の手を伸ばす。
「貴方の存在はあの日、確かに私達の心の支えとなりました。ならば、今度は私達がディアベルさんの心の支えになってあげる番ですね」
そう言ってお嬢は、ディアベルさんの頭を胸元へともって行き、そのまま抱き締めた。あまりの状況に為すがままのディアベルさんは、その状況を受け入れる。二人が象るその姿は正に子供を抱き寄せる母親の様だった。
「やめてくれ……俺は……貴女に優しくされる権利何て無いのに……」
言葉裏腹に、ディアベルさんは抵抗する事も無く、声だけが今にも泣き出しそうな程に上擦っている。
「もう良いのです。私達は本当に酷い仕打ちをしてしまいました。ディアベルさんのパーティーメンバーが亡くなられた事を知っていて、貴方が口を閉ざしているのなら深く言及するまいと、いつか打ち明けてくれる事を待ってしまった。復讐という悲しい行為に及ぼうとしているなど露程も知らず、何と暢気な物だったでしょうか」
彼女はそう言うが、事の先送りをしたのは俺だった。俺達が事実を知ったのは攻略会議が開かれた昨日の事で、またディアベルさんのパーティーメンバーが亡くなった日と攻略会議までに幾ばくかの時が経過していた。その間俺は彼から事情を伺っていなかった事もあり、俺はディアベルさんが何らかの形で折り合いを着けた上で攻略会議を開いたと解釈した。気丈に振る舞っている所に水を指すのが憚られたのだ。だがその様な野暮な事実をお嬢は語らなかった。彼女に庇われてしまった事に俺は自身の未熟さを痛感した。
お嬢は何も言わなくなってしまったディアベルさんの震える背中を優しく撫でていた。それを見た俺は静かに踵を返す。
「貴方は私達にとって、かけがえの無い大切な人なのです。貴方が苦しいと、私も苦しい。貴方が哀しいと、私も哀しい。お願いですから独りで抱え込まないで……」
「………………つらかった。不甲斐ない自分を、何度殺してやろうかと……思ったか……」
「仲間が亡くなってしまった事は、非常に残念で仕方がありません。でもディアベルさんは最後まで守ろうと戦ったではありませんか。どうして責められるでしょうか。何故貴方の命をもって償わなければならないでしょうか。決してディアベルさんは悪くありません。もう自分を責めなくても良いんです……」
「悔しかった……信じていた仲間に……裏切られて……」
「憎しみに支配されてはいけません。私達は貴方を決して裏切ったりはしません」
「……恐いんだ……。失ってしまうのも、一人になってしまうのも……」
「貴方を置いて居なくなったりしません。もう大丈夫ですから……安心して下さい……」
「………………すまない…………少しの間だけ……このままでいて貰っても良いだろうか……」
「ええ……。今は誰も見ていませんから……大丈夫ですよ……」
決して、誰からという訳では無かった。
このフロアに居る誰もがいつの間にか二人の空間から距離をおき、壁に向かって立っていた。
勇猛果敢にボスに立ち向かい、皆をまとめあげ、勝利への立役者となったディアベル。裏切りに合い、仲間を失った。様々な葛藤があっただろう。自分に嘘を吐き、意にそぐわない行いをしただろう。そんな彼を、一人の女性の前で弱さを晒け出す彼を、その啜り泣く声を、誰も咎める事はしない。数奇な運命に翻弄され、悲しみにうちひしがれ、それでも赦しを与えられた彼にとって、この空間はどこまでも優しく在った。
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「随分と、情けない姿を見せてしまったね……」
あれからどれ程の時間が経過しただろうか。悲しみの淵から立ち直ったディアベルさんは、その端正な顔を恥ずかしげに赤らめ、少々俯きながらそう言った。
「知っての通り、俺は一時の感情に身を任せて暴走し、皆を危険に晒しかけた。ケイジュ君が居なければもしかしたら俺はもうこの世に居なかったかも知れないし、皆にも被害が及んでいたかも知れない。その点に関して、ケイジュ君には感謝してもしきれない。まあ、あの蹴りは流石に堪えたけどね……」
ディアベルさんは苦々しい表情で、冗談気にそう言った。
「手荒な真似をしてしまって申し訳御座いませんでした」
俺は素直に頭を下げた。幾ら緊急事態だったとは言え、あれは少々自分でもやり過ぎたと思っていた。現状俺の頭上にあるカーソルは緑色を保ってはいるが、もしあれが攻撃判定と捉えられ、カーソルがオレンジに変化していては笑い話にもならない。改めて自身の行いがどれだけ危うかったかと思うと今更ながら反省の念が湧いていた所だ。ディアベルさんは冗談だと手を上げ、話を続ける。
「金輪際、皆の和を乱す様な真似はしないつもりだけど、やってしまった事に対してはけじめをつけなければいけない。本当に、済まなかった……」
ディアベルさんは深々と、俺達の前で頭を下げた。
「頭を上げてくださいディアベルさん。ここにいる人達は貴方の立場に立って物事を考える事が出来る人達です。もう誰も貴方を責める人なんていない」
「ありがとう、シンカーさん……」
シンカーさんに促され、ディアベルさんは頭を上げる。頭を上げたディアベルさんは再び皆に向き直った。
「一時の感情に身を任せ、皆に迷惑を掛けてしまった。そんな俺でも、受け入れてくれるだろうか? また皆と一緒に戦っても良いかな?」
確認の意を込めて、皆を見回しながらディアベルさんはそう言った。
「ケッ! ほんなもんイチイチ聞かんでも判っとる癖によう言うわ」
「ミヤビの嬢さんが言っていた通り、あんたはもう一人では無いんだ。これからも宜しく頼むぜ」
彼の現在のパーティーメンバーであるキバオウさんとエギルさん、また彼等意外のパーティーメンバーはディアベルさんの残留に積極的だった。周りを見ても異義を唱える人は居ない。彼は周りの皆に感謝を述べた後、お嬢に向き直る。
「最後に……ミヤビさん」
ディアベルさんの呼び掛けに、お嬢は穏やかな表情でそれに応えた。
「沢山気を遣わせてしまって、本当に申し訳ないと思っています……。俺がもっとしっかりしていれば、ミヤビさんの前で恥ずかしい姿を見せる事は無かったんでしょうね……」
彼は自身の行いを恥じているとは言っているが、それでもその表情は穏やかな物だった。俺はその発言と表情から何となくだが彼の心情を察した。
「いえ、心中をお察し致します。とても悲しい出来事に見舞われたのです。幾らディアベルさんが強い人だからと言っても、決して平静を保てる様な事ではありませんから……」
お嬢はその表情を少しばかり悲しみに代え、言葉を返す。
「その悲しみは、これから乗り越えて行こうと思います……。あいつらはリアルでも友人だったので、俺はゲームから生還してもこの感情から逃れる術はありません。それでも誰かと支え会う事で乗り越えられると貴女が教えてくれた。そして支えてくれるとも言ってくれた……。その言葉で俺は充分報われました」
彼のその言葉にお嬢は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「はい。一緒に乗り越えていきましょう」
対するディアベルさんは、お嬢のその屈託の無い笑顔を見て心なしか表情を曇らせた様に見えた。
「ミヤビさん……」
ディアベルさんがお嬢の名前を呼ぶ中彼女もそれに気付いたのだろうか、不思議そうに頭を僅かに傾げながら彼の様子を見守っていた。そんな彼女の様子を見ながら、ディアベルさんは微かに頭を振る。彼の顔は、いつの間にかいつもの人当たりの良い表情に戻っていた。
「やはり何でもありません。これからも宜しくお願いします」
そう言って彼は頭を下げた。お嬢はディアベルさんの様子に釈然としない様子ではあったが、深く言及する事も無く答礼してその場は終わった。
それからは特にこれと言った話も無く、皆で健闘を讃えつつアクティベートされた第二層へと上がっていったのだった。俺はその間歩きながらディアベルさんの事について考えていた。今後彼をどの様に……言い方は悪いがどの様に扱っていくか……。結論から言えば様子見だ。彼の境遇ははっきり言って特殊で、彼の元のパーティーはリアルの友人で構成されていた事を知っている。ディアベルさん本人が言っていたから間違いは無い。つまり、MPKを仕掛けたユーベルさんも彼の現実世界での友人だった筈なのだ。思い付く限りで最悪の裏切られ方をしたディアベルさんは、お嬢の説得により自暴自棄からは脱した訳だが、果たしてその程度で埋められる程の心の傷だろうか?また何かの切欠で自棄に陥ってしまう可能性が無い訳では無い。彼の指揮能力は他と比べて抜き出ている事もあり、簡単に戦力から除外するのも考えものだ。それ故に様子見以外の現状判断は出来ない。
第二層に足を踏み入れると、そこには草原が広がっていた。傾きかけている日差しを感じ、思いの外時間が経過していた事に気が付いた。
「佳樹、今回の件をどう思いますか?」
隣を歩いていたお嬢が不意に声を掛けてきた。
「早急に手を打つ必要があると考えております」
お嬢が言っている今回の件とは、恐らくユーベルさんの裏切りに関する事だ。こうして実例を見た事で改めて人間の心理を考慮しなければいけないのだと実感した。死生観の食い違い。俺達が必死に生きる術を模索している間、如何にシステムの隙を突き人を殺すかを模索していた者がいた。自らの手を汚す事無く人を殺した手際は見事としか言えないが、決して看過出来る問題では無い。
「今後同じ様な輩は必ず現れます。現実とは違い、罪を犯す事に対するリスクがこの世界は極端に低く箍が外れやすい。その様な者達を、お嬢はどうしようとお考えですか?」
「勿論止めさせます。難しい事だとは判っていますが、だからと言って手をこまねくつもりはありません」
「畏まりました。ではその様に致しましょう」
「あの……」
声を掛けられ、俺とお嬢は会話を止める。後ろを振り替えれば、そこには今回パーティーを組んだ四人がいた。皆一様に不安そうな顔をしている。
「ケイジュさん、私達はその……どうすれば良いんですか?」
メリーサさんが問い掛けてきた。
「私達もケイジュ君達に着いていった方が良いのかな?」
ロザリオさんも曖昧に問い掛けてくる。恐らく、フロアボス戦での自身の活躍を示せず強く出られないのだろう。
「今回組んだパーティーは第一層攻略の為の臨時的なものです。好きになさって下さい」
後で俺達の様子を伺っていたのは気付いていた。彼女達の意見は尊重するつもりだが、ここは敢えて突き放す様に冷たい声色で言い放つ。明らかに尻込みするのが手に取る様に分かった。
「ケイジュ君、ちょっと冷たくない? そりゃ言いたい事も解るけどさ……」
ロザリオさんは怒気を孕んだ声でそう言い放つ。不満よりも寧ろ疑惑に近い感情が見てとれた。コユキさんはその様子を見て一層不安を募らせ、キリュウさんは押し黙っている。
「理由を説明する前にロザリオさん、貴女はミヤビをどの様な人間であると認識していますか?」
俺の問い掛けにロザリオさんのみならず、他の女性陣も僅かに考える様に眉根を寄せる。キリュウさんだけが真っ直ぐ此方を見ていた。
「ゲーム開始当初とは状況が違う事は解る筈です。ディアベルさんの元パーティーメンバーであるユーベルさんの裏切りにより、茅場昌彦が提示した百層まで突破すれば円満解決、という訳にはいかなくなりました。キリュウさんはともかく貴女達三人は、ミヤビが今まで何をしてきたかを知っている。常にプレイヤー救済の為に尽力していたのを見ていた筈。ならばこの様な状況になり、ミヤビが次にどう行動するかも予想出来るかと思います」
皆、静かに俺の話を聞いてくれている。ロザリオさんも少しだけ落ち着いてくれた様だ。
「自分とミヤビは、これからもプレイヤー救済の為に尽力する所存です。偽善と罵られる事もあります。最前線に身を置き、未踏破のダンジョンに臨むなら常に命の危険に晒される事も念頭におかなければなりません。加えてプレイヤーの命を狙う輩の存在も今回確認出来ました。こちらも対処しなければなりません。メリーサさんはどうすれば良いかと問いましたね? 自分で決めなさい。着いてこいとは言いません。自分達と別の生き方をした所で誰も責めたりはしません」
俺の問い掛けに、彼女達はお互いを見る。意志を確認しあっているのだろうが、答えは直ぐには出ない様だった。
「どの様な形になるかはまだ判りませんが、自分達はプレイヤー救済の為に組織的な活動をするつもりです。誰にお願いされるでも無く、見返りを求める訳でも無い。恐らくは完全な自己犠牲の下に成り立つ物でしょう、これまでと同様に。ただ一時同じパーティーに籍を置いていたという生半可な理由だけで自分達に着いてくるというなら、止めておきなさい。意志が無ければ頭数にすらなりません」
皆の顔が強ばっていくのが判る。何故そこまで言われなければいけないのか?という疑問が頭に巡っているのが手に取る様だった。見返りを求めない善行は得てして苦痛を伴う物だ。ボランティア活動をする有志の数が少ない時点で察する事が出来る。俺達に着いてくると言うのなら、苦行に身を置く覚悟を問わなければならない。
「もう一度言いますが、どうするかは自分で決めてください。それではお嬢、行きましょう」
「ええ、それでは皆さん、機会があればまた一緒に闘いましょう」
返答は無い。俺達は踵を返し、主街区に向かって歩を進めた。誰一人着いてくる者はいなかったがそれでも良かった。
俺達は道中出現するMobを倒しつつ、ゆっくりと主街区へ向かう。途中、アルゴさんにフロアボス戦で起こった事や、今後の留意点に関してメッセージを送ったが返信は無い。何やら取り込んでいるのかも知れない。
「誰も、着いてきて頂けませんでしたね……」
ぽつりと、お嬢が呟いた。
「自分達が歩むのは茨の道です。着いてきて頂けなかったのは残念ですが、他人に生き方を強いるのは良くありません」
「そうですね……。でも、せっかくお友達になれたかと思ったのに……。ロザリオさん達ともっと話したかったです……」
チクリと胸が痛んだ。そう言えばお嬢は同世代の友人が少ない。義務教育は中学二年の頭までしか受けておらず、それ以降は盲学校に通っていた。無論、顔と名前が一致する友人は目が見えていた時期の友人に限られてくる。また、住む世界が違えば人間関係が長く続く事も無く、今も尚交流が続く友人は片手で数える程しか居ない筈だ。初期のプレイヤー育成で関わった人達を友人と呼べるかは兎も角、同世代で、同じチームとして関わったのは彼女達が初めてだったのだ。
「申し訳御座いません。折角友人が出来たにも関わらず、この様な事になってしまって……」
「いえ、良いんです。皆さんも佳樹が言おうとした事をきっと理解してくれる筈です。それに、今生の別れという訳ではないのですから……」
お嬢は努めて明るくそう言った。駄目だな、この世界に来てから考えなければならない事が増えすぎた。最も気を使う必要があるお嬢を蔑ろにしてしまうとは……。
「本日中に彼女達にお詫びを入れます。幸い、嫌われているのは自分だけでしょうからお嬢との交友は何とかなるでしょう」
「いえ、どうやらその必要は無い様です……」
不意に気配を感じて後ろを振り返った。どうやらお嬢の方が先に気付いていたらしく、嬉しそうに顔を綻ばせている。俺は彼女達に軽く頭を下げる。向こうも俺達が気付いた事が判ったのか、駆け足で近付いてきた。
「ケイジュさん!」
一足先に駆け寄ってきたキリュウさんが大きな声で俺の名を呼ぶ。後から女性陣も彼の横に並んで横一列になった。
「先程の無礼をお詫びさせて下さい。皆さんの気持ちも考えず、偉そうな発言をしてしまって申し訳ありませんでした」
俺は皆が揃ったタイミングを見計らい、四人に深く頭を下げた。
「ケイジュ君頭をあげてよ。ケイジュ君が私達の事を考えての発言だって判ってるから」
ロザリオさんの言葉に、俺は下げていた頭を上げた。皆の表情は、一様に覚悟を決めた物になっている。
「ケイジュさん、俺も二人に着いて行かせてくれよ。俺、今まで攻略とか何も考えずに強くなる事だけを考えて生きてきた。強くなれば死ぬことは無いだろうし、そうしていればいつかこんな俺でも役に立つんじゃないかって、ただ漠然と生きてきた。でもただ強くなっても一人じゃどうしようも無いし、この前だってヤバかった所をケイジュさんとミヤビさんに助けられた。でもその時に思ったんだ。見ず知らずの俺を何も言わずに助けてくれた二人を見て、すげえカッコイイなって。俺もあんな風になろうって。だから攻略会議の時に真っ先に二人を探したんだ。あの時から俺は二人の仲間になりたかったんだ。なあ頼むよ。まだ頼りないと思うけどさ、辛くても逃げないから、俺を仲間に入れてください。お願いします」
キリュウさんは俺達の前で確りと決意を表明し、深く頭を下げた。弱冠十五歳。まだまだ世間に疎く、現実を知る様な時期では無い。今までソロでやっていたのも現実を直視する事の無い杜撰な認識による物だった。しかし彼は自身の無力を知り、自らを変える選択をして今この場所に居る。このゲームに囚われた意味を自ら見出だそうとしている。それは俺達が窮地の彼を救った事が切っ掛けであり、俺達は彼の成長を受け入れる義務があるのではないのだろうか。
「私も、ケイジュさん達に着いて行かせて下さい。正直に言うと、私とユキちゃんは遊び目的でゲームを始めただけで……まあ多分皆さんそうなんでしょうけど、ゲームなのに命懸けって事態になって、凄く怖かった。でも私、そんな中でも一生懸命皆の助けになろうとするケイジュさんとミヤビさんを見て、恐がってばかりじゃダメだって思ったんです。ユキちゃんもいたし、私がユキちゃんを守らなきゃって勝手に思ったのもあって強くなる為に攻略する決意をしました。私、誰かを守れる強さを手に入れたいんです。ケイジュさん達に着いていけばそれが解るんじゃないかと思ったんです。お願いします、ボランティアでも何でもします。辛くても逃げません。私も仲間に入れてください」
「私もお願いします。私は皆さんみたいに強くありません。多分、これからも戦いになると足を引っ張ってしまうかもしれません。それでも、私は皆さんと一緒にいたいんです。めぐ……メリーサちゃんやロザリオさん、キリュウ君に、ケイジュさんとミヤビさん。もう皆さんは私にとって大切な人達なんです。私の知らない所でその大切な人達が、その……急に居なくなってしまうのは、私には耐えられません。お願いします。頑張って強くなります。一緒に居させてください」
彼女達は二人揃って頭を下げた。二人とも過程は違えど、それに至る同じような理由を持ち合わせていた。大切な人と離れたくない。大切な人を護りたい。非常に尊い考えだ。俺が先に提示したリスクを背負ってでもそうでありたいという願いが真摯に伝わってきた。
「私もケイジュ君達と一緒に居たい。折角知り合えたんだから、こんな所でサヨナラなんて絶対したくないよ。正直に言うとケイジュ君が言った事も判るんだ。半端な覚悟でミヤビちゃんと同じ事なんて出来やしないって、今でもまだちょっとだけ思ってる。でもこんな所で二の足踏んで他の皆に取り残されちゃうのは凄く悔しい。それにどうせなら私だって人の役に立つ事をしたいんだ。こんな不条理な事に巻き込まれたからって、それを盾に他人を蔑ろにする様な生き方なんかしたくない。お願いだから私もケイジュ君達を手伝わせて」
彼女も俺達に向かって頭を下げた。彼女の考えは他の三人と毛色が違ってはいるが、それでも言葉のひとつひとつに彼女の中にある信念が伺える。それは何処か、お嬢の持つ考えに近い物を感じた。
「皆さん、頭を上げてください」
俺が頭を上げる様に促せば、四人はゆっくりと頭を上げた。皆一様に不安そうな眼差しを此方に向けている。どうやら何か勘違いをしている様だ。確かに俺の高圧的な物言いは彼らの覚悟の程を試す意味合いがあったが、それ故に要らぬ立場関係が発生してしまっていた様だ。本来、俺達が皆に頭を下げて協力を仰がなければならない立場なのだ。俺は腰を折り、深く頭を下げる。隣にいるお嬢も続いて頭を下げた。
「皆様の御厚情、大変痛み入ります。是非とも私共に御協力をお願い致します」
皆は俺達の仲間になる事を望んでいる訳で、俺達がへりくだる必要は無いのかも知れない。それでも、辛いと判っていても尚俺達のやる事に協力してくれる。感謝を伝えずにはいられなかった。
頭を上げると面食らった様な表情をした四人の姿があった。それが少しだけ可笑しくて、俺は軽く笑んだ。一番近くに居たキリュウさんに右手を延ばす。彼は戸惑いながらも、気を取り直して確りと手を握り返してくれた。次いで、ロザリオさん、メリーサさん、コユキさんの順で同じ様に握手を交わす。お嬢も同じ様に皆と握手を交わしていった。
少数精鋭ギルド『玲瓏』
この日が事実上、俺達がチームを組んだ記念すべき日となった。