久々に原作主人公を登場させる事ができました。
俺達はつい先ほど『玲瓏』のミーティングを終え、ミヤビさんとケイジュさんの会話をロザリオさん達と一緒にこっそりと聞き耳をたて、その後に皆で第一層にある喫茶店『クロエ』に集まっていた。
「さて、皆さんどう思いますかねぇ……」
ロザリオさんは出されたアイスコーヒーをストローで啜りながら俺達に意見を求めてきた。喫茶店『クロエ』はフェンダーさんの彼女であるクロエさんが営んでいる喫茶店で、たまにあるオフの日はよくここに集まって駄弁っている。料理スキルの高いクロエさんが作る料理は第一層で人気があり連日客足が絶えない。一層の住人だけでは無く攻略組も利用者が多い事もあり、情報収集には打ってつけではあるが、今回の様に内緒話には恐らく向かないだろう。必然声量は落ちる。
「どう思うって言うのは、ヒースクリフさんの事ですか? それともそれを隠していたケイジュさん達の事ですか?」
「どっちもかな……」
メリーサさんの返答にロザリオさんは不満げにそう言った。俺達四人の中で一番歳上である彼女は姉御肌で頼り甲斐があるのだが、気分にムラがある。ひょんな事で戦闘時に無双する時もあれば、今回の様にふて腐れてしまう事もしょっちゅうだ。
「ケイジュさん達も私達に不安感を与えない為って言ってたじゃないですか。それにヒースクリフさんも悪い人だって決まった訳では無いですし……」
「それにしてもだよ……。私達だって『玲瓏』だよ。いつまでも守られる訳にもいかないし、もっと頼ってくれても良いと思わない?」
ロザリオさんは頬杖を付きながら尚もふて腐れる。
「頼りないって訳じゃ無いと思いますよ。ただ、俺達はまだ未成年だし、そんな俺達が問題に身を投じる状況を良しとしないってのは思ってますよね……あの人達……」
俺はホットコーヒーを啜りながら兼ねてより思っていた事を口にした。ふとロザリオさんを見れば、彼女は目をパチクリさせながら俺を見ていた。
「なんすか?」
「いや、キリュウって時々的を得た事言うよね。普段はバカみたいなのに」
「うるせーし」
どうせ馬鹿だよと、心の中で独りごちる。まあここに来る前の俺だったら馬鹿みたいに喚いてただろうけど、ずっとケイジュさん見てたらそりゃ成長もするだろ。
「それにしたって私未成年じゃないし、言ってしまえばミヤビちゃんより歳上じゃんよー。くやしー」
そう言って泣き真似しながらテーブルに突っ伏すロザリオさんを見て、俺達はヤレヤレといった形で笑った。
「あら、どうしたの? 悩み事?」
そうしていると、ここの店主であるクロエさんが話し掛けてきた。手には湯気の演出が立ち上がるアップルパイが乗った皿を持っていた。肩より長い黒髪を後頭部でポニーテールに結い、バンダナとエプロンという如何にも喫茶店の店員という出で立ちをした彼女は、大人びた優しげな笑顔をロザリオさんに向けていた。
「あ、それ私の。ありがとうございます」
ロザリオさんは目当てのアップルパイが来て先ほどと打ってかわって満面の笑みを見せる。見ていて飽きないなと思った。
「クロエさん、私って頼りないと思います?」
差し出されたアップルパイに早速フォークを突き刺しながらも、彼女はクロエさんに問い掛ける。
「そんなこと無いと思うけどな。少なくともここにいる三人はロザリオさんの事頼りにしてるわよ」
クロエさんは空いたお盆を胸の前で抱えながらそう言った。ていうか、この場で『そうかもね』なんて答えられる訳無いからそう言うしか無いでしょうよ。ロザリオさんは求めていた答えと違ったのか、若干不満げな表情をする。
「じゃあさ、ミヤビちゃんやケイジュ君は、私の事頼りにしてるのかな……」
アップルパイをつつきながら何処か物憂げに語るロザリオさんを見て、クロエさんは不思議そうに俺達を見た。俺達はどう答えて良いかも判らず、苦笑いを返す。
「当たり前よ。あの二人は皆の事を頼りにしてるわ。どんなに凄い人でも決して一人では何も出来ないもの。貴女達がいてくれるからあの二人は無茶を出来るの。それとも求めてる答えと違ったかしら?」
未だに腑に落ちない表情をしているロザリオさんに、クロエさんは困った様にそう言った。
「ロザリオさんはミヤビさんやケイジュさんと歳が近いから他の子達よりも悩んでしまうんでしょうけど、これはしょうがない事よ。『玲瓏』は人数が少ないからあまり意識してないでしょうけど、組織のトップは部下を守るもの。決してロザリオさんが頼りないからあの二人が問題を抱えている訳じゃ無いの。もしロザリオさんが二人の力になりたいなら、貴女がここにいる皆の面倒を確り見てあげて、二人を楽させてあげる事が大事なんじゃないかしら?」
ううむ、大人な意見だ。上手く論点をすり替えてる様な気もするけど、まあ言われてしまえば今の俺達はそれぐらいしか出来ないんだろう。しかしロザリオさんがそれで納得するだろうか……。
「そっかー! それもそうですよね! もうしょうがないなー私が皆の面倒みてやるかー!」
したー! 納得したー! チョロい!
流石ロザリオさん判っていらっしゃる! ここで盛大なノリ突っ込みが出来ないのが悔やまれる! 店内だからね!
クロエさんは他の客からの呼び出しもあり、手を振りながら俺達の元を去っていった。決して美人では無いが可愛い系の大人びた顔とその営業スマイルで数多の男性客を虜にしている。彼氏持ちじゃ無かったらもっと客増えるんじゃね?
「なーに鼻の下伸ばしてんだよムッツリスケベ」
「残念だったなロザリオさん。俺はオープンスケベと呼び声高いぜ!」
「え……そうなの……?」
メリーサさんドン引きしないで……。ジョークだから。
「まあ馬鹿話はここまでにして、私はまだケイジュ君達の事は納得してないけど今は良いや。いつかロザリオさん無しではどうにもなりませんって言わせてやるから。次にヒースのおじ様の件だけと、どうする?」
まあやはりと言うべきか、クロエさんの説得には応じていない様だ。ロザリオさんも俺達の前で何時までもうだついて居られないだろうしな。
「どうするもこうするも、それこそ俺達が介入して良い物じゃ無いでしょ。裏取りはケイジュさんがするって言ってたし、勝手に俺達がヒースクリフさん突っついて揉め事にでもなったら『玲瓏』の立場も悪くなるんじゃないすか?」
「まっ、それに関しては私も同意だね。ケイジュ君がどう裏付けするかは知らないけどもしヒースのおじ様が運営側だった場合、下手に嗅ぎ回ってる事がバレたらプレイヤー全員皆殺しって事態も有り得る訳だし」
「うわぁ、それは荷が重い……」
「それを考えるとケイジュさんって結構大胆な発言しますね……」
三者三様に思ったことを言い合う。これに関しては俺達ではどうする事も出来ない。
「ま、私達に出来る事はそれぞれ実力を付けてケイジュ君達の助けになるって事で、ビシバシ行きますんでヨロシク!」
そう言ってロザリオさんは不意に立ち上がり俺達に向かって人差し指をビシッと指した。今日のロザリオさん、キャラぶれぶれだな……。大丈夫かな……。
「じゃあお話し合いも終わりましたし、俺キリトの所行ってきますわ」
そう言って俺はコルをオブジェクト化し、必要分のコルをテーブルに置いて席を立つ。
「おっと待ちなキリュウ! 今日はこのお姉さんが奢ってやるよ!」
「流石姐さんアザース。ゴチです」
「おいコラ、一旦遠慮しろやバカチン! あっ、テメッ!」
素早くテーブルに置いたコルを拾い上げ、俺はロザリオさんから伸ばされた手を掻い潜りそそくさとその場を後にした。お叱りは後で受ける事にする。店を出る前に皆に向かって手を軽く振った。メリーサさんとコユキさんは苦笑いしながら手を振り替えしてくれた。ロザリオさんは不貞腐れながら追い払う様に手首を振る。俺とロザリオさんは大体こんな感じだ。出来の悪い弟と姉みたいな立ち位置、それを案外気に入っている事を皆知っている。俺は最後にクロエさんに向かって軽く一礼する。彼女は笑いながら手を振り、見送ってくれた。
第十一層のフィールドにある森林地帯、そこにキリト達はいた。最近キリトは下層を主な活動拠点にしている『月夜の黒猫団』という少数ギルドに加入している。何が切っ掛けでそうなったかは知らないが、俺はそれが少しだけ嬉しかった。キリトとは第一層の頃からの付き合いではあるが、心を開いてくれる様になったのはそれこそ数週間前に漸くだった。第一層のボスフロアで饒舌に語っていた癖に、対人スキルは人並み以下、第二層以降はずっとソロで活動していたという筋金入りの鍵っ子だった。なんでもしつこく話し掛けてくる俺が若干恐かったらしい。どんだけ人見知りなんだよと一喝してまた恐がらせてしまったのは今となっては良い思い出だ。
「キリト」
俺は黒猫団の戦闘を遠巻きに眺めているキリトに声を掛ける。俺の存在に気付いてくれたキリトは笑顔で手を振り替えしてくる。うん、コイツ対人スキルさえ備わったらハーレム無双かますんじゃないかって位に良い顔してやがる。
「どうしたんだキリュウ、珍しいじゃないかこんな下層に」
「ん、ちょっとキリトに用事があってな」
「用事? 悪いけど、まだ前線には戻れそうに無いよ」
キリトは不思議そうな顔でそう言った。だから一々可愛い顔で受け答えすんじゃねえよ。ジェラシーがスゲエ。
「いや、そんなんじゃねえよ。昨日ウチと軍で一悶着あってな、軍が一時前線離脱するからそれを伝えにな……」
「ウゲッ、とうとう『玲瓏』が軍を吸収合併するのか……。意外とえげつない事するんだな」
「ちげーし。またウチのボスの鉄拳制裁よ。このままじゃ危ないから軍の在り方見直せーつって、一人で軍のレイドパーティーをコテンパンよ。あれ? えげつないで当たってるかな……」
「ケイジュさんか? 相変わらずみたいだな。でもそれなら尚更俺を呼び戻しに来たんじゃ無いのか?」
キリトは不安そうな顔でそう言った。俺はキリトが黒猫団に入った経緯をちゃんと聞いてはいないが、この生活が案外気に入っている事は判る。
「そんなことねえって。そもそもウチのボスは俺達みたいな餓鬼が前線に出て戦う事を良く思ってねえよ。ま、自分の意思で前線に出てくる事を咎めはしないだろうけどさ……」
「そうか……」
「それにさ、俺はキリトがギルドに加入してくれた事、結構嬉しいんだよ。お前いっつも一人だったからさ……。下層で安全にゲームを楽しんでくれるならそれに越した事はねえよ」
「キリュウ……。ありがとう」
そう言ってキリトはニコリと笑った。それを見た俺は頭を抱えて仰け反る。神よ、あなたは何て残酷なんだ……。
「どうしたキリュウ……」
「いや、この世の不平等を嘆いてたんだ……」
「……?」
「あれ? キリト、誰か来てるのか?」
不意に声が聞こえ、俺は声の主を見た。そこには真面目そうだが冴えない印象を受ける青年がいた。俺が青年って言うのも可笑しいけどな。彼は恐らく黒猫団のメンバーの一人だろう。俺の事を訝しげに見ていた。
「ああ、ケイタ。紹介するよ。コイツは『玲瓏』のキリュウ。キリュウ、彼は『月夜の黒猫団』のリーダーを務めるケイタだ」
「おう、ヨロシクなケイタ」
「えっ!? れ、『玲瓏』!? キリト、『玲瓏』ってまさかあの『玲瓏』か!?」
え……? 何これ怖い。どうしてこの人こんなに動揺してるの? 俺は訝しげにキリトを見た。当のキリトは苦笑いしながらこう答えた。
「キリュウ、ケイタ達は攻略組を目指してるギルドなんだ。『玲瓏』って言えば攻略組の筆頭みたいなものだろ? キリュウ達に憧れてるんだよ」
「え? あ、そうなの? まあそんなに固くなるなよ。改めてヨロシクな」
そう言って俺はケイタに向かって右手を差し出す。当のケイタはその右手をうやうやしく握り返してきた。大げさだな……。
「凄い……。まさかこんな下層で攻略組に、しかもあの『玲瓏』に出会えるなんて……。キリト、攻略組に知り合いがいるなんて何で今まで黙ってたんだよ?」
騒ぎを聞き付けたのか、他の黒猫団のメンバーも集まって来た。しかしそれよりも気になる事があった。ケイタはまるで攻略組に初めて会ったとでも言いたげな反応だ。
「あ、悪いケイタ。ちょっとキリト借りるな」
「? あ、ああ」
訝しむケイタをさておいて、俺はキリトの手を引き少しだけ彼等と離れる。
(え、何? キリトも攻略組じゃん。何あの反応?)
(あー、それなんだけど、俺ケイタ達に攻略組だって伝えてないんだ)
(は!? 何で!? 不味くねそれ?)
(いや、だって攻略組が下層に居たりしたら荒らし行為だって誤解されかねないだろ……)
(いや……。そうだろうけど、嘘つかれてると思うとケイタ達も良い気しないだろ!)
(そうだけどさ……)
(煮えきらないな……。もう良い。俺が伝えてやるよ)
「あ、ちょ、待てよ!」
俺はキリトの制止を振り切りケイタ達に近付いて行った。つーか、どこぞの大御所アイドルみたいな制止の仕方してんじゃねーよ。
「ケイタ!」
俺は集まった黒猫団の前に立った。ケイタ以外に四人、ケイタと同じく冴えない印象を受ける男共三人と、昔のコユキさんみたいな大人しめ美人の女の子一人がそこには居た。
「突然で悪いが紹介しよう! コイツの名前はキリト! 何を隠そう攻略組プレイヤーが一人、『黒の剣士』その人だ!」
俺は背面に向かって親指を差し、ケイタ達に改めてキリトを紹介する。キリトは片手で顔を覆って天を仰ぎ、黒猫団の面々は俺の発言に暫し言葉を失う。
「「「「えーーっ!!」」」」
一拍遅れて黒猫団のメンバーが驚きの声を上げた。
場所を第十一層主街区『タフト』のとある宿に移した。ここは黒猫団が主にホームとして利用している宿だから場所をここに移した訳だが、なんというか、非常に気まずい雰囲気が流れている。宿のラウンジに設置してあるテーブルを挟んで俺とキリト、向かいに『月夜の黒猫団』という配置で座っているのだが、隣のキリトは常に下を向いて一点を見つめていて、向かいのケイタは腕を組んで目を綴じて何かをずっと考えているかの様に黙り込んでいる。他の黒猫団の面々はリーダーの様子に非常に居たたまれない感じでそわそわしていた。
「あー、ちょっと良いかな……」
流石にこの状況は良くない。俺のカミングアウトが原因でこうなってしまったから釈明の余地なんて一切無い訳だが、しかしこうなって以上俺が収拾をつけるべきだ。
「確かにキリトは素性を隠してたけどさ、俺はキリトが今の状況をスゲー楽しんでたのは知ってるし、別にお前らもキリトに何かをされた訳じゃ無いだろ?」
取り合えず牽制目的でそう言ってみたけども、お互い反応無し! つれぇ! おいおい意地っ張りかよ。何か言えよ。
「なぁ……」
「キリト、何の為に俺達に近付いてきたんだ?」
辛辣! ケイタが俺の発言を遮りやがった。
「その……」
「攻略組がこんな下層で、一目で弱小と判るギルドに何の為に近付いて来たかと聞いているんだ」
キリトも何かを言おうとしたが、ケイタの高圧的な態度に遮られ、更にたじろいでしまった。回りの皆もその様子に心配そうな視線を送っている。しかし俺は、そんな状況でケイタの心情を察知する事が出来てしまった。ケイタは恐らく……ギルドの長として『月夜の黒猫団』を護ろうとしているんだ。相手が攻略組だろうと、こちらが弱小だろうと関係ない。ギルドマスターとして自身のギルドとその仲間達に仇なす可能性から、それらを護ろうとしている……。
「ケイタ」
「キリュウさん、貴方は黙ってて下さい」
「いや、悪いが言わせて貰う」
ケイタの歯牙にも掛けない態度に負けじと抵抗する。彼は驚いた様に目を見張った。そもそも素性の判らないキリトの様な実力者を勝手に招き入れておいて、いざ正体が判ればその理由を問い詰めるという警戒してんだかしてないんだか判らない対応だが、ギルドマスターとしてギルドを護るつもりでそういう態度をとっているならこちらにも徹さなければならない矜持がある。
「先ずは、非礼を侘びよう思う。攻略組としてだ。理由は知らないが素性を隠してお前らのギルドに加入したキリトと、安易にキリトの素性をばらしてお前らを混乱させた俺。この状況は全面的に俺達二人に非がある。本当に申し訳なかった……」
俺は椅子に座ったままではあるが、彼等に向かって深く頭を下げた。示し合わせた訳では無いが、隣のキリトも続いて頭を下げる。当のケイタ達は何か言いたげな雰囲気ではあったがどう言うべきか判らないといった様子で、僅な反応を示すのみで黙り込む。
「ケイタがギルドマスターとしてメンバーを護りたいっていう気持ちがあるから、キリトに高圧的な態度をとっているのは判る。でもよ、ケイタがそうである様に、俺にも護りたい物の一つや二つはあるんだ」
俺は頭を上げた後、ケイタの目を見ながらそう言った。ケイタは意を決した様に真剣な眼差しで俺を見返して来た。
「俺とキリトは第一層のボス戦からの付き合いだ。ちゃんと話せる様になったのはそれから更に後だけどな……。今では友人だと胸を張って言える。だからこそ言わせて貰う。あまりキリトを責めないでやって欲しい。こいつは人見知りが激しくて中々グループでつるむってやつが苦手なんだ。たぶん黒猫団に入るまでずっとソロで活動していた筈だ。それが何を思ったのか『月夜の黒猫団』とか言う聞いたことも無いギルドに加入したって言うじゃないか。最初は意味が判らなかったけど、同時にスゲー嬉しくもなったんだ。ああ、やっと心を許せるヤツらに出会えたんだなって……」
最初に照れながら報告を貰った時は、何故にウチのギルドじゃ無いんや? とも思ったんだけど、まあ『玲瓏』ってスパルタだし当たり前かって思った物だ。あれ? 自分で言ってて悲しくなってきた……。
「ちょくちょくボス戦には顔出す癖に、討伐が完了したらしたでいつの間にか居なくなっててよ。皆で喜び合えば良いだけなのにその後の祝勝会にも参加しないし……。何してんのって聞いたらコイツ何て言ったと思う? 適当に攻略した後、宿に帰って寝てるっつって。どんだけ悲しいヤツ何だよって話だよな!?」
何やらキリトが恨めしそうな顔でこっちを見ていた。まあ確かにばらされて気分の良い話題じゃねぇけど……。でもそれだけ当時のキリトは悲壮感漂ってたし、その分俺も心配してたんだよ……。
「だからさ、キリトの事嫌わないで欲しいんだ……。コイツかなり強ぇ癖に、人との関わりは本当に不器用でさ、孤立するんじゃないかって滅茶苦茶心配してたんだよ。キリトもさ、攻略組が下層で活動すると荒しと勘違いされると思って、たぶん自分の素性を言い出せなかったと思うんだ。なあ頼むよ。勝手言ってるのは判るけどさ、コイツ本当にいいヤツなんだ。やっと見つけた居場所なんだよ。頼むから追い出さないでやってくれよ……」
うわぁヤベエ……。メチャクチャ恥ずかしい……。何で俺こんなに真剣に語ってんだろう……。いや、でも良いだろ。相手に思いを伝えるなら格好つけてたら始まらないし、俺はこういう真摯な態度は必ず相手に伝わるって信じてるからよ……。現に皆は俺の話を聞いてメチャクチャ心を許してくれてる感じだ。ケイタだけは目を綴じて未だに考え込んでるみたいだけどな。もう一押しか……?
「攻略は……」
俺が更に言葉を出そうとした時、不意にケイタが話し出した。
「キリトは攻略組なんだろ? 前線にいなくて良いのか? キリトがいなくて攻略が遅れたりしないのか? 『月夜の黒猫団』にキリトが加入してる事で、攻略組に迷惑掛けてたりしないのか?」
「全く影響が無いって言ったら嘘になるかも知れない。でもキリトが前線を離れた後でも既に何層か攻略が終わってる。居てくれるに越した事は無いけど、必ずしもいないとどうにもならないって訳じゃ無い。それなら、俺はキリトに黒猫団と一緒にいて欲しいと思う」
何だかんだ言って攻略組は粒揃いだ。下手したら『玲瓏』がいなくても攻略は順調に進むかも知れない。それに、本人のいる前では言わないが俺はキリトを弟の様に思っている。出来れば危険を犯して欲しくないってのが俺の本心だ。
「キリトが居ない分は俺でカバーする。力不足かも知れないけどな……。だから、本人が望むならキリトを黒猫団に所属させて欲しい。この通りだ……」
俺は再度深く頭を下げた。もうこの際体裁とかどうでも良い。ここまで本心をさらけ出したんだからとことんキリトの為に行動してやる。
「ケイタ……」
その時、今まで沈黙を保っていたキリトが口を開いた。俺は顔を上げキリトを見る。その顔には何らかの決意が秘められていた。
「騙す様な真似をして済まなかった。俺が素性を偽ったのはさっきキリュウが言った通り、荒し行為だと思われるのが嫌だったんだ。俺があの日、『月夜の黒猫団』を助けた日にあの場所に居たのは……うん、言うよ。……『玲瓏』みたいに人助けがしたかったんだ」
えっ、マジで!? 俺は本人から明かされたキリトの黒猫団加入の経緯に驚愕した。あの人見知りが人助け……はまあ良いんだけど、俺達に憧れてたの!?
「最初の頃は、俺も自分が生き残る事しか考えてなかった。その為に、第一層で出会ったビギナー……っつ、あの……、俺、βテスター何だけどさ、ビギナーを一人見捨てて来たんだ」
更にマジで!? 次々に明かされるキリトの秘密! マジかよ……。何か抱えてるなとは思ってたけど、まさかそんな事があった何てな……。黒猫団のメンバーもかなり驚いてるよ……。
「それがずっと心残りでさ、ソイツは今どうしてるかは判らない……。生きててくれれば良いんだけど……。そんな感じでさ、俺なんかその一人すら助けられずに突っ走る事しか出来なかったのに、『玲瓏』はプレイヤー全員を助けようって人達の集まりで、実際に助けていて、素直に凄いと思ったんだ。暇さえあれば俺の様子を見に来るお節介なヤツも居るし……。その人達を間近で見てたら、こんな俺でも何か出来るんじゃないかって思ったんだ」
滔々と語るキリトの横顔は何かが吹っ切れたかの様な清々しさがあった。ああ、コイツあれだ。たぶん他人に気ぃ遣いすぎてるんだ。全部独りで抱えるタイプってヤツだな。そりゃ人見知りにもなるわ。
それにしてもキリトの話を聞いていると、メッチャ照れる。ほとんどケイジュさん達の功績なんだろうけど、俺達の活動がこうやって誰かの為になってるってのが今回の出来事で判った。キリトがこうやって変われたのは俺のお蔭じゃ無いかも知れないけど、今までの苦労とかが報われた気分だ。
とまあ、こんな感じで感慨に耽ている訳だけど、こんな良いムード醸し出した所で今回の問題が解決した訳では無いのだよ。キリト、御膳立てはしたんだ。後はお前の意思の力に掛かってる。
「騙していた事は……本当に悪いと思ってる。でも、別に他意があってケイタ達に近付いた訳じゃないんだ。最初は人助けのつもりだった、だけどケイタ達に戦闘の手解きしながら同じギルドとして活動していく中で、放って置けないと言うか……まどろっこしいな……。兎に角、まだ皆と一緒に居たいんだ……頼むよ。俺を皆と一緒にいさせて欲しい……」
おいおい、しりすぼみだなキリト……。だけどよく言った。ちょっとパンチが弱い気もするけど口下手なキリトにしては上出来だ。コイツは初めて自分から人との関わりを保とうとしているのかも知れない。どうするかは結局の所ケイタの采配なんだけど、どうか、キリトの事を受け入れて欲しいと思う。
「キリト……」
今まで黙って聞いていたケイタが口を開いた。
「正直に言うとキリトの事を疑っていた。攻略組がどんな理由で俺達に近付いて来たのか判らなかったから。でも、理由も判った。キリトが俺達と一緒に居たいって気持ちも伝わってきた。断る理由が無いよ」
「それじゃあ!」
思わず声を上げてしまい、咳払いと共に居住まいを正す。ケイタ達が可笑しそうに笑った。
「攻略組がギルドに加入してくれるなんて、寧ろこちらからお願いしたい位だよ。キリト、改めてよろしく」
そう言ってケイタは頼もしげな表情でキリトに向かって右手を差し出した。一瞬驚いた様な表情をした後に、キリトは笑顔でその手を握り返した。
「よろしくケイタ」
「うおぉぉぉぉ! やったじゃねえかキリト! このシャイ野郎もっと嬉しそうな顔しやがれ!」
「うわっ! や、やめろよキリュウ!」
俺は嬉しさのあまり勢いよくキリトの肩を抱き、当のキリトも驚きながらも満更でもなさそうだ。その様子を見ながら黒猫団の皆も楽しそうに笑う。
めでたくキリトの『月夜の黒猫団』残留が決まった。切っ掛けはいろいろあったかも知れないけど、キリトが自らの意思で繋ぎ止めた絆が生まれた瞬間だった。
「キリュウ、テメエ! どの面下げて帰って来やがった!」
「痛ーっ! ごめんなさいこんな面です!」
俺はホームの宿に戻り、ロザリオさんとの出会い頭のその瞬間、脳天に激しいチョップを受けた。負けじと変顔で反撃する。
「こんのアホ面がぁ! もっと不細工にしてやろうか……」
「ご、ごめんなひゃい……」
頬にアームロックを受けヒョットコみたいな顔にさせられた。周りの皆はそれを見て可笑しそうに笑う。見世物じゃねえのよ。
「なんだか嬉しそうですね、キリュウさん」
ミヤビさんが椅子に座りながらにこやかな表情でそう言った。いや、この状況で嬉しそうとか、俺そこまでドMじゃ無いんですけど……。
「そうだよミヤビちゃん。コイツは私に苛められて嬉しいドMなんだ。そうだろキリュウ?」
「いや、違いますけど」
「あっ、ごめんなさいロザリオさん。そういうつもりで言った訳では無くてですね、なんだか晴れやかな表情をしているなぁと思いまして……」
顔の前で両手を振り、ミヤビさんは慌て訂正した。
「キリュウさん、何か良いことがあったのですか?」
ケイジュさんが奥から現れて、アイテム画面から夕食をオブジェクト化させ、人数分を配膳していく。
「はい、ありましたね。あ、そう言えばキリトに例の報告完了しましたよ。あと、キリトはまだ前線に戻って来ないと思います」
ロザリオさんから解放された俺は皆にそう報告する。
「判りました、それでも構いませんよ。それとこちらも前線で活躍するソロプレイヤーへの報告は完了しておりますので」
ケイジュさんは事も無げにそう報告してきた。さらっと報告しているが、前線のソロプレイヤー全員への報告を完了させるとは相変わらずケイジュさんはケイジュさんだなーって感じだ。
改めて、ケイジュさんやミヤビさんは本当に凄い人だと思った。この人達の地道な取り組みが無ければ、キリトと『月夜の黒猫団』は出会わなかったかも知れないし、キリトはもっと暗いヤツになっていたかも知れない。
この人達は表に出さないが、蔭ながら俺達の事を護ってくれている。『月夜の黒猫団』を護ろうとしていたケイタの様に。俺もそんな人達に酬いられる様にもっと努力しようと思えた、そんな日だった。
次回は25層のボス攻略を書こうと思います。
御意見、御感想おまちしております。