まだ先の話ですが所々原作を織り混ぜる予定です
よろしくお願いいたします
道場の縁側に座り、佳樹に淹れてもらった緑茶を啜りながら、私は食後の一時を過ごしております。巷では残暑だと騒がれていましたが 、11月に差し掛かったこの時期は、時々吹いてくる木枯らしに肩をすぼめはするものの随分と過ごしやすい季節になりました。
あ、申し遅れました。私の名前は
藤堂流と呼ばれる古武術を現代まで脈々と受け継いできた一族の末裔で、私自身、次期当主という役割を担っている身分です。古武術と聞きますとどこか神秘的なイメージが有りますが、全然そんな事は無いんですよ?道場自体は一般開放をしてますし、夕方になれば我が流派を学びに来てもらっている道場生の方は
……そうですね、あまり多くはないです。やはり柔道や剣道、空手と言った様な有名な武道に比べたら知名度は格段に落ちてしまいます。でもそんな事は関係ありません。私は藤堂流を愛してやまないのです。先祖代々受け継がれてきた技の数々、それらを学ぶ際の精神性、教え、それら全てが今の私を形作っています。
藤堂流は私の誇りです。
「お嬢」
と、物思いに更けていると、不意に私の肩に優しく布が掛けられました。その手触りから、私が普段から愛用している絹の織物だという事がわかります。私は隣に立つ男性に顔を向け、微笑みます。
「ありがとう。佳樹」
「お嬢、まだ涼しいとは言え季節の変わり目は体調に気を使って頂かないと。もしお身体を壊されては旦那様に面目が立ちません」
そう言ってしきりに私を気に掛けて下さるのは、
「大丈夫ですよ、佳樹。それに、あなたがしっかりと私に気を掛けて下さっているので何の心配もありません」
「……お嬢には敵いませんね」
そう言った佳樹に微笑みかけ、私は佳樹が手入れしてくれている道場の庭に
「綺麗ですね……」
「……」
「あれ?私の発言を不思議に思わないのですか?」
私は笑いながら佳樹の方をみると、佳樹は困った様に笑う。
「……お戯れを」
「冗談ではありませんよ」
そう言って私は再び庭に目を向けた。
「佳樹が丹精込めて手入れをしてくれている庭ですからね。確かに目で見る事は叶いませんが、佳樹の思いはその心で、魂で視ることが出来ます。私は現実世界でこれ以上の景色を見た事はありません」
私がそう言い終えると、少しの間だけ沈黙が訪れた。でもそれは決して嫌な沈黙ではなく、私の心にはまるで暖かな風が流れ込んでくる様に感じた。
「……まったく……。お嬢には敵いませんね」
「ふふん!伊達に『空眼』を会得している訳では無いのです!……あれ?佳樹、もしかして泣いて……」
「なっ、泣いてなど」
そう言ってそっぽを向く佳樹はなかなかからかい甲斐があるのです。本当はもう少しだけ苛めてやりたい衝動に駆られたのですが、度が過ぎるのもいけないので、そろそろ気になっていた話題を持ち掛けます。
「そう言えば今は何時ですか?もうすぐSAOの正式サービスが始まる時間では?」
「そ、そうでした。その為にお呼びに伺ったのでした」
「なっ!それを早く言ってください!今何時ですか!?」
「大丈夫です。時間に余裕を持ってお呼びしておりますので。ソフトとナーヴギアの準備は既に出来ております」
「流石ですね」
相変わらず佳樹はそつが無かったです。
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私が初めてソードアート・オンラインと関わったのはまだソフトが開発段階の時でした。
5年前、事故で視力を失ってしまった私はとても塞ぎ込んでいました。自分では何でもない様に振る舞っていたつもりでも、自然と涙を流してしまっていたり、酷い時は癇癪を起こした様に泣き叫んだりと……。何度お父様や佳樹に迷惑を掛けてしまった事か……。
立場のある人間としてしっかりしなければと思っていても、光を感じない世界は私を戸惑わせ、汚泥に嵌まってしまったかの様にその意志は心の底まで沈んでしまう様でした。
動く気力も無くなり、部屋からも出ようとしない私を救いだしてくれたのは、やはり佳樹だったのです。
必要以上に人と関わる事を避けていた私は、お父様や佳樹も例外ではありませんでした。あの日も例に違わず、訪ねてきた佳樹を部屋に入れるような事はせず、そんな私に佳樹は扉越しにソードアート・オンラインの話を持ちかけてきました。
何でも、藤堂家の親戚にソードアート・オンラインの制作に携わっている方が居たそうで、ゲーム内の動きの参考とする為の格闘技や武道の経験者が製作者側に居なかった、というのが事の発端でした。親戚の方が藤堂家に協力を要請してきたのです。当初、現在の代表であるお父様は藤堂流の技術漏洩を懸念して反対していた様でした。しかし、親戚の方の説明を聞いた佳樹がお父様を説得して、『藤堂流の本質に関わる武の動きは見せない』、『ソフトのβ版とハードを2セット、報酬として用意する』という2点を条件として協力を承諾した様でした。
それだけを聞けば、当時の私にはだから何だという感想しか浮かびませんでしたが、続く言葉に私は心奪われました。
『お嬢、そのソードアート・オンラインというゲームはナーヴギアを使う事によって脳に直接情報を伝えて、仮想的な物では有りますが現実と何ら遜色無い景色をプレイヤーに見せる事が出来るのです』
現実と遜色無い景色を見る事が出来る。
その言葉を聞いて、私は期待のあまり気が動転してしまい、まんまと部屋の外に出てしまった訳ですが……。
人間、何が切欠になるか分からないもので、その日を境に精力的に物事に取り組み始めました。
それから、数年後に発表されたβテストを経験して、今に至ります。
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「お嬢?」
ナーヴギアを手に持ったまま物思いに更ける私に、佳樹が不思議そうに声を掛けてきました。
「佳樹、本当に感謝しています」
何に対しての感謝か分からないのか、佳樹から続く言葉はありません。それを気にする事は無く、私は言葉を続けます。
「目が見えなくなってから、5年間。佳樹のお陰で今までやってこれました」
「それはお嬢の努力の賜物でございます」
「そんなことはありません。佳樹からSAOの話を聞かなければ、私なんて今でも塞ぎ混んだままだった筈です。ふふ、現金な話ですね。これでは佳樹のお陰ではなく、SAOのお陰と言っているみたい……」
「お嬢、自分はその5年間、お嬢を見守ってきました。だからこそ言えます。お嬢は自分自身と真摯に向き合っておりました。切欠はどうであれ、今のお嬢はお嬢自身の努力で培ったものです」
そう言いながら佳樹は私の手からナーヴギアを預かり、手櫛で軽く髪を解かしてから私の頭にナーヴギアを被せ、優しくベッドに寝かせてくれました。
「ああ、待ちきれません。なんと心踊る事でしょう。この様な素敵な物を作る茅場昌彦という方は、とても素晴らしい方なのでしょうね」
「そうですね。では自分も準備を始めます。時間が来ましたらカウントを始めさせて頂きます。それでは
そう言って佳樹は私の隣に用意されたベッドに横になりました。βテストから数ヵ月、久しく見ぬ日の光をもうすぐ見れると思うと、嬉しくて仕方ありません。心の中で茅場昌彦さんに再度感謝をしていると、隣からカウントが始まりました。そのカウントが0を迎えると、私と佳樹は声を揃えました。
「リンクスタート」
次回からアインクラッドでの話になるとおもわれます