ソードアート・オンライン ~二人の記録~   作:無気力さん

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説明回にしたくなかっただけです

更新毎に文字数が増えていきますが、この分だと最終話では一体何文字になってしまうのでしょか?

不安です


三話

 先程まで俺はお嬢とフィールドに居た筈だが、いつの間にか『始まりの街』の広場に居た。確かここに来る直前に視界が白く包まれ、気分の悪くなる浮遊感に襲われた覚えがある。恐らく、何らかのシステムを使って強制的に移動させられたのだ。その証拠に、次々とプレイヤーが集められている。皆口々に不平不満を漏らしている辺り、大抵のプレイヤーがログアウトボタンが消失している事に気付いている筈だ。

 

 そんな事より今はお嬢の事が気掛かりだ。この様子だと、出現場所は恐らくランダムだろう。俺は全神経を集中させてお嬢の存在を探す。すると、前方10メートル程先、新たにプレイヤーが出現した所に、見覚えのある姿が立っていた。西洋風の防具にストレートの金髪、そして俺がプレゼントした槍を携えている。その存在を確認した俺は、迷う事なく走り出した。

 

 「お嬢!」

 

 「佳樹!」

 

 声を掛けて振り向いた女性は間違いなくお嬢だった。お嬢は俺の存在に気づくと急いで近付いてきて俺にすがり付いてきた。

 

 「無事でしたかお嬢!」

 

 「無事です佳樹!ああ、良かった!急に居なくなってしまったのでとても心配したのです!」

 

 「御心配をお掛けして申し訳ございません」

 

 俺の存在を確認出来た事で落ち着きを取り戻したのか、お嬢は辺りを見渡し始めた。

 

 「一体、何が起こっているのでしょうか……?」

 

 「分かりませんが今は待つしか無いでしょう……」

 

 程なくして、プレイヤーの転送事態は一旦の終息を迎えたようだ。恐らく全プレイヤーがこの広場に転送されてきたのだろうが、皆事態の把握が出来ていないのか、不満や不安といった感情を表に出していた。

 

 すると、今まで夕焼けに照らされていた空が、何処から現れたのか赤黒いパネルの様な物により被われ始めた。周りのプレイヤー達も気が付いた様に上を見上げ始めている。そのパネルにはアナウンスメッセージと書かれており、何らかの情報が伝えられる事が予想出来る。

 

 「ひっ!?」

 

 「なんだありゃあ!」

 

 するとどうだろうか?そのパネルの隙間から夥しい量の赤黒い粘性を感じさせる液体が流れ始め、その液体は赤いフードを被った顔の無い巨人を構築してしまった。その姿はまるで死神のそれで、所々からプレイヤーの悲鳴が上がっている。お嬢もその光景を見て更に身を寄せてきた。俺は安心させる様に、優しく抱き寄せてやる。

 

 

 

 

 

 「プレーヤー諸君。私の世界へようこそ」

 

 低く穏やかな声がその巨人から発せられた。

 

 「私は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の存在だ」

 

 茅場昌彦。それはこのソードアート・オンラインを開発した電子工学の天才の名だ。あの巨人は自分の事を茅場昌彦と名乗った。つまり、良くも悪くもこの事態を引き起こしたのは茅場の意志に依るものであるのだ。

 

 「プレーヤー諸君はすでにメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気づいていると思う。しかし、これは不具合ではない。本来の仕様である」

 

 感情がまったく感じられない淡々とした言葉だった。事実をただ単に伝えている。そんな印象だ。辺りから疑問の声が上がるが、茅場は気にする事無く話を進める。

 

 「また、外部の人間によるナーヴギアの停止あるいは解除もあり得ない。もし、それが試みられた場合……ナーヴギアの発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」

 

 やられた……。茅場の言葉は俺が想定していた事態の中で最も最悪だった。この緊急事態は、人命が関わってくるのだ。俺は更に強くお嬢を抱き締める。俺の胸に顔を埋めるお嬢の肩は、小刻みに震えていた。

 

 「具体的には十分間の外部電源切断。二時間のネットワーク切断。ナーヴギアの分解。これらが行われた場合、脳破壊シークエンスが実行される。この事はすでにマスコミを通じて告知されているが、残念ながらプレイヤーの家族友人などが警告を無視してナーヴギアを外そうとして二百十三名のプレイヤーがアインクラッドおよび現実世界から永久退場している」

 

 茅場はまるで死刑宣告をするかの様に淡々と説明して行く。最早此所にいるプレイヤーに茅場の言葉に反応出来る者は居らず、皆、茅場の次の言葉を待っていた。

 

 「だが、安心してほしい。すでに政府が中心となって二時間の回線切断猶予時間のうちに病院などの施設に移送される計画が立てられたようだ。諸君は心置きなくゲーム攻略に励んでほしい。そして、第百層の最終ボスを倒した時、このゲームは終了し生き残った全員が安全にログアウトされる事を約束しよう。しかし、十分に留意していただきたい。今後、ゲーム内における蘇生手段は存在しない。ヒットポイントがゼロになった時点で諸君のアバターは消滅し……同時に現実世界の諸君の脳はナーヴギアによって破壊される」

 

 ヒットポイントがゼロになったら本当に死ぬ……。茅場の言葉はプレイヤーの心に重くのし掛かった。誰一人として言葉を発する者はいない。しかし誰しもが事の重要性は理解していた。

 

 「それでは、最後に私からのプレゼントを諸君のアイテムストレージに用意してある。確認してくれたまえ」

 

 俺とお嬢はお互い顔を見合わせた。慌ててアイテムストレージを確認すると。フレンジーボアとの戦闘で手に入った≪毛皮≫や≪イノシシの牙≫などの中にそれはあった。

 

 ≪手鏡≫

 

 何のために使うのかわからないそれを俺達二人は実体化させた。少し迂闊過ぎたかとも考えたが、それは四角いなんの変哲もない鏡のようだった。

 

 「なんだこれ……」

 

 そんなつぶやきが聞こえた途端、周りの人たちが光に包まれた。次々と鏡を持ったプレーヤーたちが光に包まれ、勿論それは俺達二人も例外ではなく、広場には視界が奪われる程に光で溢れてしまった。

 

 二、三秒。光に視界を奪われ、まぶたを開けると周りの雰囲気が一変している事に気づいた。

美男美女の集まりだったこの広場がまるで仮装大会の様な状態になっていた。男女比率も大きく変わっている。女性に見える人は明らかに少ない。

 

 「……おかあ……さま……?」

 

 そんな声が聞こえた。

 

 そこには現実世界の姿になったお嬢が、手鏡を覗きながら青ざめている姿だった。

 

 「っ!お嬢! 」

 

 「あっ!」

 

 俺は慌ててお嬢の手に収まっている手鏡を払い落とした。お嬢の手から離れた手鏡は、放物線を描きながら地面にぶつかり粉々に砕ける。

 

 仕える者としてあってはならない狼藉だったが、今はそんな事を気にしている場合では無い。俺は力尽きた様に座り込むお嬢の安否を確認する。

 

 「諸君は今、『何故』と思っているだろう。私がなぜ、こんな事をしたのかと。……私の目的はすでに達せられている。私はこの世界を創り出し観賞することが最終目的なのだ。すべては達成せしめられた」

 

 今まで淡々としていた茅場の言葉が弾んでいるように聞こえた。まるで心からこの状況を喜んでいる様に……。

 

 お嬢は放心した様にうつむき言葉を発しない。今はそれだけが非常に気掛かりだ。

 

 「……以上でソードアート・オンライン。正式サービスのチュートリアルを終了する。諸君の健闘を祈る」

 

 再び、淡々とした口調に戻った茅場はそう言い残すと煙のように消えて行った。

 

 しばらく、広場を静寂が包んだ。

 

「嫌ぁ!」

 

 何処かの女性が悲鳴を上げたのを切っ掛けに、広場は怒号に包まれた。

 

 運営会社のアーガスを罵ったり、いなくなった茅場に向かって抗議の声を上げていた。

 

 非常に不味い状況だった。最悪の場合、ここの群衆は暴徒と化す。向ける矛先の無い怒りが互いに向いてしまえばどうなるか等、火を見るより明らかだ。そんな中に今のお嬢を置いておく訳にはいかない。俺はうずくまるお嬢を補助しながら立たせて、人混みの外、この広場の外へ向かって歩きだそうとした。それを阻んだのは他ならぬお嬢だった。

 

 「いけません……」

 

 お嬢は思いの外強い力で踏みとどまった。確かに女性にしてみれば身長も高く、武術を修めているが故の力強さを備えてはいる。それでも俺より頭一つ分身長の低いお嬢にここまで行動を制限されるのは予想外だった。

 

 「佳樹、助けなければなりません。此所にいる皆さんを……。このまま放って置いたら、きっと取り返しのつかない事になります……」

 

 懇願する様にすがり付くお嬢を見て、俺は出来るだけ冷静に思考する。あくまでも俺にとって、お嬢の安全が最優先だ。果たして一万人の暴徒寸前の群衆を、お嬢を護りながら説得が可能か?答えは限りなく否。俺一人の呼び掛け等、一万人相手には余りにも矮小だ。

 

 「申し訳御座いませんお嬢。今回ばかりは自分にはどうする事も出来ないのです。其よりも今はお嬢の身の安全を優先して頂かなければ」

 

 「それでは駄目なのです!」

 

 驚く程の声量で、お嬢は叫んだ。それは俺達の周りにいる冷静さを失なったプレイヤー達の注意すら引き付ける程だ。一番近くで聞いていた俺はたまったものではない。これが本当に、先程まで自ら立つことすら儘ならない程に疲弊した少女の叫び声なのか。一体、この胆力はどこから湧いてくる?

 

 「佳樹、駄目なのです。今、彼等を救ってさしあげなければ、彼らはきっと、他人を信じられなくなってしまいます……。佳樹……、命令です。もしかしたら今まで一度たりともこの様に強制はしたことは無かったでしょう……。でも今回は違います。お願い、佳樹……。助けて。私だけでは無理なんです……。佳樹、助けて……。」

 

 

 

 

 俺は一体何だ?

 

 此所にいる、涙ながらに懇願する主の娘(藤堂雅)を見ながら思った。

 

 この問題は、はっきり言って一人の小娘が背負わなければならない問題では無い。この騒ぎもいつかは沈静化するだろうし、賢い者は既に広場から飛び出して思い思いの行動をとっているだろう。なのに何故だ。この少女は自らの御身よりもまず、他大勢の者を気にかけている。まるで一国一城の主に近い思考。これが古くから伝えられてきた武術を受け継ぐ次期当主の精神か。

 

 旦那様、申し訳御座いません。私は旦那様に引き取られてから、藤堂流と共にありましたが、その本懐を理解するにはまだ至っていなかった様です。

 

 ならばせめて、仕える者としての責務を果たすのみ。

 

 俺は広場を迅速に見渡す。結論から言えば、今いる位置より海抜の高い所は、広場の鐘の搭しか思い至らない。だがそれでも構わない。結局の所やるしかないのだ。

 

 「お嬢、出来るだけ自分から離れない様に……いや、御無礼致します」

 

 「え?わっ!?」

 

 俺はお嬢の背中と膝の裏を腕で支え、抱き上げる。そして人並みを縫う様に搭に向かって走り出す。

 

 「お嬢、アルゴさんに連絡を。第一層の出来るだけ正確なデータが欲しいとお伝え下さい」

 

 「わ、分かりましたぁ!」

 

 俺はお嬢がメッセージウインドウを開くのを確認しつつ、出来るだけ揺らさず、かつ目立つ様に走る。時々他のプレイヤーとぶつかる事もあったが、今はそれで良い。良くも悪くも印象付ける必要があった。暫くして、鐘の搭に到着した俺は出入り口があるか探した。βテストの経験上ソードアート・オンラインでは屋内に入れない建造物のほうが圧倒的に少ない。ならば出入り口があるはず。

 

 「佳樹、アルゴさんからのメッセージが帰ってきました!了解して頂きました。あとアルゴさんはおそらく私達の存在に気付いている見たいで、今搭に向かってくれているみたいです!」

 

 「分かりました」

 

 アルゴさんが期待以上に冴えてくれたお陰で、今の所はこの無謀な計画も多少良い方向に進んだ。

 

 漸く搭の入口も発見して、中に入ると今度は上へ登る階段を探す。これは比較的早く見つかり、休む事無く登り始める。そもそもソードアート・オンラインは体力的に疲れる事は無いので休む必要は無い。速度を落とす事無く階段を駆け上がり、俺は外に繋がる扉を見つけ、外に飛び出した。外へ出て目に入ったのは、広場の外周壁に囲まれるプレイヤー達。見渡せば、まだ十分な数のプレイヤーが残っていた。

 

 お嬢も俺が止まった事で掴んでいた俺の服を離し、身体の緊張を解く。

 

 勢いでここまで来たが、ここからがこの計画とも呼べない計画の正念場だ。何のお膳立ても無い、上手く行くか分からない、しかし成功させなければいけない。落ち着いて見れば、何人かのプレイヤーは俺達に注目していた。目立つ行動を取った成果だと思いたい。

 

 俺は胸一杯に空気を溜め込み、有らん限りの力を振り絞って声を張上げた。

 

 「聞けぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

 俺の叫びが広場に響き渡った。

 

 

 

 

 




これからどうしましょう

不安です

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