ソードアート・オンライン ~二人の記録~   作:無気力さん

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遅くなってしまってすみません




四話

 「聞けぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 俺は広場に居るプレイヤー達に気付いて貰える様に、有らん限りの力を込めて叫ぶ。

 

 「聞けっ!俺はβテスターだ!生き残りたいヤツは俺の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 俺は全方位のプレイヤーに気付いて貰える様に、搭の外周を周りながら同じ事を叫び続ける。搭の近くに居るプレイヤーはどうやら俺達の存在に気付いている素振りを見せ始めたが、離れれば離れるほど怒号や喧騒は激しいままだ。

 

 「佳樹、降ろして下さい!私も手伝います!」

 

 「お嬢……ありがとうございます」

 

 俺は今まで腕に抱えていたお嬢を降ろす。するとお嬢は俺と対を成す場所まで走って行き、俺と同じ内容を叫び始めた。

 

 「生き残りたいヤツは話を聞いてくれ!」

 

 「お願いします!どうか、私達の話を聞いてください!」

 

 思いという物は真剣になれば伝わる物なのだろうか?徐々にではあるが、皆の目線が俺達の方に集まってくるのを感じた。それだけではない。恐らく生の声では届かないであろう遠方のプレイヤー達も、所々で沈静化が始まっている。

 

 「佳樹!」

 

 「解っております。お嬢」

 

 誰かが手助けしてくれている。それだけで、溢れんばかりの勇気を貰った様な心地だ。そして、その手助けをしてくれたであろう件の女性が俺達の居る所に駆け込んできた。

 

 「大丈夫カ!みっちゃん、ヨシ坊!」

 

 「アルゴさん!……!?」

 

 「!!」

 

 恐らく、駆け付けてきてくれたのはアルゴさんなのだろう。フード付きの外套に頬に三本ずつペイントされた髭。この特徴だけなら間違いなくアルゴさんなのだが……。

 

 「小さくなってます!」

 

 「!、お嬢!それは今言うべきでは……」

 

 案の定、アルゴさんはばつの悪そうな顔をして目を反らした。流石に男性が女性用のアバターを使って性別を偽っていたのがバレてしまうよりかはましだろうが、身体的特徴を偽っていたのをばらされるのもそれはそれで決まりが悪いだろう。

 

 「別に、身長に合ったアバターが無かっただけだから……」

 

 「解っております。来ていただいて有り難うございます」

 

 アルゴさんの口調は普段の気取った口調では無くなっていた。余談だが、ソードアート・オンラインのアバター作成技術は優秀で、このゲームで表現出来ない顔や体型は無いと言われている。

 

 「アルゴさんありがとうございます!」

 

 「アルゴさんが助けてくれたんですね?」

 

 「ン……、アタシは何もやってないヨ。ただフレンドに口を聞いてやっただけサ」

 

 アルゴさんは今日一日を第一層の情報収集と信頼できるプレイヤーとのフレンド登録を行っていたのだろう。その成果が、約一万人のプレイヤーの沈静化。誰にでも出来る所業ではない。全くもって恐れ入る。

 

 「それにしてモ、ヨシ坊もやれば出来るヤツだと思ってはいたがまさかここまでやるとはナ……。さテ、お膳立てはしてやったんダ。後はしっかり頼むヨ」

 

 「分かりました。本当に感謝しております」

 

 俺は改めて一万人のプレイヤーを見やる。勿論、全員がという訳にはいかないが、皆俺の事を注視してくれている。

 

 他より目線の高い場所から、話を聞いてくれる様になるまで叫び続ける。計画とも呼べない計画だったが、有志の力を借りてこの計画は実を結んだ。話を聞いてくれる様になれば後は簡単だ。彼らを支配していたのは、先行きの分からない不安、いきなり死の淵に立たせられた理不尽さ、憤りといった負の感情。ならばそれらを解消してやれば良いだけだ。

 

 「皆、聞いてくれ!俺の名前はケイジュ、βテストからこのソードアート・オンラインをプレイしている!俺はβテスト時代から培ってきた経験や情報を皆に開示する意志がある!」

 

 広場に集まっているプレイヤー達は俺の言葉を聞いて押し黙った。攻略情報の提供。曲がりなりにもここに居るプレイヤー達はゲーマーが殆どだろう。ならば実際にプレイして、肌で体感した内容というのは仮に人伝だとしても重要に違いない。それが直接命に関わってくるとなれば尚更だ。

 

 「他にも、情報だけではない!皆も急にこの様な状況に立たされて、先行きに不安を感じている者も大勢いるだろうと思う!俺はそんな人達に道を示してやりたいと思っている!」

 

 俺がこの発言をした時、近くに居るプレイヤーの中には嘲笑と取れる笑い声を上げる者もいた。だが、殆どのプレイヤーが笑わずに俺の話を聞く姿勢を見せてくれていた。

 

 「俺達は助かるのか?」

 

 何処からかは分からないが、男の声が聞こえた。その声は聞こえていた嘲笑を黙らせる。

 

 「その問いに関する答えを、俺は持ち合わせていない。助かるという事はつまりこのゲームをクリアするという事だ。流石にそんな先の事までは分からないさ。だが……」

 

 否定的な発言をした俺に対して場は一瞬白けた雰囲気になったが、俺は言葉を続ける。

 

 「俺はこのソードアート・オンラインの中に、命に代えてでも助けたい、現実世界に帰してやりたい人がいる。その為に俺はこのゲームを何が何でもクリアして見せる。皆の中にも、意地でも現実に帰らなければいけない人も居る筈だ。ならば、諦める訳にはいかないと思わないか?助かりたいと思うだけではなく、自分で助かる努力をするなら俺はその手助けをするだけだ」

 

 人に自身の行く末を委ねるのでは無く、自身で切り拓くその意志こそが必要不可欠だと俺は思う。

こと生きる事に関しては特に。別に俺は人気者に成りたい訳では無い。生きる意志が有るにも関わらず、力が及ばないのならば差し出す手もあるが、自分の生き死にを他人に委ねる奴に手を伸ばしてやる程お人好しでも無い。

 

 「他に意見が無い様なら話を進めさせてもらう。具体的にこれからのプランをどうするかだが、ここで問題になってくるのが意識の違いだ。冗談ではなく自分の命が関わってくる状況で、歓び勇んで戦場に飛び出して行ける者はまず居ないだろう。だがそれを責めるつもりは露ほどもない。そこで皆にある選択をしてもらう」

 

 俺はここで一呼吸おく。こんなに広い空間だ。矢継ぎ早に話しても皆が理解に追い付けない可能性がある。

 

 「選択、それは、俺と一緒にアインクラッド100層の攻略を目指すか、若しくは第一層『始まりの街』でアインクラッドが攻略されるのを待つかだ」

 

 プレイヤー達の間にどよめきが走った。それもそうだ。方や自らの命を賭けてプレイヤー達の解放を目指す者と、方やゲームが攻略されるまで安全地帯に待機している者。その差はあまりにも不公平すぎるのだ。

 

 「皆が言いたい事も分かる!だが落ち着いてくれ!」

 

 俺の発言で、俺の声が届く距離にいるプレイヤー達がデスゲーム開始直後の様な騒ぎになった。負けじと俺も声を張り上げるが、その騒ぎは波紋の様に広がり、徐々に収集がつかなくなり始めている。

 

 「不味いナ……」

 

 アルゴさんが顔をしかめながらそう呟いた。彼女もメッセージを各所に配置したフレンドに送って対処している様だが、それでも一万人に対しては焼け石に水だろう。だがここで諦める訳にはいかない。何よりもここまでして事を仕損じてしまってはお嬢に申し訳も立たないではないか。俺は今一度、声を張り上げようとした。

 

 

 

 「静かにしなさいっ!!」

 

 

 

 お嬢の声は正しく衝撃その物だった。良く通る凛とした声とは裏腹に、その女性並みの体躯の何処から爆発とも呼べる程の声量を発揮出来るのか。初見とは比べ物にならない程の声量を誇るそれは一万人のプレイヤーを収容する広場を静かにさせるには十分だった。勿論、最も近くでそれを聞いた俺とアルゴさんはたまったものではない。少しの間だけ、水を打った様な静寂とキーンという鼓膜を震わす音が俺の耳を支配する。

 

 「私の名前はミヤビ、βテスターです。隣にいるケイジュとアルゴさんと志を同じくしてここに立たせて頂いてます。」

 

 そう言ってお嬢はプレイヤー達を一瞥する。何処からか歓声の様な声が上がる。

 

 「皆様のお気持ちは重々承知しております。理不尽にも命を危険にさらされて気が立っている中で、何処の馬の骨とも分からない私のような端女がでしゃばっている、皆様がお怒りになるのも当たり前です。ですがここは、どうか私達の話を聴いていただきたいのです。この様な状況だからこそ、今この場にいる皆様の力を団結させて事に当たらなければなりません。皆様の力が必要なのです。どうか……」

 

 その所作は余りにも自然過ぎた。膝を折り、頭を下げる。たったこれだけの動作が、完成された芸術の様に見る者の心にするりと入ってくる。止めに入る暇すらなかった。

 

 「お、お嬢!頭をおあげください!」

 

 「何やってるんダ!みっちゃんがそこまでやる必要は無いだロ!」

 

 広場に集まっているプレイヤー達はどよめき始めた。

 

 俺とアルゴさんは慌てて頭を上げさせようと試みるが、お嬢は頑として頭を上げようとはしない。お嬢が頭を下げる中、俺だけが頭を上げておく訳にもいかず、俺はその隣で膝を付き深々と頭を下げた。アルゴさんが慌てふためき出したのが分かった。

 

 「オイ皆もう良いだロ!いつまで二人に頭を下げさせておくつもりダ!?」

 

 アルゴさんは広場にいるプレイヤーに向かって声を荒げる。できればアルゴさんにそんなことをして欲しくなかった。まるで俺達がアルゴさんにそうしてもらえる様に期待しての行動にみえてしまう。少なくとも、お嬢は本当に此処に居るプレイヤー達を思っての行動なのだから。

 

 その時だった。

 

 最初はまばらに、しかし時間がたてば徐々に分かってくる。怒号や喧騒ではない音の洪水が徐々に俺達に押し寄せてくるのを、耳で、肌で感じた。

 

 一万人近いプレイヤー達から贈られる拍手。

 

 顔を上げてそれらを茫然と眺めながら、俺は今の状況がどういう事なのかと思考する。

 

 混乱している状況下での無謀とも思える説得。プレイヤー達もそれがどれだけ凄まじい事なのかを理解しながら俺達と相対し、見定めようとしていたに違いない。

 

 こいつらが本当に信用に足りるかどうかを。

 

 こいつらの言っている事を聞いて大丈夫なのかと。

 

 そしてお嬢はプレイヤー達から信用を勝ち得たのだ。誠意を持って一万人のプレイヤーの前に立ったお嬢に対して、誰にでも成し得られる訳では無い所業に対して、彼らはお嬢にどう返答するべきか考えた末の結論が拍手だったのだろう。

 

 

 「すげぇぞアンタら!」

 

 「もう頭を上げてください!」

 

 「俺はお前らの事を信じるぞ!」

 

 

 拍手を贈りながら俺達に労いの言葉を掛けてくれるプレイヤー達。アルゴさんも終始茫然としていたが、ふと我に返り未だに頭を下げたままのお嬢に呼び掛ける。

 

 「何をしているんだみっちゃン!頭を上げナ!もう皆認めてくれているヨ!」

 

 それでも、お嬢は頭を上げようとしない。いや、どちらかと言うとそれは項垂れているようにも見えた。次第に肩を小刻みに震えさせながら、嗚咽が混ざり始めた。

 

 俺は隣に座り込み、優しく肩を抱く。

 

 「お嬢、大変御立派でした」

 

 「佳樹……私は皆様のお役に立つ事は出来たでしょうか……」

 

 「此処に居る人達が皆、お嬢の事を認めております。何時までも俯かず、どうか顔を上げてください」

 

 俺は皆と同様、お嬢を労う。そうして補助しながらお嬢を立たせた。立ち上がったお嬢を見てプレイヤー達は

先程以上に沸き上がる。

 

 「さテ、先程紹介されたけど私の名前はアルゴ。同じくβテスターダ。βテスト時代から情報集めを主にやってきて、これからも主に情報屋として活動して行く所存ダ。こちらのお嬢さんがこんな状態だからナ、不服かとおもうけどさっきの続きは私が説明させてもらう事にすル」

 

 広場が次第に静かになってくる頃を見計らって、アルゴさんがそう切り出した。

 

 「ケイジュが進むか留まるかの選択を皆にしたと思うガ、それはどうしても戦闘が苦手だったり、女子供だったりと、戦えない理由を持つ奴はどうしても出てくるからダ。勿論、命を掛ける度胸が無いって奴もいるだろウ。さっきも言ったと思うけど、それを責めるつもりは無イ。私も最前線で戦う訳では無いから人の事は言えないしナ。じゃあ留まるを選択したプレイヤーは何もしなくて良いのカ?そうは問屋が卸さないサ。じゃあ具体的に何をしてもらうかと言うと……」

 

 アルゴさんは淡々と話を続けていく。お嬢が下地を造ってくれたお陰で無駄な妨害も入らない。

 

 「第一層に留まるプレイヤー達には生産系スキルを上げて貰ウ」

 

 アルゴさんのその発言に静かだったプレイヤー達はまた僅かに騒然となった。皆口々に回りのプレイヤーと話をして関心している。大抵のプレイヤーがこのソードアート・オンライン以前からMMORPGをプレイした事が有るのだろう、戦闘以外でも役に立つスキルがある事を理解している。命懸けの状況に放り込まれた現状を鑑みても、この発言は皆の盲点を付いた。

 

 「生産系スキルには言わずと知れた鍛冶、他にも裁縫、革細工など、武器や装備に必要なスキルがあル。他にも料理や釣りなんてネタスキルもあるから、女子は意中の男子の胃袋をつかむ為に料理スキルを上げてみてもいいんじゃないかナ?」

 

 アルゴさんの冗談に広場は沸き上がる。冗談を交えながら話を進めるアルゴさんを見ていると、βテストからの付き合いだから何となく分かってはいたが、年長者故の人心掌握に長けていると思う。

 

 「まア、冗談はさておき仮に戦闘向きではないプレイヤーがいたとしても、こうやって裏方として前線を支援できル。決して悲観的な選択にはならないはずサ。戦えない者も是非とも胸を張ってくレ」

 

 アルゴさんの説明は凡そ問題は無かった。これを聞いていたプレイヤー達も関心している。

 

 「皆、ここまでで何か意見や質問がある者はいないか?」

 

 俺がプレイヤー達に呼び掛けるが、特に意見を挟んでくる者は居ない。

 

 「これからの方針について話し合うには今は少し人数が多すぎる。だから続きは明日以降だ。明日の朝9時、俺達と一緒に攻略に参加する意志のある、いや訂正しよう。戦闘員として攻略する意志のある者はこの広場に集まってくれ。仮にこの話が伝わっていない者が居たら、皆と協力して話を広めてくれ。皆、明日の朝9時だ。それでは今日は解散してくれ。くれぐれも無理な行動はせず、全員無事に明日を迎えよう」

 

 そうして俺は踵を返してお嬢を連れて下に向かおうとした。そこをアルゴさんに呼び止められた。

 

 「まあ待テ。未だ行くなヨ」

 

 「え、何故でしょうか……ああ……」

 

 塔の下にはそれこそ出待ちの如く人が群がっている。大抵が男である所を見ると、お嬢かアルゴさんが目当てなのだろう。

 

 「……大変ですね」

 

 「お気遣いドーモ。まあオンラインゲームなら女ってだけでチヤホヤされるもんサ。それがここまで目立ってしまったんなら尚更サ」

 

 まあ座りなヨ、と、アルゴさんが近くに腰を下ろす様に進めてきた。断る理由も無いのでお嬢を連れてアルゴさんと三角形になるように座る。様子を見る限りではお嬢も漸く落ち着いてきたようだ。

 

 「さてと、一先ずはお疲れ様って所かナ?」

 

 「はい、未だ問題点は大量に残ってますけどね。一先ずは、ですね」

 

 「それにしても……本当に大した奴らだなァ」

 

 そう言いながらアルゴさんは俺達二人を呆れたように見つめてきた。

 

 「今が18時ちょっと前だから、みっちゃんとヨシ坊はデスゲーム開始約30分で一万人を掌握した事になル。聞くのは何だが、リアルでは何をしているんダ?」

 

 俺とお嬢は軽く目配せする。お嬢は、『佳樹に任せます』と言ってきた。その様子を見ていたアルゴさんは無理に言わなくても良いと慌てて訂正してきたが、俺は軽く手を上げてそれを制する。

 

 「詳しい事はまだ言えませんが、お嬢と自分は現実では武術を嗜んでおります。お嬢はそこでは教える立場でもあります」

 

 ばれた所で問題にならないパーソナルデータをアルゴさんに伝える。

 

 「そうか、みっちゃんは武道家の娘でその後継ぎ、ヨシ坊はそこの付人って所かナ?」

 

 「ええ、仰る通りです」

 

 それを聞いて今回の件とどう結び付けたのかは解らないが、アルゴさんはそれ以降この話題に関して追及はしてこなかった。

 

 「ただ、今回の件は決して俺の力ではないでしょう。一万人のプレイヤー達を事前に落ち着かせたのはアルゴさんとそのフレンドの協力の下に成り立った様なものですし、プレイヤー達の説得に関しても、俺の説明で荒れた場をお嬢の力で静められ、更にその尻拭いもアルゴさんにしてもらった様な形です。そもそも俺は実行に移しただけで、お嬢に命令されるまではお嬢一人守るだけのつもりでした。お嬢とアルゴさんの功績ならともかく、自分が何かお役に立てたとは到底思えません」

 

 ありのまま感じていた事を俺は口にする。自分で言っていて、非常に情けない事ではあったが事実がそうなのだ。俺がやったことと言えば、お嬢を抱えて走り回った事と、塔の上で叫んだ位だ。

 

 ふとアルゴさんを見ると、またもや呆れたように首を横に振っている。

 

 「まあ、堅物と言うか真面目と言うカ……」

 

 「でもそこが佳樹の良いところなんですよ?」

 

 お嬢はニコニコ笑いながら俺を見ていた。まあ、彼女達なりに俺の行動を認めてくれているのだろう。

 

 「ヨシ坊が自分をどう思っていようが勝手だけど、回りはそうは思っていないとおもうヨ」

 

 「はあ……」

 

 これは自分でも気のない返事だと思った。正直に言うと、客観的に見ても見せ場を盗られた喧しい男としか見られていない気がするのだが……。

 

 その時、ふと視線を感じた。お嬢とアルゴさんではない。何処からかと視線を巡らすと、下へ降りる階段へ繋がる扉が少し開いており、そこから控えめに一人の女性が覗いているのが確認出来た。恐らく10代後半に見えるその女性、顔は幼さを残してはいるが徐々に大人に向かいつつある様な印象を受ける。大きめなつり目は勝ち気な印象を与え全体的に整った顔立ちをしている。恐らく外に出れば多くの男性の視線を集めるだろう。

 

 その女性は暫く此方を観察した後、俺が見ている事に気付いたのか一瞬顔を引っ込め扉を閉じかけるが、意を決した様に扉を開けてこちらに歩いてきた。

 

 俺はおもむろに立ち上がり、お嬢を陰にする様に場所を変える。害意は無さそうだが身元の解らない人間を不用意にお嬢に近付ける訳にはいかない。

 

 その女性は前に出てきた俺の目の前で立ち止まった。近くで見るとやはりと言うべきか、非常に目を引く美しい少女だ。栗色の長髪を、髪型は解らないが耳の後ろ辺りから密編みを作って頭の後ろで結っている。その女性は俺に何かを言おうとしている様だが、なかなか言い出そうとはせずそっぽを向いている。

 

 「どうかしましたか?」

 

 言い出してくれるのを待っても良かったが、何時までも無言で女性の前に立っているのも気が引けるのでこちらから質問を投げ掛けると、今まで目をそらしていたのが嘘かの様に此方を真っ直ぐと見つめてきた。

 

 「私の名前はアスナと申します。宜しくお願いします」

 

 「アスナさんですね。もう知っているかと思いますが、ケイジュと申します。此方こそ宜しくお願い致します」

 

 お辞儀をしながらの丁寧な挨拶に、こちらも失礼にならない様に丁寧に挨拶を返す。その所作からしっかりとした教育の成される家庭で育った事が伺える。

 

 「あの……」

 

 アスナさんは何か言いたげな様子ではあるが、先程と同じくなかなか切り出せない様だ。今度は口を挟まず相手から口に出してくれるのを待つ。

 

 「待ってますよ」

 

 「はい?」

 

 言われた意味が解らず思わず聞き返してしまう。

 

 「下で、沢山の人達が皆さんが降りてくるのを待ってます。早く言って差し上げたほうが、良いと思います」

 

 予想外の発言だった。こんなことを言うためにあそこまで思い詰めていたとは到底思えない。

 

 「……本当にそれだけを言いに来たのですか?」

 

 「……そうです。それでは失礼します」

 

 そう言って踵を返していくアスナさんを俺は呼び止めた。

 

 「貴方が求める答えがあるかは解りませんが、明日の朝9時に、戦闘組だけで会議を行います。気が向いたら来てみてください」

 

 そう言うと、アスナさんは一礼して去っていく。

 

 「やはり、何かを抱えていらっしゃる様でしたね」

 

 「こんな状況に立たされたんダ。何か思う所があって当然ダ」

 

 お嬢とアルゴさんも彼女の心情を察して心配している様だった。

 

 「私達はこれから先頭に立って闘い、彼女の様に不安を抱えた人達の支えとなってあげなければいけないのでしょうね」

 

 去り行く背中を見つめながら、お嬢はそう言った。きっと、彼女は俺達に助けを求めていたのだろう。彼女以外にも不安を抱えた人達は沢山いる。そして、お嬢は俺に助けを求め懇願した時から、そんな者達の為に尽力すると誓ったに違いない。ならば俺がやる事は自ずと決まってくる。

 

 「お供致します。お嬢」

 

 「はい、宜しくお願いしますね佳樹」

 

 お嬢が自分以外の他者を救うと誓うのならば、お嬢。俺は何があろうとお嬢を守り抜くと誓いましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




個人的にはかなり壮絶

収集つくかなこれ?
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