続きです
あれから下に降りてみると、沢山のプレイヤー方が私達が降りてくるのを待っていました。アスナさんが言っていた事はどうやら本当だったみたいです。降りてきた私達を確認すると、待ってくださっていた方々は盛大な喚声で私達を出迎えてくれました。
私は沢山の方から労いの言葉を頂いたのですが、一部の方からは恋慕の情を伝えられたりと少し戸惑ってしまう場面もありました。まだお互い知り合ったばかりだからと断りを入れて、フレンド登録申請をすると何故か大層喜んで頂けるので、最初は断る事が心苦しかったのですが最終的にはまあこれでいいのでしょうと自身を納得させた次第です。ただ、それを見ていた他の方々もこぞってフレンド申請をしてきましたので、その事態が終息する頃には日が沈んでしまいました。
他にも、佳樹の現実での正体がバレてしまったという痛ましい事件もありました。と言うのも、佳樹は高校生時代は藤堂流と並行して剣道を部活動としてやっていたのですが、その実力から出場する大会に軒並優勝し、終いにはメディアに取り上げられる事態になった程だったからです。また、私が皆さんの前で佳樹と名前で呼んでしまった事により、『どこかで見たことある……』→『もしかしてあの佳樹!?』という構図が出来上がってしまったというのが決め手でした。勿論全ての人に知られていた訳ではないのですが、剣道経験者やその界隈の方々からしてみれば非常に有名らしく、皆さんこれで勝てる!と喜び勇んでおりました。ただ、この件で佳樹からは呆れられた様な目で見られ、アルゴさんからは苦笑いをいただきました。大変不覚です。
まあこの様な事件もありましたが無事この日を乗り切る事もでき、今は数名のプレイヤーの方々と一緒にNPCが営む料理屋で夕食を頂いている最中になります。
「ガハハハハハ!おいケイジュ何ショボくれていやがる!」
「いえ、別にショボくれてる訳では……」
「リーダー!多分酒が足りないんすよ!」
「おう!じゃんじゃん持ってこい!ケイジュ!遠慮すんなよ全然飲んでねぇじゃねえか!」
「すみません、こういうのに慣れてなくて。それより支払いとか大丈夫何ですかクラインさん。結構飲んでると思うんですけど?」
「そんなもん気にしなくて良いんだよ!ミヤビさんも、遠慮せずに!」
「あ、私は未成年ですので大丈夫です」
とても活気溢れる食卓に些か戸惑いながらも楽しく食事をさせていただいてます。私達は、数名のプレイヤー方から誘われてお食事をご馳走して貰えるらしく、大変恐縮です。その内の一人、クラインさんは豪快に笑いながら物凄い勢いでお酒を煽って行きます。素面の時は至って普通な感じの方だったのですが、どうやらお酒が入ると変わってしまうみたいです。
「それにしても、ヨシ坊がリアルで有名人だったとはナ」
隣に座っているアルゴさんが、お酒片手にしみじみといった表情で佳樹を眺めています。大人びた表情を朱色に染めていて女性の私から見てもドキリとしてしまう表情を見せていますが、私より頭一つ身長が低いせいかどこか可愛らしいという感情が勝ってしまいます。不思議です。
「そうみたいですね。私も佳樹がインタビューを受けてテレビ出演したのは知ってたんですけど、まさかそこまで有名だったとは……。それにしてもアルゴさんでも知らない事ってあるんですね」
「当たり前だヨ。オレッチなんてリアルではただのOLだからナ」
「へぇー、OLですか。何だか格好いいです!」
仕事をバリバリこなすアルゴさんを想像すると何だか新鮮ですね。するとアルゴさんは不思議そうに私を見てきます。何なのでしょうか?
「みっちゃんは時々思うけど、やっぱり世間ずれしてるよナ。今時OLを格好いいって思う女もいないだろう二」
「あー、そうかも知れないですね……」
私は5年間、目の見えない世界を体感してきました。勿論、生まれてこのかた目が見えなかった訳では無いのである程度の常識は捉えていますが、それでも健常者と同じ道を辿る訳にはいかず、一般常識と若干の齟齬をきたすことは今まで多々ありました。
「やっぱりお家柄ってやつかナ?武道家の娘って雰囲気出てるもんナ。普段はそんな儚くも憂いを帯びた表情してるくせに、演説の時みたいなキリッとした表情も出来るんだロ?得だよナ~。それに美人ときたものだから羨ましいヨ」
「アルゴさんもハムスターさんみたいで可愛いですよ?」
「うるさいヨ。オネーサンをからかうんじゃなイ」
アルゴさんは笑いながらそう言いって、それにつられて私も笑いました。確かに、事情を知らなければそういう捉え方もあるのかもしれません。そう考えるといちいち悲観的にならなくても良いかもしれませんね。
一頻り笑いあった後、アルゴさんは笑いながら私にお礼を言ってくれました。何のお礼か分からず静かに聞いていると、アルゴさんは続けます。
「感謝してるよ。ここにいる私達だけじゃなくて、多分プレイヤーの皆が。私の見立てでは、初日で沢山の死者が出ると思ってた。モンスターに殺られるだけじゃない、多分自殺者も沢山出ると思ってたんだ。デスゲーム宣告を受けた直後はそれだけあの広場は荒れていた。でも、あの場でみっちゃんとヨシ坊が動いてくれたから、皆今日を生きて明日を迎えようとしている。調べてないから多分だけどあれからまだ一人も死者は出ていない。本当に、今この場で笑い合いながら酒を酌み交わすなんて奇跡みたいなものだよ。みっちゃんとヨシ坊には言い尽くせない程の感謝をしてる」
普段と違う、大人の雰囲気を出しながらアルゴさんはグラスを此方に向けてきました。
「攻略、まだ始まったばかりだけど、期待してるヨ」
照れ臭そうに普段の口調に戻ったアルゴさんへ、私は自分のグラスを持ってそれに応えます。
「力の限り、やらさせていただきます」
私達は御互いのグラスをカチリと当てた。
あれから、私と佳樹は酔い潰れたクラインさんとそのお仲間数名、ついでにアルゴさんを介抱しつつ清算を済ませ、皆さんを近場の宿に宿泊させて一息つきました。私達の宿泊代を考えると、私と佳樹二人掛かりで狩りをして集めたコルは一晩で尽きてしまいました。宵越しの銭は持たない主義です。
「それではお嬢、部屋へ向かいましょう」
「佳樹はあまり気にしていないんですね」
「コルはまた集めればどうとでもなります。皆さんの感謝の気持ちさえ頂けたなら充分ではありませんか?」
「それもそうですね!あ、そう言えば」
私は佳樹の顔を見ながら疑問に思った。
「佳樹はあまり酔っていない様ですけど、お酒は飲まなかったのですか?」
「主の御世話に影響が出ない程度に控えております」
「流石ですね」
いつも通りの佳樹でした。
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私は一人、宿の部屋のベッドに横になり目を瞑りながら睡魔が訪れるのを待っていました。しかし、今はどれだけ願っても睡魔は訪れる事は無いでしょう。
デスゲーム宣告時にプレイヤー全員に配られた手鏡。それを見る事で私は現実世界では二度と見ることの出来ない素顔を見る事になりました。それに写っていたのは紛れもなく私の顔なのでしょう。しかし、私の脳裏を過ったのは私の顔と似通った別の女性。
「お母様……」
私はベッドから起き上がり、部屋に備え付けてある姿鏡をみやり、意を決しました。ヒタリ、ヒタリと、足と床が張り付く感覚を感じつつその鏡に近づいて行きます。今まで極力顔の写る物を避けていましたが、これが夜の魔力と言うものなのでしょうか?
今まで何故忘れていたのでしょう。思えばこの5年間、お父様も、佳樹も、私でさえも、お母様の話はしなかった。記憶さえ無かった。何故?何があったの?お母様は何処に行ったの?
姿鏡に写ったのは血色の悪い女性。生気というものが感じられず、例えるのならば、それは幽鬼。
ザザ……
頭のナかにノイズがハしる
視界もぶれた
鏡の中の私はお母様?なぜ笑う?そのちはなに?うで?あし?脳漿
いかないで
どうもすみませんでしたー
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ころす
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「あああああああああああああっ!!」
自分の悲鳴で目が覚めた。先程の夢の内容は、まだしっかりと思い返すことができる。部屋に備え付けてある姿鏡。それを覗き込むと、血の気の無い私。そして、断片的に記憶が甦り、血だらけのお母様の……。悪意、殺意、憎悪。
「あ、あ……」
私は上体を起こし、呆然と部屋を見渡した。この部屋には姿鏡は無かった。おそらく佳樹が鏡の無い部屋を選んだか、事前に撤去したか。
その時、部屋の戸が激しくノックされる。
「あ、う、佳樹……」
「お嬢!お嬢!大丈夫ですか!」
気が付けば私は佳樹に介抱されていた。佳樹は私の肩を軽く揺すって私の反応を診た後、額や頬を触り、手首で脈を診る。軽く私の前髪をとかして今度は真っ直ぐ見てきた。
「兎に角、横になってください」
私の肩を抱きながら、佳樹はゆっくりと私をベッドへ寝かし直そうとします。それに抵抗する様に私は佳樹の服を掴み、勢いよく佳樹の胸に顔を埋めました。
「お嬢……」
「佳樹、助けて。怖い。私には何があったのですか?何故私の目は見えないのです。何故見えなくなったのですか!お母様は一体どうなってしまったの!?佳樹っ!」
「お嬢、どうか落ち着いてください」
佳樹は気が動転している私に優しく語りかけ、ふわりと体を抱いてくれました。佳樹の身体はとても温もりがあり、その包み込む様な安心感は私を徐々に落ち着かせて行きます。
暫く時間が経ったでしょうか。私も漸く落ち着きを取り戻し、佳樹も私の様子を確認したのか、私の体を抱いたまま静かに語り始めました。
「全てを悪い夢として終わらせてしまうには、お嬢は知りすぎてしまいました。いえ、正確には思い出したのでしょうが……」
そこで佳樹は言葉をきり、暫くの間考え事をするかの様に目を瞑ります。そして再び目を開けて言葉を続けます。
「お嬢、自分はお嬢が忘れてしまった事を、恐らく全て説明する事が出来ます。聞くかどうかは、お嬢次第です」
「私次第……」
佳樹なら多分、私が知りたいと思う事を知っているのでしょう。私が失明するに至った事故の詳細。恐らくもうこの世にいないであろうお母様の事も……。
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『佳樹、聞かせてください』
『何でしょう』
『お母様は……亡くなっているのですか?』
『……亡くなられております』
『私が事故で視力を無くしてしまった事と、お母様が亡くなってしまった事は、やはり関係あるのでしょうか』
『質問の意図を汲み取りますと、関係有ります。それと質問の答えから外れますが、お嬢の記憶が無くなってしまったのも無関係ではありません。正確には奥様を亡くされた後、直視出来ない心的苦痛から逃れる為にお嬢自ら記憶と視力を手離したと、お医者様から説明を頂いております。事故の衝撃で記憶と視力を失った訳ではありません』
『話を聞く限りでは、私とお母様は一緒の事故に遭遇した様ですが、お母様は私を庇って亡くなったのでしょうか』
『その通りでございます。自分も直接事故を見た訳ではありませんが、目撃者や犯人の供述から奥様はお嬢を庇って亡くなられております。』
『つまり私が居なければお母様は亡くなられていなかったかも知れないという事ですね』
『今となってはそれはもう承知出来ない事実。月並みな言葉ですが、奥様はお嬢のその様な考えは望んでおりません。お嬢、自分は今日のお嬢を見ていて思いましたが、お嬢は奥様の生き写しでございます』
『お母様の……』
『そうです。お嬢のそのしなやかな美しさ、正義感溢れる強い意思、奥様と瓜二つでございます。お嬢は自分の命に代えてでも護った者に何を望みますか?もしお嬢が奥様の死に酬いたいのであれば、今この時、一人でも多くの人の命を救うべきです』
私は佳樹への質問はその限りにしました。まだ全ての真実からは程遠いでしょう。それでも、私は、私の存在理由を見つけた様な気がします。
お母様の様に。
今よりも更に強く、更にしなやかに。
時刻は9時。今私の目の前には、佳樹の呼び掛けにより集まって下さったプレイヤーの方々が沢山いらっしゃいます。集団の中にはクラインさんや、フードを被って顔を隠していますが、アスナさんの姿もありました。
これたけ沢山の方々が私達の意思に賛同し、攻略の第一歩を踏み出して下さる。私達は彼等の期待に応えて、皆さんが生きて現実に帰る事が出来る様に取り組まなければなりません。
恐らくそれは茨の道。針のむしろに座る思いかも知れません。
しかし、私は一人ではありません。一緒にこのアインクラッドを攻略してくれるプレイヤーの皆さん、そして佳樹がいます。
「皆さん、大変お待たせしました。本日はこんなに沢山の方々が私達の呼び掛けに集まって下さり、大変嬉しく思います。それではこれより、我々戦闘組による会議を始めたいと思います」
沢山の拍手が私の発言に答えてくれました。
今このときより、私達の解放に向けた戦いは始まりました。
皆、強いだけではありません
どんな人でも心に傷を抱えています
罪の一つや二つは持ってるはずです
でも人間ならそれも仕方がないっすよ