ソードアート・オンライン ~二人の記録~   作:無気力さん

7 / 23
攻略直前までいきたかったんですけど

やたら長くなりそうなんでやめました


六話

 2022年 12月

 

 アインクラッドの攻略が始まってから1ヶ月が経とうとしていた。

 

 隣には手を合わせながら僅かに俯くお嬢がいる。勿論俺もそれにならい、手を合わせていた。

 

 今俺達がいる所は、《はじまりの街》の広場に隣接する《黒鉄宮》の中、《蘇生者の間》にある黒い石碑の前にいる。βテストの時は、HPが0になればここに転送されていた為そう呼ばれている。しかし《蘇生者の間》とは今となっては名ばかりで、蘇生の役割など一切担わない空間。

 

 そこにある黒い石碑には一万人のプレイヤー全ての名前が記されており、デスゲームと化したこのソードアート・オンラインでHPが0になり死亡してしまったプレイヤーはその名前に黄色の斜線が引かれ、死亡日と簡単な死亡原因が記される事になる。

 

 「お嬢、そろそろ参りましょう」

 

 俺はお嬢に、そう声を掛けた。そうでもしないとお嬢は何時までも手を合わせていそうだ。

 

 「行きましょう、佳樹」

 

 顔を上げてお嬢は静かにそう言った後、ゆっくりと踵を返した。

 

 「本日の16時から《トールバーナ》で、先頭で攻略をお願いしていたディアベルさんが第一層攻略会議を行います。それに遅れない様にしなければなりません」

 

 「分かっています」

 

 今回だけではない。お嬢はここに来ると、やはり気を落とされてしまう。俺は静かに歩くお嬢の斜め後ろに付き従いながら歩いた。

 

 

 この1カ月で、死者は500人にも及んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1ヶ月前の会議で俺達が主に話し合ったのは、如何にして攻略するかではなく、如何にして死なないかという事だった。俺やお嬢、アルゴさんと集まってくれたプレイヤーで納得行くまで話し合った結果、以下の事が決定した。

 

 1、フィールドに出る場合、最低でも3人以上で行動する

 

 2、安全マージンをしっかりととり、レベル上げの際は《はじまりの街》付近のフィールドから徐々に離れていく様にレベルを上げる。急に遠方のモンスターや、夜間の凶暴化したモンスターと闘わない。

 

 3、安全マージンのレベルは、階層プラス10~15程のレベルにする。

 

 主に決まったのはこの三つだ。時間を掛ける事で生じる本来の身体の健康問題や社会復帰問題、ゲーマー故か、レアアイテムのリソースの奪い合いの問題等、色々な意見も出てきたが、そこは俺とアルゴさんが何とか説得してみせた。

 

 実際の身体の問題に関しては、日本の医療技術の進歩を持てる限りの知識を披露して問題無い事をアピール。こればかりはしっかりとした答えは返すことが出来なかったが、自国の技術を皆信頼しているのか、多分何とかなるだろうで話は完了してしまった。社会復帰に関しても同様、何とかしてくれるだろうで納得するしか無かった、というのが現状だった。

 

 アイテムリソースに関しては、アルゴさんが集めた情報により、一層のアイテムは慌てて集めるほど有用な物は無い事を説明した。何より、これから100層に向かって攻略を進める間に、仮にレアアイテムだとしても1層で手に入るアイテムが果たして重要なのかという結論に至った。

 

 それにより慌ててレベリングする必要も無ければ、無理をして危険なクエストに挑戦したりアイテムを獲得する必要は無い。命を危険に晒す事なく安全マージンまでレベル上げをして攻略に望めば良いと、皆の意見は纏まった。

 

 

 続いて、非戦闘員による簡単な話し合いが昼に行われた。彼等には主にこの《はじまりの街》に残って生産系スキルを上げてもらい、武器や防具、アクセサリー等のアイテムを生産してもらう。それらのアイテムは戦闘組に販売して前線支援を目的とする。それらで儲けたコルで自らの衣食住を何とかするというのが大まかな流れだ。勿論こちらでも問題が洗い出される。アイテムが売れなかった場合の食い扶持をどうするか、自身で作ったアイテムの値段設定をどうするか、他にもアイテムを造る為の素材をどうするか等があった。

 

 確かにこれは戦闘組の問題よりもシビアな問題だった。寧ろ俺が一番懸念していた問題でもある。生産職を需要毎に振り分ければ供給側もままなるとは思うが、やはり熟練度や素材の質によって生産される物の質が異なってくる。戦闘組からしてみても良い武器を使いたいのは当たり前だ。スキル熟練度はどうにかなるにしても、質の良い素材を仕入れられるかどうかによって同じ生産職でも売上が偏ってしまうだろう。一部で稼ぎの無い職人プレイヤーが出てしまい路頭に迷いでもしたら、いくら空腹や体調が命の危険に直結しないゲーム内でも道徳心に苛まれるという物だ。頭を悩ませる問題ではあったが、これは出来るだけ個人経営ではなく、企業の様に一人トップを作りその他プレイヤーを雇用する形にする。そして戦闘組が攻略で集めた素材を商人達が均等配分すれば大方問題は解消出来るだろう。差詰め鍛治ギルドといった所だろうか?

 

 アイテムの値段設定はどうだろうか?これも前の問題が解決出来れば粗方問題は解決だ。需要と供給によって凡その均衡価格が決まってくるから、要はギルド毎にそれに則した値段設定をすれば良いのではないだろうか?良物の値段は当人同士で決めてもらう事にする。

 

 この様に話し合いを進めてゆき、一層に留まるプレイヤー達約3000人は、3:3:3:1の割合で鍛治、裁縫、革細工、その他といった具合に各々別れてもらった。その他に関しては、釣りや料理、商人といった者達だ。勿論攻略の進行に応じてこの比率も変わってくるだろうが、それは状況を見て当人達に判断して貰おう。

 

 

 この様に大まかな取り決めが行われ、俺達の攻略はスタートした。

 

 

 

 

 

 俺達は《はじまりの街》の主街区に来ていた。ゲーム開始直後と違い、大分活発になってきている。お嬢と俺は定期的に視察という形で問題が無いか見て回っている。

 

 最初に訪れたのは、商人ギルド《ムスタング》を運営しているギルドマスターのフェンダーさんの所だ。攻略で手に入った素材やインゴット等は、直接鍛冶屋に持っていって精製してもらう物以外はこの様な商人ギルドに持っていって纏めて購入して貰っている。ムスタングとは野生の馬という意味らしく、ギルドマークも雄々しい馬を意匠にしてある。勿論ギルドを作る為のクエストは第3層でしか受けられないのでギルドの仮の姿ではある。

 

 「失礼します」

 

 俺達がギルドを訪れると、眼鏡を掛けた20代後半とおぼしい男性が出迎えてくれた。

 

 「いらっしゃい。おや、これはミヤビさんとケイジュさんでしたか、ご無沙汰してます」

 

 「ご無沙汰しております、調子はいかがですか?」

 

 「最近はようやく慣れてきた所で、先ず先ずと言ったところです。他のプレイヤーの方も利用してくれる様になりました」

 

 「慣れない事を任せてしまって申し訳ありません」

 

 「いえいえ、戦えない以上こういった形で何かお役に立たないといけませんから。手先も不器用なものでこの様な事しか出来ませんし」

 

 話していると解るが、非常におっとりとした人だ。見た目もズル賢さとは無縁な誠実そうな容姿で、お世辞にも商人に合ってるとは思えなかった。

 

 「今日はこれを持ってきたのですが」

 

 そう言ってお嬢はフェンダーさんの前にアイテムを具現化した。

 

 「おや、これは珍しい。《シルバーストーン》ですか」

 

 「はい、迷宮区で狩りをしていましたらたまたまドロップしまして」

 

 フェンダーさんは鑑定スキルを使ってシルバーストーンを鑑定している。シルバーストーンは鍛冶屋によって、現段階では希少な《シルバーインゴット》に代える事ができる。

 

 「そうですね、これでしたら一個2000コル、計8000コルでいかがですか?」

 

 先ほどNPCのショップで確認すると、一個1500コルだった。NPCショップの場合鑑定で質を見ずに値段が固定である為、この様な事は多々ある。

 

 「それで結構です。ありがとうございます」

 

 「はい、毎度ありがとうございます。そういえば今日はトールバーナで攻略会議がある様ですね」

 

 フェンダーさんはシルバーストーンをコルに換金しながらそう言った。

 

 「そうです、良くご存知ですね」

 

 「はい、先ほどアルゴさんもいらっしゃってくれましたので」

 

 フェンダーさんは懐かしい友人の名前を口にした。懐かしいとは言っても、メールでやり取りはしているのだが1ヶ月前の会議以来顔を合わせてはいなかった。

 

 「そうでしたか」

 

 「アルゴさんにも久しぶりに会えるかもしれませんね。それではフェンダーさん、私達はこれで失礼させていただきます。何か問題がありましたら連絡を下さい」

 

 「はい、お気をつけて」

 

 こうして俺達はムスタングを辞した。

 

 

 

 

 

 「おーい!ミヤビさん!ケイジュさーん!」

 

 はじまりの街にある目的地に向かって歩いていると、数多くの露店が開かれる中から俺達の名を呼ぶ声が聞こえた。辺りを見回して確認していると、露店の一画にこちらに向かって手を振っている女性プレイヤーの姿が見えた。

 

 「リズベットさんの様ですね」

 

 「行きましょう、お嬢」

 

 近づいて行くと、頬にそばかすを散らした可愛らしい少女が出迎えてくれた。彼女はリズベットという女性プレイヤーで、デスゲーム開始後から鍛冶職として攻略をスタートした。当初はギルドの一員として鍛冶をしていたが、ここ最近になって露店という形ではあるが独立して個人経営を始めたのだ。

 

 「ようこそリズベット武具店へ!折角なんで何か買っていって下さいよ!」

 

 「ふふ、リズベットさんはしっかりしてますね。最初の頃は毎日不安そうだったのに」

 

 「もう!昔の事は忘れてください!」

 

 お嬢がからかうとリズベットさんは恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 

 「そうですね、それでは折角なので武器の手入れをして戴きたいのですが?」

 

 俺は彼女の前に立て膝を付き、自身が持っている片手用曲刀を丁寧に差し出す。

 

 「手入れですね?ありがとうございます!」

 

 俺から武器を受け取ったリズベットさんは鑑定を始め、徐々に眉をしかめはじめた。

 

 「……ケイジュさん、この片手用曲刀ってどれくらい使い続けてますか?」

 

 リズベットさんは訝しげに俺にそう聞いてきた。

 

 「ゲーム開始からずっと使い続けてますが?」

 

 「いえ、はじまりの街で購入出来る初期装備なんでそれは見ればわかるんですけど、強化された形跡が一切無いんですけど……?」

 

 「そう言えば、今まで武器を強化した試しが無いですね?」

 

 お嬢は手に持っている槍の穂先を眺めながらそう言った。その槍は俺が初日に送った物だ。取り敢えずコルが大量に必要だった俺達は、ここ最近は迷宮区に籠りきりで宿や食事は必要最低限、武器も使えなくなるギリギリまで使って修理に出す、という節約生活を送っていた。

 

 「ダメですよ!弱いままの武器を使っていてもし危険な目にあったらどうするんですか!ちょっと待っててください!」

 

 そう言ってリズベットさんは俺から預かった武器を置いて、目の前に並べられている商品ではなく、自身の後ろに置いてある在庫から一振りの片手用曲刀を俺に差し出してきた。

 

 「はい、これを差し上げますので使ってください!返品は不可です!」

 

 差し出されたのは、鈍色に光る見事な一振りだった。先ほど自分が差し出した片手用曲刀よりも随分と重く、頑丈そうな雰囲気を醸し出している。

 

 「良い武器ですね、お幾らですか?」

 

 「お金は要りません!さっき差し上げると言ったじゃないですか」

 

 この発言には些か困ってしまった。こんなに良いものを無償で貰うのは幾らなんでも気が引けてしまう。抗議しようにも、リズベットさんはそっぽを向いて頑として聞き入れてくれそうな雰囲気では無かった。お嬢に助言を頼もうと目を合わせると、お嬢は何故か楽しそうにニコニコと笑っている。

 

 「良いではありませんか。せっかくのリズベットさんの好意を無下にするのもよろしくないですよ?」

 

 お嬢のその雰囲気に困惑の表情を向けるも、お嬢は悪戯に首を傾げるだけだ。そんな中、リズベットさんは不意に手を伸ばしてきてあっという間にお嬢の槍を奪ってしまった。

 

 「え、あっ!」

 

 お嬢は反応する暇もなく無力化させられてしまった。見事な無刀取りだ。リズベットさんはもしかしたら武術の才能があるのかもしれない。そんな彼女はお嬢から腕が伸びてくるよりも早く奪った槍を自身の後ろに仕舞い、代わりの槍をお嬢の目の前に差し出した。

 

 「ミヤビさんにはこれです。勿論差し上げます!」

 

 差し出されたのは此方も見事と言える一条の槍だった。如何にも日本風な意匠が施された槍で、お嬢の雰囲気にも合っていた。勿論性能も申し分無いのだろう。

 

 「そんな……こんなに立派な物を頂ける訳が……」

 

 先ほどとはうって変わってオロオロとした表情で俺に助けを求めてくるお嬢。袖を引っ張りながら上目遣いで助けを求めてくるその様は、こう言っては何だが、非常に眼福である。

 

 「あの……よろしければ貰っていただきたいのですが……」

 

 不意に、隣で裁縫を営んでいる女性プレイヤーからそう声を掛けられた。

 

 「リズちゃん、とても前からお二人に何かお返しが出来ないか凄く考えてて、それで新しいしっかりした武器をあげようって。それこそ良い素材を手に入れる為に毎日の生活費を削って、その二つの武器を作り上げたんです。ですので、私からもお願いです。是非、貰っていただけないでしょうか?」

 

 「ちょっとレイさん!言わないで下さいって言ったじゃないですか!」

 

 リズベットさんはレイと呼ばれる女性に顔を赤らめながらも怒ったようにそう言った。どうやらこれらの武器は、初めから俺達にプレゼントするつもりで事前に準備していたものだった様だ。

 

 「でもリズベットさん。何故この様な物をご用意して頂けたのですか?」

 

 お嬢は手持ちぶさたな手を前で組ながら質問した。それに対してリズベットさんは顔を赤らめ、視線を外しながらもおずおずと答えてくれた。

 

 「だって、ミヤビさんもケイジュさんも、最初の頃私が不安そうにしてたのに気付いて毎日の様に様子を見に来てくれて……。他にも、攻略で忙しい筈なのに街の人達を励ましてたり、コルを寄付してたり。そんな人達に何かしてあげたいと思うのは普通じゃないですか!」

 

 照れ隠しだろうか、後半は捲し立てる様に必死に説明するリズベットさんをお嬢は穏やかな表情で見つめる。

 

 「リズベットさん」

 

 リズベットさんが静かになった所を見計らって、お嬢は静かにそれでいてしっかりと伝わる様に、語りかけ始めた。

 

 「私達が皆様の力になろうとしているのは、決して誰かに誉められたいが為でも、ましてや施して貰いたいが為でもありません。ですのでその様な見返りは本来求めている物では無いのです」

 

 「そんな……」

 

 不安そうにお嬢の話を聞くリズベットさんの手を優しく取り、語りかける。

 

 「聞いてください。私が皆さんの助けになりたいと思うのと同じ様に、リズベットさんも私達に何かお返しがしたいと思って下さった。これは単に、自身が赴くままに行動しているのだと、そう私は考えております」

 

 「自身が赴くままに……ですか?」

 

 「ええ、そうです。誰に左右されるでもない、嘘偽りの無い誠の心。リズベットさんのお返しがしたいという思いは決して人から強制されたものでは無い筈です。そういった思いを無下にするのも、私の本意ではありません。一度渋っておいてとても照れ臭いのですが、リズベットさんが造っていただいた槍、譲り受けても宜しいでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 俺達は笑顔で手を降るリズベットさんに見送られながら、リズベット武具店を後にした。目的地に向かい歩く道中で、俺は気になっていた事をお嬢に質問した。

 

 「お嬢、自分がリズベットさんから曲刀を譲り受けた際、お嬢から何やら楽しそうな雰囲気が窺えたのですがあれは何だったのでしょうか?」

 

 「え、あれですか?」

 

 俺からの質問にお嬢はまるで気にしていなかったか事を追求されたかの様な、意外そうな反応をした。

 

 「答えにくい事なら答えていただく必用はありません」

 

 「いえ、特に隠すことでもありませんので。恐らくリズベットさんは佳樹に好意を抱いていると思ったのです」

 

 お嬢の発言を聞いて若干気恥ずかしい思いはしたが、冷静に考えれば解らないでも無い。あの年頃の少女ならば歳上の男性に対して憧れの様な感情を抱くのも理解でき、ましてや初日から今まで其なりの立ち回りをしたのだ。他の男性プレイヤーよりも目立つこと然り、その対象が俺に向くのも頷ける。しかし俺も自分が鈍感である自覚は無い。好意を寄せられたら解りそうな物だが、その様な仕草はあっただろうか?

 

 「まあ女性にしか解らない心の機微を察しましたからね、佳樹が信じられないのも分かります。あれはリズベットさんは少なからず意識してますねぇ……」

 

 悪戯をする子供の様に笑うお嬢を見て、もうすぐ成人を迎える歳ではあるが何処か幼さを伺えるのはこういった所以であると改めて実感する。

 

 「お戯れを……」

 

 俺は黒鉄宮を辞した直後のお嬢の落胆ぶりが街の人達と接していく中で徐々に晴れていくのを感じ、心の中でお嬢に関わってくれている人達に改めて感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 道中で様々な人達と話をしたり、時には売られている品物に目を通したりしながら俺達は、はじまりの街

最後の目的地、教会に辿り着いた。

 

 この教会にはNPCの神父や修道師がいて、何らかのクエストの受注や、オレンジプレイヤーのカルマ回復イベントに関係があるとβテスト時代から真しやかに噂が囁かれていたが真偽は定かではない。どちらかと言うと宿泊施設としての意味合いの方が強いのが現実だ。ここにはサーシャさんと言う女性プレイヤーと年齢制限以下の低年齢プレイヤー数名が一緒になって生活している。

 

 攻略を進めるにつれて分かった事ではあるが、このソードアート・オンラインにはR-15という年齢制限以下、解っている中でも最年少7歳の子供のプレイヤーまでログインしていたのだ。俺とお嬢はその事実に気付いた時は流石に頭を抱えてしまった。放っておく訳にもいかないがいくら茅場昌彦が計算高いとは言え、託児所の様な施設まで用意してあるとは考えづらい。俺とお嬢で面倒を見る事も出来たが、戦闘組をある程度率いると誓ってしまった手前流石に付きっきりになる訳にも行かず、この子供達の世話をしてくれる人物を募り、アルゴさんに丁度良い施設を探して貰っている間、手頃な宿を借りながら子供達の世話をしていた。

 

 アルゴさんが直ぐに教会という大人数を一度に住まわせる事が出来る施設を見つけてくれたが、問題は世話人だった。デスゲームが始まって数日、他のプレイヤー達は自身の事で精一杯で彼らの世話を引き受けてくれるプレイヤーは出てこない。途方に暮れて、もう俺かお嬢のどちらかが付きっきりで世話をするかと諦めかけた時に現れたのが、数名の低年齢プレイヤーを連れたサーシャという女性だった。彼女は当初戦闘組としてレベリングをしていたが、同じく低年齢プレイヤーの存在を知り、また俺達が世話人を募っていたのも知って快く引き受けてくれた。

 

 俺達が教会を訪れると、メガネを掛けた優しそうな女性プレイヤーが出迎えてくれた。

 

 「あら、ミヤビさんにケイジュさん。いらっしゃってくれて有難うございます」

 

 「はい、サーシャさんもお変わりがない様で何よりです」

 

 「どうぞ、上がってください。子供達も喜びます」

 

 サーシャさんに促されて俺達は教会の中に入った。サーシャさんも今の環境に慣れてきている様で、その修道服を着た姿からは母性が溢れており本当に現職の修道師の様だった。教会では今現在は勉強の時間で、サーシャさんは持てる知識を総動員して子供達に勉強を教えているらしく、大聖堂を使って十数人の子供達を見ているらしい。驚くほどの力の入り用だ。

 

 俺達が大聖堂に入ると、子供達が俺達の存在に気付き大いに騒ぎ始めた。俺とお嬢は顔を見合わせて笑う。どうやら彼らも変わらず元気にやっている様だ。

 

 「皆さん、今日はお勉強は終わりです。お兄さんとお姉さんが遊びに来てくれましたよ」

 

 サーシャさんの発言に大聖堂は大きな歓声に包まれた。子供というのはやはり素直なものである。

 

 「おにーちゃん、おねーちゃん、あそぼう!」

 

 「あそぼー!」

 

 「はいはい、よいしょっと。何して遊ぼうか?」

 

 中でも年齢の低い二人の子供達が俺達の足に擦り寄ってきた。お嬢はその内の一人をだき抱え、もう一人も俺がだき抱えた。二人は御満悦な様子で、見ているこちらも癒される。

 

 「それでは、庭に行きましょう」

 

 サーシャさんの号令と共に俺達は庭へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 子供達に混ざってお嬢が仲良く遊んでいるのを眺めながら、俺はサーシャさんと話をしていた。

 

 「いつもありがとうございます。子供達と遊んで頂いて、コルまで寄付して頂いて……」

 

 サーシャさんは思い詰めた様にそう呟く。

 

 「寧ろこちらが感謝しなければならない事です。子供達の世話は大変でしょうし、教会の維持費も大変な金額になります。それを分かった上でサーシャさんに任せたので、最低限の維持費だけでもこちらで払わなければ申し訳ありません」

 

 教会は飽くまでも宿泊施設なので勿論料金が掛かってくる。子供達の人数とサーシャさん合わせて今現在丁度10人。宿泊費は一人辺り100コルで、食費も考えると毎月40000コル近く掛かってしまう計算だ。コルを稼ぐ手段が限られてくるサーシャさんには途方もない金額だ。この世界で布施を期待する訳にもいかないだろう。俺達が教会に立ち寄るのは子供達の様子を見るだけでなく、維持費を渡す為でもあるのだ。

 

 「そう言って頂けるととても助かります……」

 

 サーシャさんは少しだけ顔を綻ばせたが、気まずそうな表情はそのままだ。

 

 「お嬢がああいった性格ですので……」

 

 不意に語りだした俺にサーシャさんは顔を引き締めて聞く姿勢になった。それを確認すると、俺は続きを話し出す。

 

 「困った人の助けになりたいと常々思っている様で、尚且つ子供達の事も気に入っております。この様な安全が確保できる状況に置かれていないとお嬢も俺も安心して攻略に励めません。攻略が完了するのにどれ程の年月が掛かるかは判りませんが、その間しっかりと子供達を守って頂ければ、俺もお嬢も何も言うことは無いでしょう」

 

 ですので、どうかお気に為さらずに……。

 

 俺の発言をどう受け取ったかは定かではない。しかしサーシャさんの表情は何処か決意の籠った物に変わった。その後に何時もと変わらない笑顔に戻ってくれた。

 

 「子供達は私が守って見せますので、安心して下さい」

 

 「ありがとうございます」

 

 守るべき者を持つ女性の強さという物を見た気がした。サーシャさんに任せていれば、この教会はきっと大丈夫だろう。

 

 俺は攻略会議の時間が迫っている事をサーシャさんとお嬢に告げ、お嬢に支度をする様促す。教会の維持費を差し引いて余った分のコルで購入したお菓子や、クエストで手に入れたパンに付けるクリームを土産として渡し、教会を後にした。別れを惜しみながらも子供達は俺達の事を見送ってくれた。

 

 

 

 

 「いよいよですね……」

 

 お嬢はリズベットさんから頂いた槍の穂先を眺めながらそう言った。

 

 「本格的な第一層攻略は明日ですので、本日は会議が終わり次第準備をしましょう」

 

 傾きかけた陽光に照らされ美しく光を反射す槍の穂先は、宛らお嬢の鋭気を写し出している様だった。最早既に準備は出来ていると言っても過言ではない。改めて、俺もリズベットさんから頂いた曲刀を眺める。重厚感を漂わせるそれは、初期装備とは比べ物にならない程の良物なのだろう。第一層攻略前に何とも良い物を譲り受けたものだ。

 

 俺達ははじまりの街からフィールドに出ると、お互いに顔を見合わせて頷き合う。示し会わせたかの様に俺達はトールバーナに向かって駆け出した。

 

 

 

 

 




次回

第一層攻略か!?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。