月夜の輝き   作:粗茶Returnees

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 ( ;つд⊂)ゴシゴシ ( ゚д゚)ポカーン
 評価が入った……。…………ウオオオオアアアア\( 'ω')/アアアアアッッッッ!!!!!
 


5話

 

 刀が折られたことは、鎹鴉を通じて担当の鍛冶職人に伝えられている。誠は療養しないといけない身であるため、前線復帰にはその二つを満たす必要があった。体を治し、新たな刀を貰う。

 それを待つこと自体は苦ではなかった。元より何もない村出身。無限に感じるような時間の中で生きていたのだ。分かりにくくとも、その終わりが存在する状態は気が楽だった。ただ一つを除けば。

 

「泰富さん聞いてますかー?」

「聞いてるから背中を突くな。それ裁縫針だろ。危ねえよ」

「大丈夫です。尖ってる方では突いてないので」

「ならいいか」

 

 しのぶが聞いていたらツッコミも入ろうものだが、生憎としのぶは買い物に出かけている。縁側に座り、空を見上げる誠にちょっかいをかけるカナエを止める者は誰もいない。

 

「私も名前で呼んでくださいよー」

「呼んでるだろ」

「胡蝶じゃなくてカナエって呼んでほしいんですよね~」

「今まで何も言わなかったのにな」

「しのぶだけなんて不公平です!」

「そう言われても……」

 

 カナエが持っていた誠の羽織で視界を塞がれる。引き寄せられそうになるが、それは抵抗して堪えた。何をされるのか知らないが、抵抗した方がいいと誠の直感が告げる。

 しばらく無言の攻防が続き、カナエが諦めて羽織を回収する。解放されたことで、誠はしのぶを名前で呼ぶ理由をあげた。

 

「しのぶも胡蝶って呼んだらややこしいだろ。胡蝶呼びも慣れちゃったし」

「大丈夫です。変えてもしばらくすれば慣れます」

「無茶苦茶言うな」

「頑固ですね。少しだけでも検討してみてください」

「……わかったよ」

 

 急にしおらしくなられては、つられて誠も気が緩んでしまう。それがカナエの狙いだと分かっても遅い。振り向くとカナエは上機嫌になって誠の羽織を直し始めている。鼻歌も聞こえてきた。

 誠は何も考えないことにし、視線を空へと戻した。

 

 それから数週間。刀が届くよりも先に傷が治った誠は、落ちた体力を戻すための鍛錬を始める。カナエやしのぶがその間に任務に就くことがあったが、どちらも大きな怪我なく帰還を果たす。しのぶはその武器の特性と立ち回りによって。カナエはその実力の高さによって。

 全くの無傷というわけにもいかない。当然負傷もある。服で隠れる場所であろうと誠は負傷に気づいた。その事を指摘すると、しのぶは驚いてから大した傷でもないと言い、カナエは包み込むような微笑みとともに誠を落ち着かせた。

 

「お届けものでーす!」

 

 そうして過ごしている中、誠の刀が鍛冶職人諸共届けられた。職人は肩に担がれている。気を失っているようだ。

 

「乃木さん? どうしてここに?」

「よっ、誠。いやなぁ、お前の家に刀を届けに行ってるこの人が落とし穴に嵌ったのを見てな。救助してお前を探してたってわけ」

「落とし穴……」

 

 誠はバッと後ろを振り向き、カナエが顔を逸らす。カナエの肩をしのぶが掴み、逃げ場がなくなった。その一連の流れを見て利永はカナエが犯人だと理解するも、それと同時に首を傾げる。やがて何を納得したのか手をぽんと叩いて頷く。

 

「誠が悪いのか」

「何言ってるんですか!?」

「そうなんですよ!」

「おい胡蝶!」

「…………間違ってはないわね」

「しのぶまで!?」

 

 一瞬で形勢が逆転し、カナエが生き生きし始める。たしかに間違ってはいないのだが、これは説明をしなければ勘違いされる。誠は一連の流れを説明し、カナエとしのぶが何度か口を挟んで訂正する。

 

「結局誠が原因か」

「元をたどればそうですね」

「ふむ。……誠、お前がなぜすぐに傷を負うか理解しているか?」

「未熟だからでは?」

「そうだな。実力も、心も(・・)

 

 三人は押し黙った。誠の心に関してはカナエもしのぶも気にかけている。誠も最近になって自覚できてきた。それでもなお、どうすればいいのかは分からない。

 立ち話もなんだということで家に上がり、四人で囲炉裏を囲む。三人の視線は利永に集まっていた。利永は家の中を見渡してからすぐに話を続けた。

 

「人間ってのは理性のある生き物だ。他の生き物のように本能に従って生きてるわけじゃない。んで、誠は戦い自体に向いてない人間だ。岳谷さんからも言われてるだろ」

「そうですね。でも、俺はこの道以外ないですから」

違うな(・・・)。お前は自分を理解できていない」

「……どういうことですか?」

 

 誠は何を言われているのかを分からず、しのぶは利永の言わんとすることが分からなかった。カナエだけが薄っすらと気づくも、言語化できるほどの理解には及ばない。利永はそれ自体をどうとは思わない。ただ、利永は誠自身が気づけていない点を致命的だと睨んでいる。

 利永が刀に手をかけ、斜め前に座るカナエに振るう。それを利永の正面に座っていた誠が利永の腕を掴んで止め、困惑を混じえながら利永への怒りを顕にする。

 

「何を考えているんですか」

「よっと」

「っ!」

 

 刀を手放し、空いた手で誠の腕を掴んで瞬時に床へと叩きつける。利永は床に落ちる前に刀を回収した。

 何が起きたのか。三人とも目で追えなかった。叩きつけられた誠でさえ、何をされてそうなったのか分かっていない。

 

「ま、そういうことだ」

「何も分からないんですが」

「自分で分からないと駄目なことだからな? 少しは助言してやるけどよ」

 

 起き上がった誠はカナエの隣に座り、利永の話に集中する。

 

「俺は刀を振った時とお前を叩きつけた時。どっちも同じ速度でやった」

「え……いやだって、2回目は見えなかったですよ?」

「泰富さん。私は1回目も見えませんでしたよ?」

「ん?」

「私も見えなかったわ」

 

 カナエとしのぶは正直に答えた。二人が嘘をつく理由もなく、だからこそ誠は困惑した。

 

「誠。お前は呼吸にムラがあるんだよ」

「ムラですか?」

「そうだ。お前の中ではいつも全力だろう。だが、実際には大きく違う。測定できないから数値に出せるわけでもないが、俺の体感で話すと、1回目は間違いなくお前の本来の全力だ。それを10とするなら、2回目は6だった。呼吸をやめていたわけじゃないのにその差が出た。その原因を突き止めろ。どうすればそれを無くせるかも自分で導き出せ。そうしないとお前は生き残れない」

「……分かりました」

 

 言っていることは分かる。理解はできない。

 それ以上の助言はなく、利永は淹れてもらった茶を飲み、気絶している鍛冶職人を叩き起こす。周りが焦るほどに強く叩いているも、職人は何事もなかったかのようにのんびりと体を起こした。超がつくほどの鈍感さだ。ひっとこの面が絶妙に腹立たしい。

 

「んじゃ、俺はここらで行くわ」

「忙しいんですね」

「まぁな。次の任務が終わればまた立ち寄る。その時には誠、お前に合った鍛錬ができる場を紹介する。風の呼吸が合わなかったとは聞いたが、自分に合う呼吸も未完成だろ」

「なんで知ってるんですか」

「お前は才能が絶妙に微妙だからな。ある程度の推測と直感だ」

 

 手をひらひらと振って利永は出て行った。カナエは利永のことをお人好しだと評し、いずれ誠が出て行くことを寂しく思った。自分ではその役割を担えない。驕っていたつもりもないが、改めてそうだと認識すると思うところがある。

 利永を見送り終えた一向に、鍛冶職人である欽波(きんなみ)が自己紹介した。隊士たちの刀は鍛冶職人たちが作るわけだが、それぞれ担当が決まっていく。この欽波は誠の刀以外にも、何人かの隊士の刀を担当している。利永もその一人だ。

 

「いくら折れようがまた鍛えるけどよ、そう簡単に折らないでくれるとありがてぇな」

「すみません」

「まだ許す! 利永の野郎は今で20本目だしな!」

「20!?」

「あの人ってそんなに折るのね」

「いや、まぁあいつは例外でもあるんだけどな」

「例外?」

「あいつの期待に応えられる刀が出来上がったのが、20本目なんだよなぁ。それができてから1回も折ってなくて、逆に怖いくらいだ。刃こぼれすらしてない」

 

 遠い目でぼやく欽波の言葉に誠たちは驚愕した。19本は、利永の期待に応えられず、利永の戦いに耐えられずに折れたというのだから。利永の実力が折り紙つきだと分かる。その高い才能を持て余していた。その20本目が出来上がるまで。

 

「お陰様で俺の腕も上がったわけだがよ? 2本目を渡した時に目の前で試し斬りされてへし折れたのを見た時は、心も折れそうだったわけよ。普通鉄を斬ろうとしなくね?」

「そこで心が折れなかったのは職人の意地でしょうか?」

「そういうこと。辛かったのも数秒よ。こいつが全力で戦えるための刀を鍛えてやる。その一心で腕を振り続けたもんだ」

「あの人ってそんな凄い人なのか」

「もしかしてと思ってたけど、泰富さんはやっぱり知らないのね」

 

 呆れすら通り越し、分かっていたと言わんばかりにしのぶが半眼で誠を見つめる。それを受けて誠はカナエに視線を移すと、困ったように苦笑するカナエの姿が。カナエは代表して誠に教えた。

 

「乃木利永さんは、柱の一人ですよ。あの方の呼吸は雷ですから、鳴柱ということになりますね」

「……知らなかった……」

「利永が柱になったのは、入隊してから3年後。あの刀ができて2ヶ月後だったな。ってやべ! こういうの勝手に話すと後が怖いんだった!」

 

 満足に戦えない状態でも鬼を倒し続け、功績を着々と積み重ねていった利永は、前代未聞の「刀待ち」という理由で"柱"への任命が見送られ続けた。一度はお館様から告げられ、全力を出せないからと断ったエピソードは知る人ぞ知るものだ。柱の間ではネタとして知られている。

 新たな刀をもらい、試し斬りとはいかないが素振りをするために庭に出る。カナエとしのぶは食事のための準備に取り掛かり、欽波が見守る形となった。

 

「手に馴染みますね。重みも丁度いいですし」

「やっぱりな。調整しといた甲斐があったってもんよ」

「あぁ、やっぱり違うんですね」

「お前さんのための刀だからな。合うように細かな調整はするもんさ。人によっては刀の形状が特殊になるし、岩柱様のは完全な特注品だな」

「なるほど」

 

 1本目は様子見という話になっているわけだが、しのぶの刀はどう見ても1本目からして特殊だった。それは製作者によってやり方が異なるからで、欽波は大まかに合わせながら段々と微調整するというやり方だ。利永のおかげもあって、2本目から使用者に馴染むものにできるようになったわけだが。

 

「それはそうとお前さんよー。いい環境じゃねぇか」

 

 刀を納め、縁側に腰掛けた誠の肩に腕を回す。さっきまでの職人顔はどこへやら。欽波はただの野郎の顔に成り下がっている。

 

「あんな可愛い嬢ちゃん二人と同居とはなー。家にもどらねぇのもそれが理由か?」

「いや、別の理由ですね」

「別。ははぁん。手の早いこって」

「何がですか?」

「誤魔化さなくたっていいんだぜ? 分かってる分かってる。あの二人は間違いなく将来別嬪になるもんな。誰にも言わねぇよ。お前さんが二人とあんな事やこんな事してるなんて言わないでおいてやる」

「あんな事やこんな事とは?」

「譲ちゃんも誤魔化さなくたって…………え?」

 

 卑しい笑みを浮かべていた欽波の表情が凍る。誠はその流れが分からないといった様子で、静かに怒っているカナエをとりあえず落ち着かせようとした。

 

「欽波さんは何を失礼なことを言われているのでしょうか?」

「いやぁ……こう、ね? 男の性と言いますか……実際カナエちゃんも可愛らしいわけで……。年頃の男女ならあるのかなーとか」

「そういえばしのぶが開発中の毒の効果を確かめたいとか言っていたような」

「ヒィィ! 本当にスンマセンでした!」

「胡蝶」

 

 額を床に押し付けるほど頭を下げた欽波の姿を見て、哀れんだ誠がカナエを窘める。カナエはまだ少し不服だったようだが、欽波が頭を下げている様子と誠の静止も相まって溜飲を下げる。

 

「欽波さん別の刀も持ってますね。他にも届ける人が?」

「あ、あぁそうだったそうだった。今日中に持っていかないとな。それではお邪魔しましたー!」

「刀ありがとうございます!」

 

 脱兎のごとく去っていく背中に、声を張ってお礼の言葉を述べる。未だに少し機嫌を損ねているカナエは黙って見送り、誠に優しく小突かれる。カナエは育ちもいい。黙って送り出したこと自体には、悪いことをしたと反省しているようだ。

 

「男の方はああいう方が多いのでしょうか」

「さぁな。俺はズレてるから分からないし、……隊士の大半は鬼ばっか考えてるんじゃないか?」

「その理屈ですと、平和になったら増えるということになりますよね」

「……そうなるな。人それぞれって結論に落ち着くだけだがな」

 

 誠自身は何一つやましい気持ちもなければ、責められるようなことをしていないのだが、男性としての立場でこの話をしているとなんとなく後ろめたくなってくる。その気持ちから逃げるように視線を空へと移し、話を終わらせようと態度で示す。

 カナエが何も言わず、動いた気配すらないことが逆に怖い。どうすればいいんだと頭を悩ませる誠の背を、カナエが遠慮がちに何度か突いた。

 

「泰富さんは、そういう目で見ることあるんですか?」

「そういう目って何だよ……。そもそも欽波さんがはぐらかしてた内容も分かってないんだぞ俺は」

「ですから……。たとえばですけど……、私と淫らなことをしたい……とか──」

「ないな」

 

 食い気味で否定した。あまりもの早さにカナエは面食らった。何か、女性として足りていないとか、そんなことを言われているのかと思ってしまう。

 

「私って……女性として魅力がないですか? ……たしかにしのぶの方が手先が器用で、料理とか裁縫が得意ですけど、私も決して苦手というわけでは──」

「そういう話じゃなくてだな」

 

 背を向けていた誠がカナエに向き直り、両肩に手を置いて少し下がっていたカナエの上体を起こす。何を思っているのか読み取れない誠の瞳からカナエは視線を逸らすも、誠はその事には何も触れなかった。

 

「俺は胡蝶のことを綺麗だと思ってる。誰にでも手を差し伸べる優しい性格で、怖い存在にでも向き合える芯の強さがある。できないことなんてほとんどないし、容姿も優れてる。お前に女性としての魅力がないとかそんなのはあり得ない。そういう奴がいたらそいつの頭がおかしい。もしくは単に好みじゃないかだ」

「そうですか……?」

「断言できる。胡蝶はそれぐらい魅力的な人だ。それで話を戻すと、それとこれとは話が別ってだけ。俺は胡蝶と淫らなことをしたいとは思わない」 

「……複雑です」

 

 誠にそういう気持ちを抱いてほしいわけじゃない。むしろそれを迫られたらしのぶと二人で追い出す。そこは一切ブレないのだが、やはり引っかかってしまうものもある。

 それを忘れることにし、カナエはある事に気づいた。誠に面向かって「綺麗だ」と言われたのは初めてであることに。しかも続けざまに褒められ続けている。思わず頬が緩み、それを隠すために誠の肩に額を押し当てる。

 

「泰富さんにそれほど思われていたなんて驚きです」

「言い方が少しおかしいような?」 

「言葉の綾ですよ」

「そういうもんか」

「はい」

 

 誠はカナエを押しのけることはせず、カナエが心ゆくまでそうさせることにした。カナエはカナエでいつ離れようか迷っており、結果身を預けている状態が続いていた。その救世主として現れたのは、誠の鎹鴉であり、誠に次の任務を伝える。

 

「速ヤカニ遂行セヨ」

「飯は?」

「ソンナ時間ハ与エナイ」

「あらあら泰富さん。今日は鳥肉も具材にできそうですね」

「食ベテカラ行ケ」

「胡蝶お前……」

 

 鎹鴉の足を掴んで逆さ吊りにしたカナエを窘める。解放された鴉はすっかりカナエに怯え、誠の後ろに隠れている。カナエが先に家の奥へと戻っていったことで、鴉も屋根の上へと移動することができた。カナエがいる前ではまた捕まると思っていたらしい。

 誠に任務が届いたと聞いたしのぶが、誠のご飯の量を増やす。しのぶなりのエールの送り方のようで、誠は完食することでそれを受け取った。

 装いを整え、カナエとしのぶが玄関まで見送る。

 

「道に迷わないようにね」

「鴉いるし大丈夫だ」

「どうだか」

「酷い奴だな。胡蝶、さっきから張り詰めてるようだが、どうかしたか?」

 

 しのぶも気になっていたことを誠が聞く。カナエは少し逡巡してから口を開いた。不安そうな瞳で誠を見つめながら。

 

「今回の任務は嫌な予感がしていまして……。正直に言えば行ってほしくないです」

「姉さん……」

「無茶はするかもしれないが、帰ってくる。それは約束する」

「泰富さん、必ずですよ?」

「もちろんだ」

 

 何度も重傷を負う誠に対する不安はなかなか消えない。嫌な予感がしているから尚更だ。カナエをそのままにして出ていくのも忍びなく、誠は村にあった風習を思い出した。

 カナエの左手を引き、その手の甲に口づけをする。

 その瞬間しのぶから殺気が放たれたが、誠は口を離してカナエを真っ直ぐ見る。その行為が何なのか分からないカナエは、ただ困惑していた。

 

「村にあったよく分からん風習だったんだがな。絶対に約束を破らないと誓う時にこうするらしい。異性間でしか見たことないけど」

「……そうなのですか。分かりました。泰富さんがそうしてくださったのであれば、私も信じます。どうかご無事で」

「お互いにな」

 

 誠が任務に行っている間に、カナエに任務が送られてもおかしくない。しのぶだってそうだ。鬼殺隊に入っている以上、三人は死と隣り合わせになり続けている。

 カナエに補修してもらった羽織に身を包み、新たに届けてもらった刀を携える。今回も厄除の面を持っていく。 

 

 胡蝶家から出発し、鎹鴉の案内に従って西に移動。今回は遠い地での任務となるため、道中にある藤の家で一泊することとなる。藤の家の人間は、鬼殺隊の隊士に分け隔てなく接する。新人である誠にも柔らかな態度だ。

 部屋に案内され、少し休んでから廊下に出る。特に何かするわけでもないが、もう少し家の中を見てみようと思った。廊下を歩いていると別の隊士と鉢合わせになった。同性で年はそこまで変わらなさそうだが、顔に傷を負っており、その瞳は獰猛だ。手負いの獣、そんな印象を誠は受けた。

 

「あァ? テメェその面……」

 

 その少年は口調も荒かった。誠はそれを気にすることもなく、持っている面に反応されたこともあってそちらに意識が向いた。面を知っているなら、それが話題の種になる。

 そんな事を思った時期も誠にはあった。

 

「あの馬鹿女も付けてたか。アイツは隊士になってないだろォ? あァいう奴はいない方がいい」

「土の味を教えてやろうか」

 

 出会って5秒後のことだった。

 

 傷負いの少年こと不死川実弥(さねみ)と泰富誠の本気の喧嘩が勃発した。

 


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