評価感想もほいほい貰えると嬉しいですね。バーに色つけたい(ぼそっ)
実力がつき、功績を上げていけば当然位も上がっていく。要は出世だ。鬼殺隊に入る理由は人それぞれ。出世して金稼ぎ、なんて理由の隊士もいる。鬼さえ倒せればいいのだから、突っかかる人もいない。本音はさておき。
実力の高い隊士は行動範囲も広くなる。それに伴って単独での任務も比較的に増加する。与えられる任務次第なのだが、柱にもなれば共同での任務も珍しい。
それはさておき、複数人で任務に当たる際に、即席の小隊が出来上がるのは自然なことだ。そして指揮する立場に当たる隊長が決められるのも当然だ。それは必然的に階級が高いものになる。階級の高さは実力の高さに等しいのだから。
「この鬼で最後のようですね」
「間違いないかと」
「負傷者の手当を。応急手当が済めば藤の家に運んであげてください。その後は藤の家の方と隠の方に任せましょう」
「かしこまりました!」
カナエは今回の任務でその立場に立っていた。全員で6人の小隊。負傷者はいれど死者を一人も出さなかった。カナエは鬼との交戦ですぐに隊士一人一人の実力を把握し、誰も死なないように指示を飛ばした。単独行動を禁止し、必ず複数人で動くようにと。結果としてそれは功を奏した。お互いの死角を埋め合うように庇いあったのだから。
手当を受ける隊士たちを見ながら、今回の任務で感じた引っかかりについて考える。鬼が複数体いると情報が入り、その討伐のために派遣されたのがこの6人。本当に複数体いるのかという斥候も兼ね、可能なら討伐せよという任務だった。果たして鬼は複数体いたわけだが、それではこの鬼の情報の出処はどこなのか。
いつもはそこを気にしていない。鬼がいるのならそこに行く。そんな感覚だ。それなのに、今回はそこが気になった。何とも言えない違和感。それを気にするほど広がる胸騒ぎ。
「かはっ!」
「きさまっ!?」
ハッと意識を戻すと、手当していた隊士たちが倒れている。
5人の隊士を倒したその鬼は異形だった。一つの体に腕が4本。首が二つ付いている。男性と女性。カナエは刀に手を伸ばしながら鬼の出方を見る。
「いきなりは斬りかからないんだね。賢いのか変わってるのか」
「それとも両方かしら」
「あなたはいったい……」
この異形の鬼は何かが違う。これまで出会った鬼とは違う。カナエは直感的にそう思った。隊士たちも殺されてはいない。全員身動きが取れなくなってはいるが、命に関わる傷ではない。その点に安堵しつつ、鬼への警戒は一段と高めた。
「悪くない判断だね」
「俺は君に用がある」
「何を言っているんですか。……まさか、今回の件は」
「素晴らしい嗅覚だ。確証を持てなくても確信は抱けるなんてね。君が選ばれるかは賭けだったけど、それなら何回も繰り返せばよかっただけだし」
「他の奴らを囃したてるのは容易いのよね」
抱いた不信感が強くなる。今回の任務も例に漏れず鬼の討伐。その数の多さに小隊が編成されたわけだが、鬼たちもまるで分かっていたかのように待ち構えていた。
当初はそれを、鬼に気づかれていただけだと思っていた。血鬼術の類いで、鬼のうちの1体が気づけたのだと。だが真相は違った。目の前にいる異形の鬼が他の鬼に誘導し、鬼殺隊に情報を掴ませ、カナエを誘き出した。
「なぜ私を? 接点などないはず」
「直接は、ね」
「お互い動き回る身。呼び出すためには餌が必要だからさ」
「誰のことかは知りませんが、あなたの目論見通りにはさせません」
「勇ましいのね。いいわよ、戦いましょう」
「そうした方が呼べそうだ」
鬼が地を蹴る。その踏ん張りに地面が耐えられずに抉られる。次の瞬間には鬼がカナエの頭上にいた。振り下ろされる踵。カナエは後ろへ1歩下がり、鬼の足が振り下ろされた直後にカウンターとして刃を一閃して切り抜ける。
(硬い……!)
鬼へと向き直り、鬼の連撃をいなしていく。
鬼の腕は4本。それをいなすカナエの刀は1本。数的不利をカナエはものともしなかった。身体能力はほぼ互角。戦闘技術ではカナエの方が上。それでも鬼の腕が硬く、カナエは決め手に欠けていた。
技を繰り出そうにも、鬼は2本の腕を攻撃に回しつつ、残りの2本ではカナエを捕えようとしている。下手に仕掛けてしまっては相手の思う壺だ。首を守りながらカナエを捕らえる、ということをこの鬼はやってのける。カナエの危機感がそう告げている。
「おっと」
「怖いわね」
「……あなたは
僅かに生まれた隙を見逃さずに首を狙い、鬼はカナエから距離を取ることでそれを避けた。そうしてできた余地で、カナエは疑問をぶつけた。カナエは下弦の鬼と戦ったことがある。だから、この鬼がそれに遜色ない実力だと分かる。少なくとも、カナエが倒した下弦の鬼よりは強い。それなのにこの鬼の目には文字がない。
「教える道理はないね」
鬼の気配が変わる。逆鱗というわけでもなさそうだが、機嫌を損ねる話ではあるらしい。鬼の動きが鋭くなる。カナエを捕えるという狙いはなくし、4本の腕全てを攻撃に回す。
カナエはそれを舞うように躱していく。宙を舞う花びらのように。風に揺らされるように。それでいて刃を確実に通していく。鬼の腕が2本切り落とされ、鬼は再度カナエから距離を取った。
「驚きの強さだ」
「こちらの戦闘経験の無さが出たわね」
「あなたの狙いは不明ですが、ここで討たせてもらいます」
この鬼はここで倒さなければならない。謎の多いこの鬼を、決して逃してはならない。
誰よりも優しいカナエでさえ、この鬼だけはいつもの交渉をしようと思えなかった。カナエの闘気が増していく。次で決めるという気概が伝わる。それを受けてなお、カナエに押され始めている鬼は不敵に笑った。
「下っていてください」
後ろで二人立ち上がる気配を感じた。カナエは鬼から視線を外さずにその二人に指示を出す。実力を分かっているからこそ、負傷を増やさないためにも下がるように指示を出した。
二人の気配が離れるどころか近づく。意識が朦朧としている中、鬼を倒すという一念が体を動かす。カナエは二人が鬼に近づく前に、先に動いて鬼を倒そうと思った。
しかし、カナエは動くことができなかった。
「なにを!?」
二人がカナエを捕縛する。それぞれに両腕を抑えられた。二人の様子を確認すると、どちらもその目が虚ろになっていることが分かる。操られているのだ。今戦っているこの鬼に。
抑えられていても、今のカナエなら振りほどくことはできるだろう。多少乱暴になる。おそらくは、二人を気絶させるか、動けない状態まで負傷させないといけない。ほとんどの隊士ならそうする。だが、カナエはそれができない。カナエがカナエであるからこそ、その手は取れない。性格を突いた有効的な策だ。
「このっ! 卑劣な手を!」
「戦いに規定はないんだよ。戦争には何かあるようだけど、そんな事を決めてる時点で悍ましいね。遊び感覚なんだろうから」
「勝つために手段を選ばない。戦いは本来そういうものなのよ。私としては、保険をかけておいてよかった。そんなところね」
「ぐっ、ぅぅっ!」
鬼がカナエの首を握る。その強さからして、首の骨を砕くのは容易いだろう。しかし鬼はそうせず、カナエが呼吸に苦しむ状態で保った。
「殺したら餌にならないしな。どうしたものか」
「腕でも切り落してあげようかしら。右腕がよさそうね。利き手を無くしてあげましょう」
「っ!! あな、たは……!」
「ああ、安心していいよ。君のお仲間に斬ってもらうからね。綺麗に斬れたほうが、止血とかも楽そうだし。重要なのは、俺と君が接触していることだか──」
鬼が跳び離れ、鬼がいた位置に斬れ跡が残る。その跡より前に、カナエがよく知る羽織が映る。しのぶと共に織り、何度か縫い直した羽織だ。
「やっぱり出てきた。待っていたよ誠」
「お前の期待に応えたわけじゃないんだよ、昇。……いや、
「ご自由に。そっちの考えはなんであれ、結果の解釈はこちら次第さ」
「あっそ」
異形の鬼もとい嶺奇に背を向け、誠はカナエを抑えている二人を気絶させる。それで二人は動かなくなり、解放されたカナエは呆然と誠を見上げた。
「積もる話もあるが、それは後でな」
誠と嶺奇が対峙する。誠は嶺奇に対して明らかな戦意を示すが、嶺奇は全く戦意を示さなかった。脱力し、飄々としている。
「誠に話があってね。呼び出させてもらった」
「俺は話すことなんてない。いい加減人の友人の体を使うのはやめてもらいたいしな」
「それはそれよ。それに、誠に会話の気がなくても、あなたは参加することになるわ」
「参加?」
「そう。楽しくて愉しくて仕方ない祭りだよ。今回は予行演習も兼ねてるのさ」
「予行演習……まさか……!」
今回の任務をこなしたカナエが真っ先に気づく。祭りという名の大戦が仕掛けられようとしていることに。
「上弦は動いてくれないだろうけど。下弦は総参加させる。他にも十二鬼月になりたがって強さを求めてる鬼たちも参加だ」
「それに付き合う必要はないな」
「構わないよ。その代わり、大きな町が一つ消えるだけだから」
「……たちが悪いな」
「祭りの日はいずれ情報を流すわ。それなりに時間がかかるもの」
「お前をここで殺せばその祭りも消えるな」
誠が嶺奇に迫ろうとすると、その妨害として左右から槍が飛来する。誠は槍に当たる寸前で足を止め、槍を投げた者たちを見て舌打ちした。
槍を投げた者たちは、人間だった。ただし、その様子は正常ではない。カナエを抑えていた二人のように目が虚ろになっている。カナエはその人たちを見て口を抑えた。その人たちは、動けるほうがおかしいまでに体がやせ細っている。操られてから相当の日数が経っているのだ。
「時間の制限はなく、数にも困らなさそうだな」
「大正解。それじゃあまた会おう」
嶺奇が逃走し、それを追いかけようにも操られている人たちが妨害する。誠は追跡を諦め、その人たちを一人一人殺していった。3人殺したところでカナエが誠の腕を掴んで止める。
「離せ胡蝶」
「嫌です。なぜ殺してしまうのですか? この方たちはまだ生きているんですよ!?」
「お前も分かるだろう? 気絶させれば解けるようだが、この人たちはそれでも助からない。苦しみが続くだけだ。肉体が朽ちている人もいる。それでも死ねないんだ。殺してやるしか、楽にしてやれないんだ」
「それは……でも…………」
「俺を嫌ってくれていい」
「っ!!」
息を呑んだ。カナエは助けられないことが悔しく、それでも救いとなる"殺し"ができないことに涙を流した。誠は無言でカナエの手を放させ、残りの助けられない人たちに刀を振るっていった。
「あっちは問題なさそうだな。隠の人たちももうすぐで着くし、任せていいだろう」
「……」
「帰ろう、胡蝶」
カナエは黙って頷くが、足を動かそうとしない。誠は頭を掻いて悩み、諦めたようにため息をついでカナエを横抱きにする。背中と膝裏に足を回し、鎹鴉の土佐右衛門に案内を任せて胡蝶家へ。
移動している最中にカナエの気持ちも落ち着き、頭を軽く誠の胸に押し当てた。その意図を掴み取れず、誠は考えないことにして走り続ける。
「泰富さん。言いたいことも、聞きたいこともたくさんあります」
「だろうな。2年は経ったし」
「そうなんです。いろんなことが……。いろんな人と出会って、別れて……そんな繰り返しの日々でした」
「頑張ったな」
「はい」
カナエの言葉にどれだけの重みがあるのか。誠はそれを正しく測ることはできない。一度共に戦った者と、次また戦えるとは限らないのだから。死と隣り合わせの世界に属している以上、それは日常茶飯事だ。出会いの数だけ別れがあり、カナエはそれが他の人より圧倒的に多い。
カナエにとって、鬼との出会いですらカウント対象になるのだから。カナエは"鬼と仲良くする"という目標を下げていない。ずっと掲げたままだ。異端とも言えるその思想は、隊の中でも少し逆風が強い。極力考えを批判し合わない風潮があっても、カナエの思想は受け入れられにくい。
だからこそ誠はカナエにその一言を言う。カナエの思想を知り、風当たりが良くないのも知った上で、それでも変わらないカナエを識っているからこそ。
「泰富さんに褒められたのも久しぶりですね」
「そりゃあそうだろうな」
「ふふっ、嬉しいものですね」
その一言で心が安らぐ。張り詰めていた糸が緩むように、カナエは当たり前になっていた緊張が解けていくのを感じる。知らず知らずに固まっていた肩の力。それが解け、抜けていく。2年ぶりともなれば、誠の体も男らしさがよく出ている。引き締まったその体は硬いのだが、すべてを跳ね除けるような印象はない。
「泰富さんだけですよ」
ぼそっと呟いた。
それがいったい何を指しての話なのか。それはカナエ本人しか知る由もない。
それを小声で呟いたのは果たして、聞いてほしかったからなのか聞こえないでほしかったからなのか。
誠は後者だろうと判断し、聞こえなかったことにした。
「ただいましのぶ」
「お帰りなさい姉さん。今回の…………ぇ?」
「久しぶりしのぶ。2年ぶりだな」
「そう、ね……」
2年ぶりに再会した誠に、しのぶは黙って近づき腕を掴んで背負い投げした。誠は目を丸くしてしのぶを見上げ、カナエはそれを微笑んで見ていた。止める気は一切ないらしい。
「なんで投げられたか分かる?」
「帰ってくるのが遅かったから?」
「それもあるにはあるのだけど、何一つ連絡を寄越さなかったからよ」
「あ……考えてなかった」
「死ぬかもしれない。そう聞かされてるのよ! 無事なのかどうかも分からない! どこでやってたのかも知らないから確かめようもない! どれだけ心配したと思ってるの!? どれだけ姉さんが辛そうにしてたと思ってるのよ!!」
「え、私の話?」
カナエはしのぶも心配していたことを知っている。だからしのぶはそれで怒るだろうと思っていた。
ところがどっこい! 蓋を開けてみれば自分のことを挙げられているじゃないですか!
今さら止めることもできず、恥ずかしい感じに言われなかったらいいなと密かに願う。
「ごめん」
「そんな、謝りの一つで……!」
「何を言っても言い訳にしかならない。非は俺にあるんだ。俺は詫びる以外の選択肢がない」
「……ふざけないでよ……。本当に死んじゃってたら……私たちは、
「──っ!!」
「しのぶ……」
カナエがしのぶの側に寄って、優しく包み込むように抱きしめる。しのぶは堪えるように下唇を噛み、手を強く握りしめた。体を震わすしのぶの背を、カナエがトントンと丁寧に叩いていく。安定した鼓動の速さと同じペースであるため、しのぶはしばらくして気持ちを落ち着かせることができた。誠をまだ許せているわけでもない。
「そういや気になってたことがあるんだが」
「気になったままでいなさい」
「こらしのぶ」
「いいじゃない別に。どうせ大した話でもないと思うわ」
「当たってるけども」
まだ怒っているしのぶを宥めつつ、カナエは誠に話を促した。
「家大きくなってね?」
「あぁ、そうですね」
家の敷地に入ったときから思っていた。
「こんなに敷地広かったっけ?」「こんなに建物大きかったっけ?」と。
この広さは、家と言うよりも屋敷と言った方が適切だ。2年の間に引っ越したのだろうか。驚くことが多い。
「私が柱に任命された際に、こちらの屋敷をいただいたんです。蝶屋敷と呼ばれていますね」
「あ~。柱ともなればこれくらいにはなるのか。納得した。…………柱?」
「はい。柱です」
「胡蝶が柱になったのか!?」
「実はそうなんです。花柱になったんです」
ここぞとばかりに満面の笑みを浮かべる。ふんわりとした空気が広がり、本当に柱なのかと疑いたくもなる。だが、その実力の高さは知っている。この屋敷の大きさも柱だからと言われたら納得できるものだ。どうやら本当に柱になったらしい。
「そうなのか。おめでとう胡蝶」
「ありがとうございます」
「それで、胡蝶の羽織が変わったのも?」
「正解です。柱になったのだからと言って、しのぶが作ってくれたんですよ」
「凄いな。華やかな衣装だし、似合ってる」
「ふふっ、そんなに褒めても何も出ませんよ」
「しのぶもよく作れたな」
「これくらい女なら当たり前よ」
誠に褒められて喜んでいたカナエが、しのぶの一言で一気に落ち込む。手先の器用さはしのぶの方が上だと分かっているのだが、それを当たり前だと言われたら心に刺さる。なにせカナエは羽織を一人で作ることはできないのだから。
「私は女失格かしらね~」
「姉さんは私より凄いからそんなことないわよ! 今のは言葉の綾だから!」
遠い目をするカナエに、しのぶが必死で弁明する。カナエを傷つけるつもりは一切無かったのだから。誠はそんなやり取りを見て頬が緩んだ。久しぶりに見る光景を、懐かしいと思った。
そんな誠に、カナエがさらっと爆弾を放り投げる。誠にとって驚愕の爆弾を。
「泰富さんの家は無くなりましたよ」
「は!?」
「正確には、別の人が使うようになったのよ。だって消えてから一回も連絡がなかったんだもの。それなら別の人に使わせたらいいって話になったみたいね」
「ちなみにどんな人?」
別に誰に使われるようになろうと、元々そんなに帰っていなかった家だ。自分の家が無くなったことに思うことがあろうと、その住人を追い出そうとは思わない。ただ興味本位で聞いているだけだ。
「私もその人に会ったことはないから……。話に聞くと、無口な人らしいわよ」
「該当者多そうだな……。まぁいいや、家探すか」
「そんな泰富さんのために──」
「家探してくる!」
「逃しませんよ!」
走り出そうとした誠をカナエが先読みして取り押さえる。離せとジタバタ暴れる誠に、しのぶが刀を抜いて静かにさせた。毒は何よりも怖い。
「屋敷は広いですからね。泰富さんのお部屋も用意できるんですよ」
「そう言うと思ってたから、家を探しに行こうと思ったんだけど?」
「いいじゃないですか。前のようにここにいても」
「……期間限定だからな?」
「それでいいですよ」
交渉が素早く終わり、話も終了しそうな流れになる。2年間のことは追々聞き出そうと考えているが、それとは別にしのぶは一つ釘を差すことにした。
「私はともかくとして、姉さんにはちゃんと詫びを入れなさい」
「しのぶにも何かしら詫びるつもりなんだが……」
「いいから。私は投げたから十分よ」
「私は別に何もなくていいのだけど……」
「駄目よ姉さん。この男は癖づくから、ちゃんと詫させないと反省の色が見えなくなるわ」
散々の言われようだったが、誠はそれを甘んじて受け止めた。しのぶの言っていることも、分からなくはない。立場が逆だったら、似た気持ちを抱いていそうだと誠は思っている。
そうとはいえ、カナエ本人が特にどうこうしようと考えていないのだ。だから、誠とカナエはしのぶの言うことを聞くという形になる。
「明日姉さんと町へ出かけること。姉さんを楽しませること。それができなかったら毒入れるから」
「脅しが怖いんだが……脅しじゃなさそうだな」
「それは迷惑じゃないかしら?」
「姉さんは我儘を言えばいいのよ」
「分かった。引き受けよう」
しのぶの意図を把握し、誠はそれを受け入れた。カナエが最後まで渋るも、誠がそれでいいと言うのならと提案を受け入れた。なんだかんだ渋っていたが、受け入れてしまうと頬が緩んでしまう。胸の内で期待が膨らんでいくことを認め、カナエは笑顔で誠に声をかけた。
「明日、楽しみにしてますね」
「あぁ。楽しませてみせるさ」