月夜の輝き   作:粗茶Returnees

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 評価感想もほいほい貰えると嬉しいですね。バーに色つけたい(ぼそっ)


8話

 

 実力がつき、功績を上げていけば当然位も上がっていく。要は出世だ。鬼殺隊に入る理由は人それぞれ。出世して金稼ぎ、なんて理由の隊士もいる。鬼さえ倒せればいいのだから、突っかかる人もいない。本音はさておき。

 実力の高い隊士は行動範囲も広くなる。それに伴って単独での任務も比較的に増加する。与えられる任務次第なのだが、柱にもなれば共同での任務も珍しい。

 それはさておき、複数人で任務に当たる際に、即席の小隊が出来上がるのは自然なことだ。そして指揮する立場に当たる隊長が決められるのも当然だ。それは必然的に階級が高いものになる。階級の高さは実力の高さに等しいのだから。

 

「この鬼で最後のようですね」

「間違いないかと」

「負傷者の手当を。応急手当が済めば藤の家に運んであげてください。その後は藤の家の方と隠の方に任せましょう」

「かしこまりました!」

 

 カナエは今回の任務でその立場に立っていた。全員で6人の小隊。負傷者はいれど死者を一人も出さなかった。カナエは鬼との交戦ですぐに隊士一人一人の実力を把握し、誰も死なないように指示を飛ばした。単独行動を禁止し、必ず複数人で動くようにと。結果としてそれは功を奏した。お互いの死角を埋め合うように庇いあったのだから。

 手当を受ける隊士たちを見ながら、今回の任務で感じた引っかかりについて考える。鬼が複数体いると情報が入り、その討伐のために派遣されたのがこの6人。本当に複数体いるのかという斥候も兼ね、可能なら討伐せよという任務だった。果たして鬼は複数体いたわけだが、それではこの鬼の情報の出処はどこなのか。

 いつもはそこを気にしていない。鬼がいるのならそこに行く。そんな感覚だ。それなのに、今回はそこが気になった。何とも言えない違和感。それを気にするほど広がる胸騒ぎ。

 

「かはっ!」

「きさまっ!?」

 

 ハッと意識を戻すと、手当していた隊士たちが倒れている。

 5人の隊士を倒したその鬼は異形だった。一つの体に腕が4本。首が二つ付いている。男性と女性。カナエは刀に手を伸ばしながら鬼の出方を見る。

 

「いきなりは斬りかからないんだね。賢いのか変わってるのか」

「それとも両方かしら」

「あなたはいったい……」

 

 この異形の鬼は何かが違う。これまで出会った鬼とは違う。カナエは直感的にそう思った。隊士たちも殺されてはいない。全員身動きが取れなくなってはいるが、命に関わる傷ではない。その点に安堵しつつ、鬼への警戒は一段と高めた。

 

「悪くない判断だね」

「俺は君に用がある」

「何を言っているんですか。……まさか、今回の件は」

「素晴らしい嗅覚だ。確証を持てなくても確信は抱けるなんてね。君が選ばれるかは賭けだったけど、それなら何回も繰り返せばよかっただけだし」

「他の奴らを囃したてるのは容易いのよね」

 

 抱いた不信感が強くなる。今回の任務も例に漏れず鬼の討伐。その数の多さに小隊が編成されたわけだが、鬼たちもまるで分かっていたかのように待ち構えていた。

 当初はそれを、鬼に気づかれていただけだと思っていた。血鬼術の類いで、鬼のうちの1体が気づけたのだと。だが真相は違った。目の前にいる異形の鬼が他の鬼に誘導し、鬼殺隊に情報を掴ませ、カナエを誘き出した。

 

「なぜ私を? 接点などないはず」

「直接は、ね」

「お互い動き回る身。呼び出すためには餌が必要だからさ」

「誰のことかは知りませんが、あなたの目論見通りにはさせません」

「勇ましいのね。いいわよ、戦いましょう」

「そうした方が呼べそうだ」

 

 鬼が地を蹴る。その踏ん張りに地面が耐えられずに抉られる。次の瞬間には鬼がカナエの頭上にいた。振り下ろされる踵。カナエは後ろへ1歩下がり、鬼の足が振り下ろされた直後にカウンターとして刃を一閃して切り抜ける。

 

(硬い……!)

 

 鬼へと向き直り、鬼の連撃をいなしていく。

 鬼の腕は4本。それをいなすカナエの刀は1本。数的不利をカナエはものともしなかった。身体能力はほぼ互角。戦闘技術ではカナエの方が上。それでも鬼の腕が硬く、カナエは決め手に欠けていた。

 技を繰り出そうにも、鬼は2本の腕を攻撃に回しつつ、残りの2本ではカナエを捕えようとしている。下手に仕掛けてしまっては相手の思う壺だ。首を守りながらカナエを捕らえる、ということをこの鬼はやってのける。カナエの危機感がそう告げている。

 

「おっと」

「怖いわね」

「……あなたはなぜ十二鬼月じゃないの(・・・・・・・・・・・)?」

 

 僅かに生まれた隙を見逃さずに首を狙い、鬼はカナエから距離を取ることでそれを避けた。そうしてできた余地で、カナエは疑問をぶつけた。カナエは下弦の鬼と戦ったことがある。だから、この鬼がそれに遜色ない実力だと分かる。少なくとも、カナエが倒した下弦の鬼よりは強い。それなのにこの鬼の目には文字がない。

 

「教える道理はないね」

 

 鬼の気配が変わる。逆鱗というわけでもなさそうだが、機嫌を損ねる話ではあるらしい。鬼の動きが鋭くなる。カナエを捕えるという狙いはなくし、4本の腕全てを攻撃に回す。

 カナエはそれを舞うように躱していく。宙を舞う花びらのように。風に揺らされるように。それでいて刃を確実に通していく。鬼の腕が2本切り落とされ、鬼は再度カナエから距離を取った。

 

「驚きの強さだ」

「こちらの戦闘経験の無さが出たわね」

「あなたの狙いは不明ですが、ここで討たせてもらいます」

 

 この鬼はここで倒さなければならない。謎の多いこの鬼を、決して逃してはならない。

 誰よりも優しいカナエでさえ、この鬼だけはいつもの交渉をしようと思えなかった。カナエの闘気が増していく。次で決めるという気概が伝わる。それを受けてなお、カナエに押され始めている鬼は不敵に笑った。

 

「下っていてください」

 

 後ろで二人立ち上がる気配を感じた。カナエは鬼から視線を外さずにその二人に指示を出す。実力を分かっているからこそ、負傷を増やさないためにも下がるように指示を出した。

 二人の気配が離れるどころか近づく。意識が朦朧としている中、鬼を倒すという一念が体を動かす。カナエは二人が鬼に近づく前に、先に動いて鬼を倒そうと思った。

 しかし、カナエは動くことができなかった。

 

「なにを!?」

 

 二人がカナエを捕縛する。それぞれに両腕を抑えられた。二人の様子を確認すると、どちらもその目が虚ろになっていることが分かる。操られているのだ。今戦っているこの鬼に。

 抑えられていても、今のカナエなら振りほどくことはできるだろう。多少乱暴になる。おそらくは、二人を気絶させるか、動けない状態まで負傷させないといけない。ほとんどの隊士ならそうする。だが、カナエはそれができない。カナエがカナエであるからこそ、その手は取れない。性格を突いた有効的な策だ。

 

「このっ! 卑劣な手を!」

「戦いに規定はないんだよ。戦争には何かあるようだけど、そんな事を決めてる時点で悍ましいね。遊び感覚なんだろうから」

「勝つために手段を選ばない。戦いは本来そういうものなのよ。私としては、保険をかけておいてよかった。そんなところね」

「ぐっ、ぅぅっ!」

 

 鬼がカナエの首を握る。その強さからして、首の骨を砕くのは容易いだろう。しかし鬼はそうせず、カナエが呼吸に苦しむ状態で保った。

 

「殺したら餌にならないしな。どうしたものか」

「腕でも切り落してあげようかしら。右腕がよさそうね。利き手を無くしてあげましょう」

「っ!! あな、たは……!」

「ああ、安心していいよ。君のお仲間に斬ってもらうからね。綺麗に斬れたほうが、止血とかも楽そうだし。重要なのは、俺と君が接触していることだか──」

 

 鬼が跳び離れ、鬼がいた位置に斬れ跡が残る。その跡より前に、カナエがよく知る羽織が映る。しのぶと共に織り、何度か縫い直した羽織だ。

 

「やっぱり出てきた。待っていたよ誠」

「お前の期待に応えたわけじゃないんだよ、昇。……いや、嶺奇(れいき)と呼べばいいのか?」

「ご自由に。そっちの考えはなんであれ、結果の解釈はこちら次第さ」

「あっそ」

 

 異形の鬼もとい嶺奇に背を向け、誠はカナエを抑えている二人を気絶させる。それで二人は動かなくなり、解放されたカナエは呆然と誠を見上げた。

 

「積もる話もあるが、それは後でな」

 

 誠と嶺奇が対峙する。誠は嶺奇に対して明らかな戦意を示すが、嶺奇は全く戦意を示さなかった。脱力し、飄々としている。

 

「誠に話があってね。呼び出させてもらった」

「俺は話すことなんてない。いい加減人の友人の体を使うのはやめてもらいたいしな」

「それはそれよ。それに、誠に会話の気がなくても、あなたは参加することになるわ」

「参加?」

「そう。楽しくて愉しくて仕方ない祭りだよ。今回は予行演習も兼ねてるのさ」

「予行演習……まさか……!」

 

 今回の任務をこなしたカナエが真っ先に気づく。祭りという名の大戦が仕掛けられようとしていることに。

 

「上弦は動いてくれないだろうけど。下弦は総参加させる。他にも十二鬼月になりたがって強さを求めてる鬼たちも参加だ」

「それに付き合う必要はないな」

「構わないよ。その代わり、大きな町が一つ消えるだけだから」

「……たちが悪いな」

「祭りの日はいずれ情報を流すわ。それなりに時間がかかるもの」

「お前をここで殺せばその祭りも消えるな」

 

 誠が嶺奇に迫ろうとすると、その妨害として左右から槍が飛来する。誠は槍に当たる寸前で足を止め、槍を投げた者たちを見て舌打ちした。

 槍を投げた者たちは、人間だった。ただし、その様子は正常ではない。カナエを抑えていた二人のように目が虚ろになっている。カナエはその人たちを見て口を抑えた。その人たちは、動けるほうがおかしいまでに体がやせ細っている。操られてから相当の日数が経っているのだ。

 

「時間の制限はなく、数にも困らなさそうだな」

「大正解。それじゃあまた会おう」

 

 嶺奇が逃走し、それを追いかけようにも操られている人たちが妨害する。誠は追跡を諦め、その人たちを一人一人殺していった。3人殺したところでカナエが誠の腕を掴んで止める。

 

「離せ胡蝶」

「嫌です。なぜ殺してしまうのですか? この方たちはまだ生きているんですよ!?」

「お前も分かるだろう? 気絶させれば解けるようだが、この人たちはそれでも助からない。苦しみが続くだけだ。肉体が朽ちている人もいる。それでも死ねないんだ。殺してやるしか、楽にしてやれないんだ」

「それは……でも…………」

「俺を嫌ってくれていい」

「っ!!」

 

 息を呑んだ。カナエは助けられないことが悔しく、それでも救いとなる"殺し"ができないことに涙を流した。誠は無言でカナエの手を放させ、残りの助けられない人たちに刀を振るっていった。

 

「あっちは問題なさそうだな。隠の人たちももうすぐで着くし、任せていいだろう」

「……」

「帰ろう、胡蝶」

 

 カナエは黙って頷くが、足を動かそうとしない。誠は頭を掻いて悩み、諦めたようにため息をついでカナエを横抱きにする。背中と膝裏に足を回し、鎹鴉の土佐右衛門に案内を任せて胡蝶家へ。

 移動している最中にカナエの気持ちも落ち着き、頭を軽く誠の胸に押し当てた。その意図を掴み取れず、誠は考えないことにして走り続ける。

 

「泰富さん。言いたいことも、聞きたいこともたくさんあります」

「だろうな。2年は経ったし」

「そうなんです。いろんなことが……。いろんな人と出会って、別れて……そんな繰り返しの日々でした」

「頑張ったな」

「はい」

 

 カナエの言葉にどれだけの重みがあるのか。誠はそれを正しく測ることはできない。一度共に戦った者と、次また戦えるとは限らないのだから。死と隣り合わせの世界に属している以上、それは日常茶飯事だ。出会いの数だけ別れがあり、カナエはそれが他の人より圧倒的に多い。

 カナエにとって、鬼との出会いですらカウント対象になるのだから。カナエは"鬼と仲良くする"という目標を下げていない。ずっと掲げたままだ。異端とも言えるその思想は、隊の中でも少し逆風が強い。極力考えを批判し合わない風潮があっても、カナエの思想は受け入れられにくい。

 だからこそ誠はカナエにその一言を言う。カナエの思想を知り、風当たりが良くないのも知った上で、それでも変わらないカナエを識っているからこそ。

 

「泰富さんに褒められたのも久しぶりですね」

「そりゃあそうだろうな」

「ふふっ、嬉しいものですね」

 

 その一言で心が安らぐ。張り詰めていた糸が緩むように、カナエは当たり前になっていた緊張が解けていくのを感じる。知らず知らずに固まっていた肩の力。それが解け、抜けていく。2年ぶりともなれば、誠の体も男らしさがよく出ている。引き締まったその体は硬いのだが、すべてを跳ね除けるような印象はない。

 

「泰富さんだけですよ」

 

 ぼそっと呟いた。

 それがいったい何を指しての話なのか。それはカナエ本人しか知る由もない。

 それを小声で呟いたのは果たして、聞いてほしかったからなのか聞こえないでほしかったからなのか。

 誠は後者だろうと判断し、聞こえなかったことにした。

 

「ただいましのぶ」

「お帰りなさい姉さん。今回の…………ぇ?」

「久しぶりしのぶ。2年ぶりだな」

「そう、ね……」

 

 2年ぶりに再会した誠に、しのぶは黙って近づき腕を掴んで背負い投げした。誠は目を丸くしてしのぶを見上げ、カナエはそれを微笑んで見ていた。止める気は一切ないらしい。

 

「なんで投げられたか分かる?」

「帰ってくるのが遅かったから?」

「それもあるにはあるのだけど、何一つ連絡を寄越さなかったからよ」

「あ……考えてなかった」

「死ぬかもしれない。そう聞かされてるのよ! 無事なのかどうかも分からない! どこでやってたのかも知らないから確かめようもない! どれだけ心配したと思ってるの!? どれだけ姉さんが辛そうにしてたと思ってるのよ!!」

「え、私の話?」

 

 カナエはしのぶも心配していたことを知っている。だからしのぶはそれで怒るだろうと思っていた。

 ところがどっこい! 蓋を開けてみれば自分のことを挙げられているじゃないですか!

 今さら止めることもできず、恥ずかしい感じに言われなかったらいいなと密かに願う。

 

「ごめん」

「そんな、謝りの一つで……!」

「何を言っても言い訳にしかならない。非は俺にあるんだ。俺は詫びる以外の選択肢がない」

「……ふざけないでよ……。本当に死んじゃってたら……私たちは、また(・・)……!」

「──っ!!」

「しのぶ……」

 

 カナエがしのぶの側に寄って、優しく包み込むように抱きしめる。しのぶは堪えるように下唇を噛み、手を強く握りしめた。体を震わすしのぶの背を、カナエがトントンと丁寧に叩いていく。安定した鼓動の速さと同じペースであるため、しのぶはしばらくして気持ちを落ち着かせることができた。誠をまだ許せているわけでもない。

 

「そういや気になってたことがあるんだが」

「気になったままでいなさい」

「こらしのぶ」

「いいじゃない別に。どうせ大した話でもないと思うわ」

「当たってるけども」

 

 まだ怒っているしのぶを宥めつつ、カナエは誠に話を促した。

 

「家大きくなってね?」

「あぁ、そうですね」

 

 家の敷地に入ったときから思っていた。

 「こんなに敷地広かったっけ?」「こんなに建物大きかったっけ?」と。  

 この広さは、家と言うよりも屋敷と言った方が適切だ。2年の間に引っ越したのだろうか。驚くことが多い。

 

「私が柱に任命された際に、こちらの屋敷をいただいたんです。蝶屋敷と呼ばれていますね」

「あ~。柱ともなればこれくらいにはなるのか。納得した。…………柱?」

「はい。柱です」

「胡蝶が柱になったのか!?」

「実はそうなんです。花柱になったんです」

 

 ここぞとばかりに満面の笑みを浮かべる。ふんわりとした空気が広がり、本当に柱なのかと疑いたくもなる。だが、その実力の高さは知っている。この屋敷の大きさも柱だからと言われたら納得できるものだ。どうやら本当に柱になったらしい。

 

「そうなのか。おめでとう胡蝶」

「ありがとうございます」

「それで、胡蝶の羽織が変わったのも?」

「正解です。柱になったのだからと言って、しのぶが作ってくれたんですよ」

「凄いな。華やかな衣装だし、似合ってる」

「ふふっ、そんなに褒めても何も出ませんよ」

「しのぶもよく作れたな」

「これくらい女なら当たり前よ」

 

 誠に褒められて喜んでいたカナエが、しのぶの一言で一気に落ち込む。手先の器用さはしのぶの方が上だと分かっているのだが、それを当たり前だと言われたら心に刺さる。なにせカナエは羽織を一人で作ることはできないのだから。

 

「私は女失格かしらね~」

「姉さんは私より凄いからそんなことないわよ! 今のは言葉の綾だから!」

 

 遠い目をするカナエに、しのぶが必死で弁明する。カナエを傷つけるつもりは一切無かったのだから。誠はそんなやり取りを見て頬が緩んだ。久しぶりに見る光景を、懐かしいと思った。

 そんな誠に、カナエがさらっと爆弾を放り投げる。誠にとって驚愕の爆弾を。

 

「泰富さんの家は無くなりましたよ」

「は!?」

「正確には、別の人が使うようになったのよ。だって消えてから一回も連絡がなかったんだもの。それなら別の人に使わせたらいいって話になったみたいね」

「ちなみにどんな人?」

 

 別に誰に使われるようになろうと、元々そんなに帰っていなかった家だ。自分の家が無くなったことに思うことがあろうと、その住人を追い出そうとは思わない。ただ興味本位で聞いているだけだ。

 

「私もその人に会ったことはないから……。話に聞くと、無口な人らしいわよ」

「該当者多そうだな……。まぁいいや、家探すか」

「そんな泰富さんのために──」

「家探してくる!」

「逃しませんよ!」

 

 走り出そうとした誠をカナエが先読みして取り押さえる。離せとジタバタ暴れる誠に、しのぶが刀を抜いて静かにさせた。毒は何よりも怖い。

 

「屋敷は広いですからね。泰富さんのお部屋も用意できるんですよ」

「そう言うと思ってたから、家を探しに行こうと思ったんだけど?」

「いいじゃないですか。前のようにここにいても」

「……期間限定だからな?」

「それでいいですよ」

 

 交渉が素早く終わり、話も終了しそうな流れになる。2年間のことは追々聞き出そうと考えているが、それとは別にしのぶは一つ釘を差すことにした。

 

「私はともかくとして、姉さんにはちゃんと詫びを入れなさい」

「しのぶにも何かしら詫びるつもりなんだが……」

「いいから。私は投げたから十分よ」

「私は別に何もなくていいのだけど……」

「駄目よ姉さん。この男は癖づくから、ちゃんと詫させないと反省の色が見えなくなるわ」

 

 散々の言われようだったが、誠はそれを甘んじて受け止めた。しのぶの言っていることも、分からなくはない。立場が逆だったら、似た気持ちを抱いていそうだと誠は思っている。

 そうとはいえ、カナエ本人が特にどうこうしようと考えていないのだ。だから、誠とカナエはしのぶの言うことを聞くという形になる。

 

「明日姉さんと町へ出かけること。姉さんを楽しませること。それができなかったら毒入れるから」

「脅しが怖いんだが……脅しじゃなさそうだな」

「それは迷惑じゃないかしら?」

「姉さんは我儘を言えばいいのよ」

「分かった。引き受けよう」

 

 しのぶの意図を把握し、誠はそれを受け入れた。カナエが最後まで渋るも、誠がそれでいいと言うのならと提案を受け入れた。なんだかんだ渋っていたが、受け入れてしまうと頬が緩んでしまう。胸の内で期待が膨らんでいくことを認め、カナエは笑顔で誠に声をかけた。

 

「明日、楽しみにしてますね」

「あぁ。楽しませてみせるさ」

 

 

 

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