月夜の輝き   作:粗茶Returnees

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 あらすじを短いやつに変更しました。さっくり散髪したような気分です!


10話

 

 鬼殺隊には当主が存在する。その当主と実際に対面したことがある者、ない者はそれぞれだ。柱になった者であれば、半年に1回行われる柱合会議にて対面する。例外的に会う者もいるが、それは召喚された時だけだ。当主本人から呼ばれるなど大変珍しく、ある意味光栄なこととも言える。

 それ故に、今回呼び出された誠は困惑した。呼ばれる理由に心当たりが一切ない。困惑したまま当主と対面し、その姿を認めるや平伏した。

 

「呼び出してしまってすまないね」

「いえ。事情は分かりかねますが、お館様のご意向とあらば」

「……ふむ、会ってみてやっと分かったよ。利永の言うとおりだね」

「何がですか?」

 

 現代当主である産屋敷耀哉。彼の納得に誠は首を傾げる。利永がいったい何を話したのか。それを受け、実際に誠と会って何を納得したのか。不明な点があり、これだと断定できるものがない。

 

「君は自覚できていたのか、それとも利永に言われて気づけたのか。おそらくは後者だろうけど、何か変化はあるかい?」

「……その事でございましたか。お館様のご明察通りですが、ご心配には及びません。変わったこともございませんので」

「そうかい? 君がそれも自覚できていない可能性は?」

「その可能性はございますが、私に変化があれば気付ける人物がいます。その者が何も言っていないので、現状では問題ないかと」

 

 輝哉はその言葉を信じた。嘘偽りなく、誠が正直に答えていることが一点。利永からの情報も一点。そして、真菰が何も言っていないことが一点。その三点によって、輝哉は誠を信じることができた。

 

「おそらく君はこれからも変化がないよ。安心して生きてほしい」

「そうありたいと思っています」

「気休めでもないのだがね。そんな予感がしているんだ。私の勘は当たることで柱たちには有名なんだよ」

「失礼しました。お館様を疑ってしまったわけではなく、自信が持てなかった次第です」

「分かっているよ。それを背負い続けるかは君次第だけど、誠一人の問題でもなくなる。周りの人間を大切にね」

「はっ!」

 

 話される言葉一つ一つが、誠の中にスッと入り込む。話し方ではない。それもあるにはあるが、輝哉の声は聞いていて心地良いのだ。声の質は天性のもの。輝哉はその人格もあいまり、柱たちから慕われている。

 

「誠には聞きたいことがもう一つある。嶺奇という鬼についてだ。下弦の鬼を利用して、大規模な攻勢に出ようとしているそうだね?」

「はい。あの鬼はたしかにそう宣言しました」

「カナエが言うには、十二鬼月じゃないことがおかしい実力を持っている、とのことだった。私はそれを聞いて仮説を立てたよ。その鬼は、鬼舞辻無惨に認知(・・)され(・・)()()()()んじゃないかってね」

「……」

 

 十分に考えられることだった。鬼は全て監視されているという。鬼舞辻無惨の名前を口にすることは禁じられ、その目は全て本人にも見えるという。無数の目を持っている、という表現も誇張にならない。何よりも、鬼たちは本来共闘ができない。縄張り意識が強いように設定され、場合によっては共食いが発生する。

 それなのに嶺奇は他の鬼と共闘できる。さらには、他の鬼たちを共闘させられる。誠がしのぶと任務に就いた時も、カナエが隊を率いた時もそうだった。

 

「鬼の共闘なんて前代未聞。無惨も無視できないことだろう。だけど、嶺奇は予行演習を成功させた。無惨にも殺されていない。血鬼術が関係していると考えるのが妥当だろうね。それにカナエの報告で、隊士を操っていたと聞いている」

「……鬼もそうなるとお考えでしょうか?」

「そうだね。上弦が来ないであろう理由も、嶺奇が上弦より弱いから。上下関係のようなものが力関係でできている鬼たちだ。そう考える方が自然だ。そこから考えられるカラクリとしては、嶺奇が他者の脳を操れるというものになる」

 

 輝哉の考えはおそらく正しい。誠もそれを疑うつもりはない。だが、カナエからの報告だけで、そこまで分析できるものなのだろうか。カナエの報告以外でも嶺奇の情報を得ていたのではないか。誠はそう思い、誠の考えに気づいた輝哉がそれを肯定する。

 

「実は利永が追っている鬼でね。任務をこなす傍らで、その鬼の捜索をさせてほしいと言われたことがあったんだよ。拒否する理由もないし、放っておいてはいけないと利永が判断したんだ。そちらに専念してもいいとも言ったよ。そこは拒まれたけどね」

 

 カナエも同じことを思っていた。嶺奇は放っておくべきではないと。この鬼だけは、自分の信念を優先しなくていいと。

 結局討つことはできなかった。利永から逃げ続けていることもあり、逃げに徹した嶺奇は追えなかった。その結果が、刻々と迫っている大きな戦いに繋がってしまったことに、カナエは深く謝罪していた。

 『下弦とはいえ、雑魚鬼諸共一掃できる』という考えが柱内で一致し、カナエが責められることはなかった。利永が追い続けている鬼というのも理由になる。

 

「鬼の出現情報も少しずつだが減ってきていてね。向こうが着々と準備しているということだろう。こちらはどうしても後手に回るしかないけど、返り討ちにできると信じているよ」

「ご期待に応えてみせます」

「うん。さて、聞きたいことはこれで終わったわけだけど、最近カナエとはどうなんだい?」

「はい?」

「夫婦関係になったって昨日利永から聞いているんだけど──」

「あの人の嘘を信じないでください!!」

 

 誠は全力で誤解を解くことに専念した。それに1時間ほど費やすことになり、慣れない疲労にげっそりしたものだ。輝哉は楽しそうにしていたが。

 むしろ「なればいいんじゃないか?」と言い、士気の向上に繋がるのであればいっそ隊で推奨しようかと検討したほどだ。隊の緊張感が無くなりかねないからやめてくれと必死に懇願し、事なきを得た。

 

「変に疲れた」

 

 蝶屋敷へと帰宅し、自分の部屋に行って少し休む。硬い言葉使いには全く慣れていない。召喚されるとなり、カナエに急いで叩き込んでもらったほどだ。付け焼き刃であるために時間が経過していくと、言葉遣いに綻びが出ていた。

 カナエと夫婦になれば? と言われたことを思い出し、それをすぐに思考から消し去る。それよりも今は嶺奇のことを考える必要がある。

 下弦の鬼を全員参加させるということは、嶺奇の実力は下弦を超え、上限には及ばないという丁度中間に当たることになる。もしくは、そうなるために時間をかけているのか。どちらにしろ、事が起きればその実力になっているという証。誠に固執しているようにも見える行動から、戦うことになるのだろう。

 

「どこまでやれるのやら」

 

 気持ちとしては、負ける気など一切ない。しかし、互いの実力を度外視する愚考には至らない。利永の評価によると、誠は下弦の鬼になら張り合える程度だ。上弦には即殺されると断言された。そして嶺奇はその中間の実力。少なくとも誠より強い。それを相手にどう戦うのか。先のことは分からないが、生きて帰るとだけは決めている。

 ふわふわと浮かんでいた想いも、今は地に足を着けられている。真菰がその役割を受け入れ、誠を繋ぎ止めている。カナエとしのぶも誠の重みとなっている。

 

「……? 気配が増えてる……」

 

 家のどこかにいるであろう二人を気配で探知すると、そこに小さな気配があることに気づく。気になった誠はそちらへと向かった。二人のうちどちらかの部屋というわけでもなく、誠は声をかけることなく襖を開けた。

 

「きっかけさえできれば人の心は花開くから大丈夫。いつか好きな男の子ができたら、カナヲだって変わるわよ。泰富さんもそう思うでしょ?」

「何の話か知らんが、恋愛未経験者の胡蝶がそんな事言うのか」

「泰富さんに言われたくないわ~。それより、泰富さんもこの子が可愛いと思わない?」

 

 カナエが少女を抱き締めながら誠に問う。人形のようにぼうっとしている少女だが、髪はさらりとしていて肌も白魚のようだ。カナエがその子を可愛いと言いたくなるのも無理はない。誠はこくりと頷いて肯定した。

 

「たしかに可愛らしい子だな」

「やっぱり誰にでも可愛いと言うのねこの人」

「誘導尋問!?」

 

 カナエに瞬く間に体勢を崩され、膝の上に跨がられる。誠の服の襟を掴みながら笑顔を向け、誠は視線を逸してしのぶに助けを求める。しのぶからはゴミを見るような蔑んだ視線が送られた。カナヲは淡々とそれを見つめている。

 誠に助けなどなかった。

 

「今のは酷いと思うんだが。同意求めてたよな?」

「そうね。求めていたわよ。けどあっさりと答えるから、そういう人なんだなぁって」

「だから違うって……。俺はそんな節操なしじゃない。しのぶからも言ってやってくれ」

「実験体になりなさい」

「なんで!? お前なんでそんなに怒ってんの!?」

「思春期かしら?」

 

 しのぶにとって、目の前のこのやり取りが癪だった。二人の距離感が縮まることが、何一つ面白くなかった。なにせ、そうやって距離を縮めようと、二人とも男女の関係になることを望んでいないのだから。

 心内は知らない。それはしのぶが判断できることじゃない。ただ、横から見ている限りでは、この二人はそうなろうとはしていない。その点をはっきりと見て取れてしまう。

 

「そんなに顔をしかめないでしのぶ。姉さんはしのぶの笑った顔が好きよ?」

「そう言われても、笑えない時もあるのよ。今みたいに」

「あら~」

「それよりあの子の名前を教えてくれないか?」

「そうね。お互いの紹介は必要よね」

 

 誠の上から退いたカナエが少女の側に戻る。誠もそれに続き、カナエを挟むようにして向き合った。

 

「ほら自己紹介して」

 

 カナエに言われ、少女はこくりと頷いてから口を開いた。

 

「栗花落カナヲです。よろしくお願いします」

「私としのぶで付けたのよ? 可愛い名前でしょ?」

「そうだな」

「殴っていいかしら?」

「さっきから理不尽だな!?」

 

 カナエは冗談で言っているようだが、誠にはそれが冗談には思えなかった。半分以上本気ではないかと疑っている。カナエが笑みを浮かべながら視線を逸らすため、誠はそれを流すことにしてカナヲに自己紹介することにした。

 

「泰富誠だ。よろしくなカナヲ」

「はい」

「…………胡蝶」

「何かしら?」

「なんで突くんだよ」

「なんでだと思う?」

 

 誠がカナヲの名前を呼んだ瞬間、カナエは指で誠の腕を突き始めた。話しかけられてもやめる気配はない。

 

「分からないな」

「とぼけてるのかしらね? 本当は分かってるくせに」

「……そんなに呼び方を気にしてたのか?」

「ねぇ泰富さん。カナヲ呼びなのだから、流れで私も下の名前にしてくれないかしら? ねぇ?」

「カナヲと一文字違いってややこし──」

「しのぶ~。カナヲを連れて部屋から出てくれないかしら?」

「家を壊さないでよ」

 

 しのぶがカナヲの手を握って部屋から出る。誠は冷や汗を流しながらカナエの出方を窺った。残念なことにカナエは誠より強い。誠が死にものぐるいで抗ってようやく引きわけだ。

 カナエが部屋に置いてあった木刀を持ち、振り向いたと同時に距離を詰めた。下段から振り上げられる木刀を、誠はさらに間合いを詰めて腕を掴むことで止める。

 

「やれやれ。2年鍛えても、それより速く強くなりやがって」

「こればかりは、ね」

 

 カナエがわざと誠の予測通りに動いた。どれだけ強くなったのかを確かめるために。期待値より低ければ、今の動きを止められなかった。誠はカナエの期待には応えられたらしい。

 腕を放し、カナエも木刀を下げる。廊下から極力離れ、向かい合うようにして腰を下ろした。

 

「それで? 二人を出してまで話したいことは何だ?」

「それはもちろん名前のことよ」

「嘘つけ」

「バレちゃうのね~。……お館様と何話したの?」

「あの鬼、嶺奇のことだよ」

 

 柔い雰囲気をなくし、カナエは真面目に聞いた。だから誠も真面目に答えた。お館様の予測、利永が追っていること、そして自分が戦うことになるということを。

 

「……大丈夫なの?」

 

 何が、とは聞かない。

 誠は視線を逸し、頭を掻いてから素直に答えた。よくて五分五分だと。

 

「死ぬ気はない。向こうがどこまでやる気なのかにもよる。ただ、張り合えるだけの力はつける(・・・)

 

 それだけの力はつけた……そう嘯くことはしなかった。今の実力では、絶対に勝てるとは言えない。勝てる可能性がある程度だ。

 カナエはその理由を察せてしまった。誠は2年間の鍛錬を終えたのではない。2年間で修行を中断(・・)したのだ。

 

「ごめんなさい」

「なんで謝るんだよ」

「だって、そういうこと(・・・・・・)なのでしょう!? 私があの鬼と接触したから! だから泰富さんは途中で終えることになった! そうなのでしょう!?」

「……分かりすぎるのも困りものだな」

 

 否定しなかった。誠が鍛錬を中断した理由は、まさしくカナエが言った通りだ。誠の唯一の取り柄とも言える直感。誠と絆の深い相手にだけ働くそれに従い、誠はカナエの下へと駆けつけることができた。

 ただ、カナエが思い違いしていることもある。誠は鍛錬を最後まで遂げることはできなかったが、それでも必要最低限のことは終えている。あとはそれを昇華するだけだ。効率が落ちたとしても、あの環境じゃなくてもそれはできる。

 

「俺は自分の意志でそうした。胡蝶に非はない。……そう言ってもお前は真面目だから、変に背負おうとするんだろうな」

「……」

「それでもまだ気にするなら、胡蝶が手伝ってくれ。落とし所としてはそこになるだろ?」

「そうね……。うん……、よろしくね」

「お願いする立場は俺なんだけどな」

 

 それもそうだとカナエは破顔した。それ以上の話はしない。輝哉との話がそれだけじゃないことは気づいている。誠も、カナエに気づかれていることは分かっている。それでもその話はしなかった。したいと思わなかったから。

 二人でしのぶとカナヲがいる部屋へと移動する。中に入るとしのぶがいかにも疲れたという雰囲気を醸し出し、救世主を見るような目でカナエを見た。

 

「あらあら。相性が悪そうね~」

「相当な」

「だってこの子全然何も言わないんだもの! 指示しないと会話すらしないのよ!? もうそれ会話と言えるかすら怪しいわ! 泰富さん以上に駄目よ!」

「そこで俺を出すか」

 

 カナエがしのぶの頭を撫でて落ち着かせる。こればかりは姉に任せるしかない。というか、誠はしのぶの事になるとカナエに任せっきりだ。誠も誠でしのぶと相性が良くない。嫌われているわけではないようだが。

 じっと座っているカナヲに歩み寄る。視線を合わせるためにもカナヲの前に座り、その目をじっと見つめた。カナヲは微動だにしない。時折瞬きする程度だ。

 

「綺麗な目をしてるな」

「少女趣味? 警察呼んでいいかしら~?」

「違うわ!」

 

 すかさずカナエから横槍を入れられる。これではカナヲとの会話も難しい。カナヲが何も言わないから、現状では独り言に過ぎないのだが。

 誠はカナヲの目を改めて綺麗だと思い、次に自分たちと違うのだと気づいた。カナヲの目は何やら特殊だ。それをカナエが気づいていないとは思えない。そちらに視線を向けると、それに気づいたカナエが思わせぶりに微笑む。

 

(分かっていて何も言わないのか。……この子を隊に入れたくて連れてきたわけでもないんだろうな)

 

 経緯は知らない。それが哀れみだったのか、優しさだったのか。その場に居合わせなかった誠には分からない。そこで、この子が引き取られるまでの話を聞いていないことを思い出した。

 

「カナヲはどうしたんだ? 隠し子か?」

「泰富さんは私を何だと思っているのかしら?」

「低能な思考で姉さんを貶めないでちょうだい」

「辛辣だな。で、どういう流れだったんだよ」

「親に売られたみたいなのよね。人売りをしてる人がカナヲを連れてるところを見たから、話を聞こうとしたのよ」

「そしたら金を払えってあの男が言ったのよ。だから金をばら撒いてカナヲを連れて逃げてきたわ」

「それで引き取ったわけか」

 

 人攫いみたいな光景だなと想像して思った。そんな事を言ったら物を投げられそうだからやめた。二人が鞠に手を伸ばしていたのも、誠の発言を予測していたからだろう。それを投げられることはなく、言葉選びには成功したようだ。

 

「胡蝶、そろそろ出掛ける時間じゃないか?」

「本当ね。それじゃあしのぶとカナヲも行きましょうか」

「え? 行くってどこに? 私何も聞いてないのだけど……」

「ふふっ、ちょっとした息抜きよ」

 

 カナエとしのぶが並んで歩き、その後ろを誠がカナヲと手を繋ぎながら歩く。しのぶはカナエに目的を聞くが、カナエは着いてからの楽しみと言ってはぐらかす。普段はしのぶの方が活発的なのだが、こうして役割が逆になることもあるようだ。

 誠からすれば珍しい光景なのだが、二人にとってはそうでもないようで、しのぶは今の状態を楽しんでいる。カナエもそれが嬉しいようで、頬が自然と緩んでいた。

 

「カナヲもたぶん楽しめるんじゃないか?」

「……?」

「俺には女の子の感覚がさっぱり分からないんだけど、胡蝶のやつが前にはしゃいでたからな」

「……」

 

 カナヲはじーっとカナエの後ろ姿を見つめる。表情が全く変わらず、その瞳からも読み取れない。カナヲが何を思い、何を考えているのか。共に過ごす時間次第で、それを読み取れる日も来るかもしれない。

 

(俺はたぶん最後に分かるようになるんだろうな。なんだかんだでしのぶが最初に分かるようになったりするのか?)

 

 どこか感覚的なカナエは、なんとなくで感じ取りそうだ。生真面目なしのぶは、ちゃんと細かく理解していくんだろう。誠は二人を眺めながらそう思った。

 

「お婆さんお久しぶりです。前に言ってた通り連れてきました~」

「カナエちゃん久しぶりだね~。その子が言ってた妹さんだね。そちらの子は……あんたら子供作るの早いね~」

「姉さんとこの人の子供なわけないですよ!!」

「ごめんね~。妹さんとの子だったか。勘違いしてしもうた」

「はぁっ!? なん……っ!!」

「しのぶ落ち着いて。深呼吸よ」

 

 そう勘違いされることがよっぽど癪だったようで、しのぶはあまりもの怒りの高まりに言葉を詰まらせた。カナエがすかさずしのぶを落ち着かせる。このままでは火山の噴火のように、しのぶが大爆発しかねない。

 それを横目に、誠がお婆さんにカナヲのことを説明する。二人が引き取った子なのだと。

 

「……そうかい。それは済まない勘違いをしたね。こんなに可愛い子が……。カナヲちゃんの分も用意しないとね~」

「よろしくお願いします。この子、全然自分の意志を示してくれないので」

「何言ってるんだい。ゆっくりでも選ばせるものだよ」

「そういうものですか」

「女心が理解できなくても、そういうものだと覚えていきなさい。それがうまい付き合い方ってものさ。お爺さんが言ってたから違いないね」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 お婆さんと誠が話している間に、なんとかしのぶの怒りが鎮められた。今回はいつも以上だったようで、カナエがほっと息をついている。

 

「妹さんくらいの大きさのなら、そっち側にあるから好きに見ていなさい。カナエちゃんの時と同じ要領でいいから」

「ありがとうございます」

「こっちの子の大きさに合うのは、奥から取り出さないといけないね。連れておいで」

「泰富さん。お願いしてもいいですか?」

「ああ。了解した」

 

 カナヲと一緒にお婆さんについて行く。前回入った部屋とは別の部屋。前回はおそらく客間なのだが、今回は客間ではなかった。誰かが使っていたであろう部屋。そこにある箪笥から、お婆さんは何着かの着物を取り出した。

 

「その子の大きさに合うのはこれくらいだね~。娘のお古になっちゃうのだけど……」

「いえいえ、出してもらえるだけでもありがたいですよ。むしろ、そんな大切なものを出してしまっていいんですか?」

「ずっと仕舞っているよりいいさね。孫に着させたかったのだけど……、鬼に殺されてしまってね」

「……それは……」

「鬼は退治されたそうなんだが、やるせなくてね。その代わり、なんかで思っちゃいけないのだろうけど、ね……」

 

 お婆さんはカナヲの頭を優しく撫でる。本当に孫を見るような温かな目。きっとこれぐらいの年だったのだろう。

 

「すまないねしんみりさせちゃって。さぁさ、好きなものを選んでちょうだい」

「……」

 

 カナヲが誠を見上げる。

 誠はしゃがみ込み、カナヲに視線を合わせた。

 

「カナヲが選ぶんだ。気に入ったものを一つ」

「……」

 

 カナヲはこくりと頷き、誠から手を放して着物をじっくり見ていく。カナエのような分かりやすい反応はない。それでも、カナヲの様子を見守っていると、そこにちゃんとカナヲの意志があることに気づける。

 全部で4着の着物があった。柄は、桜とトンボと紫陽花と朝顔。一つずつじっくりと見ていたが、着物毎に僅かな時間の差異が生じた。気に入ったものは、見る時間が長くなっている。

 カナヲは二つで迷った。桜か紫陽花か。迷い、誠に視線を向けるも、誠は首を横に振る。カナヲが選ぶのだと。カナヲは困った。どちらも捨てきれないからだ。迷いに迷った結果。思い出したようにコインを取り出す。それを指で弾き、表が出た結果桜を選んだ。

 

「それで決めたか……。胡蝶のやつが持たせたな」

「いいじゃないか。あの子にも女の子らしい一面があるって分かっただろ?」

「まぁ、そうですね」

 

 紺色の生地に薄い桃色の桜柄。それがカナヲの選んだ着物だった。誠はカナヲの着付けが終わるまで部屋の外に出て、お婆さんに呼ばれると部屋の中に戻った。先程選んだ着物にカナヲが身を包んでいる。表情は全く動かないのだが、心なしか嬉しそうだ。そういう事にした。カナヲの隣でお婆さんが幸せそうにしてるから、そう見えるだけかもしれないけど、そういう事にしておいた。

 

「凄い似合ってますね」

「そうじゃろそうじゃろ。これが見れただけでも幸せだわ」

「良かったなカナヲ。これを着れて」

「あぁ、持って帰っていいよ。それを着てくれたお礼だ」

「それはさすがに……」

「いいんだよ~。その方が着物も喜ぶわい。代金は貰うよ」

「ははは、抜かりない」

 

 お婆さんと二人で声を揃えて笑い、代金をしっかりと支払った。子供の着物ということもあり、カナエが買った時の半額だ。

 店の表に戻ると、しのぶも選び終わっていたようで、お婆さんに代金を支払うとカナエと二人で店の奥に。待っている間はそれぞれ店にある椅子に腰掛け、お婆さんとの会話に興じる。そうして待っていると、着物を着たカナエとしのぶが戻ってくる。

 カナエは前回買っておいたもので、しのぶは蝶柄の入った着物だ。カナエの着物のように白い生地で、蝶は髪飾りと似た色のもの。偶然と言って片付けていいのか悩むほど、同じものに見えた。

 

「ほほぅ、二人並んでると眩しいね~。町の男どもが目を奪われるよ」

「大袈裟ですよ~」

「それで姉さん。なんで着替えたの?」

「これからお祭りに行くからよ」

「この時期に!?」

「そうなるよな」

 

 しのぶの驚きに誠がウンウンと頷く。桜が咲いていれば花見ができる。だが、桜は先月に散った。いったい何の祭りか気になるも、お婆さんが細かなことを気にしていないので聞き出せない。

 

「深く考えないで楽しみましょう。様子を見ていれば、なんとなく分かってくるわよ」

「そうなることを願うわ……」

 

 ガクッと肩を落としたしのぶをカナエが引っ張り、お婆さんにお礼を言って店の外へ。誠もカナヲを連れてそれに続く。

 日が暮れるに連れて人も多くなる。皆思い思いに町を練り歩き、談笑し、祭りを楽しんでいる。それに反比例してしのぶが不貞腐れる。何の祭りか一向に分からないから。

 

「お祭りは本来神事なのに!」

「不思議よね~。花火職人の修行の成果を見せるためだけに、こうなるんだもの」

「……ん?」

「姉さんそれ、どこで聞いたの?」

「さっきそう話してる人たちがいたわよ」

 

 しのぶと誠の視線がカナエに突き刺さる。それを笑って流し、カナエは先々と歩いていく。

 

「姉さん絶対今日知ったわけじゃないでしょ!」

「どうかしらね~?」

 

 適当に座れる場所を見つけ出し、カナエはそこに座って三人を手招きする。しのぶが端に座り、その隣にカナエ。カナエのさらに隣がカナヲで、誠はしのぶとは番台の端に座った。

 団子を注文し、カナヲにも食べさせていると空から爆裂音が聞こえた。本当に花火が打ち上がったようだ。職人技の結晶。胸の内に重く響く音を出し、見る者を魅了させる華やかさを放つ。それが花火だ。

 

「綺麗ね~」

「……そうね」

「これが花火か」

「ふふっ、凄いでしょ? みんなで見られてよかったわ~」

「これからもっと見れるさ」

「……そうね。来年もまた、みんなで来ましょう」

 

 空を彩る花を見上げ、未来を約束する。

 この光景を、また揃って見ようと。

 

 

 




 また新たに評価をいただけました! ありがとうございます!
 年内でバーに色がつけばいいな、とか思ってたら付きましたね!
 イヤッッホォォォオオォオウ!!\( 'ω')/

 次の更新は遅れそうだと先に白状しておきます。年末ドッタンバッタンしてるので。
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