月夜の輝き   作:粗茶Returnees

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 久々? に戦闘ですね


13話

 

 6月の末日。それが嶺奇から宣戦布告された日だった。

 敵は首都東京への進軍をすると言われており、それに伴って鬼殺隊は東京周辺に布陣を展開。円形に展開することで、どこからの襲撃にも備えられるようにした。正確には、そうさせられた。伝えられていることは、日付と進軍目標だけだ。どこから来るのか、どういった規模での編成なのかは何一つ分からない。だから円形に隊を展開するしかない。

 この布陣には当然弱点が存在する。それは一つ一つの小隊の薄さだ。隊を満遍なく広げるために、それぞれの小隊の人員を削減される。その弱点を補うために、柱を四方に布陣させた。東京を中心に東西南北の四ヶ所に布陣させ、広大な持ち場を持たせる。そうすることで、隊士たちの持ち場が小さくなり、小隊の人員削減も最低限に済ませられた。さらに、後詰めとして四人の柱は東京内で待機。四方にいる柱の持ち場以外に下弦の鬼が現れたら、待機している柱がそこに向かうという作戦だ。

 

「さてさて、どうなることやら」

 

 待機している柱の内の一人、鳴柱である利永が首を鳴らしながらぼやく。本人としては、持ち場ありを希望していたのだが、輝哉の指示で持ち場なしにされた。極力隊士の被害を抑えるためにも、足の早い利永を自由に動ける待機組にしたのだ。他の三人も概ねその理由である。移動の速さを考慮されて配置が決まった。

 

「敵も随分と派手なことを考えやがる。これが利永が言ってた面倒な鬼の仕業か」

「そうだな。鬼は本来共闘しない。そうできないようにされている。そこを覆してくるのが嶺奇の厄介なところだ。今は上弦相手には無理なようだが、野放しにしていたらそこも分からなくなる。今回で仕留めたいところだな」

「で、例の奴が囮ってか。派手にやってくれりゃあ、さっさと仕留められるんだろうけどな」

「……」

「嶺奇も嶺奇で用心深い。すぐには出てこないだろうさ。おそらくは、誠の小隊が少数もしくは一人になってからだな」

 

 そのためにも、そこに下弦の鬼が先に投入される予想はついている。本来なら側に柱を配置していてもいい。だが、そうすると嶺奇は出てこなくなる。誘き出すためにも、誠の側に柱を置くことはできない。

 音柱宇髄天元と利永の会話を聞きつつ、カナエは唇を噛み締めた。衝動に任せて今すぐ誠の側に駆けつけたい。だが、柱という責任のある立場でそんなことはできない。カナエがこの場にいるのも、他の柱の存在が抑止力となるからだ。利永と話している音柱、そして静かに瞑想する水柱。三人の柱は、カナエの監視も兼ねている。

 とはいえ、利永はそこまで固く考えていない。輝哉の直感と自身の並外れた先読み能力。それによって、ある程度今後の展開も読めている。今回の戦いも、その先も。不安要素が出てきてしまえば、この作戦でも被害が拡大することは承知済みだ。

 

「心配するなカナエ。誠を鍛えたのは俺だし、下弦相手に死なないだけの力はある。異能の鬼との連戦だろうと負傷はするだろうが、負けはしない」

「そう、ですか……」

「利永お前継子なんていたのか? そんな暇はねぇってド派手に悲鳴嶼さんに言ってたろ」

「継子っちゃあ継子になるんだろうが、そういうのでもねぇな。必要な力をつけさせてやったってだけだ。後は自分でどうにかしろって言ってるし、そういう関係にはなれねぇよ」

「ふーん?」

 

 少し寂しそうに笑ったのを天元もカナエも見逃さなかった。利永と誠の関係を細かくは知らない。カナエは今までその事について聞いてこなかった。利永がなぜそこまで誠を気にかけているのか。二人の関係は本当にただの師弟関係なのか不明だ。そして、何よりもカナエを悩ませたのが、誠すらその理由を知らなさそうなことだった。

 

「乃木さん。泰富さんとはどういった関係なんですか?」

 

 気になったから聞いてみた。鬼の情報が出るまで動けないのだ。どれだけの時間を待機に使うのかは分からないが、その暇を潰す手段として聞いておくのも悪くない。

 天元もそれに乗り気で、水柱だけは変わらずに集中している。利永はしばらく考え、少しだけ話すことにした。

 

「俺は誠と会う前から誠のことを知ってる」

「え?」

「あぁ? 謎掛けでも始める気か?」

「いやいや。本当の事だって。話すのも面倒な事情があるんだよ」

 

 その話を掘り下げたら、誠のことを気にかけている理由に繋がる。それは分かったのだが、続きを聞く前に鎹鴉が部屋に飛び込む。利永の鴉だ。

 

「開戦ジャア!!」

「詳細は?」

「敵ノ数ハ数エラレナイ! 下弦ノ情報モマダ! 数的劣勢不可避!」

「そうだろうな。で、これもお前の読み通りなのかよ」

「今のところはな。今の隊士は優秀な奴が多い。おかげで防衛線は突破されにくい。互いに援軍はないし、開戦と同時に山場だ。お互い単純に実力勝負だ」

 

 四人の鎹鴉がそれぞれ戦況を報告することになっている。常に飛び回り、情報を掴めばそれを報告するために柱の下へ。

 利永の読み通りの展開だが、懸念事項はやはり十二鬼月の存在だ。柱にぶつけさせるのか、陣形を崩すために間に投入するか、もしくは一点突破だ。

 

「鬼の数に偏りがあるか見てきてくれ。それで狙いが分かる」

 

 利永は鴉に指示を出して飛ばした。この戦い、どう動いても後手に回るために被害は必ず出る。それを抑えるのが柱の仕事となり、先読みに長ける利永はその柱の投入を任されている。読みを当てれば、十二鬼月の参戦と同時に戦線に柱を送り込めるのだから。

 

「さて。炎柱不在だが、大局に問題はない。向こうはどう来るかな?」

 

 

 

 誠の配置は、北北西だった。北を担当している柱から最も近い位置の一つだ。そこに配置されている柱は、岩柱の悲鳴嶼行冥。かつてカナエとしのぶを助け、二人に折れて育手の下へと送った人物だ。現在の柱の中で、利永に並んで強者として称される人物でもある。誠は一度話がしたいと思っているのだが、なかなかその時間が合わないで今に至る。

 

「鬼が多いなぁ」

「生き残りますぞ!」

「おぉぉ!!」

 

 迫り来る鬼を迎え撃つ。隊士の中でも、いずれ柱になるだろうと評価されている者たちはバラけて配置されている。実弥、義勇とはもちろん違う小隊。代々炎柱を担う煉獄家の長男も違う隊だ。

 誠たちの配置の近くには、雑木林がある。鬼たちはそこから溢れ出て来る。次から次へと、堰き止められていた水のように。

 

「1体も逃さずに斬り伏せるか」

 

 数では完全に押し切られる。だから陣形を組み、小隊員同士で互いの背を守る。

 鬼の攻撃を躱し、首を切り飛ばす。鬼の体を蹴って後ろから続く鬼への牽制とし、横から迫る鬼の腕を斬り、返す刀で首を斬り飛ばす。2体倒したところで、鬼はまだまだ迫り来る。

 

──(から)の呼吸 参ノ型 虚空・閃乱

 

 気配を消し、相手の意識を別の物に誘導して首を斬り飛ばす。一定範囲の鬼の視線全てを反らせるために、集団相手に有効な技だ。誘導は僅かな時間であろうと、それでお釣りが来る。鬼の首を斬り飛ばせば、その鬼へと他の鬼の視線を誘導させる。その繰り返しで誠は8体の鬼を倒した。

 この技の欠点としては、体への負担が大きいこと。時間が長ければ、当然その負担も大きくなる。呼吸は本来心拍数を上げ、体温を上昇させている。それは存在感の主張にも繋がる。だがこの技は気配を消すもの。明らかな矛盾。それを強引に行えば、大きな負担がかかる。

 

「一息つく暇もないな!」

 

 危うくなっている味方を助ける。対応しきれなくなっていた鬼を斬り、周囲の鬼を何体か葬ったところで持ち場へと戻る。

 

「すまない! 助かった!」

「礼は後! この鬼たちを倒しきってからで!」

 

 鬼を斬りながらも、これがまだ前哨戦なのだと察した。今出てきている鬼は、どれも雑魚鬼の類だ。まだ異能の鬼がいない。他の持ち場では出てきているのかもしれないが、この場所にはまだ来ていない。その狙いも分かる。誠を疲労に追い込むためだ。囮としては機能しているのだろう。おそらく現状では、柱に並ぶほどの数の鬼の対処に迫られている。およそ60体近く。それに合わせて、この小隊も他の隊よりも数は増やされている。

 

「出たぞ!」

「そろそろだとは思った」

 

 誠はまだ余裕がある。元柱の岳谷、現柱の利永に2年間鍛えられているおかげだ。しかし、それは誠の話。他の隊員たちは粒揃いだろうとそうもいかない。異能の鬼との連戦。今からが、この場での正念場となる。

 7体の異能の鬼が現れた。

 十人の隊士で対処しようにも、二人で1体の鬼とはできない。何よりも、二体の鬼が誠を挟んで対峙した。他の隊士が駆けつけようとしても、別の異能の鬼がそれを塞ぐ。

 

「そっちの鬼を先に倒せ!」

「くっ、死ぬなよ!」

 

 それに言葉を返す余裕はなかった。

 前方にいる鬼が矢を3本放つ。それを躱すも、その矢は誠を追従する。さらには、もう一体の鬼をもしっかりと避けている。確実に誠のみを狙っているのだ。その矢を全てへし折ると追従は止まるが、その間に別の鬼の拳が迫る。その拳は炎に包まれ、振り始めた瞬間爆発的な加速をする。

 

「ッ!」

 

 後ろに飛びながら刀でその拳を斬りつける。それで勢いを抑えられ、拳を避けることに成功する。足が地についた瞬間体を捻りながら跳躍し、迫っていた矢を避ける。もう一度着地した時に矢を落とす。それに合わせて火鬼が加速して炎に包まれた蹴りを繰り出した。

 

「このっ!」

 

 体を寝かせるほどに体勢を低くし、避けながら軸足を斬り崩す。腕を地につき、わざと体勢をさらに崩して転がり、跳ねるように立ち上がる。体勢が崩れている火鬼を倒そうにも、すかさず矢が左右から飛んでくるためそれどころではない。躱しながら矢を折り、先に矢を放つ鬼へと迫る。今はともかく、矢鬼が他の隊士を狙い始めたらこの持ち場は崩壊する。矢鬼の脅威を先に取り除かなければならない。

 

「この距離なら!」

 

──空の呼吸 肆ノ型 穿空(せんくう)

 

 呼吸の意識を足に集中させ、一歩目から最高速で距離を詰める。それに合わせて突きが放たれ、矢を握っていた腕を穿つ。

 このまま首を斬ろうとして誠は驚愕した。鬼の腕は2本ではなかった。全てで6本の腕。4本の腕は黒く、闇夜では近くでないと視認できない。そしてその4本の腕は長く、地上から離れた位置で弓矢を構えている。そこから放たれていた矢に背中を射られる。

 

「かっ……! これが……どうした!」

 

 2本続けて背中に刺さったが、心臓には当たっていない。一瞬体がぐらつくも、その場に踏み留まる。

 

──空の呼吸 弐ノ型 空斬り

 

 音も無く横に一閃する。鬼の首を他の腕ごと両断し、すぐにそこから横に離れる。離れた直後に火鬼がそこに踵落としを炸裂させ、地面が湧き上がる炎に包まれながら掘り返される。

 

「矢が取れそうにないが……、すぐに終わらせりゃいいか」

 

 激しく体を動かすと、突き刺さっている矢のせいで体の内側から激痛が走る。すぐに抜く必要があるのだが、自分では抜き取れない。他の隊士たちはまだ戦闘中で頼むこともできない。さらに、火鬼に完全にマークされているため、先に倒すしかない。

 

「……っ、ふぅぅーー」

 

 刺さっている箇所が焼けるように熱い。痛みが我慢するしかなく、呼吸で止血をするも動けば再度出血するだろう。貧血で負けるなど話にならない。止血を続けながらの早期決着。それしかない。

 刀を構え、呼吸を整える。目の前にいる火鬼に集中し、最速で終わらせるために鬼の動きに注視する。鬼も誠の様子から何かを感じたのか、四肢に炎を滾らせる。

 

「行くぞ」

 

 同時に地を蹴る。振り下ろされる拳を斬り裂き、鬼の外側へと避けながら回転して追撃を放つ。鬼は殴るための踏み込み足を軸にし、誠の刃に合わせて回転して躱し、そのままその背へと回し蹴りを放った。誠は体を前に倒すように避け、体勢を戻した。

 

──空の呼吸 壱ノ型 断空

 

 鬼の胴を斬り裂く。鬼の体は斜めに両断され、再生する前に誠は鬼の首を斬り落とした。

 

「ごふっ! あぁくそ、掠ってたか」

 

 頭の回避を優先した結果、背中が遅れた。本来なら避けられたのだが、刺さっている矢が邪魔だった。火鬼の足こそ背中に当たらなかったものの、矢が蹴られたことで背中を抉られている。こみ上げて来る血を吐き出し、他の隊士の様子を見る。

 まだ数体鬼が残っているようだが、こちらに被害は出ていない。誠はそちらに飛び入り参戦し、奇襲ついでに鬼の首を狩って決着をつけた。

 

「お前強いのなー。階級低いくせに」

「2年ほど鍛えてたからな」

「何でもいいけどよ! 動くんじゃねぇぞ! 背中の矢引き抜くからな!」

「よろしく。……っ! ぐっぁっ……!」

「我慢しろ。もう一本な!」

 

 歯を食いしばり、痛みに耐えている間に矢を引き抜いてもらう。当たりどころがよかっただけで、矢自体はそれなりに深く刺さっている。呼吸で止血できているからいいものの、治療を受けて安静にしたほうがいい。

 実力はあれど経験が足りていない。場数をもっと踏まなければと、誠は自分の課題を確認する。岳谷や利永との鍛錬を積んだとはいえ、圧倒的に遠距離で仕掛ける者との戦闘経験は詰めていない。異能の鬼ともなれば、そういった鬼やさらに独特な戦い方をする鬼も現れるだろう。その事は利永に言われていたのだが、誠の想像力が足りなかった。

 反省することを反省し、失敗を糧にする。止まる事を許されない世界に足を踏み入れたのだ。常に歩み続けないといけない。戦闘中である今はなおさら。

 

「詰まらない手を取りやがる」

 

 呼吸で止血し直し、隊士全員を気絶させる。

 林を睨むと、そちらからカラカラとした笑い声と共に嶺奇が姿を現した。隊士たちを気絶させたのは、すでに隊士たちが操られていたから。面倒な力の伸び方だと思った。一定距離であれば、離れていても操れるようになっているのだから。

 

「よく気づけたな」

「気配が変わるからな。鬼はともかく、人間なら違いが分かりやすい」

「ちなみに鬼なら?」

「喋らなくなる」

「ははは! たしかにそうだな!」

 

 あいも変わらず異形の体。放たれる空気は重く鋭くなり、潜伏期間でさらに洗練されたことが伺える。カナエと戦っていた時は、嶺奇の経験不足でカナエが優勢に立った。しかし今となっては、そこも変わってくるのだろう。

 誠は刀を携えながら歩いて距離を詰める。嶺奇に何か狙いがあることは見ていてわかる。用心深く、用意周到に仕掛ける鬼だ。異能の鬼が討たれたところで姿を現す方がおかしい。何よりも、異能の鬼の数が少なかった。雑魚鬼に対して異能の数が少ない。他の箇所に多く配置しているのかもしれない。

 

「警戒しなくても、操ってる人間はいないわよ。鬼で十分だもの」

「それを信じるとでも?」

「周囲にそんな人がいないことは、分かってるんだろ?」

「……ちっ」

 

 嶺奇に指摘された通り、操られている人間が周囲にいないことは分かっている。少なくともこの場にはいない。他の場所にはいるかもしれないが、そこまでは分からない。

 

「数多くは揃えてみたけど、やってみて気付けることも多いのよね」

「限界を知らなかったって話か?」

「それもあるが、一番は数が減ってくると面白いこと(・・・・・)ができるって話だな」

「何の話だ」

「数が多い時は鬼の本能に従わせるしかない。だが、減れば細かに操作できる」

「鬼たちの情報は私に集まる。あの鬼のように。違いは私が操作できること。分かる? 鬼の情報が集まった上で操れるの」

「つまりは経験の共有だ。柱に多く鬼をぶつけたかいもあった」

「お前っ!」

 

 通常、戦闘経験の共有などできない。伝え聞く、鍛錬で教えこまれる。そんなやり方だったとしても、その鮮度は当然落ちる。しかし、この鬼はそれを覆せる。鬼の数が多ければ多いほど、戦闘が多ければ多いほど、それを直接糧にできる。"さも自分が経験したかのように"。そして、操られている鬼たちにも同様の現象が起きる。

 嶺奇はその可能性に気づいていた。だから最初は雑魚鬼を大量に投入し、それを確かめ、異能の鬼を出撃させた。だが、誠が気づいたように、異能の鬼の数は少なかった。これから残りの鬼たちが投入される。何百戦も経験したことになっている異能の鬼たちが。

 

「おかげ様で、下弦の鬼に匹敵する鬼を量産できた。さぁ、愉しい祭りの本番を始めようか」

「この場でお前を討てばいい話だろ」

 

 一歩で距離を詰め、刀を振り上げる。嶺奇は半身を斬られながらも、残りの腕で誠を殴り飛ばす。誠は威力を軽減させながら受け身も取ったが、嶺奇の行動の変化に舌打ちした。

 嶺奇は鬼としての特性をあまり活用していなかった。素早い再生があるにも拘わらず、傷を負うこと自体を避けていた。だが、今ではそれをやめている。負けに繋がる傷でなければ受けていい。その代わり攻撃に転じる。そんなやり方だ。

 

「いいこと教えてやるよ。俺が死ねばたしかに洗脳は解けるが、鬼たちが得た戦闘経験はそのままだ」

「早く討てばいいだけの話だろ。どうせ鬼は殲滅するんだからな。お前を早く討てば、それだけ少しは他が楽になるって話なんだし」

「討てるか? お前に」

「やるさ」

「なら辿り着け!」

「この鬼を倒してからね!」

 

 林の中から鬼が飛び出す。目で追いきれなくなりそうな程に速い。誠はそれに合わせて刀を振るうも、鬼はそれを躱して誠の背後へ。突き出される刃を回転斬りで弾く。

 弾いてから気づいた。今突き出された刃は、鬼の髪が変化したものだと。さらには、その髪は長さも自由自在なようだ。女性の鬼。その瞳に映るのは『下弦弐』。今回の戦闘でさらに強化された下弦の鬼の一体。

 

「さぁ、誠はどこまでやれるかな?」

 

 

 

 待機している柱の下に鴉たちが慌ただしく集まる。十二鬼月の出現を知らせるためだ。さらには誠の鴉である土佐右衛門まで飛び込んだ。嶺奇と誠の会話で得た情報を伝えるために。

 

「厄介な力をつけられたな」

「どうされるのですか?」

「十二鬼月の出現箇所は予測通りだ。天元と水柱のオッサンが1体ずつ討つだろ。1体は誠のとこで、3体は展開している柱とぶつかる。ただ、共有は面倒だな」

 

 地図の上に広げている戦況を見直す。駒を用意しており、それで戦況の大まかな状態を確認している。下弦の出現箇所は、誠の場所の他、柱が構えている北と西と東。さらには北東と北西。その2箇所には既に柱を向かわせている。北側に下弦が集まっているのは、誠の近くに嶺奇がいるから。実に分かりやすい展開だが、だからこそ面倒だ。

 北に柱を誘導されているのだから、南が手薄になる。そして、南側には多くの異能の鬼が出没している。

 

「カナエは南西に。南で布陣してるあの戦闘狂には南東に進んでもらおう」

「それでは南の鬼が突破しませんか?」

「あいつのことだから、指示出しても殲滅するまで移動しない。あいつが南東に行く時は、南の鬼が殲滅されてる時だから大丈夫」

「……あぁ……。あの、乃木さんはどうされるのですか?」

「ちょっと面倒なことが起きそうだからな。それに備えて動く。カナエは南西の援助が終われば、負傷者の救護に回ってくれ。隠たちへの指示も任せるぞ」

「分かりました。あの……」

「安心しろ。誠のところに向かうから」

「ありがとうございます。ご武運を」

「カナエもな」

 

 大戦は終盤に入った。既に死傷者は出ているが、未だに突破されている箇所はない。最も手薄になっている箇所に、補填として花柱であるカナエが向かう。

 

 敵の全戦力が戦場に姿を現した。

 

 それを討つために全柱が投入される。

 

 

 全ての鬼が討伐され、戦闘が終わるまで──残り2時間

 

 

 




 炎柱さん? あの人は既に酒飲み生活です。
 なぜ柱が八方で布陣を組まないのか→最優先事項が嶺奇の討伐だからです。誠を餌にしております。
 嶺奇はそれを疑わないのか→さまざまな事情により、未熟過ぎる鬼なんです

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