鬼を討伐できる組織。それが鬼殺隊。政府に認められていない組織ではあるが、その組織力は大きい。表立って行動できないものの、活動範囲が大きいこと。秘密性を保てること。達人の域に達する"柱"と呼ばれる者たちがいること。鬼を倒せる刀を作れることなど。組織としての力は十分に持っていた。
その隊に入るものの多くは殉職を遂げるが、生存して引退する者もいる。第一線に出られなくなったその者たちは、育手と呼ばれる役職に就くことがある。鬼殺隊に入るための最低限の力をつけさせることが仕事だ。その後は最終選別に向かい、それを突破すれば晴れて鬼殺隊に入ることができ、鬼を倒せる効力を持った刀が与えられる。
「んで、お前をその育手のとこに放り込む。修行は気を抜くと死ぬからな」
「あー、だから人間相手に死なないところが始まりなんですね」
「そういうこと。ここから近いとこだと……どこだ?」
「えぇ……」
この人はもしかして方向音痴なのでは? そんな疑いをかける誠だったが、どうやらこの村の位置からして、本当にややこしいらしい。どこも近い場所がない。
「その場合はどうしろと?」
「んー、俺はこの後帰還しないといけないし、途中までは同行……やっぱお前走るの遅いしなぁ」
「置イテケ! 置イテケ!」
「この鴉は碌なこと言わねぇな!」
「喋った!?」
鎹鴉と呼ばれる鴉は、鬼殺隊の隊士たちに一羽ずつあてがわれ、指令や知らせはこの鴉を通じて行われている。鴉たちは喋れるわけなのだが、その性格は人のようにバラバラ。利永の鴉は実力主義。たとえ隊士だろうと、弱ければボロクソに言う。利永も入隊したての頃はボロクソに言われた。任務を終える度に負傷してることをとやかく言われた。
「ん? あれか。
「いるとは?」
「育手だよ。俺が把握しきれてなかったか。何にせよ、そこにお前を預ければいいわけだな」
「見捨テヨシ!」
「いいから案内しやがれ!」
利永は誠を担ぎ、鴉の案内に従って移動する。足の速さは常人の域を超えている。この技法は実力を付けた者たちにとって当然のもの。それを知らない一般人な誠にとって、利永は十分に怪物だった。上にはもっと上がいるわけだが。
走ること2時間。それだけの時間をノンストップで走り続けた利永の体力に、誠は尊敬を超えて畏怖していた。ちなみに、担がれている間はとても怖かった。一回気絶した。傷口が痛み過ぎて。
「爺さん任せたぜ!」
「治療をか!? あと爺さんなんて年じゃねぇ!」
何を頼んでるんだこの小童め。
「それにしても、こっちに移動してたとは知らなかった」
「基本が大事だからなぁ。隊士たちを鍛えるのもそうだが、育手に回った方が良くないかってことでこうなった」
「なるほど~。現役引退したもんなー。俺が勝つ前に」
「お前は俺を超えてるだろうに」
二人の会話についていけず、大人しく治療を受けながら黙る誠。どうやら二人は知り合いで、師弟関係に似た何からしい。少なくとも、利永は目標にしていたようだ。
「お前は忙しい身だろう。ここで長居するなよ」
「分かってる。じゃあな誠。死ななかったらまた会おう」
「あ、はい! いろいろとありがとうございました!」
誠に手を振った利永は、目にも止まらない速さでこの場を後にした。会話しただけでは全く分からなかったが、相当に忙しい立場らしい。ということは、それ相応の人物。
「さて、お前さんを鍛えるわけだが、まずは治療からとはな」
「すみません」
「謝ることじゃない。傷を見たら分かる。鬼相手によく生き残れたな。俺は岳谷だ」
「泰富誠です。よろしくお願いします!」
岳谷は手厚く誠を介抱し、傷が塞がってからは低下した身体能力をすぐに戻させた。体を壊さないギリギリのところまで体を鍛えぬき、柔軟も徹底させる。
「痛い痛い!!」
「体が硬い奴だなぁ! 柔軟さは必要な強みだぞ!」
序盤は重点的に柔軟をすることになった。柔軟さが戦闘でどう役立つのか。それがいまいち分からない誠に、岳谷は実際に動きで見せた。
柔らかな体ということは、それだけ体勢を取れるということ。避けられる範囲が増え、仕掛けられる攻撃も増える。岳谷のその動きの領域にはすぐに達せられない。それは素人目にも分かった。岳谷もそこまでは求めていない。人にはそれぞれ持ち味がある。岳谷は自分の持ち味を最大限に活かせる方法を身につけている。それに誠が合わせる必要もないのだ。
「基本的な型ってのがあるんだよ。呼吸って言い方してるが、俺のやつはそれの基本形の一つの派生。そんなわけで、俺の派生元をお前に叩き込む」
「はい!」
「それは先の話だがな!」
「ですよねぇ!」
「お前は基礎能力が足りないからな!」
傷が治り、基礎体力が元に戻るまで4ヶ月を要し、それが終わったら修行をつけてもらえるようになったわけだが、これが難易度の高いものだった。
すぐ近くの山で岳谷から逃げ回るという修行。追いかけっ子のような内容だが、それは最初の7日だけ。それが終わったら、岳谷は木製の武器を投げながら追いかけるようになり、誠はそれを避けながら逃げないといけない。しかし、季節的に他の動物も当然いる。縄張りに入ればそちらからも逃げなければならない。誠は武器を所持していないから。
誠が動物を避けられなければ、その際だけ岳谷が鉄製の武器で動物を狩る。食材集めも兼ねている。
猪は避けられるようになった。直線的に走るのが猪だからだ。大変なのは熊だった。こればかりは避けるも何もない。岳谷が狩らないといけない。
そんな生活が1ヶ月ほど続くと、さらに難易度が上げられる。
「殺す気か!」
「死ねばその程度ってことだ!」
罠が仕掛けられるようになった。落とし穴は定番。丸太が飛んでくることもある。丸太が群れをなして転がってくる罠もある。木の上からマキビシが降ってくることもある。
数々の罠を避けながら、獰猛な動物と岳谷からも逃げなければならない。それをこなしている間に、誠も罠を利用できるようになった。猪を落とし穴に落とさせたり、罠で熊を倒したり、岳谷から距離を取るために罠を起動したり。
最後のだけは一度も成功しないが。丸太の群れが流れようと、岳谷はその上を走り、投擲系の罠であればそれを強奪して逆に誠に投げつけた。
「さて、お前が罠を利用できるだけの余裕ができたわけだし、戦闘訓練に入るぞ」
「岳谷さん、本音は?」
「お前が罠を起動してるとこ見ると腹立つから戦闘訓練に入る」
「鬼畜ですね!」
「褒め言葉だ」
育手たちの訓練の仕方はそれぞれ違う。呼吸の違いが表れるのはもちろんのことながら、育手の考え方の違いも含まれる。
「俺が教えるのは風の呼吸な。これがお前に当てはまるかは知らんが、その時はその時だ」
「その時はどうしろと!?」
「自分で作れ。俺もそうしたし、他にも柱の連中でそういう奴らもいる。柱じゃなくても編み出してる奴は編み出してる。聞けば答えが返ってくると思うなよ。自分で見つけ出す力を見につけろ。死中で活路を見いだせる奴はそういう奴だ」
「! 分かりました!」
岳谷は口での説明がそこまで得意ではない。動きを交えてやる方が性に合っており、本人の都合で言えば「体で覚えろ」になる。それでは問題があるために、下手なりに口での説明も入るのだ。
「突っ込んでこい。俺から仕掛けたら修行にならん」
「行きますよ!」
地を蹴り、距離を詰めて横に一閃。というのを見せかけとして、すぐに続けて放つ突きが本命。
「……へ?」
それは見せかけの段階で失敗に終わった。横の一閃に合わせて岳谷は回り込み、誠の横の動きの力に自分の力を上乗せして上空にジャイアントスイング。頭から落ちそうになった誠は、受け身を取りながら体を転がして衝撃を逃がす。
「狙いが見え見えだし、動きを一つしか考えてないだろ。臨機応変に動け」
誠の当面の目標は、「岳谷に攻撃させること」になった。
今は全て流されるだけ。誠が弱いから。
岳谷が「攻撃しても大丈夫だろう」と思うレベルに達しなければならない。岳谷が現役を離れたのは1年前。日が浅い分まだまだ現役に近い頃の実力を発揮できる。だからこそ、誠に攻撃しない。
「ほら、もっと突っ込んでこい」
言葉通りに受け取り、誠は何度も岳谷に立ち向かう。その度に宙に投げられ、時には地に叩き伏せられる。
「視野が狭いんだよ。山の中で何を学んだ! それを戦闘に活かせ!」
どれだけ打ち込もうと岳谷に木刀が当たることはない。傷が増えていくのは誠だけ。
「はぁはぁ……くそっ!」
「はっはっは、ひよっ子め。俺は晩飯の準備をしてくる。お前は自分に足りないものが何か具体的に考えとけ」
「はい!」
「返事はいいが、実力もつけろよ~」
今の段階では弱過ぎる。誠はそういう風に受け取った。その受け取り方で合っていた。今の誠はまだまだ弱い。この修行に入ってからは動きが悪くなった。
それを誠はまだ自覚できていない。
「……まだ道のりの序盤だな」
岳谷が立っていた場所を見て呟く。岳谷は常に2歩までしか動かなかった。それで済まされるのは何故か。実力差と言ってしまえばそれまでだが、それを答えにしてはいけない。それは抽象的な答えだ。具体性がどこにもない。
具体的に考えるということは、自分の強みと弱みを見極めることに繋がる。至らないところしかない初心者が、どうすれば強くなれるのか。我武者羅にすればいいという話ではないのだ。
「自分で考えて……」
先程までのやり取りを再現しながら考える。どう動けばよかったのか。どうすればすぐに飛ばされずにすんだのか。それを考えるためにも、どうしてそうなったかを考える。
原因が分からなければ対策のしようはない。こうすればいいかもしれない、なんていう机上の空論は幾らでも考えられる。それを試すのもいいかもしれない。それで改善されるのなら。だが改善されない。それでは成長に繋がらない。付け焼き刃で終わってしまう。"そうなる原因"を突き止められていないのだから。
「あ、もしかして、そういうこと?」
何度も負けている自分を思い返しながら原因を考え続けた誠は、ようやく思い当たるものを見つけられた。訓練中には思い当たらなかったあたり、のめり込むタイプなのかもしれない。そこも改善しないとな、と考えつつ誠は素振りを始める。
「気づいたようだが、まだ荒いな。それに変な癖がつき始めてる」
「そうですか?」
「自分じゃ分からんだろうな。利永のやつも剣術見せてないだろうし、俺が刀を振ってるとこも見せてないし。飯はできたが、少し矯正してからだな」
「よろしくお願いします!」
岳谷に正してもらいつつ、剣術の基本を改めて説明される。刀という武器の特徴を。人はそれに合わせて正しく刀を振るわなければならないことも。
「刀が振るわれる方向と力の向く方向は一致させろ。鬼相手にそこが乱れたら即死だと思え」
振り方を矯正してもらい、誠は岳谷と夕食を取る。その後は水浴びをして汗を流し、小屋に戻ったら素振りの再開。
「させるか馬鹿野郎! 体をちゃんと休ませろ」
「一日でも早く上達したいんです!」
「いいか? 体を鍛え抜くにはたしかに体を苛めるほどに限界に追い込む。俺だってそうするし、そうさせてる」
「でしたら──」
「話を最後まで聞け!」
「んぎゃっ!」
拳骨で床に叩き伏せられる。頭が壊れてしまいそうだと誠は抗議するも、その辺りも見極めて力加減していると一蹴される。
「話を戻すが、お前の体は今限界まで追い込まれてる。気力ではまだ動けるが、それは気力で動いているだけだ。そこを癖つけたら死ぬ。体力は常に管理し、体の調子は任務の際に必ず最高潮に持っていけ。それが基本だ。今は修行期間だからいい。だが、明日のために体を休めろ。効率を落とせばそれだけお前の思いに反して上達が遅れるぞ」
「では休みます!」
「潔いなぁ!」
寝床に入った誠は、5分もしないうちに眠りに落ちた。体力の限界が来ていた証だ。休めたことに体が喜んでいるのか、誠が睡る姿は見ていて心地よかった。
「まったく。世話が焼けるんだか、聞き分けがいいんだか」
岳谷も誠の気持ちを汲み取れないわけじゃない。鬼殺隊に入る者は鬼に怒りを覚えている者ばかりだ。岳谷も鍛錬に励み、死線をくぐり抜けて鬼を何度も葬ってきた。誠が目指すものもまた、それができなければ叶わないのだ。
分かっているからこそ、岳谷は自分にできる限りのことで、誠の限界を見極めながら集中的に修行を付けている。次に行われる最終選別に間に合わせるために。
それから1ヶ月の時間が流れた。
岳谷を全面的に信頼している誠は、岳谷に言われたことを全て覚え、体に染み込ませていった。その早さには岳谷も感心したが、同時に危うさを感じていた。
(こいつは間違っても天才ではない。せいぜい秀才止まりだ。それなのにこの習得の早さ。駆り立てるものは怒りだろうが、何かが引っかかる)
その引っかかるものがいったい何なのか。それが誠にとって良い結果をもたらすのかそうではないのか。岳谷には判断しかねた。
「分からんもんは分からん!」
考えることをやめたとも言える。
何か危うさを感じるのは分かるが、それが何かまでは岳谷には分からなかった。だから対処の仕様がない。むしろ、それならそんなの関係ない、と言えるまでに強くなればいいとか思ってる。
「最終選別までの日程を考えれば、1週間以内にここから出られるようにならないといけない。その条件は一つ。俺に一撃入れろ」
「……やります」
木刀での鍛錬から既に刀での鍛錬に移行していた。それでも岳谷に攻撃を加えられたことはない。
岳谷も刀を所持しての訓練にはなっていた。手合わせをする度に誠は死にかけている。急所への攻撃。それを寸止めされてるおかげで命を落とさないで済んでいるだけだ。
「さすがに本気は出さん。そんなことしたら出られないだろうしな」
「手加減されたら嬉しくないです!」
「強くなってから文句言え! とりあえず、その辺の鬼を殺せる程度の強さでやるから、お前はそれで一撃入れてみろ」
そう言われてから、
誠は一度も岳谷に攻撃を加えることができていない。
今日が最終日だ。今日達成できなければ、どれだけ急いでも最終選別に間に合わない。
「はぁっ!」
「荒くなってんじゃねぇ!」
「ぐっ……!」
「教えたことを忘れるな!」
「どんな状況でも焦らない。思考を止めない!」
直線的になっていた誠の攻撃が変わる。獣のように突っ込むだけだった動きにも変化が表れる。緩急をつけ、躱せる攻撃は躱し、囮の動作を見抜き、防ぐものは防ぐ。
「五感を研ぎ澄ませる。目だけに頼らない」
戦闘中はほとんど目に頼ることになる。人間にとって、目から与えられる情報量が最も多いからだ。しかし、人の目は前方しか見えない。鬼との戦闘が、こうした正面切ってのものになるとは限らない。だから目だけに頼ることはできない。場合によっては、目で終えない速さの攻撃だってあるのだから。
山の中では嗅覚と聴覚を鍛えた。離れた場にいる獣の匂いを嗅ぎ取り、茂みを進む音の大きさ、擦れ方、落ちている枝が踏み折られる音から、どういう大きさの相手か判別する。
目隠しして行われた訓練も、この訓練までの間続いていた。気配を察知できなければ、五感でも気づけない相手に殺されてしまうから。この能力はまだまだ習得できたとは言い難い。たった数カ月では足りない。焦るように成長した誠には、それを習得するのが難しかったから。
「第六感はまだまだ課題だな」
「今ある力で勝つ……!」
「そうだ。俺に一太刀浴びせてみろ!」
体勢を低くし、岳谷の腰辺りの高さを狙って一閃する。それを岳谷は後ろに下がって躱しつつ刀を縦に振るう。それで防がれるも、誠はそこからさらに踏み込んだ。それに合わせて岳谷は刀を引き戻しており、上段から振り下ろされる。
たった1回振り下ろしたようにしか見えなかった。実際には刀が3度振るわれている。下ろされてすぐに振り上げられ、生まれた僅かな隙を振り下ろして斬りつける。
誠は岳谷の刀を、斜めに飛びながら体を捻ることで軽傷に済ませつつ、刀も振るって岳谷に斬りかかる。顎を狙って切り上げられたが、岳谷はバク宙でそれを避ける。
「惜しかったな」
「まだですよ!」
岳谷の視界が誠を捉えた時には、刀の鞘が飛んできていた。さっき攻撃をしながら腰にあった鞘を抜き取り、先に体勢を整えた誠が投げたのだ。
岳谷はそれを避けず、刀でも弾かずに掴んで止める。誠は岳谷の視線の高さも考慮して投げており、岳谷はそれを掴んだことで視界の殆どが埋まる。戦闘の経験、足音から誠が距離を詰めていることは明白。岳谷はそれを分かっていて、距離が詰まる頃に刀を振るう。
誠をそれを跳んで躱し、上から刀を振り下ろす。
「甘いぞ」
「ぐっ……」
誠は跳んで躱したというよりも、岳谷に跳ばされたと言った方が正しい。岳谷は掴んでいた誠の鞘を誠の腹に突き立てた。腹に衝撃が加えられたために刀を振るう力が弱まり、岳谷の刀が防御に間に合う。刀は止められ、鞘で腹を突かれているために動きも封じられる。
だが、誠もそれを予想していた。
「ーーっ! ふんっ!」
「くっ!」
誠は片手でしか刀を握っていなかった。反対の手は、腹に突き立てられた鞘に回っている。防御が遅れたために多少衝撃が体を襲ったが、鞘を掴んでいることでそこを基点にすることができる。
だからこそ誠は蹴りを放つことができた。
虚をつくことはできたが、それでも岳谷にとってその蹴りは遅かった。回避が間に合う。回避は間に合うが、それをすればその後に斬られることも分かっていた。
誠の蹴りを頭突きで防ぐ。それでも誠の攻撃はそこで止まらない。体勢が変わり、地へと落下していきながら誠は刀を構え、着地の際に攻撃されないように牽制する。
動きは悪くない。だが岳谷にとってそれは牽制にならない。誠に刀を突き出す。
「ここだ!」
「……ふっ」
誠はこれを狙っていた。
岳谷が誠を諦めさせるために仕掛ける一撃。
それを放つとなれば、そこからの防御への変更は間に合わない。誠は肩を軽く斬られるも、それは岳谷も同じだった。誠の刀が腕を軽く掠めている。
初めから軽傷で済ませようとしては、岳谷に攻撃を当てることはできない。岳谷を本気で傷つけようとして、それでようやく攻撃を当てられるか、という程度だ。
誠は、岳谷ならきっとその程度に済まされるようにと動くと予想していた。そうなった。岳谷の実力を疑ったことはなく、だからこそ誠は本気で挑み続けられた。
「あ、はは……!! やった!!」
「ま、認めてやるしかないか。明日の朝に出りゃ間に合う。今日は休んでけ」
「ありがとうござ──」
「それは選別を超えてから言いに来い」
岳谷に口を塞がれ、誠は首を縦に振る。
今日はこれで終わり、かと思いきや、呼吸の訓練の復習が待っていた。それが下手な誠には、重要な課題である訓練だった。
日が暮れるまでそれが続き、呼吸の使用で体力が底突きた誠は、体をギクシャクさせながら誠は夕食にありつく。食事は体への効用も考えられており、食事を終えた誠は水浴びを終えてすぐに泥のように眠った。
若さ故か、誠は朝にはすっかり体力を取り戻していた。出発の準備を終えた誠に、岳谷は選別として刀を一本渡した。
「これは?」
「俺が使っていた刀だ」
「え!? そんな大切なものは受け取れません!」
「いいんだよ。俺にはこの刀あるし」
「あ、二刀流だったのですか」
「違うけど?」
「え?」
「ん?」
岳谷は何を言っているんだ。二刀流ではないと言うのなら、刀は一本のはず。それなら今岳谷が持っている刀と、壁に立てかけられている刀は何なのか。
「これは岳谷さんが使っていた刀なんですよね?」
「そうだな」
「壁にある刀もそうですよね?」
「もちろんだ」
「で、二刀流ではないんですよね?」
「そうだぞ」
「ではこの刀は?」
「俺が使ってた刀だ」
誠は頭を抱えた。
聞きたいことはそういうことではない。
首を傾げた岳谷だったが、誠が聞きたいことをようやく理解して笑う。誠は冷めた目で岳谷を見つめるも、岳谷はそんな事気にしない。
「俺が最後まで使ったのは、あの刀だ。これは俺が最終選別の時に使った刀。お前も最終選別の時に使えばいい。生き残れば、お前用の刀も用意される」
「あ、そういう……。分かりました。必ず返しに来ます!」
「おう! 行ってこい!」
誠は岳谷に見送られて出発し、しばらく歩いたら走って岳谷の下に戻った。
「場所ってどこですか!?」
「あ、言ってなかったな」
次回には原作キャラ出ます。はい。
2話まではある意味プロローグみたいなもんですね。