1話
半年に一度行われる柱合会議。そこには"柱"に襲名された者たちが集まり、当主を交えての話し合いが行われる。現在の柱の数は9名。それは柱の人数の上限であり、減ることはあれど10名以上になることはない。そして、柱たちは扱う呼吸を前につけて呼ばれる。たとえば、柱の歴が最長である悲鳴嶼行冥は、岩の呼吸の使い手だ。したがって、名前で呼ばれるか「岩柱(様)」と呼ばれるかの2択である。
この集まりは基本的には話し合いだけで終わる。例外としては"裁判"だ。隊の規律に違反した者を裁く。例えば、自分の意志で味方を傷つけた者。鬼と内通する者など。それらの規律に違反した者は、その場で除名されたり裁判を受けたりする。だが、裁判が実際に行われる者は滅多にいない。行冥でも今まで一度もない。なにせ鬼殺隊は、鬼への敵意が高いものが多い隊なのだ。人を裏切るなど普通は考えない。
だがこの日、その裁判が行われようとしていた。捕らえられた隊士の名前は竈門炭治郎。鬼と化した妹を守り続けていることが、今回の裁判の焦点に当てられている。妹の名前は禰豆子。いつもは炭治郎が背負う箱の中におり、夜じゃない限り箱から出ることは限りなく少ない。
「禰豆子は一度も人を食べてない!」
それが炭治郎の言い分だった。だが、それを聞いたところで「なら大丈夫だな」と納得する柱たちはいない。
「今後食べないとは限らない」
それが柱たちの総意だった。柱のほぼ全員が、大切な人を鬼に殺されている者たちだ。鬼に対する殺意は高く、情状酌量の余地もない。唯一柱の意見に賛同していないのは、炭治郎と禰豆子に最初に会った義勇だけ。義勇は鱗滝の下へと炭治郎を向かわせ、隊士に育てるようにお願いしていた。禰豆子のことも手紙に書き、「この鬼は何か違う」と区別して考えている。
「鬼を連れてた馬鹿隊員はそいつかいィ?」
そして、柱の中でも鬼への殺意がずば抜けて高い実弥が、そんな事を認めるはずもなかった。禰豆子が入っている箱を隠しから奪い取っている。勝手なことをされ、柱になったしのぶが怒りを顕にしたが、実弥はそんなことを気にしなかった。
「鬼がなんだって? 坊主ゥ。鬼殺隊員として人を守るゥ? そんなことはァ、ありえねェんだよ馬鹿がァ!」
『ッ!!』
実弥が刀を抜き取り、禰豆子が入っている箱へと突き刺す。血が庭を汚していく。だが、その血は禰豆子の血ではなかった。実弥の刃は禰豆子の寸前で止まっている。流れているのは、実弥の刃を掴んで止めた者の血だ。
「……なんの真似だ泰富ィ。そもそも柱じゃねェお前が何でここにいやがる」
「俺がここにいる理由が、『お館様に呼ばれた』以外にあるわけないだろ。それと、その鬼の連行もお館様の指示だぞ? 勝手に傷つけていい訳がない」
「チィっ!」
実弥が刀を納め、禰豆子が入っている箱を誠に投げ渡す。至近距離で投げられるも、誠はそれをやんわりと受け止めた。それを見た炭治郎は安堵し、しのぶが誠へと駆け寄る。
「手を出してください」
「これくらい──」
「いいから出しなさい?」
「はい」
口答えしようとすると刃を喉元に突きつけられ、誠はすぐに血が出ている手をしのぶに出した。しのぶはにっこりと笑みを浮かべ、刀を納めて手当を始める。誠は消毒液に顔を歪め、僅かに抵抗しようとするのをしのぶが足を踏んで止める。その光景はちょくちょく見られるもので、先程までの張り詰めていた空気が弛緩される。近くにいた隠の二人は、密かに大きく息を吐いて束の間の休息を得る。
「お館様が来られるぞ」
「手当ももうすぐ終わりますので」
義勇が声をかけ、他の柱たちの下へと歩いていく。柱たちは横並びになり、木の上にいた小芭内もそこに加わった。手当が済んだ誠としのぶもそこに加わり、状況を掴めていない炭治郎の世話を誠がする。
「お館様が来たら頭を下げろ」
「あ、はい。あの──」
「話は後で」
「すみません」
輝哉が娘二人に付き添われながら、柱たちの前へと姿を現す。全員が同時に頭を下げ、炭治郎だけタイミングが遅れてそれに続く。輝哉への挨拶を実弥が行い、早速炭治郎と禰豆子の話に。二人のことを当然輝哉は知っており、それでいて黙認していた。それを正式に柱たちにも認めてほしいとお願いする。
恋柱である甘露寺蜜璃は、輝哉の指示ということでそれを了承し、霞柱である時透無一郎は、すぐに忘れるから成り行きに任せると発言する。義勇は無言で、しのぶは思うところがあるのか、無言でもその表情は少し厳しかった。残りの柱たちはそれを容認できない。敬愛する輝哉の頼みでも、それは容認できない。
「では手紙を」
「はい」
輝哉の指示で、娘が手紙を読み上げる。それは元水柱であり、炭治郎の育手である鱗滝から輝哉へと送られたものだ。その手紙には、炭治郎が鱗滝の下で修行している2年間、禰豆子が人を襲わなかったことが書かれていた。鱗滝の下には孤児たちがいる。鱗滝が炭治郎に直接手ほどきしている間、禰豆子は人を襲い放題の環境だった。それにも拘わらず、禰豆子は一度も襲うことがなかった。
その事実が書かれ、炭治郎と禰豆子のことを認めてくれという旨が書かれており、仮に禰豆子が人を襲った場合──
「元水柱鱗滝左近次、現水柱冨岡義勇が腹を斬る。その旨が書かれて締め括られております」
その手紙のことを炭治郎は知らなかった。炭治郎は義勇の方に視線を向け、静かに涙を溢した。
「死ぬなら勝手に死に腐れよ」
「誠。君の意見を聞きたい」
実弥の抗議を遮り、輝哉が誠に意見を求めた。それが誠が呼ばれた理由。炭治郎たちのことを柱たちに認めさせること、その説得の助力になることを望まれている。他にも、"影"として動いていること、利永から引き継いだ情報の開示も求められているのだが、それは今は関係ない。
「炭治郎と禰豆子。両名のことは認める他ないでしょう。炭治郎は鬼舞辻無惨と遭遇したと聞いています」
『!?』
「なんだと!?」
「鬼舞辻はどんな姿だった!」
「能力は!」
血気盛んな柱たちが炭治郎に次々と質問をぶつけていく。突然のことに炭治郎は戸惑うも、輝哉がそれを静めさせた。
「鬼舞辻は炭治郎に追手を放っている。単なる口封じかもしれないけどね。禰豆子の方も、何やら鬼舞辻の想定を外れたことが起きているようなんだ。この二人を死なせるのは得策ではない」
「……その隊士はまだしも、鬼は認められません。食べてからでは遅いのです。人は生き返らない」
「私も不死川の意見に賛同です」
「困ったね誠」
「そこで振るんですか……」
なかなかに酷いタイミングで話を振られ、誠はやれやれと肩をすくめる。そのやり取りは他の柱たちにとって面白くない。自分たちは知らされていないことがあり、それが重要そうなものだと分かったからだ。しのぶにも鋭い視線を向けられ、誠はため息をついた。
「後で話すが、この二人を死なせるわけにはいかない。今まで動きのなかったあの鬼に変化があったんだ。そのきっかけである二人には、これまで通り隊員として動いてもらうべきだろう」
「はぐらかさずに今話せやァ」
「不死川。それは後にするべき話なんだろう。それよりだ誠。これも
「はい」
「チっ、あの野郎め。どこまで見てたんだ」
利永は炭治郎と禰豆子のことは言い当てていない。ただ、鬼舞辻無惨に変化を与える存在を予見していたのだ。それを聞いたことで、利永を知っている天元と行冥は口を閉じる。感情的には認めたくないが、この件を認めしかないと自分に言い聞かせているのだ。
だが、利永を知らない蜜璃と無一郎は首を傾げ、名前しか知らない実弥、小芭内、杏寿郎は不審に思った。だから誠も少し譲歩するしかない。
「悪い炭治郎。禰豆子を試させることになる」
「え?」
「不死川。試したらいい。禰豆子が人を襲わないのかどうかを」
「試すだァ? 証明するの間違いだろうがァ」
実弥が禰豆子のいる箱の留具を壊す。そのついでに禰豆子を刺していて、炭治郎はもちろんのことながら、誠もイラッとした。自分の腕を斬りつけ、箱に浴びせることで禰豆子を誘った。
「不死川。日陰では駄目だ。そこでは鬼は出てこない」
小芭内がそれに乗り、日陰に行くように指示する。実弥は輝哉に一言謝り、屋敷内に上がって箱から禰豆子を出させる。日陰になっているため、禰豆子も箱から出ることができた。竹簡を咥え、必死に理性を働かせて自分の衝動を抑えている。
「禰豆子!!」
炭治郎の声が聞こえ、禰豆子は実弥にジリジリと近づいていた足を止める。さらに目を閉じて顔を横に背け、実弥を食べないぞと意思表示する。病が進行し、目が見えなくなった輝哉に、娘がその状況を説明した。
「これで禰豆子が人を襲わないことが証明できたね」
「!!」
「禰豆子は箱に戻っていいぞ。留具は直してやる」
誠も屋敷へと上がり、隠の人間に必要な工具を持ってくるように指示を出す。実弥は不愉快だとはっきり顔に表すも、これ以上は追及できないとして元いた位置へと移動した。
「よく我慢できたな」
「♪」
誠が褒めて優しく撫でると、禰豆子は嬉しそうに目を細めた。その様子に安堵の息を漏らす炭治郎に輝哉が話しかける。その内容に耳を傾けつつ、届いた工具で留具の修理を開始。実弥も器用に壊したもので、留具以外は傷ついていない。禰豆子を刺す時も、隙間を通していたようだ。
(光が入るようなら、ここの板も新調しないと駄目か。一応後で新しいやつを用意するとして、今は留具だけだな。念の為にそれまでは布で光を遮るか)
予定も決め、慣れた手つきで留具の修繕を行う。誠はこの手の作業が巧かったりするのだ。カナエに頼まれ、カナヲ用にあげた"思い出箱"も誠が作っている。そんなわけで、手早く丁寧に済ませられるのだ。
「これでよしっと。禰豆子も中に戻れ」
禰豆子は身長を縮ませ、箱の中へと戻っていく。鬼なのだが聞き分けがよく、初対面の誠相手でも指示に従った。ある程度誠が信用を勝ち取れているのかもしれない。
「真菰が言った通りだな」
「?」
「禰豆子がいい子だって話だよ」
そう言うと禰豆子が目を細めた。鱗滝の下にいる間、禰豆子はそのほとんどを睡眠に回している。目を覚ましたのも、炭治郎が最終選別から戻る少し前だ。禰豆子が真菰と過ごした時間は短いものの、真菰は禰豆子を可愛がり、禰豆子も真菰に懐いていた。その時の話を、誠は真菰から聞いている。
箱の戸を閉め、念の為に布を巻いておく。それが終わる頃には、炭治郎が蝶屋敷へと運ばれていた。隠たちが全力で走っているのを見ると、相当心労が溜まっているのだろう。無知故ではあるが、物怖じしないのも炭治郎の良さだ。
「……禰豆子お前、炭治郎に置いていかれたな」
「ふがふが!!」
「会議が終わったら連れて行くから、それまで待ってくれ」
置いていかれたことに憤慨した禰豆子は、箱を揺らして怒りを顕にする。誠がそれを落ち着かせるのと、箱が横に倒れるタイミングは一緒だった。とりあえず誠は、娘の二人に禰豆子をお願いすることにし、会議へと混ざった。
話は今回義勇としのぶが出撃した件だ。下弦の鬼1体相手に柱が二人派遣される事態。被害状況から念を入れたわけだが、結果だけを言えば下弦の鬼1体だけのために柱二人を出させたということ。それは、柱以下の隊士たちの質が落ちたということになる。
「数年前のあれがあったとはいえ、隊員は増えてる。単純に考えれば隊が大きくなったわけだが」
「その隊士たちが目下の悩みの種だと言ってるんだ。そもそもあれで生き残れた者たちも何をしている」
「あの……泰富さん、伊黒さん。数年前のあれとは何ですか? す、すみません。知らないことで」
「いやすまない甘露寺。君と時透は知らないことであったな」
『やっぱり甘露寺に甘いよなこいつ』とか数人の柱が同様に思うも、それを口にするようなことはしない。会議の時間は決まっており、無駄話をする時間などないのだ。
「俺が追っている鬼、嶺奇が引き起こした戦いでな。結末だけ言うと、その時の下弦の鬼を一掃し、数百体の鬼を討ったが、こちらも多くの隊員を失い、終盤に現れた上弦の鬼たちによって五人の柱を失った戦いだ」
「そのような戦いが……。しのぶちゃんのお姉さんもその時に?」
「……いえ。姉さんは別件で」
「……それについてはいいだろう。話は今の隊員たちについてだ。優秀な隊員もちらほらいるようだが、全体的には芳しくないな」
「ケッ、役に立たねぇ奴らはとっとと辞めりゃあいいんだよォ」
そんな調子で話が行われているのだが、この場で唯一顔を真っ青にしている男がいる。名前は村田。その時の状況を話すためにこの場に召喚された隊士だ。柱たちの話が、グサグサと胸に突き刺さっているのだ。その心境は察してあげてほしい。
だが気を遣うような人間はこの場にはいない。しのぶでさえも庇うような発言はしない。隊全体の話には、しのぶも良く思っていないのである。その件を最も危惧しているのは誠で、共に生活するしのぶは詳細こそ知らねど、漠然と危機感を抱いている。
「残り時間も少ない。ひとまず隊員たちには、鍛錬を怠らないように指示するしかないね。自分の命を守るためにも、強くなってもらう他ないのだから」
「お館様……」
「そんなわけで村田さん。帰ってもらって大丈夫ですが、その旨を他の隊員たちに伝えてください」
「か、畏まりました!」
解放された! という気持ちが強く、それがはっきりと顔に出てしまった。しのぶの笑みが段々と怖くなり、その頬を誠が抓ってやめさせる。
「抓らないでください」
「なら虐めてやるな」
「虐めてませんよ。誠さんじゃあるまいし」
「おい」
「二人ともそこまでだ。続きは会議が終わってからにするといい」
「すみません悲鳴嶼さん」
「いややりませんけどね?」
二人がこんな感じで話を始めると、終わりが見えなくなるということを柱達は知っている。一度『いっそ気のゆくまで言わさた方がいいのでは?』となり、成り行きを見守ってみたものの、1時間以上言い合いが続き、痺れを切らした実弥が憤慨したことでようやく止まった。そこまで堪えたのは、行冥に抑制されていたからだ。ちなみに、その時に二人が口を揃えて『どうかしたのか?』と問うた時の不死川の暴れぶりは、今では語り草となっている。隊員に広まったのは杏寿郎のせいだ。
議題は次のものへ。むしろこちらが本命だとも言える。誠が今まで黙っていた情報。利永が残した情報。その開示だ。
「お館様の指示もあって隠していましたが、あの二人が現れた以上共有します」
「あの二人がそれほどまでに重要なのですか?」
「先代鳴柱だった乃木利永。その人の残した情報は大きく分けて二つ。一つは嶺奇について。こっちは俺の担当で、大した追加情報もない。もう一つが鬼舞辻無惨に通ずる話。もし、あの鬼が行動を起こすのであれば、そのきっかけになった人物が"鍵"だということ」
「"鍵"……それは何の鍵かね?」
「あの鬼を討つ機会が訪れる"鍵"だ」
その言葉に場の空気が変わった。その話が当たるのであれば、憎き元凶を討つことができるというのだから。だが、それが信用に足るのかも分からない。信憑性に欠ける。だからこそ誠も今まで話さず、輝哉も伏せるように話していたわけだが。
「それが実現する保証はあるのか? ただの願望では話にならんぞ。いや、与太話にしても笑えない」
「伊黒、お前が言ってることも当然だが、おそらくはそうなるぜ。なぁ悲鳴嶼さんよ」
「……然様。信じ難いことだが、そうなるのだろう。きっかけの役割を担ったのが竈門兄妹だとすれば、今後の大局も当てる。あの者はそういう男だった」
利永が柱をしていた頃から共に柱であった天元と行冥の肯定により、その情報を疑う柱たちが耳を傾ける体勢に戻る。それを待っていた誠は、利永が残した情報。今後の大局について話していく。
「あの戦い以上の激戦がいずれ訪れる。利永さんはそう予見した」
「あれ以上となると、総力戦だな!」
「当たりだ煉獄。鬼舞辻の手駒である鬼たち、しかも上弦が初めから出てくるだろう。その規模の戦いともなれば、身を隠してる嶺奇も出てくる」
「3陣営での混戦か」
「? その嶺奇という者は鬼ですよね? なぜ3陣営なのですか?」
嶺奇を知らない無一郎が疑問を口にする。蜜璃も同様のことを思ったようで、無一郎の言葉にこくこくと頷いていた。
「嶺奇は鬼舞辻の支配から逃れている。と言うよりかは、そもそも厳密に言うと、あの鬼は鬼舞辻が生み出した鬼じゃない。だからこそ鬼舞辻は嶺奇を敵視しているし、嶺奇も狙われれば迎撃行動に出るか身を隠す。俺たちはどちらも倒す。だから3陣営なんだよ」
「それ、鬼舞辻以外にも鬼を生み出せる存在がいるということでは?」
「いないよ。嶺奇はあまりにも特殊事例だ。まぁ、こいつは俺に任せておいてくれればいい」
無一郎の疑問に誠が答え、嶺奇についても軽く話す。さらなる疑問が生まれたのだが、そこまでは誠も話す気はなく、無一郎も聞きたかったことを聞けたということで引き下がった。何よりも、輝哉から任命されていることを、柱たちは知っている。その時点で『誠が追っている鬼については全て任せる』という認識が共通であるのだ。
さて、鬼舞辻無惨の話に戻すと、やはり問題がある。先程の題目と重なるのだ。つまり、隊員たちの実力が足りない。柱はともかく、それ以外の隊員たちがもっと強くならねば、来る時に戦いが成立しない。
「また修行をつけさせるのも難しい話だ。鬼の数は増え、出没情報は後を立たない。纏まった時間を取れないとなれば、一気に鍛えることもできない」
「実戦で強くなってもらうしかあるまい。いくら鍛錬を積めど、最終的には問題となるのが"実際に動けるかどうか"なのだから」
「と煉獄さんは言ってますが、その辺誠さんはどう思いますか?」
「いやその通りだろ。しのぶお前、未だに俺が昔2年間空けてたこと根に持ってるな?」
「うふふ、そんなわけないじゃないですか~。この手の話は誠さんに意見を求めるのがいいと思っただけですよ?」
「絶対嘘だ」ということは、しのぶとの付き合いがそれなりにある者全員が思った。義勇は例外である。義勇はその辺り鈍いため分からない。それよりも、しのぶに「皆さんに嫌われてますよ」と言われたことの方が頭に残っている。
「さて、利永が残した情報も共有できたわけだし、今回の会議はこの辺りで終わるとしようか。この後食事を取るのだけど、みんなはどうするんだい?」
「ご一緒させていただきます」
「右に同じく」
「お館様のお誘いとあらば喜んで!」
「失礼させていただきます」
次々と柱たちが参加表明していく中、空気を読まない義勇がバッサリ断る。「え、お前嘘だろ」みたいな視線が義勇に集まり、実弥が義勇に噛み付いていく。
「何言ってんだテメェはよォ」
「帰ると言った」
「あ"ぁ!?」
「私は構わないよ。強制ではないからね」
「お館様申し訳ありません。私も今回は失礼させていただきます」
「うん。しのぶが帰るということは、誠も帰るのだろうけど、ちなみに理由を聞いてもいいかな?」
「その認識は改めていただきたい」
セットで扱うなと抗議する誠の声は誰にも拾われず、しのぶは帰る理由を素直に話した。大した理由でもない。先約があるというだけのこと。
「なるほどね。義勇もそうなのかな?」
「はい」
「それは邪魔するわけにも行かないね。実弥もいいね?」
「……はい」
実弥が乱暴に義勇を突き放したところで、この場は解散となった。残る者たちは屋敷内へと上がっていき、誠としのぶと義勇の三人は帰路につく。禰豆子のことも忘れずに。と言ってもバラバラには帰らない。自宅がある義勇も、今回は同じ場所へと向かっている。その場所はしのぶと誠の生活の拠点。今では多くの隊士たちの治療の場となっている蝶屋敷。三人に声をかけた人物は、そこでの居候生活を開始した隻腕の女性。
この三人の足は速く、大して時間をかけることなくそこに帰ることができた。玄関を上がって一直線に一つの部屋を目指し、揃って中に入った。そこで食事の準備をしていた女性は、三人が帰ってくる時間を予測して作ったため、出来たての料理が食卓に並んでいる。
「ふふっ、ぴったりね。おかえり」
「ただいま真菰」
炭治郎と禰豆子の出番が少ないですね。次の話ではもう少し出てもらえるはず。他の二人も。