月夜の輝き   作:粗茶Returnees

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 タグ増えました。付けるならあれくらいしかないかって感じです。
 原作キャラやっと出ます。


3話

 

 最終選別が行われるのもまた山の中。育手に鍛えられた場も山なのだから、何か意味が込められているのではないかと誠は深く考えてみたが、人目に触れない場所という理由が一番大きいことに気づいて一人恥ずかしくなる。

 岳谷の下から出発して早二日。最終選別に間に合うはずなのだが、ここで一つの問題が生じた。

 

「どこだここ」

 

 誠は迷子になっていた。

 これまでの生活を鑑みると、遠出の経験は一切なく、常に住処の近くが活動範囲だった。村から岳谷の下まで移動した時が初めての遠出なのだが、あの時は利永に担がれていた。途中で気を失ったのもあり、どう辿り着いたかはさっぱりだ。

 そんなわけで、今初めて誠は遠出をし、ものの見事に道に迷っていた。世間を知らず、遠出も初めてなのだから仕方ないのかもしれないが、岳谷が知れば呆れて誠を放り投げるだろう。

 

「あら。もしかしてあなたも同じ?」

「わぁっ!? なに!?」

「驚かせてごめんなさい。道中で同士に会えるとは思ってなくて」

「いや、謝らなくていいよ。俺が勝手に驚いてただけだし」

 

 突然後ろから話しかけられ、驚きながら距離を取って振り返ると、そこには側頭部に面をつけた少女が立っていた。驚いた誠に丁寧に頭を下げ、誠も慌てて頭を下げる。驚いたとはいえ、反応が失礼だったと思ったから。それとは別に、内心では違うことで驚いている。

 

(気づけなかった……)

 

 肩の力を抜いていたとはいえ、耳は立てていたし、匂いにも注意を払っていた。危険をいち早く察知できるように。

 それなのに少女の登場には驚いた。少女の接近を誠は感知できなかったのだ。この一点だけを見ても、誠と少女の実力差が見て取れる。

 

「そういえば、同士ってどういうこと?」

「あなたが刀を持っていて、私が向かう方向と同じ方に進もうとしてる。身のこなしも一般の人とは違うから、最終選別に行く人なのかなって」

「最終選別……! 君も行くの!?」

「そうだよ」

 

 女性でも戦うのか、と衝撃を受ける誠。無知であることと、出会っている鬼殺隊の人間が男だけだったということもあり、間違ったイメージが付いていた。

 女の子なら辞めておいた方がいい。なんてことは言えなかった。目の前にいる少女が、自分よりも強い少女だと分かっていたから。

 

「私は真菰。あなたは?」

「泰富誠。絶賛迷子中」

「……迷子なんだ」

「はい」

 

 なんだか馬鹿な奴に出会ってしまった気がするが、真菰はそれをすぐに流した。真菰が案内する形で会場まで目指すこととなり、道中はそれぞれの事を話していく。

 

「誠は強い人だね」

「そんなわけないって、今も真菰がいてくれてるから安心できてるだけだし」

「強いよ。悲しい事があったのに、それでも進んでいける人は強いって、私はそう思ってる。自分への評価を厳しくすることと、自分を卑下することは違うと思うんだ」

「……なるほど?」

「分かってないね」

「卑下って何? なんで真菰はそんな難しい言葉を知ってるの?」

 

 いい事を言ったはずなのに、真菰はなんだか恥ずかしい事を言ったような気分になる。何一つ真菰に落ち度はない。誰か他にもいてくれたら、そう言葉をかけられる。後で第三者にこの事を話しても、同様の言葉を得られる。

 強いて言うなら誠が悪い。村の環境からして、あまり教育が充実していなかったのは仕方ないのだが、誠が無知なのが悪い。二極化しないのであれば、誰も悪くない。落とし所としては、それが一番収まりがいいだろう。

 

「簡単に言ったら、自分を小さく評価すること。『俺はこの程度だー』みたいな」

「へ~。真菰って頭いいのな」

「いろいろ教えてもらったから」

「うちのとこは徹底的に鍛えられただけだったな~」

 

 修行の日々を思い返しても、学術的な教育は一切行われなかった。あまりにも辛い日々だったことを思い出し、軽く気分が悪くなるも、岳谷なりの思いやりがあったことも分かっている。

 誠は強くなりたかった。岳谷もそれに協力した。単独行動をするか、誰かと協力するか。それは人によって違う。一人で対処できるならそれでいいが、足りないものを補い合うのも人間だ。それに、任務で負傷すれば回復までの間に時間が生まれる。その時に教養を身につけるのでも遅くない。岳谷はそう判断した。

 誠は一人でいる方が不安定だから。誰かと組む方がいいという狙いもある。尤も、そこまでの補助は岳谷にはできないのだが。

 

「修行期間が短いとそういう事もあるのかな」

「1年にも満たなかったし、そういうもんなのかな」

「1年未満? 天才の部類?」

「いや、うちの育手の人が言うには、少し誇張したら秀才の部類って言ってた」

「平凡以上秀才以下。面白い人」

 

 口元を隠してくすくす笑う真菰。どの辺りが真菰に受けたのか誠にはさっぱりだったが、年齢が近い人と話すのは久しぶりだから気にしなかった。あの日以降、雑談らしい雑談をしてこなかった。岳谷とは修行の話ばかり。誠がそればかり聞いたから。

 ふと振り返り、申し訳ないことをしたと思った。岳谷にとっても、それが仕事ではあるとはいえ、二人きりの生活でその事ばかり会話していたのだから。岳谷にとっては四六時中仕事の話ばかり。食事の世話までしてもらって。

 

(甘えてばかりだったな)

 

 最終選別を突破したら真っ直ぐ向き合おう。改めてお礼を言おう。

 新たな決意が生まれる。それは誠の原動力の一つとなる。

 

「真面目過ぎるぐらいに真面目な人。それでいて不器用ってとこかな?」

「え? どうかした?」

「何でもない。それよりもうすぐ日が暮れる。鬼が出てくるけど、どうする?」

 

 このまま進み続けるか。それとも近くに寝床がないか探して一晩休むか。

 真菰は選択肢を誠に提示した。

 

「どっちにしても最終選別には間に合うのか?」

「そうだね。会場の方でゆっくりできるか否か。それぐらいの差しかないよ」

「なら休もう。鬼と遭遇したとして、その鬼に勝てる保証もないんだから」

「よかった。同意見だね」

 

 意見が別れたら面倒だったと呟きながら、真菰は刀に添えていた手を下ろす。どこかに泊まれる所はないか足を進める真菰の背を負いながら、誠は背筋から冷や汗を流していた。さすがに殺し合いにはならないだろうが、意見が別れたら手合わせする羽目になっていた。無駄に負傷したかもしれない。

 何より、真菰とは刃を交えたくはなかった。

 

「誠も探すの手伝ってね。私より背丈あるんだし」

「背丈があるのと夜目がきくのは別だからな?」

「夜目ぐらいきくでしょ?」

「そうだけども」

 

 昼間であれば、遠くにあるものを見る時に視界がぼやける。視力によってそこに差が出るわけだが、視力の限界の表れがそれだ。

 夜はまた少し話が変わる。第一として、夜の闇に目が慣れているかどうか。視力の話はその後だ。そして夜は明かりがなければ基本的に暗闇。昼間より視力が多少なりとも落ちる。少なくとも現段階の誠はそうだった。

 見えないわけではない。見える範囲が昼より狭くなるだけだ。

 鬼を警戒しながら二人は休める場所を探す。しばらく移動を続けていると、前方に小屋があるのを発見した。それを見つけて二人は安堵するも、警戒を高くした。

 

「誠」

「分かってる。あの小屋、鬼がいる」

 

 いつでも刀を抜けるようにしておきながら、二人は小声で言葉をかわす。鬼がいるのは分かるが、その鬼の強さは分からない。鬼がこちらに気づいていて待っているのなら、こちらから踏み込むのは下作。気づいていなければ奇襲になるのだが、賭けとしては危険が大きい。

 

「私が誘き出すから、誠が鬼を斬って」

「真菰に危険しかないんだが?」

「私は動きの速さが取り柄だから、役割分担としては適切だよ」

「……分かった」

 

 気配を消す技術も真菰の方が上。鬼が気づいているかの確認自体も真菰の担当となってしまうが、虚勢を張ると死ぬと岳谷から何度も言われているため、誠はそれを止めることはできない。鬼が真菰に襲いかかっても、誠が素早く斬ればいいだけの話。

 

「私が鬼を倒すかもしれないね」

「そうなったら俺の立場はないな」

 

 軽口を叩いて緊張を和らげる。強ばっていた体が和らげられるのを感じる。

 真菰が小屋に接近し、誠はすぐに助けられる距離で身を潜める。

 真菰は小屋の戸を勢い良く開けてすぐに後ろに跳んだ。その真菰を追うように鬼が飛び出し、真菰へと伸ばされた腕が斬られる。

 

「ちっ、小娘!」

「やっぱ俺いらなくね?」

「おま……!」

 

 真菰に腕を斬られた鬼は、誠の接近に気づかなかった。あっさりと首を斬られて体が消滅していく。

 真菰の素早さなら、これくらいの鬼を一人でも倒せた。いいとこ取りになった誠は、今の自分の実力をどうにも実感できなかったが、真菰の実力の片鱗は見て取れた。

 

「一人でやるより安全でしょ。それに、私って速さはあっても力が弱いから」

「それは知らなかった」

「今言ったもん」

 

 真菰の弱点である力の弱さ。それは致命的な欠点だった。この程度の鬼であれば真菰も問題なく斬れるのだが、硬い鬼だっている。鬼の強さを分かりやすく判断する材料としても、首を簡単に斬れるかどうかがポイントだ。単純に、強い鬼は硬いと考えてもいい。

 真菰はその欠点を補えるようにならないといけないのだが、その手段をまだ持っていなかった。身体能力の向上もまだ見込めるが、何かしらの手段を見つける必要はある。真菰も、真菰の育手である鱗滝も、そこは最終選別を突破してから見出そうと決めていた。

 

「鬼がいたわりには、この小屋荒れてないな」

「鬼はてっきり人がいると思って入ったんじゃないかな。でも中には誰もいなくて、その時に私達がこちらに来たってところだね。ここは人が住む場所でもないようだし」

 

 真菰の推測は当たっていた。この小屋は生活の後が一切ない。旅人の仮宿として建てられた建物だからだ。ここに訪れた者は、ここで一泊するだけ。素泊まりプランだ。

 布団があるわけでもなく、申し訳程度に薄い掛け布団があるだけ。誠はそれを真菰に投げ渡す。

 

「ありがとう。って、誠の分がないじゃん」

「俺は別にいい。修行の一環として、こういう場でも休めるように仕込まれてる」

「それでも今は修行じゃないし、想定していた状況と少し違うでしょ?」

「どうだか」

 

 真菰が何か言おうとしていて、それが何かは分からないなりに、誠はそれを聞かないうちから拒むことを決めていた。碌な内容ではない。誠の頭でそう告げられている。

 真菰も誠が話を終わらせたがっていることに気づき、それでも無視して行動を起こした。持ち前の素早さで誠に肉迫し、布団を誠に絡めて床に体を倒させる。

 

「何すんだよ!?」

「これ私たちには大きいし、二人で使えるでしょ?」

「なんで真菰と寝ないといけないんだ!」

「え、何かするの? ごめんなさい。別れよ」

「何もしないし! 俺たちは初対面で何の関係でもないだろ!」

 

 完全に話の主導権を握られ、そういえば一度も女性相手に話し合いの主導権を握れたことがないな、なんて悲しいことを思い出して少しへこむ。そんな思考をすぐに投げ捨て、真菰が何を考えているのか問いただす。何もする気はないが、それはそれとして初対面の男を相手に何を考えているのだと。

 

「だって、私だけこれを使うのは気が引けるから。かと言ってどちらも布団を使わないという選択肢もない」

「いやあるだろ」

「私、布団がないと寝付けないから」

「お前の都合かよ!」

「枕は無くても大丈夫だから、腕枕とか考えなくて大丈夫だよ」

「初めから考えてなかったよ!」

 

 布団から抜け出してツッコむ誠に、真菰はそれより早く休もうと言い放つ。この件に関しては、完全に誠の意見を無視するようだ。

 休むと決めたらすぐに眠気が来るようで、真菰は既に目が半開きになっていた。うとうとしていても、自分一人が布団を使うのは申し訳ないという気持ちは消えないようで、片手で布団を持ち上げながら誠を待つ。相手が相手だったら、その待ち方は誘いにしか思えない。

 誠が無知であり、真菰にそういう感情を抱かないために何も起きないが、これを鱗滝が知ったら頭を抱えるだろう。

 

「ねよ?」

「意識飛びかけながら話しかけるな。不気味だから」

 

 視界も合わなくなってきた真菰を不気味に感じ、これ以上長引かせては翌日の真菰の調子が狂うかもしれない。自分を納得させるために言い訳にもならない言い訳を考え、誠は真菰の手を布団から離させて横になった。

 真菰は満足したようで、可愛らしく寝息を立て始める。初対面だというのに、誠を信用しているからこそできること。そう信用されてしまえば、誠も悪い気はしなかった。真菰に背を向けて目を瞑る。

 

「……ん? 真菰が寝たなら俺布団から出てよくね?」

 

 今さら気づいている。

 そして気づいたらすぐに布団から出ようとして、服を掴まれた。

 振り返ると、真菰は寝ているにも拘わらず、誠が逃げ出そうとしているのを食い止めていた。力が弱いという話はどうしたと思わせるほどに、誠を引っ張る力は強く、誠は大人しく寝ることにした。

 翌朝。日の出とともに誠は目を覚ましたが、真菰の方が先に起きていた。早く起きることに自信があった誠は、密かにショックを受ける。

 

「おはよう。早く目を覚ましてくれてよかった」

「それなりに自信があるから。朝食はどうする? 昨日は何も食べずに寝たし、さすがに何かしら食べないと駄目だろ」

「さっき魚捕まえてきたから、それでいいかな?」

「えっ!? 真菰いつ起きたんだよ! ちゃんと休めてるのか!? 鬼には遭遇しなかったか!?」

「心配が入ってるあたり、結構優しいよね」

 

 真菰が起きたのは、誠が起きる1時間ほど前。まだ日が昇っていない時間帯であり、ギリギリまで活動する鬼を考えれば危険な時間帯だ。

 真菰に詰め寄った誠はそこで気づいた。真菰の髪が濡れていることに。近くにある川まで移動して、水浴びをしてきたのだろう。そのついでに、朝食用の魚も取ってきたようだ。

 

「鬼はいなかったし、特に問題はなかったよ」

「いやいやいやいや、水浴びの最中に遭遇したら戦えないだろ」

「……それもそうだね」

 

 自分が水浴びをしている最中に鬼と遭遇した状況を想像したようで、真菰は心底嫌そうな顔を浮かべた。

 今日中には最終選別が行われる地に着くようで、移動中に同じようなことは起きないが、今後の教訓として水浴びをする際の注意点を二人で決めた。日が昇っている時間帯、もしくは見張りを用意して水浴びをすること。簡素だがそんなことを取り決めた。

 そうしているうちに火を起こすことができ、二人分の魚を炙っていく。こうした特に調理機材のない環境では、誠の方が真菰より経験を積んでいた。調理と言えるような調理はしてないが。

 

「そういえば誠の呼吸ってなんだかおかしいよね」

「ははは、辛辣」

「風の呼吸のようだけど、風の呼吸じゃないし。かと言って他の呼吸でもないんでしょ?」

「まぁな。岳谷さんが言うには、俺は風の呼吸が使えないんだとさ。だから、我流で作り出すしかないんだが、まだ何一つできてない」

「そういうことなんだ。……難しいと思うよ? 基本の五つに合わない人でも、どれかからの派生だって話なんだし」

「でもま、やるしかないから」

 

 誠の決意は固まっていた。教わった風の呼吸が使えないのなら、自分で自分にあった呼吸を作り出すと。真菰はその決意に感心し、頬を緩ませた。応援したくなる。そんな真っ直ぐな目をしていたから。普段はそんな目をしていないのに。

 

「私にできることがあれば手伝うね」

「ありがとう真菰」

「ところで、他の呼吸を試すとかは考えなかったの?」

「考えたんだけどな。岳谷さんが怒るから諦めた」

「うわぁ……」

 

 岳谷にとって、誠は育手になってから初めて育てた人間である。呼吸の型で合う合わないがあるとはいえ、流石に「全く駄目でした」という人間を輩出するわけにもいかない。そんなわけで、誠は"風の呼吸もどき"で最終選別を突破し、それから自分の呼吸を編み出さないといけないのだ。

 岳谷の都合が存分に入れ込まれた事情ではあるのだが、誠は岳谷を師と仰いでいるため反対するわけもない。今後増えるであろう同門の後輩たちには、是非とも風の呼吸を習得してほしいとは思ってる。

 その後も言葉を交えながら足を進め、会場になる山の麓に到着する。見上げるとどこまでも続いてそうな長い階段があり、それを登ったところが集合場所らしい。

 

「長いなぁ」

「登りきれば集合場所だよ」

「そんなこと言ってたな」

「なんで忘れてるかな……」

 

 真菰に案内してもらっているうちに、誠は最終選別の場所のことが頭から抜け落ちていた。ついて行けばいいだけの人は、たいてい頭の中の地図が曖昧になるものだ。誠の場合はそれ以上だっただけのこと。

 ため息をついて真菰は先々と階段を上っていき、誠が慌てて後を追う。

 頂上に出れば既に何人か来ており、各々自分なりの過ごし方で開始時間を待っている。一人で瞑想する者。誰かと話す者。待機する形だけでも、それぞれの個性が表れている。

 

「俺たちはどうする?」

「適当に休憩しとこ」

 

 露出している岩に並んで腰掛け、上から見える景色を眺める。上から見える景色というのは壮観で、それだけでここまで来た疲労が取れそうだった。気持ちは軽くなり、落ち着いた状態でいられる。

 その後も何人か集まり、総勢16人の挑戦者が集まる。

 

「真菰以外にも女の子いるんだな」

「意外なことでもないよ」

「そうなのか」

「皆さん、お待たせしました。これより、最終選別を始めます」

 

 二人の少女が現れ、最終選別の説明が始まる。

 この山の中腹から上にかけて鬼がおり、その環境で7日間生き残れというものだ。鬼は50体前後。倒さずに生き残る方が難しい。単純計算で、一人あたり3体の鬼を倒せば全滅できることになる。鬼は成り立ての個体が集まっているのだとか。

 まだ人間を一人も食べていない。せいぜい三人以下しか食べていない個体ばかりが集まっている。現段階の力量でも、倒せないことはない。

 

「7日間どうする?」

 

 共に行動するか。それとも別々に行動するか。誠は真菰に問うた。

 真菰は頬に指を当て、少し考えてから答える。

 

「別々に動こうかな。一緒に動いても違反にはならないだろうけど、それは必要になってからで」

「分かった。それと、ずっと気になっていたんだが、そのお面何?」

「あー、これ? 今さら聞くんだね」

「いいだろ別に」

 

 くすくす笑う真菰に、誠は口を尖らせて顔を逸らす。しっかりしているようで、子どもらしい一面がまだ残っている。それが真菰に好印象を与えていた。

 真菰はつけていた仮面を一旦外し、それを愛おしむように眺めながら教える。大切な面なのだと。

 

「厄除の面といって、鱗滝さんが作ってくれたお面なんだ。あの人は私のような孤児を拾って育ててくれた人。とても慕ってる」

「そっか……。俺も会ってみたいな」

「ふふっ、それならこれを突破したら連れて行ってあげる。気に入られたら、この面も作って貰えるんじゃないかな」

「楽しみができたな。7日後、ここで会おう」

「えぇ」

 

 真菰が持っている狐の面に、誠は正直魅力を感じなかったが、それを大切に持っている真菰の手前それは口に出さなかった。もしかしたら、真菰の持っているものとは別のものだったら、魅力を感じるかもしれない。そんな可能性もあると思ったから。

 最終選別が始まり、誠と真菰はすぐに別々に別れた。

 鬼はその特性上、日が昇っている時間は活動できない。死んでしまうからだ。だから、鬼と戦うことになるのは日が沈んでから。日が昇っているこの時間は、可能な限り体を休めた方がいい。

 日が差し込む場所を見つけた誠は、そこで仮眠を取ることにした。最も危険なのは初日だ。慣れない場で多くの鬼が出現する。どれだけの人が、どれだけの鬼を倒せるか分からない。だが、鬼が減ればそれだけ生存率も上がる。疲労が溜まっていない初日の夜。そこでどれだけの鬼が減るかが大きな鍵になる。誠はそう考えていた。

 

「そろそろ動かないとな」

 

 空の色が移ろい、夜闇が広がり始める。誠は体を解してから慎重に移動を開始する。どれだけの鬼を倒せるかが問題ではあるが、無理に動いても命を落とす危険性が増すだけ。下手に動けば、複数の鬼を同時に相手することになるかもしれない。

 それを避けるために慎重に動いていたのだが、誠は目の前の光景に目を疑った。

 

「お友達になれませんか?」

「なるわけねぇだろ!」

 

 鬼に友達にならないかと話を持ちかけている少女がいた。鬼は当然ながら一蹴し、少女を蹴り飛ばした。転がる少女を追いかけ、腹を踏みつける。

 

「かはっ!」

「変な女だが、食っても腹壊さねぇだろ。……たぶん」

「大丈夫、です。たぶん、美味しいですよ」

「お前が言う!?」

「あぁもう!」

 

 あまりにもおかしな光景に呆然としていた誠だが、鬼が少女を食べようと決めたところで駆け出し、その牙が届くよりも先にその首を斬り落とした。

 

「くそっ! 囮だったのか! 嵌めやがって!」

「違います! この人が勝手にあなたを殺してしまったのです!」

「えぇ!? 助けたのにダメ出し!?」

「助けてくれなんて頼んでいません! 私は彼? とお友達になろうとしていたのに、なんて事をしてくれたのですか!」

「……やっぱ食べなくて、よかっ……」

 

 鬼からしてもおかしいと思える思考をしている少女に、鬼は謎の安堵をして消滅していった。少女はその鬼が消えた場所に手を合わせ、黙祷を捧げる。

 

(なんだこいつ……!)

 

 鬼に黙祷を捧げる人間など聞いたことがない。そもそも鬼を知らなかった誠なのだから、それは当然なのだが、岳谷からもそういう人がいるという話は聞いたことがない。つまりは、それだけ目の前の少女は希少で、ある種異端の存在だった。

 

「それで、人殺しさん」

「鬼を人に数えるのか」

「そのような小事はいいのです」

「小事……。とりあえず俺は人殺しさんじゃない。泰富誠だ」

「あ、自己紹介をしていませんでしたね。胡蝶カナエです。以後よろしくお願いします。人殺しさん」

「人殺しじゃねぇ!!」

 

 "鬼と仲良くなりたい"

 後にも先にも出会うことのない思想を持った少女との出会いだった。

 

 




 原作の方って、年齢不詳な人たちがいますからね。こことここ組み合わせても大丈夫かな、的なところを同世代にしてみたりしてます。
 そんなわけで、主人公はカナエさんと同期ということになります。
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