月夜の輝き   作:粗茶Returnees

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7話

 

 蝶屋敷内は平話な日常が送られている。医療施設を兼ねていることから、負傷したり、血鬼術の作用で体に異変があったりしてる人が来るため、緊張感は幾分かある。あるにはあるのだが、そんな怪我人たちが安らげる場という意味もあるので、蝶屋敷に住んでいる人間は伸び伸びと生活している。つまみ食いして怒られたり、買い物の時にお小遣いで好きな物買ったり、噂話を披露し合ったり、一緒のことして遊んだりと、仕事中も合間も和気藹々としている。

 

 そんな蝶屋敷でも、重篤患者がいれば空気が重くなる。それが仲のいい隊員であればなおさらで、その時は炭治郎がなかなか目を覚まさなかった。上弦の陸との交戦により、本当に生死を彷徨ったのだ。

 表情こそ変わらなかったものの、カナヲが落ち込んでいるのは雰囲気で伝わり、アオイはもっと顕著に気に病んでいた。それを見たしのぶは、カナヲに任務が来ないように手を回し、来たとしても誠が向かった。アオイには掃除と洗濯以外の仕事を禁止させた。

 

「そんなわけで、結構空気が重かったんだよね。この人気者~」

「人気者だなんてそんな……。でも俺のせいでそうなってしまったのは、申し訳ないです」

「ふふっ、起きてくれたから許しちゃおうかな。私も心配してたんだよ? 起きるって信じてても、心配にはなるからね」

「すみません……」

「あはは、ごめんごめん。空気を悪くしちゃったね。それじゃあ鬼ごっこ再開しよっか」

「はい!」

 

 蝶屋敷の鬼ごっこではなく、誠がよくやっていた真菰流の鬼ごっこだ。炭治郎もそれをやったことがある。捕まえる方ではなく逃げる方。鬼と違って人は傷がすぐに治るわけじゃない。負傷一つとっても死の可能性が増していく。炭治郎はそれを今回嫌というほど理解した。

 

 "鬼が毒を使わないなんて誰も言ってない"

 

 他の鬼でも、喰らってはいけない攻撃を仕掛けてくる可能性はある。掠り傷でも駄目かもしれない。それならば、可能な限り回避するしかない。そんなわけで、真菰に鬼ごっこの相手を頼んだのだ。

 

「はい捕まえた」

「うっ」

「動きは悪くないよ。視野も狭くない。あとは経験かな。どれを避けて、どれを流して、どれを防ぐのか。防戦って言ってもやり方は一つじゃないからね」

「流し方では相殺ができる」

「そういうこと。で、誠はどうしたの?」

 

 入り口の近くの壁に背を預けていた誠に声をかける。誠は真菰のパートナーではあるが、いつも一緒というわけでもない。それぞれやる事があるのだから、いつもそれに従事している。お互い空き時間になれば一緒にはなるが。

 真菰が何かしている時は、そこに行かないようにしている。仕事の邪魔をしないようにという気遣いだ。いつもそうしているのに、ここに来たということは用件があるということ。

 

「伝えてから出ようと思ってな」

「しばらく帰ってこないやつ?」

「10日以内には帰ってくる。刀鍛冶の里に行くだけだし」

「ふーん? 刃こぼれでもした?」

「困ったことにな」

 

 誠の刀の刃こぼれは、知っている人からすればわりと一大事だ。会話についていけない炭治郎へのフォローを真菰に任せ、誠は手を振って部屋から出ていく。それを真菰が追いかけ、部屋を出てすぐのところで裾を掴んで止めた。

 

「どうした?」

「置いていかれるのは寂しいなーって」

「……だって真菰を連れていくことはできないし」

「なんとかできたりしない?」

「残念なことにしないな。用が済めばすぐに帰ってくるし、待っててくれ」

「……はーい」

 

 口を尖らせ、分かりやすく拗ねる真菰に手を焼かせられる。隊員ではない真菰を、二番目に秘匿されている場所には連れていけないのだ。どうにか機嫌を直してもらい、誠は後ろ髪を引かれる思いで刀鍛冶の里へと向かっていった。

 

「あの、真菰さん……」

「うん?」

「きっと、誠さんも同じ気持ちだと思います」

「あはははは、ありがとう炭治郎。それは私も分かってるよ」

 

 笑顔を作った真菰は、すぐにその表情を寂しげなものに変えた。炭治郎相手に取り繕う意味も必要もないから。

 

「たまには困らせてあげようかなって。抱え込んで潰れそうに見えたから、刺激して和らげてあげないとね」

「そこまで分かって……。そういえば、刀鍛冶の里に何をしに行くんですかね」

「そりゃあ刀を直接受け取りに。別に待ってないといけないってわけじゃないし、直接行ったほうが早いからね」

 

 そんな手段もあるのかと炭治郎が軽く驚く。いつも刀鍛冶の方から届けられているから、てっきりそれしか手段がないのかと思っていた。何よりも、炭治郎の刀を担当してくれている鋼塚から、殺意の篭った文書を送られているのだ。どうしようかと途方に暮れていた炭治郎にとって、これはありがたい情報だ。

 

「誠さんの担当の人ってどういう方なんですか?」

「私は会ったことないんだよね。しのぶは知ってるんだっけ? ……その人、もう亡くなっちゃってるらしいけど」

「え……、ご病気か何かですか?」

「私も細かくは聞いてないんだよね。聞いてるのは、今使ってる刀がその人が最後に打った刀で、次の担当者はまだ修行中ってこと」

「それってだいぶまずくないですか?」

「そうなんだよね~。どうするつもりなんだろ」

 

 

 

 

「どうにかならんか?」

「ならないっすよ。自分でも半端な刀って思ってるやつを渡すわけにもいかないっすから」

「間に合わせとかでも駄目か」

「俺の誇りが許さないっす」

 

 誠も途方に暮れていた。かつて誠の刀を担当していたのは欽波。彼が自害して以降、誠はずっと彼が打った最後の刀を使い続けてきた。誠の太刀筋が綺麗で力の流れやらを見抜けることにより、ずっと刃こぼれせずに使い続けることができた。だが、それでも刀に負担はかかるもので、最近になってその限界を迎えた。主に、誠がカナヲと任務に向かったあの日が原因である。心を見出して振ったためだ。

 そんなわけで新しい刀を貰いたいのだが、誠の担当は引き継がれていない。欽波の後を受け継ぐと息子の鉄心が宣言し、誠がそれを飲んだことで止まっているのだ。現状、鉄心が満足のいく刀を打てなければ、誠は新たな刀を使えない。

 

「でもまぁ、期待しててくれ。理想はまだしも、目標には近づけてきてるんだ。近いうちに渡せると宣言しておく」

「ふんっ。お前はそっちの口調のほうがらしいぞ」

「母にバレたら叱られるんだけどな!」

「そうか。なら叱られろ」

「鉄心。少し話しましょうか」

「げっ!」

 

 母親に捕まる鉄心を眺め、淹れてもらったお茶を飲んでから家を出る。「薄情者ー!!」と叫ぶ声を聞き流し、宿へと足を運ぶ。前回来た時はカナエと二人で。今回は一人だけ。真菰にはお詫びがてら、埋め合わせというか、一緒に出掛けるとかで手を打ってもらおう。

 

 そんな事を考えながら用意された部屋に向かっていると、廊下の向こうから何やら黄色い声が響いてくる。特徴的な桃色の髪。大抵の男を悩殺するメリハリのある容姿。代名詞とさえ言われる始末である露出の高い服。恋柱の甘露寺蜜璃である。

 

「こんなところでご無沙汰ですね。真菰さんは?」

「流れるように真菰を探すな。俺と真菰が常に一緒にいるとか思ってないか?」

「違うんですか?」

「仕事の時は一緒じゃないだろ!」

 

 そんな馬鹿なと驚愕されると誠も頭が痛くなる。そういう認識をされるのは嬉しさもある。認められている気がして、喜ばしいと思っている。それはそれとして、一緒じゃないとおかしいとまで思われるのは考えものなのだ。

 

「そもそも、ここに真菰を連れて来られるわけないだろ」

「そういえば隊員じゃなかったですね。あ、でも、たしか宇髄さんは奥様方を連れてこられたとか」

「何やってんだあの人は!!」

 

 本当に柱なのか、自覚がどこかズレてないかと内心で叫ぶ。先の戦いで引退したし、過ぎたことではあるけども、これは駄目だろとげんなりする。

 

「伊黒さんは大変怒ったのだとか。激しく追及されたそうです」

「だろうな」

 

 伊黒なら間違いなくそうする。それを「うちの嫁は口を割らねぇから気にすんな」とか言って流してる天元の姿が、誠の脳内で再生された。

 せっかく会ったのだし、立ち話もなんだということで近い誠の部屋へと入る。備え付けてあったお茶を淹れ、それをお菓子と共に蜜璃に出す。恋柱である蜜璃は、ちょっとしたことでも胸をときめかせる。「可愛い」と言うだけで真っ赤に顔を染め上げるほどちょろい。そんなわけで、たった今の小さなことでも、一瞬"キュン"となったらしい。

 

 ところでそれは誠にとって大問題である。

 真菰が怒るから。

 

「最近真菰さんには会えてませんし、泰富さんをお見かけした時は会えるのかと期待してしまいました」

「悪かったな俺だけで。というか、甘露寺って真菰のことだいぶ慕ってるよな」

「当然ですよ! あの美しいお姿。特に肌が凄いんです。触らせて頂いたことがあるんですけど、スベスベ肌ですし、もっちもちしてるんです! それでいて程よく筋肉がついておられるので、体全体が細く引き締まっておられるんですよ! それに立ち居振る舞いがですね──」

 

 熱が入り始め、加速度的に饒舌になっていく。真菰とのエピソードも交え、その時にどうだった。こういうところではカッコ良さが見えて、こういうところでは可愛さが、この時は大人びた対応でとか。あらゆる話を誠にしていく。

 その勢いに初めは圧倒されるも、聞いていて段々と誠も楽しく思えてきた。誠が見えていない真菰の姿や知らない姿。自分がいない時にはどうしているのか。年の近い同性とはどうしてるのか。そういう事を知れるのは誠にとっても嬉しい。真菰から聞くこと以外は、当然知らなかったから。

 

「ハッ! すみません私お話し過ぎて!」

「ん? いやいいよ。こっちも聞いてて楽しかったし、真菰も楽しめてるんだなって聞いてて分かったから。ありがとう甘露寺。真菰と接してくれて」

「いっ、いえいえ! むしろ私が押しかけてるようなものですし!」

「それがいいんだよ。真菰は……記憶を失ってからは少し引き気味になってたから」

「泰富さん……」

 

 だいたい俺のせいなんだけどなと締めくくる。わざと軽く言って空気を強引に一新する。とはいえ、話の流れからして頭には真菰のことが浮かび、今の状況を再認識した途端、その浮かんだ真菰が笑顔で怒り出す。蜜璃は真菰を慕っているし、真菰も蜜璃のことが好きだ。だが、誠と蜜璃が二人きりになることにだけは怒る。

 

『誠もやっぱり男だよね』

『待て真菰。その括りはなんだか不名誉な気がする』

『やっぱり大きい方がいいんだ? カナエもそうだもんね』

『甘露寺相手にやましい気持ちは一切ないから!』

『ふーんだ! 知らないもん!』

『ちょい!』

 

 やっぱり誠に原因がある。とはいえ、これには一応誠にも言い訳があるのだ。蜜璃の隊服は胸元を開いたものだ。それはもういろいろと条件が重なってしまったら、完全に露出してしまうくらいに。

 そしてその服は、かつてカナエが着かけて、しのぶが怒りのままに燃やした衣装である。あれだけ散々な目にあっておきながら、諦めずに作ったんだなという一種の感心。そして、よくそんな衣装を着たなという呆れで、服に視線が向かったのだ。それを真菰に「蜜璃の胸見てた」と判断されたわけだ。

 それ以来、誠は蜜璃と二人になることを警戒している。それも今回で水の泡である。

 

(今回は別に……これも仕事関係なわけで……。なんで俺言い訳考えてるんだろ)

 

「あの、泰富さん? どこか具合悪いんですか?」

「え、いや?」

「顔色が優れないようですけど」

「気のせい。元から。俺、元気」

「ぎこちなさ過ぎでは?」

 

 誤魔化しがあからさまで、蜜璃はつい吹き出してしまう。誠がそんなに下手ではないことは知っている。あえてそうすることで、本当に問題ないのだと蜜璃にも伝わった。

 

「そういえば、真菰さんには聞けてないことなんですけど、いいですか?」

「内容による。真菰のことなんだろ?」

「はい。駄目で元々と思って聞くのですが、真菰さんはなぜ育手になられないのですか? 教え方上手いですし、素質はお有りだと思うんですけど」

「それなら……いいか。一つは真菰が片腕だから。口頭での説明とかはともかく、実戦の相手ができないのは問題だろ。少なくとも、真菰は鱗滝さんのとこでそれを受けてた。余計に引っかかるんだろうな」

 

 刀を振るえずとも、打ち込みに対して流し、防ぎ、返すことはできる。だがそれは基礎の段階だ。それなりに強くなれば、真菰もそれ相応で返さないといけない。そして真菰はそれができない。

 

「真菰は刀を触れない。……いろいろとあってな」

「実戦の相手ができないから育手に相応しくない、ですか。もう一つは?」

「真菰なりの意思表示というか願掛けだな。これ以上戦いが続いてほしくない。今の代で終わってほしいっていうな」

「……。真菰さんらしいですね。お優しい方です」

 

 真菰への評価高すぎじゃないかとか思いつつ、誠はお菓子を口に放り込む。立場が違えば見え方も違う。見る人間によって感じ方も変わる。認識の差が出てもおかしくはない。それが当然だ。

 

「真菰さんは、初めて会った時から変わりません。私の特異体質のこともすぐに見抜かれました。驚かれることもなく、暖かく受け入れてくれて」

 

 湯呑みへと視線を落とす。そこに映る自分の顔を見ながら、蜜璃は当時のことを思い返していた。負傷して蝶屋敷で療養し、自分の体質を知られることに不安を感じている時だった。様子を見に来た真菰が蜜璃の頭を撫で、体質を言い当ててた上で何事もなかったかのように、蜜璃にとって必要な分の食事を用意した。

 

「最初しのぶちゃんが気づいて、その後すぐに真菰さんが気づいて、お腹いっぱい食べないと元気になれないからねって。それが凄く嬉しかったんです」

 

 照れ笑いする蜜璃の顔は、それでいてとても輝いていた。どれだけ嬉しかったのかを物語っている。誠も頬を緩め、思い出したように蜜璃の用事を聞いた。どこかに行こうとしてたのではないかと。

 

「そうでした! 温泉に行こうと思ってたんです!」

「悪いな。時間取っちまって」

「いえいえ! 私も楽しいひと時でしたから。それではこれで失礼させていただきます」

「ああ。またな」

「はい!」

 

 残像が見えるほど勢い良く腕を振る蜜璃を見送り、空いている時間を考慮して部屋を出る。里長への挨拶は済ませているが、挨拶を済ませていない人がいる。

 

 その場所は分かっているから人に聞く必要もなく、里の外れへと移動する。特に人の気配がない場所。静寂に包まれ、騒ぐことも躊躇われる。

 

「誰もいないかと思ったんだがな」

 

 意外にもそこには先客がいて、誠は里で適当に買った花を片手に声をかける。青みがかった長い黒髪をした少年。たった2ヶ月で柱へと昇格した天才。話によると、かつて無惨を追い詰めた天才剣士の血筋。霞柱の時透無一郎。

 いつもぼんやりしていて、掴み所のない印象を相手に抱かせる。真菰も「無一郎はちょっと難しいかな~」と言っていた。時間をかけてだいたい把握していたのには、しのぶと揃って舌を巻いた。そんな無一郎のぼうっとした瞳が誠を捉える。そのまま何か探すように視線が動き、誠はやれやれとため息をついた。

 

「真菰はいないぞ」

「?」

「なんでお前達は揃って俺と真菰が常に一緒だと思ってるんだ……」

 

 無一郎と真菰は共通点があり、お互いに親近感を抱いている。記憶を失くしているという共通点だ。そんな共通点が無くとも、波長が合うようで仲がいい。

 

「泰富さんもお墓参りですか」

「まぁな」

 

 無一郎が誠の手にある花を見て指摘する。その指摘通り、誠はここに墓参りに来た。ここは刀鍛冶たちの墓標がある。今無一郎がいるのは、無一郎の刀を担当していた鉄井戸の墓。無一郎のことを気遣っていた数少ない理解者の一人。記憶を失い、すでにいっぱいいっぱいである無一郎のことに気づき、心配しながらひっそりと息を引き取った。

 

「泰富さんの刀も鉄井戸さんでしたっけ?」

「違うんだけどな。鉄井戸さんには少し世話になったことがあるから」

「なるほど」

 

 花を添えて手を合わせる。黙祷を捧げ、それを終えると誠は次の場所へと移動。自分の用が済んでいるはずの無一郎も、それに同行していく。

 

「この方は?」

「俺の刀を担当してくれていた人だ。亡くなったのは数年前なんだけどな」

「……」

 

 二人揃って手を合わせて黙祷。誠は心の中で語りかけ、話したいことを話したら無一郎とその場を後にする。無一郎が誠と共に動いたのは、誠に話があったからだ。墓場を出てからしばらくし、無一郎がようやくその口を開く。

 

「一ついいですか?」

「どうした」

「なぜ柱にならない(・・・・・・)んですか? 蹴ったと聞いてます」

「それか……」

 

 無一郎の纏う空気が重くなる。柱たちは程度の差はあれど、輝哉を強く慕っている。無一郎も例に漏れない。だからこそ、誠が輝哉の話を蹴ったことに気を悪くしている。誠はそれに動じず、だがそれに応えるためにも真剣に話した。

 

「俺が柱になる資格を持っていないからだ」

「何を言ってるんですか」

「柱は文字通り隊を支える存在だ。存在することに意味もあるが、隊のことを考えて行動できる奴が柱なんだよ。乗客と隊員を守り抜いた煉獄然り、若手を思いやった天元さん然り。今も昔も変わらない。柱ってのは隊全体を支え、次に繋げられる存在だ」

 

 先を見据え、それを残した利永も柱の役目を全うした。カナエも同様だ。育手の中に、元柱たちが多く見受けられるのもそういうことだ。引退しようとも隊のために尽力できる。

 

「だが俺はそうじゃない。はっきりと自覚できてる。俺は隊と大切なものを天秤にかけたら、間違いなく迷わずに隊を見捨てる。そんな人間が柱になれるわけないだろ」

「……そうですか。泰富さんは大概周りに失礼な人だと思います」

「……」

「自己分析はたぶん合ってるんでしょう。でも先は考えない。お館様は先を見込んで判断されたはず。それは期待を裏切ってる」

 

 無一郎の言葉に何も言い返せなかった。無一郎の言っていることは正しい。誠はいつだって現在を見てきた。先のことなんて考えず、何ができて何ができないのかを詳細に把握し、今あるものでやれるだけのことをやる。希望的観測なんてしない。見込みも踏まえない。

 柱になった人間は、誠の考えている通りの人間ばかりなのか。おそらくはそうだろう。ただし、初めからそうだとも限らない。柱になって、足りないものをそこで補って今に至る。そんな柱もいただろう。

 

「それでも俺はならない。今の役割をまだ完遂していないからな」

「お好きにどうぞ」

 

 無一郎は誠と別れて違う場所へと向かっていく。この里にあるという高難易度の鍛錬法を活用するために。

 誠は部屋へと戻り、窓を開けてぼんやりと空を眺めた。最近見なくなっていた空色を。それを眺めていると、やまびこが聞こえてくる。その声の大きさに軽く驚き、声の主を思い浮かべて苦笑する。カナヲがお日様のようだと言った少年。ブレることのない強い芯の持ち主。

 

「なんだ、炭治郎も来たのか」

 

 炭治郎に会いに行くかを考え、会ったところで特に話すことがないなと頭を振る。早めの夕食を食べさせてもらい、誠は仮眠を取ることにした。前回よりもやけに広く感じる部屋。人一人いなくなっただけでもこれだけ変わるのだな、とからしくなく湿っぽい事を考え、それを払拭するかのように微睡みの中へと落ちていった。

 

 その数日後、里は鬼の襲撃を受けた。

 

 

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