珍しくも蝶屋敷は異様な空気に包まれていた。その中心人物は真菰で、原因は明白である。今回もやはり誠が悪い。
上弦の鬼との交戦はすぐに情報が回った。隊を支える貴重な存在である鍛冶師たち。その者たちが集う里が襲われたのだから。そこを襲撃した鬼が討伐されたことも知らされている。柱であるしのぶがいるため、蝶屋敷にいる人間もその情報を逐一知れる。誰が交戦したのかも分かっている。
今回のような事態で戦闘が起きたのだ。誠と蜜璃が二人になっていたとしても、真菰もそこは割り切っている。必要なことなのだから。そこはいいのだが、それ以外でも二人になっている時間があったという情報を真菰は掴んだ。
犯人は土佐右衛門である。
「この鴉! お前本当にふざけるなよ!!」
「怖カッター」
土佐右衛門も黙ろうかなとか思ったのだ。相棒である誠を裏切るような行為はしたくなかった。それを真菰が超えてきただけだ。あのまま黙ってたら焼き鳥にされてた。それくらいの恐怖を味わったのである。
「まぁでも、わざとじゃないんでしょ? 蜜璃からも話は聞いてるからね」
「そうだけども。ならなんでそんなに怒ってるんだよ……」
「遊び半分かな~」
「心臓に悪いから今すぐやめてくれ」
「……誠が言うと、本当に心臓がやられてそうだね」
特に外傷のなかった誠は、しのぶから細かな検査を受けて「安静にしておいてくださいこの馬鹿」と言われている。普通に生活する分には問題なく、入院の必要もなかった。重症だったのは、体中に針が刺さって全身に毒が回っていた無一郎と、槍で串刺しにされた玄弥と、何やらいろいろと攻撃を受けた炭治郎である。
その中で無一郎は尋常じゃない回復力で退院し、本調子ではないにしても動けるようになっていた。軽傷で済んでいた蜜璃は、手当を受けた日に一泊し、その後は自分の屋敷へと帰っていった。その時に真菰と話したらしい。
「それで? 安静にするだけってことは、また内側に負担かけたんだ?」
縁側に座り、庭を眺めている誠の肩に真菰が背中を預ける。手はそっと重ねられ、指を絡めていく。視線を一度真菰の方に向け、誠の方からも指を絡める。
「今回は虚空を使ってない」
「そうなの? じゃあなんで?」
「ちょっと試してみた」
「……そっか」
真菰は目を細め、やがて静かに閉じた。それ以上は追及しなかった。誠が今回試したことには、真菰も関わっている。それについてはカナエにも協力を頼んだことだ。調整が必要だと考えるも、そこは誠自身でやるしかない。
真菰の髪を軽く撫で、視線を空へと戻した。広大な青空。禰豆子が太陽を克服してからというもの、鬼の出没の一切が止まっていた。嶺奇が仕掛けた前回とは違い、今回は鬼の親玉である無惨の仕業。間違いなく総力戦となる。それを超えるためにも、全員が今以上に強くなる必要があった。
「ねぇ誠」
「ん? どうし──」
肩にかかっていた重さが消え、真菰の方をもう一度向くと視界を真菰に覆われる。唇を重ねられ、腕を首に回される。たっぷり10秒以上その状態が続き、ゆっくりと真菰が離れる。突然の行動に誠は頭を真っ白にしていた。
「好き。私は誠が大好きなの」
「……うん……、俺も真菰が好きだよ」
「だから、ね? 私にも話して? 誠のこと教えて? もう……何も知らずに待つのは耐えられない」
「真菰……」
寂しげに瞳を潤ませる。青空よりも美しい瞳が揺らぎ、それでいて誠の瞳をそこに映していた。誠がなぜ今回試したのか。相手が上弦の鬼という絶好の機会だったというのはもちろんだが、今後のことを危惧した上で"今試すしかない"と判断したからだ。
人と鬼。互いに全てをぶつけ合う時が近づいている。それはどちらかが滅ぶほどの壮絶な戦いと予測されている。
(もしもは、考えたくないんだけどなー)
誠が想定している"もしも"。それは真菰にも分かっていた。不安が募り、今まで耐えられていたものも限界がきた。
自然と真菰へと腕を伸ばす。背へと手を回し、真菰を引き寄せた。頬に黒耀の髪が当たり、その匂いに鼻孔をくすぐられる。
真菰はしばらくその状態で固まり、誠の様子に気づくと髪が当たっていない方の頬をそっと撫でた。震えていた誠の肩が、少しずつ落ち着いていく。
意外だったが、嬉しくもあった。誠の心は平坦で、震えることが全然なかった。怒りに燃えるか、悲しみに砕かれるか、幸せに癒やされるか。どこか直線的な反応。ただ、今回は"怯え"だ。誠が隠していること。それを話すことに対する怯え。奇しくもその様子は、今の真菰にとって初めてなだけ。最終選別の時、真菰が死にかけた時もこうだった。
「私は受け止めるよ。絶対に誠を受け入れる。信じて」
「…………わかった」
一度真菰を抱き締める腕に力が入る。少し苦しかったのは、胸が一杯になったせいか。
誠は隠していたこと全てを真菰に話した。過去も現在も、そしてこの先の予測も。その話の大きさに唖然とする。普通なら。だが真菰はそれを聞いてなお、笑みを作って誠にお礼を言った。話してくれてありがとうと。
「なんで……そう言えるんだよ」
「私は誠を信じてるもん。だから誠も、自分を信じよ?」
「俺は……っ」
「勇気が足りないなら私が補うから。独りを耐えないで」
諭すような口調で、暖かな笑みで告げる。真菰の思いを言葉に変えて、誠を支えるのだと。どちらからともなく顔を近づけ、もう一度唇を重ねた。想いを互いに伝えるように、心へと注ぎ込んでいく。
「時間ダ! 続キハ今度!」
「っ、もう。土佐右衛門の馬鹿」
「それじゃあ真菰。行ってきます」
「うん。行ってらっしゃい誠」
庭からそのまま屋敷を出ていく。緊急の会議に招集されているのだ。真菰は手を振ってそれを見送り、誠が見えなくなったところで隠れているアオイたちに声をかけた。肩をビクっと反応させ、目を逸らしながら陰から出てくる。
「そ、その……見ようと思ってたわけではなくて……」
「見かけてしまって……」
「つい見入っちゃって……」
「ごめんなさい!」
「あははは、いいよ。見られてたのは恥ずかしいけど、見られたものは仕方ないからね~」
ほっと胸を撫で下ろすアオイたちに苦笑し、一番目を輝かせているカナヲに視線を向けた。真菰に見られていることに気づいたカナヲは、頭を下げて立ち去ろうとする。それをそのまま逃がすわけもなく、真菰はカナヲの手を掴んだ。
「私は鍛錬がありますので」
「まあまあカナヲ。私だけっていうのも不公平だし? ここはカナヲの話も聞いてもいいでしょ?」
「別に私の話なんて──」
「炭治郎とはどう?」
「っ!」
「炭治郎は鈍いからね。カナヲの方から頑張って行かなきゃ」
「それは……その……」
頬をほんのりと染め、もじもじしながら目を逸らすカナヲ。その様子に心をときめかせ、真菰以外の女子たちも興味津々に話を聞きたがりだす。困ったカナヲはアオイに助けを求めようと視線を向けるも、先に真菰が動いていて言いくるめられていた。
「カナヲの恋を実らせたいでしょ?」と言ってしまえば、アオイも言いくるめられるのだ。カナヲのことも大切に思っているからこそ、余計に言いくるめやすい。頼りになるしのぶも会議に行ってしまっているため、カナヲは炭治郎へのアプローチ会議で目を回すまで解放されなかった。
(今カナヲが困っているような……。気のせいよね。何かあっても真菰さんやアオイがいるのだし、炭治郎くんたちもいるのだから)
その挙げた人たちが揃ってカナヲを困らせている原因であるとは、離れた場所にいるしのぶには分からなかった。
「誠さんも来たんですね」
「呼ばれたからな」
柱たちが揃っており、そこに誠も加わる。一番後ろに座り、特に会話する時間もなく産屋敷家の人間が部屋に入った。姿勢を崩していた者はすぐに直し、一斉に頭を下げる。
部屋に入ってきたのは、当主である輝哉ではなく、その妻であるあまねだった。娘二人も同行している。あまねの口から輝哉の状態が説明され、今後皆の前には出てこられないのだと説明される。代表して行冥からお悔やみの言葉が告げられ、話はすぐに本題へ。今回は緊急の会議だからだ。
「"痣"の発現方法をご教授いただきたいのです」
それを初めに発現させたのは炭治郎だった。しかし炭治郎自身それを正確には分かっていない。「この時の状態なんだろうな」と漠然と推測し、その時のことを話したが説明が下手くそ過ぎた。それ故に、炭治郎に続いて発現させた無一郎と蜜璃にその説明を頼んでいるわけだ。
「はい! グァァってしました! グッてなってぐあーって! 心臓がばっくんばっくんで、耳がキーンってして! メキメキーって!!」
「……」
「……」
『……』
「アホー」
蜜璃も説明が下手くそだった。その説明に全員が呆然とし、さすがの小芭内も蜜璃をフォローできずに頭を抱える。止まった空気を取り敢えず動かすために、誠の目配せとともに土佐右衛門が遠慮せず蜜璃を罵倒した。
顔だけでなく耳まで真っ赤に染め上げ、大量の汗をかいて蜜璃が土下座する。「穴があったら入りたい」とか細く言うほどに、蜜璃は羞恥に震えていた。
「真菰のこと語る時は熱弁してたのに、こういう説明になると駄目なのな」
「追い打ちかけないでぇー!!」
蜜璃に代わってしのぶが鞘で誠に腹パンし、ハンカチを蜜璃に渡す。発現した三人のうち二人がこの有様となり、もう無一郎に頼るしかなかった。そして無一郎は体験による推測を踏まえ、正確に発現方法を説明していく。
・心拍数は200以上
・体温は39度以上
この二つの条件を満たした時が、痣を出現させている状態だというのが無一郎の分析だった。だが、そんな状態で人が動き続けられるのかが疑わしい。しのぶもそれは死にかねない状態だと断定し、無一郎も「そこが別れ目」だとした。それを達成し、活動し続けられる者は痣を出現させる。
「……誠さんはどう思いますか?」
「どうって言われてもな。時透が言ったとおりなんだろ。だが、しのぶが言ったことも間違ってない。そんなもの常人は耐えられない。それは俺が身を持って理解している。あまね様、副作用のようなものがあるのでは?」
心臓の動きすら操作できる誠は、それをする度に体の内側を傷つけてきた。療養にも時を要しており、それに似たことをやる"痣"もまた反動があるはずなのだ。
「……その通りです。痣を発言させた者は、決まって短命だという資料が残っています」
その考えは当たっていた。過去に痣を発現させた者たちは、25歳を超えずに命を落としている。例外もいるようだが、例外は例外。25歳というボーダーで考えるべきだ。つまり、もう発現させた三人は、寿命がほぼ決まったようなものだった。
「泰富様。あなたは心臓の動きを任意で変えられると聞きました。その方法を伝授すれば、皆様方も痣の発現が叶うと思うのですが、如何でしょうか?」
「お言葉ですがあまね様。それはつまり柱たちに、可能性のある優秀な剣士たちに若くして死ねと仰っているのですか?」
「泰富。なんだその発言は。あまね様に失礼であろう。前に柱の任命を蹴った時もそうだお前は──」
「構いません伊黒様。そう受け取られても致し方ありませんから」
「しかし……」
「強制はしません。皆様方の命です。その命を賭けて頂いているだけでも、私達は頭が下がる思いなのです。ですが、私達の悲願である鬼舞辻無惨の討伐。その絶好の機会が訪れようとしているのも事実です」
『解釈の不一致』
ここに来てそれが最大の障害となった。誠の最大目標は、大切な人が死なないこと。それさえ果たせればいい。隊の目標と一致しないのだ。
誠にも分かっていた。それを教えれば、柱たちが痣を発現させられるようになると。
──だからこそ教えられない
「あまね様。私は"大切な人"が死ななければそれだけでいいんです。究極的に言えば、鬼を倒さずとも藤の香で鬼を遠ざけて生活するだけでもいい。ですから、このやり方を教えることはできません。私は、この場にいる者たちにも
「誠さん……」
「貴様の言い分はそれだけか?」
「待てやァ」
小芭内が腰を上げようとすると、それを実弥が制した。いつもならもっと早く怒鳴ってそうな実弥が、今の今まで黙っていた。その事が不気味さすら出し、小芭内も座り直して実弥に視線を向ける。
「テメェの言い分は分かった。だがこちとらその覚悟をはなっから決めてんだよォ」
「勝負に負けても教える気はないぞ」
「誰が教わるっつったよ。テメェに教わるなんざ初めっから願い下げだ。そんぐらい自力でやってやるわァ」
「……あっそ」
炭治郎も無一郎も蜜璃も。三人とも自力で痣を発現させているのだ。誠にやり方を教わらずとも、それが可能であるということは立証されている。実弥はそれをやってのける自信があり、その気概も十二分にあった。実弥が話を終わらせたことにより、他の者もそれ以上の話を広げられなくなる。
「それでは最後に、泰富様。柱に就任してくださいませ」
皆の視線が誠に突き刺さる。誠が輝哉に言われたのを蹴ったという話は周知の事実。再度頼まれたこれを「お前断らないよな」と目で語っているのだ。
「お断りします」
「チッ」
「……理由をお聞きしても?」
数人から殺意の篭った視線が送られる。特に小芭内と無一郎の視線が強烈だ。反対にそんな視線を向けていないのは、義勇と驚くべきことに実弥だった。実弥の場合、その理由を知っているからである。
「今の役割をまだ全うしていませんので。この役割が必要ないと判断できるまでは、柱に就任しません」
「そうですか。では、席は確保するという形で落ち着きましょう」
「……はい?」
「その役割が終わる時が近いだろうと輝哉も言っておいででしたので、終わりと同時に柱を名乗ってもらいます。空柱を」
あまねの方が上手だった。柱は空席が二つある。一つを先に抑えておいても何一つ問題なかった。なおかつ、他に候補者もいないのだ。実績もある人物の席を確保しておいても、何一つ問題ない。それで締め括られ、誠もこれには首を縦に振るしかなかった。完敗である。
あまねたちが退室し、柱たちだけでの話し合いが始まる。鬼が出没しないこの期間での行動をすり合わせるためだ。帰ろうとした義勇も誠が残らせ、輪を作って向き合ったところで行冥から提案が出た。
「稽古ねェ」
「総力戦となる以上、隊員たちの実力の底上げは必要だ。やり方は各々に任せるが、極力重ならない方が良かろう。痣が出ていない我らも、その出現を叶えられれば一石二鳥となる」
「それでは、既に発現している甘露寺と時透は、その維持を目標とする。といったところか」
「うむ。宇髄にも協力を仰ごう」
話は提案者である行冥と、キレ者である小芭内を中心に進んでいった。ネチネチとした性格の小芭内なのだが、それでいて隊のことを慮っている。
「泰富。君のところの真菰という女性は、指導者に向いていると聞いた。彼女にも協力を仰いでもいいだろうか」
「……まぁ、俺が決めることではないですけど、本人も異論はないでしょうね。ただ、真菰が教えられることも限られてますし、順番は序盤に組み込んでください」
「承知した。皆の順も、訓練内容で決めていくのがよかろう」
「それでこれが始まったってわけか」
「そういう事です。遠慮なく鍛えてやってください」
「俺が遠慮なんぞするわけねぇだろ」
「ですよね」
第一の試練は元柱である宇髄天元による基礎体力向上。際限のない走り込みである。完全に足が動かなくなるまで走り込みが続き、休んでは走っての繰り返しである。初っ端から地獄を見せられる隊員たちだったが、ここで離脱する者は一人もいない。まず許され無いと言う環境もあるが、天元の嫁たちが振る舞う料理が美味いのだ。あとは、男が圧倒的に多い中で女性にサポートされるという環境が隊員の精神を支えた。
もう一つの理由は、この場で並行して行われる真菰の訓練だ。真菰は走り込んでいる隊員たちを見て、呼吸に癖をつけている者を見つけては、走り込みを止めさせて別の訓練を貸していた。真菰が行うのは呼吸の矯正である。
「呼吸の型による癖はともかくとして、余分な癖は力の発揮の妨げになる。そこを直していこうね」
走り込みから抜け出せること。真菰がひとりひとりに丁寧に教えることもあって、呼ばれた者は極楽浄土を味わっている気分になる。ただし、その場には誠の監視もあって、必要以上に真菰と言葉を交わす者はいない。
真菰は教え方が丁寧かつ細かい。それぞれをしっかり見るため、教わる者も実感できるほどに改善される。そうして真菰に合格をもらうと、天元のところへ送り戻されるのだ。優しいが甘えは許さない。
「頑張ってね。応援してるよ」
そうやって笑顔で送り出され、それが本心であることも伝わってしまう。真菰に合格をもらった者は、いろいろと複雑な胸中に陥ってから大奮起。天元の訓練も張り切るようになるのだ。
「お前んとこから戻ったやつ全員やたらとやる気見せるんだが?」
「私は何もしてないですよ。みんな、自分自身で頑張れてるんです。ちょっと背中を押してあげただけ」
「へ~。噂通り、指導者に向いてるんだな」
「そうでもないですよ。鱗滝さんの方が何倍も向いてるし、私より宇髄さんの方が向いてる」
「冗談だろ」
そうは言ったが、真菰が本気でそう思っていることは天元も分かっている。育手である鱗滝の下で過ごし、指導者にとって必要な要素が何かを理解した。この世界での指導者の覚悟も。真菰はそれが自分には無理だとも理解している。あそこで過ごし、経験したのだから。
「私は錆兎が死んだことに耐えられなかった。その時は誠のところにいたけど、知らせは届いてたから。目の前が真っ暗になって、何も考えられなくなって、一日中泣いてた。落ち着いてしばらくしてから理解ったんだ。送り出す側がどれだけ辛いのか。私には向いてないなって。だから、誠にも本当は戦ってほしくないんだよね。……ううん、誠だけじゃない。みんなそう。……もしかしたら、記憶と一緒にその覚悟も消えちゃったのかな」
「戦うやつがいなきゃ鬼が跋扈する世の中だ。それを終わらせるためにも、次の戦いで勝つためにも、今は鍛えてやらないといけねぇ」
「うん」
本当は乗り気じゃない。死地に送り出すのだから。でも、死んでほしくないから鍛える。少しでも生き残れる力をつけてほしい。一人でも多く生き残ってほしい。だから真菰もこれに協力している。
重たくなった空気をどかすように、厨房から賑やかな声が響いてくる。天元の嫁たちはいつも賑やかだ。料理の完成が近づくと特に騒ぎ出す。蝶屋敷とは違った賑やかさに、真菰も笑みを零した。やがて料理が運ばれ、誠も交えて六人で食事を取る。天元は誠と酒を交えて話し、真菰は嫁たちと話している。隊の中で年上の女性というのは真菰にとって新鮮で、ついつい話し込んでしまっているようだ。
「まーた話を蹴ったんだってな」
「席は確保されましたけどね」
「クククッ、あまね様も優れた方だからな。お館様をその身一つで支え続けてる方だ。四人のお子も立派に育ててらっしゃる」
「母は強しとはよく言ったものです」
「体現者がいるんじゃ、あながち間違ってないってこった」
情報戦も教えた相手が綺麗に嵌められている。天元にとってそれは傍から見ていて笑える話だった。その様子に誠はジト目になるも、必要な措置なのだろうと納得している。
「真菰ちゃん悩みごとあるでしょー」
「えっ」
「そうなんですか? 私達が聞いてあげますよ!」
「一肌脱いであげるわよ~」
「それなら……その、誠が抱いてくれなくて」
「「「押し倒しなさい」」」
「俺この場にいるのにそんな話する!?」
女一人幸せにできねぇのかお前はと天元の説教が始まり、誠が正座させられて話を聞き続けていると、後頭部を土佐右衛門に突かれる。
「指令ダ! 指令!」
土佐右衛門の足には手紙が括られており、その書状の柄で何の仕事か理解する。その手紙を足から外し、用意を整えてから目を通す。読み終えると部屋灯りとなっている明かりにかけて燃やした。
「誠……」
「影の仕事の一つだ。怪我とかはしないから」
夜が耽っているが、鬼が出ることもない。誠はすぐに出ていった。
それが影としての最後の仕事となる。