変わった人間だ──それが誠がカナエに抱いた最初の印象だ。鬼相手に友達になろうと声をかけ、殺されかけても鬼に殺意を向けることはなかった。殺意どころか、敵意すら抱かなかった。
あのまま助けなければ、カナエは死を選んでいたのだろうか。そんな軽率に命を投げ出すような人間ではない気がして、誠はカナエに聞いてみた。
「死なないように足掻きます。その上で交渉を続けようと思っていました。私はこれでも強いので」
「そうなんだろうな」
カナエの言葉を疑う気はなかった。カナエは鬼に蹴られる瞬間、自ら跳ぶことで威力を抑え、受け身を取ることで衝撃を流していた。鬼に抑えられている時も、手には刀が握られていた。噛まれる寸前には防ぐつもりだったんだろう。
「なんで鬼と仲良くしたがるんだよ。鬼は人を殺すんだぞ?」
「人も動物を殺しますよね? そしてその命をいただく。違いがありますか?」
「……なら、受け入れろって?」
「そうではありません」
視線を鋭くした誠の誤解を解くように、カナエは首を横に振ってから柔らかな眼差しで誠の目を見据える。その瞳に込められた優しさと強さは、カナエの人となりを物語っていた。
「人はたしかに動物を殺して食べますが、無闇に殺さない人もいます。家で牛や鶏を飼っている人がそうですよね。衰えたら懺悔しながら命を取り、その血肉をいただく。そこには敵意も殺意もありません。相手への思いやりがあります」
「それを鬼が思う可能性は無いだろ」
「なぜそう言い切れますか? 断言できる根拠は?」
誠は言葉を詰まらせた。これまで出会った鬼の全てがそうだった。鬼はそういうものだと説明も受けた。人を襲うのだから、守るために鬼を殺さないといけない。その教えが間違っているわけではない。事実なのだから。人が生きていくためにも、脅威である鬼を排除するのはおかしなことではない。
だが、カナエが言っていることも間違ってはいない。脅威である鬼を殺すのは、人の都合であり、人もまた生きるために他の命を奪っている。鬼のほとんどがそういう生き物であっても、鬼にだって性格はあるのだから、カナエの期待に応える鬼が、万が一の確率でもいるかもしれない。
全ての鬼に聞いたわけではない以上、断言できるわけがない。
「鬼がどう生まれるかはご存知ですか?」
「……人から、鬼に変化する」
「そうですね。具体的には、鬼の血を取り込んだら、ですね。普通の鬼でもそうやって増やせるようですが、鬼の親玉が行うことがほとんどのようです」
「鬼舞辻無惨」
「はい。その者の討伐が、鬼殺隊の最大の目的のようです」
この世が狂った原因。たった1体の鬼の出現が、始まりの鬼がこの世の中を狂わせた。鬼が人を喰らい、人が鬼を討伐する。多くの命が散り続け、連綿と人の意志は繋がり続けている。
カナエは目を伏せて言葉を漏らす。
「悲しくありませんか? 元は同じ人なんですよ?」
「……だから人殺し、か」
「言い過ぎたとは思っています。ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げるカナエに、誠は毒気を抜かれた気がした。敵意を抱きにくい。そうするつもりは毛頭なかったが、カナエを相手にしていると、力が抜けていくのだ。それがこの時世で異端な思想だとは分かるのだが、それで一蹴できない雰囲気をカナエは纏っていた。
「俺も悪かったよ。胡蝶の試みを邪魔して」
「……謝れる方だったんですね」
「失礼だなぁ!?」
カナエは口元を手で隠し、目を丸くした。まさか自分の試みを妨げたことを、謝れるとは思っていなかったから。誠は何一つ悪いことはしていないのだ。カナエの邪魔をしたが、それもカナエを助けるため。鬼を倒すことが当たり前のこの世の中で、鬼を倒しておきながら謝るとは珍しい。鬼に対してではなく、カナエに対して謝っているわけだが。
柔軟な思考ができる人なのかとカナエは思った。だが現実は違う。誠は柔軟に考えれるからカナエに謝ったんじゃない。あまりにも無知だから、カナエの考えに抵抗を感じにくいだけだ。
「鬼と仲良くしたいってのに、鬼殺隊に入ろうとしてるってのは矛盾してないか?」
「そう思われても仕方ないですね。ですが、私は矛盾してないと思います。守るための力はそこにしかなく、鬼の下に駆けつけるにも鬼殺隊に入った方が早いですから」
「分かり合えなかったら?」
「……その時は討つしかありません。人を殺める鬼を見逃すこともできませんから」
悲しげに言い切った。自分の考えがどれほど困難なもので、どれだけの理想を語っているかを正しく自覚しているのだ。だが、カナエはその考えを捨てる気は一切なかった。どれだけ可能性の低いことであろうと、それが険しい道であろうと、可能性が僅かにでもあるのなら、それを諦めることはできない。
カナエの強さが見えた気がした。断固たる決意がある。それがカナエの根底にある。根強い芯として存在している。
そんなカナエが、とても大きく見えた。自分とは違う。年はそう変わらないだろうに、カナエは既に"大人"だった。
「それではあなたの話も聞かせてくださいね」
「なんで?」
「あらあら、私だけ話すのなんて不公平じゃないですか。それとも? あなたはそういう事を平然とやってのける方なんですか? そういう方なんでしょうね。話すことを渋っていますから」
「話せばいいんだろ!」
勝手に決めつけられるのが癪だった。そんなわけで誠はカナエに身の上話をすることになった。乗せられているのは分かっていたが、変な印象を持たれても面白くない。
「珍しくもない理由らしいぞ。友達を鬼に殺されて、それで鬼殺隊に入ろうと思ったってだけだからな」
「本当にそうですか?」
「どういう意味だ?」
「いえ。鬼に対する復讐心が、それほど高いように思えなかったので」
カナエの予想は当たっている。誠は鬼に対する復讐心がそれほど高くない。自分の友人を殺した鬼は死んでいる。復讐自体は終わっているのだ。
元凶を絶とうという思いはある。だが、無惨に直接何かされたわけじゃない。あの鬼も、無惨の命令を受けたわけじゃない。自分の意志でそうしていただけだ。だから、無惨を倒すという目標も誠の中では薄かった。鬼殺隊がそういう組織なのなら、自分もそれを目指すべきなんだろう。そんな考えだった。
今誠を動かしているものは、自分の中で生まれたものではない。復讐は終わり、組織の目標には反応が薄い。それでも誠が入隊しようとしているのは、与えられた目標があるから。
「……上を見てみろ」
「上?」
誠の言葉に従い、カナエは視線を上げる。ほとんど木々に覆われているが、その隙間から夜空が見える。月と星々が輝く夜空だ。
「俺の友人は、この空が綺麗だと言った」
「たしかに綺麗ですね。私もそう思いますよ」
「だが、鬼がいるから満足にこの夜空を楽しむことはできない。"普段からこの夜空を見られたらいい"。あいつはそう言って息絶えた。生き残った俺はそれを叶える。それだけだ」
「そうでしたか……」
僅かに見える月夜を見ていたカナエは、視線を誠へと戻した。まだ月夜を見上げている誠を見てカナエは感じた。誠が不器用な人間であることを。
(優しくて、不器用で、それでいて──)
カナエに見られていたことに気づき、誠は罰が悪そうに顔を逸らした。話すこと自体には抵抗がなかった。カナエに煽られはしたが、誠は黙っていたかったわけではない。その流れがよく分からなかっただけだ。
「胡蝶はこの最終選別でも、ずっと鬼を殺さずにいるつもりか?」
「目標を捨てる気はないですから。だからといって、高望みをしようとも思いません」
駄目だと判断した相手なら首を斬る。それを口にはしなかったが、カナエはそうするつもりでいた。誠もそこまで言われなくても、カナエの考えを汲み取れた。初対面であっても、カナエの誠実さがそれを可能としている。
「泰富さんはどうされるつもりですか?」
「俺は鬼を斬るぞ。7日あるんだ。日が経つにつれて疲労が溜まるのは当然だし、それなら体力があるこの初日の間に、可能な限り鬼を減らしておきたい。その方が生き残れるからな」
「そうですか……。では同行しますね」
「話聞いてた!?」
鬼を可能な限り屠っていくという誠と、鬼を極力殺したくないというカナエの方針は合致しない。一緒にいても、お互いの邪魔にしかならないのだ。
だが、カナエにはカナエの考えがあった。
「私は多くの鬼に会い、分かり合いたい。泰富さんは、多くの鬼を倒しておきたい。それなら、私が交渉して、駄目だった時に討伐するというやり方が合うと思うんです」
「分からなくはないが、胡蝶の交渉を待ってる間が時間の無駄だろ」
「無闇に一人で探すより、二人で探した方が効率いいですよ?」
「どっちを取るかってだけの話じゃねぇか」
一人で探すよりも、二人で探した方が効率よく鬼を見つけられる。それはたしかにそうなのだが、見つけたところでカナエの交渉から始まるのだ。待ち時間を考慮すれば、一人で探して鬼を討伐するのとそこまで変わらない。
「あ、拒否権はないですから」
「こいつ……! はぁ、好きにしたらいいさ」
カナエは誠に許可を求めていたわけではない。同行する理由を言っていただけだった。何を言っても駄目だろうし、このままでは時間を無駄にするだけ。目的のためにも、ここは引き下がるほうが懸命だと誠は判断した。
カナエが誠に同行するのは、誠を一人にするのは危険だと判断したからだ。鬼に殺されそう、ということではない。誠が虚ろな人間に思えたことが大きい。
一応助けてもらった借りもある。それを精算するのも早いほうがいい。借りは返すのが礼儀だから。
岳谷は誠の危うさに気づいた。自分の立場上、どうすることもできないために、まだ見ぬ誰かに任せることにした。
真菰は誠の危うさに気づいた。それでも、自力で地に足をつけられるようになればと願って、別々に行動することを選んだ。
カナエは誠の危うさに気づいた。放っておくわけにはいかないと判断した。
立場や性格の違いが表れただけだ。誰が正しいということでもない。
「……向こうか」
「分かるものなんですね」
「限界はあるけどな。そんな事言いながら、胡蝶も分かってるだろ」
「さぁどうでしょう」
その気もない誤魔化し方をする。追及する必要もなく、カナエ相手にそうするのは骨が折れると悟った誠は、口を閉じて鬼がいる方向に足を進める。
鬼も人を探していたようで、誠が接近していることに気づくと戦闘態勢に入った。
「待ってください!」
鬼はカナエの言葉を無視して誠に飛びかかり、誠は鬼の腕を斬り落としてから持ち手で殴り飛ばす。鬼は首を斬らねば倒せない。それは百も承知だ。だからこそ誠は首を斬らなかった。
「初めまして鬼さん。お話しませんか?」
「どう食べられたいかの話か。オレの好きに食べさせてもらう」
「お腹が空いておられるのですね。それは後で考えるとして、私と友達になりませんか?」
「興味ないな!」
腕が回復した鬼は、カナエの誘いを断ると同時にその首を狙う。カナエは眉を下げ、自分に迫る両腕を斬り捨てた。
「ぎっ……!?」
「私は鬼と仲良くできると思うのですが」
「幻想だ。オレたちは人と仲良くしない。人を喰らい、強くなる!」
「鬼舞辻無惨のために、ですか?」
「っ! 答える道理はない!」
その名が出ただけで鬼の様子が変わった。その目に映るのは圧倒的恐怖。顔は引きつり、その体が震え上がる。誠は知らないが、鬼たちというのは、どの鬼であろうと鬼舞辻無惨のことを話さない。話せば命を落とすから。そして、どれほど強くなろうと、その存在には恐怖する。そう仕組まれている。
「そうですか……。残念です」
「そのままオレに喰われ……っ!」
「……泰富さん……」
「決裂していた」
「そう、ですね」
カナエに噛み付こうとしたところで、誠は鬼の首を斬った。その血がカナエに着かないように間に割り込みながら。
「血くらい気にしませんよ?」
「俺が斬って出た血だ。胡蝶が汚れる必要もないだろう」
「……ふふっ、気障なことを言うのですね」
「茶化すなよ!」
急に小っ恥ずかしくなった誠は、刃に付いた血を振り払ってから納刀する。なんだかんだ言いつつ、カナエが交渉している間は待っていた。思春期なのか、それとも素直ではないのか。なんにせよ「男の子だな~」とカナエはその背を見て思った。
「他の鬼を探すから」
「そうしましょうか」
「……なんか接し方変わってない?」
「どのように、ですか?」
「子ども扱いしてるだろ」
「子どもじゃないですか」
「胡蝶とそう変わらんだろ!」
「女性に年の話だなんて不躾ですよ」
何を言っても勝てる気がしない。言いくるめられるか、話を逸らされるか。大して気にしていない事ならいいのだが、譲れないものがあった時にはどうにかしてカナエを押し切れるようになろう。叶えられる可能性の低いことを思った誠だった。
何を言っても駄目だと分かると、誠は口を噤んで鬼の捜索を始める。黙って急に移動を始めるために、カナエの初動が遅れるのだが、そのくせしてカナエと離れ過ぎないように気にかけている。そんな誠のやり方に、実を言うとカナエはカナエで翻弄されていた。
「近くにはいなさそうだし、それなりに移動しないと見つからないな」
「仕方ありませんが、そうするしかないでしょう」
「鬼の方から来てくれたら楽なんだがな」
「飢餓状態であればそうするのではないですか?」
「何だそれ」
「無知ですね~」
カナエの言葉にムッとするが、本当のことであるために誠は押し黙ってカナエの説明を聞いた。鬼もまた生物であるために、人間や他の動物同様にお腹が空くということ。食事は自分を強くするためだけでなく、命を繋ぐためでもあるということ。食事にありつけなくなれば飢餓状態に陥り、獰猛なまでに人々を食い荒らすということ。
ちなみに、この最終選別で放たれている鬼たちは、意図的に飢餓状態にされているものが多い。
「って、その状態なら交渉自体無理な話じゃねぇか!」
「そうなんですけどね。鬼は共食いもすることがあるらしいですし、飢餓状態ではない鬼なら、話くらいできるかもしれませんし」
「さっきは駄目だったけどな」
「そう簡単にそういう鬼と出会えるとは思っていませんから」
自分の決めた道の険しさをカナエは理解できている。確率がたとえゼロに近いものであっても、ゼロだと断定できないのなら諦めない。
何がカナエをそこまで支えるのか、誠には分からなかったが、自分の目標となっているものと重なる部分があることは気づいている。だから、少なくともカナエと共に行動している間は、鬼の討伐を後回しにしている。
「噂をすれば何とやら」
「噂をすれば影が射す、ですよ」
「それは知ってる!」
気配を隠すこともなく、音を抑えることもせず、鬼が一直線に誠とカナエの下へと向かってくる。飢餓状態なのか、二人を狩れる自信があるのか。それは鬼が見えないと分からないが、ひとまず二人も刀を構えて鬼を迎える。
「アアァァァ!」
「飢餓状態だな」
「これは話し合いができませんね」
斬るしかない。今度は自分が斬ろうと待ち構えるカナエだったが、鬼が茂みから飛び出した瞬間、横から割って入った人物が鬼の首を斬った。
「速い……!」
「っ! 真菰!?」
「? あ、誠。よかった。生きてたんだ。…………ふーん?」
思ってたよりも早く再会した二人だったが、どちらも相手が生存していることに安堵した。のだが、真菰はカナエを見た瞬間冷めた視線を誠に注ぎだした。そうなる意味がさっぱり分からず、誠はただただ冷や汗をかくしかない。
「なんか怒ってる?」
「怒ってるわけじゃない。私は一人で頑張ってるのに、誠は別の女の子といるんだなーって思っただけ」
「怒ってるな!?」
「あ、もしかして妬いておられるのですか?」
「別に。あなたの期待通りの関係じゃないから」
「あら、そうなのですか」
真菰の機嫌を収める方法が分からず、誠は首を何度も捻る。カナエはてっきり二人の関係が深いのかと思ったのだが、真菰の冷めた反応からしてそうでもない。その意識すらない。
「はぁ、まぁいいや」
「何か分かりませんが、不快にさせたのなら謝罪します」
「いいよ。私個人の都合だから。それより、お腹空いたから、誠ご飯用意して」
「自由か!」
横暴とも言える真菰の言動に違和感を覚える誠だったが、食事を用意させるのは口実なのだろうと悟った。
食材を探しにいかないといけない。木の実あたりならすぐに見つかるが、3人分ともなると肉か魚が欲しい。少し遠出になりそうだ。
(真菰がそうさせるのだから、そこまで離れなくても見つかるはず)
真菰への信頼度はとても高い誠だった。
「私にお話があるようですね」
「まぁね。あなたは強い。それなのに誠に同行してる。それはつまり、分かってるから、ということでいいのね?」
「はい」
「そう……。それがあなたの選択ならとやかく言うつもりもないよ」
「真菰さんは、泰富さんのことを心配されてるのですね」
「だって危なっかしいじゃん?」
「分かります」
一人にさせるのが怖い。
それが分かっていながら、本人の為を思って別行動を選択した真菰。それに対して、分かっているからこそ同行しているカナエ。二人の方針は違えど、気づいていることに変わりはない。心配してしまうのだ。
まるで保護者会のように、女子二人の会話が続いていく。どちらかが何かを話せば「分かる~」と反応し、二人でうんうんと頷きながら話か進む。
「真菰さんは、この後も別行動を?」
「そのつもり。一人じゃ対処しきれなかったら、なんとか合流しようって決めてるから」
「そうですか……」
「カナエはこのまま誠と動くんでしょ?」
「はい。この最終選別の意義からしても、一人で動くべきだと思うのですが、こうしようと思ったので」
「いいんじゃないかな」
真菰はカナエに優しく微笑む。禁止されているわけではない。規則を破っているわけではないのだから、自分で決めたように動いたらいい。真菰はそう言い聞かせた。
「真菰、鳥でもいいか?」
「取ってくるの早いね」
「慣れてるからな」
「そうなんだ。取ってきてくれたんだし、そこは誠の裁量に任せるね」
「これまた圧のかかることを……」
ボヤきながら再度二人の下から離れていく。そっちで火を起こすのだろう。話が途中だと分かっていながらも声をかけたのは、真菰が食べたくないものにはしたくないから。距離を取ったのは、聞こえないようにするための配慮。
真菰は一人離れた場所で火を起こす誠を柔らかな視線で見つめ、そんな真菰の様子にカナエは目を細めた。
二人は男女のそれにはならないだろう。だが、お互いの良き理解者になれる。カナエは二人の短なやり取りだけでもそう思えた。
その後も真菰とカナエは言葉を交わし、誠が鳥を焼き上げたところで声をかけられる。
「なんか俺だけ外されてたの癪なんだが」
「誠は寂しがり屋だね」
「そういう事ではなく」
「女の子だけの秘密な話です」
「そうだろうけどさ」
三人で火を囲みながら食事を取り、食事を終えたら誠と真菰が今後の琴を話し合う。それは先程カナエにも話していたことであり、元から決めていたことの再確認でもあった。
「もしもの場合の合流手段は?」
「分かりやすい目印も用意できないし、そこはどうにかして、かな」
「考え無し」
「誠には考えがあるの?」
「気合?」
「別れよ」
「だから何の関係でもないだろ!?」
カナエの提案で、これからは木に横線の目印を付け、何かあればそこに縦線を加えるということで落ち着いた。それでも合流できるかは賭けになるが、何も無いよりはマシだ。後は、何とかして逃げ延びようということになる。
真菰は一人で行動する分、誠の不安も大きくなった。
「大丈夫だよ。私は誠より強いから。むしろ誠の方が不安だなー」
「酷い奴。それじゃあ、また後で」
「うん」
食事も話も終えた真菰は、初日の夜が明けると誠たちと別れた。
カナエには、大きくなる効率的な方法を密かに聞いていた。気にしていたらしい。