今回は『クラウス・クラウンについて』も投稿しましたのでそちらもぜひに。
1人の女が地下室への階段を急ぎ足で降りていた。ここに来るまでの道に魔術で作られた防御が破壊されていたり、中には無傷にもかかわらず、何者かが通った痕跡があった。
(いったい何者なの?ここまでたどり着いたのは…)
ここに潜入したものは恐ろしいほどに徹底していた。防壁や探知をするものを真っ先に破壊し、トラップはことごとく回避していた。ここがこの先にいるケイネスの所有している場所でないにせよ、それなりの守りあるのだ。
(ともかく、何があったのかは、ケイネスに聞けば何とかなるわね)
彼女はケイネスの心配などしていなかった。それは彼が優秀な魔術師というのもあるが、それ以前に彼女、名前をソラウ・ヌァザレ・ソフィアリは彼に対して何の興味もなかったのだ。
とはいえ、許嫁である彼女は一応彼の安否を確かめる必要があった。
「ケイネ…ス……」
彼女の目の前にあったのは惨劇に等しい状況であった。いたるとこに爆破のような跡があり、支えとなっている柱のいくつかは崩壊し、床にはいくつものへこみができていた。
そんな部屋には全身がボロボロで人の原型を留めているのが奇跡と言っていいケイネスと
「おっと、情報にあった許嫁か。予定より早かったな」
見知らぬ男が2人いた。
「………………」
だがそんな混沌と言ってもよい状況だというのに、彼女は死んだと思われる夫よりも2人組の男の特に異形な槍を持った男に目が奪われていた。
(なに、この感覚)
それは彼女が初めて抱いた想い。感じたことのないこの気持ちを言葉で表すのだとしたらそれは恋。
気づいていないだろうが彼女の頬はほのかに赤くなっていた。
「………」
「————い、-おい———おい、聞いているのか?」
「!」
どれほど見つめていたのか分からないほどソラウは驚く。そして、気持ちを必死に落ち着けようとする。
「あなた方はいったい何者ですか」
問いながらソラウはまた槍を持った男をみていた。
「そうだな。暗殺者けん、盗賊かなって、おい!だから聞いてるか!」
だが彼女はクラウスはもう見ていなかった。ランサーに彼女は見惚れていた。
「あーもう!ったく…おいランサー、いったん霊体化してくれ。お前さんのチャームの力でらちが明かん」
「はっ。申し訳ございません」
霊体化するランサーを見て
「あっ…」
悲しげな表情になるソラウと
(別に謝らんでもいいのだが)
めんどくさいなという言葉が顔でわかるような表情になるクラウスがそこにあった。
「…で、話を戻すぜ!」
「!え、えぇ。そうね」
ソラウはまたも意識が別方向に飛んでいたところを戻された。
「ごらんのとおり、俺は依頼を受けて対象を殺す暗殺者だ。このまま俺を帰らせてくれんならいいが、やるんだったら…」
「別にかまわないわ」
「やってやるぜって、へ?」
一瞬何を言っているのか分からず、思わずクラウスは場違いな声を上げた。
「言ってるでしょ、別にかまわない。どこへでも行きなさい」
「………」
警戒はしているがそれでも彼女が本当のこと言っているのはわかる。なぜならこの状況下で俺を油断させようとしているのだとしても、そんな言葉では意味がない。
「あんた、こいつの許嫁だろ?なんとも思わないのかよ」
「ケイネスが油断して死んだだけでしょ?それに、政略結婚だもの。この男に私は何の興味もないわ。それより、さっきの彼…」
「ん?あぁ、なんか知らんが、聖杯とやはケイネスから俺に変更したようだ。許嫁ならケイネスがこれからあの面倒な戦争に参加するってことは知ってんだろ?そのサーバント、ランサーだ」
「そう」
ソラウの抱いている感情にクラウスは気づいていた。
(なるほど。次に何を言い出すか、なんとなくわかるぞ)
「私も同行させて…」
「却下だ。あとこれに対してなんかしてくるようなら、遠慮なく叩き潰すぞ」
ソラウはそれを聞いて絶望する。確かにこの状況下で自分の身を守ることは不可能に近い。
「……お前さんの情報は知っている。生まれたときから未来が決まった…いや、奪われているようなもんだからな同情はするさ」
「!、あなたになにがわかるっていうのよ!」
ソラウはここにきて今まで自分が発したことのない大声で叫んだ。
「生まれたときから枷を強いられ、女としてのすべてをすて、ソファリという魔道の血しか意味のないわたしのことが何がわかるっていうのよ!!」
クラウスは彼女の心からの叫び。ずっと奥底に秘め続けた想いを聞いた。彼女にしてみれば、ランサーとの出会いはそれこそ運命に感じただろうということもわかっている。
「…はっ、確かに知らねぇが、別に俺らについてこなくてもいいだろ?」
「え?」
「鳥かごのカギはもう壊れたんだ。ほれ」
とクラウスは一枚の紙切れをズボンのポケットから取り出しソラウに渡しながら出口に向かう。
「そこに書かれたとこに行けば、あんたの身元を隠してくれる。金ならあんだろ?なら、今度は自分で飛んでみろよ。結構いいもんだぜ、世界は。お前さんを縛るもんはない。なら自分で探せ」
クラウスはそう言って去っていく。だが彼女はそれを追わず、声もかけなかった。
「なによ、こんな……」
自分をこの場で殺さなかった時点で、この紙切れに書かれたことに必然的に信憑性がでてくる。
「ほんとに、なんなのよ…」
誰もいない地下室で彼女は1人静かに泣いていた。
時は移り30時間後———————
「ふぅ。ざっとこんなもんか」
専用ジェットに乗り込んだクラウスはいろいろと調べていた。
聖杯戦争についてはケイネスの情報収取の際に聞き、ある程度調べ、すべて記憶していた。だが彼にとってのある程度とは全体の8割であった。それをわずか半日にも満たないで記憶したのだ。
サヴァン症候群。絶対記憶能力とも言われているこの能力はコミュニケーション障害や自閉性障害のものに多いと聞くが、クラウスはどちらかといえばその部類には入らない珍しいものであった。
もちろん、膨大な情報には誤報も交じっているがそれらを分けることができるからこそ、クラウスは優秀であり、ケイネス暗殺には彼の戦闘の実力もあるが、ケイネスの切り札ともっとも暗殺できる場所を索敵できたのもこの能力のおかげというところが多い
「遠坂、アインツベルン、マキリの3家は確実か。残りは常時調べていくしかないな」
膨大な情報のため3台のパソコンを同時に使い、情報を素早くインプットしている。普通の人間なら脳がついていかないであろう。
「ケイネスの死は……まだ発表されてないな。好都合だ。なら、偽の情報にも信憑性が出てくる」
ソラウに渡したものは間違いなく本物ではあるが、彼女がケイネスの死を流すかは5割だった。
(本当に興味なかったんだな)
これにクラウスはひとまず安堵した。
(とはいえ、今回の聖杯戦争には厄介なやつもいるが…いや、まだわからん実際に見てみなくてはな)
彼にとって御三家など不安要素になどならなかった。むしろ他のことが不安だった。
「(とりあえずは)ランサー出てこい」
霊体化をといて姿を現したランサーはまたも
「お呼びでしょうか。我がある…」
「固い!」
「は?」
「だから、固いんだよ!もう少しフランクにできないのかおまえは!」
「申し訳ありません。しかし我が主、これは私の生き方のようなものなのです。どうか、お許しを」
「………はぁ~」
かつてこのような人種との会話があるわけがないクラウスは溜息しか出なかった。
「まぁいい。でだ、お前さんの宝具は、接触している物の魔力を打ち消す長槍『
「はい、そうですが…いかがいたしましたか?」
「いや、確認のためだ、気にしなくていい。が、2本の槍なんてものでうまく戦えんのか?」
槍とはその長さから間合をとりながら戦い、相手を槍の死角に入られないようにしなくてはならない中距離専用の武器だ。それを2本持って戦うなど聞いたこともない。
なにより、ディルムッド・オディナの伝承で言うなら……
と、考えていると
「その不安、必ず戦いの中で払拭して見せましょう」
と自信を持って言ったのだ。
(なるほど、これは心配するほどのもんでもなかったな)
「じゃあ、話を変えよう。もうすぐ目的地に着くが、先に聞いておこう。お前さん、聖杯に何を願うんだ」
このダイヤモンドより固いやろうの願いはどんなものかと期待半分、面白半分にクラウスは聞いた。
「いえ、私は聖杯など求めはしません」
しかし、回答は予想の斜め上だった。
「はぁ?おまえ、サーバントだろ?未練があるから、叶えたい願いがあるから、聖杯戦争に参加するんだろ?」
クラウスの言い分はもっともであるが、
「そうです。しかし、私の願いに聖杯という褒章は必要ないのです。主である召喚者、クラウス殿に忠誠をつくし、騎士としての名誉を全うし、聖杯をあなたに譲り……主?」
「zzz…おぉ!すまん、あまりにも退屈で寝てしまった!」
「く、クラウス殿…」
さすがにこの態度にはランサーも納得がいかないのか、ほんの少しだけ、分かりにくいほどの怒りがでていた。
「つかさ、俺だからいいが、他の奴ならまず信じないぞ。何が悲しくて、過去に名を連ねた英雄様がただの人間に使い魔として働かにゃいかんのだ?願いがあるからだろ普通?」
「言い分はもっともです。しかし、これは嘘偽りのない私の真実の気持ちなのです。どうか、どうかクラウス殿、信じてください」
ランサーは必死に、土下座に近い体制で言う。
「だぁ、もぉ!わかった、わかったから!頭を上げろ」
「感謝します。我が主」
「はいはい。さて、そうだなー」
クラウスはしばし考え。
「よし、決まった」
「何がでしょうか?」
「俺の願いだよ。正直願いなんてもんはないし、勝ってもどうしようかと悩んだが、いいこと思いついた」
うきうき気分でいう自分のマスターに「はぁ」と言いつつも自分のこと以上にうれしがるランサーであった。
「さて、もう戦いの舞台、冬木につくが…」
目の前にある情報に目をつけながらクラウスは再び考える。
「できれば、海外にいるやつの中では俺が一番であってほしいな」
その理由はクラウスがもっとも警戒する人物が参加している可能性があったからだ。
「あいつに勝つには、それこそ入念な下見が必要になるからな」
「あいつ、とは?」
「気にするな。まだ決まったわけじゃない」
ランサーに言ったことは間違いではない。だがいるならまず間違いなく強敵になる。
(衛宮、切嗣。なぜお前が)
魔術師殺しの名をもつ男。もっとも警戒し、もっとも信用してはいけない男。
(本当にお前が参加するとして、目的はいったい何なんだ)
魔術師を暗殺する者同士として、奴とは偶然にも共同…いや、共同というべきではないだろうがとにかく同じ対象を殺すことになったのだ。
だがそのやり方が納得できない。周りの人間を巻き込んだ爆破。今にも思い出す。自分を囮にして、対象をおびき出し、テロに近い爆破。
確かにその方法で行けば確実的だろう。だがやはり納得いかない。あのまま俺が対象を誘導し人気のないところでひっそりと殺すこともできた。俺にその実力があることぐらいはあの男はわかっていたはずだ。
暗殺者であるクラウスは基本金で動く。だが、自分なりの信念ももっている。だからこそ、無関係な人間を巻き込んだ行為は自分の矜持に反するのだ。なにより、あれは暗殺ではなく、殺戮だ。
運よくその時俺は死なずに済んだがしばらく身を隠すほどの傷も負った。
それからは衛宮切嗣は彼にとってもっとも信用してはいけない人物となり、同時にもし次に会う時のために徹底して奴の殺し方を密かに見てきた。そして、奴の切り札と思えるものも判明するこができた。
これもすべては、次に会ったときに、必ず対応できるように
そしてあれから月日がたったが合うことはなかった。
(金が目的じゃないのはわかっている。今までの経歴を見れば、死に急いでるかのような生き方をしているあいつが金で動くと思えない。ならいったい…)
「———ス殿、クラウス殿」
「!すまない。心配かけたか、ランサー?」
「いえ、目的地に着いたようです」
そう言われ窓の外を見ると都市が見えていた。
(考えるのは後だな。いまは、やるだけのことをやろう!)
しかし、クラウスは知らないだろうが、彼のほぼ期待通り、海外から来たマスターは現在彼も含めて2人であり、その中に警戒していた衛宮切嗣はいない。
現状はクラウスの思う以上にうまく回っているのだと気付くのはもう少し先となる。
いよいよ、それぞれの思惑と欲望が入り混じった聖杯戦争が始まろうとしていた。
サーバントの戦闘の描写は次回から書くことになりますが、正直不安です。
原作を尊重してるつもりなんですが、自分なりの書き方もしているので…
何か問題や、ここ違う、このキャラはこうじゃないなどありましたら感想のほうにお願いします。