使い魔少女HOMURA★ほむら ~だが、誰が救い手を救うのか?~(完結) 作:曇天紫苑
眼を開けてみると、そこは見知らぬ街だった。
似たような言葉が入る小説か何かが有るらしいけど、読んだ事は無い。けれど、今の私の状況を現すには、それが一番適切だと思えた。
夜空を見上げて、よく分からない状況を理解しようと努めてみる。でも、何も分からなかった。
……概念、円環の理としての力が、沸いてこない。この宇宙の外側に存在する究極の鹿目まどか……その化身で、なおかつ人間でもある私にとっては、知識なんかその気になれば幾らでも得られる筈なのに。
円環の理はこの世界に存在する気配が有る。けど、それは私じゃない。不思議な感覚だった。まるで、自分が二人居る様な、そんな気分。
「ここ……どこだろ……?」
私は、自分の部屋で寝ていた筈なのに。気づけば此処に立っていて、空を見ていた。
ほむらちゃんと、ほむ魔ちゃんが両サイドから私を抱き締めてくれて、二人のあったかさに包まれて眠った。そこまでは覚えている。『ほむらちゃんサンドイッチ』なんて、そんな風な事を言った記憶まで残っているのに、私が此処へ来た記憶がどこにもない。
もう一度、街を見てみる。そこは沢山のビルや道路が有り、よくよく見てみれば何となく見覚えのある建物も有った。けれど、それは全て私の知っている物より古くなっている気がした。
うん、此処は見滝原だ。細かい部分は全然違う。見慣れた物が無くて、代わりに別な物が有るけれど、此処は確かに私の生まれ育った街だった。
そうなると、私が今立っている場所が何処なのかも分かる。いつかほむらちゃんと一緒に夜空を眺めた、あの丘だ。
街の人達が生きている証になる、沢山の明かり。それは前に見た時と同じで綺麗だったけど、やっぱり違う物に見える。
此処は私の知っている見滝原市じゃない。見た感じで頭に浮かんだのはそんな予測で、多分間違っていないだろうなと思う。
そこで確認してみたのは、この世界の雰囲気だ。少なくとも魔女の結界じゃない。宇宙空間に存在する、現実の見滝原だった。
ホムリリーちゃんの気配や、ほむ魔ちゃん……ううん、AKEMI HOMURAも居ないみたいだ。円環の理の集合体だってこの世界にはまだ手が伸びてないのが分かる。
……結論から言うと、私は知らない見滝原に迷い込んだみたいだ。
どうしてそうなったのかは、分からない。けど、確実に何か理由が有る。真っ先に犯人として疑えるのはインキュベーター……だけど、それは無い。ホムリリーちゃんやほむ魔ちゃんの逆鱗に触れたって良い事は何も無いんだから。
じゃあ、誰だろう。人間とはいえ円環の理の私に干渉出来る人なんて、そうは居ないんだけど……
「あれ?」
考え込んでいた私の周囲に、影が落ちる。
気づけば、私の周囲に魔獣の大群が居た。ちゃんと円環の理が居るみたいだ。良かった、魔女だったら攻撃するのが少し辛くなるから。
魔獣が何も言わずに攻撃を仕掛けてくる。ちょっとした呪いの塊を撃ってくるんだけど、私には届かない。宇宙一つに匹敵する規模の魔力が、攻撃を四散させてしまう。
「ん」
とりあえず、弓を構えずに空へ魔法陣を作り出す。これは魔法少女にしか見えないから、普通の人が見て大騒ぎになったりはしない。
安心して魔法を放つ事が出来る。合図も無しに少し意識を集中させるだけで、広がった陣の内側から桃色のビームが落ちていった。
数え切れない量の矢が落ちて、全部が魔獣に当たる。ホーミングが有るからそうそう外れないんだ。
砕けた魔獣の身から沢山の呪いが吹き出す。でも、私には通じない。普通の魔法少女なら嫌な感覚が有るらしいけど、私にとっては受け止め慣れた物だから、辛くも何ともない。
そうやって全ての魔獣を攻めていけば、殆ど一瞬で終わる。後には草原が広がっているだけで、呪いは何一つ存在していなかった。
円環の理としての力は殆ど使えないけど、魔法少女としての自分は相変わらず絶好調に戦える。魔法陣の下には自分も居たけど、全ての矢は私を避けて魔獣に命中していた。
「……うーん」
基本的に、私のよく知っている魔獣と変わらない。何か巨大な力を持っている訳でもないみたいだし、それほど脅威だとは思えない。
何か違いが有るよりは分かりやすくて良いけれど、あんまり同じだと予測を立てるのが難しくなってしまう。全然違う部分から状況を推測する、私なんかよりは、ほむらちゃんが幾多の繰り返しの中でやってきた事だろう。
とりあえず、魔獣は倒せた。後は、町中を歩いてみればこの見滝原がどんな場所なのかは分かる筈。
そんな時、こちらへ向かって凄い勢いで走ってくる足音が聞こえた。
「ふえ?」
そちらの方向に振り向くと、丘の下りから必死に走ってくる人が居るのが見える。黒い髪を振り乱し、その表情に複雑な物を乗せて、私の姿をしっかり捉えている。
でも、私の知っている人とは少し違う。何処と無く大人びた雰囲気が有って、私より何歳か年上に見えるんだ。
けれど、あの人は間違いなく、ほむらちゃんだった。
「ま、どか……?」
私の所に辿り着いたほむらちゃんは、唖然とした様に私の顔をじっと見つめて、口を半開きにしたまま硬直していた。
「ほむらちゃん?」
私の知っているほむらちゃんより一回り背が高かった。それ以外は殆ど同じだけど、顔付きがほんの少し大人っぽくなっていて、柔らかそうなほっぺたはほむ魔ちゃんのそれに近い。
でも、分かる。この人は本当のほむらちゃんだ。私にはそれが分かる。私の名前を呼ぶ時に篭められた感情の強さが確信を持たせてくれた。
「う、うあ」
ほむらちゃんの瞳に涙が溜まっていくのが見える。私から一瞬も視線を逸らさないまま、震えながら近づいてくる。一歩、また一歩、ヨロヨロと歩いてきて、あんまり震え過ぎて躓いてしまい、倒れそうになる。
そんなの私が許さない。前のめりに転けそうになるほむらちゃんへ飛び込む様に身体を支えて、それからそっと立ち上がって貰う。
けど、私が近づいた事を認識したほむらちゃんが、凄い勢いで抱きついてくる。背中に手を回して、私を捕まえる様に力を入れてきて、身体が少し痛くなった。
ちょっと苦しいだけだから、これくらいなら我慢出来る。ほむらちゃんの縋り着く様な手つきに答えて、出来る限り優しく頭を撫でる。何だかよく分からなかったけど、そうするべきだと思うから。
相手の方が背が高いから、少し頭に手を伸ばすのが大変だけれど、撫で続ける。すると、ほむらちゃんは全身を痙攣しているんじゃないかと思いたくなるくらい震わせて、また腕の力を強めた。
「ぅ……ぁ、あああああああっ!!!!!」
大きな叫び声が耳元で響いて、身体が壊れてしまいそうなくらい強く抱き締められた。
声の中には強すぎる喜びが有って、突き放すなんてとてもじゃないけど出来ない。
「まどか、まどかっ! まどかっ!!」
私の名前を何度も、何度も呼んで、その度に泣きじゃくる。普段の綺麗な声は嗚咽まみれになっていたけど、深くて重くて強い気持ちは伝わってきた。
それだけで、このほむらちゃんがどんなに辛い思いをしたのかが分かってしまう。そして、その原因がきっと私に……鹿目まどかに有る事も、察せてしまう。
「会いたかった! ずっと、会いたかったっ!!」
「ほむらちゃん」
「夢じゃないのね。これは、現実で、まどかは現実に居て、私の側に、居てくれたのね……良かった……本当にっ、良かった……!!」
「ほむらちゃん……うあっ!?」」
勢い余って、二人とも倒れ込んでしまう。けど、ほむらちゃんは反射的に私の下敷きになって、また大粒の涙を流す。
感動しているんだ。必死過ぎて、何だか身の危険を感じるけど、ほむらちゃんになら何をされても受け入れる覚悟は有るから、それほど怖くない。
「わたし、私、今、まどかを助ける事が出来たの? 助けられたの?」自分の行った事を、私に確認してくる。
「……うん、ありがとう。頭打っちゃう所だったよ」
お礼を言うと、また泣かれてしまった。悲しんでる訳じゃないのは誰だって分かる。喜び過ぎて感情が振り切れてるんだ。
私の上に乗って泣き続ける姿は、何だか怖い。けど、上体を起こしてそっと抱き締める。半ば狂った様に私、鹿目まどかを求める所を見ていると、たまらなく悲しい気持ちになってしまうから。
ほむらちゃんが頬を擦り寄せてくる。まるで、犬がマーキングをしているみたいだなぁ、なんて思ってしまうくらい必死な様子だった。
これから何をされるのかが分からないから、不安になってくる。でも、もし何か言葉に出来ない様な酷い事をされても、殺されてしまったとしても、受け止めてあげたい。怖くて仕方が無いけど、ほむらちゃんの想いは全部受け入れたいから。
「まど、かぁ……ごめん、なさい。ごめんなさい……こんな、気持ち悪いよね……でも、私は……」
「大丈夫だよ、わたしは、ここに居るよ。だから、安心して……?」
「うん……」
ほんの少しだけ落ち着きだしたほむらちゃんの腰に手を回して、もう片方の手で頭を抱く。お互いの頭を重ねる様に当てて、身体をくっつける。
ほむらちゃんは、あったかい。この世界のほむらちゃんも例外ではなくて、何だか眠くなってしまいそうだった。
「まどかぁ……」
「ほむらちゃん……」
よく分からなかったけど、ほむらちゃんは私を必要としてくれている。だったら、それに答えてあげたい。私の胸に有るこの気持ちは、あらゆるほむらちゃんの為に有るんだから。
……ところで、私の知っているほむらちゃんと違って、胸が、その、私に当たってて、いつもより柔らかくて……ちょっとだけ、大きくなってる?
……あれ、何だろう。凄くうらやましい。
+
多分、私達は何分間も抱き締め合っていたんだと思う。忘れていたけれど、私達とは関係の無い所で時間は流れていく物だった。
私達は改めて丘の上に立ち、相対している。
「ご、ごめんなさい。恥ずかしい所を見せてしまったわ」
やっと落ち着いたほむらちゃんが、私に深く頭を下げてくる。もし「土下座して謝って」と言えば頭を地面に擦りつけるだろうし、「靴を舐めて」と言えばどんなに汚れていても構わず舐めるんだろうな、と思うくらいの態度だ。
いや、勿論。本当にそんな事を頼む訳じゃないよ? そんな酷い事、私に出来るなんて無い無い……なんで自分に言ってるんだろう、私。
「久しぶりにまどかを見て、辛抱できなくなって……それで、その、あんなに貴女に迷惑を掛けて」
「ううん、かわいかったよ。全然迷惑なんかじゃ無かったから、ね?」
怖かったけど、同じくらい可愛いと思う。ほむらちゃんに求められるのは悪くない気分だったし、全力で必要としてくれるのは、嬉しい。
ほむらちゃんがこんなに弱々しい顔をしている所を見ていると、庇護欲みたいな物が生まれるのを感じる。この世界では少しだけ年上の筈なのに。
「ま、まどか。かわいいなんて……」
ああ、照れてる。羨ましいくらい白い肌はとても赤くなりやすくて、感情がすぐに出てしまう。我慢している時は隠せる筈だけど、今は隠す気なんて無いみたいだ。
暫くの間、ほむらちゃんは恥ずかしがっていた。けど、私の顔を見つめ直すと首を一回だけ振って、頬を真っ赤に染めたまま、口元や目尻を緩めるだけ緩めた。
「本当に、本当に会いたかったわ、まどか」
歓喜の中に居たほむらちゃんだけど、自分で口に出した言葉で何かに気づいてしまったのか、ハッとした様子で私の顔を見る。
「でも、貴女が此処に居るという事は、やっぱり私を導く為に……?」
「違うよ。わたしはほむらちゃんを導きに来た訳じゃない」
そもそも、貴女を導く力が今は無い。
目の前のほむらちゃんが求めているまどかは、多分私じゃない。それを言うべきか、言わずに隠しておくべきか。少し悩んでしまう。
でも、きっと言った方が良い。後から分かるより、今知っておいた方がずっと気持ちが楽な筈だから。
「……あの、実はね? わたしは、貴女の鹿目まどかじゃないの」
「え?」
「違う時間、違う理が動く世界から、わたしは来たの。どうして来たのかは分からないけど……信じて?」
「……」
じっと見つめて、決して逸らさずに言葉を向ける。その間にも手を握るのは忘れず、両手でほむらちゃんの手を包み込む。
顔色を窺ってみると、内心だと半信半疑だけど、私の言う事を疑いたくは無い様だった。すっかりこの表情から意志を読み取るのが得意になったのが、少し誇らしい。
ちょっとだけ悩んだほむらちゃんだけど、結局は私を信じる事にしたみたいだ。手を握り返してくれて、微笑んでくれる。
「大丈夫。私は貴女の言う事を信じるわ。私が、まどかを間違える筈が無いもの」
実感の篭もった一言を告げながらも、私の全身を舐める様に見つめてくる。背筋に冷たい物が走るけど、不思議と嫌悪感は無い。エッチな意味の有る視線じゃないからだと思う。
何度も私の身体を見て、ほむらちゃんは首を傾げた。
「それにしても、その姿……概念だから歳を取らないのかしら?」
「あ、ううん。私は普通に中学生として生きてるよ。ちょっとした裏技を使って、概念をやりながら人間として生活しているの」
多分、ほむらちゃんは私が自分より少し年下に見えるのが気になったんだと思う。きっと、今のほむらちゃんは高校生くらいだから……
「そう、なら今の私は二十歳年上になるわね」
けど、そんな私の想像は一言で吹き飛んだ。
「……に、二十歳!?」
「あら、気づいていなかったのね。私は、三十四歳よ」
信じられない気持ちになった私へ、はっきりと断言してくれる。嘘ならすぐに分かるから、本当なんだ。
でも、まさか三十代だなんて思えなかった。だって、明らかに少し年上くらいの外見なんだ。ママと同じくらいの歳だなんて、全然思えない。
「二十年も経ってるのに、ほむらちゃんはあんまり変わらないね」
ちょっと背が伸びた様に見えるけど、それでも高校生くらいの外見だと思う。
……ううん、その見かけを維持しているのが魔法による物だという事くらいは分かった。
「まどかと出会った頃のままの姿で居たかったから、成長と老化を止めたの」
「高校に入って自分の外見が少しずつ変わっていくのが、怖くなって」と続けて、軽く肩を竦めている。自分は弱い子だと言いたげに苦笑しているけど、気持ちは伝わってくる。
ちょっとだけ、嬉しい。ほむらちゃんが私との出会いを何より大切に思ってくれているのが、痛いくらいに飲み込めるから。
「うーん、なら、ほむらちゃんって呼ぶのはまずいかな?」
「いいえ、ほむらで構わないわ」
「分かった。ほむらちゃんって呼ぶね……んと、今は会社員さんを?」
「いえ……そうね、近いかもしれないわ」
僅かに目を逸らした所を見た感じ、もしかすると働いていないのかもしれない。いや、魔法少女がその気になれば、働く必要なんて無いんだけれど。
でも、そこを尋ねる気は無かった。表情の変化で、聞いて欲しく無い部分だという事が分かったから。
「へぇー……」
「貴女は二十年前のまどかなのね……本当に懐かしいわ、その制服」
私の服を見て、ほむらちゃんが目を細める。ママが時々似た様な顔になっていた事を思い出して、目の前の人が本当に三十代なんだなと理解する。。
……そういえば、今の私は制服を着ていた。最後の記憶ではパジャマだった様な気がするけれど、でも、この服はやっぱり見滝原中学の制服だった。
「でも、ほむらちゃん三十四歳かぁ……何だか変な感じだね。わたし、色々なほむらちゃんを知ってるけど、人間として会うのは初めてだし……」
「概念としては存在を認識している、という事ね? 参考までに、どんな暁美ほむらが居たのか、聞かせてくれないかしら」
「うーん、えっとね……」
請われるままに、頭の中で沢山のほむらちゃんを思い浮かべる。今の状態だと円環の理の集合体が持つ知識は得られなかったので、私個人が気になって覚えていた子の姿を考えてみた。
人類滅亡後ですら魔獣と戦い続け、導かれるまでもなく私との再会を自力で果たした『世界最高峰の魔法少女』、私のパンツを食べたりしていたけど、内心では私に嫌われる事をを誰より怖がっていた『心の弱い変態』。私を拉致して監禁したけど、その辛さで私より先に泣き出してしまった『覚悟の決まらなかった子』。大学生になって、その、わ、私と一線を越えた、その、『お嫁さん』。とか。
……どれも目の前のほむらちゃんに教える子としては不適切な気がする。うん、やっぱり、『わたしの、最高のほむらちゃん』の事が一番良いと思う。
だからって『悪魔』の事を教えると不味い気がしたから、当たり障りのない所を口にする。
「そうだね。わたしと中学で一緒のほむらちゃんが居てね、ここに来る前まで二人でお泊まり会をしていたの。大事な、うん、最高の友達かな。二人一緒に幸せになるって約束したの」ほむ魔ちゃんの名前を出すと混乱させてしまいそうだから、ここは居ない事にしておく。
「へぇ……良いわね、お泊まり会。私も幾らか経験が有るわ」
「それって、わたしと?」
「ええ、繰り返しの中で、何回かね。でも、この世界ではマミやさやか、杏子ともやったわ。マミの家で集まって四人でパジャマパーティをしたり……楽しかったわ」
「マミさんのお家で? ならマミさんの手作りケーキも食べたんだ?」
「ええ、勿論。私達も一緒に作ったのよ」
ちょっと愉快そうにしながらも、それ以上の懐かしさが言葉に篭められている。私が居なくても、ほむらちゃんは皆と仲良くやっているみたいだった。
「そうだ、みんなはどうしてるの?」
二十年後のマミさんやさやかちゃん、杏子ちゃん。それは、とっても気になる。
ほむらちゃんも聞かれるのは分かっていたのか、少し顔を上向きにして、思い出す様に答えた。
「さやかは結婚したわ。マミは会社勤め、杏子は改めて教会のシスターに戻って、みんな、そこそこに幸せにやっているそうよ」
「魔獣はどうしてるの?」
「三人ともソウルジェムの濁りを取らないといけないし、時々顔を見るわ。連絡も取っているし……でも、最近は余り会わないわね。全員見滝原から出てしまったから」
じゃあ、どうしてほむらちゃんは見滝原に留まるの? とは聞かない。そんなの誰が言わなくたって知っている。
かつて私が生まれて私が育ち、概念となった場所だからだ。暁美ほむら……ほむらちゃんにとっての見滝原は、聖地に等しい物なんだ。
私からの預かり物のリボンは二十年を経ても全く変わっていない。よく見ると、魔法で守られているのが分かった。きっと、それもこれも私の存在を心に刻みつける為だ。
こういうのは確かに嬉しいけど、自分がほむらちゃんの人生を縛り付けている所をこの目で見てしまうと、どことなく居心地の悪さを感じる。勿論、態度に出す程私はバカじゃない。
「うーん、杏子ちゃんが教会のシスターさん……」
「笑えるくらい似合わないけど、『今更ってのは分かってるが、親父の夢の続きを見たくなった』って張り切っていたわね」
思い出し笑いをしながら、ほむらちゃんは自然な仕草で私の肩を抱いている。
「ところで、まどか?」
「んっ? どうしたの?」
私の顔をじっと見つめて、何だか嬉しそうに話しかけてくれる。
もの凄く機嫌が良さそうで、私まで心が明るくなっていく。話したい事が有るのは分かったから、しっかりと聞く姿勢を作った。
三十四歳のほむらちゃんは、私が知っている人と殆ど、いや全然変わらない笑顔を見せてくれて、でも、その中に僅かな不安を現した。
「二十年後の見滝原を案内したいんだけれど、良いかしら?」
「一緒に居たいから」言葉には出さなくたって、今の私はほむらちゃんを理解しているから、言いたい事はすぐに分かった。
断られたらどうしよう、そんな風に思っているんだ。私に拒絶されるのが怖いんだ、怯えているのがすぐに分かる。
きっと、ほむらちゃんは自分の気持ちが殆ど読まれている事なんて、気付いていないと思う。だからこそ表情に出やすくて、二十歳年上だと分かっていても、かわいいと、そう思えた。
そして、私がほむらちゃんを受け入れないなんてあり得ない。そんな風に見られていたのかと思うと、ちょっとだけ自分に腹が立つ。
「うん。すっごく気になる! 二十年もしたんだもん、色々変わってるんだろうなぁ、って思ってたの! お願いね、ほむらちゃん!」手を差し出して、繋ごうとしてみる。
「ええ、私に任せて」その手を恭しいくらい丁寧に取って、ほむらちゃんは淡い笑顔を浮かべてくれる。
努めて明るく頷いて、しっかりと頼る。するとほむらちゃんの表情が更に明るくなり、幸福そうに私の手に触れてくれた。
困っている時は、遠慮せずにほむらちゃんを頼る。相談したい事が有るなら、迷惑だなんて思わずにほむらちゃんへ言う。そうした方がお互いにとって幸せなんだって、私はそれを知る事が出来た。
「早速、行きましょう。新しく出来た所を案内するわ」
弾んだ足取りで、ほむらちゃんが私の手を引いて歩いてくれる。
こんな風にリードされるのも嬉しいなと思った。頼られるのも、頼るのも、ほむらちゃんが相手なら喜びは何倍にもなるんだって、つい最近知った。
「まどか、まずは何処に行きたい?」
「んー……見滝原中学かな! やっぱり校舎も古くなってたり、制服もちょっと変わってたりするんだろうなって思ったら、気になっちゃって」
「そうね、体操服のデザインは大分変わったわ。でも、校舎は改築されているから新しくなっているのよ」
「へぇぇっ……実際に見るのが楽しみだね!」
「ええ、まどかが喜んでくれるなら、私も嬉しいわ」
優しい笑顔を見せてくれて、私の心を暖かくする。
さっきのあの姿は何だったんだろうと思ってしまうくらい、ほむらちゃんは普段通りに落ち着いている。けれど、それでも私には見える。この表情の下に、隠しきれない喜びや……強い依存心が有るんだ。
そうじゃなかったら、幾ら私の言葉だからって、そう簡単に『別の世界から来た』という事を聞き入れてくれる筈が無いんだから。
+
「へー……二十年も経ったら色々と変わるんだね」
こっそり見滝原中学に潜入していた私達は、暗い校舎の中を二人っきりで歩いていた。
夜の校舎はいつもなら凄く怖いんだけど、ほむらちゃんが側に居てくれるし、身体を寄せて体温を感じているだけで、何も怖くなくなる。
……これで私が元の世界のほむらちゃんと恋人同士だったなら、『浮気』の二文字が頭に浮かんだかもしれない。けど、私達の関係はそんな『浅い』物じゃないから、問題無いんだ。
「まどか、楽しめたかしら」
「うん。でも変な感じ、見慣れた場所の筈なのに、全然違う所も有って……」
「無理も無いわ。二十年後だもの」
あれ、何だか前にこんな会話をした様な気がする。
それはともかく、二十年後の見滝原中学は確かに様変わりしていた。一番変わったのは、教室の壁だ。全面ガラス張りは流石に変だったのか、ちゃんとした壁になっている。
ほむらちゃんが言うには、『耐震設計上の問題と、余りにも落ち着かないデザインだった』というのが理由だったらしい。あれはあれで気に入っていたから、無くなると寂しい物が有るなぁ、と思う。
「ほむらちゃんは、前のと今の、どっちが好き?」
「勿論、前の見滝原中学よ」
「……わたしが居たから、かな」
「その通り。分かってくれて嬉しいわ」
花の咲く様な笑い顔だった。どちらかと言えば暗めな色のイメージが強いほむらちゃんだけど、明るい花を感じさせる表情をしている。
眼鏡を掛けている時ですら殆ど見る事の出来ない、心の底から沸き出す満面の笑みだ。ここまで『強い』笑い顔は滅多に見れる物じゃなく、思わずじっと見つめてしまう。
私の視線が気になったのか、ほむらちゃんがほんの僅かに目を逸らした。照れているんだろう。
二十歳年上なのに、私への態度はまるで変わっていない。でも、隣合って歩くと、歩幅が少しだけ違うのが分かる。高校生くらいの外見に成長しているから、私より背も足も長いんだ。
「いいなぁ、ほむらちゃん」
「?」
「背も高くなって。大人って感じで……」
歩調を合わせてくれているけど、それはそれで悔しい様な気持ちが有る。元々、私よりほむらちゃんの方が大人っぽいんだ。ちょっと年上になっただけでも、子供と大人くらいの違いが出てしまう。
なんだか対等ではない気がしてしまうんだ。
「まどかの方が、私より立派で大人で優しくて、私なんか貴女に比べれば全然よ、全然」
ほむらちゃんが私の心を読む様に言ってくれる。大人の余裕が感じられた。
「むー……ほむらちゃん、本当に格好良くなっちゃって、わたしなんて小学生みたい、なんて言われちゃうのに」
「そうかしら。私には貴女が慈悲深い女神に見えているのだけれど」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど……でも、ほむらちゃんくらいの身長が欲しいなぁ」
発育が良かったのか、目の前のほむらちゃんは私の知っている人よりかなり身長が高い。聞いてみた感じ、175センチくらいは有るらしい。
「残念ながら胸の方は微妙だけど」なんて自虐を言っていたけど、身長だけでも十分羨ましい。
『ちっちゃい』『小さい』『何だか小学生みたい』と言われる私とは月とスッポンだと思う。
「まどか、貴女は背が低い方が可愛いわ。小動物みたいで。ふふっ、貴女を見下げていると、何だかちょっとした優越感が有るわね」
「あー! もう、ひどいよ」
「ごめんなさい、でも本当にね、身長だけでも貴女よりずっと高くなって、それが嫌だった筈なのに、今は清々しい気分よ」
クスクス笑って口元を押さえつつ、嬉しそうに話してくれる。二十年、二十年間私の事を想い続けたほむらちゃんの言葉は、口調の軽さに反して酷く重々しかった。
そこへ口出しをする気は無い。下手に言葉に出すよりは、今、ほむらちゃんが私との触れ合いを楽しんでくれる事を喜ぼう。
「えへへ、ほむらちゃんが私より背が高くて嬉しいなら、うん、まあ、許してあげる」
「そう。優しいわね、まどか」
身長差から、軽く頭を叩かれてしまう。子供を褒める様な手つきに文句を付けたくなったけど、決して嫌な気分ではなかった。
むしろ、撫でられるのも悪くないと感じる。私の髪を丁寧に触られていると、自然に気持ち良くなってくる。
「んっ……ぇへへ、ほむらちゃん……」
「赤ちゃんみたいな表情になっているわよ、まどか」
「うん……何だろう、ほむらちゃんの手が暖かいからかな」
「そう……なら、もっとしてあげるわね」
ほむらちゃんも私の反応を見て、目を細めながら、より優しく髪を撫でてくれた。ここが見滝原中学の廊下なのを忘れて、夢中になってしまう。
うん、やっぱりほむらちゃんはほむらちゃんだ。ほむ魔ちゃんもそうだけど、私に触れる手は何時だって芸術品を扱う様に丁寧で、過ぎるくらいに優しい。
今度、私も『私の』ほむらちゃんにしてあげよう。喜んでくれると思う。あの髪を撫でるのは、凄く触り心地が良いに違いない。
その為にも、今は撫でられていよう。この手つきを勉強しておけば、後々で必ず役に……
「やあ、暁美ほむら。こんな所でどうしたんだい?」
……良い所だったのに。
声の調子や、そこから感じられるどこか無機質な気配。それを感じ取れば、声の主が誰なのかは分かる。
邪魔だとは言わないけれど、もう少しタイミングを計って欲しかった。ああ、でも、彼らにそれを求めるのが間違いなのかもしれない。
「キュゥべえ。タイミングの悪い奴ね」
ほむらちゃんの顔は何も変化しなかったけど、声は鬱陶しそうだった。この世界でも、二人はそれほど仲が良くないみたいだ。
「……」
私の頭に触れる手は相変わらず優しいけど、瞳には冷たい無関心が有る。この寒気は、向けられるキュゥべえには何の影響も無いだろうけど、私の背筋は凍らせてくれた。
これが、二十年間戦い続けた魔法少女の気配。円環の理ではない私には、ちょっと辛い物だった。
「暁美ほむら。良いのかい? 隣の彼女の顔色が悪くなっている様だ」
「えっ……あっ……ご、ごめんなさいっ! まどかっ、怖かったわよね? 本当にごめんなさいっ!」
「あ、あはは。大丈夫だよ」
気付いたほむらちゃんが一気に空気を消し去って、慌てて私と両目を合わす。もし、ここで目を逸らしたら、そのままショックで死んでしまいそうだ。
だから、しっかりと目を逸らさずに見つめ返す。ちょっとした微笑みを浮かべて返すと、涙目になったほむらちゃんは安堵を漏らしてくれた。
「その子は……魔法少女かな」
キュゥべえの興味は私の方へ向かったみたいだ。じっとこちらを見つめて、首を捻る様な仕草をする。
「僕は君と契約した覚えが無い。君は、イレギュラーな存在なんだね」
この世界に存在する筈の無い人間なんだから、当然ながら知っている訳がない。
「こんばんは、キュゥべえ」
「こんばんは、ところで、君は何というんだい?」
名前を尋ねられて、少し迷う。彼らにヒントを与える事が何を意味するのかくらい、私にだって分かる。ここで言っても良い物なのか、それとも口を閉ざして無視するべきか。そんな迷いが有った。
けど、私が答えを出すよりも早く、ほむらちゃんが横から口を挟む。止めようと思う前に、彼女は私の名前を口にしていた。
「彼女は鹿目まどかよ」
「君が? ……そうか、君が彼女の言う、円環の理なんだね」
心なしか、キュゥベ……インキュベーターの視線に、観察でもする様な色が宿った気がする。
しかし、私を見たって円環の理は掴めない。今の私はただの魔法少女としての力しか持っていないし、そこから何を読み取ったって、出てくるのは彼らが見知った物だけだ。
だからか、インキュベーターは諦めた様に目を逸らして、視線をほむらちゃんの方へ移す。
「でも、実体として概念が姿を現すなんて、おかしいじゃないか。確かに、外見的特徴はいつかほむらが教えてくれた物と相違無いけど……」
「そういう事も有るんだよ、キュゥべえ」
「ええ、そういう事よ、あなた達の知りたがっている事は、何一つ掴めないわね」
ほむらちゃんの言葉に、思わず心が揺れる。
「……ほむらちゃん?」
「まどか。こいつらが何を企んでいるかくらい、分かっているわ。私が目を光らせているから、安心して」
少し、驚いた。ほむらちゃんは、インキュベーターの企みに気づいている。それを分かっていて、敵意の一つも見せていないのが不思議なくらいだ。
大人の余裕、というより『無』の冷徹さを感じさせる。中学生の時とは違って、甘さが全く無い。必要なら何の躊躇もせず銃を握る事が出来そうな雰囲気は、ほむ魔ちゃんの『絶対に妥協しない』に近しい物が有った。
「心配する必要は無いよ、暁美ほむら。僕達は円環の理に手を出したりはしない」
「なら、良いわ」
インキュベーターの言葉を聞くと、ほむらちゃんは態度を軟化させた。意識の切り替えだけで、こんなにも雰囲気が変わる物なんだ。
「で、何の用事で此処に来たの? ただの暇潰しで私に会いに来る程、暇では無かったと思うのだけれど」
「……そうだね。君の顔を見に来た、という事では駄目かな?」何故か、インキュベーターの言っている事は本当に聞こえた。
「駄目に決まっているでしょう」
言い放たれて、少し考え込む様にその場を何回か移動する。本当にただ顔を見に来たんだとしたら、何だか可哀想だと思った。
けど、彼らがそんな言葉で傷ついたりする筈も無く、丁度五回その場を回って、思いついた様に立ち止まる。
「暁美ほむら、この見滝原には君しか魔法少女が居ないんだ。最近は願いを叶えたいという子も少ないからね。命がけと聞くと、すぐに止めてしまう。それに伴う魔獣の数は減少傾向に有るけれど、それでも魔法少女の存在が必要無い訳ではないよ」
心配している様な口調だった。感情を持たない彼らの事だから、それはきっと演出の様な物なんだろう。けど、珍しく二十年も付き合いの有る相手だからか、その言葉の裏には『君がその程度の困難を越えられない筈が無い』と言っている様に聞こえる。
それを肯定する様な顔付きとなって、ほむらちゃんは口元に不敵な笑みを作った。そう、作り笑いだ。精巧過ぎて、私以外にはきっと見破れないだろう。
「安心なさい、ここは私の死すべき場所よ。ここで生きてここで死ぬ。見滝原が見滝原である限り、此処は私の領地よ」
何故か私の頭を横から抱きしめた上で、ほむらちゃんは宣言した。自信に溢れている、という感じではなくて、むしろ私の存在を感じる事で勇気を振り絞る様な態度だ。
でも、インキュベーターにその辺の機敏が分かる筈も無く、彼は安心したと言いたげに首を縦に振る。
「そうかい。なら良いんだ。最近の君は、どうも燃え尽きた様だったからね」
「年齢の仕業よ」
「そうかもしれないね。君達人間の心は第二次成長期の頃から少しずつ老化を……おや、どうしたんだい。こんな所で銃声は不味いんじゃないかな」
瞬く間に銃を向けられて戸惑ったらしい。けど、今のは私も庇えない。
「私は、永遠に中学生の暁美ほむらよ。間違えないで」
「はいはい。じゃあ、無駄に個体を壊されるのも御免だからね。僕は帰らせて貰うよ」
ほむらちゃんの態度にあからさまな溜息を吐いて、暗闇の中へ消えていこうとしている。けど、まだ私の話は終わっていない。彼らには一つ、言っておかなきゃならない物が有る。
「キュゥべえ」
「何だい、鹿目まどか」こちらを振り向き、足を止めている。
「深淵に見つめられない様に、気をつけてね」
『観測出来るなら干渉出来る、干渉出来るなら制御も出来る』。彼らの言葉だけど、私は、そしてホムリリーちゃんは、その言葉に反論すべき物を持っている。
私達が、宇宙の一生物の努力と技術でどうにか出来る様な安っぽい存在だと思っているのか。舐めるのもいい加減にしろ。というのが、私達の気持ちだ。
この世界の円環は集合体ではないから、そこまで巨大で恐ろしい存在ではないけど、だからって彼らの手が届く程甘くは無い。彼らが『干渉』を可能とするより早く宇宙から感情の有る生物が絶滅する方が、確率的には遙かに高いんだ。
「……そうだね」
私の言葉を受けて、インキュベーターは小さく頷いていると思わしき仕草を見せる。
「世の中には、僕達程度では全く力の及ばない存在が居る。それくらい、分かっているさ」
それだけ告げると、彼は大人しく闇の中へ消えていく。想像していたより、ずっと諦めが良かった。こちらが戸惑ってしまうくらいに。
何かを内心で企んでいるんじゃないかと思ったけど、そうでもない気もする。どの道、私はこの世界の円環じゃないから、心配する必要なんて無いのかもしれないけど。
「さあっ! 次はどうしたいのかしら?」
インキュベーターの姿がすっかり消えて気配も無くなると、ほむらちゃんは表情を明るい物へと変えて、手を叩いて小さな音を鳴らす。
もう、さっきまでの怖い感じは完全に無い。何もかも嘘だったみたいだ。しっかりと記憶には残っているけど、言及しない方が良いんだろう。ほむらちゃんの態度を見た限りだと、あまり口出しをするのは良くない気がした。
だから、この校舎で有った事は忘れて、次に行ってみようと思っていた場所を頭に浮かべる。学校を見たんだから、次は……
「そうだね……うん、新しいお店とか、見てみたいな」
気になるのは、やっぱりそこだ。
二十年後のみんなを見たい気持ちも有ったけど、私を知らない人達と会うのはちょっと怖いし、何よりほむらちゃんが辛いだろうから。
その気持ちが伝わったのかどうかは分からないけど、ほむらちゃんは少し考えた後で、私へと微笑みかける。
「じゃあ、少し前に出来たショッピングセンターに行きましょう。貴女の知っている所は潰れてしまったから……」
「え!? 無くなっちゃったの?」
「経営が上手く行かなかったらしいわ」
「んー、そっか……」
さやかちゃんや仁美ちゃんと一緒によく行った場所だから、何だか寂しい気持ちになった。二十年は、短い様で長いんだ。
変わり行く物は、消えてしまう事だって有る。それを実感してしまったからか、ほんの僅かだけど、心が暗くなってしまう。
「……世知辛いんだね」
「ええ、本当に」
ほむらちゃんは同意を示すと、遠い目をする。
「中学も、ショッピングセンターもね。全部がまどかとの思い出だから、変わっていくのは寂しい物が有るの」
懐古を口にしつつ、私の方を見る。何だかとっても明るい顔付きをしていて、その中に含まれた暗くも切ない感情を見逃してしまいそうなくらい、嬉しそうだった。
「でもね、まどか。変わってしまった物の上を貴女と一緒に歩けるなら、それもまた、思い出になると思うの」
「……ふふふっ、じゃあ一杯エスコートしてね、ほむらちゃん?」
「ええ、全て私に委ねて。安心して、貴女に楽しんで貰いたいと思って、さっきからずっとプランを練っていたの」
頼もしげな様子を見せながら、ほむらちゃんは私の手を引いた。絡められた手は離れない様にしっかりと握られて、まるで私を捕まえているみたいだ。
けど、それも良いと思える。こんなにも楽しそうにしてくれるなら、私も嬉しいから。
申し訳ございません。本作、後一話続きます。流石に一話だけじゃ片付かなかった……
一応本作の後日編ラストとなる、純粋まどほむです。次話は淫乱警報ですが。
しかし、まだ次は書きあがっておりません。