使い魔少女HOMURA★ほむら ~だが、誰が救い手を救うのか?~(完結) 作:曇天紫苑
例え最終戦争が起きようと、絶対に妥協しない
昔々、時間の向こう。
女の子は、星から来た動物と取り引きしました。
大切な人を守る力を貰う代わりに、辛い思いをするのです。
あらゆる世界の女の子が同じ願いを抱き、数え切れない女の子が大切な人を守ろうとして、やがて女の子は大切な人を失いました。
魔法を持った女の子には、知らない事があります。
どうしようもなくなったその時には、とても怖い邪神様がお越しになられて、女の子の背中を押すのです。
魔法の神様を助ける為の、生け贄にさせられてしまうのです。
まどかを愛し、まどかに守られ、まどかを想って戦い続ける者達が居る。
それが、暁美ほむら。
機会を掴んだ代償として、永遠の迷路に閉じこめられた魂。
その末路は、まどかの消滅による迷路の破壊。
まどかがこの世界から消え去る事で、存在意義を消失する。
そして訪れた終末の後、暁美ほむらは再び戦いを始める。
悲しみや憎しみよりも愛が支配する、この恐るべき狂った世界で、あの、輝かしい笑顔を、幾度でも見続ける事を夢見て...
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私、鹿目まどかは、酷い場所に立っていた。
これは夢だって、すぐに分かった。
私は普段、夢の中に居ても夢だとは気づかないタイプだと思ってる。けれど、今だけはすぐに理解できた。ううん、『夢だと思いたい』と心底感じたんだ。
だって、そこは本当に……地獄だった。
大地が裂けて、空は歪み、恐ろしい程に嫌な空気が漂っている。私達の背景には崩れ落ちた建物と、幾つもの呪いが有って、とてもじゃないけれど、現実だとは思わなかった。
そこには、沢山の人が倒れていた。黄色い髪をした人、白い髪をした人、赤い髪をした人……黒い、髪をした人。
全員、知っている人だった。その中の黒い髪をした人を見て、私は背筋が凍り付いた。
「ほむらちゃん!」
倒れて、何も言わない黒い髪のほむらちゃんを抱き起こそうとする。けど、これはやっぱり夢なんだ、倒れた彼女に触れる事は出来なかったし、私の声も届かない。
だけど、声が届いたって意味は無いんだろう。だって、ほむらちゃんの心臓には大きな穴が開いていて、顔の半分が無くなっていたんだから。
「ねえ、起きてっ。ほむらちゃん、起きてよぉ……!」
信じたくなかった。ほむらちゃんが死ぬ訳がない。私が生きてるのに、ほむらちゃんが私より先に死んじゃう筈が無い。
それでも、私の言葉は届かない。重苦しい空気と、血の酷い臭いだけが漂っていて、それはもう言葉に出来る物なんかじゃなかった。
「そっか……それがあんたの、まどかの気持ちなんだね……?」
さやかちゃんの声だ。
そこには倒れている人しか居ない筈なのに、さやかちゃんの声が聞こえる。これは、やっぱり夢なんだ。
振り向くと、そこにはさやかちゃんが居た。何時の間にか現れて、私に向かって声をかけている。
「さやかちゃん?」
思わず戸惑ってしまったけど、さやかちゃんは私の言葉に応えたりはしなかった。
さやかちゃんの視線は、私の背後に向けられていた。そこに誰が居るのかを確認しようと、私はさやかちゃんの視線の先へ目を向ける。
そこには、私が居た。
ただの私じゃない。天空を輝かせる白いドレスと、凄まじい長さの髪が特徴の姿は、まさしく円環の理そのものだった。
でも、その私は何も言わない。目の奥には光が無いのに、瞳からは涙を流していた。
それを見て、さやかちゃんは涙を堪える。拳を強く握り締めて、泣きそうな顔をしながらも、大きく頷いている。
「……そっ、か……仕方ない、よね。何て、酷いんだろう……でも、まどかが、まどかがそれを選ぶなら……あたしは……」
さやかちゃんの拳は、強く握り締めすぎて血が流れていた。途方も無い苦痛を我慢し、妥協しようと必死になっているんだ。
燃え上がる世界を背に、さやかちゃんと、無表情の私が見つめ合う。そのまま時間が流れていて、無言が広がっていく。
「お断りよ」
ほむらちゃんの声だった。
ううん、これは、これは決してほむらちゃんの声じゃない。この恐ろしくも、深く強い意志を感じさせる調子は、あの人だ。
そう……ほむ魔ちゃんだ。
ほむ魔ちゃんが、立っている。石像の様に無言の私とさやかちゃんの間に立って、今にも溢れんばかりの感情を瞳と声の中に溜め込んでいた。
「幾らまどかの願いだからって、まどかを犠牲にするなんて、冗談じゃないわ。こんなの、私は認めない」
ほむ魔ちゃんが、普段は隠している全力の狂気を放出した。ただ、それだけでこの世界が揺れる。世界が彼女に恐慌する。
これが夢だと分かっていても、私は余りの息苦しさに言葉を失った。
「待って!」
だけど、さやかちゃんは必死で狂気に抵抗した。親愛や友情を糧にして、絶対に屈しない様に自分の意志を強く持って、ほむ魔ちゃんを止めようとしている。
何が起きているのか、私には分からない。けれど、一つだけ分かる。ほむ魔ちゃんは『鹿目まどか』に何かをする気なんだ。
さやかちゃんが、全身を震わせながら叫んだ。
「これはまどかが、まどかが心から望んだ願いなんだよ!? ほむ魔、ここは妥協して――」
「例えまどかの望みが叶うとしても……まどかの幸福を、妥協はしない」
しかし、さやかちゃんの言葉は届かなかった。
冷たい。ほむ魔ちゃんの声は、私が聞いた事が無いくらい冷たかった。
「それが私と貴女の違う所よ、さやか」
言い放つと、ほむ魔ちゃんはそれっきりさやかちゃんの顔を見る事も無く、『鹿目まどか』の方へ体を向ける。たったそれだけの動きが、見ていられないくらい怖い。
『鹿目まどか』の無感動な瞳が動き、ただひたすらに感情の無い両目が、ただの『障害物』を捉える様にほむ魔ちゃんを見ていた。
「まどか」
どこか切なげに、ほむ魔ちゃんはその名前を呼ぶ。
不思議と、自分が呼ばれている気はしなかった。『鹿目まどか』という名前の、全くの別人が呼ばれているんだと思った。
「貴女が全てを救うなら、先にやらなきゃいけない事が有るわね」
「……」
「私は、貴女の幸福を妥協できない。なら、私の存在は貴女にとって害悪となる。後は、分かるでしょう?」
ほむ魔ちゃんはクスリと笑って、固まる『鹿目まどか』の頬を撫でた。
ただ、ひたすらに優しく、どこまでも深い愛情の篭められた手つきだった。
『鹿目まどか』の瞳から、一滴の涙が伝う。何の意志も無い筈の顔が、悲しみに暮れて壊れそうになっている様に見える。
そんな顔を見て、ほむ魔ちゃんは嬉しげな吐息を漏らす。けれど、その表情は瞬く間に引き締まり、異様なくらい歪められた顔となった。
「これまで多くの魔法少女が……暁美ほむらが犠牲になってきた。今更使い魔程度が一匹消えた所で同じでしょう……私を消し去りなさい」
腕を広げて、ほむ魔ちゃんは覚悟を決めた様子を見せる。
『鹿目まどか』は何も言わない。でも、さやかちゃんは大きな反応を見せた。
「それだけは止めてっ!!」
震える身体を意志でねじ伏せて、さやかちゃんは二人の間に飛び込んだ。何一つ顔色を変えない『鹿目まどか』に縋り着いて、思い切り泣き出していた。
「だめっ、まどか。止めて、そんなの。そんなのって、ないよ……あんた達、運命の仲間なんでしょ!?」
「それは、暁美ほむらの話。私はAKEMI HOMURA。別の存在よ。退きなさい、さやか」
さやかちゃんが弾き飛ばされ、離れた所まで吹き飛ばされた。そして、紫色の糸がさやかちゃんを包み、身動きが取れない様に拘束している。
きっと、ほむ魔ちゃんが能力を使ったんだ。状況は理解出来ないけど、きっと、さやかちゃんを巻き込まない様に、動きを封じ込めたんだと思う。
そして、彼女は親友が吹き飛ばされたのに何の反応も現さない『鹿目まどか』を見つめる。
……ううん、よく見れば、『鹿目まどか』の指先は震えていた。躊躇いと苦しみで揺れて、一向に動き出さなかった。
それに苛立った様子で、ほむ魔ちゃんは眉が顰めている。
「ほら、何を躊躇ってるの? 此処で消さなければ、私は貴女を幸福にする為に、世界を滅ぼすわよ」
言葉と同時に形が崩れて、黒い肉の塊になっていく。顔だけは変わらなかったから、余計におぞましい姿になっていた。
絶望と呪いで埋め尽くされた身体。これがほむ魔ちゃんの姿だ。「使い魔としての醜い姿よ」って、本人はそう言っていて、『鹿目まどか』にはこんな姿を見せようとは思わない筈だ。
それなのに、ほむ魔ちゃんが自分の姿を崩した理由が、私には伝わってきてしまった。
彼女は、『鹿目まどか』が自分を殺しやすい様に、『暁美ほむら』とは違う姿になっているんだ。
「……」
それでも、『鹿目まどか』は動かなかった。表情は一つも変わらないのに、腕の震えは酷くなっていき、流れる涙は洪水かと思えるくらいになっていた。
『殺したくない。殺したくない。いや、ほむ魔ちゃん、止めて。邪魔をしないで』
顔が変わらなくたって、声に出さなくたって、その気持ちは私に伝わってくる。同じ鹿目まどかだから、考えている事が分かる。
だけど、ほむ魔ちゃんは無慈悲に叫んだ。
「やりなさい……殺せっ!!!!」
その言葉が、決定的な引き金になる。
覚悟を決めた様に、『鹿目まどか』の弓がほむ魔ちゃんへ向いていく。
そんなの、駄目だ。そんなの、絶対にしちゃいけない。私がこの手でほむ魔ちゃんを殺すなんて、そんな事をしたら、耐えられない。
こんな残酷過ぎる世界、見ていたくない。
それでも、『鹿目まどか』は桃色の魔力をほむ魔ちゃんへ……
「だめぇぇぇぇぇっ!!!!!」
きっと、魔力を受ければ死んでしまう。それでも私はほむ魔ちゃんの盾になろうとして、間に入った。
だのに、大きな桃色の光は私の身体を通り抜けて、貪る様にほむ魔ちゃんを飲み込んで……
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「ぇっ!!」
私は、飛び起きた。
上半身が一気に起こして、周囲の光景が変わった事を理解する。今まで見ていた地獄は無くなり、薄暗くも安心できる、自分の部屋が視界に広がっていた。
すぐ近くにはぬいぐるみが有って、あの酷い風景が夢だった事を教えてくれる。何より、此処には誰の死体も転がっていないんだ。
あの場所が夢の中なのは分かっていた。それでも、圧倒的な現実味を持った夢の中は、私の心を酷く乱していた。
「ゆ、め……?」
夢が覚めた事に対してこんなに感謝したのは、これが初めてだった。
なんて、ひどい夢だったんだろう。
私がした訳じゃないのに、この手にはほむ魔ちゃんを殺した感触が残っていて、それが酷く気持ち悪く、胃の奥からこみ上げる感触が有る。
思わず、手で口を覆う。そうしないと、吐いてしまいそうで。
「うっ……うぅ」
涙がボロボロと落ちていく。あんな悲しくて苦しくて辛い夢を、私は生まれて初めて見た。こんなにも記憶から消えない夢なんか、見たくなかった。
「大丈夫?」
優しく、私の背中をさすってくれる人が居る。
その声はとても暖かみが有って、心配そうだった。あの夢で見た冷たい声なんかじゃない。
そう思うと、余計に涙が出てきた。
「ほむ魔、ちゃん……」
「苦しいのね。好きなだけ泣いて良いのよ」
私の頭を横から抱きしめて、そっと頭を撫でてくれる。
こんなにも私を大事にしてくれる人を、この手で殺す。そんな自分の姿を見てしまった。
自分も、いずれそうなってしまうんじゃないか。そう思うと、叫びたくなるくらい怖くて、全身が震え上がってしまう。
そんな私の身体を、ほむ魔ちゃんはそっと抱き締め続ける。きっと私が泣き止むまで、こうしてくれるだろう。
「わ、わたし、怖い夢を見たの……わ、わたしが、ほむ魔ちゃんを……こ、ころす夢……」
泣きながらだったけど、無理矢理口を開いて、嗚咽を堪えながら夢の内容を教える。言葉にすると、余計に背中が重くなった気がした。
すると、ほむ魔ちゃんは何処か納得した様に頷いた。『何もかも理解したから、もう何も言わなくて良い』。そんな風な意志を、その手に篭めてくれている。
「辛い夢を見たわね……」
「うん……」
「でも、大丈夫。大丈夫よ。夢は夢、暁美ほむらは生きているし、私も貴女の側に居るから」
それは、分かってる。
あれが夢だっていう事は、自分が一番理解していた。怖い夢を見ただけで泣き出すなんて、まるで小さい子みたいだ。そう思う自分が居るのに、涙は堪えられない。
優しく慰めてくれるのに、一向に泣き止めない自分が酷く情けなく感じた。
そんな私の気持ちを読んだんだろう、ほむ魔ちゃんは口元に一層優しい微笑みを浮かべて、私の頭をそっと倒す。
「なら、そうね。今日は私の膝で眠ってみなさい」
後頭部がほむ魔ちゃんの膝に乗る。柔らかくて、暖かかった。今まで使ったどんな枕より頭を包み込んでくれて、どんな枕より安らげる。
ほむ魔ちゃんはどこからかハンカチを取り出して、私の涙を拭ってくれる。涙はそれでも流れていたけれど、泣く勢いは弱まった。
少しずつ心が落ち着くにつれて、恥ずかしくなってくる。ただ怖い夢を見た、というだけの理由で泣いている所を見られてしまった。
「……ね、ねえ」
「ん? なあに、まどか」
恥ずかしさは一度脇に置いて、私はほむ魔ちゃんの顔を見る。
夢の中で見た時とは違って、どこにも冷たくて怖い雰囲気は見当たらない。けど、今、私が見ているこの表情の一枚下には、きっとあの狂った顔が有るんだ。
「『まどかの幸福を妥協はしない』」
私の言葉を聞いて、ほむ魔ちゃんが少し顔色を変える。
それは、ほむ魔ちゃんの口癖で、彼女が私の側に居てくれる理由だった。
「ほむ魔ちゃんが夢の中で言ってたの……」
夢の中の彼女も、同じ事を言っていた。
そして、あの夢の中と同じ状況になったら、現実のほむ魔ちゃんもきっと同じ行動を取る。私には、それが分かる。
「教えて、くれないかな。ほむ魔ちゃんの気持ちを」
だから、聞いておきたかった。ほむ魔ちゃんの想いを、改めてしっかりと聞きたいと思った。
その気持ちは、確かに伝わったんだと思う。膝の上の私をゆっくりと撫でて、彼女は私に顔を近づけてくる。
「私達は、ホムリリーはね。まどかの願いを、祈りを、思いを食い尽くし、呪いで埋め尽くしてでも……例え望まれなくたって、鹿目まどかを幸福にする、幸福が無いなら作り出す。普通の人間じゃ辛いかもしれないけど、私にとっては、これこそ自分の意志で選んだ道」
強い意志を思わせる言葉は、私の胸に届いた。
とても、酷い生き方だと思う。私の事ばかり想って、それ以外の全部を捨てている。ほむらちゃんと違って泣く事も、悲しむ事も苦しむ事もしないし、出来ない。
人間じゃなかった。ほむ魔ちゃんは、やっぱりどこまでも人間じゃなかった。
「……ほむ魔ちゃん、あなたは……」
「地獄よりも深く暗く、天国よりも高く輝くもの……それこそ愛の最果て。愛する為に狂えないなら私も暁美ほむらも、存在する価値が無いわ。だから安心して、私は、まどかが不幸になる事を許さない。そんな辛い夢は、絶対に現実にならないから」
話の内容は恐ろしいくらい重い筈なのに、そこに重苦しい雰囲気は無くて、代わりに明るく私を励まそうとする気持ちが伝わってくる。
それでも、そんな風に私の事を必死に考えてくれるほむ魔ちゃんは、救いだった。
何でも頼って良いんだ。困った事が有るなら、辛い事が有るなら何でも言って良い相手。どんな事を頼んでも、それが私を幸せにするなら、喜んで引き受けてくれる。
どこまでも自分を犠牲にして、私なんかの為に全部を捧げてくれる。
その生き方は悲しいって、『ただの鹿目まどか』なら、きっとそう思う。
けれど、私は一度人間を止めて、一つ上の概念として世界に存在している。だから、『人とは全く違う何か』の気持ちは、よく分かるんだ。
だから、私はほむ魔ちゃんの気持ちを受け止めて、その上で彼女に一つ頼みたくなった。
「……ほむ魔ちゃんは、さ」
「うん?」
「わたしを幸せにする為に、生きてるんだよね」
「そうよ、間違いなく、そう。貴女が拒絶しても、貴女を幸福にする為に生きているわ」
自分の行動に何一つ疑問を持っていない様子で、ほむ魔ちゃんは頷いてくれる。
「だったら、一つ、頼まれてくれる?」
「……何?」
ほむ魔ちゃんの声音が、今までよりずっと真剣な物になる。
私の言葉を一言一句聞き逃さない様に、必死になってくれている。それが分かって、私は少し心を重くしながらも、頼み事を口にした。
「この後も、ずっとずっとわたし達が幸せでいられる様に、わたし達の人生を助けてくれないかな」
私が、ほむ魔ちゃんに頼む。それに対して彼女が何て返答をしてくれるか、なんて、考えなくても分かった。
「……うん、分かったわ。約束よ」
「約束、してくれるの?」
「ええ、勿論」
何の迷いも躊躇も無く、ほむ魔ちゃんは私と約束を交わしてくれた。
『約束』
『鹿目まどか』と『暁美ほむら』の間に有った中で、最も辛く響く言葉が有るとすれば、それだ。
『キュゥべえに騙される前の、バカなわたしを助けてくれないかな』
その言葉が、暁美ほむらという女の子を決定的に変質させた。あの約束が有ったからこそ、ほむらちゃんは今までずっと戦い続けてきた。
それを、私は知っている。『暁美ほむらと同じ精神を持つ存在』と約束を交わす事がどれだけの意味を持つかは、分かってる。
だけど、私はほむ魔ちゃんが約束してくれた事が嬉しかった。この人が約束してくれた。なら、絶対にあの夢は現実にならない。
安心が、一気に押し寄せてくる。安堵でまた涙が流れて、眠気が強くなってくる。
「……分かった。約束してくれて、ありがと……ほむ魔ちゃん……ふあぁ……」
「いいから、さ、もう寝なさない。明日も学校よ。早く寝ないと辛いでしょう」
私の頭を膝の上に乗せたまま、寝る様に言ってくれる。
時計を見てみると、深夜の二時だった。もう一度眠れる時間帯だし、まだ寝足りないと思う。
けど、ほむ魔ちゃんの顔が目の前に有ると思うと、中々寝付けない。あの顔を見ているだけで、愛しさや暖かさで心が満たされてしまう。
「ほむ魔ちゃん、何だか眠れないよ……」
「ふふ、うつ伏せで眠ってみたらどう? 平気よ、息苦しくなったりはしないわ」
「ん……じゃあ、そうするね……」
言葉に甘えて、うつ伏せで寝てみる事にする。
まだ涙は止まらないけど、それでも顔を移動させて、ほむ魔ちゃんの股の間に鼻先を入れる。
良い香りがした。眠くなってくる様な、森の中に居る様な気持ちにさせてくれて、とっても落ち着いて癒される。
眠気が更に強くなる。ほむ魔ちゃんに包まれている気分だった。こんなにも私を愛してくれる人が近くに居る。それがまた、私を安心させてくれた。
「うゅ……いい夢、みれるかなぁ」
「私は使い魔よ? 少々夢をどうにかするくらいなら、簡単簡単」
頼もしげに私の後頭部を撫でてくれる。
その軽い衝撃で私の顔がまた少し股の間に入り込んだけど、嫌な感じはしない。むしろ、人肌のぬくもりがとても幸せに感じられる。
私の夢を覗き見ていたんじゃないか。そんな疑いが心に宿ったけど、気にしない事にした。ちょっと過保護だと思えるくらい大事にされているのは、結構嬉しい事だから。
「んっ……ほむ魔ちゃんの太股、柔らかいね。何だかマシュマロみたい……」
「あなたの枕になる為に柔らかさを調節してみたの、どうかしら?」
「最高だよぉ……」
幸福感が強過ぎて、頭が動かなくなるくらい最高だった。
その上、ほむ魔ちゃんは子守歌みたいに鼻歌を聞かせてくれて、頭や背中を丁寧に撫で回してくれるんだ。大きな安らぎの中に居る事を、実感させてくれる。
「おやすみなさい、まどか。大丈夫、悪いお夢は、これっきりだから」
うん……おやすみなさい……
……約束をしたんだから、私も、ほむ魔ちゃんの足を引っ張らないくらい、凄くなりたいなぁ……
あ、そうだ、私って人間じゃないんだっけ。それなら……んんっ、眠ぃ……考えるのは、明日で良いや……
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まどかが眠った事を確認して、私は、意識的に口元へおぞましい笑顔を浮かべた。
「……よりにもよって、一番悪い未来を見るとはね」
まどかが見た物。それは、夢なんかではない。
彼女が見たのは、想定される中で最も悪い状況となり、最終的にまどかの犠牲で全てを救済する『未来の光景』だった。
その未来に於いて、私は妥協しない意志でまどかに否定を突きつけ、妥協出来ないが故に、まどかの手によって消える。
例えまどかの望みだとしても、私はまどかの幸福を妥協しない。どれだけまどかが祈り願い想い決意しようが、私はそれを止め、否定し続けるだろう。
前にさやかにも言ったが、私を止めるなら、その存在を消し去るしかないのだ。
だが、そんな未来の問題は既に解決している。
だって、その可能性は私……いや、ホムリリーが幸福な物に変えたんだから。運命など歯牙にもかけず、幾多の世界を自由自在に操る事くらい、アレなら片手仕事だ。
「円環の理としての力を制限した状態でも、未来の可能性を見る事が出来るのね、流石はまどか」
この可愛らしく私の太股に顔を突っ込んだ少女が、概念としての力を発揮して、未来を見た。そして、涙した。
まどかを泣かせた事に対して、未来の自分を殺したい気持ちになったが、そこは何とか抑える。
未来の自分を嫌悪した所で、まどかを悲しませるだけだ。それに、それを加味しても十分に許せるくらい大きな物を、まどかから貰ったんだから。
「ふ、ふふ」
まどかとの約束。
私は、それを得た。
それは、暁美ほむらという名の単なる少女が、まどかの為に生涯を捧げる存在、真の意味での『暁美ほむら』に成り果てる為に必要な儀式だ。
初めから逸脱している私も、ついにまどかと約束を交わす日が訪れた。
それがどれほどの喜びだったのか。まどか自身も分かってはいないだろう。私の全存在を約束を果たす為に使える事は、それこそ飛び上がらんばかりの歓喜を呼び起こしてくれた。
まどかは、幸福を望んでいる。悲惨な未来を避け、幸福な未来を作り上げる事を望んでいる。
ならば、私は躊躇わない。この身の全ては、最初からまどかの物なんだから。
まどかの幸福の為なら、私は手段を選ばない。どんなに呪わしい姿に成り果てたとしても……いや、私は生まれついて呪わしい存在だったか。
ならば、もう一歩くらい、使い魔たる私の先を見るのも良いかもしれない。
案は幾らでも有るが、どの案を採用するかは考えなければならない。まどかを幸福にする為ならどんな手段も取れるが、それはまどかを不幸にしない範囲での事だ。その辺りの線引きと選定を行わずに動けば、まどかを悲しませる原因となりかねない。
高速で動く思考の中で、私は膝の中で眠るまどかを……私の白いショーツに額を埋めたまどかを見つめる。
面白がってドッキリ気分で下着姿になっていたのだ。だからどう、という話ではないが、何だか緊張感を覚えてしまう。
普通の人間が着用する物とは違い、私は汚さとは無縁の存在だ。まどかが抱き枕として愛用するぬいぐるみより、数千倍綺麗だと自負している。
柔らかさも絶妙に加減をしている為に、まどかは安らぎの中で眠ってくれる。早朝、起きた時の反応が楽しみだ。
下着姿の私を見て、混乱したり焦ったりしてくれるだろう。悪いお夢の事なんか、きっと忘れてくれる。
……実は、私もかなり恥ずかしい思いをするけれど、まあ、気にするまい。
-解説-
ここで挙げた物以外にも、本作にはパロやらネタやら山ほど突っ込んでます。シリアスなシーンでも、勿論。
『昔々、時間の向こう~』
叛逆の冒頭パロ。後半は、『ほむ魔から見て暁美ほむらがどういう存在に映っているか』
『まどかの見た夢』
展開も死に方もそのまんま『アレ』。ある意味重大なネタバレにもなると思います。
『幸福が無いなら作り出す』
……『まどかの幸福を守る』と『まどかを守る』事は違いますよね?
『約束』
ループ中の暁美ほむらが一番に縋っている物。これが無ければ、早々に心が折れていたかもしれない。約束が履行出来なくなったからこそ、叛逆の物語はあんなに早く発生したんじゃないかと。