使い魔少女HOMURA★ほむら ~だが、誰が救い手を救うのか?~(完結)   作:曇天紫苑

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『It was an All-in-One and One-in-All of limitless being and self—not merely a thing of one Space-Time continuum, but allied to the ultimate animating essence of existence’s whole unbounded sweep—the last, utter sweep which has no confines and which outreaches fancy and mathematics alike』

 H・P・L『Through the Gates of the Silver Key(銀の鍵の門を越えて)』より


暁美ほむらの、最愛の友達

 そして、そんな光景を、私はこっそりと覗き見ていた。

 一世一代の告白を、まどかは『友達として』受け入れたらしい。とはいえ、まどかも悪くない気分の様だし、二人が望めば結婚だって出来そうだ。

 暁美ほむらとまどかは、それからインキュベーター対策や、この世界で体験した事、円環の理のお仕事について話を始めた。

 これ以上の覗き見は流石に悪い気がして、目を閉じる。

 我ながら趣味が悪いと思うが、あの二人はもう大丈夫だ。暁美ほむらの一方通行に過ぎなかった気持ちは、きっとまどかの胸に届き、まどかを幸福にするだろう。

 

「もう深夜だぞ、さっさと帰らないと、不味いんじゃねーか?」

 

 暫く暁美ほむらを見送ると、杏子が思い出した様子で呟く。

 今は、深夜だ。中学生が外を歩いていたら、補導されてしまうだろう。杏子は慣れているだろうが、まどかやさやかはアレで真面目な子だ。警察から隠れるのも得意ではあるまい。

 

「そっか。もう十二時過ぎてるんだっけ。ああ、あいつ、上手くやってるかな」

「大丈夫だよ、さやかちゃん。絶対、大丈夫」

 

 元の世界へ戻った暁美ほむらの事を、まどかは信じているみたいだ。私も大丈夫だと信じているが、万が一の場合は、私も手を貸すつもりだ。

 

「何か、アレだな。一人居なくなると、何だか寂しい感じがするぜ」

「……そうだね。転校生が居なくなって、何か、心に穴が空いちゃった感じ」

 

 さやかと杏子の二人は、どことなく寂しそうにしている。横からその会話を聞いて、暁美ほむらが不満げに眉を顰めていた。

 

「……暁美ほむらなら、此処にも居るんだけれど?」

「あのほむらちゃんと、わたしの目の前に居るほむらちゃんは違うよ。どちらも、わたしの大切な人なのは変わらないけどね」

 

 それに対して、まどかは笑みを浮かべている。当然だろうか、今も、彼女は幾多の暁美ほむらを見守っているのだから。

 そんな中、マミは何かを思いついたのだろう。空気を明るくする意味も有って、軽く手を叩き、軽快な音を放つ。

 

「そうね……明日、なぎさも連れて、どこかへ遊びに行きましょうか? 気分転換に、ね」

 

 何処かに遊びに行って、今の寂しさを乗り越えるつもりなのだろう。よく見れば、マミも少しばかり寂しげだった。どんなに愛で狂おうが、親しい人との別れはやっぱり辛いのだ。

 きっと、さやかもマミの様子に気づいたんだろう。僅かに息を飲むと、一気に明るい表情を作って、何時も通り快活に笑った。

 

「よしっ、じゃあ、カラオケにでも行きませんか?」

「良いわね……良いですね、美樹さん」

 

 賛同したのは、この世界の暁美ほむらだ。先程から、眼鏡を掛けて、何度か咳払いをしていて、言葉使いはすっかり元の物へ戻っていた。

 

「お、ほむら、口調直しちゃうんだ」

「はい。あんまり言動が同じだと、幾ら何でも変だと思ったので……それに、もしまどかに間違えられたら、悲しいですから」

「えー。わたしは、ほむらちゃんが何人居たって見分けられるよ? ……呼び間違えちゃった事は有るけどね」

 

 あはは、と誤魔化し笑いを口にしているまどか。『メガほむ』と呼ぶのを忘れて、『ほむらちゃん』と呼んでしまった事が何度か有るのを、私は覚えている。

 

「だってさ? 愛されてるね、ほむらは」

「そうですね……ありがとう、まどか」

「こちらこそ、ありがとうだよ、ほむらちゃん」

 

 暁美ほむらがまどかの側に駆け寄って、嬉しそうに手を握り合った。お互いに相手の顔を見つめ合い、微笑み合っている。見ているだけで胸が暖かくなる光景だ。

 ずっと見ていたい気持ちは有ったが、この真夜中だ。まどかには起きているのが少し辛い時間帯だろうし、睡眠時間をきっちり取らないのは健康にも良くない。手早く終わらせて、まどかをベッドに戻さねばならない。

 巴マミへ視線を送ると、彼女は一度頷き返してくれて、見つめ合う二人組の横で話し出す。

 

「さて、そろそろ家に帰らないと不味いわね。中学生の集団深夜徘徊なんて、バレたら怒られちゃうわ」

「魔法少女なら、余裕で逃げられるけどなー。遅くまで外に出るのは、魔獣退治で慣れてるし」

「それでも、万が一にも警察のご厄介になるリスクは避けたいでしょう、佐倉さん」

「……まーな」

 

 杏子とマミが二人で話していると、過去の師弟関係が時折見えてきて、面白い。さやかが会話に混ざるタイミングを見計らっている姿を含めて、実に見ていて飽きない物だ。

 そんな彼女達の会話は、まどかと暁美ほむらの耳にも届いたらしい。二人は手を絡め合う事を止めて、仲良く並んでいた。

 

「ん、ふぁ……帰ろっか。ほむらちゃん、今日は家に泊まっていく?」

「まどかさえ良ければ、喜んで」

 

 欠伸をしながらのまどかの言葉に、暁美ほむらは一も二も無く賛同した。普段の無表情は何処へ消えてしまったのか、心が弾んでいるのが一見して分かる。

 まあ、これまでの一ヶ月間は、『あの世界の暁美ほむら』を監視する事で忙しかったんだ。同族嫌悪も有って、かなり神経を使い、疲労した筈だ。まどかと一緒に暫く休息するべきだろう。

 

「さやかちゃん、マミさん、杏子ちゃん! 行きましょう!」

 

 三人へと声を掛けると、まどかは暁美ほむらを伴って、自分の家の方角へ向かって歩き出す。

 補導される危険を避ける為に、幾らか魔法を使っておいた。これなら話に花を咲かせながら帰っても、誰かに見つかったりはしない。

 

「ん、今行くよ、まどか」

「ほむ魔。お前も来いよ」

「……ええ、今行くわ」

 

 杏子が私へ手招きをする。一緒に帰ろう、という事なのだろう。私の住処はまどかの部屋なので、共に帰る事が出来るのだ。

 招かれるまま、私は彼女達の後ろを歩く。

 

「そういえばさ、まどか。この間、エイミーを見たんだけど」

「え……あ、あの黒猫ちゃんだよね。わたしが契約する理由になる可能性が有る、っていう」

「そそ。そのエイミー。あたしにすり寄って来てさ、可愛かったよ? ねえ、杏子?」

「ん……ああ、そうだな。出来れば連れて帰りたいくらいだ」

「まあ、家には立派な飼い犬が居るからね。流石にもう一匹は」

「おい、そりゃ誰の事だ」

「勿論、杏子の事だけど?」

「…………まあ、犬の他にカバも飼ってるしな。流石に厳しいか」

「ちょっと、それは誰の事よ」

「勿論、さやかの事だぞ?」

 

 ふざけながら歩くさやかと杏子、それを見て、まどかが笑っている。私も、思わず笑みが浮かんでしまう。

 

「……ふふっ、暁美さん。貴女の家で飼ってあげたら?」

「……悪くないわね。あの子は、私とまどかの絆だから。野良猫のままの方が良いのか、連れて帰った方が良いのかは、分からないけれど」

 

 黒猫のエイミーを思いだしているのか、暁美ほむらが嬉しそうな顔をしていた。この分では、あの黒猫が誰かに飼われるのも時間の問題だろう。何時でも捕まえられる様に、位置はしっかりと把握してある。

 あの黒猫には私もお世話になったし、何か有ればすぐに助けられる様にしてあるのだ。

 

「そういう訳だから、エイミーに会いたくなったら何時でも言うのよ」

「ほむ魔ちゃん、そんな事もしてたんだねー……」

 

 まどかに向かって頷きながら、私は列から一歩下がって皆の姿を眺める。

 五人の後ろ姿は、まるで寂しさを払拭する様な空元気を感じたけれど、それは決して不幸な物ではなくて、元の世界へ戻った暁美ほむらのその後が明るい物である様、願っている様に見えた。

 

「ふふ」

 

 並んで歩いている所から、少しだけ歩調を落として、まどかが私の隣に来る。

 暁美ほむらが微かにこちらを見たが、まどかが二人きりの会話をしたがっていると把握したのだろう。すぐに目を逸らした。

 

「どうしたの、まどか」

 

 何やら重要そうな話なので、とりあえず空間を切り取って、誰にも聞かれない状態にする。

 私の魔法が発動した事を理解したのか、まどかは僅かに視線を左右へ揺らし、それからじっと、逃がさない様に私の瞳を見つめた。

 

「ねえ、ほむ魔ちゃん。何か、するつもりだよね?」

 

 少し、動揺させられた。

 何処か見透かした様な口調で、彼女は私を問いかけてくる。誤魔化しを許さない、絶対的な力を叩きつけられている気分だ。

 

「だって、今此処に居るほむ魔ちゃんって、『本体』じゃないよね? 貴女の本体は、きっともっと大きな所で、何かをしようとしてるんじゃないかな」

 

 殆ど、全てを見破られている。まどかという少女はもう少し鈍いと思っていたのだが、恐ろしい程に鋭い子だった。どうやら、私の目が腐っていたらしい。

 私が返事に迷っていると、まどかは私の両手をそっと握って、儚げな上目遣いで見つめてくる。

 

「それはきっと、わたしに関係した事だよね。言ってみて、何か力になれるなら、わたし、喜んで手を貸すよ」

 

 力強い雰囲気が、私に向けられる。もし、此処で私が『助けて』と言えば女神としての能力も使ってくれるだろう。

 素直に答えた方が良さそうだ、そう判断して、私は小さな息を吐いた。

 

「まどかに隠し事は出来ないわねぇ……ええ、その通り。ちょっとした企みが有るわ」

 

 実際には、『ちょっとした』などという話ではないのだが、そこはそれだ。

 私が企みを認めた為か、まどかは顔をまた少し近づけてくる。

 

「何か、出来る事は有るのかな?」

「そうね……まあ、特に貴女の力を借りる必要は無いと思うわ」

 

 これは嘘ではない。今回、まどかの手を借りる必要は僅かにも無いし、関わらせる事でまどかの幸福へ貢献出来るかと言えば、そうでもないのだ。

 

「そっ、か」

 

 ただ、まどかが残念そうな顔をしている所を見ていると、無理にでも関わらせるべきだったかと思う。

 内心で、何かやって貰いたい事が有るかな、と考えていると、まどかはもう一度私の顔を見つめた。

 

「……わたしね、ほむ魔ちゃんが、わたし以外の人の事をどう思ってるかくらい、知ってるよ。だからね、ほむ魔ちゃんが、どんなに怖い事を考えているか、分かるの」

 

 予想でも予感でもなく、確信として、まどかは私の人格を見破っていた。いや、見破られている所の話ではない。全てを読み取られているのだ。思わず、緊張に手が震える。

 

「それは……」

「これから、ほむ魔ちゃんが何をしようと考えてるのか、実はね、想像はついてるんだ」

 

 今までよりも更に強い目をして、私の顔を覗き込んでくる。瞳の中には、人ならざる高位の存在だけが放つ、想像を絶する宇宙的な愛が閉じ込められていた。

 この私ですら指先一つ及ばない、その神域に有る感情の塊。それがまどかの中で渦を巻き、私に向かって降り注いだ。

 どれほど力を持っていても、まどかはまだ、中学生の女の子。世界の残酷さや醜さを知るには早過ぎる。深い闇に飲まれて、壊れてしまうかもしれない。そう考えて、ずっと当たり障りのない範囲で動いてきた。

 だが、彼女は中学生の女の子でありながら、神と表現されても過言ではない程の『大いなるもの』なのだ。ただの使い魔の私が何を隠そうが、無駄だったのかもしれない。

 

「……ほむ魔ちゃん。落ち込んでる?」

「……いいえ。ただ、貴女に色々な事を隠していたつもりだったから、驚いたわ」

 

 目の前のまどかは、私の庇護下に居る様な、弱い存在じゃないんだと思い知らされた。

 いや、つい最近まで、彼女は弱い存在だった筈なんだ。それが、どうして此処まで凄まじい物となったのか。私には、分からない。

 

「ほむ魔ちゃんは、わたしより……『鹿目まどか』という個人よりは、ずっと色々な物が見えてるんだろうね。だけど、忘れたの? 私は、円環の理。その中には、国を支配した偉い人だったり、長く生きていたりする人が居て、私はそういう人から話を聞ける立場に有る。それに、何より……ほむらちゃんも、その中に居るんだよ?」

「でも、貴女は……」

「うん。私は、人間として生きているよ。けどね、私は……あんな光景、もう見たくないから。その為なら、頑張れるかな、って」

 

 まどかの、人ならざる部分が見えた。円環の理という雄大かつ壮大なる存在の、奥深さが窺える。

 嗚呼、彼女は、自分の見たあの夢が未来の光景だと理解していたんだ。だからこそ、彼女は夢を現実にしない為に、一つ上の次元の存在として此処に立っている。

 

「貴女は、私を『鹿目まどか』だと思ってる。だけど、私は同時に『円環の理』でもあるの。こんな事、ほむらちゃんにはあんまり言えないんだけどね」

 

 そうだろうな、と思う。何であれ、まどかが戦うのは、暁美ほむらという少女には辛い事だろうから。

 そうなると、このまどかは、既に私の庇護どころか、手伝いすら本来は必要でないのだろうか。私が今現在、世界中で行っている『まどかの平和の為の活動』すらも。

 

「勿論、今の私にはほむ魔ちゃん程色々な事を割り切って考えられないから。暫くは、ただの鹿目まどかとして生きていくつもりだよ。だから、それまではほむ魔ちゃんの頑張りが私を救ってくれるよね」

 

 自分はもう必要無いかと思ったが、そうでもないらしい。『自らを魔法少女だけの神』だと自覚している彼女は、己の分という物を弁えていた。

 むしろ、自分の器より大きな事をしようとしているのは、私の方らしい。

 

「……それで、それを私に教えて、まどかは何が言いたいの?」

 

 自分でもかなり静かな声が出たと思った。今、私は目の前のまどかを、まどかとしてではなく、『円環の理』として扱っていた。

 だけど、まどかは今までの荘厳たる神の顔を捨てて、穏やかで優しげな、心を癒してくれる気持ちを顔に出してきた。

 

「あなたは私の……わたしの大切な友達で、大切な人だから、わたしの幸せの為に戦ってくれる貴女を、否定したくないって思ってる」

 いつの間にか、まどかは淡い笑みを浮かべていた。

「だから、わたしは言うの。それがどんなに貴女を戦いに駆り立てるか、分かっていても、言うんだよ……『頑張って』、って。それが貴女の、一番望んでいる言葉だろうから」

 

 まどかがそんな風に言ってくれる。これがどれほど素晴らしい事なのか。どんな意図を持って告げられた言葉なのか、私には、即座に理解できた。

 

「……ありがとう。そういう風に言ってくれるなら、私は今までよりずっと動きやすくなるわ」

 

 ああ、嬉しい物だ。だって、『やりやすい』じゃないか。私の行動に嫌悪を抱かれるより、遙かに行動の自由度が上がり、更なるまどかの幸福に手を伸ばせる様になる。

 まどかの価値観の範囲内で、彼女を想って行動する。今までは黙って行って来た事を認めた上で、許可してくれたんだ。

 まどかのあらゆる部分が受容の愛を感じさせていて、その途方も無い愛の深さが、私を飲み込んでくれる。

 

「そこで、『認められた』って思ったりしない所が、ほむ魔ちゃんだよね。でも、忘れないで。わたしは、貴女の事を分かってるから」

 

 掴んだ手を、強く引いてきた。円環の力まで含めた引っ張りは、瞬く間に私を引き寄せてしまう。

 

「話は終わりだよっ。今からは、何時も通りのわたしに戻るからね?」

「え、ええ。分かったわ、次の瞬間からは、貴女は中学生のまどかで、円環の理じゃなくなるのね」

「そういう事で良いかな」

 

 円環の理の力によって、私の作り上げた魔法的な空間の壁を破壊して、まどかはそのまま私を引っ張って、歩き進んでいった。

 もう、そこには荘厳たる気配も、畏怖を呼び起こさせる神々しさも微塵すら残っていない。言葉通り、ただの鹿目まどかに戻ったんだ。

 まどかが、私を連れてみんなの元へ戻っていく。談笑しながら歩きつつも、警察のご厄介にならない様に気をつけているみたいだ。

 

 ああ、何もかも、まどかの掌の上か。だけど、悪くない気分だ。

 まどかは、あの約束を想像より遙かに重い物として考えてくれていた。何て喜ばしいのだろうか、自分自身の発言を重く強く受け止めている姿からは、「流石は円環の理だ」などと言う事が出来た。

 何よりも可愛くて、何よりも尊敬に値する。そんなまどかだからこそ、私達を……暁美ほむらの心を、簡単に動かせるんだ。

 

 ねえ、そうでしょう。私の本体?

 

 

+-----

 

 

 そうね、私の分身。

 

 

 

 まどかは、私の想像を超える程に美しい存在だった。

 流石はまどか……いや、円環の理。私が何か企んでいる事を読んでくるなんて、予想の一つとして考えなかった訳じゃないけれど、あそこまで見事に理解されているとは考えていなかった。

 だとすると、今回の一件で一つだけ、誰にも言っていない隠し事が有るのも見破られていたに違いない。もしかすると、この一ヶ月間、世界中で魔獣が出現しなくなった理由すら、察知されているのかもしれない。

 

 私が隠していたのは、AKEMI HOMURAの身体に暁美ほむらの心を入れた理由だ。表向きは『抜き取った魂の入れ物が必要だったから』だが、実際には違う。

 

 『魔女と化した暁美ほむらの魂が、使い魔であるAKEMI HOMURAの肉体に影響を及ぼす瞬間を観測する』

 

 それが、私の本当の狙いだ。そう、過去に干渉する実験は失敗だが、私が見たかった一番の物は、見る事が出来たんだ。

 

 材料は揃った。後は、実行するだけだ。

 今から私がするのは、既に『ホムリリーとなった暁美ほむら』が行った事。だから、本来、私がそうなる必要はない。

 

 だが、そんなのは知った事か。

 

 私は自分に刻みつけた。まどかの幸福を、まどかとの約束を。ああ、それならば、私は真に自分の力を使って、まどかを愛するべきなのだ。

 

  『「この後も、ずっとずっとわたし達が幸せでいられる様に、わたし達の人生を助けてくれないかな」』

 

 その約束は、私が果たす。誇大解釈、その通りだ。妄執、そうだとも。自分の恐ろしさも、おぞましさも、自分自身が一番自覚が有る。自覚が有るから、まどかに隠していたんだ。

 そうだ。私は……少なくとも人間という生命体の価値観の範囲では、狂人と呼ばれても仕方が無い。しかし、私はこの約束をこれ以上無い形で成し遂げてみせる。

 その為に、私は一ヶ月間、全世界で……それこそ地球外で発生する物すら含めた全ての魔獣から、呪いの力を得て、それを溜め込んだ。

 人間を皆殺しにして喰った方が早いが、それではまどかの天使より愛に満ちた心を傷つけてしまうから。

 大量の呪いが有れば、簡単に自分は変質する。ただの使い魔から、一歩上に進む事が出来る。

 

 そう……使い魔は、魔女になる事が出来るのだ。

 

 だが私は魔女になるつもりなど無い。魔女であって魔女ではない物。悪魔の先に有る物。それこそ、私の目指す所だ。

 肉体が魔女になるという現象を観測した際の情報を組み合わせれば、私は魔女にならず、魔女を越えた怪物になれる。これこそ、私の狙いだった。

 

「すべてのまどかを、幸せにしたい」

 

 未来の全てのまどかを幸福にする為には、どうしたら良いか。そんな物は考えるまでもない。

 不可能だ。

 そう、私程度の存在では、迫り来る可能性が有る危機を回避する事くらいしか出来ない。だがしかし、それがホムリリーであれば? 概念であれば?

 

「過去も未来も概念ですら関係ない。私の力が届く限りのあらゆる世界、あらゆる可能性の世界のまどかを」

 

 そう、私が概念になれば、全ての未来のまどかを幸せに出来るのだ。

 ホムリリーに任せておけば良いかもしれない。けれど、私は我慢出来ない。まどかが背中を押してくれたんだ、他ならない、私を。

 

「この手で」

 

 そう、私はいつだって、まどかの側にいる。概念になれば、それがより強く可能になる。

 あらゆる平行世界のあらゆる時間軸において、鹿目まどかを幸福にする。まどかの過去と未来を否定しないまま、まどかを幸福にする。

 

 現在のまどかを幸せにして、

 過去のまどかを幸せにして、

 未来のまどかを幸せにして、

 概念のまどかも幸せにする。

 タイムパラドックスなんて知ったことか。そんな因果、崩してみせる。

 

 私には始まりも終わりもない。まどかだけだ。

 私には大好きな人なんていない。まどかだけだ。

 私には親も家族もいない。まどかだけだ。

 私は、孤独を感じる事が無い。まどかが居なくても良い。

 私のこの命は、まどかの為に有る。まどかがそれを拒んでも、だ。

 

 だから、私は概念になれる。

 

 まどかが行えば、それは悲劇だろう。

 暁美ほむらが行ったとしても、それは悲劇だろう。

 年端の行かない少女が、人間がそんな真似をしたとすれば、それは残酷な……犠牲というタイトルの悲劇だ。どの様な理由が有ったとしても、それが変わる事は無い。

 だが、私が、『最初からその為に生まれてきた』私が行えば、それは歓喜となる。当たり前の事となる。

 

 現に、私は自分を変質させる事が嬉しくて仕方が無かったし、円環の理は祝福を口にしてくれたじゃないか。

 

「さあ、この願いを叶えるわよ、私」

 

 私は、まどかの為だけの、貴女の為に在る銀の庭を守るもの。そして、庭に続く門にして銀の鍵。

 私は、一にして全、全にして一の番人。その一とはまどかであり、全とは……まどかなのだ。少なくとも、私はそういう存在である。

 

 魔女に、その先に在る物へ進化していくにつれて、私の姿が変容する。だが、ホムリリーの物とは違う。それは、それはまどかの……クリームヒルト・グレートヒェンに酷似した姿だった。

 天に、まどかに手を伸ばすその姿は、まさしく私そのものであり、『救済の魔女』と呼ばれる存在と同じ姿をしているのは、まさしく、その名前通りの行動を起こす為に生まれた存在だからだ。

 

 そして、私という人型も別な服装を纏う。黒い翼はそのままに、胸の部分が少し開いた、モノクロのドレス。それは、まどかが纏っている物に酷く似ていた。

 スカートの裾を持ち上げてみる、ストッキングに描かれた四角の模様が、何故か多面体に変わっていて、その中には吐き気がする様な玉虫色に光る球体が描かれている。ホムリリーの知識の中に有る、暗黒神話の神に違いない。

 良いデザインだと思えた。さやか辺りが見たら嫌な顔をするかもしれないけど、私は嫌いになれない。

 

 今の私は、まどか専用の、まどかの為だけの、まどかを想う概念。

 それは、ホムリリーと同格の存在なのだ。

 

 そうだ。もう私はマリオネットじゃないし、使い魔でもない。私は、まどかの幸福を救う。ただその為に生まれてきたのだから。

 

 私の手が幾多の世界に広がっていく。

 幾多の平行宇宙に、『存在の全的な無限の領域』に至る。あらゆる世界を取り込み、まどかの為の『より強き愛ある世界』に変える怪物。それが、今の私だった。

 

 さあ、まどか。行くわよ……!

 

 

 

+----

 

 

 

 

 ミシミシと、ソウルジェムに亀裂が走っていく。

 これが割れたら、私は魔女になってしまう。酷い事になるって分かっているのに、もう自殺する力すら残っていなかった。

 

「ごめんね……みんな……」

 

 絶望に沈んだ心のまま、もう何処にも居ないみんなにお別れを言う。私が魔女になったら、きっとみんな死んじゃうんだろうな、と思った。そんな想像が余計に絶望を加速させると分かっていても、考える事はやめられなかった。

 諦めてしまおうと思う。だって、もう駄目だから。私は、もう立つ事も出来なくて、ただ、みんなにごめんなさいと、魔女になるまで、ううん、魔女になっても謝り続けるしかないと思った。

 ソウルジェムも、もう限界みたいだ。これさえ壊れたら、きっとみんなの居る所に行ける。それは、何だか魅力的な想像だった。

 もうおしまい。絶望に、負けちゃう……

 

 そんな時、一筋の光りが飛び込んできた。紫色をしたその光りは、瞬く間に一つの人影を作り出した。

 その姿を見た私は、喜びと、希望を思い出した。だって、この人は。この子は。

 

「貴女の気持ちを、不幸に終わらせたりしないわ」

 

 ほむらちゃんだった。色々な部分が変わっていると思ったけど、それはほむらちゃんだった。嬉しくて、何を言って良いかも分からなくなる。

 ほむらちゃんは私のソウルジェムに手を差し伸べて、そこから呪いと不幸と絶望を抜き出していった。瞬く間に気持ちが明るくなって、これからの全部が幸せに行く様な気がした。

 

 気づけば、私はとある所に立っていた。そこは見覚えがある様な無いような、どちらでも有る様な場所で、私は、そこで、そこで人の姿を見た。

 

 私の大切な、みんなの姿を見た。

 

 みんなが、みんなが居るよ……!!

 

+----

 

 

 これで終わりだと、私は思った。

 

 悪魔としての戦いに敗れた私は、血の涙を流すまどかの姿を見つめていた。これから死ぬというのに、他人事みたいに気持ちが浮ついている。私なんかの為にそこまで苦しんでくれる事が、何だか嬉しい。

 あの桃色の矢が私を貫き、消滅させるだろう。その時、まどかはどんなに辛い思いをするだろうか。想像すると苦しくて仕方が無いけど、それもまた、きっと私への罰なんだろう。あの美しい聖なるものを貶めたんだから、きっと、これは決められた罰なんだ。

 

「さよなら……まどか」

 

 だから、目を逸らさない。私がした事に対して帰ってきた罰と、まどかの表情から決して目を逸らさない。私に出来る事は、それだけだから。

 だけどもう、お別れだ。許されるなら、出来る事なら、もっと、一緒に……

 

「それには及ばないわ」

 

 狂おしい声と共に現れたのは、桃色の矢を素手で掴んだ、私の姿。

 この圧倒的な力は何だろう。宇宙を越えたスケールの大きさを感じると同時に、ただ顔を見ただけで、私という存在との深い共感を抱かせる。

 まどかが驚いた様子で目を見開いていた。そこから流れ落ちた血の涙は、私の姿をした何者かによって拭われた。

 何が起きているんだ。唐突に現れた存在に、私達が動揺していると、

 

「二人とも、バカ」

 

 まどかと私、両方の頭を、軽く小突いてきた。私達は魔法少女の認識を遙かに越えた力を持っているのに、その存在は、何でもない事の様に私達を叩いて見せた。

 

「悪魔だとか女神だとか……そんな事より大切な物が有るでしょう。二人とも、ちょっと落ち着いて、まずは話をしましょうか?」

 

 有無を言わさずに、椅子を並べてまどかと私を座らせる。抵抗する間も無く、強制的な力で思い切り乗せられていた。

 隣合った席に座らせられた私達は、今まで戦いをしてきた事なんか嘘の様に、でもどこか居心地の悪そうな雰囲気で、顔を逸らし合った。

 

「さあ、私に話を聞かせて。二人の言い分を聞いてあげるから、さあ、さあ……」

 

 まるで催眠術か、お悩み相談か何かだ。そう思いながらも、私の口は、勝手に開いていた。いや、まどかの口も開いている。

 私達は、同時にお互いの考えを口にしていた。

 そして、思った。もしかすると、敵対しなくても、まどかが幸せで居られる世界を維持出来るかもしれない、と。

 

+----

 

 例え、この命が砕けても、このループで、今回で、絶対に終わらせてみせる……!

 

「くっ……うっ……」

 

 決死の思いを秘めて、私は全力で潰れた足を引き千切る。まどかを救う為に使えない体なんて、無くても有っても変わるまい。

 痛覚を遮断する魔力も残っていないので、痛い物は痛い。だが、元々一定以上の痛みは抑えられているから、それほどでも無かった。魔法少女様々だ。

 片足だけで立ち上がり、ワルプルギスの夜を睨む。あれは私の事なんて視界にも入れていないんだろう。敵扱いすら、されていない。

 そうやって油断していると良い。私は、お前を倒す。

 右足は既に無く、ソウルジェムに亀裂が入っていて、腕に力が入らず、頭から血が流れて思考が纏まらない。兵器も一つを除いて殆ど打ち止めだ。だが、そんな問題は、まどかとの約束を果たす事には、目の前の塵屑を倒す事には……何の問題も無い! 

 

 こんな酷い有様になっても尚、私にはとある秘策が有った。今回で終わらせようと必死になったからか、天から巡り落ちてきた様なひらめきによって生まれた方法だ。

 最後の手段として用意した、使えば間違いなく私が死ぬ一手。その方法とは……

 

 

 

「開きなさいっ……私の、絶望っ!」

 

 

 

 私のソウルジェムから、魔女の結界が広がった。

 

 私は、知っている。かつて、強い想いを糧に、魔女となり果てても自らの役目を果たした少女が居る事を。そして、その少女が魔法少女でありながら魔女の結界を形成して見せた事を、私は知っているんだ。

 ならば、彼女に出来て、私に出来ない筈がない……まどかの、まどかの為なら。私は安らかに絶望出来る……!

 

 一気に結界が広がり、ワルプルギスの夜を包んだ。見滝原を模した内部に奴を取り込み、まずは本物の見滝原がこれ以上被害を受けない様にする。

 限界まで濁った私のソウルジェムから、一つの闇色の塊が溢れ出し、結界の内部で形となる。魔女の帽子を被っていて、体中に肉を中途半端に残した骨の人型だった。

 それは満開の彼岸花と百合の花を体中に咲かせていて、骨となった手には巨大な拳銃が握られている。頭部に備わる眼球と思わしき物は、蠢き這いうねる様にワルプルギスの夜を視ていた。

 

 これが、私の魔女。

 その、目を覆いたくなる醜い姿。それを見た私は。

 

「想像していたより……強そうじゃないのっ……!」

 

 自分など大した魔女にもなれないだろうと思っていたが、これは凄い。並大抵の魔女とは次元違いの強さだ。

 喜びながら見つめていると、私の側に立つ魔女が、こくりと頷いた気がした。

 断頭台が、結界の内部から浮き出してきた。それは、敵の首を落とす為の物だ。あの鬱陶しくも忌々しい舞台装置の魔女を処刑する為の器具である。

 結界が完全に出現すると、私のソウルジェムはおぞましき極彩色に染まりあがる。呪いが別の感情に取って代わられて、体中から無限に魔力が沸き出してきた。

 これなら、戦える。無くなった右足と顔の半分は魔女の肉で補っておいた。骨になってしまったが、立てるなら良い。動けるなら十分過ぎる。

 

 此処に来て、やっと舞台装置の魔女も私という敵を認識したんだろう。幾つかのビルを私の方へと突っ込ませてくる。

 だが、無駄な事だ。無尽蔵に沸き続ける魔力は、その余波を少し出現させるだけで、コンクリートの塊を無に返した。

 こちらに向かって、多数の魔法少女型の使い魔が攻撃を仕掛けてくる。小回りの利く厄介な連中だが、今の私の敵じゃない。魔法少女型の使い魔には、魔法少女型の使い魔だ。

 十四体もの私の使い魔が私の意志に呼応する形でソウルジェムから飛び出し、縦横無尽にワルプルギスの夜とその使い魔へ攻め込んでいく。連携しながら戦う姿は、私より強そうだ。

 魔法少女型の彼女達も、まどかの為の聖戦に参加出来る栄誉を受けて、嬉しそうに戦っているのが分かる。それなりに良い造形をしているし、一つ一つ名前をあげよう。私の欠点を挙げていって、良い感じの名前をつけてあげる。

 

 イバリ。まどかと出会えた事を威張りたい。

 ネクラ。まどかに対してそんな態度しか取れない自分が忌々しい。

 ウソツキ。まどかに本当の事を話したい。

 レイケツ。まどかとの約束を果たす為なら、私は血液を凍らせたって良い。

 ワガママ。これはきっと、まどかを救いたいという私の我が儘な物語。

 ワルクチ。まどか以外の全てに吐いてやれる。

 ノロマ。何回やってもまどかを救えなかったのろまな奴。

 ヤキモチ。私よりまどかとの付き合いが長い人は妬ましい。

 ナマケ。何度も繰り返せるからって、諦めていたんじゃないか、私は。

 ミエ。まどかの前で格好良く見栄を張れていただろうか。

 オクビョウ。まどかに嫌われるのが怖い。

 マヌケ。これまでずっとこの方法を取らなかった大馬鹿者にはピッタリだ。

 ヒガミ。これからの、私の居ない世界でまどかと知り合っていくであろう人々が羨ましい。

 ガンコ。まだ諦めない私。

 

 そして、最後のアイは私の心が持っている。この名前は、私の物だ……!

 

「覚悟しなさい、ワルプルギスの夜。まどかの未来の為に、貴女は消え失せるのよ……!」

 

 すっかり砂が落ち終えた筈の砂時計に砂が戻り、私の魔法が復活する。

 この場は私の世界。私の魔女の結果。だからこそ、この中での私は好き勝手が出来る。時間操作の魔法を、復活させられる。

 一気に時間を停止させたが、私と繋がっている為に、『彼岸にして、くるみ割りの魔女』は止まらなかった。例え世界が滅ぼうが、止まるつもりなど欠片も無い。

 

 自分自身の魔女を足場にして、私はとある武器を取りだした。最後の手段として用意しておいた、禁断の兵器を。

 通常の火力ではワルプルギスの夜を倒せないのは承知の上だ。無尽蔵に魔力が使えた所で、何時までもこの状態が続くとは限らない。

 超越的に膨大な火力と、無限に等しい魔力を一気に乗せられる方法。それを、私は用意している。

 この為だけに、最後の手段として用意しておいたとっておき。人類が自らを滅ぼす為に作った、現時点では最強の火力を持つ物……ああ、その名前を、口にする事すら恐ろしい。

 だけれど、ここは魔女の結界。例えどんな汚染物質が入り込んでいても、私さえ死ねば結界ごと消える。例え地球を百回滅ぼせる分を持ち込んだとしても、安全に処理できる。まどかには一つの迷惑も掛からない。

 

 そうだ……だから私は、死ぬ。

 

 生きて帰れない事は、分かっていた。半ば魔女になった時点で私にはもう未来は無い。これからどう転がったとしても、私の繰り返しは此処で行き止まりだ。

 だったら、これが私の最後の花火だ。派手に吹き飛ばしてやる。

 もしこの一撃で倒せなかったとしても、この結界ごと見滝原から離れて、奴を遠く離れた海か地球の反対側にでも叩き落としてやる。絶対に、まどかを傷つけさせたりはしない。

 

 ああ、そうだ。そろそろ死ぬんだし、インキュベーターに、前々から言ってやりたかった言葉を心の中だけでくれてやろう。

 

 ……ありがとう。私とまどかを出会わせてくれて。感謝するわ、私に、戦う力をくれて。

 あなた達が見たら、驚くでしょうね。ソウルジェムは濁っているけれど、私の心は、今絶好調に輝いている。だって、今の私は希望や絶望で戦っている訳じゃない。この胸を燃やすのは……愛だもの。

 

「くたばれ、舞台装置」

 

 私は、用意していた全ての爆弾とミサイルを一斉に作動させた。それが自分の命を奪うスイッチだと知っていても、欠片も躊躇わなかった。

 私と共に滅びてしまえ、舞台装置の魔女。私の自殺に付き合って貰おう。私の繰り返して来た分の全てを、この瞬間の一撃へ篭めてやる。

 

 

 

 まどか……誰よりも貴女を愛してる。

 それなのに、お別れも言えなくて……ごめんね。

 

 

 

 

「そうはいかないわ」

 

 

 

 

 その時、一筋の光が飛び込んできた。時間の停止した空間の中で平気な顔をして動き、爆発する寸前の全てを凝縮して、その片手で握り潰した。

 

「え?」

 

 あっさりと、自分の最後の手段が潰された。何が起きているのかも、何をしたのかも分からない。ただ、自分とよく似た姿の何者かが、私の自殺を阻止したという事だけは明らかだ。

 その何者かは髪をかき上げると、私の隣に現れて有無を言わさず頭を軽く叩いてきた。痛みは無く、何処か賞賛でもする様な手つきである。

 近づいてみると、益々外見が私にそっくりだった。まるで同じ人間の様だ。

 

「貴女には死ぬ事なんて許されてないわ。さっさと戻ってまどかに無事を報告してきなさい。まどかと結ばれたんでしょう、貴女は」

 

 両肩を掴んできて、その存在は猛烈な視線を向けてくる。私は混乱して、状況を忘れていた。此処はまだ、時間の停止した結界の中だ。この場は私の支配領域の筈だけど、目の前の何者かは何一つ影響を受けていない様子だった。

 そんな彼女は、思い出した様にワルプルギスの夜へと視線を送る。何処までも無機質なその瞳は、あの宇宙生物より寒々しい宇宙の暗黒から出でし悪意と猛毒の如き愛を感じさせる。

 

「おっと、それよりそれより。ワルプルギスの夜さん、貴女には魔法少女を救済してくれる概念を用意してあるから、そっちへどうぞ?」

 

 ただ、そんな一言を告げただけで、ワルプルギスの夜が消滅した。

 もう何をしたのかも分からず、何が起きているのかも理解の外側だ。ただ、一つ。私の行動が全て無駄になった事だけは分かったのだが。

 私が唖然としてその場に立ち尽くすのも仕方が無いだろう。私の魔女や使い魔も、何をすれば良いのか全く分かっていない様子で、オロオロとその場を右往左往している。

 きっと、相当間抜けな姿に見えるだろうな。私は、薄ぼんやりとした思考でそんな事を頭に浮かべていた。

 

「ほむらちゃん!!」

 

 声が聞こえたかと思うと、私の胸元にまどかが飛び込んできた。一体、何時からそこに居たのか、どうして此処に来たのか。それは分からなかったけど、目の前にまどかが居るのは事実だった。

 戸惑う私を、まどかはギュッと抱き締めて、涙ながらに顔を上げる。私の身体に出来た多数の傷を見て息を呑みながら、もう一度私の存在を確認するかの様に、優しく抱いてくれた。

 

「良かった。無事だったんだね……こんなにボロボロになって……でも、嬉しい。ほむらちゃんが生きててくれて……」

「まどか……うん……」

 

 疑問の数々は後回しにして、まどかを抱き締め返す。目の前にまどかが、私の恋人が居る。それこそ、現状では最も優先すべき事柄だ。

 

「酷い怪我……痛くない?」

「そうね、少し痛いわ。けど、魔法少女だから平気……え?」

 

 まどかに怪我の程度を聞かれて、そこで初めて、自分が普通に立っている事に気づいた。

 右足が、身体の欠損が修復されている。元通りの足がそこに有る。幾ら魔法少女だからって、此処までの早さで傷は治らない。いや、私にはこの身体をしっかり直した記憶なんか無いのに。

 ならば、あの意味不明の存在が何かしたに違いない。

 問い詰めようとして目線をまどかから少しだけ移したが、そんな存在は、もう何処にも居なかった。

 

 

+----

 

 

 

 

 

 

 どんなまどかの幸福も、救う。

 

「まどか、貴女は苦しまない、恨まない、傷つかない」

 

 学生のまどかを救う。

 社会人のまどかを救う。

 

「もし辛い思いをしても、それは全部、私が受け止める。だから、信じて、貴女の気持ちを、貴女の幸福を」

 

 母親になったまどかを救う。

 孫を得たまどかを救う。

 死ぬ寸前のまどかを救う。

 

「ねえ。もう、いいの」

 

 魔法少女になる前のまどかを救う。

 魔法少女になったまどかを救う。

 絶望しかかっていたまどかを救う。

 魔女になったまどかを救う。

 

「もう、いいのよ」

 

 概念になったまどかを救う。

 悪魔に裂かれたまどかを救う。

 悪魔と戦ったまどかを救う。

 友達を殺しそうになったまどかを救う。

 友達を殺してしまったまどかを救う。

 

「もう傷つかなくて良いの」

 

 生まれなかったまどかを救う。

 死んでしまったまどかを救う。

 別の生き物として生まれたまどかを救う。

 全く外見の違うまどかを救う。

 そもそも存在しないまどかを救う。

 まどかが物語の中に居る世界のまどかを救う。

 

「もう不幸にならなくて、良いんだよ」

 

 幸せなまどかの幸福を守る。

 不幸なまどかに幸福を渡す。

 悲しむまどかを慰める。

 喜ぶまどかを撫で回す。

 泣いているまどかを抱き締める。

 傷ついたまどかを癒す。

 はしゃぎ回るまどかと一緒に楽しむ。

 

 まどかを害する全てと、私は戦う。

 

「そんなに苦しんでしまったとしても、貴女は、私が幸せにするから」

 

 まどか

 まどか、まどか

 まどか、まどか、まどか

 まどか、まどか、まどか、まどか

 まどか、まどか、まどか、まどか、まどか

 まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか

 まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか

 まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか

 まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか

 まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか

 まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか、まどか……!

 

 

 

 

+----

 

 彼女はまどかの幸福を守る為に生まれてきた子だ。それは、どんな時でも違わない。だから強い。そして昇華する。

 彼女はヒーローじゃない。

 まどかの幸福の監視者。銀の庭で目を光らせる番人。

 暁美ほむらではない物……AKEMI HOMURA。

 

 

 

 

「かくて舞台裏の操り人形は機械仕掛けの神となり、舞台の少女を救い続ける、ね……」

 

 それを観測していた私は、使い魔が私と同格にまで上り詰めた事を面白がる気持ちも有って、非常に上機嫌になっていた。この空間とも呼べない場所にも、あの『より強き愛有る世界の怪物』の力は届く。それはもう、尋常ではない存在の無限的な領域に至っているのだ。

 

「貴女は暁美ほむらじゃない。だからこそ、誰よりも暁美ほむらと呼べる」

 

 自らの意志で、まどかの幸福と救済を願った魂。それこそ、『暁美ほむら』と呼ばれた個体の本質である。ならば例え元が使い魔であったとしても、彼女は暁美ほむらなのだ。

 見事な物だとしか言い様が無い。私と違い、彼女はまどかから力を貰った訳じゃない。ただ、背中を押されただけ。たったそれだけの事で、彼女はホムリリーと同格以上の存在に成って見せたのだ。

 

 拍手喝采。彼女に送れる物はただそれだけ。

 ホムリリーとして、心から祝福しよう。

 

「おめでとう、ほむ魔。貴女は、まどかの、まどかの為だけの物よ」

 

 天に広がるホムリリーの力が、喜びに震える。どんな生物でも届かない領域に居るあの怪物が、同胞の誕生に呼応しているのだ。

 

「結局、貴女の使い魔さんは主人公だったのかな?」

 

 私のすぐ隣でお茶を飲みながら、まどかが……円環の理が小さな声で呟いた。それは素朴な疑問でありながら、大きな意志の一部としての雄大さを感じさせる。

 私の脳裏に、幾らかの台詞が浮かんだ。その質問を聞いた以上、こう答えるしか無いという台詞が有るのだ。いずれ、これを言ってみたいと思っていた。

 

「ひょっとして、貴女はまだ、この物語の主人公を探しているのかしら? ふふ、幻想から解放されるのよ、まどか」

「んっ……ほむリリーちゃ……」

 

 傍らのまどかを撫でて、顎を掴んで顔を向けさせ、唇にキスをする。此処で反撃を受けてはならない。その勢いのまま背筋をなぞり、空いている手はまどかの可愛らしい胸に、それから、少しずつ下の方へ移動させていく。

 丁寧に、丁寧に。しかし隙も無い様に。少しでも隙を見せたら、また私はまどかに『される』側になってしまう。いい加減、私だってまどかを攻めたい。

 まだ、まどかからの抵抗は無い。むしろ私を喜んで受け止めてくれている。遠慮無く、お腹にまで手を届かせる事が出来た。

 

「物語に始まりが有り、終わりが有るという幻想を捨てるのよ。物語にはね、始まりも、終わりもないの。有るのは、ただ人と人が繋がり、作用しあい、影響して、そして拡散していく有りようだけなの。物語にはね、終わりなんか有ってはいけないのよ、まどか」

 

 耳元で囁き、それからまどかの太股を卑猥な手つきで撫でる。もう少し、もう少しだ。

 だけど、まどかはそんな私の内心を読み取ったかの様に、ニッコリと悪戯っぽく笑った。

 

「……それ、言ってみたかったんだよね」

 

 一言で表現するなら……グサっと来た。

 

「……」

「ほむリリーちゃんってさ、結構ミーハーだよね」

「……」

「えへへ。顔、赤いよ?」

 

 また、負けてしまった。それもたった一言で、だ。恥ずかしさで指が動かなくなり、今までの優勢が嘘の様にまどかにお腹を撫でられる。

 彼女の手は恐ろしい程に気持ちが良く、ただ触れられているだけで溶けてしまいそうな快感を覚えさせられた。喘ぎ声は抑えたけど、顔はきっと真っ赤だろう。気持ち良くしてくれるのは嬉しいけれど、私は結局、『ネコ』らしい。

 

「こ……ここに、カラオケセットが有るわ。歌いましょう」

 

 あからさまに話題を変えようとしてみる。

 魔法的な手段で構築したカラオケの機材が現れ、その場に鎮座している。二人っきりで歌うのは楽しく、思いの外盛り上がる物なのだ。

 まどかは、微笑ましい物を見る様な生暖かい目を向けてくれた。最後の仕上げとばかりに私の足の付け根を撫でて私の反応を楽しむと、それまでの艶やかさが嘘の様にマイクを取って、渡してくれる。

 

「歌おっか、ほむリリーちゃん!」

「ええ……」

 

 きっと、歌い終わったらさっきの続きだろうな、と思いながら、私は選曲を始めた。まどかの前で強気に出るのは非常に難しく、大変な物だった。

 

 私は、ほむ魔に向かって思う。彼女もまた、まどかに対しては受け身の弱さが出てしまう子だ。

 だけど、私達はやるんだ。まどかの前で弱くなってしまったとしても、私達は、絶対に妥協せず戦い続ける。いつまでだって、いつからだって、それは絶対に変わらない。

 移ろい変わる世界の流れも無視して、その規則も法則も無視して、私達はまどかにとって都合の良い世界に変えていく。それはきっと愚かで邪悪な事だろうが、だから止めるという選択など、絶対にしない。

 私達は、まどかが何を思おうとも、まどかの為の素晴らしき世界を作り続けるのだ。

 

 

+----

 

 

 

 この世界にハッピーエンドは無い。

 でも、バットエンドも無い。

 

 希望や絶望に意味は無く、広大な世界の前ではあらゆる意志が無意味となる。

 しかし、その無意味な意志こそが世界を変革させ、改変し、壊していく。

 

 この世界に有るのはただ、己の意志と感情で世界を変えていく……人が、人を想う心が有り、暁美ほむらは鹿目まどかを想っているという事実だけ。

 

 この世界に終わりはない、エンドは無い。だが、だからこそ『真実』が有る。

 

 私にとっての真実は、まどかの幸福。それこそが唯一絶対の物だったという……極論してしまえば、ただ、それだけの事なのだ。

 

 

 

 

 

 

 ああ、この場所まで至れたから、私はまどかの事をもっともっと知る事が出来た。

 私の愛する人は、こんなにも素敵なんだと思えるんだって。

 やっぱり、貴女は私の……ううん、暁美ほむらの、最愛の友達なんだね。

 

 

 

 

 まどか。

 

 これからも、よろしくね。




 これにて、本作2部、新編叛逆の物語は終了となります。あとがきは解説の後で。

-解説-

『前書き』
 暗黒神話大系シリーズから持ってきてたんですが、そりゃ不味いだろうという事で既に著作権の切れた原文を持ってきました。書いてある事の意味が分からない? 私にも分かりませんが、要するに「宇宙の外側で無限に広がる、時間や空間といった概念を超えた存在」という感じです。


『カバ』
 『さやカバ』から

『~だけど、忘れたの? 私は、円環の理~』
 鹿目まどかは、一つの地獄を眼にした事で、自分にかけていた制限を一つ引っこ抜いたんです。その結果が、恐ろしい程に人外的でありつつ、深すぎる受容の心に繋がりました。本作のまどかは正真正銘『人間じゃない』ので……人間まどかを優しい女の子、女神まどかを慈悲の女神とするなら、本作まどかは怪物的に優しい女神です。優しい良い子なのは、どのまどかも変わりません。

『ほむ魔に救済された三つ目のシーン』
 ザ・機械仕掛けの神、というシーン。キリカをヒントにホムリリィの結界と蓄えた武器と発想で文字通り命を捨てて攻撃し、ワルプルギスの夜を倒す、倒せなくても見滝原から追い出してやる、というストーリーの筈が、彼女が飛び込んで台無しに。
 ちなみに、このストーリーは昔ちょっと書こうかな、なんて思っていた物で、この暁美ほむらも『彼女は狂っていた』です。

『まどか……誰よりも貴女を愛してる』
 この台詞、元は『感謝するわ、まどかと出会わせてくれた、これまでの全てに!』だったんですが、流石にそりゃ無いだろうと思ってやめました。百式まど観音……一発ネタとしては面白いかもしれませんね。

『彼女はまどかの幸福を守る為に生まれてきた子だ~』
 『ダークナイト』のラストシーンから。ノーラン映画のファンである私ですが、実は他にも同人誌でノーランネタを組み込んだまどほむ作品が有ったりします。どれとは言いませんが。

『「ひょっとして、貴女はまだ、この物語の主人公を探しているのかしら?~』
 アニメ版バッカーノ!の特別編最終話から。ホムリリーは、割とミーハーな子です。カッコいいと思った台詞を得意げに言って、見抜かれて恥ずかしがる事も有ります。

-◇暁美ほむらは間違えていないが正しくも無い◆あとがき(慣例通り物凄く長くて重い愛の塊)◇どちらでもある◇-
 注:例によって主観全開です。
 2部、完結致しました。やっぱり、魔法少女まどか☆マギカという作品を語る上で、誰かが自己の存在をより上の領域に引き上げる、というのは必要ですよね。という訳で、ほむ魔にはより上の次元に行ってもらいました。ただ、2部の本筋からは少し外れますが……
 私がまどかマギカに対して描きたかったのは、1部で殆どやりきっています。ですが、円盤が発売されない内はまともに他の物を書けるとも思えず、だったら叛逆の物語の再構成で行こう! と思った結果がこれですね。ストーリー面でも色々な作品の影響を受けています。特に、一番大きかったのがクトゥルー神話から。『自分の正気さえ疑わしい状態で、得体の知れない何かを探る』というストーリー構成自体が、あれから引っ張ってきた物ですね。
 まどほむ以外の登場人物がほぼ目立たなかったのは、1部で彼女達の関係性をしっかり描写したから、というのと、2部が8割くらい暁美ほむらの視点で進行するという前提が有ったからです。バトルが無いのは……バトルを書くのが苦手だから、というのと、「ほむ魔が止めさせるからバトルにもならない」という一応の理由付けがあります。

 叛逆の物語って、要するに『ほむらによるまどかに捧げられた物語』なんですよね。TV版や前後編は一定の主人公が居る訳ではなく、巴マミが死ぬまではまどさやが、人魚の魔女になるまでは美樹さやかが、そして最後は暁美ほむらが主人公、という構成になっていて。それに対して、叛逆の物語は『前作ラストから繋がった、暁美ほむらが主人公という部分を引き継いだ続編』になる。そう考えると、中々面白い物があります。
 鹿目まどかは作品タイトルを冠してはいますが、主人公というよりヒロインであり、傍観者でしょう(『ゼルダ』の伝説、的な)。みんなの希望と絶望を目にしてきたからこそ、最後にやるべき事を決められた。勿論、誰が主人公なのか、というのは不毛でしかないのですが、それでも暁美ほむらと鹿目まどかの関係は、その目的などを含めて主人公とヒロイン、という雰囲気が有ります。
 それなら、叛逆の物語とは主人公が敵に捕まりながらも、ヒロインの声援を受けて脱出し、前作のラストで消えてしまったヒロインを取り戻す話になるわけですね。そう考えると、分かりやすい。消えてしまったヒロイン、その手を取った主人公が「もう離さない、ずっと一緒だ」と考えたり、そういう類の台詞を口にしたり、『他の何を置いてもヒロインを取り戻す』行動に出る事は、物語としては決して珍しい事じゃない。前提となる前作、叛逆自体の演出や展開、何より悪魔ほむら本人の言動に惑わされるので、観客視点では女神を裂いた悪魔に見えますが、本人や周囲がそう思い込んでるだけで、実はそうでもないんじゃないか、というのが、最近の私の考えです。(続編が有るとすれば、主人公は美樹さやかでも暁美ほむらでもなく、『まだ一度も主人公になった事が無い』最重要人物である鹿目まどかじゃないかな、なんて予想をしてみたり)
 ……と、言うのはあんまり関係ない話として。ともかく、本作も『暁美ほむらが主人公の続編』という気分で書きました。1部は私の癖が入って群像劇の匂いが漂いましたが、2部は意識して一人に視点を絞って、ちょっと探索者のノリも入れた形となります。途中で描写が急に遠まわしになったりした時は、直前に暗黒神話大系シリーズを読んだ証拠になります。
 2部はそのストーリーラインや所々の台詞を、ほぼ完全に叛逆の物語と同じ物にしていますが、全く原作には沿っていません。そもそも叛逆の物語自体が発生しなかった、というストーリーなので当然の事ですが、叛逆が閉ざされた理想の空間なのに対して、2部は冒涜的な存在によって理想的な環境に置かれた本物の見滝原なので、そんなに変わらないんですね。違うのは登場人物の性格。本作の暁美ほむらは悪魔になっていて、巴マミは病んでる。何より、鹿目まどかが異様なくらい暁美ほむらを受け入れている。そういう、原作と本作の差異を暁美ほむらの視点から楽しめる作品にしたいな、と思い、あえてストーリーラインを同じにしました。元々色々なアイデアは有ったんですが、そこは殆ど最初から変わりません。

 此処に書いておくと、プロット段階での2部の暁美ほむら、その正体は『記憶を失って自分を本物の暁美ほむらだと思いこんだAKEMI HOMURA(ほむ魔とは別固体)』でした。中盤まではこの世界の在り方や自分に違和感を覚えて、という、実際に書いた物とほぼ同じ内容なんですが、彼女は記憶を持たないが為に鹿目まどかに幸福を、という使命を忘れ、記憶を取り戻しても、与えられた使命と記憶で行動する事を拒絶した挙句、その与えられた物を全て自分の物として取り込んで平気な顔をしているほむ魔の異常さにドン引きして、ほむ魔に不良品として殺されかけたが、間一髪でまどかに庇われた事で真に『まどかを救う』という目的に目覚める。だが、それすらホムリリーの掌の上、『まどかを救うという目的を知らない暁美ほむらのコピー』に使命感を植えつける過程に過ぎなかった。だけど、それを承知の上で飲み込んで、AKEMI HOMURAはまどかの為の聖戦に赴く。結局『知らなかったのか? 鹿目まどかからは、逃げられない!』という展開……に、なる予定だったんですが、与えられた物の拒絶、ヒトモドキとしての自己嫌悪という点で、かずみ☆マギカと被るので、止めました。かずみと違って、自分の与えられた使命からは離れられなかったし、むしろ自分から飛び込んで行ったんですけどね。鹿目まどかを知らない暁美ほむらは、牛肉の入っていないビーフシチューみたいな物だと思いましたし。……今は、こっちを書いた方が面白いブツが出来上がったんじゃないか、と思っています。が、自分自身に設けた『まどかとまどかの周囲の誰かを(特に心を)傷つけず、苦しめず、不幸にもしない』という縛りに引っかかる(ほむ魔がまどかの知っている誰かを全力で殺したり、傷つけたりする事は有り得ない)ので、避けた事を後悔はしていませんが。
 さて、そこで没にした為にそれまでのプロットを一新。結果、本作はこんな感じになりました。『アミバは途中まで本物のトキとして描かれていた説』みたいな物ですね。だから、アミバは「あれ、こいつ本当に天才じゃね」と思わせる拳法の才能を持っているのではないかと。

 本作は、叛逆の物語を発生させずに叛逆の物語を発生させる、という事を目標に、ほむ魔を『人外の怪物』だと意識して、分かりやすくなる様に書いております。人間の価値観を理解しているが、それとは違う価値観を絶対的な物としているんですね。『約束』のシーンは、彼女のぶっ飛んだ感性を、暁美ほむらとの会話シーンでは異様な精神性を書いたつもりですが……上手くいったのかは微妙な所かも?
 ただ、まどか☆マギカはそういう異常性や人間の暗黒面にはそれほど深く触れない作品(正義の味方を目指していた美樹さやかに、『この世界って守る価値有るの』と思わせる為の描写として僅かに登場した程度、あくまで普通の中学生が意識せずに見られる範囲の世界+魔法少女とインキュベーターの関係性で作品の内容が形作られている)なので、ほむ魔のそういう点は、話を盛り上げる添え物。本作で一番肝心なテーマは、暁美ほむらが鹿目まどかを想い、鹿目まどかはそれを『あらゆる面で完全に』受け入れている、という、それだけの事実が大切で、それがあれば暁美ほむらは世界の果てにだって羽ばたける、という事。言っちゃえば、「まどほむ成立ばんざーい!」です。まどか☆マギカは、作品として重要な部分以外は描写しないので、それがまた良い完成度に繋がりますね。私のこれは不必要な部分を削りきれませんでしたが。

 ところで、今更な話ですが、本作の暁美ほむらはどれもまともではありません。一番原作を意識して、原作と同じ様な性格になる様に努力した「悪魔ほむら」も、十分にまどか狂いの異常者です。その原因は、多分私の中の暁美ほむら像でしょう。彼女は甘さは捨てきれないけれど、十分に世界を「まどかが白、それ以外は黒」という風に分けて考えている節が有ります。彼女にとってまどかは世界の全てで、自分の生涯や世界をかなぐり捨ててでもまどかが大事、という子なんだと思います。その気持ちが友達としてなのか、それとも恋人としてなのかは分かりませんし、分かった所で意味は無くて、重要なのは、この最終話で書いた通り「暁美ほむらは鹿目まどかを想っているという、ただそれだけが一番」という事なのではないかと。ただし、想っていると言っても、それは必ずしも良い事じゃない。これ重要。私はあの悪魔化は色々な感情、それこそ邪悪も何も関係なく全部ひっくるめた「愛」と、「あの時、私はどんな手を使ってでも貴女を止めなきゃならなかった」という気持ちで作られた物だと思っています。暁美ほむら視点の叛逆の物語小説版とか作られないかなぁ……勿論、著者は虚淵先生で。
 彼女自身TV版・劇場版中で、まどかの為、とは言っていません。記憶違いでなければ、本編中一度も「まどかの為」という言葉は使っていないんです(「この想いは、私だけの物、まどかの為だけのもの」くらい)。救う、救いたい、あなたが幸せになれる世界を望む、という言葉は使っていますが、あくまで自分本位で、自分の為にやってる、と言っているんですね。報われもしないし、救われもしない。それを自覚した上で(内心では報われたい、救われたいと思っていても抑え込んで)、まどかの幸せを、まどかの救済を望んだという訳で。そういう人格だからこそ、私は物凄く入れ込んでいるのです。女神万歳・悪魔万歳・叛逆の物語万歳。いあ! いあ!
 と、まあ此処までが暁美ほむら像。本作の暁美ほむらはそこから四歩くらい進んだ先に居るガチ狂人です。悪魔ほむらは、まどかが絡むと自分の事がどうでも良くなり自分をゴミ同然に扱える程度に。二十年後ほむらは、まどか以外の全てがモノクロに見えている。2部の叛逆ほむらは、まどかの為ならどんな真似だってするしどんな目に遭っても気にしない。ホムリリーはお察しの通りだし、ほむ魔は頭がおかしいのを通り越して、書き手の私ですら若干引く。悪魔を除く暁美ほむらは「性格を独自解釈して書かれた原作の登場人物」ではなく、「原作の登場人物に似た何か」だと思っていただければ。
 特にアレなほむ魔は、最初から最後まで、鹿目まどかよりむしろ、暁美ほむらを神聖視しています。鹿目まどかが単なる中学生なのは分かってる癖に、暁美ほむらは「鹿目まどかの幸福に貢献する為なら死ねる」存在だと信じているんです。そうじゃない暁美ほむらは不良品で、暁美ほむらとは認めない、的な。彼女のおかしな部分でそこが一番気づき難く、一番厄介だったり……そういう部分は、元となったロールシャッハが会った事も無い父親を「祖国の為に働く立派な男」だと信じ込んでいる所から来ています。
 そうだ、前述した「まどかの為」ですが、本作では便宜上、あるいは会話の都合で「まどかの為」という言葉を使っていますね。なので、大抵は「まどかの為に凄く入り心地の良いお風呂を準備した」的な、日常的な物。あるいは「まどかの(幸福の)為」とか、「まどかの為(まどかがそれを望んだとは言っていないし、望まれてないのも分かってる)」になります。本人達は、あくまで自分の為にやってると思ってますよ。ほむ魔は元がそういう生まれ方なので違いますが。
 色々書いてきましたが、ともあれ、私の中の暁美ほむらへの認識と気持ちはこの作品に全力で篭めたつもりです。後は叛逆の物語の円盤が届くのを待つだけ。あはは、この為だけにブルーレイプレイヤー買っちゃった。届いたら「今日までずっと我慢してきたんだもんね、さ、再生しよう。これからはずっと一緒だよっ」と言うつもりです。

 これで、基本的に本作は完全に、今度こそ完全に完結です。後は……前々から考えていた短編集とかですね。AKEMI HOMURAの設定そのものはナイアーラトテップから割りと貰ってるので、設定に関しても変幻自在の自由自在。色々な妄想が出来るからとても便利。
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