使い魔少女HOMURA★ほむら ~だが、誰が救い手を救うのか?~(完結)   作:曇天紫苑

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◇卑猥◇そこから先は中学生の立ち入ってはいけない空間である◇

 R-17.5くらいの描写が有ります。アレとかソレとか直接的な行為は有りませんが、ちゅぱちゅぱふにふにでぺろぺろの喘ぎまくりのビクンビクンする作品となります。ご注意ください。


小ネタ ある日の一幕。少女達と怪物の平穏でちょっと卑猥なお話

「美樹さん、巴さん、今日は集まってくれて……その、ありがとうございます」

 

 そう言って、ほむらは私とマミさんへ向かって小さく頭を下げた。

 ただ、今更そんな態度を取られても困る。眼鏡を掛けていると言っても、ほむらの瞳は十分に冷たく、それ以上に燃え上がっていて、そんな彼女から弱々しい言葉を聞くのは、何処か居心地の悪い物がある。

 

「良いって。でもま、あたし達三人だけっていうのも珍しいね」

 

 此処は、マミさんの家だ。なぎさは今、別の部屋で宿題に没頭しているらしい。その為か、普段よりマミさんの家が静かに感じられる。

 私とマミさんは三角の机を囲んで座り、その間で、ほむらだけが立っていた。

 

「んで、何? あたし等に相談って」

 

 私達は、ほむらから相談が有ると言われて集まった。声を掛けられたのは何故か私とマミさんだけで、杏子やほむ魔、そしてまどかは呼ばれていない。

 

「わざわざまどかとほむ魔を除いて話そうって言うんだから……まどか絡みの話、って事で良い?」

「そう、ですね。美樹さんは鋭いです」

 

 何となく予想した事から鎌掛けをしてみたけど、当たりだったらしい。ほむらから賞賛されるのは、悪い気がしない。

 もう、私達の間にわだかまりは無かった。有るのはただ、まどかや皆と一緒に仲良く生きていこうと言う決意だけで、敵対心は一つも残っていない。

 だから、ほむらの相談が何かしらの危険を伴う物であったとしても、私は決して拒絶しない事を決めていた。

 

「でも、何で杏子は呼んでないの?」

 

 不思議な事に、この場へ杏子は呼ばれていない。あいつは、あれで結構心の出来た奴なのに。

 

「そうよね……どうして私と美樹さんなのかしら。確かに、佐倉さんでも良いと思うのだけれど」私の考えに同意して、マミさんが首を傾げる。

「彼女は、その、ちょっと」

「あいつ、何だかんだ言って面倒見が良いし、性格もそれなりに頼りになるし、相談相手としては結構良い方だと思うんだけど……」

「いや、でも……」

 

 歯切れの悪い口調となり、ほむらは大きく目を逸らした。答えたくないのか、明確な事は何も言ってこない。

 杏子と何か有ったんだろうか。それなら、私がフォローを入れておかなきゃいけない。これでも親友なんだ、あいつが嫌われるのは辛い物が有る。

 

「もしかして、あいつと喧嘩でもした? あいつは結構勘違いされる性格だし……でも、悪い奴じゃないからさ。何か有ったなら、あたしが代わりに謝っておくけど」

「違います、喧嘩なんかしてません。ただ、少し相談の内容に問題が……」

「問題?」

 

 杏子に言うには問題の有る事とは、どんな事だろう。想像してみたけど、何も出てこない。勉強絡みの相談かと思ったけど、それなら杏子と同じくらいの学力の私だって呼ばれない筈だから。

 なら、何だろう。杏子じゃ駄目で、私なら良い。そんな物が有るんだろうか。首を捻っていると、私とほむらを見たマミさんが、唐突に笑い声をあげた。

 

「ふふ、美樹さんって、佐倉さんの事を結構見てるわよねぇ……」

「……い、いやぁ。まあ。同居人ですし?」

 

 同じ部屋に住んで、色々な事を一緒に経験した仲だ。大体の事は理解出来るけど、改めて言われると、何だか照れくさい物がある。

 

「佐倉さんは寂しがり屋さんだから、美樹さんがしっかりしていないとね」

 

 昔を思い出したのか、マミさんは懐かしそうに告げると、ほむらの方へ目を向ける。時折溢れ出す恐ろしい気配が今は随分と薄れていて、頼れる先輩の顔をしている。

 あの愛に溢れた怖いマミさんもそれはそれでカッコいいけど、この優しそうな雰囲気も良い物だと思えた。

 

「私達が呼ばれた理由は気になるけれど……それも、暁美さんの話を聞けば分かるわよね。暁美さん? そろそろ。相談の内容を教えてくれないかしら?」

 

 ほむらが少しだけ目線を下げて、不安そうにする。

 

「……笑わないでくれますか?」

「笑わないわよ。暁美さんが真剣に悩んでるんだもの。親身になってあげられなきゃ、私は巴マミじゃないと思うわ」

「あたしも、ほむらの相談なら聞くよ……あ、でもね」一つ、相談を聞く前に言っておく事が有る。それは。「昔の口調に戻ってくれない?」

 

 頼んでみると、ほむらは数回まばたきをして、何だか悲しそうにする。眼鏡の彼女は何処か弱気な少女の部分が見え隠れしていて、庇護欲をそそられる。

 抱き締めたくなるけど、そこはグッと我慢した。ほむらを可愛いと言っているまどかの気持ちが、良く分かった。

 

「この口調……駄目、なんですか?」

 

 自分の口調を否定された気持ちになったのか、ほむらは少しだけ落ち込んだ様子を見せている。昔の私なら分からない程度の変化だけど、今は彼女の表情を見慣れているから、見れば分かる。

 

「あー、そうじゃなくてね。守ってあげたくなるオーラが凄くって、相談に乗ってもきつい意見とか言えないから……うん、ほんとお願い」

 

 今のほむらは弱い部分が目立つお陰で、きつい言葉を告げるのが辛い。まどかの言葉以外には殆ど心を動かさないと分かっていたって、私が言い難いんだからしょうがない。

 分かってくれたのか、ほむらは小さく咳払いをする。次の瞬間には雰囲気が切り替わり、冷たくも熱意の溢れた気配を纏っていた。

 

「じゃあ……昔の口調で相談するわね。これで良いかしら、さやか」

「ん、何でもこーい!」

 

 昔の口調に戻ると、ほむらは表情まで微かに変わる。私へと向けられたのは、あの懐かしくも冷たい顔だった。

 けれど、仄かな微笑みが昔の彼女とは違う事を明らかにしてくれる。今の彼女には余裕が有るんだ、相談内容も、それほど深刻な物ではない気がした。

 マミさんと私は、揃ってほむらの続く言葉を待った。一体、何を聞かれるんだろう。まどかの趣味やスリーサイズなら把握している筈だ。

 ちょっとだけ迷った様だが、意を決した様子でほむらは口を開く。一気に深刻さを増した空気に乗せられて、私は思わず前のめりになって言葉を聞いた。

 

「せ、攻めになるには、どうしたら良いのかしら?」

 

 ……一体、こいつは何を聞いているんだろう。

 告げられた内容の意味不明さに、頭が動きを止めた。

 

「……ん?」

「だ、だから攻めよ、攻め。攻め受けの攻め。タチ、ほむまどのほむ。まどほむのまど。もっと言うなら肉体を情欲に任せて貪る方と貪られるほ……」

「意味は分かってるから!」

 

 言われなくても意味は分かる。私が聞きたいには、その発言の内容だ。攻めになりたいとは一体何なのか。多分、まどかに対して攻めになりたいんだろうけど……

 

「な、なんだ。伝わってなかったのかと思ったわ」

「その、攻めになりたいというのは、どういう事かしら?」

 

 私の代わりに、マミさんが聞いてくれた。普段は堂々としているマミさんも、驚きを隠せていない。当然だと思う、一体誰が、友達からそんな相談を持ちかけられると思うだろう。

 ほむらの印象がまた一つ砕けたのが分かる。もう、美人の前に『残念な』と付けた方が良いんじゃないか。

 そんな私とマミさんに構わず、ほむらは独り言の様に話していた。

 

「最近、まどかに押されっぱなしで、何だか全然良い所を見せられてないのよ。だからせめてベッドの上でくらい」

「わー! わー! わわー!」

 

 唐突に口にされた内容を聞いて、慌てて言葉を遮る。

 邪魔をされた事が不満らしく、ほむらは私を微かに睨んできた。

 

「……何、さやか」

「い、いきなり何を言い出すの!? っていうか、まどかとあんたってそこまで進んでたの!?」

「え、ええ。時々、ベッドに入らせて貰ってるわ」

 

 突然のカミングアウトに動揺が隠せない。二人の仲はすこぶる良好だとは思っていたけれど、まさか一線を越えているとは考えていなかった。

 初で照れ屋のまどかとほむらなら、手を繋いだり添い寝をしたり、その程度だろうと思っていたんだ。

 

「鹿目さんって、そんなに巧いの……?」興味を引かれたのか、マミさんが尋ね掛ける。

「巧い、というか、優しいというか……私を包み込む様な感じで、気づけばまどかの腕の中よ」

「……」

 

 親友のそういう事情を聞かされて、酷く恥ずかしい気分になる。まどかがそんな事をしているなんて、明日、どんな顔をして会えば良いのか。

 

「それで、それをどうにかしたいって?」

「ええ……いい加減、私もまどかを攻めたいの。まどかに抱かれるんじゃなくて、まどかを抱く私になりたいの」

 

 ほむらの顔にはいやらしさの類は無く、むしろ真剣味が感じられた。本気で攻めになりたいと思っているんだ。

 その気持ちが伝わって来たとしても、率先して答えてやりたい相談ではないけれど。

 

「どうして、それをあたしとマミさんに聞くのよ」

「それは、貴女達が攻めだからよ」

 

 私の何が攻めなんだろう。そう思っていると、ほむらが言葉を続けた。

 

「さやかと杏子はさやかの方が攻めだし、マミとなぎさも間違いなくマミが攻めよね? 一体どうしたら、私もそうなれるのか聞きたくて」

 

 杏子が呼ばれなかったのは、あいつが受けだと思われているからの様だ。

 『ガチ』なマミさんとなぎさはともかく、私がこの場に呼ばれたのは少し不満に感じられた。

 

「別に、あたしは杏子と付き合ってる訳じゃないし……」

「ほむ魔から聞いたわよ、この間、起きたら二人とも下着姿で同じベッドに寝ていたのよね」

「あいつ何で知ってるの!?」

 

 一週間前に出来た黒歴史を掘り返されて、私は思わず立ち上がる。マミさんの視線を受けて座り直したけれど、驚きと恥ずかしさは全く止まらなかった。

 何せ、アレは誰にも教えていない筈なのだ。どうして、と考えて、『そういえばほむ魔にモーニングコール頼んでたんだっけ』と思い至る。

 隠していた事を知られた恥ずかしさで、どうしようもないくらい顔が熱くなった。

 

「……あ、あたしと杏子はそういう関係じゃないんだって」

「でもベッドは一緒だったんでしょう?」

「あれは、お風呂に入った後下着だけで布団に入ってそのまま寝ちゃったの。その後で杏子が寝ぼけて同じ布団に入ってきただけ!」

 

 ただ、起きた時にパニックにはなった。寝ぼけていたのか、私達は互いを抱き締め、顔を目の前に置いていたんだ。相手の肌を感じる様に抱き合うなんて、初めての経験だった。

 それに、目を開けたら杏子が目の前に居て、下着姿になっていたんだ。誰だって驚くと思う。それ以上に杏子が今までに無いくらい可愛く見えて、思わず頭を撫でてしまった。

 そこで杏子が起きたから、話は余計に変な方向へ転がった。二人揃って下着姿でベッドに座り、何を言えば良いのか分からずに身体を揺らしていたんだ。登校時間寸前まで、そんな調子で相手を意識し合っていた。

 その流れまで見られていたんだろうか、ほむ魔なら空気を読んで目を逸らしてくれると信じたい。

 

「あら、佐倉さんと美樹さんは将来結婚するんだとばかり」

「マミさん!?」

 

 心から意外そうに呟いたマミさんへ抗議の視線を向ける。けど、マミさんは悪戯っぽく笑うだけで、何も堪えていない。

 ほむらの相談を受けていた筈が、気づけば、私の恥ずかしいエピソードを暴露されていた。これ以上話が続いてしまうと、居心地の悪さで逃げ出してしまいそうだ。

 

「と、ともかく。攻めだね、攻め。うん、分かった、分かったからあたしの話はもう止めよう」

 

 何とか話を元の方向へ戻そうと、慌てて声を出す。今ならどんな相談でも真剣に考えてやれる気がした。

 私の企みは何とか成功してくれたらしく、マミさんとほむらは私に関してはそれ以上何も言わず、本題へと戻ってくれた。

 

「攻め、攻めね……私だって時々は受けになるのよ」

「そうなの?」

「ええ、なぎさに指を舐められたり、お腹に顔を押しつけられてる時とかは特にね」

「……マミさん、やっぱり一線越えてるんだ……」

 

 一瞬、脳裏にマミさんの艶やかな姿が映って、慌てて首を振る。

 雑念を振り払おうと、私はほむらにどんなアドバイスが出来るかを考えた。あいつは性根が弱気だから、まどかに攻められると、どうしても受けに回ってしまうんだ。

 なら、一つ良い物が有ると思った。あの状態なら、まどかを翻弄出来るかもしれない。

 

「悪魔の姿でやる、っていうのはどうよ? あれならミステリアスで怖い感じが有るし、結構やれると思うんだけど」

 

 あの圧倒的な気配が有れば、もしかすると、まどかを受けにする事も可能かもしれない。

 良いアイデアだと思ったけど、ほむらは静かに首を振った。

 

「駄目よ。あの格好をした時点で、まどかにボディタッチを強請っている様な物だわ」

「同感ね。アレは結構露出の多いデザインだし、鹿目さんの悪戯心をくすぐるでしょうね」

 

 マミさんの言う通りだと思った。どういう趣味なのか、悪魔の衣装はかなり露出が多い。円環の理であるまどかにとっては、あの不気味さも楽々に受け止められる物でしか無い。

 多分、簡単に受け入れられてそのまま攻められてしまう。ほむらを攻めにする為の方法としては、何の効果も無い。

 

「うーん、駄目かぁ」

「でも、前向きにアドバイスを考えてくれて感謝するわ」

 

 ほむらは、珍しいくらい柔らかな態度で私への感謝を口にした。よっぽど攻めになりたいんだろう、何時もの私に対する毒舌気味な所が見て取れない。

 そういう態度を取られると、俄然手を貸したい気持ちを抱いてしまう。相談内容はどうかと思うけれど、それでも何か役に立ってやりたくなった。

 ただ、私では余り良いアイデアが浮かばない。そこで頼りになる人と言えば、マミさんだ。マミさんはどう見ても攻めだし、色々と経験しているだろうから。

 

「マミさんはどうなんですか? なぎさとの事とか……」

 

 なぎさ絡みのマミさんは少し怖いから、尋ねてみるのは少々の不安が有った。けど、マミさんは気にしなかったのか、人差し指を口元へ持っていき、考え込んだ。

 

「そうねぇ……私が攻めの時はね、なぎさが恥ずかしがり屋さんだから、多少強引にした方が喜んでくれるわ」

「強引に……嫌がられたり、拒絶されたりするかもしれないわ」

 

 ほむらが悩む素振りを見せたけど、心配し過ぎだ。まどかが、ほむらを拒絶するなんて有り得ない。

 マミさんも同じ事を考えたんだろう、苦笑気味に首を振って、笑い飛ばした。

 

「鹿目さんに限って、それはあり得ないでしょう?」

「そう、ね……それなら、マミ、何かコツが有るなら教えて貰いたいんだけれど……」

「ええ、良いわよ。メモ用紙か何かは必要?」

「いいえ、持ってきているわ」

 

 懐からメモ帳とシャーペンを取り出すと、ほむらは酷く真剣な様子でマミさんの顔を見つめた。穴が開きそうな、強い視線だった。

 そんな目を向けられても、マミさんは全く気にもせず、紅茶を一口飲む。それから優しげに微笑むと、なぎさの居る部屋を一瞥してから話し出す。

 

「まず何よりシンプルなのは、押し倒す事ね。そこから一気に行けば間違い無しよ。でも、気を付けないといけないのは、まず相手を嫌な気持ちにさせない事と、誘い受けにならない様に、隙を見せない事が重要だと思うわ」

 

 話の内容を聞いていると、自然にマミさんの姿を思い浮かべてしまう。

 私の顔はきっと真っ赤になっている。けど、マミさんは話を続けて、ほむらは気にせずメモ帳に書き込んでいた。

 

「具体的にはね。まず両手を押し付けた状態から、相手が心の準備をする前に指を身体全体にゆっくり這わせて、まず身体を慣れさせていくの。ここで気を付けるのは、相手に逆転される事。そうなったら攻めは遠く彼方へ行ってしまうわ。でも急ぎすぎても駄目。ムードを保つ為にも部屋は暗めに、愛撫はあくまで優しく、相手の息が荒くなってきたり、声が甘くなってきたらそのまま一気に行きなさい」

「……ま、マミさん。大胆ですね」

「そうでもないわよ? なぎさなんて、攻めの時は私よりずっと激しいんだから」

 

 横から聞いても、恥ずかしい内容だった。杏子ならきっと逃げ出すレベルのエロ話だ。

 テンションが高い時の話なら猥談で済むけれど、こんな真剣な空気で語られると、どんな反応をして良いのかも分からない。

 ただ、聞かされていたほむらにとっては十分に役に立つ話だった様だ。ほむらはメモ帳を一度見直すと、感謝の念を口にした。

 

「ありがとう。でも、よく分からないわ。今までずっとまどかに任せていたから……」

「何なら今から実演してあげましょうか。なぎさを呼んで……」

「い、いえ。遠慮しておくわ」

 

 さしものほむらも、目の前で痴態を繰り広げられるのは嫌だったのか、少し眉を顰めて首を横へ振った。

 断られてしまい、マミさんは残念そうに肩を落とす。なぎさとの仲を見せびらかしたかったんだろう。

 

「そう……そういえば、美国さんならもう少し良いアドバイスが出来ると思うんだけれど……どうして彼女は呼ばなかったの?」

「巴さ、じゃなくて、マミに相談したら十分かと思って……」

 

 ほむらが口にした内容は本心だと分かったけれど、同時に、隠している部分が有る事も察せられた。

 織莉子さんとはもう打ち解けたけど、やっぱり個人的な相談をする程の仲ではないみたいだ。率先して近寄っていこうとは思っていない感じがする。

 キリカさんも織莉子さんも良い人達だから、出来れば仲良くなってくれれば嬉しいけれど、こういうのは、やっぱり本人の意識の問題なんだ。

 マミさんも、ほむらの内心を察した様で、僅かに目を細めた。けど、即座に表情を改めて、何処か背筋の寒くなる笑みを作る。

 

「そう、頼ってくれるのは嬉しいわね。なら、少し此処でイメトレでもしてみる?」

「い、イメージトレーニング?」

「そうそう」

 

 マミさんの提案を聞いて、ほむらが微かに逃げ腰を作った。『イメトレ』、何というか、甘美な様で恐ろしい言葉に聞こえる。

 何て、妖しげな響きだろう。聞いているだけで胸が高鳴る様な気がした。

 

「ごめんなさい。まどか以外はちょっと……」

 

 さしものほむらも避けたかったのか、引き気味になって断った。私も、ほむらとマミさんが妖しげな事を始めずに済んだ事を喜んだ。

 だけど、マミさんはちょっとだけ考え込んだかと思うと、すぐに良い事を思いついたと手を叩く。

 何やら、悪い予感がした。魔獣の攻撃が迫っている時の様な、頭の奥で警告が響いている。危険の元がマミさんに有ると分かっても、逃げる手が見つけられない。

 私が戸惑っている間に、マミさんは私の手を取った。声を出すより早く、マミさんの顔が近づいてくる。

 

「なら、イメージしやすい様に美樹さんへちょっとボディタッチをしてみましょうか」

 

 その恐ろしいくらい魅惑的な言葉に、絡められた指が痙攣する様に震えた。

 

「ま、マミさん?」

「大丈夫よ、美樹さん。優しくするし、軽く身体に触るだけだから。貴女には、佐倉さんが居るものね」

「だ、だから。杏子とあたしはそういうのじゃないんですって……」

 

 遠慮しようと思っても、どうしてか、身体が上手く動いてはくれない。マミさんから発せられる香りや勢い、そして声や指先の動きが行動を遮るんだ。

 

「あ、あの……」

「大丈夫、大丈夫よ」

 

 心と体の両方が、とてつもない勢いでくすぐられる感触が有る。

 これもまた、ベテランの魔法少女の技なのかも。こっちの言動にまで制限を掛けるなんて、本当に凄い。ただ、素直に感心するには余りにも官能的すぎる空気だった。

 マミさんの口が耳たぶの裏側に近づき、その姿をほむらがじっと興味深そうに見つめている。きっと、今の私は真っ赤になった顔で小さく首を振っているんだと思う。

 

「美樹さん、照れる所が素敵ね……」

「ひぅ……まみさぁ……ん」

 

 意識が纏まらない。何時の間にか、私は上着を床に落としていて、ブラウス姿で腕の中に居た。暖かさに包まれて、安らぎが浮かび上がる。

 不味い。何が不味いって、この状況を不味いと思っていない自分が不味い。

 マミさんが、もっともっと近づいてくる。このまま流されてしまう。ほむ魔にキスをされかけた時と同じだ、だけど、今回は冗談なんかじゃない。

 そのまま、マミさんの手が私の胸の下辺りへと近づいて。

 

 

 

「その役目は、私に任せて貰えないかしら」

 

 

 

 ほむらにも似た声が、マミさんの動きを止めさせた。

 独特な冷たさと、深くて恐ろしい愛情という名前の狂気が光。このクールぶった印象の声音は、確かに暁美ほむらの物だけど、私は、ただ聞いただけで声が『ほむ魔』の物であると理解した。

 

「ほむ魔……」

 

 一瞬だけ時空が揺らぐ様な感覚がしたかと思うと、その奥から一人の少女が現れる。

 真っ黒くて流れる髪が輝き、羨ましいくらい汚れ一つない白い肌は見とれる様な美しさが有る。まどかより少し大きいくらいの身長の筈なのに、すらりとした細身が背丈をより高く見せていて、冷気を思わせる整い過ぎたと表現しても良いくらいの顔は、私に向かって微笑みを浮かべていた。それは、外見だけなら『暁美ほむら』そのもので、だけれど、中身はもっと恐ろしい怪物……いや、可愛い所も有る、私の親友第三号だ。

 何をしに来たんだろう。ううん、聞くまでも無いかもしれない。その悪戯っぽい視線を、感じさえすれば。

 

「楽しそうな事をしているわね。さあ、私も混ぜなさい」

 

 ほら、やっぱり。

 内心、げんなりした。マミさんだけでも十分に頭が溶かされる気分なのに、ほむ魔まで加わったら私はどうなってしまうのか。

 

「どうぞ、ほむ魔さん。幸い、美樹さんは完全な受け状態よ」

「それは良かった。可愛がる甲斐が有りそうじゃない」

 

 急に現れたほむ魔に驚く事も無く、マミさんはあっさりと受け入れた。

 ほむらだって、何も言おうとしない。ただ静かに私の姿を見つめている。

 

「ちょ、ちょっと……あたしの同意は……?」

「だめ?」

 

 ほむ魔に尋ねられて、思わず言葉に詰まる。

 断り難い顔をしないで欲しい。その表情が作られた物だと知っていても、言い辛いから。

 ダメだこれ、逃げられそうもない。諦めて、身を任せよう。

 

「……もう、もうっ。いいよ、好きにしなよまったく」

 

 首を振って、抵抗を止める。期待半分、不満半分と言った感じだ。これから、自分はどんな風にされるんだろう。そう思っただけで、心がポカポカと暖まる。

 

「楽しませてあげるわ、さやか」

「ほむ魔ぁー……」

 

 得意げな顔をするほむ魔を睨みつける。今度、絶対ブラックコーヒーを飲ませてやると心に決めた。

 そうこうしている内に、ほむ魔が私の身体をそっと横から抱き寄せる。本来なら体温なんか存在しない使い魔の身体は、人と触れ合う時だけは保温されている。

 マミさんもまた、同時に動き出す。こちらはリボンの様にしなやかな手つきで、ほむ魔の反対側から抱いてくれる。

 

「んっ……」

「緊張しているのね……大丈夫よ、さやか」

「ええ、美樹さん。落ち着いて、私達に身体を預けるのよ……」

 

 二人揃って、両サイドから囁かれる。それだけで、途端に意識が落ち着いていく気がした。

 今までの流れでスカートがパンツの見える寸前までめくれ上がっていたけれど、それに気づいたほむ魔が太股をなぞる様に、直してくれる。

 ただ、その時「パステルカラーね、似合ってるわ」と言われて、凄く恥ずかしかった。ああ、そういえば、ほむ魔が転移してきた時、丁度、私のパンツが見える位置に居たんだっけ。

 そんな無意味な事を考えている内に、どんどん二人の手は大胆になっていき、意識が二人に溶け合っていく気がした。

 

「あは……恥ずかしいなぁ……」

「安心して……優しくするわよ」

「美樹さん、今、凄く可愛い顔になってるわ……」

 

 私の身体に、撫で回される感触が走る。

 気遣っているのか、髪やお腹、二の腕や脇腹、首筋から背中など、触られても良いかな、と思える場所だけを触れてくる。何というか、私を悦ばせる為の動きなんだ。

 あ、これ気持ちいい……

 

「ふ、ぁ……」

 

 思わず漏れ出てしまった声は、自分でも信じられないくらいの艶が有った。

 慌てて手で口を塞ぐ。けど、そんな仕草も、二人を喜ばせる材料にしかならなかった。

 

「んっ……ひゃっ……!」

 

 触られる場所は変わらないのに、その手つきが今までより更に優しくなり、気づけば口が開きっぱなしで涎が垂れ流しになっている。

 

「さやか、顔を上げて」

 

 ほむ魔が私の顔を少しだけ上げて、唇を近づけた。キスされるんだと思って目を瞑ったけど、そんな事は無くて、ただ、口元の涎を指先で拭ってくれた。

 指先に、私の涎が付いている。それを見てにこやかに笑うと、ほむ魔は自分の指をマミさんの口元へ運んだ。

 

「んっ……」

 

 マミさんが、目の前でほむ魔の指を口に入れた。頬をほんのり赤くして、私を愛撫するのも忘れていない。

 ちゅぱちゅぱと、何かを啜る音がする。その音と光景が、私の理性を更に溶解していった。

 

「ぁ……」

 

 あのほむ魔の指が欲しい。マミさんの唇が欲しい。

 自分は同性愛にはあんまり適性が無いと思っていた筈なのに、身体はどうしようもなく二人を求めている気がする。

 体中が熱くて仕方がない。何かが首を伝っていると思ったら、それは私の汗だった。

 

「何だか……暑く、なってきちゃった」

 

 自分の声とは思えないくらい、物欲しそうな声音。それを聞いて、ほむ魔はただ一言だけ答えた。

 

「じゃあ、脱げば良いじゃない」

「うん……分かった、脱ぐね……」

 

 言われるがままにブラウスへ手を伸ばし、めくり上げる様に脱いでいく。もう、恥ずかしいという気持ちを覚える事も無かった。

 脱ぎ終えると、パンツとお揃いの色のブラが自分の身体を最低限隠している事を確認する。下着なんて誰に見せるつもりも無かったから、こんな風にみんなに見られるとは思った事も無かった。

 この部屋に居るみんなの視線が、私の身体に集中している。その事を感じるだけで全身の熱が更に強くなって、我慢も出来なくなる。

 

「き、きて……いい、よ」

 

 されるがままだった状況から、腕を広げて自分から受け入れる姿勢を作る。どんな所を触られても、今の自分なら絶対に大丈夫だ。

 マミさんとほむ魔は、私のお腹辺りを撫でる。

 触られた分だけ神経が集中して、気持ち良くなる。優しさに包まれる様な感触は安らかな快楽を与えて、それはもう幸せな気持ちを覚えさせてくれた。

 

「さやか……」

「あ、はっ、ほむ、魔……」

 

 ほむ魔の指が、私の胸周りを撫でている。心臓の辺りをどんな宝石よりも尊い物だと言いたげな手つきで触られる。

 そして、ほむ魔の顔は私の頭に密着していた。髪に顔を押しつける様にしているんだ。

 

「美樹さん……」

「まみさ、はぁんぅ……っ」

 

 マミさんは、ほむ魔よりも更に際どい所を触ってくる。太股の付け根辺りが特に多く、次いで多いのが、下腹部の周囲を慈しむ様に撫でる事、そして、口の中へ指を入れてくる事だった。

 毎日なぎさを相手にしているからか、それはもう手慣れた感じだ。眠る寸前の様な安らぎと一緒に、ふわふわとした気持ち良さが来ている。

 全身が敏感になりすぎて、ただ触れ合うだけで胸がもの凄い勢いで高鳴り続けていた。心臓が破裂しそうなくらい動いているのに、苦しくない。むしろ、意識が薄れる感覚が甘くて、何時までも感じていたくなる。

 

「もっろ……もっと、して欲しいよぉ……」

 

 思わず、心の底から声を漏らしてしまった。

 二人の目が更なる輝きに染まる。『許可が出たんだから良いよね』という顔だ。何だろう、不安より遙かに期待が勝る。私の手は自然に虚空へ揺れて、力を無くしてほむ魔の肩に倒れる。

 

「美樹さんももう完全に入り込んじゃった所で……私達も、少し本気を出しましょうか」

「ええ……暁美ほむら、貴女はよく見ていなさい。まどかに対して優しく攻めへ持ち込むお手本になると思うわ」

 

 二人は、一斉に上着を脱いだ。たくし上げる様に脱いだマミさんは流石にシャツを着ているけど、ボタンを外して脱いだほむ魔は下着姿だ。

 

「ふぅ……やっぱり、私もちょっと興奮していたのね。何だか身体が熱いわ」

「私に、熱を帯びる機能なんて無いんだけど……ま、そういうのは気分の問題かしらね」

 

 恥ずかしげも無く話す姿を、私の両目はしっかりと捉えている。

 薄着になった事で、マミさんの胸が普段より強調されている。いや、そちらは今は良い。それより、目が離せなくなる物が有る。

 

 ほむ魔だ。彼女から、目を離せない。

 

「わぁっ……」

「ん? どうかしたの、さやか」

「あ、いや……その、綺麗だと思ってさ」

 

 ほむ魔は本当に人間みたいな身体なのに、否応なしに目線が行ってしまう。

 『何らかの無限的な存在』になった事で、もしかするとその肉体の自由度を更に引き上げたのかもしれない。

 

「ありがとう、さやか。この下着はまどかに聞いて作ったのよ」

 

 素直にお礼を口にすると、ほむ魔は自分のブラの肩紐を持ち上げる。布地に見えるけど、あれは使い魔の肉体で構成された物で、細かく言うと、あの下着はほむ魔の身体の一部だ。

 でも、紫にフリル着きの下着の組み合わせは暗めの配色なのに黄金より輝いて見えて、露出した全身は、それはもう神秘的かつ殺人的に魅力的だった。

 きっとそれは、彼女の全てが作り物で出来ているからだと思う。何をどう言い繕ったって、この場の、この世界の誰よりも、ほむ魔は『人間じゃない』んだから。

 

 まあ、それが何って訳じゃない。ほむ魔が誰であろうと、友達は友達だから。

 

「さて、さやか。心の準備は良いかしら?」

「大丈夫。たぶん……だけど」

「安心して、美樹さん。ご要望通り、もっと幸せな気持ちにしてあげるわ」

 

 マミさんが右から、ほむ魔が左から、再び私を抱く。両方からギュッと抱き締められて、また心臓が跳ねた。

 頭は一気に鈍くなって、自分の状態がよく分からなくなっていく。きっと、気持ち良くなれる様に身体が準備をしているんだ。

 

「はっ……はっ……あっ……」

 

 息が荒くなる。部屋の隅に有る鏡には、犬みたいに舌を出して息をする私の姿が映されていた。そして、その事への恥ずかしさもまた身体を熱くしていく。

 これが、受け……愛されている感じは、とても幸せだと思った。例え、二人にとっての私が『一番の人』でなくたって、大事にしてくれる気持ちは伝わってくるから

 

「ど、どうぞ……や、優しくお願いね?」

 

 ほむ魔とマミさんへ、全部を預ける。きっと今より幸せな気持ちになれると、信じられた。

 二人の内、先に口を開いたのは、ほむ魔だった。

 

「……足を舐めてみようかしら……」

 

 思いついた様に呟くと、ほむ魔は私から腕を放し、私の投げ出された足の裏へ回り込んだ。そう、それは自然過ぎて、足に指が這った時まで、私はほむ魔の動きに気づく事さえ出来なかった。

 

「え……」

「少し足を出して、さやか。そう、良い子……足の力を抜いて……」

 

 僅かに戻った理性で何か言おうと思ったけど、何を言えば良いのかが分からなかった。

 汚いから止めろ、なんて言えない。ほむ魔はそういう汚れや病気とは無縁の存在だから、心配する必要なんか無いんだ。

 

「ゃ、ぁ!? ほむ魔、待って、ちょっとっ」

 

 ほむ魔の舌が私の踵を這った。もうそれだけで言葉に出来ない感覚がやってきて、足の指へ向かって上へ上へ、時折下へと舌が進んでいき、今までよりずっと強烈な閃光が頭の中で何度も光る。

 

「んひゃぁっ! ら、だめ、それだめぇっ……」

 

 足の指の間を舐められた時、私はもう嬌声を抑えきれず、全身からこみ上げてくる様な快楽を吐き出していた。

 元々敏感になっていた所へ、足を舐められるという背徳的なシチュエーション。そこに舌の感触が加わって、もう何が何だか分からない。

 

「ふ、あ、あぁっ……! ひぁっ!」

 

 頭が真っ白になっていく。マミさんに上半身を、ほむ魔に下半身を優しく丁寧に暖かみを持って攻められて、気持ち良いのと幸せなのが一緒に爆発した。

 

「ぃ、あああっっ……!!」

 

 ビクンッ! と。私の身体が一瞬だけ大きく震えた。

 

「ひ、あ……ぁぁ……」

 

 脱力感で身体の力が完全に抜けて、横に倒れそうになる。けれど、そんな私の身体を、ほむ魔は絶妙なタイミングで抱き支えてくれた。

 

「あ、はぅ……」

「ふふふっ、そんなに気持ち良かったの?」

 

 ほむ魔は私の頭を撫でながら、あくまで優しく抱き締めてくれる。

 ありがとうと言いたかったけど、さっきの余韻で声が上手く出ない。それが一体何から来る反応なのかは分からない。そう、その……『一人プレイ』の時に感じる物とは違う感じだ。

 大体、マミさんもほむ魔も『そういう部分』には全く触れていない。足を舐めるのはともかく、他の所は、私だってスキンシップ程度の感覚でまどかのを触った記憶が有る。

 その時のまどかは可愛かったけど、私みたいな声を出したりはしていなかった筈なのに。

 

「さやかは……足の裏が凄く弱いのね」

「ぅ……それは、その……」

 

 やっと落ち着いてきた所で、ほむ魔の言葉が恥ずかしく聞こえる。自分でも知らなかったけど、私は足が弱いみたいなんだ。

 その証拠に他の所を触られるよりずっと気持ち良かったし、いっぱい声を出してしまった。

 

「うううううー……ほむ魔に色々やられちゃった……」何とか冗談を口にする余裕が出来たので、とりあえず両腕で自分の身体を抱く。

「それにしては、貴女も十分に悦んでいた様だけれど」

 

 一笑すると、ほむ魔は一転して何だか申し訳なさそうにした。

 

「でも、少しやりすぎてしまったわね。ごめんなさい」

 

 軽く頭を下げて、謝って来た。

 どうして謝られているんだろう。少しの間だけ分からなかったけれど、何となく理解出来る様になってきた。

 私の『そういう顔』を将来の恋人や旦那さん以外に見せてしまった事を悪いと思ってるんだ。私は別に気にしてないし、むしろ結構楽しかった。

 

「いや、いいよ。あたしも、その、気持ち良かった、し……うん、あたしも嫌とは言わなかったし、それにさ、今のは友達同士の冗談みたいな物じゃん。気にされた方が困るって」

 

 だから、頭を上げて欲しい。

 そんな気持ちはちゃんと伝わったらしく、ほむ魔は顔を上げて、何となく淡さの含まれた笑みを見せてくれる。

 

「まどかが女神なら、さやかはまさしく天使ね」

「そ、そんな恥ずかしくなる様な誉め方は止めてよ」

 

 ほむ魔の腕の中に居たからか、何だか恥ずかしくなって目を逸らす。さっきの余韻も大分薄れてきたし、もう一人でも座っていられそうだ。

 そう思って動こうとすると、私の事を横から見ていたマミさんが、少し慌てて私の胸元へ手を伸ばした。

 

「美樹さんっ、ブラが取れそうよ!?」

「えっ、うわ、本当だ……」

 

 何かの拍子で動いてしまったのか、ホックが外れかけている事に言われて初めて気づいた。

 自分が下着姿なのも半分くらい忘れていたけれど、それでも直さなきゃいけない。背中に手を回し、紐を掴む。

 

「美樹さん、何だったら私が直しても良いかしら?」

「あ、お願いします」

 

 マミさんの好意に甘えて、じっと直してくれるのを待つ事にした。

 すぐに、私のブラを着け直してくれている感触が来る。背中を触られている気もして、何だかくすぐったい。良くも悪くもこういうのはムードが大事なのか、さっきまでの凄い気持ち良さは無かった。

 ブラを直すだけなら時間は掛からない。十秒もしない内に終えると、マミさんは背中越しに明るい声を掛けてくれる。

 

「はいっ、出来たわ。ほら、上着も着ないと……」

「マミっ、やっと宿題が終わったの……で……す?」

 

 その時、私の背後から子供っぽくも可愛らしい声が聞こえてきた。

 声だけでなく、独特の話し方や、マミさんを真っ先に呼ぶ所からも、それがなぎさだという事はすぐに分かった。そして、この状況を見られたのがかなり不味いという事が理解出来た。

 何せ、私とほむ魔は下着姿、マミさんは薄いシャツ一枚だ。しかも、身体をかなり密着させていて、私の息は今も少し荒く、顔だって赤くなったままだろう。

 誰だって、何か凄い事が起きていたと思う。

 

「あ……マミ……?」

 

 なぎさの目に少しずつ涙が溜まっていく。悲しそうに手の中のノートを胸に抱く所が、嫌でも罪悪感を覚えさせる。

 ただ、マミさんはその中でも笑顔だった。なぎさの涙を堪能しているかの様な、もの凄く邪悪な笑顔になっていた。

 

「……ぅ……浮気、なのですか……?」

 

 ついに堪えきれなくなり、なぎさは泣き出した。それも、声を上げて感情を爆発させるんじゃなくて、静かに、何かに耐える様に涙を流したんだ。

 そんな子供らしくない泣き方に、酷く切ない気分を覚える。これ以上泣いて欲しくなかった。少しでも誤解を解かなきゃいけないと思った。

 でも、私より先にマミさんがなぎさを抱き締め、愛でる様に語り掛けていた。

 

「違うわよ、なぎさ。ちょっと美樹さんに悪戯してただけ。ほむ魔さんと一緒にしたのよ」

 

 落ち着いた対応には、慌てた所なんか一つも無かった。言い聞かせる様な口調には嘘が無く、ただ、なぎさを愛している事を現す手だけが有った。

 

「信じて?」

 

 その一言が決め手になったんだろう。マミさんの腕の中で、なぎさは顔を上げる。そこには涙なんか無く、微笑みの中に強い愛を込めて、小さく頷いていた。

 

「……うん、マミを、信じるのです」

「ありがとう、なぎさ」

 

 マミさんはなぎさを優しく抱き締め、慈しむ。いつもは愛情が交差する様が怖かったけれど、今は何だか、綺麗な光景に見える。

 どうも、さっきまでの雰囲気が私の中に残っているみたいだ。頭の中では杏子の姿が思い浮かんでいて、あいつの笑顔が頭から離れる事は無かった。

 隣に居るほむ魔は、私に向かって微笑みかけている。きっと、まどかの姿を頭に浮かべているんだろう。上着を着ながら、私はその視線が気になっていた。

 

 

 

 

 

「ありがとう、参考になったわ……今度、まどかにやってみる」

 

 マミさんとなぎさの抱擁が続く中、ほむらは一人でメモ帳を閉じて、深々と頭を下げてきた。その肩が何だか寂しそうなのは、この場にまどかが居ないからだと思う。

 何の参考になったのかをあえて聞こうとは思わなかったし、正直、さっきまでの自分を思い返す度に顔が真っ赤になる。

 でも、一つだけ言っておかなきゃいけない事が有ると思った。まどかの親友として、一つ。

 

「あの、さ」

 

 声を掛けると、ほむらは私の顔を見た。その瞳には冷たい物じゃなく、友達を見る時の気安さが含まれている気がした。

 

「何かしら」

 

 ほむらの声も、普段に比べればかなり明るい調子が含まれている。私が頼んだからか、前の口調のままだ。

 変な所で気を利かせる友人の対応を内心で面白がりながら、私は言っておきたい事を口にした。

 

「ほむらが攻めだろうとまどかが攻めだろうと、別に、それがまどかの幸福に触る訳じゃないと思うんだよね。でしょ、ほむ魔」

 

 ほむ魔に話を振ると、あいつは言葉ではなく、頷く形で返事をしてきた。黙ったままの顔は少しだけ不気味にも思えたけれど、これがほむ魔だと分かっていれば、何も怖くない。

 

「それは、分かってるのよ」

 

 私とほむ魔。二つの視線を受けて、ほむらは小さく息を吐いた。自分への呆れや自嘲が含まれた吐息を聞くと、胸が締め付けられる気がした。

 

「これは私の単なる我が儘。まどかと対等で居たいっていう、単なる我が儘なのよ」

「……それって、ワガママなのかな」

「さあ……ね」

 

 誤魔化す様に天井を見上げて、ほむらは立ち上がる。座っていた時に出来たスカートの皺を直すと、もう一度、私達に向かって頭を下げる。

 

「……そろそろ、まどかが待っている頃だと思うので帰ります。美樹さん、巴さん。今日はありがとうござました」

 

 何時もの口調へ戻り、眼鏡を軽く掛け直すと、ほむらはそのまま玄関口へと向かっていった。

 マミさんは引き留めようとは思わなかったのか、「また明日ね」と言って手を振っている。私はもう少しほむらと話がしたかったけれど、何となく、その背中には呼び止める事を躊躇わせる何かが有った。

 玄関の扉に触れると、ほむらはこちらを振り返り、もう一度頭を下げる。あの冷淡な態度を知っていると、いっそ不気味に見えるくらいだ。

 

「じゃね、ほむら」

「……また明日会いましょう、さやか」

 

 返って来ないだろうと思って送った挨拶の言葉を、意外な事にほむらは返してきた。

 そのままドアを開いて外へ出て行ったけれど、その声は私の頭からは消えない。

 

「何だか、あいつ。あたしを友達だと思ってくれてるみたいだよね。嫌われてるんじゃないかって心配してたけど」

 

 私の独り言を聞いたほむ魔が、少し眉を顰めた。

 

「何を今更。私は勿論、暁美ほむらだって貴女の友達よ、さやか」

「勿論、私となぎさも美樹さんのお友達で居たいと思っているわよ?」

「あ、ありがとうございます……」

 

 ほむ魔とマミさんに揃って友達だと言われると、気恥ずかしくも嬉しいと思える。心も明るくなって、気持ちも盛り上がっていく。

 そこで、頭に手を回して大きく笑い声を放った。何となく、そうしたい気分だった。

 

「あははっ、あは、それにしても、まどかとほむらの今夜は盛り上がるんだろうね。明日、まどかと顔合わせるのがちょっと怖くなってきたよ、本当に」

 

 冗談っぽく言ってみたけど、本当に、まどかと顔を合わせたら気不味いだろうと思う。

 何せ、まどかが今日『受け』になるとしたら、それはほむらが私の喘ぐ姿を参考にした事が原因だろうから。

 

「……」

 

 黙ったまま、私の言葉を聞き続けているほむ魔。その視線や雰囲気が気になった。

 もうそれなりの付き合いだから、分かる。あれは、何か言いたげな顔だ。気になる事が有るけれど、それを言葉にするかどうかを迷っている時の様子なんだ。

 

「……どうしたのさ、ほむ魔」

「……さやか、一つだけ、暁美ほむらに代わって訂正するわ」

「何?」

 

 案の定、言いたい事が有ったらしく、ほむ魔は私へと静かに語り掛けてきた。

 何だろう。ほむ魔の軽くも深刻そうな様子に、思わず聞く姿勢にも力が入る。

 

「暁美ほむらは、一度も鹿目まどかと性行為に及んでいないし、及ぶつもりも無いわ。正直、そういう事を意識しているかすら怪しいわね」

 

 それを聞いて、私は声も出せなくなった。きっと、私はかなりバカっぽい顔をしていると思う。

 ほむらに知識が無いなら、どうして私は喘ぎまくってる姿を晒されたんだろう。あんな恥ずかしい経験をしたのは、生まれて初めてたっだのに。

 いや、怒る気持ちは無いけれど、ただ、今までの話は何だったんだと思った。

 

「じゃあ、さっきの話は……」

「ただの添い寝よ。まどかの炊き枕みたいな状態」

 

 攻めや受けという単語を知っていた癖に、『抱く』という言葉はそのままの意味で使っていたみたいだ。わざわざ私を勘違いさせる理由なんかほむらには無いし、きっと、素で言っていたんだろう。

 あいつが私やまどかよりずっとピュアな存在だと知って、何よりも先に呆れ果てた。……ちなみに、杏子は更にピュアな奴だ。

 

「ほむらって……」

「アレで意外に純心無垢なのよ。さっきの私達の絡みだって、純粋な友達同士のスキンシップに見えていたでしょうね」

 

 肩を竦めるほむ魔に、心底同意する。てっきり、まどかとは一線を越えた関係だと思っていたから、何だか自分が酷く汚れてしまった気がする。

 いや、中学二年にもなってそっち方面にもの凄く疎い方が変なのかもしれないけれど。

 そこで、少しほむ魔の事が気になった。ほむらがベースになったなら、もしかすると、こいつも純心だったりするのかもしれない。

 

「言っておくけれど、暁美ほむらだって何も知らない訳ではないのよ。知っているだけで、知識としては使わないけれど」

 

 ほむらの擁護とも取れる事を口にする姿をじっと見てみる。こいつなら、まどかを楽しませる目的で色々な知識を持っていても不思議じゃない。むしろ、持っていない方が変だ。

 けれど、もしほむ魔が汚れていなくて、ピュアだったとしたら……

 

「清楚で百合な美少女……うわ、何それ、色々と完璧じゃん」

「どういう意味かしら?」

「え? ああ……まあ、そういう意味だって」

 

 これで中身がまどか狂いじゃなかったら、本当に完璧過ぎる。まあ、まどかまどかまどかと言わないほむ魔なんて、別人だろうけど。

 頭の中で少し考えていた事を隅へ置き、ほむ魔へ笑って見せる。ここからは、私の番だ。

 

「さぁて。さっきはよくもまあ好き勝手やってくれたなぁー!」

 

 一気にテンションを上げて、ほむ魔に抱きついてやる。横抱きにして、その肩やら腰やらを撫でてから、頭を軽く叩いた。

 急な行動でも、ほむ魔は全く驚く素振りを見せず、むしろ楽しそうに受け止めてきた。余裕たっぷりの態度を崩せない事を悔しく思いつつ、私は、感情の行くままに動く。

 

「あたしからも、反撃してやるぞー!」

 

 まずは、お腹の辺りをそっと触ってみる。既にほむ魔は服を着ていたから、服の下から手を突っ込む形となった。

 指先が少しだけ触れる。うわ、何この触り心地……細いのに柔らかくて固さも有ってふにふにですべすべで、ずっとこのまま触っていたくなるくらい、最高の感触だ。

 お腹がこんなに良いなら、他の部分だって最高だろうと思う。触っているのは私の筈なのに、何だか夢見心地な気分になってきた。

 触られている側の筈のほむ魔は、嬉しそうに微笑んでいて、顔がほんのり赤いだけだった。

 

「ふふ、優しくしてね、さやか。そして、これが終わったら……」

「二人で杏子にも同じ事を……楽しみだね」

 

 二人で笑い合い、スキンシップを再開する。色々な所を触られた分、色々な所を触ってやりたいと思った。

 そんな私達の姿を、マミさんとなぎさは目を細めて楽しげに眺めている。

 

「ああ、平和ねぇ……」

「平和なのです……」

 

 しみじみとした二人の声を聞きながら、私はほむ魔の太股に手を伸ばした。

 




 ちょっと卑猥過ぎるかと思ってお蔵入りさせていたんですが、改めて読むと楽しかったので投稿します。
 今ではもう、こういう感じのは書けません。あの頃と今ではまどかマギカに対する愛情の方向性も感覚も少し異なります。ただし、今も昔も愛情の深さは変わっていないと自負しています。
 振り返ってみると、美樹さやかの視点は、とっても書きやすかったですね。特にみんなが仲良くしている時の彼女の内面は、描いていてすこぶる楽しい。

 ちなみに、マミさんが本当に一線を越えているかどうか……執筆時点では「完璧に超えている」前提でしたが、今思うと「マミさんも実は無垢な心の持ち主で、本当は話の根本が良く分かってない」という方が面白いかな、と。
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